説明

α,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】反応を開始する際のパラジウムを含有する触媒の活性劣化を防止することができる方法を提供する。
【解決手段】α,β−不飽和アルデヒドを原料とし、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質及び不活性ガスを反応器に供給する工程(1)と、該反応器に分子状酸素を含むガス及び原料を供給して、所定の定常状態まで到達させる工程(2)とを有し、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、工程(2)がky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β−不飽和アルデヒドを原料とする連続液相酸化反応によって、α,β−不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。特には、反応開始操作による液相酸化反応用パラジウムを含有する触媒の活性低下の防止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和アルデヒドを液相中で酸化してからα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法として、パラジウムを担体に担持させた触媒を用いる方法が知られている。特許文献1には、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを原料としてα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、反応を開始する際のパラジウムを含有する触媒の活性劣化を、各成分の供給方法の工夫および還元性物質の併用によって防止する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−219403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、還元性物質および不活性ガスを反応器に供給した後、該反応器に原料及び分子状酸素を含むガスを供給しただけでは、触媒の活性の劣化が生じることがあった。
【0005】
本発明は、α,β−不飽和アルデヒドを原料とし、分子状酸素およびパラジウムを含有する触媒を用いて連続液相酸化反応によりα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、反応を開始する際のパラジウムを含有する触媒の活性劣化を防止する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、α,β−不飽和アルデヒドを原料とし、パラジウムを含有する触媒及び分子状酸素を用いて連続液相酸化反応によりα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質及び不活性ガスを反応器に供給する工程(1)と、工程(1)の後に該反応器に分子状酸素を含むガス及び原料を供給して、所定の定常状態まで到達させる工程(2)とを有し、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、工程(2)がky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)を満たす条件であるα,β−不飽和カルボン酸の製造方法にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、α,β−不飽和アルデヒドを原料とし、パラジウムを含有する触媒及び分子状酸素を用いて連続液相酸化反応によりα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、反応を開始する際のパラジウムを含有する触媒の活性劣化を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、α,β−不飽和アルデヒドを原料とする連続液相酸化反応に適用するものであり、より詳しくは、分子状酸素およびパラジウムを含有する触媒を用いて上記原料からα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法に適用することで、反応を開始する際のパラジウムを含有する触媒の活性劣化を防止する方法である。具体的には、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質及び不活性ガスを反応器に供給する工程(1)と、工程(1)の後に該反応器に分子状酸素を含むガス及び原料を供給して、所定の定常状態まで到達させる工程(2)とを有し、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、工程(2)がky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)を満たすことである。
【0009】
原料として用いるα,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。中でもアクロレインまたはメタクロレインを原料として用いた場合に好適である。原料として用いるα,β−不飽和アルデヒドには、不純物として飽和炭化水素や低級飽和アルデヒド等が少々含まれていてもよい。
【0010】
製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、原料であるα,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基となったα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がアクロレインの場合はアクリル酸が得られ、原料がメタクロレインの場合はメタクリル酸が得られる。
【0011】
