説明

なじみ層の製作方法

本発明はなじみ層の製作方法に関するものであり、この方法では、例えばガスタービンなどのターボ機械の固定側部品の表面に、金属系材料から成るなじみ層を形成する。そして、本発明によれば、形成したなじみ層に対して、そのなじみ層のなじみ特性を改善するために、熱処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の前提部分に記載した種類のなじみ層の製作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばガスタービンなどのターボ機械は、一般的に、回転側部品である複数の動翼と、固定側部品である複数の案内翼とを備えており、動翼はロータと一体に回転し、また、動翼及び案内翼は共に固定側部品であるケーシングに囲繞されている。発生出力を増大させる上では、全ての構成部品及びサブシステムを最適化することが重要である。そして、いわゆる封止システムも、最適化すべきサブシステムのうちの1つである。ターボ機械に付随する特に困難な課題の1つに、その高圧コンプレッサ部において、回転側部品である動翼と固定側部品であるケーシングとの間の最小間隙を確保するということがある。その原因は、高圧コンプレッサ部では、発生する絶対温度が高温であることに加えて、発生する温度勾配も大きいからであり、これらによって、回転側部品である動翼と固定側部品であるケーシングとの間の間隙を確保することが困難になっているのである。そしてこのことが、タービン部の動翼には装備されているシュラウドバンドが、コンプレッサ部の動翼には装備されていないことの理由となっている。
【0003】
このように、コンプレッサ部の動翼には、シュラウドバンドが装備されていない。そのため、回転側部品である動翼の先端即ち翼端は、固定側部品であるケーシングに対していわゆる軽接触をした際に、そのケーシングに直に摩擦接触することになる。このようなケーシングに対する動翼の翼端の軽接触は、径方向の間隙を調整して最小間隙とする作業に伴う製造誤差によって生じるものである。動翼の翼端がケーシングに摩擦接触することによって材料の摩耗が進行するため、その結果、ケーシング及びロータの全周において径方向の間隙が拡大してしまうという不都合が発生する。この不都合を防止するために、動翼の先端即ち翼端に、硬質層を形成したり砥粒を付着させたりすることが、従来公知となっている。
【0004】
別の解決方法として、動翼の翼端の摩耗を防止し、動翼の先端即ち翼端と固定側部品であるケーシングとの間の封止性能を最適に保つために、ケーシングにいわゆるなじみ層を設けるという方法がある。このなじみ層が摩耗してその材料がすり減って行く際には、径方向の間隙の拡大は全周において均等に発生するのではなく、通常、偏心した形で発生する。これによって、エンジンの出力低下が防止される。このようななじみ層を設けたケーシングは、従来公知のものである。
【0005】
ターボ機械のコンプレッサ部に設けられる従来公知のなじみ層は、通常、金属系材料により製作されており、その金属系材料を、溶射法を用いて、固定側部品であるケーシングの構成部品の表面にコーティングするようにしている。しかしながら、ターボ機械の運転中に、そのターボ機械の動作温度に応じて、なじみ層のなじみ特性が変化して、その動作温度が高温になるほどなじみ層の硬度が増大するということが観察されており、そうなると、動翼が、なじみ層に軽接触した際に損傷するおそれが生じてくる。従って、なじみ層としては、ターボ機械の運転中に発生する温度の全領域に亘って適当な硬度を維持することができ、それゆえ良好ななじみ特性を維持することができ、もって、そのなじみ層に軽接触した動翼が損傷するおそれを低減することのできる、なじみ層が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる事情に鑑み成されたものであり、本発明の課題はなじみ層の新規な製作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、請求項1に記載したなじみ層の製作方法によって達成される。本発明によれば、形成したなじみ層に対して、そのなじみ特性を改善するために、熱処理を施す。本発明に従って製作されるなじみ層は、特に、コンプレッサや、低圧タービンに用いるのに適したものである。
【0008】
本発明は、新規製作に際して形成したなじみ層、または補修により形成したなじみ層に対して、そのなじみ層のなじみ特性を改善するために、熱処理を施すことを提案するものである。この熱処理によって、金属系材料から成るなじみ層は、その金属マトリックスが硬化作用と酸化作用とを受け、これによりなじみ層のなじみ特性が改善され、安定化される。また、形成したなじみ層に熱処理を施すことによって、そのなじみ層は、いわば、人工エイジング処理を受けることになり、そのため、後の供用時に、安定したなじみ特性を示すようになる。
