説明

β−ピネン重合体の製造方法

【課題】従来よりも高温条件下において、高分子量のβ−ピネン重合体を有利に製造することが出来る方法を提供すること。
【解決手段】β−ピネン、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物の存在下、カチオン重合又はカチオン共重合せしめる。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−ピネン重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分子内に脂環式骨格を有する炭化水素系重合体(脂環式炭化水素系重合体)は、比誘電率、透明性、耐熱寸法安定性、耐溶剤性及び平坦性等に優れていることから、様々な工業部品材料として用いられている。例えば、透明性に優れ、且つ非晶性であることを利用して、脂環式炭化水素系重合体は、レンズ、フィルム状やシート状の各種光学材料として従来より広く用いられているのであり、具体的には、特許文献1(国際公開第03/81299号パンフレット)において、脂環式構造含有重合体にて構成された光学用フィルムが明示されている。
【0003】
また、脂環式炭化水素系重合体を製造する方法についても、従来より様々な方法が提案されている。例えば、特許文献2(国際公開第00/73366号パンフレット)においては、環状オレフィンを開環メタセシス重合し、次いで水素添加を行なうことによる、環状オレフィンの開環重合体水素添加物の製造方法が、提案されている。また、特許文献3(特表2001−506293号公報)及び特許文献4(特表2001−506689号公報)には、所定の触媒の存在下において、環状オレフィンと鎖状オレフィンとを共重合することによって得られる、脂環式炭化水素系重合体たるシクロオレフィンコポリマーが明らかにされている。
【0004】
ここで、上述の如き脂環式炭化水素系重合体は、従来のメタクリル樹脂やカーボネート樹脂と比較して、比重が小さく、軽量なものではあるものの、近年、各種樹脂成形品に対して軽量化が求められている状況下においては、より軽量な脂環式炭化水素系重合体が求められている。
【0005】
また、脂環式炭化水素系重合体の主原料である脂環式ビニルモノマーとしては、従来より、石油由来の単量体が広く用いられているのであり、環境への負荷を考慮すると、従来の脂環式炭化水素系重合体は、必ずしも環境に優しいものとは言い難いものであった。
【0006】
ところで、近年、循環型社会の形成や地球温暖化の防止等を目的として、カーボンニュートラルの観点から、植物由来のバイオマスの有効利用が注目されている。例えば、自然界に豊富に存在する天然バイオマスの一つとして、松脂や柑橘類の皮等に多く含まれているテルペン類があり、かかるテルペン類は、現在、医薬品や香料の原料等として広く用いられている。
【0007】
そのようなテルペン類の中にも脂環式ビニルモノマー構造を有するものがあり、古くから重合性があることが知られているところ、非特許文献1には、テルペン類の一種であるβ−ピネンのカチオン重合について記載されている。しかしながら、非特許文献1に記載の手法に従って得られる脂環式炭化水素系重合体(β−ピネン重合体)は、分子量が小さく、耐熱性や強度が十分なものではなかった。
【0008】
また、比較的大きな分子量を有するβ−ピネン重合体を製造可能な手法として、β−ピネンを重合せしめる際に2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルピリジンを加える手法が知られている(非特許文献2を参照)が、かかる手法にあっては、重合溶媒としてメチルクロライドの混合溶媒を使用する必要があり、環境への負荷を考慮すると好ましい手法ではなく、また、重合温度が−80℃と経済的な観点からも好ましい手法ではない。更に、得られたβ−ピネン重合体は、ガラス転移温度が65℃であり、実用性の点において十分なものとは言い難いものであった。
【0009】
さらに、非特許文献3には、経済的に好ましい比較的高温な条件の下、環境負荷の小さいトルエン中において、有機アルミニウム化合物の存在下でβ−ピネンをカチオン重合せしめる手法が示されている。しかしながら、かかる非特許文献3に記載の手法に従って得られるβ−ピネン重合体は、分子量が小さく、重合体単独で用いることは非常に困難であり、樹脂添加剤又は粘着付与樹脂としてのみ用いられ得るものであった。
【0010】
一方、本発明者等の一部は、従来のものと比較して高分子量なβ−ピネン重合体を製造可能な方法として、特許文献5(国際公開第08/44640号パンフレット)において、2官能性ビニル化合物の存在下においてβ−ピネンを重合せしめる方法等を提案している。しかしながら、かかる方法にあっても、比較的高分子量のβ−ピネン重合体を製造する際には、重合溶媒として塩化メチレン等のハロゲン溶媒を用いることが好ましく、また重合温度も−80℃程度の低温であることが望ましいものであるところから、環境負荷や経済性の観点から、未だ改善の余地が残されていたのである。
【0011】
【特許文献1】国際公開第03/81299号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/73366号パンフレット
【特許文献3】特表2001−506293号公報
【特許文献4】特表2001−506689号公報
【特許文献5】国際公開第08/44640号パンフレット
【非特許文献1】William J. Roberts and Allan R. Day、「A Study of the polymerization of α- and β-Pinene with Friedel-Crafts Type Catalysts」、Journal ofthe American Chemical Society、米国、1950年、第72巻、p.1226-1230
