説明

かしめ装置の作動機構

【課題】複数の孔に挿入された物品をかしめ加工により固定する際、各かしめ個所の加工量を適切な加工量とし、しかも短時間でかしめ加工を行う。
【解決手段】かしめ装置には、複数のかしめ個所に対応する複数のかしめヘッド8を配置し、さらに、かしめヘッド8の各々について、かしめヘッド8に装着したかしめ刃とかしめ面との距離が他のかしめヘッドに対して異なるよう移動させるスライドブロック20を設ける。油圧シリンダ2を下降させると、かしめ刃とかしめ面との距離が最短であるかしめヘッド8のみにより適切な加工量のかしめ加工が行われ、挿入された物品に変形が生じることはない。また、加工を行うかしめヘッド8はスライドブロック20により切り換えられ、移動することがないから加工時間を短縮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、クラッチハウジングに設けたシフトロッドの支持孔にブッシュを圧入した後、圧入したブッシュの抜け止めを図るためかしめを行うかしめ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マニュアル変速装置を備えた車両にあっては、その動力伝達装置には、エンジンの後方にクラッチと変速機が配置される。変速機は変速段を切り換えるシフトロッドを有し、シフトロッドは、通常、その端部がクラッチのケーシングであるクラッチハウジングに穿孔された孔に支持され、軸方向に摺動可能になっている。そのため、クラッチハウジングのシフトロッドの支持孔には摩擦低減等を目的とするブッシュが圧入される。
【0003】
ブッシュを圧入した後には、クラッチハウジングの熱膨張や振動等によってブッシュが支持孔から脱落するのを防止する目的で、ブッシュの周りをかしめるかしめ加工が施される。このような圧入及びかしめの加工は、ブッシュを孔へ装着する場合に限らず、エンジンのバルブシートをシリンダヘッドに装着する場合など、比較的小さな物品の取り付けに際して広く採用される方法である。
【0004】
機械部品の製造にあたっては、ブッシュ、バルブシート又はベアリング等略同一形状の小物品を複数個取り付けることが多い。複数の個所に同一形状の小物品を装着するときには、圧入あるいはかしめのため単一の加圧ヘッドを移動して加工を行うと、移動に時間を要し作業効率が劣るので、圧入個所に対応した複数の加圧ヘッド等を設け、同時に圧入等を行う加工装置が一般的である。例えば、特開2000−94235号公報には、複数の加圧ヘッドを備え、エンジンの吸気弁のバルブシートと排気弁のバルブシートとをシリンダヘッドに同時に取り付ける加工装置が示されている。
【0005】
上記公報に記載された加工装置について、図13によって説明する。この圧入装置は、油圧シリンダ202によって上下に移動するスライドベース203と、スライドベース203上を摺動可能なスライドテーブル206とを備えている。スライドテーブル206には、圧入・かしめ用プッシャ201及び工具ホルダ204を有するバルブシート圧入具205が取り付けられており、工具ホルダ204には吸気弁のバルブシートを圧入する圧入ヘッド207と排気弁のバルブシートを圧入しかしめる圧入・かしめヘッド208とが設けられる。この例では、1シリンダにそれぞれ2個の吸気弁、排気弁を配したエンジンのバルブシートを圧入するため、圧入ヘッド207及び圧入・かしめヘッド208は2個ずつ設けられている。
【0006】
圧入装置の下方には、エンジンのシリンダヘッド210が搬送具に固定して置かれ、その吸気バルブ穴及び排気バルブ穴にはバルブシート211がセットされる。バルブシートの圧入加工を行うときは、スライドテーブル206を前後方向に移動させて、圧入・かしめ用プッシャ201をプレスラム209の真下に位置させる。次に、それぞれのバルブシートを圧入ヘッド207と圧入・かしめヘッド208とに対向させるようシリンダヘッド210を位置決めする。位置決めされた後に、油圧シリンダ202によってスライドベース203を下降させて、圧入ヘッド207と圧入・かしめヘッド208とをシリンダヘッド210の直近まで移動する。この状態で、プレスラム209を下降して圧入・かしめ用プッシャ201を押圧し、工具ホルダ204を押し下げる。これにより、圧入ヘッド207によって吸気弁バルブシートの圧入加工が、また、圧入・かしめヘッド208によって排気弁バルブシートの圧入及びかしめ加工が行われ、4個のバルブシート211が同時に装着される。
【0007】
