説明

すべり軸受

【解決手段】 すべり軸受は、軸受面1に中央部分と端部分とを備えている。上記中央部分と端部分とのそれぞれに凹凸部を形成してあり、上記中央部分における凸部1Aの頂点の平均高さは、端部分における凸部1Bの頂点の平均高さよりも低く設定してある。さらに、上記中央部分における凹凸部1Aの平均高さLと端部分における凹凸部1Bの平均高さLとは同一高さに設定してある。上記中央部分は、平坦に形成しても良い。
【効果】 なじみ性や負荷容量を犠牲にすることなく、フリクションの低減を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受に関し、より詳しくは、少なくとも端部分に凹凸部を備えたすべり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受において、その中央部分と端部分との少なくともいずれか一方に凹凸部を形成したすべり軸受は公知である(特許文献1)。
例えば、上記特許文献1の図4には、円筒状軸受面の中央部分と端部分とのそれぞれに円周方向に沿う溝状の凹凸部を形成し、中央部分のピッチを端部分のピッチよりも小さく設定したすべり軸受が開示されている。
また、上記特許文献1の図9には、円筒状軸受面の端部分に円周方向に沿う溝状の凹凸部を形成しているが、中央部分には凹凸部を形成せず、その表面を平坦に形成したすべり軸受が開示されている。
さらに、上記特許文献1の図11(a)には、円筒状軸受面の中央部分と端部分とのそれぞれに円周方向に沿う溝状の凹凸部を形成し、中央部分の溝の深さよりも端部分の溝の深さが深くなるように設定したすべり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−269454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の構成は、なじみ性、冷却能力、及び耐負荷性を考慮したものであるが、フリクションを小さくすることは困難であった。
本発明は、小さなフリクションを得ることができるすべり軸受を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明は、軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受において、上記中央部分と端部分とのそれぞれに凹凸部を形成して、上記中央部分における凸部の頂点の平均高さを端部分における凸部の頂点の平均高さよりも低く設定し、さらに上記中央部分における凹凸部の平均高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定したことを特徴とするものである。
また請求項2の発明は、軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受において、上記中央部分の表面を平坦に形成するとともに、上記端部分に凹凸部を形成して、上記中央部分の表面高さを端部分における凸部の頂点の平均高さよりも低く設定し、さらに上記中央部分における表面の高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明においては、中央部分における凸部の頂点の平均高さまたは中央部分における平坦面の表面高さを端部分の表面高さよりも低く設定しているので、両者の高さを同一に設定した場合や逆に設定した場合に比較して、中央部分のフリクションの低減を図ることができる。
また、請求項1の発明のように、中央部分における凹凸部の平均高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定し、又は請求項2の発明のように、中央部分における表面の高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定することにより、端部分におけるなじみ性の向上と負荷容量の増大とを両立させることができ、これによってなじみ性や負荷容量を犠牲にすることなく、フリクションの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の第1実施例を示すすべり軸受の展開図
【図2】図1のII−II線に沿う拡大断面図
【図3】本発明の第2実施例を示す断面図
【図4】摩擦係数の大きさを測定した試験結果図
【図5】端部分の凹凸部1Bの幅を変化させた場合における摩擦係数の変化を測定した試験結果図
【図6】本発明の第3実施例を示す断面図
【図7】本発明の第4実施例を示す断面図