本発明では、上記液相酸化反応を行うにあたり、パラジウム含有する触媒を使用する。触媒中のパラジウムの化学状態は、金属状態でも酸化状態でもよいが、高い触媒活性を示すことからパラジウムは金属状態であることが好ましい。
【0012】
触媒は、触媒活性を向上させる観点から、テルルを含有することが好ましい。触媒中のテルルの化学状態は、金属状態でも酸化状態でもよいが、パラジウムの電子状態をより変化させることから、テルルは金属状態であることが好ましい。また、パラジウムとテルルとが隣接することにより、電子状態が大きく変化したパラジウムの割合が高くなることから、テルルはパラジウムと合金化または金属間化合物を形成していることがより好ましい。
【0013】
パラジウムに対するテルルのモル比(Te/Pd)は、0.001〜0.40が好ましく、0.002〜0.30がより好ましく、0.003〜0.25がさらに好ましい。このようなモル比でパラジウムとテルルを含有する触媒を用いることで、α,β−不飽和カルボン酸の選択性および生産性をさらに高めることができる。Te/Pdは、触媒の製造に使用するパラジウムおよびテルルの各原料の配合比等により調整可能である。
【0014】
Te/Pdは、触媒中のパラジウムおよびテルルの質量および原子量から算出できる。
【0015】
触媒は、他の金属元素を含有していてもよい。他の金属元素の例としては、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウム等の貴金属元素;ビスマス、アンチモン、タリウム、鉛、水銀等の卑金属元素が挙げられる。触媒に含まれる他の金属元素は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。高い触媒活性を発現させる観点から、触媒に含まれる金属元素のうち、パラジウムおよびテルルの合計量が25質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
【0016】
触媒は、非担持型でもよいが、パラジウムが担体に担持されている担持型であることが好ましい。触媒がテルルを含有する場合は、パラジウムおよびテルルが担体に担持されていることが好ましい。担体としては、活性炭、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニア、ジルコニア等を用いることができる。中でも、活性炭、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが好ましい。担体は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上の担体を併用する場合は、例えばシリカとアルミナを混合した混合物を用いることもでき、シリカ−アルミナ等の複合酸化物を用いることもできる。
【0017】
好ましい担体の比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えない。例えば、活性炭担体の比表面積は、100〜5000m/gが好ましく、300〜4000m/gがより好ましい。シリカ担体の比表面積は、10〜2000m/gが好ましく、50〜1500m/gがより好ましく、100〜1000m/gがさらに好ましい。担体の比表面積が上記範囲内で小さいほど有用成分(パラジウム)がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、上記範囲内で大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。なお、触媒がテルルを含有する場合は、テルルも有用成分である。担体の比表面積は、窒素ガス吸着法により測定できる。
【0018】
担体の細孔容積は、0.1〜2.0cc/gが好ましく、0.2〜1.5cc/gがより好ましい。
【0019】
担持型の触媒におけるパラジウムの担持率は、担持前の担体100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、2〜30質量部がより好ましく、4〜20質量部がさらに好ましい。
【0020】
用いた担体の質量は、担体の種類に応じて適切な方法で測定できる。例えば、シリカ担体の場合、触媒を白金るつぼにとり、炭酸ナトリウムを加えて融解し、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のSi原子を定量することで、シリコン元素の質量を得ることができ、シリカ担体の質量を算出することができる。チタニア担体またはジルコニア担体の場合、触媒をテフロン(登録商標)製分解管にとり、濃硫酸および弗酸を加えてマイクロ波加熱分解装置で溶解し、蒸留水を加えて均一溶液として、ICPで試料溶液中のTi原子またはZr原子を定量することで、チタン元素またはジルコニウム元素の質量を得ることができ、チタニア担体またはジルコニア担体の質量を算出することができる。
【0021】
触媒は、液相酸化反応を行う反応液中に懸濁させた状態で使用することが好ましいが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液に対して0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%がより好ましく、1〜15質量%がさらに好ましい。
【0022】
〔触媒の製造方法〕
パラジウムを含有する触媒は、パラジウムを含む原料を用いて製造することができる。なお、触媒がテルルを含有する場合は、テルルも有用成分である。触媒が他の金属元素を含有する場合は、その金属元素を含む原料を併用すればよい。原料としては、各元素の単体金属、これらの2種以上の合金、各元素を含む化合物を用いることができる。このような原料を適宜選択し、目的とする組成の触媒が得られるように原料の使用量を適宜調整する。
【0023】