この例では、2個の吸気弁バルブシートの加工が圧入のみであるのに対し、2個の排気弁バルブシートについては圧入とかしめの加工が同時に施されている。しかし、小物品を圧入した後にかしめ加工を行うよう、圧入ヘッドとは別に専用のかしめヘッドを有する装置が使用されることも多い。
【特許文献1】特開2000−94235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1に記載されているように、小物品を複数個取り付けるため圧入あるいはかしめ加工を行うときは、通常、圧入個所に対応した複数の圧入ヘッド等を設けて複数の個所を同時に加工する。しかし、この場合には複数の圧入ヘッド等は同一のストローク上下移動するから、圧入等の加工を行う部位に高さの差があるときは、加工量が不均一となる。シリンダヘッドのように表面に平面加工が施されている機械部品においては、圧入あるいはかしめ個所の高さの差は極めて小さいが、クラッチハウジングのシフトロッド支持孔の周囲には機械加工がなされておらず鋳肌のままである。したがって、複数のシフトロッド支持孔の表面高さには、場合によっては1mm程度の誤差を生じることがあり、殊にシフトロッド支持孔に圧入されたブッシュをかしめるときには、表面高さの差によってかしめの加工量の差が生じる。そして、過大な加工量の場合にはかしめ加工に伴う残留応力が過大となるとともにブッシュの内径を変形させ、シフトロッドの摺動不良や組み付け不能等の不具合が発生する。また、加工量が少ないとブッシュの脱落の恐れが生じる。
【0009】
こうした不具合を回避するには、単一のかしめヘッドを複数のかしめ個所に移動し、高さの差を調整しながら順次加工すればよい。これによるとかしめの加工量は均一とすることができるが、複数のかしめ個所の距離が離れているときは、かしめヘッドの移動のためにストロークの長い空気圧シリンダ等が必要となり、また、移動及び位置決めのために時間がかかるので加工時間が長くなる。本発明は、大型の空気圧シリンダ等を用いることなく、表面高さの異なる複数のかしめ個所を正確に、しかも短時間でかしめ加工を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は、複数のかしめ個所に対応する複数のかしめヘッドを配置し、さらに、単一のかしめヘッドのみによりかしめ加工を行う選択機構を設けて、かしめ個所を1個所ずつ加工するものである。すなわち、本発明は、
「機械部品に穿孔された複数の孔に挿入される物品をかしめて固定するかしめ装置において、
前記かしめ装置は、前記複数の孔の位置に対応するように配置された複数のかしめヘッドを有し、前記複数のかしめヘッドにはかしめ面にかしめ加工を施すかしめ刃がそれぞれ装着されており、かつ、
前記かしめ装置は、前記複数のかしめヘッドの各々について、前記かしめ刃と前記かしめ面との距離が他のかしめヘッドに対して異なるよう移動させるカム装置を備えている」
ことを特徴とするかしめ装置となっている。
【0011】
かしめ個所が2個所であるときは、請求項2に記載のように、かしめ装置には2個のかしめヘッドを配置し、それぞれのかしめヘッドが支持ピン及び揺動リンクを介して相互に連結されており、カム装置により一方のかしめヘッドを移動させたときには、揺動リンクの揺動に伴い他方のかしめヘッドが反対方向に移動するようにして、かしめ刃とかしめ面との距離を異ならせることができる。
【0012】
また、別実施例として、請求項3に記載のように、かしめ装置に配置された複数のかしめヘッドは、径が拡大された拡大部を有するとともにその下部にはばねが配置されており、カム装置により単一のかしめヘッドを移動させて、かしめ刃とかしめ面との距離が変更されるよう構成してもよい。
【0013】
請求項4に記載のように、カム装置は、下面に凹部が形成された板状のスライドブロックを有し、これを摺動させることにより、かしめヘッドを移動するよう構成することができる。
【0014】
請求項5に記載のように、カム装置は、かしめヘッドに対応する位置にカムローブを備えたカム軸を有し、これを回転させることにより、カシメヘッドを移動するよう構成することもできる。この場合には、請求項6に記載のように、カム軸には、同一の角度位置であってかつ全てのかしめヘッドに対応する位置にカムローブを形成し、このカムローブによって全てのかしめヘッドを同一量移動して、かしめ刃とかしめ面との距離を全て同一とすることが可能なように構成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のかしめ装置においては、複数のかしめ個所に対応する複数のかしめヘッドを配置し、さらに、これら複数のかしめヘッドの各々について、かしめ刃とかしめ面との距離が他のかしめヘッドに対して異なるよう移動させるカム装置を備えている。したがって、かしめ加工を施す際に、複数のかしめヘッドを同時に同一ストローク上下移動したとしても、かしめ刃とかしめ面との距離が最短であるかしめヘッドのみによりかしめ加工を行い、他のかしめヘッドのかしめ刃がかしめ面と接触しないようにすることができる。つまり、かしめ面の表面高さに差がある場合でも、選択された単一のかしめヘッドにより適正量のかしめ加工を実施することが可能である。そのため、過大なかしめ加工に伴う過度の残留応力の発生や挿入された物品の変形、逆に、過少のかしめ加工に伴う物品の脱落等を回避できる。
