説明

はく離フィルムとそれを用いる接着フィルム

【課題】 はく離フィルムの離型層上に塗剤を塗布した後、固化させて接着フィルムを形成する形成方法によって、従来に比べてさらに正確に厚みが管理された接着フィルムを製造することができるはく離フィルムと、このはく離フィルムを用いて形成される接着フィルムとを提供する。
【解決手段】 はく離フィルムは、その基材を、厚みのばらつきが5%以下、空隙率が5〜50体積%の、多孔質のポリエステルフィルムによって形成する。なお、ポリエステルフィルムの放射線吸収率は、多孔質化することで、非多孔質の状態の85%以下とされるのが好ましい。また、ポリエステルフィルムは、0.2〜20体積%の無機フィラーを含有するのが好ましい。接着フィルムは、そのもとになる塗剤を、上記はく離フィルムの離型層上に塗布し後、固化させて形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、電子部品の実装に用いる異方導電フィルム等の、接着フィルムの支持体として好適に使用されるはく離フィルムと、このはく離フィルムを用いる接着フィルムとに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子部品を配線基板等に実装するために用いる異方導電フィルム等の、感熱接着性や感圧接着性を有する樹脂を主体とする接着フィルムは、単体では、取り扱いが難しいため、通常は、それ自体、接着性を有さず、かつ、接着フィルムに対して離型性を有するはく離フィルムの片面に積層した状態で供給される。また、はく離フィルムとしては、フィルム状の基材の片面に離型層を形成して、接着フィルムに対する離型性を付与した積層構造を有するものが用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素化合物を主成分とする離型層を備えたはく離フィルムが記載されている。フッ素化合物を主成分とする離型層は、シリコーンオイルの層に比べて、基材に対する接着性を向上できるため、接着フィルムを離型させる際に、離型層が、接着フィルムに付着した状態で、基材から離型するのを防止することができる。そのため、接着フィルムに付着した離型層が、当該接着フィルムの接着性を阻害するのを防止して、接着フィルムの信頼性を向上させることができる。
【0004】
接着フィルムは、通常、そのもとになる液状の塗剤を、長尺のはく離フィルムを一定の速度で送りながら、当該はく離フィルムの、離型層を形成した表面に、一定の厚みとなるように連続的に塗布し、次いで乾燥機を通して乾燥させる等して連続的に製造される。
【0005】
異方導電フィルム等の、電子用途の接着フィルムにおいては、その厚みを厳密に管理することが求められる。そのため、上記の製造方法によって、接着フィルムを連続的に製造する際には、非破壊、非接触のインライン膜厚計として、例えば、X線、β線、γ線等の放射線を利用した膜厚計等を用いて、はく離フィルム上に連続的に形成された接着フィルムの厚みT1の変化を、はく離フィルムの送りに合わせてリアルタイムで測定し、その測定結果を塗剤の塗布工程にフィードバックして、塗布膜厚を調整することで、接着フィルムの厚みT1が常に一定となるように管理することが、一般的に行われる。
【0006】
なお、放射線を利用した膜厚計においては、測定対象であるはく離フィルムと接着フィルムとの積層体を透過した放射線の強度Iが、はく離フィルムの送りに合わせて連続的に測定され、この強度Iの、刻々変化する測定値から、下記式(1)によって、はく離フィルム上に連続的に形成された接着フィルムの、厚みT1の変化が、連続的に求められる。
【0007】
【数1】

【0008】
上記式(1)中のI0は、積層体を透過しない場合の、放射線強度の初期値、A1は、接着フィルムにおける放射線の吸収係数、A2は、基材における放射線の吸収係数、T2は、基材の厚みの平均値である。なお、離型層は、基材、および接着フィルムに比べて著しく小さいため、無視することができる。
【特許文献1】特開2002−370315号公報
【特許文献2】特許第3309918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
はく離フィルムのもとになる基材としては、紙や延伸ポリプロピレンフィルム等が用いられることもあるが、耐熱性、剛性、寸法安定性、接着フィルムが積層されたはく離フィルムを連続的に所定の幅にスリット加工してテープ状とする際の加工のしやすさ、およびスリット加工面の仕上がりの良さ等の点で、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルフィルムが、一般的に用いられる。特に、基材の寸法安定性やスリット加工のしやすさを向上するために、例えば、酸化チタン粉末等の無機のフィラーを配合した、いわゆる白PETフィルムがよく用いられる。
