説明

「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材及びその脱臭処理装置

【課題】機能性および嗜好性に優れ、なお且つ摂取した人・動物の排泄物の臭気を好適に低減させる「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材及びその脱臭処理装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る脱臭「泡盛蒸留圧搾粕」、とうもろこし、加熱大豆、肉骨粉およびゼンビタンFをミキサーで混合して第1混合物を作る。次に「加熱したラードにビタミンEを加えて溶かした」第2混合物、ならびに、「鶏肉のミンチを約1 L の水で煮沸した後に約40℃まで冷却した混合物に、コリン、硫酸亜鉛、ヨウ素酸カルシウム、ビタミンB12および乳酸菌粉末を溶解した」第3混合物を一緒に、第1混合物が入っているミキサーに投入してこれらを全て混ぜ合わせる。その結果できたもち状の混合物を固形飼料製造機でペレットに成型し、その後、通風乾燥機を用いて約12時間、60℃で乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材及びその脱臭処理装置、特に、機能性および嗜好性に優れ、なお且つ摂取した人・動物の排泄物の臭気を好適に低減させることが可能な「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材及びその脱臭処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沖縄県の特産品として全国的に広く知られている泡盛は、蒸した米に黒麹菌を加えて一定期間保管して「こうじ米」を作り、次にその「こうじ米」に水と酵母を加え「もろみ」を生成し、次いでその「もろみ」を発酵させ、発酵した「熟成もろみ」を単式蒸留機で蒸留することにより得られる。その蒸留の過程では、残留物(副産物)として、水分含量が約95%である固液の「泡盛もろみ粕」が生成される。そして、その「泡盛もろみ粕」を圧搾・濾過すると、健康食品として広く知られている「泡盛もろみ酢」が得られる。ところで、この「泡盛もろみ粕」から「泡盛もろみ酢」を圧搾・濾過した後に残る固形の残渣は、「泡盛蒸留圧搾粕」と呼ばれ、その水分含量は約40%で、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分が豊富に含まれている。
ところが、この「泡盛蒸留圧搾粕」は臭気があまりに強烈であるという特性を有している。図7は、イヌにおける無処理の「泡盛蒸留圧搾粕」の嗜好性試験を示す写真である。この試験は、「市販の飼料」(日本ヒルズ・コルゲート(株)の「サイエンス・ダイエット」)と「泡盛蒸留圧搾粕」を80:20に配合した混合飼料を2匹の供試犬に与え、その混合飼料に対する供試犬の反応(いわゆる「食べっぷり」)を観察した時の写真である。写真から分かる通り、結果は、2匹の供試犬とも、その混合飼料を全く摂取しなかった。なお、この写真では示されてはいないが、他の4匹の供試犬についても全く摂取しなかったという同様な結果が得られた。このように、「泡盛蒸留圧搾粕」は、供試犬の飼料の一部に含む場合であっても供試犬が摂取することができない程臭気が強烈である。「泡盛蒸留圧搾粕」は、人・動物の食品または食材に添加しても人・動物が摂取することが困難であることから、沖縄県では、「泡盛もろみ酢」の製造過程で発生する、年間当たり約4万トンの「泡盛蒸留圧搾粕」の大部分が、何も利用されることなく産業廃棄物として処理されている。
ところで、臭気を取り除く方法として、種々の脱臭方法が提案されている。その一つに微生物を利用した生物脱臭法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3を参照。)。この生物脱臭法は微生物に臭い(の成分)を分解させる方法である。微生物を担持する形態によっては、土壌脱臭法、あるいは充填塔式生物脱臭法とも呼ばれている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−283239号公報
【特許文献2】特開平10−211414号公報