【図8】本発明の第5実施例を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について本発明を説明すると、図1は円筒部材の内面を軸受面1としたジャーナルすべり軸受の展開図で、その軸受面1の中央部分に凹凸部1Aを形成するとともに、両側の端部分にも凹凸部1Bを形成してある。図2は図1のII−II線に沿う拡大断面図で、上記中央部分の凹凸部1Aと端部分の凹凸部1Bとを誇張して示してある。
上記中央部分の凹凸部1Aは、例えばボーリング加工によって切削した円周方向に連続する多数の螺旋状の溝2から構成してあり、それぞれの溝2の間には山部3が形成されている。この凹凸部1Aの高低差hは、つまり溝2の底部から山部3の頂部までの高さは、それぞれ実質的に同一となるように形成してある。
【0009】
上記端部分の凹凸部1Bもボーリング加工によって切削した円周方向に連続する多数の螺旋状の溝4から構成してあり、それぞれの溝4の間に山部5が形成されている。この凹凸部1Bの高低差Hも、つまり溝4の底部から山部5の頂部までの高さも、それぞれ実質的に同一となるように形成してある。なお、上記溝2、4は必ずしも螺旋状である必要はなく、それぞれの溝2、4が独立した環状の溝であっても良い。
上記中央部分の凹凸部1Aの高低差hは、端部分の凹凸部1Bの高低差Hよりも小さくなるように設定してあり、かつ中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLと端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLとが同程度となるように設定してある。
上記中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLとは、該凹凸部1Aの多数の山部3の頂部が形成する平均高さと、該凹凸部1Aの溝2の多数の底部が形成する平均高さとの間の中央となる高さ位置を意味しており、また端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLとは、該凹凸部1Bの山部5の多数の頂部が形成する平均高さと、該凹凸部1Bの溝4の多数の底部が形成する平均高さとの間の中央となる高さ位置を意味している。
【0010】
上記すべり軸受が軸支する相手材はその外周面が円柱状となった回転軸(図示せず)であるから、中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLと端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLとが同程度となるように設定してあれば、上記中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLと、端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLとは、この回転軸の回転中心からほぼ等しい距離となるように設定されることになる。
したがって、上記中央部分の凹凸部1Aにおける表面高さ(多数の山部3の頂部が形成する上記平均高さを連続させて形成した仮想円筒表面の高さ)は、端部分の凹凸部1Bの表面高さ(多数の山部5の頂部が形成する上記平均高さを連続させて形成した仮想円筒表面の高さ)よりも低い位置(回転軸の回転中心から遠い位置)に設定されることになる。
他方、上記中央部分の凹凸部1Aにおける多数の溝2の底部を結んで形成される仮想円筒表面の高さは、端部分の凹凸部1Bにおける多数の溝4の底部を結んで形成される仮想円筒表面の高さよりも、高い位置(回転軸の回転中心に近い位置)に設定されることになる。
【0011】
図3は本発明の第2実施例を示したもので、本実施例では上記第1実施例における中央部分を平坦面1A’として形成し、かつその平坦面1A’の高さ位置を上記端部分の凹凸部1Bにおける平均高さ位置と同程度となるようにしたものである。その他の構成は、第1実施例と同一に構成してある。
この場合においても、中央部分の平坦面1A’の表面高さは、端部分の凹凸部1Bにおける山部5の頂部の高さよりも低くなり、また端部分の凹凸部1Bにおける溝4の底部の高さよりも高くなる。
【0012】
図4は、図2に示す本発明品について、摩擦係数(フリクション)の大きさを測定した試験結果を示すものである。本試験では、本発明品の試験結果を●で示してある。
比較品Aは、図2における端部分の凹凸部1Bに形成した溝4を軸受面の全体に形成したものである。本試験では、比較品Aの試験結果を■で示してあり、かつ比較品Aの摩擦係数を1として表示してある。