【0010】
ところが、上記白PETフィルム等の、無機のフィラーを配合した基材は、放射線の吸収係数A2が、接着フィルムにおける放射線の吸収係数A1に比べて著しく大きいため、前記膜厚計を用いた厚み測定の際に、基材の厚みのばらつきが増幅されて、測定の精度が低下する。そのため、前記式(1)によって求められる、接着フィルムの厚みT1の計算結果の信頼性が低下してしまい、この計算結果をフィードバックさせて形成される接着フィルムの厚みT1のばらつきが却って大きくなる場合を生じるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、前記の形成方法によって、従来に比べてさらに正確に厚みが管理された接着フィルムを製造することができるはく離フィルムと、このはく離フィルムを用いて形成される接着フィルムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1記載の発明は、フィルム状の基材と、この基材の表面に設けられる離型層とを含むはく離フィルムであって、上記基材が、厚みのばらつきが5%以下、空隙率が5〜50体積%の、多孔質のポリエステルフィルムによって形成されることを特徴とするはく離フィルムである。
【0013】
請求項2記載の発明は、基材としてのポリエステルフィルムの放射線吸収率が、多孔質化することで、非多孔質の状態の85%以下とされる請求項1記載のはく離フィルムである。
【0014】
請求項3記載の発明は、基材としてのポリエステルフィルムが、0.2〜20体積%の無機フィラーを含有する請求項1記載のはく離フィルムである。
【0015】
請求項4記載の発明は、基材としてのポリエステルフィルムが、表裏両面に、非多孔質の表皮層を有する請求項1記載のはく離フィルムである。
【0016】
請求項5記載の発明は、感熱接着性または感圧接着性を有する接着フィルムであって、そのもとになる塗剤を、請求項1記載のはく離フィルムの離型層上に塗布した後、固化させて形成されることを特徴とする接着フィルムである。
【0017】
請求項6記載の発明は、異方導電フィルムである請求項5記載の接着フィルムである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明においては、基材を、空隙率が5〜50体積%である多孔質のポリエステルフィルムによって形成しているため、その、単位体積あたりの、ポリエステル等の量を少なくして、放射線の吸収係数A2を低減することができる。そのため、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきを5%以下に管理していることと相まって、特に、放射線を利用した膜厚計を用いた厚み測定の際の、測定の精度を向上することができ、前記式(1)によって求められる、接着フィルムの厚みT1の計算結果の信頼性を向上することができる。したがって、請求項1記載の発明によれば、上記の計算結果をフィードバックさせて形成される接着フィルムの厚みT1を、これまでよりも正確に管理することが可能となる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、基材としてのポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、多孔質化することで、非多孔質の状態の85%以下としているため、厚み測定の精度を、より一層、向上することができる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、基材としてのポリエステルフィルムに、0.2〜20体積%の無機フィラーを含有させることによって、ポリエステルフィルムの剛性を向上することができ、空隙率を大きくして、ポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、さらに低減することができる。そのため、放射線吸収率A2を上昇させる無機フィラーを含有しているにもかかわらず、ポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、無機フィラーを含有しないものと同等程度まで低減することができる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、基材としてのポリエステルフィルムが、表裏両面に、非多孔質の表皮層を有するため、ポリエステルフィルムの剛性をさらに向上して、接着フィルムのもとになる塗剤を塗布する際の塗布厚みを均一化して、接着フィルムの厚みをより一層、正確に管理することが可能となる。また接着フィルムを形成した後の積層体を、例えば、ロール状に捲回する際に、シワ等の不良が発生するのを低減したり、スリット加工のしやすさを向上したりすることもできる。