【特許文献3】特開2000−42354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
「泡盛蒸留圧搾粕」の臭気成分は酵母および黒麹菌で「もろみ」を発酵する際に菌体外へ排出される最終代謝産物であるので、微生物を用いた生物脱臭法すなわち再発酵により脱臭されるかどうかが明らかでなかった。そこで、「泡盛蒸留圧搾粕」に含まれる臭気成分の除去および低減化を目的とした各種微生物群(B乳酸菌:Tetragenococcus halophilus, streptococcus thermophylus, Lactobacillus plantarumの混合、A菌:好熱好酸性菌 Alicyclobacillus sendainensis, M菌:有効微生物、乳酸菌および酵母菌などの混合)を用いた発酵による処理法、加えて水蒸気蒸留による処理法に関する検討が行われた。その後、処理した乾燥試料の臭気度がヒト(被験者総数62名、約20歳、男子33名、女子29名)を用いた官能試験によって評価された。
図8は、その官能試験の評価結果を示している。なお、各棒グラフの数値は各試料1〜31(表13を参照。)に対する「においの程度」を表し、具体的には、「無臭」の場合は「0」、「やっと感知できる」程度の場合は「25」、「らくに感知できる」程度の場合は「50」、「強いにおい」の場合は「75」、「強烈なにおい」の場合は「100」と言った各臭気度に対する「重み付け」を設定し、その「重み付け」の被験者総数についての総和を平均化した値(=1/62Σ(0×N1+25×N2+50×N3+75×N4+100×N5);N1+N2+N3+N4+N5=62)を以て「においの程度」としたものである。以下は、これらの各試料の「においの程度」を基に、B乳酸菌とA菌の各脱臭率(脱臭効果)を算出した結果である。すなわち、試料2〜5のB乳酸菌の「においの程度」の平均値は55.5であり、無処理の試料1の「においの程度」が66であるから、B乳酸菌の脱臭率は、[(66-55.5)/66]×100=16%となった。他方、試料6〜21のA菌の「においの程度」の平均値は53であるから、A菌の脱臭率は、[(66-53)/66]×100=19%となった。これらの結果から、微生物を用いた発酵処理法では「泡盛蒸留圧搾粕」に含まれる臭気成分のせいぜい約19%しか除去されないことが明らかになった(なお、試料31のみは後述する本発明に係る水蒸気蒸留によって脱臭処理されたものである。)。このように、上記生物脱臭法では、臭気成分を構成している微生物の最終代謝産物が僅かしか分解されないために、「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理効果が低かったと考えられる。そのため、今なお、「泡盛蒸留圧搾粕」は、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分を豊富に含みながら、食材として利用されることなく産業廃棄物として処理されている。
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、機能性および嗜好性に優れ、なお且つ摂取した人・動物の排泄物の臭気を好適に低減させることが可能な「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材及びその脱臭処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材では、脱臭処理が成された「泡盛蒸留圧搾粕」を含有することを特徴とする。
詳細については後述するが、本願発明者は、臭いの成分が可溶性(水溶性)であることに着目して水蒸気蒸留によって「泡盛蒸留圧搾粕」から水分を除去することにより、その水分と一緒に臭い成分までも除去可能であることを見出した。しかも、従来の水蒸気蒸留とは異なり、加熱源として高温の水蒸気を有効に使うことによって脱臭の処理速度(処理能力)を飛躍的に向上させた。これにより、「泡盛もろみ酢」の製造過程で生じる大量の「泡盛蒸留圧搾粕」を人・動物の食材として利用することが可能となった。上記「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材は、栄養価の高い機能性成分が豊富に含まれているため、例えばペットフードとして適用する場合は、従来のペットフードに比べ機能性の優れたものとなる。また、「泡盛蒸留圧搾粕」には人・動物の生活習慣病の予防に効果のある機能性成分も含まれているため、上記「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材は、人・動物の健康増進に寄与することが可能となる。更に、人・動物が無理なく摂取することが出来るように、上記食材に人・動物が好む食材を併せて添加することにより、嗜好性を向上させることが可能となる。
