説明

かぜの予防および治療用組成物

【課題】 かぜの予防および/または治療用組成物、特に鼻かぜの症状の予防および/または治療のため治療用組成物を提供する。
【解決手段】 本発明によるかぜの予防および/または治療用組成物はシスタス抽出物を含んでなる。かぜ、特にライノウイルス、アデノウイルスまたはコロナウイルスにより引き起こされる一次感染にも有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かぜ(common cold diseases)(ウイルスかぜ)の予防および/もしくは治療用組成物または製剤を製造するためのシスタス(Cistus)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的なかぜには、鼻かぜ、扁桃腺炎および咽頭炎ばかりでなく、咳および気管支炎などの気道感染が含まれる。通例これらは交互に生じるが、かぜはまた、鼻、咽頭または気管支のみにとどまる場合もある。この種のかぜは"ウイルスかぜ"とも呼ばれる。かなり長期でより重篤な疾患の進行を示し、一般に発熱を伴う、インフルエンザウイルスにより引き起こされるインフルエンザとこれらとは混同されない。
【0003】
上記のかぜも同様にウイルスによって引き起こされる。鼻かぜを引き起こしうる、例えば100を超える種々のウイルスが存在するため、そられに対するワクチンを開発することはほとんど不可能である。従って、一般に、鼻かぜまたはかぜの治療は症状を緩和することに向けられる。通例多くの試練に耐えた家庭療法がこれらの場合に用いられる。例えば、強い鼻閉塞は高温蒸気の吸入により改善されることができる。それにより、鼻粘膜の腫れは引き、粘液の排出は促進される。このことは、例えば、熱水にティーツリーオイルまたはカモミールオイルを数滴加えることにより促進されうる。生理食塩水で鼻をルーチンに洗浄することにより、鼻かぜに対する罹病性を低下させうることもまた知られている。
【0004】
自助処置に加えて、医薬は、腫れた鼻粘膜内の血管の収縮を助け、鼻粘膜の平滑化をもたらすことができる。しかしながら、鼻粘膜の腫れを低下させるための点鼻薬は、2日または3日を越えて使用すべきではない。この期間の後、滴剤が中止されるとき、鼻粘膜はますます腫れ、“半跳性腫脹(rebound swelling)”(薬物性鼻炎)が生じる恐れがある。
【0005】
化学合成点鼻スプレーとは異なり、植物医薬はほとんど副作用を示さない。長期間使用される場合であっても、鼻粘膜に障害を与えず、薬物性鼻炎を生じない。植物医薬の投与が早ければ早いほど、植物医薬はより効果的である。植物医薬は、かぜの最初の徴候における処置として早くに使用しうる。植物医薬はまた、感染の拡大を妨げる。
【0006】
例えば、しばしばエキナセア(echinacea)製剤がかぜのために服用されるが、それによって、可変性の植物化学組成物での大変多数の種々の医薬が市販されている。しかしながら、これらの植物療法薬の有効性に関する比較試験は、わずかに限定的に存在し、しかもその結果は矛盾している。しかしながら、ごく最近、新規な研究により、エキナセアは想定された有効性を有さないことが明らかとなった。種々の植物化学プロフィールを有する3つのエキナセア製剤を用いてこれらの試験がなされたが、これらの製剤はエキナセア・アングスティフォリア(E.-angustifolia)根部を二酸化炭素、60%エタノールまたは20%エタノールで抽出することにより得られた。この試験に参加した全部で437名のライノウイルス感染ボランティアには、ウイルスへの暴露の7日前に予防のために、あるいは暴露時における治療のために医薬を摂取させた。この試験には、プラセボを摂取させた対照群を含めた。感染率、症状の重症度、鼻腔分泌量、白血球濃度、鼻洗浄水中のインターロイキン-8濃度または定量的ウイルス力価に関しては、3つのエキナセア抽出物およびプラセボ間に有意差はなかった(Deutsches Arzteblatt 102, Issue 48 from 2 December 2005, page A-3341 / B-2822 / C-2640 and the New England Journal of Medicine, 2005, 353, 341-348)。
【0007】