【0022】
請求項5記載の発明においては、感熱接着性または感圧接着性を有する接着フィルムが、そのもとになる塗剤を、上記はく離フィルムの離型層上に塗布した後、固化させることで形成される。そのため、請求項5記載の発明によれば、接着フィルムの厚みT1を、これまでよりも正確に管理されたものとすることができる。
【0023】
上記接着フィルムの構成は、請求項6に記載したように、異方導電フィルムに適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のはく離フィルムは、フィルム状の基材と、この基材の表面に設けられる離型層とを含み、かつ、上記基材が、厚みのばらつきが5%以下、空隙率が5〜50体積%の、多孔質のポリエステルフィルムによって形成されることを特徴とするものである。
【0025】
上記多孔質のポリエステルフィルムを形成するポリエステルとしては、前記PETが好適に用いられる他、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の、フィルム化することができる他のポリエステルを用いることもできる。
【0026】
ポリエステルフィルムを多孔質化するためには、フィルムのもとになるポリエステルと、ポリスチレン等の、ポリエステルと相溶しない樹脂とを溶融、混練した後、押出成形等して、ポリエステル中に、樹脂の微粒が分散した状態のシートを製造すると共に、このシートを延伸することで、微粒子の周囲に空隙を発生させる方法等が好適に採用される。
【0027】
この方法によって形成される、多孔質のポリエステルフィルムの空隙率を調整するには、ポリスチレン等の他の樹脂の含有量や、シートの延伸量を調整すればよい。他の樹脂の含有量は、当該他の樹脂とポリエステルとの総量中の、1〜40重量%であるのが好ましい。含有量が1重量%未満では、上記の方法によって、空隙率が5体積%以上である多孔質のポリエステルフィルムが得られないおそれがあり、40重量%を超える場合には、相対的に、ポリエステルの含有量が少なくなるため、フィルムの耐熱性や強度が低下するおそれがある。
【0028】
ポリエステルフィルムには、従来同様に、酸化チタン粉末等の無機のフィラーを含有させることができる。その含有量は、ポリエステルと、前記他の樹脂と、無機のフィラーとを含む、ポリエステルフィルムのもとになる成形材料の総体積の0.2〜20体積%であるのが好ましい。含有量が0.2体積%未満では、無機のフィラーを含有させることによる、基材の寸法安定性やスリット加工のしやすさを向上する効果が十分に得られないおそれがあり、20体積%を超える場合には、相対的に、ポリエステルの含有量が少なくなるため、フィルムの耐熱性や強度が低下するおそれがある。
【0029】
本発明において、多孔質のポリエステルフィルムの空隙率が5〜50体積%に限定されるのは、以下の理由による。すなわち、ポリエステルフィルムの空隙率が5体積%未満では、ポリエステルフィルムを多孔質とすることによる、先に説明した、単位体積あたりの、ポリエステル等の量を少なくして、放射線の吸収係数A2を低減する効果が得られない。そのため、測定の精度と、前記式(1)によって求められる、接着フィルムの厚みT1の計算結果の信頼性とを向上することができず、接着フィルムの厚みT1を正確に管理することができない。また、空隙率が50体積%を超えるポリエステルフィルムは、剛性が低下して撓みやすくなり、接着フィルムの支持体として十分に機能することができない。
【0030】
これに対し、空隙率を5〜50体積%の範囲内とすれば、ポリエステルフィルムの剛性を良好な範囲に維持しながら、単位体積あたりの、ポリエステル等の量を少なくして、放射線の吸収係数A2を低減することができる。具体的には、ポリエステルフィルムを多孔質化することで、その放射線吸収率A2を、非多孔質の状態の85%以下に低減することができる。
【0031】