【非特許文献2】B. Keszler, J. P. Kennedy、「Synthesis of High Molecular Weight poly(β-Pinene)」、Advances in Polymer Science、独国、1992年、第100巻、p.1-9
【非特許文献3】Raquel P. F. Guine, Jose A. A. M. Castro、「Polymerization of β-Pinene with Ethylaluminium Dichloride」、Journal of Applied Polymer Science、米国、2001年、第82巻、p.2558-2565
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、従来よりも高温条件下において、高分子量のβ−ピネン重合体を有利に製造することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明者等は、そのような課題を解決すべく、特許文献5において提案した製造方法を基にして、更に鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、β−ピネン、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物の存在下、カチオン重合又はカチオン共重合せしめることを特徴とするβ−ピネン重合体の製造方法を、その要旨とするものである。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【0014】
ここで、本発明に従うβ−ピネン重合体の製造方法における好ましい態様の一つにおいては、β−ピネン、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、溶媒内にてカチオン重合又はカチオン共重合せしめる。
【0015】
また、本発明のβ−ピネン重合体の製造方法における好ましい態様の他の一つにおいては、前記溶媒が非ハロゲン溶媒である。
【0016】
さらに、本発明に係るβ−ピネン重合体の製造方法における別の望ましい態様の一つにおいては、β−ピネン、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、−40℃〜40℃の条件下においてカチオン重合又はカチオン共重合せしめる。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に従うβ−ピネン重合体の製造方法にあっては、β−ピネンのカチオン重合、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群(以下、単に単量体群ともいう)のカチオン共重合を、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物の存在下において実施するものであり、それらトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等の存在によって、β−ピネンのカチオン重合(又は単量体群のカチオン共重合)は、比較的高温条件下においてもより効果的に進行し、以て、高分子量のβ−ピネン重合体が有利に得られるのである。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【0018】
また、本発明に係るβ−ピネン重合体の製造方法は、従来のβ−ピネン重合体の製造方法と比較して、高温条件下においてもβ−ピネン重合体が製造可能であることから、本発明に係る製造方法の実施に際しては、例えば反応槽を冷却するコスト等が有利に削減されることとなり、経済性の点においても優れている。
【0019】
さらに、本発明を、所定の溶媒を用いて、所謂、溶液重合法に従って実施する際には、環境負荷が小さい非ハロゲン溶媒が有利に用いられ得るのであり、そのような非ハロゲン溶媒を用いることによって、環境への負荷を小さくすることが可能ならしめられる。また、本発明に従ってβ−ピネン重合体を製造する際に、植物由来のβ−ピネンを用いることによっても、同様の効果(低環境負荷)を享受することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明の代表的な実施形態の一例を示す。なお、以下の説明において、特定の機能を発現する化合物として幾つかの具体例を示しているが、本発明が、それら化合物に限定されるものでないことは、言うまでもないところである。また、例示した化合物は、特に説明がない限り、単独で用い得ることは勿論のこと、二種以上を併用することも可能である。更に、本明細書及び特許請求の範囲におけるβ−ピネン重合体とは、β−ピネンを単独で重合せしめて得られるβ−ピネン単独重合体のみならず、β−ピネンと他の一種以上の単量体とを共重合せしめて得られるβ−ピネン共重合体をも含むものである。
【0021】
本発明の製造方法に従ってβ−ピネン重合体を製造するに際して、先ず、β−ピネンが準備されることとなるが、かかるβ−ピネンとしては、市販品及び自らが製造したものの何れをも使用することが可能である。例えば、植物から採取されたβ−ピネンを精製した後、直接、用い得ることは勿論のこと、植物から採取されたα−ピネン等のテルペン類や石油由来の化合物を用いて、従来より公知の手法(例えば、米国特許第3278623号公報)に従って製造されたβ−ピネン等も、用いることが可能である。