パラジウムの原料としては、パラジウム金属、パラジウム塩、酸化パラジウム等を用いることができる。中でも、パラジウム塩が好ましい。パラジウム塩の例としては、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム等が挙げられる。中でも、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、テトラアンミンパラジウム塩化物が好ましく、硝酸パラジウムがより好ましい。パラジウムの原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
テルルの原料としては、テルル金属、テルル塩、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルル等を用いることができる。中でも、テルル酸およびその塩、亜テルル酸およびその塩、酸化テルルが好ましい。テルル塩の例としては、テルル化水素、四塩化テルル、二塩化テルル、六フッ化テルル、四ヨウ化テルル、四臭化テルル、二臭化テルル等が挙げられる。テルル酸塩の例としては、テルル酸ナトリウム、テルル酸カリウム等が挙げられる。亜テルル酸塩の例としては、亜テルル酸ナトリウム、亜テルル酸カリウム等が挙げられる。テルルの原料は、1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
パラジウムを含有する触媒の製造方法としては、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を還元剤で還元する工程を有する方法が好ましい。パラジウムおよびテルルを含有する触媒の製造方法としては、酸化状態のパラジウム元素を含む化合物を還元剤で還元する工程と、酸化状態のテルル元素を含む化合物を混合する工程を有する方法が好ましい。さらに、酸化状態のテルル元素を還元剤で還元する工程を有していてもよい。また、パラジウム元素を還元する前にテルル元素を含む化合物を混合することで、パラジウム元素の還元と同時にテルル元素の還元を行うことができる。パラジウム元素の還元とテルル元素の還元を別工程で行う場合、パラジウム元素の還元を先に行ってもよく、テルル元素の還元を先に行ってもよい。これらの還元工程における条件は独立に設定できる。
【0026】
還元剤としては、少なくとも酸化状態のパラジウム元素を還元する能力を有するものを用いることができる。還元剤の例としては、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。還元剤は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
還元剤による還元は気相で行ってもよいが、液相で行うことが好ましい。気相での還元を行う場合の還元剤としては、水素が好ましい。液相での還元を行う場合の還元剤としては、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。
【0028】
ただし、還元剤には硫黄が含まれていないことが好ましい。ここで、硫黄が含まれていない還元剤とは、還元剤の構造中に硫黄元素が含まれないこと、即ち硫黄含有化合物でないことを意味し、硫黄や硫黄化合物が少量の不純物として含まれる還元剤は含まない。還元剤による還元を比較的低温で行うことが好ましいため、硫黄含有化合物である還元剤を使用すると、担体、パラジウム、テルル等に硫黄が強く吸着し、得られる触媒の活性が低下することがある。
【0029】
液相での還元を行う際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、原料や還元剤の溶解性、担持型の触媒を製造する場合の担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒は1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機溶媒と水との混合溶媒を用いることもできる。
【0030】
還元剤が気体の場合、溶液中への還元剤の溶解度を上げるオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。そのゲージ圧力は、0.1〜1.0MPaGが好ましい。
【0031】
還元剤が液体の場合、溶液中に還元剤を添加することで還元を行うことができる。還元剤の使用量は、酸化状態のパラジウム元素1モルに対して1〜100モルとすることが好ましい。
【0032】
還元温度は、−5〜150℃が好ましく、15〜80℃がより好ましい。還元時間は、0.1〜4時間が好ましく、0.25〜3時間がより好ましく、0.5〜2時間がさらに好ましい。
【0033】
担持型の触媒を製造する場合は、原料を担体に担持させれば良い。原料を担体に担持させる方法の例としては、沈澱法、イオン交換法、含浸法、沈着法等が挙げられる。パラジウムおよびテルルを含有する触媒を含浸法で製造する場合は、パラジウムの原料およびテルルの原料を同時に含浸担持してもよいし、いずれかの原料を含浸担持した後、残りの原料を含浸担持してもよい。担体の使用量は、目的とする担持率の触媒が得られるように適宜調整する。
【0034】
ただし、活性炭担持型の触媒を製造する場合、パラジウムの原料を含む溶液と担体(活性炭)が接触すると、担体の外表面に存在する活性基との反応によりパラジウム元素が還元されて析出し、パラジウム金属が担体の外表面に偏在した触媒となる場合がある。したがって、還元剤での還元を行う場前のパラジウムの原料を含む溶液中に、過酸化水素、硝酸、次亜塩素酸等の酸化剤を適量存在させておくことが好ましい。なお、他の担体の場合でも製造条件よってはパラジウム元素が還元される場合があるが、同様に酸化剤を適量存在させることでその還元を防ぐことができる。パラジウムおよびテルルを含有する活性炭担持型の触媒を製造する場合、テルルの原料についても同様のことが言える。
【0035】
パラジウムの原料を担体に担持した後、還元を行う前に熱処理して、酸化パラジウムが担体に担持された状態にしてもよい。テルルの原料を担体に担持した場合、この熱処理により、酸化テルルが担体に担持された状態になる。熱処理温度は、用いる原料の分解温度〜800℃が好ましく、200〜700℃がより好ましい。熱処理時間は、0.5〜24時間が好ましく、1〜12時間がより好ましい。熱処理は、空気中で行ってもよく、窒素などの不活性ガス中で行ってもよい。
