説明

こめ油を含有する化学繊維及びこれを用いた繊維製品

【課題】こめ油を含有する化学繊維及びこれを用いた皮膚の荒れの防止効果を有する繊維製品を提供する。
【解決手段】原料ビスコースにこめ油、γ−オリザノール、フェルラ酸を含む乳化液を混和・紡糸してこめ油含有レーヨン繊維を得る。また、前記こめ油含有レーヨン繊維と綿糸を混紡して織物糸を得、これにより繊維製品を製造する。繊維製品は皮膚に直接触れるものであれば、肌着や靴下、ベビー用品など任意のものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こめ油及びその成分(以下、こめ油成分という)を含有する化学繊維に関し、より詳細にはこめ油成分を含有したレーヨン繊維とこれを用いた繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
空調による乾燥や日光(特に紫外線)等の外的要因、または、個人の体質等の内的要因により皮膚に不快を訴える患者が増えている。このような症状には、皮膚炎のようなものや、あるいは膝や踵等の皮膚角質化が進行して割れが発生するもの等があり、以下皮膚の荒れと称する。皮膚の荒れを防止する方法については、従来より種々な試みがなされている。これらの中でも、患者が日常的に身に着ける衣類等の繊維製品に皮膚の荒れを防止する効果を付与する方法は、手間がかからずかつ長時間に渡って持続的に患部に作用できる高い点で、患部にクリーム状の薬剤を塗布したり、薬液剤を滴下したりする方法と比べて優れている。
【0003】
衣類等の繊維製品に皮膚の荒れを防止する効果を付与するには、繊維製品の原料繊維に皮膚の荒れを防止する効果、例えば保湿効果を有する成分を含有させれば良く、繊維形成後(紡糸後)に液含浸操作等により有効成分を含有させる方法の他、繊維形成前(紡糸前)に有効成分を含有させる方法がある。
【0004】
繊維形成後に有効成分を含有させる前者の方法としては、例えば特開平09−021001号公報中に開示されている方法がある。すなわち、有効成分を綿糸等に含浸、乾燥させた編糸を靴下に編み込むというものである。なお、該公開特許公報に開示されている発明では、有効成分としてムクゲからアルコール抽出したエキスが使用されているが、同様の手法は様々な有効成分につても適用しうるものである。
【0005】
しかし、植物から抽出されるエキスを含浸させた衣類は洗濯によって前記エキスが洗い流される為、効果を喪失してしまう。皮膚の荒れを防止する繊維は皮膚に直接触れる肌着類に適用することが効果が高いものの、肌着類は頻繁に洗濯を繰り返して使用することが通常であるため、該発明品は事実上使い捨てにならざるを得ず、コスト上の大きな課題を有している。
【0006】
一方、繊維形成前に有効成分を含有させる後者の方法によれば、洗濯によって繊維に付与された効果が直ちに喪失しないこと(耐洗濯性)が期待される。このような発明の一例として特開平08−209448号公報中に開示されている方法がある。当該方法は、スクワランという有効成分を繊維の芯部に含有保持させ、その周囲を繊維形成重合体で包囲することで、繊維に付与された有効成分が洗濯によって直ちに洗い流されることを防止している。
【0007】
しかしながら、同発明は繊維の切断面に露出した繊維の芯部から有効成分が徐々に放出される性質(徐放性)を利用したものであるので、繊維の長さを短く切断して使用する用途には有効であるが、長い繊維が必要な用途には向いていない。長い繊維では繊維の断面が少なくなり、有効成分が十分に放出されなくなってしまうからである。
【0008】