なお、ポリエステルフィルムの空隙率は、その剛性を良好な範囲に維持しながら、単位体積あたりの、ポリエステル等の量を少なくして、放射線の吸収係数A2をできるだけ低減することを考慮すると、ポリエステルフィルムが無機のフィラーを含有しない場合は、上記の範囲内でも、特に、10〜20体積%であるのが好ましい。これにより、ポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、非多孔質の状態の60〜82%程度まで低減することができる。
【0032】
また、ポリエステルフィルムが無機のフィラーを含有する場合は、当該フィラーによってポリエステルフィルムの剛性を向上することができるため、空隙率を大きくすることが可能であり、特に、20〜30体積%であるのが好ましい。これにより、ポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、非多孔質の状態の40〜65%程度まで低減することができる。そのため、放射線吸収率A2を上昇させる無機フィラーを含有しているにもかかわらず、ポリエステルフィルムの放射線吸収率A2を、無機フィラーを含有しないものと同等程度まで低減することができる。
【0033】
また、本発明において、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきが5%以下に限定されるのは、厚みのばらつきが5%を超える場合には、たとえ、その空隙率を上記の範囲内として、放射線の吸収係数A2を低減したとしても、厚みのばらつきの影響によって、測定の精度と、前記式(1)によって求められる、接着フィルムの厚みT1の計算結果の信頼性とを向上することができず、接着フィルムの厚みT1を正確に管理することができないためである。
【0034】
なお、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきは、測定の精度と、接着フィルムの厚みT1の計算結果の信頼性とを向上して、接着フィルムの厚みT1をできるだけ正確に管理することを考慮すると、0%であるのが理想的である。しかし、厚みのばらつきが全くないポリエステルフィルムを大量に、しかも安価に製造するのは容易ではなく、現実的でない。ポリエステルフィルムの生産性と、接着フィルムの厚みT1をできるだけ正確に管理することとの兼ね合いを考慮すると、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきは、前記の範囲内でも、特に、1〜3%であるのが好ましい。
【0035】
ポリエステルフィルムの厚みのばらつきを、上記の範囲内とするためには、当該ポリエステルフィルムより幅が広く、かつ長さの長い原反フィルム中から、厚みのばらつきが上記の範囲内に入る、ポリエステルフィルムの幅および長さと一致する領域を選択して切り出せばよい。ポリエステルフィルムは、通常、そのもとになるシートを二軸延伸して製造され、幅方向の中央部は厚みのばらつきが小さいので、例えば、幅2m×長さ10000mの原反フィルムから、厚みのばらつきが上記の範囲内で、かつ、幅300mm×長さ500m程度のポリエステルフィルムを、幅方向に複数本、そして、長さ方向に多数、切り出すことができる。
【0036】
なお、本発明で言う、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきとは、長尺のポリエステルフィルムを一定の速度で送りながら、先に説明した、放射線を利用した膜厚計等を用いて、インラインで連続的に測定して得た、ポリエステルフィルムの厚みt2の分布のデータのうち、厚みの標準偏差σと、厚みの平均値T2とから、下記式(2):
V2=σ/T2 (2)
によって算出される変動係数CV2の2倍の値のことを意味する。したがって、ポリエステルフィルムの厚みのばらつきが5%以下とは、2×CV2が5%以下であることを意味する。
【0037】
なお、放射線を利用した膜厚計においては、測定対象であるポリエステルフィルムを透過した放射線の強度iが、ポリエステルフィルムの送りに合わせて連続的に測定され、この強度iの、刻々変化する測定値から、下記式(3)によって、ポリエステルフィルムの、厚みt2の分布が求められる。
【0038】
【数2】

〔式(3)中のi0は、ポリエステルフィルムを透過しない場合の、放射線強度の初期値、a1は、ポリエステルフィルムにおける放射線の吸収係数である。〕
【0039】
上記のようにして求められるポリエステルフィルムの厚みt2の分布の平均値T2は、従来同様に、25〜100μm程度であるのが好ましい。
【0040】
