し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法
【課題】貯留槽ごとに処理することの可能なし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を提供する。
【解決手段】ダンパー車AのタンクT内に貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、このタンクT内に無機凝集剤を吸引してタンクT内で汚泥と無機凝集剤とを混合攪拌し、次に、このタンクT内に高分子凝集剤を吸引してタンクT内で汚泥と無機凝集剤とを混合攪拌してフロックF2を形成する。続いて、このタンクT内のフロックF2を含む処理液をフレーム2に吊り下げた脱水袋4に排出して、フロックF2等の自重により固液分離を行う。その後、脱水袋4の内袋を取り出して、焼却等の最終処分に附する。
【解決手段】ダンパー車AのタンクT内に貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、このタンクT内に無機凝集剤を吸引してタンクT内で汚泥と無機凝集剤とを混合攪拌し、次に、このタンクT内に高分子凝集剤を吸引してタンクT内で汚泥と無機凝集剤とを混合攪拌してフロックF2を形成する。続いて、このタンクT内のフロックF2を含む処理液をフレーム2に吊り下げた脱水袋4に排出して、フロックF2等の自重により固液分離を行う。その後、脱水袋4の内袋を取り出して、焼却等の最終処分に附する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に関し、特に大がかりな設備を必要とせず、貯留槽ごとにその場所で処理することの可能なし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
し尿処理施設に搬入されるし尿中には、砂が0.3%程度含まれており、この砂は施設の受入設備の沈砂槽、除砂装置により除去される構造になっているが、微細な砂等はこの装置を通過し、貯留槽、生物処理槽に堆積したり、各機器の摩耗、閉塞の原因となったりしている。この弊害を取り除くため、受入槽、貯留槽等は年に数回、生物処理槽は10〜15年に1回程度、清掃・浚渫し、この際に除去した砂を多く含んだ汚泥は、脱水した上で焼却処分、埋立処分等の最終処分を行っている。
【0003】
このようなし尿汚泥の脱水は、例えば、個々のし尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車に一旦収集し、図12に示すような総合脱水処理施設により処理を行っている。
【0004】
すなわち、図12において、31は汚泥貯留槽であり、この汚泥貯留槽31は、原水貯留槽31Aと沈砂槽31Bとから構成されており、原水貯留槽31Aには移送ポンプ32が設けられていて、この原水貯留槽31Aから流路スクリーン33を介して沈砂槽31Bに原水が移送可能となっている。そして、沈砂槽31Bの底部には撹拌・揚泥ポンプ34が設けられていて、ドラムスクリーン35を経由して中継槽36に連続している。この中継槽36には、揚水ポンプ37が設けられていて中和槽38に汚泥を送給可能となっており、この中和槽38には、硫酸タンク39及び苛性タンク40からそれぞれ酸及びアルカリが供給可能となっている。
【0005】
また、中和槽38は、汚泥貯留槽41に連続していて、この汚泥貯留槽41には移送ポンプ42が付設されている。この移送ポンプ42は、第1反応槽43A及び第2反応槽43Bとからなる反応槽43の第1反応槽43Aに連通している。これら反応槽43A、反応槽43Bはそれぞれ攪拌機構(図示せず)を備えており、反応槽43Aには、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤のタンク44が接続しているとともに、反応槽43Bにはカチオン系高分子凝集剤のタンク45が接続している。そして、この反応槽43は、遠心脱水機46に連続していて、さらに、この遠心脱水機46は脱水濾液貯槽47に水分を排出する。
【0006】
なお、図12中において、48は、し渣ホッパーを、Lは液状の汚泥の流路を、破線は固液分離された汚泥の流れをそれぞれ示す。
【0007】
上述したような構成を有する従来のし尿汚泥脱水装置では、まず、し尿処理施設の堆積汚泥をダンパー車で汲み上げ、ダンパー車のタンクTに貯留したら、し尿汚泥脱水装置に移動し、汚泥貯留槽31の原水貯留槽31Aに排出し、続いて、この汚泥を、流路スクリーン33を介して沈砂槽31Bに移送する。
【0008】
この沈砂槽31Bの底部に溜まった水分含有率の高い状態の汚泥を、撹拌・揚泥ポンプ34で攪拌しながらドラムスクリーン35に供給する。そして、水分含有率の高い状態の汚泥は、このドラムスクリーン35において、粗いごみ等のし渣が除去されて中継槽36に貯留される。一方、ドラムスクリーン35で捕捉されたごみ等のし渣は、流路スクリーン33に捕捉されたし渣とともにし渣ホッパー48で収集して焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付される。
【0009】
また、中継槽36に貯留した水分含有率の高い状態の汚泥を、揚水ポンプ37により中和槽38に送給し、この中和槽38において硫酸タンク39及び苛性タンク40から酸及び/又はアルカリを供給することで、凝集・フロックの形成に好適なpHに調整する。
【0010】
そして、pHを調整した水分含有率の高い状態の汚泥を汚泥貯留槽41に一旦移送し、この移送ポンプ42から反応槽43に供給し、第1反応槽43Aで無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤(脱水I剤)を添加するとともに攪拌混合する。続いて第2反応槽43Bで、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤と反応させた汚泥にカチオン系高分子凝集剤(脱水II剤)を添加するとともに攪拌混合する。これにより汚泥が凝集してある程度の塊(フロック)を形成する。そうしたら、この水分にフロックが分散した混合物を遠心脱水機46に供給することでフロックと水分との固液分離を行い、水分は脱水濾液貯槽47に貯留されて、水処理設備等で処理が行われる一方、脱水された汚泥は、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来は、個々のし尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車にて一旦収集し、総合脱水処理施設により処理を行っているが、この総合脱水処理施設は、中和槽38、反応槽43、遠心脱水機46及び各種薬剤の注入設備を必要とする大掛かりな施設であり、土地、建設コスト及び維持管理の点で経済的・人的負担が大きいという問題点がある。また、個々のし尿処理施設においては、堆積汚泥をダンパー車で総合脱水処理施設にまで運搬しなければ処理できないという問題点がある。
【0012】