長い繊維であっても十分な有効成分の放出を確保できる繊維として、特開平09−119016号公報中に開示されている方法がある。当該方法は、ヒノキチオールという有効成分をメタノール・希アルカリ液の混合溶媒に溶解してビスコースに添加し、凝固再生してレーヨン繊維を得るというものである。この方法で得た繊維はJISL0217−103に従う10回の選択試験後でも選択前とほとんど変わらない効果を発揮することが報告されている。なお、この発明は繊維に抗菌性を付与することを目的としたものであるが、このような手法によれば有効成分の適当な徐放性と高い耐洗濯性を両立できることを示している。
【0009】
有効成分を含有する繊維を得る方法は、特開平09−296321号公報中により詳細に開示されている。当該方法は、ドコサヘキサエン酸(DHA)という有効成分またはこれを含むオイルの粒径が10乃至2000nmである乳化液をビスコースに添加し、混和後紡糸浴で凝固再生してレーヨン繊維を得るというものである。なお、同公報では得られたレーヨン繊維の徐放性や耐洗濯性については特に説明されていないものの、特開平09−119016号公報開示の発明とほぼ同じ製造方法を採用しており、また、得られたレーヨン繊維の用途が衣類である旨の記載があることから、少なくとも有効成分の十分な放出性は確保されているものと想像される。
【0010】
類似の従来技術として、特開2000−192326号公報に開示の発明があり、良好な風合いや染色性を目的としている点では異なるものの、ビスコースにあらかじめ界面活性剤によって乳化した乳化液を混和後紡糸浴で凝固再生してレーヨン繊維を得るという点では同一である。
【0011】
ところで、米糠は皮膚の状態を整える効果に優れることが知られており、従来より入浴時に糠袋で皮膚をこすって洗う等して利用されてきた。前記米糠の効果は、米糠に含まれる油脂類、ビタミン B1、γ−オリザノール等の成分によるものと考えられる。具体的には、油脂類による皮膚表面の皮膚の乾燥防止効果や、ビタミンB1・γ−オリザノールの血行促進効果が皮膚の荒れの防止、改善に有効に作用するものと考えられる。
【0012】
また、米糠は玄米を精製した際の副産物であり、国産で大量に入手可能な数少ない天然素材である。これが近年の消費者の自然志向・健康志向にも即している為、米糠の有効成分を使用した様々な商品が開発され、市場に流通している。
【0013】
ところが、このような米糠の有効成分を含有する繊維についてはこれまで実用に耐えるものが無かった。
【特許文献1】特開平09−021001号公報
【特許文献2】特開平08−209448号公報
【特許文献3】特開平09−119016号公報
【特許文献4】特開平09−296321号公報
【特許文献5】特開2000−192326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、有効成分としてこめ油及びその成分(以下、こめ油成分という)を含有し、これの徐放性と耐洗濯性を兼ね備えた化学繊維を提供することである。また、こめ油成分を用いた繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、前記米糠の有効成分の効用に着目し、これを含有する繊維を製造し、さらに、これを用いた繊維製品、例えば、肌着等を製造しようと考えた。米糠の有効成分を含有する繊維で作られた肌着等を着用することで皮膚の荒れを防止することができると期待されるからである。しかし、米糠の有効成分を繊維に含有させる為に米糠そのものを繊維に練りこむことは現実的ではない。そもそも繊維原料に混合して紡糸可能な程度に微細に米糠を粉砕することは非常に困難であるし、また、たとえこれを実現できたとしても米糠の有する色が繊維の用途を制限する他、繊維中の米糠が腐敗するなどの問題を生じると想像されるからである。
【0016】
そこで、本願発明者はかかる課題を解決する為鋭意研究の結果、こめ油(米糠油とも呼ばれる)に前記米糠成分が実質的にすべて含まれていることを発見した。こめ油とは、米糠に約10重量%含まれる油脂であり、米糠から抽出されて主に食用として流通している。