植物ベースのさらなる医薬には、ウンカロアボ(Umckaloabo)(登録商標)の名称で市販されている、ペラルゴニウム・レニフォルメ(Pelargonium eniforme)またはシドイデス(sidoides)の根部からの抽出物がある。ウンカロアボ(登録商標)は、伝統的に気道疾患ばかりでなく胃腸疾患にも用いられている。有効性を決定する成分は、現在のところ、いくつかの抗菌剤ならびにクマリンおよびタンニンなどの免疫調節成分であると考えられている。この抽出物は、抗菌、抗ウイルスおよび分泌溶解作用を発揮すると考えられるが、この分野において未だに十分な経験が得ることができていないため、妊婦もしくは授乳婦または、肝臓もしくは腎疾患または出血傾向の増強した患者はこの医薬を使用すべきではない。さらに、ウンカロアボ(登録商標)は、他の植物医薬と比較して大変高価である。
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明の目的は、かぜ(ウイルスかぜ)の抗ウイルス性予防および/または治療用組成物であって、前記組成物が経済的に製造でき、投与されたとき副作用を全然もたらさないかまたは少しの副作用しかもたらさない前記組成物を提供することである。
【0009】
かぜ(ウイルスかぜ)の予防および/または治療用組成物を製造するためのシスタスの使用により、この目的は解決される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】シスタス抽出物で処理したA549細胞のヨウ化プロピジウム染色を用いる生存率試験の結果を示す図である。
【図2】シスタス抽出物で処理したMDCK細胞のヨウ化プロピジウム染色を用いる生存率試験の結果を示す図である。
【図3】シスタス抽出物で処理したA549細胞のアポトーシス試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、かぜは気道(一般的に鼻、咽頭、喉頭、気管および気管支を意味する)の炎症と理解される。この場合は、用語"かぜ"および"ウイルスかぜ"は同意語として使用される。ウイルスかぜは、インフルエンザがインフルエンザウイルスによってのみ引き起こされるという点でインフルエンザとは区別される。
【0012】
一方、ウイルスかぜは通例アデノウイルス、コロナウイルスおよび/またはライノウイルスによって引き起こされる。
【0013】
アデノウイルス(アデノウイルス科(Adenoviridae))は、エンベロープを持たない立方体のDNAウイルスのファミリーに属し、直径60〜90nmを有する。そのゲノムは、おおよそ36kbの長さの直鎖状二本鎖DNAからなる。おおよそ50の免疫学的に区別できるアデノウイルス型に区別され、亜族A〜Fにおいておおよそ35のヒト病原型が存在する。アデノウイルス科ファミリーは、マストアデノウイルス属(Mastadenovirus)(哺乳動物に感染できる)およびアビアデノウイルス属(Aviadenovirus)(種々の鳥類に特有である)などの属に分割される。アデノウイルスは、化学的および物理的影響下における異常な安定性により特徴付けられ、最も不利なpHレベルに耐性を示し、このことにより宿主の身体外での比較的長い生存期間が可能となる。
【0014】
アデノウイルスは、主として気道疾患を引き起こす。しかしながら、特定の血清型に応じていくつかの他の疾患、例えば、胃腸炎、結膜炎、膀胱炎、咽頭炎または下痢もまた引き起こされる可能性がある。アデノウイルスにより引き起こされる気道疾患の症状は、かぜから気管支炎さらに肺炎にわたる。免疫系が弱まった患者の場合、アデノウイルス感染、例えばARDS(急性呼吸窮迫症候群)などによる重篤な合併症に対する特別な罹病性が存在する。さらにまた、ウイルス型Ad-36とヒトの肥満との相関関係が存在することが推測されている。
【0015】
コロナウイルスは、コロナウイルス科(Coronaviridae)の属に属し、一般に、ヒトの上気道の軽い疾患、まれな胃腸炎および、SARS関連コロナウイルスであるSARS-CoVにより引き起こされる重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こす。
【0016】