もし、個々のし尿処理施設ごとに固定した設備を設けなくてもその場所で堆積汚泥の脱水ができ、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付すことができれば、便利であるだけでなく、廃棄物量の削減や処理に要するエネルギーの削減が図れて望ましい。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、貯留槽ごとに処理することの可能なし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1に本発明は、し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法であって、タンクを備えた作業車両の当該タンク内に、前記貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入して前記タンク内で前記汚泥と当該無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤とを混合攪拌し、次に、このタンク内に高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入してタンク内で汚泥と高分子凝集剤とを混合攪拌してフロックを形成し、続いて、このタンク内の汚泥を脱水袋に排出して固液分離を行うことを特徴とするし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を提供する(請求項1)。
【0015】
上記発明(請求項1)によれば、このような構成を採用することにより、し尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車等のタンクを備えた作業車両に収集し、この車両のタンク内で、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤を用いて汚泥を凝集・フロック化することができ、そして、このタンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離することで、し尿処理施設等の現場で汚泥の脱水を行うことができる。
【0016】
上記発明(請求項1)においては、前記脱水袋が、目の細かい内袋と目の粗い外袋とからなるのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離したら、目の細かい内袋を取り出して、この内袋ごと最終処分に付すことができる。
【0017】
上記発明(請求項1,2)においては、前記脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持するのが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)によれば、脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持するだけで、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を簡単に固液分離することができる。
【0018】
上記発明(請求項2,3)においては、前記固液分離後、前記脱水袋の前記内袋を前記外袋から取り出し、前記内袋内の脱水汚泥を焼却処分するのが好ましい(請求項4)。
【0019】
上記発明(請求項4)によれば、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離した後、目の細かい内袋を取り出して焼却するだけでよく、処理の簡便化を図ることができる。
【0020】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引する前に、前記貯留槽に堆積した汚泥を所定量採取し、採取した汚泥に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加した後攪拌し、続いて高分子凝集剤を添加した後攪拌し、この混合液をろ過する予備試験を行い、前記予備試験の過程での処理液のpH、凝集状態及びろ過の状態を確認することで、前記タンク内への無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤の添加量を決定するのが好ましい(請求項5)。
【0021】
上記発明(請求項5)によれば、少量の脱水前の汚泥を採取し、事前に汚泥の凝集・フロック化及び固液分離を行って、これらに最適な無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤の添加量、高分子凝集剤の添加量、並びにpH等の諸条件を設定しておくことで、その後のタンク内での凝集・フロック化及び脱水袋による固液分離を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法によれば、個々のし尿処理施設ごとに固定した設備を設けなくても堆積汚泥の脱水ができ、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分も簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図11は、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の各工程を示す概略図である。以下それぞれの工程の順に説明する。
【0024】
[1]汚泥吸引工程
まず、図1に示すように、し尿処理施設の汚泥貯留槽1の近傍に作業車両としてのダンパー車Aを侵入させ、堆積汚泥Sを水分とともに吸引ホースAから吸引してタンクT内に貯留する。このときの堆積汚泥Sの吸引量は、タンクTの容量の80%以下とするのが好ましい。堆積汚泥Sの吸引量がタンクTの容量の80%を超えると、後述する汚泥処理工程において、タンクT内での空気攪拌が困難となるため好ましくない。
【0025】
[2]脱水フレームの準備
これに並行して、図2に示すように脱水フレーム2を組み立てておく。この脱水フレーム2は、前後2本1組で複数組配列された縦枠2Aと、この縦枠2Aの前後及び左右方向にそれぞれ上下一対に架け渡された横枠2Bと、両端部横枠2Bに斜め方向に架け渡された支持枠2Cとから構成されており、2組の縦枠2Aと、上下2組の横枠2Bとで構成される複数の区画Xにそれぞれ1個の脱水袋を吊り下げる。この区画Xは、例えば、幅(W)及び奥行き(D)800mmで、高さ(H)2500mmで、3連又は4連(本実施形態においては4連)とすればよい。なお、縦枠2Aの上側には図示しない吊り下げフックが形成されている。なお、3は脱水フレーム2の下側に配置された濾液受け皿であり、この濾液受け皿3には、排出された水分の移送用の水中ポンプPが設けられている。
【0026】
したがって、汚泥貯留槽1の容積と後述する脱水袋の容積とに応じて必要となる脱水袋の数に応じて、脱水フレーム2を構成すればよい。又は、あらかじめ余裕をもって脱水フレーム2を構成しておき、汚泥貯留槽1の容積に応じて脱水袋を必要数吊り下げるようにしてもよい。
【0027】
[3]脱水袋の準備