【0017】
また、米糠にかえてこめ油を使用すれば前記の様な腐敗の問題を生じないことも発見した。こめ油として油単体の状態に抽出されると、水分や空気(特に酸素)と混ざりにくく細菌が繁殖しがたい為と考えられる。
【0018】
また、こめ油を繊維に含有させる方法自体は、特開2000−192326号公報中に開示されている方法をほぼそのまま使用することができることを見出した。すなわち、こめ油を平均粒径200nm以下程度に乳化分散させ、これをビスコースに添加し、混和後紡糸浴で凝固再生して繊維を得るのである。
【0019】
なお、こめ油に含まれる成分のうち、γ−オリザノールには皮脂分泌促進作用、皮膚温度上昇作用、局所血流量増大作用が認められており、フェルラ酸には紫外線吸収作用、酸化防止作用が認められている。これら作用は、皮膚の荒れの防止等、皮膚状態を良好に保つ上で極めて好ましい作用であり、こめ油に加えてこれら成分をさらに加えることで、皮膚の荒れの防止作用という本発明の効果をより顕著にできる。
【0020】
従って、本発明の課題を解決する為の手段は次の通りである。
【0021】
本発明の第1の課題解決手段は、こめ油を1重量%乃至20重量%含むことを特徴とする化学繊維としている。
【0022】
こめ油を含む化学繊維とすることで、前記の様な皮膚の荒れの防止効果等が得られるのである。こめ油を化学繊維、たとえばポリエステル繊維に含有させると、繊維樹脂中にこめ油が閉じ込められてしまう為、そのままではほとんど繊維からこめ油は放出されない。
【0023】
しかし、これから繊維製品、例えば靴下を製造すると、装用されている際の摩擦などにより徐々に繊維が磨耗することとなり、これにともなって繊維表面に露出したこめ油が放出される。放出されたこめ油の保湿作用等により、患者の皮膚の荒れ等が防止されるのである。靴下の例によれば、患者の歩行時に踵部分や足裏の種子骨部分付近に体重が集中してかかり、特に繊維の磨耗が多くなり、従ってこめ油の放出も多くなるのであるが、このような体重がかかる部位の皮膚は一般に荒れがちであるため好都合である。
【0024】
なお、化学繊維に含有するこめ油の割合が1重量%未満ではこめ油特有の効果がほとんど得られず、逆に20重量%を超えると紡糸自体が困難になり、仮に紡糸したとしても化学繊維の強度が極端に低下する為に実用的でなくなってしまう。従って、化学繊維中のこめ油の割合は1重量%乃至20重量%とすることが好ましい。
【0025】
また、さらに好ましくは化学繊維に含有するこめ油の割合を2.5重量%乃至10重量%とする。こめ油の割合を2.5%以上とするとこめ油特有の効果が顕著となり、これ未満の場合と比較して患者はより効果を実感できる。一方、こめ油の割合を10重量%以上としても効果はほとんど飽和してしまう為、化学繊維製造のコストや容易さを勘案すると、こめ油の割合を10重量%以下とすれば十分なのである。
【0026】
本発明の第2の課題解決手段は、γ−オリザノールを0.1重量%乃至5重量%含むことを特徴とする、本発明の第1の課題解決手段に係る化学繊維としている。
【0027】
γ−オリザノールはこめ油中にもともと含まれている成分であるが、これの有する皮脂分泌促進作用、皮膚温度上昇作用、局所血流量増大作用は皮膚の荒れ等の防止・改善に特に有効である。そこで、こめ油に加えて積極的にγ−オリザノールを化学繊維に含有させることにより、前記効果をますます顕著とすることができるのである。
【0028】
なお、化学繊維に含有するγ−オリザノールの割合は、0.1重量%程度以上でなければ特有の効果が得られにくい。一方、5重量%以上の割合としても効果は飽和してほとんど高まらず、原料コストの増大を招くばかりである。従って、γ−オリザノールの割合は、0.1重量%乃至5重量%とすることが好ましい。
【0029】