コロナウイルスは、エンベロープを有し多形性を示すRNAウイルスのファミリーに分類され、直径70〜160nmを有する。コロナウイルスは、20〜30kbの長さの一本鎖プラスセンスRNAを有する。コロナウイルス科の属は3つの属:コロナウイルス属(coronavirus)、アルテリウイルス属(arterivirus)およびトロウイルス属(torovirus)に分割される。これらの中でコロナウイルス属のみがヒト病原性ウイルスを含む。このウイルスの伝播は、汚物もしくはスメア感染(糞便/経口)として飛沫感染(ガス産生性)により起こり、あるいは感染者との単純な接触(機械的)によってさえも起こる。この場合、若い感染生物の方が、年上の感染生物よりもより重症になる可能性がある。コロナウイルスはヒトのかぜの15〜30%を引き起こし、軽い発熱、鼻かぜ、咳および咽頭痛を生じる。
【0017】
感染性の、アレルギー性および非アレルギー性機構により引き起こされる、痒み、くしゃみ、分泌および鼻づまりの症状を伴う鼻粘膜の急性または慢性の刺激は鼻炎、鼻カタル、感冒と呼ばれ、日常会話では鼻かぜと呼ばれる。病原体は、通例ピコルナウイルス属〜ライノウイルス属である。ライノウイルス感染は、直接伝播、例えば、汚染された手または飛沫感染によって起こる。
【0018】
今までに、この属に属する115を超える血清型が同定されている。ライノウイルスは、7.2〜8.5kbの長さの一本鎖プラスセンスRNA(メッセンジャーRNA)を有する。これらは二十面体構造を有し、直径24〜30nmのネイキッド(naked)ウイルスである。RNAを取り囲む厚さ10〜15nmのタンパク質エンベロープ(キャプシド)は、プロトマーと呼ばれる60の対称的に配置されたサブユニットからなる。各プロトマーは、4つのキャプシドタンパク質VP1、VP2、VP3およびVP4からなる。多数のプロトマーは、ライノウイルスの抗原多様性の原因であると考えられている。
【0019】
すでに述べたように、かぜは通例アデノウイルス、コロナウイルスおよび/またはライノウイルスにより引き起こされる。感染ウイルスの型に応じて、かぜの愁訴、例えば鼻かぜ、咳、嗄れ声、咽頭痛(例えば、扁桃腺および咽頭の炎症により引き起こされる)、関節痛および頭痛、悪寒、軽い発熱ならびに極度疲労などが生じる。本明細書において、気管支炎および気管支肺炎もまたかぜとして勘定に入れる。
【0020】
これらのかぜの中で、冬季の鼻かぜが最も頻度が高い。鼻かぜはライノウイルスの感染により引き起こされ、あるいは頻度は低いがアデノウイルスによって引き起こされる。本明細書に記載の組成物または製剤は、好ましくは、鼻かぜの予防および/または治療用に用いられる。
【0021】
さらにまた、かぜと共に、既存のウイルス感染により"セットアップする"細菌感染が生じうる。この種の感染は、細菌の二次感染または菌交代症と呼ばれる。本発明による組成物の使用は、これらの細菌の二次感染の予防および/または治療にも関する。
【0022】
本発明によれば、ウイルスかぜ感染の予防および/または治療用組成物を製造するためにシスタス植物が用いられる。シスタス属において、20種が知られている:
C.アルビダスL.(C. albidus L.)
C.キナマデンシスBanares & P. Romero(C. chinamadensis Banares & P. Romero)
C.クルシイDunal(C. clusii Dunal)
C.クリスプスL.(C. crispus L.)
C.ヘテロフィルスDesf.(C. heterophyllus Desf.)
C.インカヌス(C. incanus)(C.クレティクス(C. creticus)とも呼ばれる)
C.インフラツスPourr. Ex Demoly(C. inflatus Pourr. Ex Demoly)(C.ヒルスツスLam.( C. hirsutus Lam.)またはC. プシロセパルスSweet(C. psilosepalus Sweet)とも呼ばれる)
C. ラダニフェルL.(C. ladanifer L.)
C. ラウリフォリウスL.(C. laurifolius L.)
C.リバノチスL.(C. libanotis L.)
C. モンスペリエンシスL.(C. monspeliensis L.)
C.ミュンビーPomel(C. munbyi Pomel)
C.オクレアツスChr. Sm. ex Buch(C. ochreatus Chr. Sm. ex Buch)
C.オズベッキーフォリウスWebb ex Christ.(C. osbeckiifolius Webb ex Christ.)