【0016】
また、本発明のかしめ装置は、機械部品に穿孔された複数の孔に対応する複数のかしめヘッドを配置し、これらをカム装置によって選択してかしめ加工を行う。かしめ加工を実施する時は、全てのかしめヘッドは対応する孔に位置決めされているから、単一のかしめヘッドを複数の孔の位置に移動し位置決めする装置と比較すると、加工時間が大幅に短縮される。また、かしめヘッドを切り換えるカム装置は、単一のかしめヘッドを移動する空気圧シリンダよりも一般的に小型であるので、作動装置もコンパクトなものとなる。
【0017】
かしめ個所が2個所であり、これに対応して2個のかしめヘッドが配置される場合には、請求項2の発明のように、かしめヘッドを支持ピン及び揺動リンクを介して相互に連結することができる。これによって、カム装置により一方のかしめヘッドを移動させたときには、揺動リンクの揺動に伴いいわば強制的に他方のかしめヘッドが反対方向に移動するようなり、カム装置の作動に応じて確実にかしめ刃とかしめ面との距離を異ならせることができる。
【0018】
また、請求項3の発明のように、複数のかしめヘッドの各々に、径が拡大された拡大部を形成し、その下部にばねを配置して作動機構を構成してもよい。このときはカム装置により各かしめヘッドは単独で移動できるから、3個以上のかしめヘッドを配置して単一のかしめヘッドを移動させ、かしめ刃とかしめ面との距離を変更することができる。
【0019】
本発明に使用するカム装置としては、請求項4の発明のように、軸方向にスライドするスライドブロックを用いることができ、あるいは、請求項5の発明のように、エンジンの吸排気バルブを駆動するカムと同様な回転式カムを用いることができる。これらは、かしめ装置のスペース又は複数のかしめヘッドの配置状況等に応じて適宜選択される。
【0020】
回転式カムを使用したときは、請求項6の発明のように、カム軸に、同一の角度位置であってかつ全てのかしめヘッドに対応する位置にカムローブを形成することが容易である。このカムローブによると、全てのかしめヘッドを同一量移動してかしめ刃とかしめ面との距離を同一とすることが可能であるから、複数のかしめ個所の加工を同時に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明によるかしめ装置の作動機構について説明する。図1はかしめ装置の正面図を示すものであり、図2は側面図を示すものである。ただし、この装置はかしめ加工のみではなく、クラッチハウジングに穿孔されたシフトロッド支持孔にブッシュを圧入しかしめる加工を行う装置であって、図1及び図2の下方には、搬送具に固定されたクラッチハウジングが破線で示されている。
【0022】
かしめ装置の支柱には基台1が固定され、基台1には油圧シリンダ2が縦方向に固定されている。油圧シリンダ2のプランジャに取り付けられたロッドは基台1に開けられた孔を貫通してスライドベース3に接続される。したがって、油圧シリンダ2のロッドの伸縮により、スライドベース3は垂直方向に移動する。なお、4は、スライドベース3を水平に保ちながら垂直方向に正確に移動させるためのガイドロッドであり、5は、垂直方向の移動ストロークを検出し、また、クラッチハウジングの種類を判別する機能を備えたセンサである。
【0023】
スライドベース3の下面には、図1において左右方向に摺動可能なスライドプレート6が取り付けられ、スライドプレート6の下方には、2個のブッシュ圧入ヘッド7、7を有する圧入ヘッド保持体と、2個のかしめヘッド8、8を有するかしめヘッド保持体がボルトによって固着される。クラッチハウジングには、シフトロッド支持孔が2ヶ所設けてあり、それぞれの支持孔にブッシュが圧入され、かしめ加工が施されるが、ブッシュの圧入時においては圧入ヘッド保持体がクラッチハウジングの真上となるよう、またかしめ加工時においてはかしめヘッド保持体が真上となる(図1の実線位置)よう、シリンダ9(図2)によってスライドプレート6を左右方向に摺動させる。
【0024】