【0022】
また、本発明に従ってβ−ピネン重合体を製造する際には、原料たる単量体として、上述したβ−ピネンと共に、カチオン重合性単量体を用いることが可能である。かかるカチオン重合性単量体としては、従来より一般的に用いられているものを使用可能であり、具体的には、イソブチレン、イソプレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、インデン、アルキルビニルエーテル及びノルボルネン等が挙げられる。このようなカチオン重合性単量体のうち、目的とするβ−ピネン重合体の特性、用途等に応じた一種又は二種以上のものが適宜に選択されて、用いられることとなる。なお、カチオン重合性単量体を用いる場合、その使用割合が多すぎると、天然バイオマス由来のβ−ピネンを用いても、低環境負荷を有利に達成し得ない恐れがあるところから、β−ピネン及びカチオン重合性単量体からなる単量体郡中のβ−ピネンの割合は、50重量%以上、好ましくは70重量%以上とされる。
【0023】
β−ピネンをカチオン重合、又は、β−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群をカチオン共重合せしめる際には、有利には、β−ピネン又は単量体群よりも十分に少ない量において、2官能性ビニル化合物が用いられる。2官能性ビニル化合物は、重合体を製造する際に、分岐剤若しくは架橋剤として一般的に用いられているが、そのような2官能性ビニル化合物を少量用いることにより、所謂、長鎖分岐構造を有し、有機溶媒への不溶部が生じない程度の分子量を有するβ−ピネン重合体が、有利に得られる。従って、2官能性ビニル化合物の使用量は、得られるβ−ピネン重合体が、有機溶媒への不溶部が生じない程度の分子量を有するように適宜に決定されることとなるが、一般には、β−ピネン(又は単量体群)の100重量部に対して、0.1〜5.0重量部、好ましくは1.0〜4.0重量部となるような量的割合において、2官能性ビニル化合物は用いられる。2官能性ビニル化合物の使用量が少なすぎると、その使用効果は認められず、一方、多すぎると、架橋反応が必要以上に進行し、得られるβ−ピネン重合体がゲル状となって熱可塑性を失う恐れがある。
【0024】
そして、本発明に従うβ−ピネン重合体の製造方法においては、β−ピネン又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物の存在下、カチオン重合乃至はカチオン共重合せしめるところに、大きな特徴が存するのである。即ち、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランと下記一般式(I)にて表わされる化合物との反応によって生ずる炭素カチオンが、β−ピネン又は単量体群に効果的に作用し、以て、β−ピネンのカチオン重合乃至は単量体群のカチオン共重合が有利に進行して、重量平均分子量が比較的大きいβ−ピネン重合体が得られるのである。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【0025】
本発明において、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランは、β−ピネン又は単量体群の100重量部に対して、0.001〜100重量部、好ましくは0.005〜50重量部、より好ましくは0.01〜10重量部となるような量的割合において、使用される。トリス(ペンタフルオロフェニル)ボランの使用量が少なすぎると、β−ピネン等の重合反応が完了前に停止してしまう恐れがあり、逆に使用量が多すぎると不経済である。
【0026】
また、下記一般式(I)にて表わされる化合物の使用量は、β−ピネン又は単量体群の使用量と共に、最終的に得られるβ−ピネン重合体の分子量に影響を与えるものである。一般に、β−ピネン又は単量体群の100重量部に対して、0.001〜1.0重量部、好ましくは0.01〜0.5重量部となるような量的割合において、使用される。使用量が少なすぎると、使用効果が十分に発揮されず、その一方で使用量が多すぎると、得られるβ−ピネン重合体の分子量が低下する恐れがあるからである。下記一般式(I)にて表わされる化合物としては、1−(4−メトキシフェニル)−エタノール、2−フェニル−2−プロパノール等を、例示することが出来る。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【0027】
なお、良好なβ−ピネン重合体を得るためには、有利には、上述したトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン等と共に、電子供与剤が用いられる。電子供与剤を用いることにより、副反応の発生をより抑制することが可能である。そのような電子供与剤としては、従来より公知のものを限定なく使用することが出来る。具体的には、ジエチルエーテル(Et2O )、メチル−t−ブチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル(EtOAc)、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル等のエステル類;ピリジン、2−メチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、2,6−ジ−t−ブチルピリジン、2,6−ジメフェニルピリジン、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルピリジン等のピリジン類;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のアミン類;ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類等を、挙げることが出来る。特に、ジエチルエーテルや酢酸エチル等が、経済性及び反応後の除去が容易であることから、好適に使用される。