C. パルビフロルスLam.(C. parviflorus Lam.)
C. ポプリフォリウスL.(C. populifolius L.)
C.ポウゾルジーDeute(C. pouzolzii Deute)
C.サルウィーフォリウスL.(C. salviifolius L.)
C.シンテニシィーLitard.(C. sintenisii Litard.)(C. アルバニクスE.F. Warburg ex Heywood(C. albanicus E.F. Warburg ex Heywood)とも呼ばれる)
C. シンフィチフォリウスLam.(C. symphytifolius Lam.)
【0023】
好ましくは、組成物はC.インカヌス種から製造される。C.インカヌスは2つの亜種:C.インカヌス・タウリクス亜種(C. incanus ssp. tauricus)およびC.インカヌス・ウンデュラツス亜種(C. incanus ssp. undulatus)を含む。これらのうち、C.インカヌス・タウリクス亜種は、組成物に用いるのに特に好ましい。
【0024】
シスタス植物の個別の成分は、まだ十分に知られていない。しかしながら、シスタスが高含量のポリフェノールを有することはすでに知られている。これらのポリフェノールのうち、フラボノイドが特に代表的である。
【0025】
フラボノイドは、基本的に、2つの芳香環および1つの含酸素複素環からなる。O-複素環に関する構造上の差異を用いて、フラボノイドを以下の6つの群:フラボノール、フラバノール、フラバノン、フラボン、アントシアニンおよびイソフラバノイドに分割することができる。シスタス植物において検出される成分のいくつかには、フラボノール(例えばケルセチンおよびミリセチンならびにそれらのグリコシド)、フラバン-3-オール(カテキン)(例えば、(+)-ガロカテキンおよび(+)-ガロカテキン-3-O-ガレート)ならびにカテキンの二量体およびオリゴマー(プロアントシアニジン)がある。
【0026】
さらなる成分には、α-ピネン、カンフェンならびにテルペノイド、例えばラブダ-7,13-ジエン-15-オール、8α,15-ラブダンジオール、ラブダノール酸、ラウリフォリン酸、アセチルラウリフォリン酸、8,13-エポキシ-15-ジメトキシ-エント-ラブダン、3a-ヒドロキシ-エント-13-エピマノイルオキシド(=リベノール)、サルマンチ酸、サルマンチジオール、ハリミン酸、ジヒドロハリミン酸、2s-ヒドロキシ-ジヒドロハリミン酸、シスト二酸、シストジオール、エント-カウラン-16,17-ジオール、ジヒドロアビエチン酸メチルエステル、カブラレオンおよび20,25-エポキシ-24-ヒドロキシダンマラン-3-オン[R. Hegnauer、Chemotaxonomie der Pflanzen Vol. VIII S. 1989、246-247]がある。
【0027】
本発明に用いられる組成物は、植物の地上部から製造される。好ましくは、同じ年に成長してもとの長さに戻った植物の地上の苗条が用いられる。植物の地上部のすべての要素、例えば葉、茎または花を使用する事ができる。好ましくは、茎は葉および花と共に用いられる。植物の部分は、乾燥するか、プレスしたものからジュースを作るために、必要に応じて細かく砕いた後、収穫後直ちに(すなわち生の状態で)汁を絞ることができる。他の実施形態において、植物部分は、生の状態で溶媒による抽出、例えば浸漬またはパーコレーションにかけられる。また、植物部分は、乾燥および/またはついで、抽出前に適切な方法で、例えばそれらの摩擦または切断により、小さな破片に砕くこともできる。
【0028】
本発明に用いられる組成物のために、乾燥し、適切な場合には、植物要素を小さな破片に砕いた、圧搾された植物ジュースまたは抽出物が用いられる。本発明によれば、用語"抽出物"は、典型的には溶媒による抽出、例えば浸漬またはパーコレーションにより得られるすべての産物に用いられる。
【0029】
好ましくは、組成物はシスタス植物からの抽出物の形である。
【0030】
一般に、適切な溶媒を用いる抽出が行われる。適切な溶媒には、水、アルコール(例えばメタノール、エタノールまたはイソプロピルアルコール)または塩素化溶媒(例えばジクロロメタン)ばかりでなくアセトン、アセチルアセトン、酢酸エチル、アンモニアまたは氷酢酸があり、超臨界二酸化炭素もある。
【0031】
前記の溶媒の混合物もまた使用できる。好ましくは、水または水とメタノールもしくはエタノールとの混合物が用いられる。抽出は、通常、25℃から適切な場合には使用溶媒の沸点までの温度で行われる。95〜100℃での抽出が好ましい。