かしめヘッド8によってかしめ加工を施す際の加工部分の詳細を図1の拡大図に示す。かしめ加工時には、かしめヘッド保持体をクラッチハウジングの真上に移動させ、さらに、ブッシュが圧入されたシフトロッド支持孔が正確にかしめヘッド8に対向するようにクラッチハウジングの位置決めを行う。その後、油圧シリンダ2によってスライドベース3を下降して、かしめヘッド8の最下方に組み付けられたコレット10の案内部をブッシュに挿入し、かしめ刃11をかしめ面であるクラッチハウジング表面の直近に位置させる。そして、スライドベース3を僅かに下降することにより、かしめ刃11はブッシュの周囲のクラッチハウジングを少量だけ変形させ、かしめ加工が完了する。なお、かしめヘッド8におけるコレット10、かしめ刃11等の詳しい構造については後述することとする。
【0025】
次いで、2個のかしめヘッド8、8を有する本発明のかしめ装置のかしめヘッド作動装置について、図3乃至図11に基づいて説明する。図3は、図1におけるかしめヘッド8、8及びかしめヘッド保持体の要部を表す一部断面図、図4はかしめヘッド保持体のホルダ12に揺動リンク13及び支持ピン14等を組み付けたときの平面図となっている。
【0026】
ホルダ12には、図6に示すように、ホルダ12を貫通するヘッド装着孔15、15が縦方向に2個穿設され、この中にかしめヘッド8、8のヘッド本体16、16がそれぞれ嵌め込まれる。また、中央のピン挿入孔17及び両側の支持ピン挿入孔18、18が横方向にホルダ12を貫通しており、その中の両側の支持ピン挿入孔18,18は中央のものよりも径が少しばかり大きくなっている。ホルダ12の上方には、表面に開口する軸方向の溝19が全長に亘って形成され、その中に、かしめヘッド8、8の高さ、すなわちかしめ面とかしめ刃11との距離、を調整するカムの作用をなすスライドブロック20が摺動可能に挿入される。ホルダ12には、スライドブロック20を左右に摺動させるための空気圧シリンダ21(図1)が支持台を介して取り付けてある。このホルダ12は、中間部材を介して最終的にはスライドプレート6にボルト等を用いて固定される。
【0027】
ヘッド装着孔15、15内に嵌め込まれるヘッド本体16、16は、図8に示すように、その上方の側面の一部が切除され平面を形成しており、そこに支持ピン14、14の挿入孔22が穿孔されている。支持ピン14、14は、図4及び図5に表されるように、ヘッド本体の挿入孔22及びホルダ12の支持ピン挿入孔18、18を貫通し、さらに、ホルダ12の両側部に配置された揺動リンク13(図9参照)の孔を貫通して、ボルト23によって組み付けられている。また、揺動リンク13の揺動中心となるピン24は、ホルダ12と揺動リンク13を貫通し、やはり支持ピン14と同様な形態で取り付けられる。ヘッド本体16、16の上方に配置されるスライドブロック20は、図7に示すように、その下部の中央部分が凹部となっており、両端にはカムとして働く凸部29が形成される。
【0028】
ヘッド本体16の下部にはかしめ刃11が装着されるが、これは、図5に示すとおり、斜面を形成したコレット10の軸部をヘッド本体の下端部の中央に設けた孔25に挿入し、横方向からボルト26を締め付けることにより装着される。刃部27を備えたかしめ刃11、かしめ加工時にブッシュ内に挿入される案内部28を備えたコレット10の詳細な構造については、図10、図11にそれぞれ示されている。
【0029】
上記のように構成されたかしめ作動機構の作動について説明する。ブッシュ圧入ヘッド7によってブッシュが圧入された後、かしめヘッド8がシフトロッド支持孔の直上に位置するよう位置決めされる。このときは、空気圧シリンダ21によってスライドブロック20は、図1(又は図3)において左方向に移動し実線の位置にある。スライドブロック20の凸部29は、右側のヘッド本体16の上にあるので右側のヘッド本体はこれによって押し下げられる。ヘッド本体16に挿入された支持ピン14も押し下げられるが、支持ピンは揺動リンク13に嵌っており、揺動リンクは、中央の支持ピン24の周りに時計方向に僅かに回転し、左側の支持ピン14を介して左側のヘッド本体16を上昇させる。左側のヘッド本体16の上方には、スライドブロック20の凹部が位置しているのでその上昇が可能となり、左右のヘッド本体16、16におけるかしめ刃11の高さには2mm程度の差D(図3)が生じる。つまり、かしめ刃11とかしめ面との距離は、Dの分、右側のかしめヘッド8のほうが左側よりも短いこととなる。
【0030】