また、さらに好ましくは化学繊維に含有するγ−オリザノールの割合を0.5重量%乃至2重量%とする。γ−オリザノールの割合を0.5重量%以上とするとγ−オリザノール特有の効果が顕著となり、これ未満の場合と比較して患者はより効果を実感できる。また、γ−オリザノールの割合が多いほうが効果は大きい傾向があるものの、現実的には1重量%から最大でも2重量%程度の割合で含有していればほとんどの患者が満足できる効果が得られる。また、γ−オリザノールは比較的高価な原料でもあるので、前記の通りの含有割合とすることが好ましいのである。
【0030】
本発明の第3の課題解決手段は、フェルラ酸を0.1重量%乃至5重量%含有することを特徴とする、本発明の第1または第2の課題解決手段に係る化学繊維としている。
【0031】
フェルラ酸もγ−オリザノールと同様、こめ油中にもともと含まれている成分であり、紫外線吸収作用、酸化防止作用を有する。特に紫外線吸収作用は皮膚に有害な紫外線を減ずることで皮膚障害を防止することが期待され、こめ油に加えて積極的にフェルラ酸を化学繊維に含有させることにより、前記効果をますます顕著とするのである。なお、化学繊維に含有するフェルラ酸の割合は、γ−オリザノールの場合と同様に決定している。従って、γ−オリザノールの場合と同じく、好ましくは化学繊維に含有するフェルラ酸の割合を0.5重量%乃至2重量%とする。
【0032】
ところで、フェルラ酸を含有する化学繊維を製造した場合、繊維が端黄褐色を示すことが多い。従って、この着色を目立たなくする為にフェルラ酸を含有する化学繊維は染色して使用することが好ましい。
【0033】
本発明の第4の課題解決手段は、前記化学繊維はレーヨン繊維であることを特徴とする、本発明の第1乃至第3のいずれかの課題解決手段に係る化学繊維としている。
【0034】
レーヨン繊維は、ビスコースを紡糸浴で凝固再生して得るが、凝固再生時の収縮により繊維表面に微細なひだが生成されるとともに、繊維表面が非常に細かい多孔質構造となる。このため、レーヨン繊維表面付近のこめ油粒子と繊維表面とがきわめて細い経路(マイクロチャネル)で接続された構造が多数形成され、該マイクロチャネルを通してこめ油が徐々に放出されることになる。このマイクロチャネルはきわめて細く、こめ油の放出は長期間にわたって継続する、つまり優れた徐放性を奏する。従って、本発明の第4の課題解決手段に係るレーヨン繊維を用いた繊維製品を製造すると、長期間にわたってこめ油特有の効果が発揮される。
【0035】
なお、マイクロチャネルを通じたこめ油の放出であるので、こめ油の放出に繊維の磨耗は必要なく、従って肌着の様に磨耗の生じにくい繊維製品や、あるいは靴下のような磨耗の生じる繊維製品についても通常は磨耗の生じにくい部分でもこめ油特有の効果が得られる。もちろん、磨耗を生じる部分では、これによって繊維内部に閉じ込められてしまっていたこめ油の放出が発生する。係る部位は通常皮膚の荒れ等の生じやすい部位であることが多い為はなはだ好都合である。
【0036】
また、マイクロチャネルを通じたこめ油の放出はいわば毛細管現象による滲み出しによって起こるものであるので、洗濯で洗い落とされるこめ油はレーヨン繊維表面に染み出たもののみであり、マイクロチャネルで繊維表面につながっているこめ油粒子そのものは洗濯によって洗い流されることはない。従って、繰り返し洗濯を行っても本発明特有の効果が持続するという、優れた耐洗濯性が得られる。
【0037】
以上では、こめ油を平均粒径200nm以下に分散した乳化液をビスコースに添加し、前記乳化液とビスコースを混和後紡糸浴で凝固再生して得たレーヨン繊維について説明したが、こめ油に加えてγ−オリザノールを同様に分散・乳化してビスコースに添加してレーヨン繊維を得ても良い。この場合は、γ−オリザノールもこめ油と同時に除放され、特有の効果を奏することになる。フェルラ酸についても同様である。
【0038】