【0032】
さらにまた、脂(例えば豚脂)、ワックス(例えば蜜蝋)またはオイル(例えばオリーブ油およびアーモンドオイル)を抽出のために使用できる。好ましくは、アーモンドオイルが用いられる。
【0033】
最大限の収率を得るために、植物材料を多数回抽出する事ができる。この場合は、種々の抽出ステップにおいて異なる溶媒を使用することもできるし、あるいは溶媒による抽出に続いて脂、ワックスまたはオイルによる抽出を行うこともでき、逆もまた同様である。
【0034】
抽出により、液体、半固体または固体の原産物が得られ、これはかぜの予防および/または治療用組成物を製造するためにこの形で使用できる。
【0035】
通常、室温で水およびエタノールの混合物を用いて植物要素に溶媒混合物を注ぎ、この状態に5〜9日間、好ましくは7日間おくことにより、浸漬手順が上記の期間行われる。
【0036】
本発明によれば、植物部分のパーコレーションは、通常、植物部分に水を通じ、95〜100℃で4〜5時間水で部分を処理することにより達成される。
【0037】
溶媒による抽出、例えば浸漬またはパーコレーションから得られる原産物は、使用前に、濃縮および/または乾燥および/またはさらに加工することもできる。さらなる加工は、例えば、抽出物からの浮遊する材料を除去するための、当業者に既知のクリーニングステップ、例えば遠心分離、濾過およびデカンテーションを含むことができる。
【0038】
その後、このようにして得られる抽出物をさらに乾燥抽出物に加工することができる。乾燥抽出物を製造するために、例えば、噴霧乾燥、凍結乾燥または真空乾燥により、液体生抽出物、濃縮抽出物または精製抽出物から溶媒を除去する事ができる。
【0039】
シスタス植物からの組成物は、前述の形態のそれぞれで、かぜの予防および/または治療のために用いることができる。
【0040】
本組成物は、好ましくは、ライノウイルス、アデノウイルスまたはコロナウイルスにより引き起こされるかぜの予防および/または治療のために用いられる。
【0041】
従って、本発明による組成物は医薬として投与できる。治療用途に加えて、本組成物はかぜの非治療的予防および/または治療にも適している。
【0042】
医療用途および非医療用途の両方のために、当業者に既知の投与形態のそれぞれで、例えば錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル、粉末剤、顆粒、糖衣錠、軟膏、クリーム、ゲル、溶液またはスプレーで本組成物を投与できる。
【0043】
生薬および他の投与形態において、本組成物は通例の生薬補助剤、例えば、錠剤結合剤、充填剤、保存剤、錠剤開封剤、流量調節剤、軟化剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、溶媒、遅延剤、抗酸化剤、コンシステンシー調節剤、浸透改善剤および/または噴射ガスを用いて加工することができる。
【0044】
ビタミンおよびミネラルなどのさらなる要素を、本発明に用いられる組成物に添加することができる。
【0045】
本組成物は、例えば、動物飼料または食品(飲料など)に加えることができる。抽出物の形で組成物自体を茶として煎じることもできる。しかしながら、茶製剤として、植物部分、例えばシスタス植物の葉に直接に熱水を注ぐことも可能である。さらにまた、組成物は、冬季における摂取により体の防御の強化に寄与することができ、その結果として例えば鼻かぜ感染の予防に寄与する事ができる食物サプリメントの成分であることができる。
【0046】
他の実施形態において、本組成物は、溶液、特に、うがい液としてかぜ、特に口および咽頭内の炎症の予防および/または治療のために本発明に使用できる。
【0047】
本組成物はまた、他の植物の成分と混合して使用でき、この場合、該成分は好ましくは植物抽出物の形である。好ましくは、類似効果または相乗効果を有する植物または植物抽出物の成分が用いられる。
【0048】
投与形態における組成物の濃度は、投与の型に応じて変化する。一般的に、組成物の量は、固体投与形態に関する投与単位あたり0.5〜1,000mgの範囲である。好ましくは、組成物の量は単位あたり1〜500mgの範囲である。液体投与形態において、組成物は1μg/ml〜100mg/mlの濃度であることができ、好ましくは25μg/ml〜50mg/mlの濃度であることができる。半固体投与形態において、組成物の含有量は1〜90重量%の範囲であり、好ましくは5〜75重量%の範囲である。
【0049】