この状態で油圧シリンダ2によってかしめヘッド保持体を下降させると、右側のヘッド本体16に装着されたコレット10の先端の案内部28はブッシュに入り込み、図1の拡大図に示されるとおり、かしめ刃11はかしめ面であるクラッチハウジング表面の直近に位置する。一方、左側のヘッド本体16に装着されたかしめ刃11は、高さの差に相当する分、高い所に位置する。その後、さらに油圧シリンダを1mm程度の少量下降させることにより、右側のかしめ刃11のみでブッシュのかしめ加工が実施され、左側のかしめ刃11は加工面と接触することはない。
【0031】
右側のブッシュのかしめ加工が終了すると、油圧シリンダ2によりかしめヘッド保持体を上昇させ、同時に空気圧シリンダ21によってスライドブロック20を右に移動させる。すると、左側のヘッド本体16がスライドブロック20の左側の凸部29で押し下げられ、揺動リンク13が反時計回りに回転して、右側のヘッド本体16はスライドブロック20の凹部に入り込むよう引き上げられる。その後、右側のブッシュのかしめ加工と同様な手順によって、左側のブッシュのかしめ加工が行われる。
【0032】
上述のように、本発明のかしめ作動装置においては、複数のかしめ個所に対応して配置されたかしめヘッド8、8を、単独に順次作動させてかしめ加工を実施する。したがって、複数のかしめ個所に高さの差が存在したとしても、それに応じて垂直方向のストロークを調整し適切な加工を行うことができる。これに対し、複数のかしめヘッドを同時に同一のストローク移動してかしめ加工を行ったときは、かしめ個所の高さに差がある場合には、かしめ加工の加工量に差が生じる。かしめ加工の量が過大であるとかしめ個所の周辺に過度の残留応力が発生したりブッシュの内径が変化する恐れがあり、また、不足したときはブッシュが脱落する恐れがある。
【0033】
そして、複数のかしめヘッドの切り換えはカム面を有するスライドブロックの移動によって行われる。単一のかしめヘッドを複数のかしめ個所に移動するものと比べると、移動する距離は短く、そのため、空気圧シリンダ等の装置は小型となり、加工時間も短縮することができる。
【0034】
本発明のかしめ装置におけるかしめヘッドの作動装置の別実施例を図12に示す。この別実施例は、3個所のかしめ個所に対応した3個のかしめヘッドを有し、かしめヘッドの上方に設置したカム軸を回転させることによって、かしめ加工を行うかしめヘッドを切り換えるようにしたものである。
【0035】
かしめヘッドのホルダ112に穿孔されたヘッド本体116の挿入孔115は、上方の径が拡大された段付き孔となっている。これに嵌め込まれるヘッド本体116の上部もやはり径が拡大されており、挿入孔115の段付き部とヘッド本体116の径の拡大部との間には、ばね130が配置されている。また、ヘッド本体116の上方のホルダ112には、長手方向の長孔119が設けてあり、この中にカム軸120が収納される。カム軸120の両端には軸受け部122が形成され、この部分は長孔119に軸受けされる。さらに、カム軸120には、ヘッド本体116と対応する位置に3個のカムローブ123が形成されており、カム軸のA−A断面矢視図から明らかなように、これらのカムローブ123は90°ずつ離れた角度位置に配置されている。
【0036】
カム軸120の延長部には、サーボモータ等の回転式アクチュエータ121が取り付けられ、これはホルダ112に固定される。図示の角度位置においては、右端のヘッド本体116がカムローブ123によって押し下げられ、他の2個のヘッド本体はばね130の作用でカム軸120の軸部に当接するまで押し上げられる。この状態で、油圧シリンダ2によってホルダ112を下降させると、右端のヘッド本体116に装着されたかしめ刃により、対応するかしめ個所の加工が行われる。次いで、カム軸120を90°回転させると、中央のヘッド本体116が押し下げられ、逆に90°回転させることにより左端のヘッド本体116が押し下げられることとなり、順次対応するかしめ個所の加工を実施することができる。
【0037】
この別実施例の作動装置では、揺動リンク13あるいは支持ピン14等を用いることなく、カム軸120及びばね130によりヘッド本体の高さ、すなわちかしめ面とかしめ刃との距離を異ならせることが可能である。したがって、かしめ個所が2ヶ所以上であっても、対応するかしめヘッドをそれぞれ配置し、独立してかしめ加工を施すことができる。なお、図12のA−A断面矢視図において2点鎖線で示す角度位置に、全てのヘッド本体116に対応してカムローブ124を設けると、回転式アクチュエータ121によりカム軸120を回転させて3個のヘッド本体116を同時に押し下げ、かしめ面とかしめ刃との距離を均一とすることが可能となる。このように構成すれば、複数のかしめ個所を同時に加工するかしめ装置としても利用することができ、さらに利便性が向上したものとなる。