比較品Bは、図2における中央部分の凹凸部1Aの表面高さを、端部分の凹凸部1Bの表面高さと同一高さとなるように形成したものである。つまり、中央部分の凹凸部1Aにおける山部3の頂部の平均高さと、端部分の凹凸部1Bにおける山部5の頂部の平均高さとがほぼ同一高さとなるように設定したものである。したがって、中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLは、端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLよりも高くなっている。本試験では、比較品Bの試験結果を△で示してある。
比較品Cは、中央部分の凹凸部1Aにおける溝2の底部の平均高さを、端部分の凹凸部1Bにおける溝4の底部の平均高さと同一高さとなるように形成したものである。したがって、中央部分の凹凸部1Aにおける平均高さLは、端部分の凹凸部1Bにおける平均高さLよりも低くなっている。本試験では、比較品Cの試験結果を○で示してある。
これらにおいて、端部分の凹凸部1Bは、すべり軸受の軸受面に対してそれぞれの端部から1/8の範囲で設けてあり、したがって全体としては1/4の範囲で設けてある。
【0013】
図4の試験結果から理解されるように、本発明品における摩擦係数は、比較品に対して良好な結果を示している。特に本発明品は、面圧が高くなると、比較品に対してより良好な結果が得られている。
この図4の試験結果が得られた理由は、以下のように考えられる。
すなわち、すべり軸受にかかる面圧が高くない場合は、端部分の凹凸部1Bが設けられていることによって、潤滑油のサイドフローを抑制することができるので、すべり軸受の油膜圧力が面圧に対して十分に大きな状態となり、軸をすべり軸受の表面から浮上させることができる。さらに比較品Cおよび本発明品においては、中央部分の凹凸部1Aにおける表面高さおよび平均高さLが端部分の凹凸部1Bにおける表面高さおよび平均高さLよりもそれぞれ低いことにより、軸の表面がすべり軸受の表面からいっそう離れた状態となるので、中央部分におけるフリクションが小さくなる。
【0014】
しかし、高面圧時には軸にかかる荷重が大きくなり、軸の浮上量が小さくなるので、比較品B、Cおよび本発明品のそれぞれにおいてフリクションの大きさが異なってくる。
高面圧時における比較品Bは、端部分の凹凸部1Bの平均高さLが低いため、潤滑油のサイドフロー抑制効果が小さい。そのため軸の浮上量がさらに小さくなり、中央部分で軸とすべり軸受表面とが近付いた状態となり、中央部分におけるフリクションが大きくなる。
一方比較品Cは、端部分の凹凸部1Bの平均高さLが高いため、高面圧時で軸の浮上量が小さい場合に、端部分で軸とすべり軸受との接触が生じてしまい、フリクションが大きくなる。
これらに対して本発明品は、高面圧時でも油膜圧力の確保と端部分での接触回避とを両立できるため、総合的に最もフリクションを小さくすることができる。
【0015】
図5は本発明品について、端部分の凹凸部1Bの幅を変化させた場合における摩擦係数の変化を測定した試験結果を示すものである。本試験においても、比較品Aの摩擦係数を1として表示してある。
本試験においては、端部分の凹凸部1Bを形成しない場合(全面を中央部の凹凸部1Aで形成した場合)、軸受面のそれぞれの端部から1/8だけ形成した場合、1/4だけ形成した場合、全てに形成した場合(端部からの凹凸部の形成幅は50%)について、試験を行っている。また図5において、符号●は面圧を8.4MPaとした場合を、▲は面圧を31.6MPaとした場合をそれぞれ示している。
上記試験結果から理解されるように、端部分の凹凸部1Bは、軸受面のそれぞれの端部から1/8だけ形成した場合に良好な結果が得られており、特に面圧が低い場合でも、すべり軸受の端部分におけるサイドフロー抑制効果を確保しながら、中央部分でのフリクションを低減できる。
【0016】
図6は本発明の第3実施例を示したもので、本実施例の中央部分21Aは第1実施例の中央部分と同一形状の凹凸状に形成してある。他方、本実施例の両側の端部分21Bは、円周方向と直交する方向に形成した多数の溝24と各溝24の間に形成される山部25によって凹凸部を形成してある。
本実施例の端部分21Bは、多数の溝24と山部25とによって凹凸部を形成してあるが、その凹凸部の平均高さは中央部分21Aにおける凹凸部の平均高さと同一高さとなるように設定してあり、また上記中央部分21Aにおける凸部の頂点の平均高さは、端部分21Bにおける凸部の頂点の平均高さよりも低くなるように設定してある。
さらに図示しないが、上記第3実施例の変形例として、第2実施例と同様に上記中央部分21Aの表面を平坦に形成してもよい。
これらの構成においても、第1実施例や第2実施例と同等の作用効果を得ることができる。
【0017】
図7は本発明の第4実施例を示したもので、本実施例の中央部分31Aは第1実施例の中央部分と同一形状の凹凸状に形成してある。他方、本実施例の両側の端部分31Bは、円周方向と斜めに交差する方向に形成した多数の斜め溝34と各溝34の間に形成される山部35によって凹凸部を形成してある。上記各溝34と山部35は、その中央部側が矢印で示した相手軸の回転方向となるように傾斜して形成してある。