【0036】
製造された触媒は、水、溶媒等で洗浄することが好ましい。水、溶媒等での洗浄により、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の原料由来の不純物が除去される。不純物によっては液相酸化反応を阻害する可能性があるため、不純物を十分除去できる方法および回数の洗浄を行うことが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0037】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。例えば、乾燥機を用いて空気中または不活性ガス中で触媒を乾燥することができる。乾燥された触媒は、必要に応じて液相酸化に使用する前に活性化することもできる。例えば、水素気流中の還元雰囲気下で触媒を熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、パラジウム表面の酸化皮膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。
【0038】
製造された触媒の物性は、BET表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM測定、XPS測定等により確認できる。
【0039】
連続液相酸化反応に用いる溶媒は特に限定されないが、水、アルコール類、ケトン類、有機酸類、有機酸エステル類、炭化水素類等が使用できる。アルコール類としては、例えば、tーブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。有機酸エステル類としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。中でも炭素数2〜6の有機酸類、炭素数3〜6のケトン類が好ましい。溶媒は1種でも、2種以上の混合溶媒でもよい。
【0040】
液相酸化反応に用いる分子状酸素の源は、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給することが好ましい。
【0041】
本発明において、連続液相酸化反応を行う反応液中のα,β−不飽和アルデヒドの量は、反応器内に存在する溶媒に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0042】
パラジウムを含有する触媒は連続液相酸化反応を行う反応液に懸濁させた状態で使用されるが、固定床で使用してもよい。反応液中のパラジウムを含有する触媒の量は、パラジウムを含有する触媒を反応液に懸濁させた状態の場合、連続液相酸化を行う反応器内に存在する溶液100質量部に対して、その反応器内に存在する触媒として0.01質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。また、50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。
【0043】
連続液相酸化反応を行う温度および圧力は、用いる溶媒および原料によって適宜選択される。反応温度は、通常30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は、0MPaG以上が好ましく、2MPaG以上がより好ましい。また、10MPaG以下が好ましく、7MPaG以下がより好ましい。
【0044】
なお、液相酸化反応時における高温による原料や生成物の重合を防止するために、重合防止剤を使用することが好ましい。この際に使用できる重合防止剤としては、例えば、ハイドロキノン、p−メトキシフェノール等のフェノール系化合物、N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系化合物、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、あるいは4−[H−(OCHCH−O]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(ただしn=1〜18)等のN−オキシル系化合物等が挙げられる。重合防止剤の使用量は、液相酸化反応において原料や生成物の重合を防止するのに必要な量とすることができる。
【0045】
不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、またはヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガス等を用いることができる。分子状酸素を含むガスを供給する前の反応器内には、少量であれば分子状酸素が存在してもよい。少なくとも、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質および不活性ガスを供給した段階での反応器内気相部の酸素濃度は、10容量%以下とすることが好ましく、1容量%以下とすることがより好ましく、0.01容量%以下とすることがさらに好ましい。不活性ガス中に含まれる分子状酸素の濃度は、上記のような反応器内の酸素濃度を達成することができれば、特に限定されない。
【0046】
また、少なくとも、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質および不活性ガスを供給した段階での反応器内圧力は、0MPaG以上が好ましく、1MPaG以上がより好ましい。また、10MPaG以下が好ましく、7MPaG以下がより好ましい。
【0047】
不活性ガスは、反応器下部及び反応器上部の少なくとも一方から供給することができる。反応器上部から供給する場合は、供給量を制御することにより反応器上部空間部分のガス組成が爆発範囲とならないようにすることができる。また、反応器下部から供給する場合はパラジウムを含有する触媒が分散している反応液に直接供給することになるため、反応器内に投入した反応開始前の反応液中の酸素濃度を効率的に低減させることができ、かつ、反応器上部空間部分のガス組成が爆発範囲とならないようにすることができる。