【0006】
請求項2に記載の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材では、前記脱臭処理は、水蒸気蒸留法によって行われることとした。
水蒸気蒸留法は、高温の水蒸気を使用するため、生物脱臭法に比べ、脱臭処理能力が高いという利点を有している。更に、後述するように、水蒸気蒸留法は、主として揮発性である臭い成分を除去し、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分はそのまま残留させるという特性を有している。
従って、水蒸気蒸留法により脱臭処理された「泡盛蒸留圧搾粕」を原材料とした上記「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材は、量産性および機能性において優れたものとなる。
【0007】
請求項3に記載の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材では、乳酸菌が添加されていることとした。
伴侶動物として人気の高いイヌやネコは肉食動物であり、通常蛋白質含量の高いペットフードを摂取している。ところが、大腸内細菌による未消化の蛋白質の代謝産物はイヌやネコの排泄物の悪臭の原因となっている。そのことに対し、添加した乳酸菌(Lactobacillus fermentum)は大腸まで到達して生存し、大腸菌の蛋白質分解に由来するインドールやスカトールなどの臭気成分の生成を抑制していると推察される。
そこで、上記「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材では、乳酸菌を添加することにより、摂取した人・動物の排泄物の悪臭が好適に低減されるように工夫した。
【0008】
前記目的を達成するために、蒸気発生源と、「泡盛蒸留圧搾粕」を収容するステンレス製蒸留釜と、該蒸留釜の内部に導入され液量調整手段としての第1蒸気導管と、前記蒸留釜の外周面にジャケット状に設置された空間へ加熱手段としての高温高圧の水蒸気を導入する第2蒸気導管と、水蒸気を冷却して水へ変換する凝縮器から構成されることを特徴とする。
上記「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置では、臭い(の成分)は水溶性で、かつ揮発性であることに着目して、先ず、蒸留釜へ水と「泡盛蒸留圧搾粕」を入れて攪拌し、第2蒸気導管を流れる高温高圧の水蒸気が、熱伝導によって蒸留釜の外周面を均一に加熱し、蒸留釜の溶液を沸騰させて蒸留釜内に水蒸気を発生させる。「泡盛蒸留圧搾粕」の臭いの成分は水溶性で、かつ揮発性であるので水蒸気に溶解して除去されるが、クエン酸、アミノ酸及びポリフェノールなどの人・動物に有効な成分は不揮発性であるので、ほとんど失われない。従来の蒸留装置と異なり、本脱臭処理装置は運転中に第1蒸気導管から蒸留釜中への水蒸気の導入を必要としないので、蒸留釜の溶液が短時間で除去される。さらに、本脱臭処理装置は常圧蒸留装置であるので、沸騰時の蒸留釜中の溶液の温度は100℃であり、蒸気排出管を冷却水循環装置及び凝縮器で冷却することにより蒸留釜からの水蒸気の留出を促進し、蒸留時間を短縮している。なお、第1蒸気導管を介した水蒸気の蒸留釜への導入は、蒸留最終時に液量が不足した時に行うことがあるが、蒸留中は第1蒸気導管のバルブを閉にしている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材は、栄養価の高い機能性成分を豊富に含むため、人・動物の健康増進に寄与するすることが可能となる。