図3に示すように、脱水袋4は、外袋4Aと内袋4Bとからなる。外袋4Aは、吊り下げ補強用で、粗いメッシュ状の頂部及び底部が開放した袋であり、底部は止め具5により閉鎖されていて、頂部には5ケ所にループ状の吊り下げ部6が形成されている。また、内袋4Bは、外袋4Aよりも上下方向に大きい脱水用で、不織布等の目の細かい繊維からなる布巾により構成された底部の閉じた袋体であり、頂部には4ケ所にループ状の吊り下げ部7が形成されている。この内袋4Bは、例えば、最大で約1m3の汚泥が投入できる大きさであればよい。
【0028】
そして、外袋4A内に内袋4Bをセットして、前述した脱水フレーム2の区画Xにループ状の吊り下げ部6を縦枠2Aの上側に形成されたフック(図示せず)に引っ掛けることにより固定する。
【0029】
[4]予備試験
続いて、タンクT内の堆積汚泥Sを凝集・フロック化するが、タンクTでの凝集・フロック化を逐次調整するのは困難であるため、タンクTでの凝集・フロック化を確実に行うために、予備試験を行うのが好ましい。
【0030】
この予備試験は、例えば、以下のような手順で行うことができる。
(1)まず、少量(200mL程度)のサンプルとしての堆積汚泥を採取する。
【0031】
(2)このサンプルに適当な濃度(例えば、3000mg/L程度)の無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加し、5分間程度混合した後、pHを測定し、高分子凝集剤の最適凝集領域か否かを確認する。無機凝集剤としては、硫化水素・臭気抑制を考慮してポリ塩化鉄を用いるのが好ましい。また。高分子凝集剤の最適凝集領域としては、pH5.5程度を目標とするのが好ましい。ここで、最適凝集領域でない場合には、無機凝集剤の添加量を調整したり、pH調整剤としての酸又はアルカリを添加して調整したりする。
【0032】
(3)次に、この無機凝集剤を添加したサンプルに高分子凝集剤を必要量添加し、1分間程度空気攪拌を行い、フロックが形成されるか否かを確認する。高分子凝集剤としては、両性高分子凝集剤(例えば、クリベストP−359(商品名))、カチオン性高分子凝集剤(例えば、クリファームPC−848(商品名))等を用いることができ、例えば、0.2%程度の溶解液を使用するのが好ましい。ここで、フロックが形成されない場合には、高分子凝集剤の添加量や空気攪拌の時間を調整する。
【0033】
(4)続いて、内袋3Bを構成する布巾で、このフロックを形成させたサンプルをろ過し、水抜け性とともに濾液が水処理に適しているかどうかを確認する。
【0034】
[5]汚泥処理工程1
上述したような予備試験により、タンクT内に吸引した汚泥量から無機凝集剤の添加量、高分子凝集剤の添加量及び空気攪拌時間等の条件を算出した後、汚泥の処理を行う。
【0035】
まず、図4に示すように、堆積汚泥Sを吸引したタンクT内にホースから無機凝集剤G1を吸引して直接添加する。続いて、図5に示すように、ホースを大気開放とすることで、タンクT内に空気(Air)を吸引し、1〜10分程度、特に3〜7分空気攪拌を行うことにより、堆積汚泥Sと無機凝集剤G1とを反応させて、1次凝集体F1を形成する。
【0036】
[6]汚泥処理工程2
次に、図6に示すように、1次凝集体F1を形成したタンクT内にホースから高分子凝集剤G2を吸引して直接添加する。続いて、図7に示すように、ホースを大気開放とすることで、タンクT内に空気(Air)を吸引し1〜5分程度、特に1〜3分空気攪拌を行うことにより、1次凝集体F1と高分子凝集剤G2とを反応させて、2次凝集体たるフロックF2を形成する。
【0037】
[7]汚泥処理工程3
そして、タンクTの除き窓等からフロックF2の形成を確認したら、図8に示すように、脱水フレーム2に吊り下げた脱水袋4にタンクT内の水分ごとフロックF2を排出する。
【0038】
[8]汚泥処理工程4
フロックF2が形成された堆積汚泥は、図9に示すように、内袋4Bの透過性及び毛細管現象、並びに内袋4B内の汚泥の自重によるメッシュ状の外袋4Aによる絞り効果により、脱水袋4内で重力脱水が行われ、汚泥分は脱水袋4に残存する一方で、水分は脱水袋4を透過し、かかる水分を濾液受け皿3で受け取る。この受け皿3に溜まった濾液は、水中ポンプPで他の水槽に移送して別途水処理を行えばよい。
【0039】
なお、汚泥の透過性が不良の場合には、タンクT内からの汚泥の排出を中止して、高分子凝集剤を追加して再度空気攪拌を行えばよい。
【0040】
[9]汚泥処理工程5
このような脱水は、約30分で完了するので、そうしたら図10に示すように、内袋4Bの上部を止め具8で閉鎖し、続いて、図11に示すように、外袋4Aの底部の止め具5を外して、底部を開放し、内袋4Bのみを取り出す。そして、この内袋4Bごと焼却処分等の最終処分に付せばよい。
【0041】
上述したような全工程は約2時間で完了することができる。
以上詳述したように、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法によれば、内袋4Bがろ布に相当し、脱水フレーム2に吊り下げることによる自重によるろ過が加圧装置に相当することから、フィルタープレス式の脱水に近似した優れた脱水効果を奏する。
【0042】
このような本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を適用することにより、通常の脱水処理に必要な中和槽、反応槽、遠心脱水機及び各種薬剤の注入設備が不要となり、焼却設備を有するし尿処理施設であれば、その施設内で処理を完了することがでる。また、汚泥の取り扱いが容易となるという効果も奏する、また、例えば、ダンパー車のタンク内で60m3の汚泥が、この脱水処理により約8.6t(約86質量%減量)にまで減容化でき、さらに焼却処理により約5.0t(約42質量%減量)にまで減容化できるので、廃棄物量の削減も達成される。
【0043】
以上、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、し尿処理施設に限らず、河川等の底泥、湖沼のアオコ清掃、農業集落排水設備等の汚泥処理にも適用可能である。
【実施例】
【0044】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
浄化槽の堆積汚泥1.5m3をダンパー車で汲み上げ、試験用のし尿汚泥(原液)とした。この原液のpHは7.6であった。
【0045】
[脱水フレームの準備]
脱水フレーム2に脱水袋4(内袋4Bは不織布製)を3個吊り下げて脱水処理の事前の準備を行った
【0046】
[予備試験]
原液(200mL)に対して、無機凝集剤としてポリ塩化鉄(ポリ鉄)1.2mLを添加して十分に攪拌した後、pHを確認したところpH5.5であり、フロックの形成に良好であることを確認した。次に高分子凝集剤として両性高分子凝集剤(クリベストP−359、栗田工業社製)の0.2%溶液を15mL添加して十分に攪拌したところ、良好なフロックの形成が確認された。
【0047】
この予備試験液を脱水袋4の内袋4Bを構成する不織布と同じ素材のろ布でろ過したところ、良好な水抜け性を示した。
