説明

ねじ締結構造

【課題】ねじの締結作業性を低下させることがなく、且つねじ締付能力の向上を図ることが可能なねじ締結構造を提供する。
【解決手段】ねじ締結構造は、締結物1にバーリング下穴11を形成し、被締結物2に設けた抜き穴21にねじ3を通してバーリング下穴11に螺合させるねじ締結構造であって、被締結物2の抜き穴21の周縁部を立ち起こして突口22を形成し、ねじ3をバーリング下穴11に螺合させると抜き穴21の突口22の先端部23がバーリング下穴11の周縁部13に当接する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、締結物と被締結物とをねじで締結させるねじ締結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガス器具等に使用される箱体等を構成する板金同士のねじ締結構造として、締結物となる板金にバーリング下穴を形成し、被締結物となる板金に設けた抜き穴にタッピンねじを通してバーリング下穴に螺合させる構造がある。この場合、タッピンねじを締め付ける際に、タッピンねじの引き上げ力によって締結物のバーリング下穴の周縁部が盛り上がるように変形してねじ締付能力が低下することがあった。このような不具合を解消するため、各種のねじ締結構造が提案されている。
【0003】
例えば、バーリング下穴を改良したものとして、バーリング下穴の基端部をテーパ状の皿座とし、バーリング下穴の周縁部の剛性を大きくしたもの(特許文献1)、また、バーリング下穴の根元部分にその外周面から突出する複数のリブを形成し、バーリング下穴の周縁部の変形を阻止するようにしたもの(特許文献2)等がある。
【0004】
また、ねじの形状を変更したものとして、段付ねじを用い、段付ねじの段部にバーリング下穴の周縁部を当接させるようにし、バーリング下穴の周縁部の変形を阻止するようにしたものがある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭54−27503号公報
【特許文献2】特開2009−293663号公報
【特許文献3】特開昭62−24011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、バーリング下穴を改良したものでも、特許文献1のものではバーリング下穴のテーパ状の皿座の周縁部や、特許文献2のものではバーリング下穴の外周面に突設するリブの周縁部においては、ねじの引き上げ力による変形を防止することが困難であった。特に、バーリング下穴を形成する締結物として、この締結物を構成する板金の板厚が薄くなると、バーリング下穴の周縁部の変形が大きくなり、しかもバーリング下穴の雌ねじの破壊トルクが減少するため、ねじ締結に要求される締付能力を十分に発揮できなかった。
【0007】
一方、特許文献3の段付ねじを採用するものでは、段付ねじを被締結物の抜き穴に通す際、段付ねじの段部が抜き穴の周縁に引っ掛かって抜き穴への挿入が阻害されることがあり、また、段付ねじは、先端のねじ部が見え難く、バーリング下穴への挿入に手間どることがあり、そのため、ねじ締結の作業性を低下させることがあった。また、段付ねじを採用することで被締結物の抜き穴の穴径が大きくなるため、この被締結物を薄板の板金で構成すると、抜き穴の周縁部の強度が低下するおそれがあった。しかも、段付ねじのような特殊なねじを使用するのはコスト的にも不経済であった。
【0008】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、ねじの締結作業性を低下させることがなく、且つねじ締付能力の向上を図ることが可能なねじ締結構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るねじ締結構造は、
締結物にバーリング下穴を形成し、被締結物に設けた抜き穴にねじを通してバーリング下穴に螺合させるねじ締結構造であって、
被締結物の抜き穴の周縁部を立ち起こして突口を形成し、ねじをバーリング下穴に螺合させると、抜き穴の突口の先端部がバーリング下穴の周縁部に当接する構成としたものである。
【0010】
これにより、抜き穴の突口の先端部がバーリング下穴の周縁部に当接することによって、ねじの引き上げ力で締結物のバーリング下穴の周縁部が盛り上がって変形することを確実に阻止することができる。また、突口の先端部によってバーリング下穴がねじの螺入で拡径しようとする力を抑え込むことができる。従って、バーリング下穴の雌ねじが破壊する限界のトルクである破壊トルクを増大することができ、ねじ締付能力を向上することができる。
【0011】