好ましくは、本組成物は錠剤の形で投与される。この場合は、組成物が抽出物の形であることが好ましい。最も特に好ましくは、組成物は乾燥抽出物の形である。
【0050】
局所投与のためには、組成物はエマルジョン、軟膏、ゲルまたはクリームの形で投与されることがさらに好ましい。この場合は、組成物は、好ましくは、脂、ワックスまたはオイルを用いる抽出により植物から活性物質を回収した抽出物の形で用いられる。この抽出物をさらに加工して乾燥抽出物にし、ついでそれを脂、ワックスまたはオイルと混合しまたはそれらに溶解することがさらに好ましい。
【0051】
さらにまた、組成物がエアゾールまたはルームスプレー(room spray)の形であることが好ましい。好ましくは、このために、シスタスの液体または固体抽出物が用いられる。抽出物に加えて、エアゾールまたはルームスプレー容器はまた、薬学的に無害な物質、担体および助剤を含むことができる。エアゾールまたはルームスプレーは、かぜウイルスと接触するまたは接触する可能性がある物体または部屋、特に人々、動物および/または食品を輸送するすべての型の輸送手段を消毒するために使用できる。例えば、かぜウイルスの蔓延を予防し、その結果として人々の感染のリスクを最小化するために、離陸の前に本発明によるエアゾールまたは本発明によるルームスプレーを用いて飛行機にスプレーをかけることができる。人々に何ら毒作用を示さないので、エアゾールまたはルームスプレー容器は、人々の存在下で、例えば待合室においてスプレーすることができる。
【0052】
さらにまた、本組成物はまた、点鼻薬(nasal agent)または吸入液としても投与できる。点鼻薬は点鼻スプレーまたは点鼻ゲルとして使用できる。投与のために、種々の塗布器および分散システムを使用する事ができる。本発明によるシスタスの使用は、人々に限定されるものではなく、動物、特に哺乳動物、例えばペットまたは家畜にも可能である。
【0053】
以下の実施例により本発明を詳細に説明する。
【0054】
シスタス抽出物を、その細胞毒性および細胞生存率ばかりでなく、ライノウイルスに対するその抗ウイルス活性に関しても試験した。この目的のために、抽出物を加熱しながら(1h/100℃)PBS(滅菌)に溶解した(ストック溶液1mg/ml)。in vitro試験のための用量は、100μg/ml系であった。
ウイルス分離株としてヒトライノウイルス14型を用いた。
宿主細胞株としてHeLa細胞(ヒト子宮頚癌細胞株)を用いた。
【0055】
抽出物の特性を決定するために、以下の試験方法を用いた。
顕微鏡検査
顕微鏡検査において、A549肺上皮細胞およびMDCK(Madin-Darby Canine Kidney細胞)イヌ腎臓上皮細胞を、種々の期間(9h、24h、32h、48h)、種々の濃度の抽出物(2、10、25、50μg/ml)を用いて処理し、ついで光学顕微鏡で試験した。試験は2回チェックした。
【0056】
生存率試験
生存率試験において、A549肺上皮細胞およびMDCKイヌ腎臓上皮細胞を、種々の期間(24h、48h、56h、72h)、種々の濃度の抽出物(2、10、25、50μg/ml)を用いて処理し、ついで、フローサイトメトリーを用いて死細胞対生細胞の関係を決定するためにヨウ化プロピジウムで染色した。実験を全部で4回行った。
【0057】
アポトーシスによるカスパーゼ活性化試験
アポトーシスによるカスパーゼ活性化を試験するために、25および50μg/mlの抽出物で、A549細胞を48時間処理した。ついで細胞を溶解し、ゲル電気泳動を用いて細胞タンパク質を分離し、抗PARP抗体(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(カスパーゼ基質))を用い、ウェスタンブロットにおいて、アポトーシスによるによるこのタンパク質のカスパーゼによる切断を試験した。アポトーシス誘導剤であるスタウロスポリンを陽性対照刺激剤として用いた。実験は2つの平行バッチで行った。
【0058】
実施例
シスタス・インカヌス・タウリクス亜種からの抽出物の製造
抽出には、再生した地上の苗条(葉、花および茎)が用いられる。戸外の日陰において、室温で残留水分含有量が最大でも10%になるまで植物材料を室温で乾燥する。続いて、植物部分を≦8mmのサイズに切断する。
【0059】
切断された植物部分を、10倍量の精製水Ph.Eur.を用い、95〜100℃で4〜5時間パーコレーションにかける。得られる溶液を、蒸気温度75〜80℃でプレート式エバポレーターにより元の容量の18〜19%に濃縮する。乾燥物質の含有量はおおよそ45%に達する。