これらの結果から、実施例1の汚泥1.5m3に対しては、ポリ塩化鉄が9L、クリベストP−359(0.2%溶液)112Lが必要となることが確認された。
【0048】
[汚泥処理試験]
ダンパー車AのタンクTにポリ塩化鉄9Lを吸引した後、弁開度少の状態で空気を供給して5分間空気攪拌を行った。次に、クリベストP−359を120L吸引した後、弁開度少の状態で空気を供給して1分間空気攪拌を行った。その後、サイトグラスよりタンクT内を視認したところ、フロックの形成が確認された。
【0049】
このタンクT内のフロックが形成された汚泥液を脱水袋4に排出し、脱水を行った結果、200kgの脱水汚泥となった。
【0050】
この汚泥処理試験における原液の物性(全硫化物(T−S)、強熱減量及び有機性浮遊物質率(VSS))、濾液のSS(浮遊物質濃度)、SS回収率、脱水汚泥含水率、脱水汚泥強熱残量、ダンパー吸引量、ポリ塩化鉄吸引量及びポリ塩化鉄注入率、高分子凝集剤の吸引量及び高分子凝集剤の注入率(対溶解性物質(DS))、脱水袋への排泥後3分、30分及び40時間後(増加分)の濾液量を及び脱水汚泥量をそれぞれ計測した。
結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1とは異なる浄化槽の堆積汚泥1.5m3をダンパー車で汲み上げ試験用のし尿汚泥(原液)とした。この原液のpHは8.0〜8.5であった。
【0052】
[予備試験]
原液(200mL)に対して、無機凝集剤としてポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)1.2mLを添加して十分に攪拌した後のpHを確認したところpH5.4であり、フロックの形成に良好であることを確認した。次に高分子凝集剤としてアニオン系凝集剤(クリファームPC−848、栗田工業社製)の0.2%溶液を20mL添加して十分に攪拌したところ、良好なフロックの形成が確認された。
【0053】
この予備試験液を脱水袋4の内袋4Bを構成する不織布と同じ素材のろ布でろ過したところ、良好な水抜け性を示した。
【0054】
これらの結果から、実施例2の汚泥1.5m3に対しては、ポリ硫酸第二鉄約7L、クリファームPC−848(0.2%溶液)約130Lが必要となることが確認された。
【0055】
[汚泥処理試験]
上記実施例2の汚泥に対して、高分子凝集剤としてクリファームPC−848を用いて、実施例1と同様にして脱水処理を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、本実施例に係る汚泥の脱水方法によれば、性状の異なる2種類の1.5m3の原液を80%以上減容化することができ、脱水性に優れていることが確認できた。また、SS回収率も高く、いずれも95%以上を達成することができた。さらに、処理後の脱水汚泥は、内袋4Bを脱水袋4から取り出して、簡単に焼却炉で焼却処分することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の汚泥吸引工程を示す概略図である。
【図2】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に用いる脱水フレームの一例を示す概略図である。
【図3】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に用いる脱水袋の一例を示す概略図である。
【図4】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の汚泥処理工程を示す概略図である。
【図5】図4に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図6】図5に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図7】図6に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図8】図7に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図9】図8に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図10】図9に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図11】図10に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図12】従来のし尿汚泥脱水方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0059】
1…し尿処理施設の汚泥貯留槽
2…脱水フレーム
4…脱水袋
4A…外袋
4B…内袋
G1…無機凝集剤
G2…高分子凝集剤
F2…フロック
S…堆積汚泥
A…ダンパー車(作業車両)
T…タンク
【技術分野】
【0001】
本発明は、し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に関し、特に大がかりな設備を必要とせず、貯留槽ごとにその場所で処理することの可能なし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に関する。
【背景技術】
【0002】
し尿処理施設に搬入されるし尿中には、砂が0.3%程度含まれており、この砂は施設の受入設備の沈砂槽、除砂装置により除去される構造になっているが、微細な砂等はこの装置を通過し、貯留槽、生物処理槽に堆積したり、各機器の摩耗、閉塞の原因となったりしている。この弊害を取り除くため、受入槽、貯留槽等は年に数回、生物処理槽は10〜15年に1回程度、清掃・浚渫し、この際に除去した砂を多く含んだ汚泥は、脱水した上で焼却処分、埋立処分等の最終処分を行っている。
【0003】
このようなし尿汚泥の脱水は、例えば、個々のし尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車に一旦収集し、図12に示すような総合脱水処理施設により処理を行っている。
【0004】
すなわち、図12において、31は汚泥貯留槽であり、この汚泥貯留槽31は、原水貯留槽31Aと沈砂槽31Bとから構成されており、原水貯留槽31Aには移送ポンプ32が設けられていて、この原水貯留槽31Aから流路スクリーン33を介して沈砂槽31Bに原水が移送可能となっている。そして、沈砂槽31Bの底部には撹拌・揚泥ポンプ34が設けられていて、ドラムスクリーン35を経由して中継槽36に連続している。この中継槽36には、揚水ポンプ37が設けられていて中和槽38に汚泥を送給可能となっており、この中和槽38には、硫酸タンク39及び苛性タンク40からそれぞれ酸及びアルカリが供給可能となっている。
【0005】