本実施例の端部分31Bは、多数の斜め溝34と山部35とによって凹凸部を形成してあるが、その凹凸部の平均高さは中央部分31Aにおける凹凸部の平均高さと同一高さとなるように設定してあり、また上記中央部分31Aにおける凸部の頂点の平均高さは、端部分31Bにおける凸部の頂点の平均高さよりも低くなるように設定してある。
さらに図示しないが、上記第4実施例の変形例として、第2実施例と同様に上記中央部分31Aの表面を平坦に形成してもよい。
これらの構成においても、第1実施例や第2実施例と同等の作用効果を得ることができる。
【0018】
図8は本発明の第5実施例を示したもので、上述した実施例のいずれも円筒部材の内面を軸受面としたジャーナルすべり軸受に関するものであるが、本実施例の軸受面41は円板状部材の表面に形成されたスラスト軸受面となっている。
そして、この円形の軸受面41の中央部分41Aは、半径方向において上記第1実施例の中央部分1Aと同一形状の凹凸状に形成してある。また、上記円形の軸受面41の外周部分を端部分41Bとしてあり、この端部分41Bは、円板状部材の円周方向に沿って連続した螺旋状または同心円状の溝44と、各溝の間の山部45とによって凹凸状に形成してある。
本実施例の端部分41Bにおいても、その凹凸部の平均高さは中央部分41Aにおける凹凸部の平均高さと同一高さとなるように設定してあり、また上記中央部分41Aにおける凸部の頂点の平均高さは、端部分41Bにおける凸部の頂点の平均高さよりも低くなるように設定してある。
さらに図示しないが、上記第5実施例の変形例として、第2実施例と同様に上記中央部分41Aの表面を平坦に形成してもよい。また端部分41Bの形状は上記図6〜8で示した端部分の形状としても良い。
このような構成においても、第1実施例や第2実施例と同等の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0019】
1、41 軸受面
1A、21A、31A、41A 中央部分の凹凸部
1B、21B、31B、41B 端部分の凹凸部
2、4、24、34、44 溝
3、5、25、35、45 山部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受において、
上記中央部分と端部分とのそれぞれに凹凸部を形成して、上記中央部分における凸部の頂点の平均高さを端部分における凸部の頂点の平均高さよりも低く設定し、さらに上記中央部分における凹凸部の平均高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項2】
軸受面に中央部分と端部分とを備えたすべり軸受において、
上記中央部分の表面を平坦に形成するとともに、上記端部分に凹凸部を形成して、上記中央部分の表面高さを端部分における凸部の頂点の平均高さよりも低く設定し、さらに上記中央部分における表面の高さと端部分における凹凸部の平均高さとを同一高さに設定したことを特徴とするすべり軸受。
【請求項3】
上記すべり軸受の軸受面は筒状部材の内面に形成されたジャーナル軸受面であって、該ジャーナル軸受面の両端部が上記端部分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
上記すべり軸受の軸受面は円板状部材の表面に形成されたスラスト軸受面であって、該円形のスラスト軸受面の外周部分が上記端部分であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のすべり軸受。
【請求項5】
上記凹凸部は、相互に平行に形成された多数の溝から構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のすべり軸受。
【請求項6】
上記多数の溝は、相手材との摺動方向と平行な方向と、直交する方向と、さらに斜めに交差する方向とのいずれかの方向に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のすべり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−97838(P2012−97838A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246435(P2010−246435)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000207791)大豊工業株式会社 (152)
【Fターム(参考)】