【0038】
以上詳述したように、本発明は、複数のかしめ個所に対応する複数のかしめヘッドを配置し、さらに、カム装置によって順次かしめヘッドを切り換えて、かしめ個所を1個所ずつ加工するものである。よって、本発明が、かしめ専用のかしめヘッドのみならず、かしめと圧入を同時に行うヘッドに対しても適用可能であることは明らかである。また、カム装置としては、例えばカム突起を設けた円板を回転させるディスクカム等、各種のカムを使用することができることも自明であり、揺動リンク13と支持ピン14とを配した請求項2の発明のカム装置として別実施例のカム軸120のごとき回転式のものを使用することも、もちろん可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に基づくかしめ装置の正面図である。
【図2】本発明に基づくかしめ装置の側面図である。
【図3】本発明のかしめヘッドの作動装置を示す一部断面図である。
【図4】本発明のかしめヘッドの連結機構を示す平面図である。
【図5】本発明のかしめヘッドの組立図である。
【図6】本発明のかしめヘッドのホルダを示す図である。
【図7】本発明のスライドブロックを示す図である。
【図8】本発明のかしめヘッドのヘッド本体を示す図である。
【図9】本発明の揺動リンクを示す図である。
【図10】本発明のかしめ刃を示す図である。
【図11】本発明のコレットを示す図である。
【図12】本発明の作動装置の別実施例を示す図である。
【図13】従来のかしめ装置の側面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 基台
2 油圧シリンダ
3 スライドベース
6 スライドプレート
7 圧入ヘッド
8 かしめヘッド
10 コレット
11 かしめ刃
12、112 ホルダ
13 揺動リンク
14 支持ピン
16、116 ヘッド本体
19 溝
20 スライドブロック
21 空気圧シリンダ
120 カム軸
121 回転式アクチュエータ
130 ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械部品に穿孔された複数の孔に挿入される物品をかしめて固定するかしめ装置において、
前記かしめ装置は、前記複数の孔の位置に対応するように配置された複数のかしめヘッド(8)を有し、前記複数のかしめヘッド(8)にはかしめ面にかしめ加工を施すかしめ刃(11)がそれぞれ装着されており、かつ、
前記かしめ装置は、前記複数のかしめヘッド(8)の各々について、前記かしめ刃(11)と前記かしめ面との距離が他のかしめヘッドに対して異なるよう移動させるカム装置を備えていることを特徴とするかしめ装置。
【請求項2】
前記かしめ装置は、2個のかしめヘッド(8)を有し、それぞれのかしめヘッド(8)は支持ピン(14)及び揺動リンク(13)を介して相互に連結されており、前記カム装置により一方のかしめヘッドを移動させたときには、揺動リンク(13)の揺動に伴い他方のかしめヘッドが反対方向に移動する請求項1に記載のかしめ装置。
【請求項3】
前記複数のかしめヘッド(8)は、径が拡大された拡大部を有するとともにその下部にはばね(130)が配置されており、前記カム装置により単一のかしめヘッドを移動させる請求項1に記載のかしめ装置。
【請求項4】
前記カム装置は、下面に凹部が形成された板状のスライドブロック(20)を有し、これを摺動させることにより、前記かしめヘッド(8)を移動させる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のかしめ装置。
【請求項5】
前記カム装置は、前記複数のかしめヘッド(8)に対応する位置にカムローブ(123)を備えたカム軸(120)を有し、これを回転させることにより、前記かしめヘッド(8)を移動させる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のかしめ装置。
【請求項6】
前記カム軸(120)は、同一の角度位置であってかつ全てのかしめヘッドに対応する位置にカムローブ(124)が形成され、全てのかしめヘッド(8)について前記かしめ刃(11)と前記かしめ面との距離を同一とすることが可能なように構成された請求項5に記載のかしめ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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