また、ねじは、一般的なねじを使用することで十分にバーリング下穴の雌ねじの破壊トルクを向上することができ、段付ねじのような特殊ねじを使用する必要がない。従って、ねじを抜き穴やバーリング下穴に円滑に挿入することができ、ねじの締結作業性を低下させることがない。また、段付ねじを用いた場合のように被締結物の抜き穴の穴径を大きくしなくてもよく、被締結物を薄板にした場合でも抜き穴の周縁部の強度を確保することができ、しかも、一般的なねじを使用することでねじのコストを抑えることができる。
【0012】
上記ねじ締結構造において、突口は、先端部に向かって小径となるテーパ状に形成するのが望ましい。
この場合、テーパ状の突口が弾性機能を発揮して突口の先端部によってバーリング下穴を縮径方向に抑え込むことができる。従って、バーリング下穴の雌ねじの破壊トルクをより増大することができ、ねじ締付能力をより向上することができる。また、テーパ状の突口の弾性力の反力によってねじが強固に固定されるので、ねじの緩み止め効果が向上される。
【0013】
上記ねじ締結構造において、締結物のバーリング下穴の基端部をテーパ状に形成し、被締結物の抜き穴の突口の先端部がバーリング下穴のテーパ部分の周縁部に当接する構成とするのが望ましい。
この場合、締結物のバーリング下穴の基端部をテーパ状に形成することによりバーリング下穴の周縁部の剛性を強くすることができ、しかも、抜き穴の突口の先端部よってねじの引き上げ力によるバーリング下穴のテーパ部分の周縁部の変形を確実に阻止することができる。
【0014】
上記ねじ締結構造において、ねじの頭部の下面は、平坦面に形成されており、被締結物の突口を形成しない表側の抜き穴の周縁部における平坦な座面を押圧する構成とするのが望ましい。
これにより、ねじをバーリング下穴に螺合することで抜き穴の周縁部の突口をバーリング下穴の周縁部に強く押し付けることができる。従って、ねじの引き上げ力による締結物のバーリング下穴の周縁部の盛り上がりをより確実に阻止することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明に係るねじ締結構造によれば、締結物のバーリング下穴の周縁部の変形を確実に阻止してバーリング下穴の破壊トルクを増大することができるので、締結物の板厚を薄くしても、ねじ締結に要求される締付能力を十分に発揮することができる。従って、締結物及び被締結物を薄板化して、重量の軽量化を図ることができ、また、製品コストを安くすることができる。また、段付ねじのような特殊ねじを使用する必要がないので、ねじの締結作業性を低下させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態によるねじ締結構造を示す断面図である。
【図2】実施形態によるねじ締結構造においてタッピンねじを固く締め付ける前の状態を示す断面図である。
【図3】他の実施形態として、突口の形状をテーパ状に変更した場合のねじ締結構造を示す断面図である。
【図4】また、他の実施形態として、バーリング下穴の形状をテーパ状に変更した場合のねじ締結構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本実施形態のねじ締結構造は、例えば、給湯器において熱交換器を収容する箱体とバーナを収容する箱体との連結部分等に利用される。ただし、本発明のねじ締結構造は、給湯器等のガス器具に限らず、各種製品における締結物と被締結物とをねじで締結させるねじ締結構造に適用することができる。
【0018】
図1に示すように、実施形態のねじ締結構造は、締結物となる第1の板材1に被締結物となる第2の板材2をシール用のパッキン4を介在させて重ね合わせ、これら第1の板材1と第2の板材2とをタッピンねじ3で締結させた構造である。第1の板材1及び第2の板材2は、板金で形成され、パッキン4は、発泡樹脂材等で形成されている。タッピンねじ3は、頭部31とねじ軸33とからなる一般的なタッピンねじが使用され、頭部31の下面32は、平坦面に形成されている。
【0019】
第1の板材1には、ねじ締付位置にバーリング加工により略90度に立ち上がった円筒部12を有するバーリング下穴11が形成されている。バーリング下穴11の円筒部12の内径は、タッピンねじ3のねじ軸33の山径よりも径小に形成されており、このバーリング下穴11にタッピンねじ3が螺合される。
【0020】
第2の板材2には、第1の板材1のバーリング下穴11と対応する位置にバーリング下穴11よりも径大な抜き穴21が形成されている。抜き穴21の内径は、タッピンねじ3のねじ軸33の山径よりも径大で、且つタッピンねじ3の頭部31の外径よりも径小に形成されている。この抜き穴21にタッピンねじ3が挿通される。
【0021】