【0028】
本発明に従ってβ−ピネン重合体を製造するにあたり、β−ピネンをカチオン重合、或いはβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群をカチオン共重合せしめる際の形態としては、溶液重合法、バルク重合法、分散重合法等の、従来より公知の各種重合法の何れをも採用することが出来るが、有利には、所定の溶媒を用いて、かかる溶媒内にてβ−ピネンを重合乃至は単量体群を共重合せしめる溶液重合法が採用される。
【0029】
そのような溶液重合法において用いられる溶媒としては、β−ピネン重合又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群が溶解し、連鎖移動の少ない溶媒であれば、何れも使用可能である。重合条件下でのβ−ピネン等の溶解性や反応性等の観点より、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素及び脂肪族炭化水素等の中から、一種又は二種以上のものが適宜に選択され、単独溶媒又は混合溶媒として用いることが可能である。具体的には、塩化メチレン、クロロホルム、1,1−ジクロルエタン、1,2−ジクロルエタン、n−プロピルクロライド、1−クロロ−n−ブタン、2−クロロ−n−ブタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒を、例示することが出来る。本発明に係るβ−ピネン重合体の製造方法にあっては、特に、環境への負荷が比較的小さい芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒を用いても、高分子量のβ−ピネン重合体を製造可能であることから、芳香族炭化水素系溶媒や脂肪族炭化水素系溶媒がより有利に用いられ、環境への負荷を小さくすることが可能である。
【0030】
また、β−ピネンのカチオン重合、或いは、β−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群のカチオン共重合を、溶液重合法に従って行なうに際しては、β−ピネン又は単量体群の濃度は、重合系全量に対して1〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、更に好ましくは10〜50重量%となるように、調製される。かかる濃度が1重量%未満では、生産性が低くなり、一方、90重量%を超えると、重合熱の除去が困難となるからである。
【0031】
本発明に従って、β−ピネンをカチオン重合乃至は単量体群をカチオン共重合せしめる際の反応温度は、重合法の何れを問わず、−40℃〜40℃、好ましくは−20℃〜20℃、より好ましくは0℃前後に設定される。この反応温度は、従来のβ−ピネン重合体の製造方法に比べて比較的に高いものであるが、本発明に係るβ−ピネン重合体の製造方法にあっては、このような温度条件下においても重合反応の制御が可能であり、目的とするβ−ピネン重合体を有利に製造することが可能である。
【0032】
また、β−ピネンのカチオン重合又は単量体群のカチオン共重合を行なう際の反応時間は、特に限定されるものではなく、β−ピネン等の量、反応温度、反応設備等に応じて、所望とする特性を有するβ−ピネン重合体が得られるように、適宜に決定されることとなる。通常は、1秒〜100時間程度、好ましくは30秒〜20時間程度、更に好ましくは1分〜5時間程度が反応時間として設定される。
【0033】
本発明に係るβ−ピネン重合体の製造方法を、上述の溶液重合法に従って実施する場合は、例えば、以下の手順に従って行なわれる。先ず、内部が所定温度(反応温度)とされた反応槽に所定の溶媒を投入にし、そこにβ−ピネン(又は、β−ピネン及びカチオン重合性単量体)、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物を添加する。そして、所定時間(反応時間)の経過後、再沈殿、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒除去(コアギュレーション)、或いは押出し機での脱気溶媒除去等によって、β−ピネン重合体を溶液から単離し、以て、最終的に目的とするβ−ピネン重合体を取得することが出来るのである。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【0034】
そのようにして得られたβ−ピネン重合体にあっては、従来の製造方法によって得られるものと比較して分子量が大きいものであり、具体的には、重量平均分子量が3万〜10万程度のβ−ピネン重合体である。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0036】
なお、以下の例において、得られたβ−ピネン重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、以下のようにして求めた。即ち、JIS−K−0124−2002「高速液体クロマトグラフィー通則」にて規定されているサイズ排除クロマトグラフィーの手法に従い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された示差屈折検出器の値と、標準ポリスチレンの校正曲線とから求めた。GPC装置として、日本分光株式会社製:PU-980ポンプ(品番)及び同社製:930-RI示差屈折計(品番)、カラムとして、昭和電工株式会社製:Shodex(商品名、品番:GPC K-805L)の2本を、直列に繋いだものを用いた。測定に際しては、テトラヒドロフランを溶媒として用い、40℃の条件にて測定を行った。