ところで、レーヨン繊維が細い方が重量あたりの表面積が大きくなり、放出されるこめ油の量も多くなる点で好ましい。このため、繊維の直径が概ね20μm以下程度となるようにするとよい。
【0039】
なお、ビスコースとこめ油の混和は、こめ油に乳化剤として界面活性剤を加え、これを水中に乳化させることによって調整した乳化液をビスコースに混合することで行う。界面活性剤は従来より使用されているものを適宜使用することができる。例えば、高級脂肪酸石鹸、高級アルコール硫酸エステルのようなアニオン性界面活性剤や、アルキルアンモニウム塩やベンゼトニウム塩のようなカチオン性界面活性剤を使用することができるがこれに限定されない。ただし、ビスコースは強アルカリ性であり、このような強アルカリ下で安定した乳化状態を維持できる界面活性剤を使用する必要がある。
【0040】
また、乳化液中のこめ油の濃度は、乳化液が安定である限り特に制限は無いものの、通常はこめ油を30重量%程度とすることが乳化液の安定性や乳化の容易性の点から好ましい。なお、こめ油に加えて、γ−オリザノールやフェルラ酸を使用する場合はこれらの総量が30重量%程度になるようにすると良い。例えば、こめ油20重量%、γ−オリザノール5重量%、フェルラ酸5重量%とすることができる。
【0041】
乳化液には、必要に応じて酸化防止剤、防腐剤、帯電防止剤を適宜に添加し使用することができることは、従来より行われている通りである。
【0042】
本発明の第5の課題解決手段は、前記化学繊維は前記こめ油を平均粒径200nm以下に分散した乳化液をビスコースに添加し、前記乳化液とビスコースを混和後紡糸浴で凝固再生して得たレーヨン繊維であることを特徴とする、本発明の第3の課題解決手段に係る化学繊維としている。
【0043】
こめ油を乳化して原料ビスコースに混和し、これを紡糸浴で凝固再生してレーヨン繊維を得る為、レーヨン繊維中に含まれるこめ油粒子の大きさは乳化した際のこめ油粒子の大きさで決まる。こめ油を乳化した際の粒子の平均粒径が大きすぎると、乳化液の安定性が劣るとともに、ビスコースと混和して紡糸する際に濾過性が低く、紡糸すること自体が困難となってしまう。
【0044】
また、大きいこめ油粒子はレーヨン繊維の表面付近でマイクロチャネルによって表面と接続する構造を取り難く、繊維内部に閉じ込められてしまうか、または速やかに外部に放出されてしまって繊維に残留しないかどちらかの状態になりやすい傾向があるために好ましくない。
【0045】
一方、こめ油粒子が小さい場合についての制限は明らかでは無いが、現実にはこめ油の平均粒径を例えば10nm以下に分散させることは極めて困難であり、通常の方法での分散乳化処理ではこめ油粒子が小さすぎることで不都合が発生することはない。
【0046】
本願発明者の研究によれば、こめ油の平均粒径を200nm以下に分散乳化させることで、良好な除放性と少なくとも30回程度の洗濯に耐える耐洗濯性を得ることができるのである。
【0047】
本発明の第6の課題解決手段は、本発明の第4または第5の課題解決手段に係る化学繊維を含むことを特徴とする、繊維製品としている。
【0048】
本発明の第4または第5の課題解決手段に係る化学繊維は、こめ油の除放性と耐洗濯性を有する原料として様々な用途が考えられるものの、特に肌着・靴下・手袋のような衣類やシーツ・枕カバーの様な寝具またはタオルやいすカバーなどの日常的に使用する繊維製品の原料として使用することが好ましい。このような繊維製品の原料として使用すれば、患者が意識せずとも継続的に皮膚にこめ油が供給され続けることとなり、皮膚の荒れの防止・改善に大きな効果をあげうるからである。
【0049】
本発明の第7の課題解決手段は、原料繊維中に本発明の第4または第5の課題解決手段に係る化学繊維を1重量%乃至50重量%を混紡したことを特徴とする糸としている。
【0050】