また、中和槽38は、汚泥貯留槽41に連続していて、この汚泥貯留槽41には移送ポンプ42が付設されている。この移送ポンプ42は、第1反応槽43A及び第2反応槽43Bとからなる反応槽43の第1反応槽43Aに連通している。これら反応槽43A、反応槽43Bはそれぞれ攪拌機構(図示せず)を備えており、反応槽43Aには、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤のタンク44が接続しているとともに、反応槽43Bにはカチオン系高分子凝集剤のタンク45が接続している。そして、この反応槽43は、遠心脱水機46に連続していて、さらに、この遠心脱水機46は脱水濾液貯槽47に水分を排出する。
【0006】
なお、図12中において、48は、し渣ホッパーを、Lは液状の汚泥の流路を、破線は固液分離された汚泥の流れをそれぞれ示す。
【0007】
上述したような構成を有する従来のし尿汚泥脱水装置では、まず、し尿処理施設の堆積汚泥をダンパー車で汲み上げ、ダンパー車のタンクTに貯留したら、し尿汚泥脱水装置に移動し、汚泥貯留槽31の原水貯留槽31Aに排出し、続いて、この汚泥を、流路スクリーン33を介して沈砂槽31Bに移送する。
【0008】
この沈砂槽31Bの底部に溜まった水分含有率の高い状態の汚泥を、撹拌・揚泥ポンプ34で攪拌しながらドラムスクリーン35に供給する。そして、水分含有率の高い状態の汚泥は、このドラムスクリーン35において、粗いごみ等のし渣が除去されて中継槽36に貯留される。一方、ドラムスクリーン35で捕捉されたごみ等のし渣は、流路スクリーン33に捕捉されたし渣とともにし渣ホッパー48で収集して焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付される。
【0009】
また、中継槽36に貯留した水分含有率の高い状態の汚泥を、揚水ポンプ37により中和槽38に送給し、この中和槽38において硫酸タンク39及び苛性タンク40から酸及び/又はアルカリを供給することで、凝集・フロックの形成に好適なpHに調整する。
【0010】
そして、pHを調整した水分含有率の高い状態の汚泥を汚泥貯留槽41に一旦移送し、この移送ポンプ42から反応槽43に供給し、第1反応槽43Aで無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤(脱水I剤)を添加するとともに攪拌混合する。続いて第2反応槽43Bで、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤と反応させた汚泥にカチオン系高分子凝集剤(脱水II剤)を添加するとともに攪拌混合する。これにより汚泥が凝集してある程度の塊(フロック)を形成する。そうしたら、この水分にフロックが分散した混合物を遠心脱水機46に供給することでフロックと水分との固液分離を行い、水分は脱水濾液貯槽47に貯留されて、水処理設備等で処理が行われる一方、脱水された汚泥は、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来は、個々のし尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車にて一旦収集し、総合脱水処理施設により処理を行っているが、この総合脱水処理施設は、中和槽38、反応槽43、遠心脱水機46及び各種薬剤の注入設備を必要とする大掛かりな施設であり、土地、建設コスト及び維持管理の点で経済的・人的負担が大きいという問題点がある。また、個々のし尿処理施設においては、堆積汚泥をダンパー車で総合脱水処理施設にまで運搬しなければ処理できないという問題点がある。
【0012】
もし、個々のし尿処理施設ごとに固定した設備を設けなくてもその場所で堆積汚泥の脱水ができ、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分に付すことができれば、便利であるだけでなく、廃棄物量の削減や処理に要するエネルギーの削減が図れて望ましい。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、貯留槽ごとに処理することの可能なし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1に本発明は、し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法であって、タンクを備えた作業車両の当該タンク内に、前記貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入して前記タンク内で前記汚泥と当該無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤とを混合攪拌し、次に、このタンク内に高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入してタンク内で汚泥と高分子凝集剤とを混合攪拌してフロックを形成し、続いて、このタンク内の汚泥を脱水袋に排出して固液分離を行うことを特徴とするし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を提供する(請求項1)。
【0015】
上記発明(請求項1)によれば、このような構成を採用することにより、し尿処理施設ごとに堆積汚泥を汲み上げてダンパー車等のタンクを備えた作業車両に収集し、この車両のタンク内で、無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤を用いて汚泥を凝集・フロック化することができ、そして、このタンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離することで、し尿処理施設等の現場で汚泥の脱水を行うことができる。
【0016】
上記発明(請求項1)においては、前記脱水袋が、目の細かい内袋と目の粗い外袋とからなるのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離したら、目の細かい内袋を取り出して、この内袋ごと最終処分に付すことができる。
【0017】
上記発明(請求項1,2)においては、前記脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持するのが好ましい(請求項3)。かかる発明(請求項3)によれば、脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持するだけで、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を簡単に固液分離することができる。
【0018】
上記発明(請求項2,3)においては、前記固液分離後、前記脱水袋の前記内袋を前記外袋から取り出し、前記内袋内の脱水汚泥を焼却処分するのが好ましい(請求項4)。
【0019】
上記発明(請求項4)によれば、タンク内でフロック化された汚泥を含む水分を脱水袋に排出して固液分離した後、目の細かい内袋を取り出して焼却するだけでよく、処理の簡便化を図ることができる。
【0020】