また、第2の板材2の抜き穴21の周縁部は、第2の板材2の裏側においてバーリング加工により略90度に立ち起こした円筒状の突口22となっている。この突口22は、タッピンねじ3を抜き穴21を通してバーリング下穴11に螺合させると、この突口22の先端部23がバーリング下穴11の周縁部13に当接される。第2の板材2の表側における抜き穴21の周縁部は、平坦な座面24となっており、この平坦な座面24にタッピンねじ3の頭部31の平坦な下面32が当接される。なお、抜き穴21においてタッピンねじ3の頭部31と第2の板材2の座面24との間に座金を介在させてもよい。また、パッキン4には、第2の板材2における抜き穴21の突口22が嵌り込む大きさの孔部41が形成されている。
【0022】
次に、第1の板材1と第2の板材2とをタッピンねじ3でねじ締結する動作を説明する。
第1の板材1のバーリング下穴11とパッキン4の孔部41と第2の板材2の抜き穴21とが一致するように、第1の板材1と第2の板材2とをパッキン4を介在させて重ね合わせる。このとき、第2の板材2の抜き穴21の突口22がパッキン4の孔部41内に嵌り込んだ状態となる。そして、タッピンねじ3を第2の板材2の表側から抜き穴21及びパッキン4の孔部41に挿通させて、このタッピンねじ3のねじ軸33の先端部を第1の板材1のバーリング下穴11に突き当てた状態で、タッピンねじ3の頭部31をドライバー等の工具により締め付ける。すると、図2に示すように、タッピンねじ3のねじ軸33がバーリング下穴11の円筒部12の内周面に雌ねじを刻設しながら捻じ込まれる。タッピンねじ3の頭部31の下面32が第2の板材2の座面24に当接した後に、さらにタッピンねじ3を捻じ込むとタッピンねじ3の頭部31で第2の板材2が第1の板材1側へ押圧され、最終的にパッキン4が第1の板材1と第2の板材2との間に圧縮されて第2の板材2の抜き穴21の突口22の先端部23が第1の板材1のバーリング下穴11の周縁部13に当接した状態で締付が完了する(図1参照)。
【0023】
以上の本実施形態のねじ締結構造によれば、抜き穴21の突口22の先端部23がバーリング下穴11の周縁部13に当接するようにしたので、タッピンねじ3をバーリング下穴11に螺合させた際に第1の板材1のバーリング下穴11の周縁部13がタッピンねじ3の引き込み力によって第2の板材2側へ盛り上がって変形することを確実に阻止することができる。また、タッピンねじ3の頭部31の下面32は、平坦面に形成されて第2の板材2の表側における抜き穴21の周縁部の平坦な座面24を押圧するので、抜き穴21の突口22が第1の板材1のバーリング下穴11の周縁部13を強く押し付けることができる。これにより、タッピンねじ3の引き込み力によって第1の板材1のバーリング下穴11の周縁部13が第2の板材2側へ盛り上がって変形することをより確実に阻止することができる。さらに、突口22の先端部23によってバーリング下穴11がタッピンねじ3の螺入で拡径しようとする力を抑え込むことができる。
【0024】
以上の結果、バーリング下穴11の雌ねじが破壊する限界のトルクである破壊トルクを増大することができ、ねじ締結に要求されるねじ締付能力を向上することができる。よって、第1の板材1の板厚を薄くしても、ねじ締結に要求される締付能力を十分に発揮することができるので、第1の板材1及び第2の板材2を薄板化して、重量の軽量化を図ることができ、また、製品コストを安くすることができる。また、抜き穴21の突口22がバーリング下穴11の周縁部13を強く押し付ける力の反力によってタッピンねじ3が強固に固定され、緩み止め効果が発揮される。
【0025】
また、タッピンねじ3は、段付タッピンねじのような特殊ねじを使用しなくても一般的なものを使用することで十分にバーリング下穴11の雌ねじの破壊トルクを向上することができる。従って、段付タッピンねじを使用する場合に比べて、タッピンねじ3を第2の板材2の抜き穴21や第1の板材1のバーリング下穴11に円滑に挿入することができ、タッピンねじ3の締結作業性を低下させることがない。また、段付タッピンねじを使用すると第2の板材2の抜き穴21の穴径が大きくなり、抜き穴21の周縁部13の強度を低下させ得るが、一般的なタッピンねじ3を使用することで段付タッピンねじを用いた場合のように第2の板材2の抜き穴21の穴径を大きくしなくてもよく、第2の板材2を薄板にした場合でも抜き穴21の周縁部13の強度を確保することができる。しかも、一般的なタッピンねじ3を使用することで、段付タッピンねじに比べてねじのコストを抑えることができる。
【0026】
因みに、第1の板材1と第2の板材2とをタッピンねじ3で締結したねじ締結構造において、バーリング下穴11の雌ねじの破壊トルクを測定したところ、第2の板材2の抜き穴21に突口22を形成しない場合は、破壊トルクが1.7N・mであった。これに対して、図1に示す実施形態のように第2の板材2の抜き穴21の周縁部に突口22を形成したものでは、破壊トルクが2.6N・mに増大された。従って、第2の板材2の抜き穴21の周縁部において、第1の板材1のバーリング下穴11の周縁部13を当接する突口22を形成することで、ねじ締付能力が格段に向上することが確認された。