また、本発明の「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置は、「泡盛もろみ酢」の製造過程で発生する大量の「泡盛蒸留圧搾粕」を短時間に効率よく脱臭処理することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものと解してはならない。
【0011】
図1は、本発明に係る「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置100の構成を示す説明図である。なお、本脱臭処理装置100は、「泡盛蒸留圧搾粕」を収容する蒸留釜10を2基有し、各蒸留釜の構成は全く同一である。従って、以降の説明では、どちらか一方の蒸留釜に特化して説明を行うこととする。
上記脱臭処理装置100は、「泡盛もろみ酢」の製造過程で生じる残渣としての「泡盛蒸留圧搾粕」(以下、「圧搾粕」という。)から臭いを、効率良く除去または低減する装置である。その脱臭の原理は、圧搾粕を水の沸点まで加熱して臭いを水蒸気に付加させて圧搾粕から除去する水蒸気蒸留である。また、上記脱臭処理装置100を用いた水蒸気蒸留は、効率的に水分を蒸発させることを通してしつこい臭いが除去できること、かつ人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分は失われないことが従来の方法および装置と異なる(表1および表2を参照。)。従来型の水蒸気蒸留装置は蒸留液とともに留出する揮発性成分を捕集する装置であるが、本脱臭処理装置は蒸留後の残渣の回収を目的に設計されている点に特異性がある。
【0012】
従って、上記脱臭処理装置100の構成は、水道水を軟水に変える軟水器1と、加熱源としての高温の水蒸気を発生させるボイラー2と、水蒸気の圧力を減圧する減圧弁3と、水蒸気の圧力を計測・表示する圧力計4と、圧搾粕の臭いが付加された水蒸気を冷却して復水させる凝縮器5と、凝縮器5に対し熱交換用の冷却水を循環させる冷却水循環装置6と、蒸留釜10を上下方向に変位させる昇降装置7と、蒸留釜10とを具備して構成される。
【0013】
蒸留釜10は、圧搾粕を攪拌する攪拌機11と、圧搾粕の温度を計測・表示する温度センサ12と、蒸留釜の内部または胴部に高温の水蒸気を供給する蒸気導管13,14と、臭いが付着した水蒸気を外部へ導入する蒸気排出管15と、蒸留釜10の胴部に供給された高温の水蒸気の流量を計測する流量計16と、内部の圧力が許容値を超えた場合に圧力を逃がす安全弁17と、脱臭圧搾粕を外部に取り出す排出口18と、高温の水蒸気が潜熱を蒸留釜へ供給した後の復水の排水口19を備えている。
【0014】
蒸留釜10は、内部容積が、例えば100Lであり、熱伝導率の高い材質、例えばステンレス鋼から作られた圧力容器である。従って、蒸気導管14から高温高圧の水蒸気(2 kg/cm2)を蒸留釜10の胴部に均一に供給することにより、内部の圧搾粕を満遍なく加熱することが出来る。本実施例では、蒸気導管13を介した水蒸気の蒸留釜への導入は、蒸留最終時に液量が不足した時に行うことがあるが、蒸留中は蒸気導管13のバルブを閉にしている。なぜならば、蒸気導管13から供される水蒸気は液化して溶媒の一部となり、その結果、圧搾粕の脱水濃縮化を妨げることになるからである。なお、圧搾粕の脱水濃縮化は、蒸留釜10の透明なレベルゲージの指示値によって判断することが可能である。
【0015】
圧搾粕は、蒸留釜10の内部で連続して攪拌されながら蒸気導管14を流れる高温の水蒸気によって間接的に加熱される。そして飽和蒸気圧が1atm(気圧)に達すると、圧搾粕に含まれる水分が気化し始め水蒸気として釜内部のヘッドスペース(気相)から蒸気排出管15を通って大気の方向へ留出する。この水蒸気には臭い成分が付着しているため、この水分の蒸発を通して臭い成分が圧搾粕から好適に除去されることになる。
【0016】
臭い成分が付着した水蒸気は、凝縮器5を通る際に、冷却水循環装置6から供給される冷却水と熱交換を行い液化し水として排出される。このことにより、釜内部の水分の気化が促進される。なお、従来の「水蒸気蒸留」は揮発性成分を捕集し、それを冷却して液化することである。すなわち、欲しい物質は、揮発性成分中に含まれる。それに対し本脱臭処理装置100で行われる「水蒸気蒸留」は、同じく揮発性成分を捕集し、それを冷却して液化することであるが、欲しい物質はその揮発成分中に存在するのではなく、その揮発性成分を蒸留した後に残る残渣である。つまり、従来型の水蒸気蒸留装置は蒸留液とともに留出する揮発性成分を捕集する装置であるが、本脱臭処理装置は蒸留後の残渣の回収を目的に設計されている点に特異性がある。