上記発明(請求項1〜4)においては、前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引する前に、前記貯留槽に堆積した汚泥を所定量採取し、採取した汚泥に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加した後攪拌し、続いて高分子凝集剤を添加した後攪拌し、この混合液をろ過する予備試験を行い、前記予備試験の過程での処理液のpH、凝集状態及びろ過の状態を確認することで、前記タンク内への無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤の添加量を決定するのが好ましい(請求項5)。
【0021】
上記発明(請求項5)によれば、少量の脱水前の汚泥を採取し、事前に汚泥の凝集・フロック化及び固液分離を行って、これらに最適な無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤の添加量、高分子凝集剤の添加量、並びにpH等の諸条件を設定しておくことで、その後のタンク内での凝集・フロック化及び脱水袋による固液分離を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法によれば、個々のし尿処理施設ごとに固定した設備を設けなくても堆積汚泥の脱水ができ、焼却処分、埋め立て処分等の最終処分も簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法について、図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図11は、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の各工程を示す概略図である。以下それぞれの工程の順に説明する。
【0024】
[1]汚泥吸引工程
まず、図1に示すように、し尿処理施設の汚泥貯留槽1の近傍に作業車両としてのダンパー車Aを侵入させ、堆積汚泥Sを水分とともに吸引ホースAから吸引してタンクT内に貯留する。このときの堆積汚泥Sの吸引量は、タンクTの容量の80%以下とするのが好ましい。堆積汚泥Sの吸引量がタンクTの容量の80%を超えると、後述する汚泥処理工程において、タンクT内での空気攪拌が困難となるため好ましくない。
【0025】
[2]脱水フレームの準備
これに並行して、図2に示すように脱水フレーム2を組み立てておく。この脱水フレーム2は、前後2本1組で複数組配列された縦枠2Aと、この縦枠2Aの前後及び左右方向にそれぞれ上下一対に架け渡された横枠2Bと、両端部横枠2Bに斜め方向に架け渡された支持枠2Cとから構成されており、2組の縦枠2Aと、上下2組の横枠2Bとで構成される複数の区画Xにそれぞれ1個の脱水袋を吊り下げる。この区画Xは、例えば、幅(W)及び奥行き(D)800mmで、高さ(H)2500mmで、3連又は4連(本実施形態においては4連)とすればよい。なお、縦枠2Aの上側には図示しない吊り下げフックが形成されている。なお、3は脱水フレーム2の下側に配置された濾液受け皿であり、この濾液受け皿3には、排出された水分の移送用の水中ポンプPが設けられている。
【0026】
したがって、汚泥貯留槽1の容積と後述する脱水袋の容積とに応じて必要となる脱水袋の数に応じて、脱水フレーム2を構成すればよい。又は、あらかじめ余裕をもって脱水フレーム2を構成しておき、汚泥貯留槽1の容積に応じて脱水袋を必要数吊り下げるようにしてもよい。
【0027】
[3]脱水袋の準備
図3に示すように、脱水袋4は、外袋4Aと内袋4Bとからなる。外袋4Aは、吊り下げ補強用で、粗いメッシュ状の頂部及び底部が開放した袋であり、底部は止め具5により閉鎖されていて、頂部には5ケ所にループ状の吊り下げ部6が形成されている。また、内袋4Bは、外袋4Aよりも上下方向に大きい脱水用で、不織布等の目の細かい繊維からなる布巾により構成された底部の閉じた袋体であり、頂部には4ケ所にループ状の吊り下げ部7が形成されている。この内袋4Bは、例えば、最大で約1m3の汚泥が投入できる大きさであればよい。
【0028】
そして、外袋4A内に内袋4Bをセットして、前述した脱水フレーム2の区画Xにループ状の吊り下げ部6を縦枠2Aの上側に形成されたフック(図示せず)に引っ掛けることにより固定する。
【0029】
[4]予備試験
続いて、タンクT内の堆積汚泥Sを凝集・フロック化するが、タンクTでの凝集・フロック化を逐次調整するのは困難であるため、タンクTでの凝集・フロック化を確実に行うために、予備試験を行うのが好ましい。
【0030】
この予備試験は、例えば、以下のような手順で行うことができる。
(1)まず、少量(200mL程度)のサンプルとしての堆積汚泥を採取する。
【0031】
(2)このサンプルに適当な濃度(例えば、3000mg/L程度)の無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加し、5分間程度混合した後、pHを測定し、高分子凝集剤の最適凝集領域か否かを確認する。無機凝集剤としては、硫化水素・臭気抑制を考慮してポリ塩化鉄を用いるのが好ましい。また。高分子凝集剤の最適凝集領域としては、pH5.5程度を目標とするのが好ましい。ここで、最適凝集領域でない場合には、無機凝集剤の添加量を調整したり、pH調整剤としての酸又はアルカリを添加して調整したりする。
【0032】
(3)次に、この無機凝集剤を添加したサンプルに高分子凝集剤を必要量添加し、1分間程度空気攪拌を行い、フロックが形成されるか否かを確認する。高分子凝集剤としては、両性高分子凝集剤(例えば、クリベストP−359(商品名))、カチオン性高分子凝集剤(例えば、クリファームPC−848(商品名))等を用いることができ、例えば、0.2%程度の溶解液を使用するのが好ましい。ここで、フロックが形成されない場合には、高分子凝集剤の添加量や空気攪拌の時間を調整する。
【0033】
(4)続いて、内袋3Bを構成する布巾で、このフロックを形成させたサンプルをろ過し、水抜け性とともに濾液が水処理に適しているかどうかを確認する。
【0034】
[5]汚泥処理工程1
上述したような予備試験により、タンクT内に吸引した汚泥量から無機凝集剤の添加量、高分子凝集剤の添加量及び空気攪拌時間等の条件を算出した後、汚泥の処理を行う。
【0035】
まず、図4に示すように、堆積汚泥Sを吸引したタンクT内にホースから無機凝集剤G1を吸引して直接添加する。続いて、図5に示すように、ホースを大気開放とすることで、タンクT内に空気(Air)を吸引し、1〜10分程度、特に3〜7分空気攪拌を行うことにより、堆積汚泥Sと無機凝集剤G1とを反応させて、1次凝集体F1を形成する。
【0036】
[6]汚泥処理工程2
次に、図6に示すように、1次凝集体F1を形成したタンクT内にホースから高分子凝集剤G2を吸引して直接添加する。続いて、図7に示すように、ホースを大気開放とすることで、タンクT内に空気(Air)を吸引し1〜5分程度、特に1〜3分空気攪拌を行うことにより、1次凝集体F1と高分子凝集剤G2とを反応させて、2次凝集体たるフロックF2を形成する。
【0037】
[7]汚泥処理工程3
そして、タンクTの除き窓等からフロックF2の形成を確認したら、図8に示すように、脱水フレーム2に吊り下げた脱水袋4にタンクT内の水分ごとフロックF2を排出する。
【0038】