【0009】
本発明の特に有利な実施の形態においては、前記熱処理を、前記ターボ機械の運転中に前記なじみ層が受ける最高温度より高い処理温度で実行するようにしている。またその場合に、前記熱処理の前記処理温度を、前記ターボ機械の運転中に前記なじみ層が受ける最高温度より約50℃〜200℃高い温度とするようにしている。また、前記熱処理を、1時間〜200時間の処理時間に亘って実行するようにしている。
【0010】
本発明の特に有利な実施の形態においては、形成した前記なじみ層に対して、前記熱処理を施すのに先立って、化学薬品溶液ないし化学薬品溶液浴でのリンス処理を施すようにしている。これにより、以降の熱処理のプロセス時間を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、例えば航空機用ガスタービンエンジンのケーシング部分の表面などの、ターボ機械の固定側部品の表面に設ける、なじみ層の製作方法に関するものである。本発明によれば、新規製作に際して初期なじみを形成した後に、または補修によりなじみ層を形成した後に、その形成したなじみ層に対して、そのなじみ層のなじみ特性を最適化するために、熱処理を施す。またその際に、その熱処理を、ターボ機械の運転中にそのなじみ層が受ける最高温度より高い処理温度で実行する。これによって、金属系材料から成るなじみ層(即ち、金属系なじみ層)は、その金属マトリックスが硬化作用と酸化作用とを受け、これにより金属系なじみ層は、そのなじみ特性が改善され、安定化される。なじみ層が供用中に受ける最高温度より高い処理温度で実行するこの熱処理によって、金属系なじみ層はその硬度が最適化され、即ち、供用中に高温下にあっても良好ななじみ特性を示すものとなり、しかも、その良好ななじみ特性は、ターボ機械の寿命が尽きるまで持続する。
【0012】
熱処理によって得られるなじみ層の硬度は、2つの作用によって決まり、それらはなじみ層に対する硬化作用と酸化作用とである。熱処理の処理時間が長くなるほど、硬化作用はなじみ層の硬度をより上昇させる方向に働き、一方、酸化作用はなじみ層の硬度をより低下させる方向に働く。熱処理の処理時間を意図的に選択することによって、なじみ層の硬度を高精度で設定することができる。
【0013】
金属系材料から成るなじみ層として、NiCrAl材料、またはCoNiCrAlY−hBN材料から成る多孔質のなじみ層を、溶射法によって形成することが好ましく、そのようにして形成したなじみ層に対して、続いて熱処理を施すようにする。
【0014】
熱処理の処理温度は、供用中(ターボ機械の運転中)になじみ層が受ける最高温度より約50℃〜200℃高い温度とするとよく、その最高温度より約100℃〜150℃高い温度とすればなお好ましい。
【0015】
供用中(ターボ機械の運転中)になじみ層が受ける温度が、例えば450℃〜650℃であるならば、熱処理の処理温度を600℃〜800℃とすることが好ましい。供用中に受ける最高温度が650℃であるならば、熱処理を750℃で実行することが好ましい。
【0016】
更に、形成したなじみ層に対する熱処理は、1時間〜200時間の処理時間に亘って実行するとよく、2時間〜20時間の処理時間に亘って実行するようにすればなお好ましい。尚、熱処理の処理温度を高くするほど、その処理時間を短くするようにする。
【0017】
多段式のコンプレッサ段において、各々のコンプレッサ段の最高動作温度が夫々に異なる場合には、各々のコンプレッサ段のなじみ層の熱処理の処理温度を、そのコンプレッサ段の最高動作温度に適合させればよい。
【0018】
従って、本発明の方法によれば、例えば新規製作に際して形成したなじみ層、または補修により形成したなじみ層に対して、それを形成した後に、熱処理を施す。またその際に、その熱処理を、供用中にそのなじみ層が受ける最高温度より高い処理温度で実行し、また、その処理温度に適合した処理時間に亘って実行する。これによって、形成されたなじみ層は、人工エイジング処理を受けることになり、最終的に、そのなじみ層のなじみ特性を最適化し、また安定化することができる。
【0019】
本発明の特に有利な実施の形態においては、形成した多孔質のなじみ層に対して、熱処理を施すのに先立って化学薬品溶液によるリンス処理を施すようにしている。また、このリンス処理を実行した後に乾燥処理を実行し、しかる後に熱処理を実行するようにしており、しかもその際に、乾燥処理が完了した後にも、毛管現象によって化学薬品溶液がなじみ層の細孔内に残存するようにしている。このリンス処理を実行することによって、それに続いて実行する熱処理の処理時間を短縮することができ、なぜならば、その化学薬品溶液によって特に、金属マトリックスの酸化を促進することができるからである。