【0048】
還元性物質としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン等のオレフィン、アリルアルコール、メタリルアルコール等のα,β−不飽和アルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等のα,β−不飽和アルデヒド等が挙げられる。還元性物質としてオレフィン及びα,β−不飽和アルデヒドの少なくとも一方を用いることが好ましい。さらには、反応開始操作による副生成物の生成を抑制し、反応開始操作を円滑に進めるために、還元性物質として原料であるα,β−不飽和アルデヒドであることが好ましい。
【0049】
反応器内の還元性物質の濃度は特に限定されないが、0.1質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましい。また、50質量%以下が好ましい。還元性物質として原料であるα,β−不飽和アルデヒドを用いる場合には、定常状態における原料濃度以下であることが特に好ましい。これにより、安定した反応開始操作が可能になる。
【0050】
反応器内の還元性物質の濃度を調節する方法は特に限定されないが、例えば供給する還元性物質の量を調節する方法が挙げられる。
【0051】
反応器内の溶存酸素濃度は、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、ky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)を満たしていれば特に限定されない。
【0052】
反応器内の溶存酸素濃度を調節する方法は特に限定されないが、例えば供給する分子状酸素を含むガスの量を調節する方法が挙げられる。
【0053】
以下、本発明において各成分の好ましい供給方法の一例を示す。
【0054】
まず、予め内部を不活性ガスで満たした反応器内に溶媒、パラジウムを含有する触媒および還元性物質を投入する。その後、反応器上部および下部より不活性ガスを連続的に供給し、所定の反応圧力まで加圧する。還元性物質が液化ガスの場合には反応器内を加圧した後に還元性物質を投入しても良い。また、還元性物質は連続的に供給することが好ましい。次に、所定の反応温度またはそれよりも1〜50℃低い温度、好ましくは、5〜30℃低い温度まで昇温させる。続いて、還元性物質の供給を停止し、原料の連続供給を開始する。還元性物質が原料である場合には、原料として連続供給を継続する。次に、所定の反応温度にて、または所定の反応温度まで昇温させた後、反応器下部に供給している不活性ガスを、分子状酸素を含むガスに切換えて連続的に供給し反応を開始させる。その後、段階的に分子状酸素を含むガスの供給量を増大させて定常状態まで到達させる。この時、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、工程(2)において、ky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)を満たすことで、パラジウムを含有する触媒の劣化を防止して反応を開始することができる。なお、分子状酸素を含むガスを供給するまでを工程(1)、供給してからを工程(2)と称する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0056】
(触媒中のテルルとパラジウムとのモル比(Te/Pd)の測定)
触媒中のパラジウムおよびテルルの質量および原子量から算出した。触媒中のパラジウムおよびテルルの質量は、以下の工程を順に行うことで測定した。
【0057】
・A処理液の調製:触媒0.2g、および所定量の濃硝酸、濃硫酸、過酸化水素水をテフロン(登録商標)製分解管にとり、マイクロ波加熱分解装置(CEM社製、商品名:MARS5)で溶解処理を行った。試料をろ過し、ろ液および洗浄水を合わせてメスフラスコにメスアップし、A処理液とした。
【0058】
・B処理液の調製:A処理液の調製における不溶解部を集めたろ紙を白金製ルツボに移し加熱・灰化した後、メタホウ酸リチウムを加えてガスバーナーで溶融した。冷却後に塩酸と少量の水をルツボに入れて溶解後、メスフラスコにメスアップし、B処理液とした。
【0059】
・触媒中のテルルとパラジウムの定量:得られたA処理液およびB処理液に含まれるパラジウムおよびテルルの質量をそれぞれICP発光分析装置(サーモエレメンタル製、商品名:IRIS−Advantage)を用いて、パラジウムについては360.955nmの発光線を、テルルについては214.281nmの発光線を、既知濃度の標準溶液と比較することによって定量し、その合計値をそれぞれ触媒中のパラジウムおよびテルルの質量とした。
【0060】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析は、ガスクロマトグラフィーを用いて行った。原料として用いたα,β−不飽和アルデヒドの反応率、生成したα,β−不飽和カルボン酸、並びに生成したα,β−不飽和カルボン酸の生産性は、以下のように定義される。
α,β−不飽和アルデヒドの反応率(%) =(B/A)×100
α,β−不飽和カルボン酸の選択率(%) =(C/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g/(g−Pd・h))=D/(E×F)
【0061】
ここで、Aは供給したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Bは反応したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Cは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Dは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(単位:g)、Eは反応に使用した触媒中のPdの質量(単位:g)、Fは反応時間(単位:h)である。