[8]汚泥処理工程4
フロックF2が形成された堆積汚泥は、図9に示すように、内袋4Bの透過性及び毛細管現象、並びに内袋4B内の汚泥の自重によるメッシュ状の外袋4Aによる絞り効果により、脱水袋4内で重力脱水が行われ、汚泥分は脱水袋4に残存する一方で、水分は脱水袋4を透過し、かかる水分を濾液受け皿3で受け取る。この受け皿3に溜まった濾液は、水中ポンプPで他の水槽に移送して別途水処理を行えばよい。
【0039】
なお、汚泥の透過性が不良の場合には、タンクT内からの汚泥の排出を中止して、高分子凝集剤を追加して再度空気攪拌を行えばよい。
【0040】
[9]汚泥処理工程5
このような脱水は、約30分で完了するので、そうしたら図10に示すように、内袋4Bの上部を止め具8で閉鎖し、続いて、図11に示すように、外袋4Aの底部の止め具5を外して、底部を開放し、内袋4Bのみを取り出す。そして、この内袋4Bごと焼却処分等の最終処分に付せばよい。
【0041】
上述したような全工程は約2時間で完了することができる。
以上詳述したように、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法によれば、内袋4Bがろ布に相当し、脱水フレーム2に吊り下げることによる自重によるろ過が加圧装置に相当することから、フィルタープレス式の脱水に近似した優れた脱水効果を奏する。
【0042】
このような本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法を適用することにより、通常の脱水処理に必要な中和槽、反応槽、遠心脱水機及び各種薬剤の注入設備が不要となり、焼却設備を有するし尿処理施設であれば、その施設内で処理を完了することがでる。また、汚泥の取り扱いが容易となるという効果も奏する、また、例えば、ダンパー車のタンク内で60m3の汚泥が、この脱水処理により約8.6t(約86質量%減量)にまで減容化でき、さらに焼却処理により約5.0t(約42質量%減量)にまで減容化できるので、廃棄物量の削減も達成される。
【0043】
以上、本実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法について説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、し尿処理施設に限らず、河川等の底泥、湖沼のアオコ清掃、農業集落排水設備等の汚泥処理にも適用可能である。
【実施例】
【0044】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
〔実施例1〕
浄化槽の堆積汚泥1.5m3をダンパー車で汲み上げ、試験用のし尿汚泥(原液)とした。この原液のpHは7.6であった。
【0045】
[脱水フレームの準備]
脱水フレーム2に脱水袋4(内袋4Bは不織布製)を3個吊り下げて脱水処理の事前の準備を行った
【0046】
[予備試験]
原液(200mL)に対して、無機凝集剤としてポリ塩化鉄(ポリ鉄)1.2mLを添加して十分に攪拌した後、pHを確認したところpH5.5であり、フロックの形成に良好であることを確認した。次に高分子凝集剤として両性高分子凝集剤(クリベストP−359、栗田工業社製)の0.2%溶液を15mL添加して十分に攪拌したところ、良好なフロックの形成が確認された。
【0047】
この予備試験液を脱水袋4の内袋4Bを構成する不織布と同じ素材のろ布でろ過したところ、良好な水抜け性を示した。
これらの結果から、実施例1の汚泥1.5m3に対しては、ポリ塩化鉄が9L、クリベストP−359(0.2%溶液)112Lが必要となることが確認された。
【0048】
[汚泥処理試験]
ダンパー車AのタンクTにポリ塩化鉄9Lを吸引した後、弁開度少の状態で空気を供給して5分間空気攪拌を行った。次に、クリベストP−359を120L吸引した後、弁開度少の状態で空気を供給して1分間空気攪拌を行った。その後、サイトグラスよりタンクT内を視認したところ、フロックの形成が確認された。
【0049】
このタンクT内のフロックが形成された汚泥液を脱水袋4に排出し、脱水を行った結果、200kgの脱水汚泥となった。
【0050】
この汚泥処理試験における原液の物性(全硫化物(T−S)、強熱減量及び有機性浮遊物質率(VSS))、濾液のSS(浮遊物質濃度)、SS回収率、脱水汚泥含水率、脱水汚泥強熱残量、ダンパー吸引量、ポリ塩化鉄吸引量及びポリ塩化鉄注入率、高分子凝集剤の吸引量及び高分子凝集剤の注入率(対溶解性物質(DS))、脱水袋への排泥後3分、30分及び40時間後(増加分)の濾液量を及び脱水汚泥量をそれぞれ計測した。
結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例2〕
実施例1とは異なる浄化槽の堆積汚泥1.5m3をダンパー車で汲み上げ試験用のし尿汚泥(原液)とした。この原液のpHは8.0〜8.5であった。
【0052】
[予備試験]
原液(200mL)に対して、無機凝集剤としてポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)1.2mLを添加して十分に攪拌した後のpHを確認したところpH5.4であり、フロックの形成に良好であることを確認した。次に高分子凝集剤としてアニオン系凝集剤(クリファームPC−848、栗田工業社製)の0.2%溶液を20mL添加して十分に攪拌したところ、良好なフロックの形成が確認された。
【0053】
この予備試験液を脱水袋4の内袋4Bを構成する不織布と同じ素材のろ布でろ過したところ、良好な水抜け性を示した。
【0054】
これらの結果から、実施例2の汚泥1.5m3に対しては、ポリ硫酸第二鉄約7L、クリファームPC−848(0.2%溶液)約130Lが必要となることが確認された。
【0055】
[汚泥処理試験]
上記実施例2の汚泥に対して、高分子凝集剤としてクリファームPC−848を用いて、実施例1と同様にして脱水処理を行った。結果を表1に合わせて示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、本実施例に係る汚泥の脱水方法によれば、性状の異なる2種類の1.5m3の原液を80%以上減容化することができ、脱水性に優れていることが確認できた。また、SS回収率も高く、いずれも95%以上を達成することができた。さらに、処理後の脱水汚泥は、内袋4Bを脱水袋4から取り出して、簡単に焼却炉で焼却処分することが可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の汚泥吸引工程を示す概略図である。
【図2】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に用いる脱水フレームの一例を示す概略図である。
【図3】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法に用いる脱水袋の一例を示す概略図である。
【図4】上記し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法の汚泥処理工程を示す概略図である。