【0017】
ここで、本脱臭処理装置100を使用した圧搾粕の脱臭処理の一例を示す。
先ず、減圧乾燥器で乾燥させた(未処理の)圧搾粕の粉末5kgと、軟水器で処理した水道水50Lとを蒸留釜10へ各々投入して蒸気導管13および蒸気導管14を介して高温の水蒸気を蒸留釜10の内部および外周面に供給して水蒸気蒸留を行った。蒸留釜内の内容物がスラリー状になるまで約1時間かけて水分を蒸発させることにより、圧搾粕の臭気成分を除去した。また、水蒸気蒸留が安定した時の蒸留釜10の温度(温度指示計12)は、100[℃]であり、流量計16の指示値は、60〜70[L/h]であった。その後、蒸留釜10の取出口18からスラリー状の圧搾粕を取り出し、約12時間にわたり減圧乾燥を行い、本発明に係る脱臭圧搾粕の粉末を得た。
【0018】
得られたこの脱臭圧搾粕について、(株)カルモア製の臭い感知器を使い、臭気度を測定してみたところ、臭気度がΣ71(Σ:測定単位)という結果であった。ちなみに、無処理の圧搾粕の臭気度は、Σ456であった。従って、わずか1時間の上記脱臭処理によって約85%の臭気成分を圧搾粕から除去することが出来たことになる。従って、更に時間をかけて処理することにより、更なる臭気成分の除去または低減化が可能であると考えられる。
【0019】
図2は、本発明に係る脱臭処理の効果を示すガスクロマトグラムである。なお、上段は無処理の圧搾粕のガスクロマトグラムであり、下段は脱臭圧搾粕のガスクロマトグラムである。
このガスクロマトグラムは、日立製作所製のガスクロマトグラフィー(G3000)を使用して、無処理の圧搾粕と、処理済み圧搾粕の各々の成分を分析した結果である。
両ガスクロマトグラムを比較すると、下段のガスクロマトグラムは上段のガスクロマトグラムに比べ、ピーク値(極値)の個数が減少し、ピーク値が低減し、或いはピーク値の帯域幅が部分的に減少している。従って、上記臭気度の測定と同様に、このガスクロマトグラフィーによる分析結果からも、上記脱臭処理により臭いの成分が圧搾粕から好適に除去され、低減化していることが分かる。
【0020】
ところで、上記脱臭処理(水蒸気蒸留)によって、圧搾粕に含まれる人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分までも臭い成分といっしょに除去あるいは低減されるのではないかとも考えられる。しかし、表1および表2に示す通り、脱臭処理の前後において栄養成分は殆ど変化していない。脱臭圧搾粕には蛋白質、食物繊維に加え、クエン酸、必須アミノ酸、γ‐アミノ酪酸、フェルラ酸(ポリフェノール)およびカルシウムなどの機能性成分が多量に含まれていることが分かる。従って、上記脱臭処理によって、臭い成分は好適に除去または低減されるが、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分はほとんど除去されないことになる。
【0021】
以上の通り、上記脱臭処理装置100を用いた水蒸気蒸留によれば、大量の圧搾粕を効率良く脱臭処理することが出来る。また、大量の圧搾粕に含まれる水分を蒸発させることを通して、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分は除去せずに、臭い成分を好適に除去することが出来る。
【0022】
上述した通り、圧搾粕は、人・動物の健康に有効な栄養・機能性成分を豊富に含んでいる。従って、上記脱臭処理装置100によって脱臭処理された脱臭圧搾粕は人・動物の食材として人・動物の飲食物に用いることが出来る。ここでは、本発明に係る脱臭圧搾粕をイヌ用のペットフードに適用した実施例を示す。
【0023】