【0037】
−実施例1−
十分乾燥させたガラス製コック付フラスコを用いて、その内部を十分に窒素置換した後、脱水したトルエン:44.0mL、蒸留精製したβ−ピネン:1.0mLを加え、−40℃に冷却した。そこに、先ず、1−(4−メトキシフェニル)−エタノール:0.018mLを添加し、その後、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン[B(C653 ]のトルエン溶液(濃度:0.20mol/L):5.0mLを更に加えた。
【0038】
B(C653 のトルエン溶液の添加後、30分間反応せしめた。その後、フラスコ内の重合溶液にメタノール:10mLを加え、反応を終了させた。蒸留水:100mLにクエン酸:5gを添加した水溶液を添加し、5分間撹拌した。水層を抜き取り、蒸留水を加えて水層が中性になるまで洗浄し、ボラン化合物を除去した。得られた有機層を脱水し、更に残存物を十分乾燥することにより、β−ピネン重合体:0.84gを得た。なお、収率は96%であった。得られた重合体の重量平均分子量は46300、数平均分子量は22800であった。
【0039】
−実施例2−
十分乾燥させたガラス製コック付フラスコを用いて、その内部を十分に窒素置換した後、脱水したトルエン:44.0mL、蒸留精製したβ−ピネン:1.0mLを加え、−15℃に冷却した。そこに、先ず、1−(4−メトキシフェニル)−エタノール:0.018mLを添加し、その後、B(C653 のトルエン溶液(濃度:0.20mol/L):5.0mlを更に加えた。
【0040】
B(C653 のトルエン溶液の添加後、15分間反応せしめた。その後、フラスコ内の重合溶液にメタノール:10mLを加え、反応を終了させた。蒸留水:100mLにクエン酸:5gを添加した水溶液を添加し、5分間撹拌した。水層を抜き取り、蒸留水を加えて水層が中性になるまで洗浄し、ボラン化合物を除去した。得られた有機層を脱水し、更に残存物を十分乾燥することにより、β−ピネン重合体:0.81gを得た。なお、収率は93%であった。得られた重合体の重量平均分子量は35700、数平均分子量は18900であった。
【0041】
−実施例3−
十分乾燥させたガラス製コック付フラスコを用いて、その内部を十分に窒素置換した後、脱水したトルエン:44.0mL、蒸留精製したβ−ピネン:1.0mLを加え、−15℃に冷却した。そこに、先ず、2−フェニル−2−プロパノール:0.018mLを添加し、その後、B(C653 のトルエン溶液(濃度:0.20mol/L):5.0mLを更に加えた。
【0042】
B(C653 のトルエン溶液の添加後、5分間反応せしめた。その後、フラスコ内の重合溶液にメタノール:10mLを加え、反応を終了させた。蒸留水:100mLにクエン酸:5gを添加した水溶液を添加し、5分間撹拌した。水層を抜き取り、蒸留水を加えて水層が中性になるまで洗浄し、ボラン化合物を除去した。得られた有機層を脱水し、更に残存物を十分乾燥することにより、β−ピネン重合体:0.86gを得た。なお、収率は98%であった。得られた重合体の重量平均分子量は35700、数平均分子量は15700であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−ピネン、又はβ−ピネンとカチオン重合性単量体とからなる単量体群を、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン及び下記一般式(I)にて表わされる化合物の存在下、カチオン重合又はカチオン共重合せしめることを特徴とするβ−ピネン重合体の製造方法。
CH3CRAB−ORC ・・・(I)
(式中、RA は置換基を有していてもよいアリール基を、また、RB は水素原子、炭 素数が1〜10のアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を、更に
、RC は水素原子又は炭素数が1〜10のアルキル基を、それぞれ示す。)
【請求項2】
溶媒内にてカチオン重合又はカチオン共重合せしめることを特徴とする請求項1に記載のβ−ピネン重合体の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が非ハロゲン溶媒である請求項2に記載のβ−ピネン重合体の製造方法。
【請求項4】
−40℃〜40℃の条件下においてカチオン重合又はカチオン共重合せしめることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のβ−ピネン重合体の製造方法。


【公開番号】特開2010−90273(P2010−90273A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261399(P2008−261399)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人科学技術振興機構、産学共同シーズイノベーション化事業 育成ステージにおける研究課題「テルペン由来の機能性高分子材料の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000117319)ヤスハラケミカル株式会社 (85)
【Fターム(参考)】