多孔質のポリエステルフィルムの表裏両面には、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル等の樹脂からなる、非多孔質の表皮層を設けてもよい。これにより、ポリエステルフィルムの剛性をさらに向上して、接着フィルムのもとになる塗剤を塗布する際の塗布厚みを均一化して、接着フィルムの厚みをより一層、正確に管理することが可能となる。また接着フィルムを形成した後の積層体を、例えば、ロール状に捲回する際に、シワ等の不良が発生するのを低減したり、スリット加工のしやすさを向上したりすることができる。
【0041】
表皮層の厚みは、ポリエステルフィルムの厚みの1/100〜1/4であるのが好ましい。厚みがこの範囲未満では、表皮層を設けることによる、ポリエステルフィルムの剛性を向上する効果が十分に得られないおそれがある。また、厚みが上記の範囲を超える場合には、ポリエステルフィルムを多孔質とすることによる、放射線の吸収係数A2を低減する効果が不十分になるおそれがある。表皮層は、例えば、ポリエステルフィルムのもとになるシートを押出成形する際に、同時に、押出成形しながら積層してもよいし、押出成形したシートや、延伸後のポリエステルフィルムに、後から積層してもよい。さらには、延伸後のポリエステルフィルムの表裏両面に、表皮層のもとになる塗工液を塗布したのち固化させて形成することもできる。
【0042】
ポリエステルフィルムの表面(ポリエステルフィルムが表皮層を有する場合は、その表皮層の表面)に設けられる離型層としては、従来同様に、フッ素系やシリコーン系等の離型剤の層が挙げられる。離型層の厚みは、接着フィルムの厚みに影響を及ぼす厚みのばらつきを生じることなく、かつ、より確実に、接着フィルムを離型することを考慮すると、0.1〜1μmであるのが好ましい。
【0043】
本発明の接着フィルムは、そのもとになる塗剤を、本発明のはく離フィルムの離型層上に塗布した後、固化させて形成されることを特徴とするものである。接着フィルムとしては、感熱接着性または感圧接着性を有する樹脂を主体とする種々の接着フィルムが挙げられるが、特に、厚みが厳密に管理されている必要のある異方導電フィルムが好ましい。
【0044】
異方導電フィルムは、一般に、金属粉末等の導電成分を、感熱接着性を有する樹脂のフィルム中に分散させた構造を有する。また、異方導電フィルムは、フィルムの面方向の導電抵抗(「絶縁抵抗」という)が高くなるように、導電成分の充てん率が調整される。
【0045】
そして、この異方導電フィルムを、それぞれ、複数の電極が所定のピッチで配列された、例えば、電子部品の接続部と、配線基板の接続部との間に挟んだ状態で、熱接着を行うと、その際の加熱、加圧によって異方導電フィルムが厚み方向に圧縮されることで、当該厚み方向の導電成分の充てん率が上昇し、導電成分同士が互いに近接もしくは接触して導電ネットワークを形成する結果、厚み方向の導電抵抗(「接続抵抗」という)が低くなる。しかしこの際、異方導電フィルムの面方向における導電成分の充てん率は増加しないため、面方向は、絶縁抵抗が高く導電率が低い初期の状態を維持する。
【0046】
そのため異方導電フィルムは、厚み方向の接続抵抗が低く、かつ面方向の絶縁抵抗が高い異方導電特性を有するものとなり、この異方導電特性に基づいて、
それぞれの接続部内の、フィルムの面方向に隣り合う電極間での短絡が発生するのを防止して、それぞれ電気的に独立した状態を維持しつつ、
両接続部の、互いに対向する電極間を良好に導電接続する、
ことが可能となる。また、それと共に異方導電フィルムは、フィルム自体の持つ感熱接着性によって、電子部品を、配線基板上に、熱接着によって固定することができる。そのため、異方導電フィルムを用いれば、エレクトロニクス実装の作業が容易になる。
【0047】
前記本発明のはく離フィルムを用いて、異方導電フィルムを形成するには、まず、感熱接着性を有する樹脂と、導電成分とを所定の割合(前記充てん率に応じた割合)で含む塗剤を調整する。そして、原反ロールから繰り出した長尺のはく離フィルムを、一定の速度で送りながら、当該はく離フィルムの、離型層を形成した表面に、上記塗剤を、例えば、ダイコータ等を用いて、一定の厚みとなるように連続的に塗布し、次いで乾燥機を通して乾燥させ、さらに樹脂が熱硬化性である場合は半硬化させると、はく離フィルム上に、異方導電フィルムが連続的に形成される。
【0048】
また、この際、放射線を利用した膜厚計等を用いて、はく離フィルム上に連続的に形成された接着フィルムの厚みT1の変化を、はく離フィルムの送りに合わせてリアルタイムで測定し、その測定結果を塗剤の塗布工程にフィードバックして、塗布膜厚を調整することで、接着フィルムの厚みT1が常に一定となるように管理することができる。
【0049】