【0060】
撹拌機付きのエバポレーターを用いる場合、減圧(0.6バール)、110〜114℃で4時間抽出物を加熱することにより、乾燥物質の含有量は50〜51%に増大する。続いて、おおよそ53%の乾燥物質を得るために、抽出物を100.3℃で1時間煮沸する。
【0061】
最後に、下降温度勾配(140℃、120℃、90℃、20℃)を用い、16mbarで真空ベルト乾燥を行う。乾燥物質の含有量は92〜93%に達する。続いて、抽出物をすりつぶす。次いで、この抽出物から前記のストック溶液を作製する。
【0062】
顕微鏡検査
MDCK細胞およびA549細胞を用いる試験シリーズの顕微鏡画像において、未処理の対照試料と比較して、用いた抽出物濃度および試験した時間値のいずれにおいても、細胞数および細胞形態に関して有意な変化は認められなかった。
【0063】
生存率試験
生存率試験の結果を図1および2に示す。図において、比較のために、試料のそれぞれからの生存細胞数が、4回の測定値の平均値として概要で示されている。72時間の全観察時間を通じての結果において、MDCKまたはA549細胞の生存率に対する抽出物の悪影響は検出できなかった。
【0064】
アポトーシスによるカスパーゼ活性化の試験
図3において、アポトーシスによるカスパーゼ活性化の試験結果を示す。図においては、カスパーゼ活性を測定するためのウェスタンブロット分析の結果が示されている。対照刺激剤であるスタウロスポリン(Stauro)はカスパーゼ基質ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼの効率的切断をもたらすが(切断PARPレーン)、未処理(mock)または抽出物処理細胞(25μg/ml、50μg/ml)のいずれにおいても、このような活性は見られない。均一なタンパク質負荷に対する対照として、タンパク質ERK2に対する対照ブロットを用いた。その結果、使用濃度および観察期間において、植物抽出物を用いる処理はカスパーゼ活性化およびアポトーシス誘導をもたらさなかったと結論付けられた。
【0065】
シスタス抽出物で処理した細胞の形態、生存率およびカスパーゼ活性化の試験により、50μg/mlまでの濃度の抽出物は、本明細書に用いたA549およびMDCK宿主細胞に対する有意な毒作用を示さず、壊死またはアポトーシスによる細胞死の増加を誘導しないことが示されている。さらにまた、細胞数の有意の減少は検出できなかったので、細胞増殖もまた抽出物の効果では抑制されていない。
【0066】
抗ウイルス活性試験
ライノウイルス培養
HeLa細胞が80%集密的になった4つのT175フラスコにヒトライノウイルス14型(HRV)を植え付け、1週間33℃でインキュベートした。これを行うために、HRV14 50μl(ウイルス力価 108/ml TCID(組織培養感染量))を感染培地16ml(DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地)、2%FCS(ウシ胎児血清)、10〜20mM MgCl2)に混合し、各T175に4ml加える。ついで各T175を感染培地10mlで満たし、各T175中に感染培地が14ml存在するようにする。付着細胞が70%溶解し次第、ウイルスを採取する。
【0067】
ライノウイルスの精製
細胞ペレットを除去するために、最初にウイルス上清を3,000rpmで30分間遠心分離する。超遠心機を用い、ショ糖クッション(65%ショ糖水溶液1.5ml、10xPBS(リン酸緩衝化生理食塩水)300μl、水1.2ml)上、35,000rpm(ローター型SW41 Ti、 Beckman polyallomerチューブ中)、4℃で3時間ウイルス上清を遠心分離し、ペレットを感染培地100μlに混合する。100kDaカットオフフィルター(Centricon YM100)を用い、4℃、3,300rpmで1時間さらなるウイルス濃縮を行う。保持液は精製ウイルス濃縮物を含んでおり、濾液は捨てる。
【0068】
抗ウイルス活性試験(組織培養感染量(TCID)アッセイ))
前日に、96ウェルプレートのDMEM培地中に5x104HeLa細胞をまき、翌日に細胞がおおよそ70%集密的になるようにする。翌日DMEM培地を吸引して除去し、感染培地(DMEM、2%FCS、10〜20mM MgCl2)90μlに交換する。96ウェルの第1列において、100μg/mlの最高濃度でウイルス含有溶液10μlを用いて感染を起こさせる。上下にピペッティングすることによりこれら100μlを混合した後、それらの10μlを96ウェルの第2列に加える。この手順を後続の列で繰り返す(1:10希釈系列)。同時に2または3バッチを行い、評価のために用いる。
