説明

ねじ及びねじ締結構造

【課題】 6価クロメート処理のねじと略同等のトルク特性を有する3価クロムの化成皮膜処理のねじを提供する。
【解決手段】 ボルト1の表面には、亜鉛メッキ処理により、亜鉛メッキ層16が形成され、この亜鉛メッキ層116の上にさらに、3価クロムの化成皮膜処理により、3価クロムの化成皮膜17が形成される。この被膜17は、ボルト1の締め込みによりボルト1の被締付け部材に対する接触部の3価クロムの化成皮膜17が削れて亜鉛系メッキ層16が表面に露出可能に薄く、軟質に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面にメッキ処理を行い、このメッキ層の上に6価クロムを含有しない3価クロムの化成皮膜処理を施すねじ及びねじ締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ねじの腐食防止のために、表面にメッキ処理を施し、さらにその上をクロメート被膜で覆う処理が行われている。このクロメート被膜のうち、特に6価クロメート被膜は含水量が高く、比較的軟質で、その特徴である自己修復作用を発揮することにより、高い耐食性を有する。ところが、6価クロムは人体に有害であることや環境汚染につながることなどから、6価クロムの使用が世界中で実質的に制限され、従来の6価クロムを含むクロメート処理から6価クロムを含まない代替処理への変更が検討されている。一般的な代替手法として用いられるのは、3価クロム化合物を含む化成処理である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特表2000−509434公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、一般的な3価クロムの化成皮膜処理のねじでは、3価クロムの化成皮膜が6価クロメート被膜に比べて硬質で、締結の際のトルク特性が低下し、特に緩みトルクが大きく低下するという問題がある。とりわけねじの中でも高軸力域で使用する例えばクランクプーリーボルトなどのボルトの場合、3価クロムの化成皮膜処理と6価クロメート処理とではトルク特性に大きな差異が生じ、3価クロムの化成皮膜処理のボルトの緩みトルクは6価クロメート処理のボルトに比べて10パーセント〜30パーセント低下する。これは構造部材を固定するねじの締結力が低下することに他ならず、これでは従来の6価クロメート処理のねじが保証していた機能を満足することができない可能性がある。また、一般的な3価クロムの化成皮膜処理では、元来6価クロムより劣る耐食性を補うために、他の金属化合物を含有させたり、表面にSiО2を含む層やコーティングを追加したりするなど多層構造化する手法を取るため、3価クロムの化成皮膜は比較的硬質になり、これがねじのトルク特性、特に緩みトルクを悪化させるなど、大きな影響を及ぼしている。
【0004】
本発明は、このような従来の問題を解決するもので、6価クロメート処理のねじと略同等のトルク特性を有する3価クロムの化成皮膜処理のねじ及びねじ締結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のねじは、表面に亜鉛系メッキ層を形成され、該亜鉛メッキ層の上に6価クロムを含有しない3価クロムの化成皮膜が形成されるねじにおいて、少なくともねじの被締付け部材に対する接触部の、前記3価クロムの化成皮膜の膜厚は、ねじの締め込みによりねじと被締付け部材が接触して、ねじ側の接触部の前記3価クロムの化成皮膜が削れて前記亜鉛系メッキ層が露出可能に薄く形成されることを要旨とする。この場合、3価クロムの化成皮膜の膜厚は50nm以上100nm未満の範囲から設定される。
【0006】
また、本発明のねじ締結構造は、金属部材間をねじの締め込みにより締結するねじ締結構造において、前記金属部材と前記ねじの接触部の少なくとも一方に、亜鉛系メッキ層を形成され、該亜鉛系メッキ層の上に6価クロムを含有しない3価クロムの化成皮膜が形成され、前記3価クロムの化成皮膜の膜厚は、ねじの締め込みにより前記接触部の前記3価クロムの化成皮膜が削れて前記亜鉛系メッキ層が露出可能に薄く形成されることを要旨とする。この場合、3価クロムの化成皮膜の膜厚は50nm以上100nm未満の範囲から設定される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のねじは、上記各構成により、ねじの締め込みにより、ねじの被締付け部材に対する接触部の3価クロムの化成皮膜が削れて亜鉛系メッキ層が露出されるので、亜鉛系メッキの3価クロムの化成皮膜よりも高い摩擦力により、従来の6価クロメート処理のねじと略同等の高いトルク特性を得ることができる。