異方導電フィルムが連続的に形成されたはく離フィルムは、形成した異方導電フィルムの表面に、積層する側の面を離型処理したカバー材を積層して、ロールに巻き取った後、あるいは、直接に、次工程であるスリット加工工程に送って、所定の幅にスリット加工することで、製品化される。なお、はく離フィルムのもとになるポリエステルフィルムの、異方導電フィルムを形成する側と反対側の表面にも離型層を形成しておいて、カバー材を省略することもできる。
【0050】
異方導電フィルム等の接着フィルムのもとになる樹脂としては、感熱接着性または感圧接着性を有する種々の樹脂が、いずれも使用可能である。このうち、異方導電フィルムに用いられる感熱接着性の樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂等が挙げられる。また、接着フィルムの厚みは、その用途に応じて、適宜、設定することができるが、一般的には、10〜1000μm程度であるのが好ましい。
【実施例】
【0051】
実施例1:
ポリエステルフィルムとして、無機のフィラーを含有しない、厚みの平均値T2が50μm、空隙率が10体積%の多孔質のPETフィルムを用いた。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0021%、厚みのばらつきは2%であった。このポリエステルフィルムの片面に、C816OとC818とを、重量比で75:25の割合で含む塗布液を塗布し、乾燥させて離型層を形成して、幅300mm×長さ500mの、実施例1のはく離フィルムを製造した。
【0052】
実施例2:
ポリエステルフィルムとして、無機のフィラーを含有しない、厚みの平均値T2が50μm、空隙率が20体積%の多孔質のPETフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、実施例2のはく離フィルムを製造した。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0016%、厚みのばらつきは2%であった。
【0053】
比較例1:
ポリエステルフィルムとして、無機のフィラーを含有しない、厚みの平均値T2が50μmの非多孔質のPETフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、比較例1のはく離フィルムを製造した。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0026%、厚みのばらつきは2%であった。
【0054】
実施例3:
ポリエステルフィルムとして、2体積%の酸化チタン粉末を含有する、厚みの平均値T2が50μm、空隙率が20体積%の多孔質のPETフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、実施例3のはく離フィルムを製造した。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0034%、厚みのばらつきは2%であった。
【0055】
実施例4:
ポリエステルフィルムとして、2体積%の酸化チタン粉末を含有する、厚みの平均値T2が50μm、空隙率が30体積%の多孔質のPETフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、実施例4のはく離フィルムを製造した。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0023%、厚みのばらつきは2%であった。
【0056】
比較例2:
ポリエステルフィルムとして、2体積%の酸化チタン粉末を含有する、厚みの平均値T2が50μmの非多孔質のPETフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、比較例2のはく離フィルムを製造した。PETフィルムのX線吸収係数A2は0.0057%、厚みのばらつきは2%であった。
【0057】
実施例5:
ポリエステルフィルムとして、実施例2で使用したのと同じ、無機のフィラーを含有しない、厚みの平均値T2が50μm、空隙率が20体積%の多孔質のPETフィルムの表裏両面に、それぞれ、共重合ポリエステル樹脂〔東洋紡績(株)製の登録商標バイロナール〕の水分散液を塗布した後、乾燥させて、厚み0.5μmの、非多孔質の表皮層を形成した積層体を用いたこと以外は実施例1と同様にして、幅300mm×長さ500mの、実施例5のはく離フィルムを製造した。積層体のX線吸収係数A2は0.0017%、厚みのばらつきは2%であった。
【0058】