【0020】
このリンス処理は、例えば、脱ミネラル水と水酸化ナトリウムとから成る溶液すなわち水酸化ナトリウム溶液によるリンス処理とするとよい。或いはまた、このリンス処理を、ジエチレングリコールモノブチルエーテルによるリンス処理、または、水酸化ナトリウムとモノフェニルグリコールとクメンスルホン酸ナトリウムとから成る溶液によるリンス処理とするのもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
なじみ層の製作方法において、
例えばガスタービンなどのターボ機械の固定側部品の表面に、金属系材料から成るなじみ層を形成し、
形成した前記なじみ層に対して、該なじみ層のなじみ特性を改善するために、熱処理を施すことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記熱処理を、前記ターボ機械の運転中に前記なじみ層が受ける最高温度より高い処理温度で実行することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理の前記処理温度を、前記ターボ機械の運転中に前記なじみ層が受ける最高温度より約50℃〜200℃高い温度とすることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理の前記処理温度を、前記ターボ機械の運転中に前記なじみ層が受ける最高温度より約100℃〜150℃高い温度とすることを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記熱処理の前記処理温度を、600℃〜800℃とすることを特徴とする請求項3又は4記載の方法。
【請求項6】
前記熱処理を、1時間〜200時間の処理時間に亘って実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理の前記処理時間を、2時間〜20時間とすることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理の前記処理温度を高くするほど前記熱処理の前記処理時間を短くするようにして、前記熱処理の前記処理時間を前記熱処理の前記処理温度に適合させることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項記載の方法。
【請求項9】
金属系材料から成る前記なじみ層として、例えば溶射により多孔質のなじみ層を形成することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項記載の方法。
【請求項10】
形成した前記なじみ層に対して、前記熱処理を施すのに先立って化学薬品溶液によるリンス処理を施すことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項記載の方法。
【請求項11】
前記リンス処理を実行した後に乾燥処理を実行し、しかる後に前記熱処理を実行することを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
形成した前記なじみ層に対して、脱ミネラル水と水酸化ナトリウムとから成る溶液または水酸化ナトリウム溶液によるリンス処理を施すことを特徴とする請求項10又は11記載の方法。
【請求項13】
形成した前記なじみ層に対して、ジエチレングリコールモノブチルエーテルによるリンス処理を施すことを特徴とする請求項10又は11記載の方法。
【請求項14】
形成した前記なじみ層に対して、水酸化ナトリウムとモノフェニルグリコールとクメンスルホン酸ナトリウムとから成る溶液によるリンス処理を施すことを特徴とする請求項10又は11記載の方法。

【公表番号】特表2009−518571(P2009−518571A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543645(P2008−543645)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際出願番号】PCT/DE2006/002122
【国際公開番号】WO2007/065403
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(391028384)エムテーウー・アエロ・エンジンズ・ゲーエムベーハー (26)
【住所又は居所原語表記】DACHAUER STRASSE 665,80995 MUENCHEN,GERMANY
【Fターム(参考)】