【0008】
本発明のねじは、上記各構成により、ねじの締め込みにより、金属部材とねじの接触部の少なくとも一方の3価クロムの化成皮膜が削れて亜鉛系メッキ層が露出されるので、亜鉛系メッキの3価クロムの化成皮膜よりも高い摩擦力により、従来の6価クロメート処理のねじ締結構造と略同等の高いトルク特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について図を用いて説明する。図1において、ボルト1は自動車のエンジンに使用するクランクプーリーボルトで、頭部11と、頭部11の下面に形成されたフランジ部12と、フランジ部12の座面13の中央に座面13に対して垂直方向に延びるねじ14を切られた軸部15とを備える。
【0010】
図1中P部を図2に拡大して示す。図2に示すように、このボルト1の(金属の)表面には、亜鉛メッキ処理により、亜鉛メッキ層16が形成される。この場合、亜鉛メッキ層16の厚さは、耐食性を十分に確保できるように、通常必要とする適宜厚さが設定される。
【0011】
この亜鉛メッキ層16の上にさらに、3価クロムの化成皮膜処理により、3価クロムの化成皮膜17が形成される。この3価クロムの化成皮膜処理では、従来の一般の3価クロムの化成皮膜処理の処理液及び処理条件を変更し、処理液の濃度を薄くすることで、薄く、軟質の3価クロムの化成皮膜17が生成される。この場合、3価クロムの化成皮膜17の実質的な成分は3価クロムで、他の金属化合物は含有されていない。また3価クロムの化成皮膜17の表面にSiО2を含む層やコーティングが追加されることもない。3価クロムの化成皮膜17の膜厚は、50nm以上100nm未満の範囲から選択され、ここでは80nmに設定される。このような処理により、3価クロムの化成皮膜17は、従来の6価クロメート被膜と同等の特性に改質される。すなわち、6価クロメート処理のボルトでは、ボルトの締め込みによりボルトと被締付け部材が接触し、高軸力側ではボルトの接触部に高い面圧が発生し、当該接触部の6価クロメート被膜が削れて直下の亜鉛メッキ層を露出する。亜鉛メッキ層は6価クロメート被膜より10パーセント〜50パーセント高い摩擦を示し、このように亜鉛メッキ層が露出した状態のボルトの緩みトルクは、亜鉛メッキ層を露出しないものに比べて10パーセント〜50パーセント高いトルクを示す。このように3価クロムの化成皮膜17は、ボルト1の締め込みによりボルト1と被締付け部材が接触し、6価クロメート被膜が削られる面圧でボルト1の接触部、特に座面13の3価クロムの化成皮膜17が削れて亜鉛系メッキ層16が表面に露出できるように、薄く、軟質に形成される。
【0012】
なお、このような改質された3価クロムの化成皮膜17は、ボルト1の特に、頭部11又はフランジ部12の座面13、軸部15やねじ14の一部など、ボルト1の被締付け部材に対する接触部にのみ形成されてもよい。この場合、接触部は高い接触面圧を発生する接触部分が選定されることが好ましい。
【0013】
このようにして3価クロムの化成皮膜17は従来の6価クロメート被膜と同等の硬度特性を持つ。このボルト1を被締付け部材に締付けると、6価クロメート処理のボルトと同様のメカニズムで、高軸力側ではボルト1の座面13に高い面圧が発生し、座面13の3価クロムの化成皮膜17は削れて直下の亜鉛メッキ層16が露出し、この亜鉛メッキ層16の3価クロムの化成皮膜17よりも10〜50パーセント高い摩擦力により、6価クロメート被膜と略同等のトルク特性を得ることができ、特に、ボルト1の緩みトルクを大きく向上させることができる。なお、従来の一般的な3価クロムの化成皮膜処理のボルトでは、6価クロメート被膜が削れる面圧が発生しても、3価クロムの化成皮膜は削れず、亜鉛メッキは露出しない。同じ軸力同士で比べると、この実施の形態の3価クロムの化成皮膜処理のボルト1の緩みトルクは、一般的な3価クロムの化成皮膜処理のボルトに比べて、10パーセント〜50パーセント高くなる。
【0014】
図3にボルト1を用いたねじ締結構造を示す。図3において、このねじ締結構造2は、クランクの軸端(図示省略)にクランクスプロケット(図示省略)とクランクプーリー20とを順次取り付けて、ボルト1がクランクの軸端のねじ穴に螺合されて締付けられている。この場合、ボルト1の座面13に高い面圧が発生して、座面13の3価クロムの化成皮膜17は削れて直下の亜鉛メッキ層16が露出し、この亜鉛メッキ層16の3価クロムの化成皮膜17よりも高い摩擦力で、6価クロメート被膜と略同等のトルク特性を得ることができる。特に、ボルト1の緩みトルクは、従来の3価クロムの化成皮膜処理の硬質のボルトに比べて10〜50パーセント高いトルク特性を得ることができる。