先ず、このペットフードの原材料としては、本発明に係る脱臭圧搾粕、とうもろこし、加熱大豆、肉骨粉、ラード、鶏肉、ゼンビタンF(ビタミンミネラル混合)、食塩、コリン、ビタミンE、硫酸亜鉛、ヨウ素酸カルシウム、ビタミンB12、乳酸菌(Lactobacillus fermentum)粉末である。なお、各原材料の配合割合は、脱臭圧搾粕20〜30%、とうもろこし29〜36%、肉骨粉8〜24%、加熱大豆2〜21%、ラード8〜10%、鶏肉4〜5%、ゼンビタンF 1〜2%である。本発明のペットフードの場合は、表3に示すように、100g乾物中において、おおよそ(水分、粗蛋白質、粗脂肪、粗繊維、可溶性無窒素物、粗灰分)=(5.4、31.5、17.1、2.8、42.7、6.0)となるように、各原材料の配合割合を決定した。ただし、後述(図5)するように、本発明に係る脱臭圧搾粕の配合割合については、嗜好性の観点から、30%以下が好ましい。なお、本実施例の対照飼料としては、日本ヒルズ・コルゲート(株)の「サイエンス・ダイエット」を使用した。
【0024】
図3は、本発明の脱臭泡盛蒸留圧搾粕を利用したイヌ用ペットフードを示す写真である。
本発明の上記ペットフードは、例えば、以下の調製で作ることが出来る。すなわち、先ず、本発明に係る脱臭圧搾粕、とうもろこし、加熱大豆、肉骨粉およびゼンビタンFをミキサーで混合して第1混合物を作る。次に「加熱したラードにビタミンEを加えて溶かした」第2混合物、ならびに、「鶏肉のミンチを約1 L の水で煮沸した後に約40℃まで冷却した混合物に、コリン、硫酸亜鉛、ヨウ素酸カルシウム、ビタミンB12および乳酸菌粉末を溶解した」第3混合物を一緒に、第1混合物が入っているミキサーに投入してこれらを全て混ぜ合わせる。混ぜ合わせて出来たもち状の混合物を固形飼料製造機でペレットに成型し、その後、通風乾燥機を用いて60℃で約12時間乾燥させる。
【0025】
図4は、脱臭圧搾粕および無処理圧搾粕の嗜好性試験結果を示す写真である。
この試験は、「市販の飼料」(日本ヒルズ・コルゲート(株)の「サイエンス・ダイエット」)と「無処理圧搾粕」を160g:40gに配合した「無処理混合飼料」と、「市販の飼料」と「本発明に係る脱臭圧搾粕」を160g:40gに配合した「脱臭混合飼料」とを同時に2匹の供試犬に与え、これらの混合飼料に対する供試犬の反応(いわゆる「食べっぷり」)を観察した時の写真である。写真から分かる通り、結果は、2匹の供試犬とも、脱臭混合飼料には大いに反応して好適に食べたが、無処理混合飼料は全く摂取しなかった。なお、この写真では示されてはいないが、他の4匹の供試犬についても脱臭混合飼料には大いに反応したという同様な結果が得られた。
【0026】
図5は、脱臭圧搾粕の割合が「イヌの嗜好性」に与える影響を示す写真である。
この試験は、「市販の飼料」(日本ヒルズ・コルゲート(株)の「サイエンス・ダイエット」)と「本発明に係る脱臭圧搾粕」を70g:30gに配合した「脱臭30%の混合飼料」と、「市販の飼料」と「本発明に係る脱臭圧搾粕」を60g:40gに配合した「脱臭40%の混合飼料」とを同時に2匹の供試犬に与え、これらの混合飼料に対する供試犬の反応(いわゆる「食べっぷり」)を観察した時の写真である。写真から分かる通り、結果は、2匹の供試犬とも、「脱臭30%の混合飼料」をより好んで好適に食べた。なお、この写真では示されてはいないが、他の4匹の供試犬についても「脱臭30%の混合飼料」には大いに反応したという同様な結果が得られた。従って、本発明のペットフードが「イヌの嗜好性」を具備するための脱臭圧搾粕の占める割合としては、30%以下が好ましいと考えられる。
【0027】
図6は、飼料形態がイヌの嗜好性に与える影響を示す写真である。
この試験は、本発明のペットフード(脱臭圧搾粕30%配合)をペレット状と粉末状に加工したペレット飼料および粉末飼料を同時に2匹の供試犬に与え、これらの飼料に対する供試犬の反応(いわゆる「食べっぷり」)を観察した時の写真である。写真から分かる通り、結果は、ペレット飼料をより好んで好適に食べた。なお、この写真では示されてはいないが、他の4匹の供試犬についてもペレット飼料をより好んで食べたという同様な結果が得られた。従って、本発明のペットフードが「イヌの嗜好性」を具備するための、脱臭圧搾粕を利用したペットフードの形態は、ペレット状が好ましいと考えられる。
【0028】
表4から7は、本発明のペットフードの各種栄養素含有量を測定し、推奨ドッグフードの栄養基準に対する適合性を示すデータである。なお、推奨栄養基準として米国飼料検査官協会(AAFCO)の栄養基準値を用いた。結果は、全37項目中33項目において基準値を大きくクリアした。また、基準値を下回ったトコフェロール、ビタミンB12、コリン、カリウムについては、不足した量は僅かであり、個別に添加・補充することは可能であるため、特に問題はない。