なお、この破壊トルク試験で用いた板材1,2、パッキン4、タッピンねじ3の各条件は、以下のとおりである。
・第1の板材1:ステンレス材、板厚0.4mm、バーリング下穴11の内径3.2mm、円筒部12の長さ1.1mm
・第2の板材2:ステンレス材、板厚0.6mm、抜き穴21の内径4.5mm、突口22の長さ0.5mm(突口22は実施形態の場合)
・パッキン4:発泡樹脂材、厚み2mm(ねじ締付後は0.5mmに圧縮)、孔部41の内径6mm
・タッピンねじ3:ステンレス材、頭部31の外径8mm、頭部31の高さ3.5mm、ねじ軸33の山径3.8mm、ねじ軸33の谷径3.2mm、ねじ軸33のねじピッチ1.6mm、ねじ軸33の長さ10mm
【0027】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々変更を施すことが可能である。
例えば、図3に示すように、突口22Aは、先端部23に向かって小径となるテーパ状に形成されてもよい。この場合、テーパ状の突口22Aが弾性機能を発揮して突口22Aの先端部23によってバーリング下穴11を縮径方向に抑え込むことができる。従って、バーリング下穴11の雌ねじの破壊トルクをより増大することができ、ねじ締付能力をより向上することができる。また、テーパ状の突口22Aの弾性力の反力によってねじが強固に固定されるので、タッピンねじ3の緩み止め効果が向上される。
【0028】
図4に示すように、第1の板材1のバーリング下穴11Aの基端部をテーパ状に形成し、第2の板材2の抜き穴21の突口22の先端部23がバーリング下穴11Aのテーパ部分5の周縁部13aに当接する構成としてもよい。この場合、第1の板材1のバーリング下穴11Aの基端部をテーパ状に形成することによりバーリング下穴11Aの周縁部13aの剛性を強くすることができ、しかも、抜き穴21の突口22の先端部23がバーリング下穴11のテーパ部分5の周縁部13aに当接するので、タッピンねじ3の引き上げ力によってバーリング下穴11Aのテーパ部分5の周縁部13aの変形をより確実に阻止することができる。従って、バーリング下穴11Aの雌ねじの破壊トルクをさらに増大することができ、ねじ締付能力をより向上することができる。
【0029】
また、パッキン4を介在させずに、第1の板材1と第2の板材2とをねじで締結させるようにしてもよい。
また、締結物及び/又は被締結部は、板金等の板材に限らず、樹脂等の構造物であってもよい。
さらに、バーリング下穴11の円筒部12に予め雌ねじを刻設するようにして、ねじは、タッピンねじ3に代えて、バーリング下穴11の雌ねじに螺合可能なものを使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 第1の板材(締結物)
2 第2の板材(被締結物)
3 タッピンねじ
4 パッキン
5 テーパ部分
11 バーリング下穴
12 円筒部
13 周縁部
21 抜き穴
22 突口
23 先端部
24 座面
31 頭部
32 下面
33 ねじ軸
41 孔部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結物にバーリング下穴を形成し、被締結物に設けた抜き穴にねじを通してバーリング下穴に螺合させるねじ締結構造であって、
被締結物の抜き穴の周縁部を立ち起こして突口を形成し、ねじをバーリング下穴に螺合させると抜き穴の突口の先端部がバーリング下穴の周縁部に当接する構成としたねじ締結構造。
【請求項2】
請求項1に記載のねじ締結構造において、
突口は、先端部に向かって小径となるテーパ状に形成したねじ締結構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のねじ締結構造において、
締結物のバーリング下穴の基端部をテーパ状に形成し、被締結物の抜き穴の突口の先端部がバーリング下穴のテーパ部分の周縁部に当接する構成としたねじ締結構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のねじ締結構造において、
ねじの頭部の下面は、平坦面に形成されており、被締結物の突口を形成しない表側の抜き穴の周縁部における平坦な座面を押圧する構成としたねじ締結構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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