【0015】
また、このねじ締結構造2でも、改質された3価クロムの化成皮膜17はボルト1の特に、頭部11又はフランジ部12の座面13、軸部15やねじ14の一部など、ボルト1の被締付け部材に対する接触部にのみ形成されてもよい。この場合、接触部は高い接触面圧を発生する接触部分が選定されることが好ましい。このようにしても6価クロメート被膜と略同等のトルク特性を得ることができる。特に、ボルト1の緩みトルクは、従来の3価クロムの化成皮膜処理の硬質のボルトに比べて10〜50パーセント高いトルク特性を得ることができる。また、このねじ締結構造2では、ボルト1に代えて、金属部材側の少なくとも接触部に同様にして、亜鉛系メッキ層16を形成し、その上に3価クロムの化成皮膜17を形成してもよく、このようにしても同様の効果を奏することができる。
【0016】
なお、上記実施の形態では、本発明のねじ及びねじ締結構造としてボルトを例示しているが、ナットや、機械部品に一体的に組み付けられたおねじ部材やめねじ部材にも、同様の構成を採用し、同様の作用、効果を奏することができる。
【実施例1】
【0017】
今回改質した3価クロムの化成皮膜処理のボルトの仕様確認結果を図4の新規3価クロム化成皮膜のトルク−軸力線図に示す。また、比較例として、図5に従来の一般的な3価クロムの化成皮膜処理のボルトのトルク−軸力線図を示し、図6に従来の6価クロメート処理のボルトのトルク−軸力線図を示す。これらの図4、図5及び図6から明らかなように、今回改質した3価クロムの化成皮膜処理のボルトに、従来の6価クロメート処理のボルトと略同等のトルク特性を得ることができ、特に、高軸力で使用し高い締結力を必要とするボルトに、6価クロメート処理のボルトと同等の高い緩みトルクを達成することができた。また、クランクプーリーボルトのようにエンジンの高温(80℃以上)に晒される環境を想定した熱劣化後の耐食性試験では、今回改質した3価クロムの化成皮膜処理のボルトは従来の6価クロメート処理のボルトよりも優れた耐食性を有することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態におけるねじの側面図
【図2】同ねじの部分断面図
【図3】同ねじを用いたねじ締結構造の部分断面側面図
【図4】今回改質した新規3価クロムの化成皮膜処理のボルトのトルク−軸力線図
【図5】従来の一般的な3価クロムの化成皮膜処理のボルトのトルク−軸力線図
【図6】従来の6価クロメート処理のボルトのトルク−軸力線図
【符号の説明】
【0019】
1 ボルト
11 頭部
12 フランジ部
13 座面
14 ねじ
15 軸部
16亜鉛メッキ層
17 3価クロムの化成皮膜
2 ねじ締結構造
20 クランクプーリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に亜鉛系メッキ層を形成され、該亜鉛メッキ層の上に6価クロムを含有しない3価クロムの化成皮膜が形成されるねじにおいて、
少なくともねじの被締付け部材に対する接触部の、前記3価クロムの化成皮膜の膜厚は、ねじの締め込みによりねじと被締付け部材が接触して、ねじ側の接触部の前記3価クロムの化成皮膜が削れて前記亜鉛系メッキ層が露出可能に薄く形成されることを特徴とするねじ。
【請求項2】
3価クロムの化成皮膜の膜厚は50nm以上100nm未満の範囲から設定される請求項1に記載のねじ。
【請求項3】
金属部材間をねじの締め込みにより締結するねじ締結構造において、
前記金属部材と前記ねじの接触部の少なくとも一方に、亜鉛系メッキ層を形成され、該亜鉛系メッキ層の上に6価クロムを含有しない3価クロムの化成皮膜が形成され、
前記3価クロムの化成皮膜の膜厚は、ねじの締め込みにより前記接触部の前記3価クロムの化成皮膜が削れて前記亜鉛系メッキ層が露出可能に薄く形成されることを特徴とするねじ締結構造。
【請求項4】
3価クロムの化成皮膜の膜厚は50nm以上100nm未満の範囲から設定される請求項3に記載のねじ締結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−348314(P2006−348314A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172263(P2005−172263)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(392027254)株式会社佐賀鉄工所 (2)
【Fターム(参考)】