【0029】
表8は、本発明のペットフードが成犬の体重を維持する栄養価を有することを示すデータである。
このデータは、成犬6頭(ラブラドールレトリーバー種、1.5才齢、体重約18.1kg)について、本発明のペットフード300gを1日2回(10時, 16時)に分けて等量ずつ3週間にわたり給与した時の、栄養価と体重の変化量について検討したもの(本発明飼料給与区)である。他方、その比較対照として、「市販のペットフード」(日本ヒルズ・コルゲート(株)の「サイエンス・ダイエット」)を同一供試犬に全く同一条件で給与した時の、栄養価と体重の変化量について検討したもの(対照飼料給与区)を併せて示した。なお、各データは、供試犬6頭の平均値である。その結果、本発明のペットフードが成犬の体重を維持する栄養価を有することが明らかになった。
【0030】
表9から10は、本発明のペットフードがイヌの健康状態に及ぼす影響を示すデータである。
データは、成犬6頭(ラブラドールレトリーバー種、2.0才齢、体重約19.3kg)に本発明のペットフード300gを1日2回(10時, 16時)に分けて等量ずつ長期間(6ヶ月)にわたり給与し、体重および血液パラメーターを測定したものである。その結果、供試犬6頭は与えられた飼料を全量採食したが、各供試犬の体重は6ヶ月間にわたりほぼ一定に維持された。また、ヘマトクリット(血球容積百分率)、赤血球数、血中ヘモグロビンおよび血漿総蛋白質の濃度が6ヶ月間にわたり正常な範囲にあり、それは供試犬の栄養状態が良好であることを示している。また、白血球数は6ヶ月間にわたり正常値であり、そのことは供試犬の免疫状態が正常で、本発明のペットフードが安全であることを示している。また、血漿浸透圧、血漿Na、K、Clおよび血漿アルブミンの濃度は正常範囲にあり、腎臓の機能が正常であることが示された。更に血漿GOTおよびGPTが正常であることから、肝臓が障害されず、正常であることが示された。以上の結果は、総合栄養食として本発明のペットフードだけを給与して成犬を飼育したとき、飼料の安全性に問題がなく、成犬の健康状態が良好に保持されることを示している。
【0031】
近年、ペットにおいてもヒトと同様に、エネルギーの過剰摂取により肥満、糖尿病および高血圧症などの生活習慣病に罹患している動物が多い。また、伴侶動物として人気が高いイヌやネコは肉食動物であり、通常蛋白質含量の高いペットフードを摂取している。ところが、腸内細菌による蛋白質の代謝産物はイヌやネコの排泄物の悪臭の原因となっており、ペット飼育者の悩みの種となっている。本発明のペットフードを給与することによりそれらの問題が解決されるか否かについて検討した。
表11は、乳酸菌添加の効果を示すデータである。
本発明のペットフードには植物性乳酸菌(Lactobacillus fermentum)の培養乾燥粉末(細菌数1010〜1011個/g)が0.4%添加されている。成犬6頭(ラブラドールレトリーバー種、2.5才齢、体重約20.0kg)に本発明のペットフード300gを1日2回(10時, 16時)に分けて等量ずつ1ヶ月間給与し、各飼料給与期間の最終日に体重を測定し、血液および糞を採取した。血液は血漿を分離した後、血漿脂質およびアンモニアの濃度、糞については臭気度を測定した。なお、供与前の測定した各測定値と供与後に測定した各測定値を表11に示す。
結果は、給与後の供試犬の体重はわずかに増加したが、血漿脂質濃度のうち血漿トリグリセリド及びLDL-コレステロールの濃度が本発明のペットフードの給与により有意に低下することが分かった。また、血漿アンモニア濃度および糞の臭気度が本発明のペットフードの給与により顕著に減少することも分かった。これらの結果は、本発明のペットフードの給与が成犬の生活習慣病の予防および排泄物の悪臭の改善に貢献できる機能性を有することを示している。なお、ここでは、詳細には示さないが、本発明の脱臭圧搾粕を雑食動物である自然発症高血圧ラットやヒトへ給与したとき、血圧上昇抑制作用および糖尿病の指標となるヘモグロビンA1Cの水準を低下させるなどの機能性が明らかにされている。
【0032】
表12は、本発明のペットフードの保存性に関する特性を示す評価結果である。