本発明の第4または第5の課題解決手段に係るこめ油含有化学繊維は、水にぬれた際に強度が大きく低下する他、比較的高価でもあるため、該こめ油含有化学繊維のみを紡績して得た糸で繊維製品を製造することは適切でない場合がある。そこで、強度に優れて比較的安価な繊維とこめ油含有化学繊維を混紡して得た糸を用いて繊維製品を製造するのである。
【0051】
原料繊維中のこめ油含有化学繊維の割合は、少なすぎるとこめ油含有化学繊維特有の効果が不十分となり、多すぎると強度や価格の面で課題を生じる。現実的には、原料繊維中のこめ油含有化学繊維の割合を1重量%乃至50重量%とすることが好ましい。
【0052】
また、比較的の強度を必要とする用途には、好ましくは原料繊維中のこめ油含有化学繊維の割合を1重量%乃至30重量%とするとよい。例えば、靴下の製造に使用する原料糸はこのような一例であり、着用時の大きな力と摩擦に耐える為に原料糸は強靭でなければならない。そこで、原料繊維中のこめ油含有化学繊維の割合を最大30重量%とやや低めに設定して得られる原料糸の強度を確保するのである。一方、肌着類のようにさほど強度が必要とされない用途では、効果を高める為に前記の通り最大50重量%程度まで原料繊維中のこめ油含有化学繊維の割合を高めることができる。
【0053】
また、こめ油含有化学繊維と混紡する繊維としては強度に優れ肌触りの良い綿とすることが好ましい。
【0054】
本発明の第8の課題解決手段は、本発明の第6の課題解決手段に係る糸を含む靴下としている。
【0055】
踵や足底の種子骨周辺部の皮膚は、歩行時に体重のかなりの割合を支えるとともに摩擦にさらされ続けるなどの理由から、もっとも荒れや角質化を起こし易い部位のひとつとなっている。そこで、本発明の第7の課題解決手段に係る糸を含む靴下を着用することで、皮膚の荒れ等の改善に効果を有するこめ油がこれら部位に継続的に作用し、これら症状を改善することが期待される。
【0056】
また、靴下は長時間着用するのみならず、着用中に生じる摩擦によって繊維の磨耗が進行し易い。繊維が磨耗することで、繊維中に閉じ込められたこめ油が放出されることになるので、結果として皮膚の荒れや角質化を起こし易い部位に特に多くのこめ油が放出される。この点でも本発明の第7の課題解決手段に係る糸を含む靴下は大きな効果を奏するのである。
【発明の効果】
【0057】
以上説明したように、本発明に係るこめ油含有化学繊維では、皮膚の荒れの防止に効果を有するこめ油を長時間にわたって放出する徐放性と、これが少なくとも30回程度の洗濯によっても失われない高い耐洗濯性を備えるという利点がある。また、本発明に係るこめ油含有化学繊維を原料繊維中に含む糸を用いて製造した繊維製品、例えば靴下では、着用している患者の皮膚の荒れや角質化を起こし易い部位に多くのこめ油を長期間にわたって放出し続けることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明を一実施例に沿って詳説する。
【実施例1】
【0059】
レーヨン繊維の原料パルプを苛性ソーダに浸漬・圧搾・粉砕し、アルカリセルロースを得る。これに二硫化炭素を反応させてセルロースザンテートを得、これを希釈苛性ソーダで溶解してビスコースを得る。ここで得たビスコースは、セルロース含有率8.6%、苛性ソーダ分5.6%、二硫化炭素2.7%のアルカリ性水溶液である。
【0060】
次に、こめ油、γ−オリザノール、フェルラ酸からなるこめ油成分と乳化剤である界面活性剤を混合し、これにさらに水を加えて撹拌して乳化液を得る。乳化液は、こめ油20%、γ−オリザノール5%、フェルラ酸5%を含むように調整している。なお、既に説明したとおり、乳化液中のこめ油等の油分の平均粒径は200nm以下とすることが好ましい為、混合は高圧乳化分散機による超微粒子化処理を行うことが好ましい。
【0061】