上記で製造した実施例、比較例のはく離フィルムを一定の速度で送りながら、当該はく離フィルムの、離型層を形成した表面に、接着フィルムのもとになる塗剤を、ダイコータを用いて、一定の厚みとなるように連続的に塗布し、次いで乾燥機を通して連続的に乾燥させて、目標厚みが25μm、X線吸収係数A1が0.0020である、感熱接着性を有する樹脂を主体とする接着フィルムを、連続的に形成した。
【0059】
なお、製造に際しては、乾燥機を出て、はく離フィルム上に連続的に形成された接着フィルムの厚みT1の変化を、X線を利用した膜厚計を用いて、はく離フィルムの送りに合わせてリアルタイムで測定し、その測定結果を、塗剤の塗布工程にフィードバックして、塗布膜厚を調整することで、上記目標厚みとなるように管理した。
【0060】
上記のようにして、接着フィルムを連続的に形成したはく離フィルムの両側をカットすると共に、長さ方向にもカットして、幅240mm×長さ100mの、はく離フィルム付の接着フィルムを製造した。そして、このはく離フィルム付の接着フィルムを、連続的に、3mm幅にスリット加工した後、スリット加工した幅方向中央部の1本と、左右に60mm離れた位置の1本ずつ、計3本の、はく離フィルム付の接着フィルムの厚みt3と、同じ位置の、接着フィルムをはく離した後のはく離フィルムの厚み(≒PETフィルムまたは積層体の厚みt2)とを、長さ方向に1mおきに、マイクロメータ〔(株)ミツトヨ製の商品名レーザーホローゲージLGH−1010〕を用いて測定した。
【0061】
そして、各測定点ごとに、はく離フィルム付の接着フィルムの厚みt3から、はく離フィルムの厚み(≒t2)を減算して、接着フィルムの厚みt1を算出すると共に、その分布を求め、この厚みt1の分布のデータのうち、厚みの標準偏差σと、厚みの平均値T1とから、下記式(4):
V1=σ/T1 (4)
によって算出される変動係数CV1の2倍の値を、接着フィルムの厚みのばらつきとして求めた。
【0062】
また、実施例、比較例のはく離フィルムの曲げ剛性率を、日本工業規格JIS K7106-1995「片持ちばりによるプラスチックの曲げこわさ試験方法」に則って測定した。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表の、実施例1、2、比較例1の結果より、ポリエステルフィルムを多孔質とすると共に、その空隙率を大きくして、X線吸収係数を小さくするほど、接着フィルムの厚みのばらつきを小さくできることがわかった。また、実施例3、4、比較例2の結果より、ポリエステルフィルムに酸化チタン粉末を含有させた系においても、同様に、ポリエステルフィルムを多孔質とすると共に、その空隙率を大きくして、X線吸収係数を小さくするほど、接着フィルムの厚みのばらつきを小さくできることがわかった。
【0065】
また、実施例1〜4の結果より、ポリエステルフィルムに酸化チタン粉末を含有させると、剛性を維持しながら、空隙率を向上できることがわかった。さらに、実施例5の結果より、ポリエステルフィルムの表裏両面に表皮層を形成しても、剛性を維持しながら、空隙率を向上できることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の基材と、この基材の表面に設けられる離型層とを含むはく離フィルムであって、上記基材が、厚みのばらつきが5%以下、空隙率が5〜50体積%の、多孔質のポリエステルフィルムによって形成されることを特徴とするはく離フィルム。
【請求項2】
基材としてのポリエステルフィルムの放射線吸収率が、多孔質化することで、非多孔質の状態の85%以下とされる請求項1記載のはく離フィルム。
【請求項3】
基材としてのポリエステルフィルムが、0.2〜20体積%の無機フィラーを含有する請求項1記載のはく離フィルム。
【請求項4】
基材としてのポリエステルフィルムが、表裏両面に、非多孔質の表皮層を有する請求項1記載のはく離フィルム。
【請求項5】
感熱接着性または感圧接着性を有する接着フィルムであって、そのもとになる塗剤を、請求項1記載のはく離フィルムの離型層上に塗布した後、固化させて形成されることを特徴とする接着フィルム。
【請求項6】
異方導電フィルムである請求項5記載の接着フィルム。

【公開番号】特開2006−346899(P2006−346899A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172830(P2005−172830)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】