【0069】
このように処理したプレートを、インキュベーター中、33℃で5日間インキュベートする。5日目に、プレートをPBSで少なくとも2回洗浄し、96ウェルあたり100μlのクリスタルバイオレット(純エタノール中0.07%)で5時間染色する。続いてこのプレートを水で洗浄し、数回(おおよそ10回)たたいて乾燥する。青色は生存細胞を示す。死細胞は壁から洗い流されて、白色のバックグラウンドを残す。
【0070】
HRV14の罹病性に対するシスタス抽出物の効果を試験するために、100μg/mlのシスタス抽出物を感染培地に加えるか、または100μg/mlのシスタス抽出物で1時間ウイルスをさらに前処理するかのいずれかを行った。
【0071】
その結果、シスタス抽出物は感染を予防することができ、従って、行ったすべてのバッチにおいて、感染培地およびウイルスのさらなるプレインキュベーション後の両方において、細胞層の破壊を予防する事ができることを確認する事ができた。使用濃度において、シスタス抽出物は細胞に対して何ら検出できる有害な影響を示さなかった。このことは、ライノウイルスの罹病性に対するシスタス抽出物の阻害作用を明らかにしている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かぜの予防および/または治療用組成物を製造するためのシスタスの使用。
【請求項2】
かぜが、ライノウイルス、アデノウイルスまたはコロナウイルスにより引き起こされる一次感染を含む、請求項1記載の使用。
【請求項3】
鼻かぜ治療のための、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
植物がシスタス・インカヌスから選択される、請求項1〜3の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項5】
植物の地上部が用いられる、請求項1〜4の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項6】
組成物が液体形、乾燥形または半固体形である、請求項1〜5の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項7】
組成物が抽出物の形で用いられる、請求項1〜6の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項8】
抽出物が水性抽出物またはアルコール性抽出物である、請求項6または7記載の使用。
【請求項9】
組成物が経口投与または局所投与される、請求項1〜8の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項10】
組成物が点鼻薬または吸入混合物として存在する、請求項1〜9の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項11】
組成物がエアゾールまたはルームスプレーとして存在する、請求項1〜9の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項12】
組成物が錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル、粉末、顆粒または糖衣錠の形で存在する、請求項1〜7および9の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項13】
組成物が軟膏、ゲルまたはクリームの形で存在する、請求項1〜9の少なくとも1つに記載の使用。
【請求項14】
組成物がうがい液または植物ジュースとして存在する、請求項1〜9の少なくとも1つに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−18788(P2013−18788A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230468(P2012−230468)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2009−501885(P2009−501885)の分割
【原出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(508078732)
【Fターム(参考)】