説明

う蝕予防用組成物

【課題】 効率的に脱灰を抑制し再石灰化を促進する効果を有し、従来のCPP−ACP及びCPP−ACFPを含有する組成物と比較して更に再石灰化能の高いう蝕予防用組成物を提供する。
【解決手段】 (a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体:1〜30重量%と、(b)粘稠剤:0.5〜40重量%と、(c)クロルヘキシジン誘導体:0.01〜10重量%と、水:残部とから成り、歯面へ塗布して使用することを特徴とするう蝕予防用組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面の脱灰を抑制し再石灰化を促進する効能と、口腔内細菌に対する効能とを同時に有するう蝕予防用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、う蝕予防成分として、カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体(以下、CPP−ACPと記すことがある。)が知られている。このCPP−ACPは、牛乳のタンパク質(カゼイン)由来ペプチドと無機質(非結晶性リン酸カルシウム)の複合体から成る物質で、その構成要素の中に歯牙の無機成分であるカルシウムやリンを含んでいるため、歯牙の脱灰と再石灰化に影響を与えているとされている。
【0003】
また、フッ素は、再石灰化を促進する,歯質の耐酸性を向上させる,プラーク細菌へ抗菌性を示すと共に酸産生を抑制する等の効能が知られており、フッ素を含むカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体(以下、CPP−ACFPと記すことがある。)も、う蝕予防に効能がある。
【0004】
このような作用を有するCPP−ACP及びCPP−ACFPを含有することによりう蝕の予防を補助するガムやキャンディ等の食品や、歯磨剤や洗口剤等の口腔ケア用組成物が開示されている(例えば、特許文献1,2参照。)。また歯面に塗布して再石灰化を促進させるう蝕予防用組成物も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
しかし実際の口腔内においては、従来のCPP−ACPのう蝕予防ではCPP−ACPによりエナメルの表層下脱灰病変内部へカルシウムとリンのイオンが持続的に供給されていても口腔内細菌により再石灰化が不十分となり歯質が脱灰されてしまうことがあった。
【0006】
【特許文献1】特表2002−500626号公報
【特許文献2】特表2002−540129号公報
【特許文献3】特開2005−145952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、効率良く脱灰を抑制し再石灰化を促進する効能を有し、従来のCPP−ACP及びCPP−ACFPを含有する組成物と比較して更に口腔内細菌の影響を低減させる効力が高いう蝕予防用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体(CPP−ACP)及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体(CPP−ACFP)と、特定量のクロルヘキシジン誘導体を組み合わせて使用するとクロルヘキシジンが口腔内の細菌の繁殖を抑えることで効率良く脱灰を抑制する効能を有することを見出して本発明を完成させた。
【発明を実施するための形態】
【0009】
即ち、本発明は、(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体:1〜30重量%と、(b)粘稠剤:0.5〜40重量%と、(c)クロルヘキシジン誘導体:0.01〜10重量%と、水:残部とから成り、歯面へ塗布して使用することを特徴とするう蝕予防用組成物である。あるいは、(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体(CPP-ACP)及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体(CPP-ACFP):1〜30重量%と、(b)粘稠剤:0.5〜40重量%と、(c)クロルヘキシジン誘導体:0.01〜10重量%と、(d)フッ素化合物:0.1〜5%重量%と、水:残部とから成り、歯面へ塗布して使用することを特徴とするう蝕予防用組成物である。
【0010】
以下、本発明に係るう蝕予防用組成物について説明する。
(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体は、食用又は歯科用として許容されるものであれば特に制限されず、例えばホスホペプチドにカルシウム,無機リン酸,任意にフッ素を混合し、この混合物を濾過し、乾燥する方法(特表2002−500626号公報参照)にて調整したものを用いるのが組成及び結晶化度の点で好ましい。
【0011】
ここで、(a)CPP−ACP及び/又はCPP−ACFPの配合量は組成物全体の1〜30重量%であり、特に1〜10重量%であることが好ましい。1重量%未満であるとカルシウムとリンの供給が不十分でう蝕予防効能が得られず、30重量%を超えると組成物の粘度が高くなりすぎる。
【0012】
本発明に係るう蝕予防用組成物は歯面へ塗布して使用し、組成物中に配合されている(a)CPP−ACP及び/又はCPP−ACFPが後述する(c)クロルヘキシジン誘導体と共に口腔内に滞留することによるう蝕予防及び口腔内細菌に対する有効性を得るため、(b)粘稠剤を用いることが必要である。(b)粘稠剤としてはグァーガム,カジブビーンガム,タラガム,タマリンドシードガム,アラビアガム,トラガントガム,カラヤガム,カラギナン,キサンタンガム,ジェランガム,カードラン,キチン,キトサン,キトサミン等の天然物,グリセリン,プロピレングリコール,アルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステル,デンプングリコール酸ナトリウム,デンプンリン酸エステルナトリウム,ポリアクリル酸ナトリウム,ポリビニルピロリドン等の有機合成物や,炭酸カルシウム,珪酸カルシウム,シリカ微粉末,非晶質含水シリカ,疎水性シリカ等の無機合成物等を例示することができる。
【0013】
歯面へ直接塗布するという使用方法を考慮すると、組成物の粘度は25℃において1〜500Pa・Sであることが適しており、20〜200Pa・Sが最適である。従って、(b)粘稠剤の配合量は組成物全体の0.5〜40重量%、特に5〜20重量%であることが好ましい。
【0014】
本発明のう蝕予防用組成物の最も重要な特徴は(a)CPP−ACP及び/又はCPP−ACFPと特定量の(c)クロルヘキシジン誘導体とを同時に含むことによりCPP−ACP及び/又はCPP−ACFPの再石灰化の効能にクロルヘキシジンによる口腔内細菌の増殖抑制の効能が加わる点である。従って本発明に係るう蝕予防用組成物には(c)クロルヘキシジン誘導体を0.01〜10重量%配合する。0.01重量%よりも少ないまたは10重量%を超えて配合すると(a)CPP−ACP及び/又はCPP−ACFPと組み合わせたときの効能が得られない。好ましくは0.5〜10重量%である。クロルヘキシジン誘導体としては塩酸クロルヘキシジン及び/またはグルコン酸クロルヘキシジンが好ましい。
【0015】
本発明に係るう蝕予防用組成物は、より優れた再石灰化を付与するために、フッ素化合物を0.01〜5%重量%配合することができる。特に好ましい配合量は0.05〜0.2重量%である。0.01重量%未満であると充分な再石灰化が得られ難く、5重量%を超えると人体への安全性の点で好ましくない。フッ素化合物としてはフッ化ナトリウム,フッ化スズ,モノフルオロリン酸ナトリウムから選ばれる一種または二種以上が好ましく使用でき、その配合量をフッ素原子量で換算すると0.005〜0.5重量%である。フッ素化合物を一種のみ配合する場合の配合量としては、フッ化ナトリウム:0.011〜1.1重量%,フッ化スズ:0.02〜2%,モノフルオロリン酸ナトリウム:0.037〜3.7重量%が例示できる。
【0016】
本発明に係るう蝕予防用組成物は、歯面へ直接塗布するためpHは、5.5〜9.5の範囲に調製しておくことが好ましく、その範囲に保つ方法は特に制限されるものではないが、例えばCPP−ACP,CPP−ACFPの構成成分でもあるリン酸、又はその塩の水溶液を添加して調整する等が好ましい。
【0017】
本発明に係るう蝕予防用組成物には、通常のう蝕予防用組成物に用いられる甘味料,着色料,保存料,防カビ剤,香料等の添加剤を適宜配合することもできるのは勿論である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
本発明に係るう蝕予防用組成物の実施例1〜11及び適量のクロルヘキシジン誘導体を使用していない場合の比較例1〜4、CCP−ACPを使用していない組成を比較例5として表1に纏めて示す。
【0020】
<再石灰化の評価>
Reynolds EC ”Remineralization of enamel subsurface lesions by casein phosphopeptide-stabilized calcium phosphate solutions.” J Dent Res. 1997 Sep;76(9):1587-95に記載の方法に準じて、牛歯を用い試験管の中で行った。
(1) 牛歯を歯科用樹脂で包埋し、縦7mm×横幅1mmのエナメル試験面を作製した。これをエナメルブロックとした。
(2) エナメルブロックを37℃の雰囲気内で4日間、次に示す配合の脱灰液40mlに浸し、人工う蝕を発現させた。
脱灰液(pH:4.5)の配合
乳酸:0.1mol/L
塩化カルシウム:1.5m・mol/L
リン酸二水素カリウム:0.9m・mol/L
カルボキシメチルセルロースナトリウム(セロゲンHE-1500F,第一工業製薬社製): 1重量%
(3) 人工う蝕が発現されたエナメルブロックの表面の約1/2の部分に、再石灰化を生じさせないために、エナメルバーニッシュを塗布し、このエナメルブロックを、実施例1〜11及び比較例1〜5を蒸留水で5倍希釈したスラリー液に10日間浸漬し、再石灰化処理を行った。
(4) エナメルブロックから、厚さ約100μm程度の薄切片を作製した。
(5) (4)の薄切片のX線写真を撮影し、表面からの距離とその部分における輝度とから、脱灰した部分と再石灰化した部分のミネラル量を画像解析装置を用いて計算し、再石灰化率を求めた。数値が大きいほど再石灰化したことを示している。結果を表1に纏めて示す。
【0021】
<表1>