【図5】図4に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図6】図5に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図7】図6に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図8】図7に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図9】図8に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図10】図9に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図11】図10に示す汚泥処理工程の次の工程を示す概略図である。
【図12】従来のし尿汚泥脱水方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0059】
1…し尿処理施設の汚泥貯留槽
2…脱水フレーム
4…脱水袋
4A…外袋
4B…内袋
G1…無機凝集剤
G2…高分子凝集剤
F2…フロック
S…堆積汚泥
A…ダンパー車(作業車両)
T…タンク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法であって、
タンクを備えた作業車両の当該タンク内に、前記貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、
前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入して前記タンク内で前記汚泥と当該無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤とを混合攪拌し、
次に、このタンク内に高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入してタンク内で汚泥と高分子凝集剤とを混合攪拌してフロックを形成し、
続いて、このタンク内の汚泥を脱水袋に排出して固液分離を行う
ことを特徴とするし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項2】
前記脱水袋が、目の細かい内袋と目の粗い外袋とからなることを特徴とする請求項1に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項3】
前記脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持することを特徴とする請求項1又は2に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項4】
前記固液分離後、前記脱水袋の前記内袋を前記外袋から取り出し、前記内袋内の脱水汚泥を焼却処分することを特徴とする請求項2又は3に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項5】
前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引する前に、前記貯留槽に堆積した汚泥を所定量採取し、
採取した汚泥に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加した後攪拌し、続いて高分子凝集剤を添加した後攪拌し、この混合液をろ過する予備試験を行い、
前記予備試験の過程での処理液のpH、凝集状態及びろ過の状態を確認することで、前記タンク内への無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤の添加量を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項1】
し尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法であって、
タンクを備えた作業車両の当該タンク内に、前記貯留槽に堆積した汚泥を吸引し、
前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入して前記タンク内で前記汚泥と当該無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤とを混合攪拌し、
次に、このタンク内に高分子凝集剤を吸引した後、空気を吸入してタンク内で汚泥と高分子凝集剤とを混合攪拌してフロックを形成し、
続いて、このタンク内の汚泥を脱水袋に排出して固液分離を行う
ことを特徴とするし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項2】
前記脱水袋が、目の細かい内袋と目の粗い外袋とからなることを特徴とする請求項1に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項3】
前記脱水袋をフレームに吊り下げ状態で保持することを特徴とする請求項1又は2に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項4】
前記固液分離後、前記脱水袋の前記内袋を前記外袋から取り出し、前記内袋内の脱水汚泥を焼却処分することを特徴とする請求項2又は3に記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【請求項5】
前記タンク内に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を吸引する前に、前記貯留槽に堆積した汚泥を所定量採取し、
採取した汚泥に無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤を添加した後攪拌し、続いて高分子凝集剤を添加した後攪拌し、この混合液をろ過する予備試験を行い、
前記予備試験の過程での処理液のpH、凝集状態及びろ過の状態を確認することで、前記タンク内への無機凝集剤又はアニオン系高分子凝集剤、及び高分子凝集剤の添加量を決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のし尿処理施設等の貯留槽に堆積した汚泥の脱水方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−36066(P2010−36066A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198760(P2008−198760)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(503338055)株式会社クリタス (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(503338055)株式会社クリタス (5)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]