本発明のペットフードの保存性を評価するために、25℃または30℃の室温に6ヶ月間保存した本発明のペットフードの各栄養成分と、同製造直後の栄養成分を比較したものである。その結果、本発明のペットフードは室温に6ヶ月間にわたり保存した場合であっても各栄養成分について有意な変化は認められなかった。このことから、本発明のペットフードの賞味期限を室温保存で6ヶ月に設定することが可能であると考えられる。
【0033】
本発明のペットフードは、脱臭泡盛蒸留圧搾粕を原材料とするため、動物の健康増進に有効な栄養成分を豊富に含んでいる。また、動物の好む肉骨粉、ラード、鶏肉を含むため嗜好性にも優れている。また、乳酸菌を含むので、摂取した動物の糞の臭気を低下させる効果を有する。また、生活習慣病の予防効果を有する。更に、本発明のペットフードは少なくとも6ヶ月間は品質を維持することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材は、人・動物の加工食品または健康食品に好適に適用することが可能である。
また、本発明の「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置は、上記食材の原材料である「泡盛蒸留圧搾粕」等の、水分含有量の高く臭気のきつい物質の脱臭処理に好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置の構成を示す説明図である。
【図2】本発明に係る脱臭処理の効果を示すガスクロマトグラムである。
【図3】本発明の脱臭泡盛蒸留圧搾粕を利用したイヌ用ペットフードを示す写真である。
【図4】脱臭圧搾粕および無処理圧搾粕の嗜好性試験結果を示す写真である。
【図5】脱臭圧搾粕の割合と「イヌに対する嗜好性」との関係を示す写真である。
【図6】飼料形態がイヌの嗜好性に与える影響を示す写真である。
【図7】イヌにおける無処理の「泡盛蒸留圧搾粕」の嗜好性試験を示す写真である。
【図8】泡盛蒸留粕の発酵および水蒸気蒸留による脱臭効果(官能試験結果)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0036】
10 蒸留釜
11 攪拌機
12 温度指示計
13,14 蒸気導管
15 蒸気排出管
16 流量計
17 安全弁
18 取出口
19 排水口
100 「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置
【0037】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【表11】

【表12】

【表13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱臭処理が成された「泡盛蒸留圧搾粕」を含有することを特徴とする「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材。
【請求項2】
前記脱臭処理は、水蒸気蒸留法によって行われることを特徴とする請求項1に記載の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材。
【請求項3】
乳酸菌が添加されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の「泡盛蒸留圧搾粕」を利用した食材。
【請求項4】
蒸気発生源と、「泡盛蒸留圧搾粕」を収容するステンレス製蒸留釜と、該蒸留釜の内部に導入され液量調整手段としての第1蒸気導管と、前記蒸留釜の外周面にジャケット状に設置された空間へ加熱手段としての高温高圧の水蒸気を導入する第2蒸気導管と、水蒸気を冷却して水へ変換する凝縮器から構成されることを特徴とする「泡盛蒸留圧搾粕」の脱臭処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−148374(P2010−148374A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327595(P2008−327595)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(508377598)
【Fターム(参考)】