(※MIC: minimum inhibitory concentration against tested S.mutans. (mg/ml))

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体:1〜30重量%と、(b)粘稠剤:0.5〜40重量%と、(c)クロルヘキシジン誘導体:0.01〜10重量%と、水:残部とから成り、歯面へ塗布して使用することを特徴とするう蝕予防用組成物。
【請求項2】
(a)カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムホスフェート複合体及び/又はカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフルオライドホスフェート複合体:1〜30重量%と、(b)粘稠剤:0.5〜40重量%と、(c)クロルヘキシジン誘導体:0.01〜10重量%と、(d)フッ素化合物:0.01〜5重量%と、水:残部とから成り、歯面へ塗布して使用することを特徴とするう蝕予防用組成物。
【請求項3】
(c)クロルヘキシジン誘導体が塩酸クロルヘキシジン及び/またはグルコン酸クロルヘキシジンである請求項1または2に記載のう蝕予防用組成物。
【請求項4】
(d)フッ素化合物が、フッ化ナトリウム,フッ化スズ,モノフルオロリン酸ナトリウムから選ばれる一種または二種以上である請求項1ないし3の何れか一項に記載のう蝕予防用組成物。

【公開番号】特開2011−37779(P2011−37779A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187602(P2009−187602)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000181217)株式会社ジーシー (279)
【Fターム(参考)】