さらに、ビスコース中のセルロースに対してこめ油4重量%、γ−オリザノール1%、フェルラ酸1%となるように、前記ビスコースに前記乳化液をインジェクションを用いてミキサーにて連続混合し、直径60μmの紡糸口金から引き出して以下レーヨンの一般的な製造法により、カット、捲縮、精錬、乾燥し、こめ油成分を含有する直径15μm〜20μm程度のレーヨン繊維を得る。さらに、このこめ油成分を含有するレーヨン繊維30%と綿糸70%を常法にて混紡して織物糸を得、これを用いて靴下を製造した。
【0062】
以上で得られた靴下を無作為に選択した184名の被験者に約1ヶ月間着用してもらった結果、次の結果を得た(なお、小数点以下四捨五入を行っているため、割合の合計は必ずしも100%になっていない)。なお、試験は皮膚の乾燥等が顕在化しやすい冬季(12月〜1月頃)に行っている。
【0063】
(1)足のつやについて: 良くなった12%、少し良くなった53%、変わらない34%
(2)踵等のひび割れについて: 良くなった12%、少し良くなった40%、変わらない47%
【0064】
上記の通り、本発明の実施品である靴下を着用することで、60%を越える被験者が足のつやや踵等のひび割れ症状が改善したと回答しており、本発明の有用性を証明している。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明はこめ油成分含有化学繊維を提供するものであり、これは皮膚の荒れを防止・改善する繊維製品に広く適用できるものである。皮膚に直接触れるものであれば、その荒れの防止・改善効果が有効に作用する為、繊維製品は様々なものとすることが可能である。例えば、肌着、靴下、手袋、ベビー用品、タオル、シーツやトイレカバーなどとすることができる。これらは、日常的に無意識のうちに患者の皮膚に触れて効果を奏するものであるが、患者がより積極的に皮膚に本発明を適用する用途もあり、例えば化粧用品として使用されているいわゆるフェイスマスクを本発明に係るこめ油成分含有化学繊維で製造すると、本発明特有の効果が付与された優れたフェイスマスクを実現できる。また、皮膚への適用ではないが、こめ油成分含有化学繊維を含む布を用いて例えば家具などを磨くと、こめ油の効果で磨いた場所のつやが向上するといった更なる用途も考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
こめ油を1重量%乃至20重量%含むことを特徴とする化学繊維。
【請求項2】
γ−オリザノールを0.1重量%乃至5重量%含むことを特徴とする、請求項1記載の化学繊維。
【請求項3】
フェルラ酸を0.1重量%乃至5重量%含有することを特徴とする、請求項1または請求項2記載の化学繊維。
【請求項4】
前記化学繊維はレーヨン繊維であることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかの請求項記載の化学繊維。
【請求項5】
前記化学繊維は前記こめ油を平均粒径200nm以下に分散した乳化液をビスコースに添加し、前記乳化液とビスコースを混和後紡糸浴で凝固再生して得たレーヨン繊維であることを特徴とする、請求項3記載の化学繊維。
【請求項6】
請求項4または請求項5記載の化学繊維を含むことを特徴とする、繊維製品。
【請求項7】
原料繊維中に請求項4または請求項5記載の化学繊維を1重量%乃至50重量%を混紡したことを特徴とする、糸。
【請求項8】
請求項6記載の糸を含むことを特徴とする、靴下。

【公開番号】特開2007−314914(P2007−314914A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−146025(P2006−146025)
【出願日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(596040149)株式会社鈴木靴下 (3)
【Fターム(参考)】