【0062】
<実施例1>
(触媒の製造)
純水270gにテルル酸1.35gを溶解し、得られた溶液に硝酸パラジウム溶液(N.E.ケムキャット製、Pd含有率23.41質量%)64.07gを溶解することで、混合溶液を調製した。この混合溶液中に、シリカ担体(比表面積450m/g、細孔容積0.68cc/g)150gを添加して浸漬させた後、エバポレーションすることで、テルル酸および硝酸パラジウムをシリカ担体に担持させた。次いで、このシリカ担体を空気中200℃で3時間焼成することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体全量を100質量%エチレングリコール300gに添加し、70℃で2時間の還元を行った。吸引ろ過および純水での洗浄を経て、パラジウムおよびテルルがシリカ担体に担持された触媒(PdTe)を得た。得られた触媒のTe/Pdは0.025であった。
【0063】
(反応評価)
液相酸化反応を行う反応容器としては、内径126mm、容量4リットルのジャケット付きステンレス製撹拌槽式反応器(以下、「反応器」という)を用いた。溶媒を反応器上部から連続的に供給し、反応液は液相部の液面を一定に保ちつつ、連続的に系外へ抜き出す構造となっている。排ガス中の酸素濃度は磁気式酸素計(横河電気社製)で常時モニターした。
【0064】
反応器にあらかじめ上記の調製された触媒(シリカ担体150gにパラジウム15g担持した触媒)と、溶媒として88質量%酢酸水溶液を制御液面に達するように投入した(液面は液容積が3リットルになるように調整した)。
【0065】
窒素ガスを反応器上部から1830g/hで気相部へ供給し、反応器下部からは400g/hで供給して圧力を3.2MPaGまで加圧し、以後圧力制御装置によりこの圧力を保持した。次に、88質量%酢酸水溶液100質量部(重合防止剤としてp−メトキシフェノール200ppmを含有させて調製したもの)にメタクロレイン5.2質量部を加えて調整した原料液を、7500g/hで反応容器へ連続的に供給し、液相部の温度を90℃まで昇温した。このとき反応器内の平均滞留時間は0.4時間であった。その後、空気を440g/hで供給するとともに反応を開始し、空気の供給量を段階的に増大させた。3hで定常状態に達した。反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、定常状態までのyとxの経時変化を表1に示した。評価結果は表2に示した。
【0066】
なお、反応液中の還元性物質及び原料の合計量はガスクロマトグラフィーで求めた。また、反応液中の溶存酸素量は溶存酸素計で測定した。
【0067】
空気を供給開始してから30分までの平均を0.5hのデータ、30分を超えて1時間までの平均を1hのデータとし、以下、1時間を越えて2時間までの平均を2hのデータ、α−1時間を越えてα時間までの平均をαhのデータとして採用した。
【0068】
表2では、上段には3hの値を100とした場合のメタクリル酸の生産性を示し、下段には3hの値を100とした場合のメタクリル酸の選択率を示している。
【0069】
<比較例1>
触媒は実施例1と同様にして調製したものを用いた。
【0070】
(反応評価)
実施例1と同様に調整し、窒素ガスを反応器下部から400g/hで供給して圧力を3.2MPaGまで加圧し、以後圧力制御装置によりこの圧力を保持した。次に、88質量%酢酸水溶液100質量部(重合防止剤としてp−メトキシフェノール200ppmを含有させて調製したもの)にメタクロレイン18.5質量部を加えて調整した原料液を、5800g/hで反応容器へ連続的に供給し、液相部の温度を110℃まで昇温した。このとき反応器内の平均滞留時間は0.5時間であった。その後、空気を1500g/hで供給するとともに反応を開始し、空気の供給量を段階的に増大させた。3hで定常状態に達した。反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、定常状態までのyとxの経時変化を表1に示した。評価結果は表2に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
実施例1では、メタクリル酸の生産性および選択率が反応経過時間3〜5hの間でほとんど変わらないのに対し、比較例1では、メタクリル酸の生産性および選択率が反応経過時間3〜5hの間で大幅に低下していることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−不飽和アルデヒドを原料とし、パラジウムを含有する触媒及び分子状酸素を用いて連続液相酸化反応によりα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法において、溶媒、パラジウムを含有する触媒、還元性物質及び不活性ガスを反応器に供給する工程(1)と、工程(1)の後に該反応器に分子状酸素を含むガス及び原料を供給して、所定の定常状態まで到達させる工程(2)とを有し、反応温度をy(℃)、反応液中の還元性物質及び原料の合計1モルに対する反応液中の溶存酸素のモル比をxとしたとき、工程(2)がky<−67.8x+110.3(ここでk=1/℃)を満たす条件であるα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項2】
工程(2)で、分子状酸素を含むガスの供給量及び原料の供給量の少なくとも一方を調節する、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2011−236145(P2011−236145A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108108(P2010−108108)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】