説明

ひずみ計測装置及びひずみ計測システム

【課題】
構造物に生じるひずみをモニターしながら、精度よく測定するひずみ測定器及び測定システムがなかった。
【解決手段】
ひずみセンサーを金属板に装着し、構造物に取り付けた金属板とひずみセンサーからの構造物のひずみ情報を、RFIDタグを介する無線通信で送信することを特徴とする構造物のひずみ計測装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみ計測装置及びひずみ計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物は、風雨、地震、土圧など、常に外力にさらされ、構造物の劣化は、劣化が生じてからでは、その対策に多大な費用を要すことも多い。構造物に生じる変状を容易に点検できる方法が望まれている。
【0003】
構造物に何らかの劣化が生じれば、構造物自体に変形を生じることから、ひずみとして捉えることができる。従って、構造物に生じるひずみをモニタリングすることによって、構造物に生じる変状を早期に発見できる。
【0004】
ひずみ測定では、構造物にひずみ計を設置する必要があり、従来のひずみセンサーの構造物への貼付けは接着剤を用いて人手に頼るため、接着剤の硬化温度の影響の問題や、人手に頼ることから品質確保に問題がある。センサーとして、電気抵抗の変化を捉えるひずみゲージを用いられることが多いが、電気抵抗を測定するために水分の影響を受けやすく、雨や変化する湿度から保護防止することが必要で、現場において保護作業を行うことは膨大な労力が必要であった。
【0005】
また、特許文献1には、ひずみを検出するセンサーと無線送信装置としてICタグを組合せや歪み計測システムが開示されている。しかし、センサパッケージが、非金属の保護材であるビニールシートによって被覆されており、構造物に生じるひずみをこのモニター装置で精度よく測定することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−145403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
さらに、ひずみ計測を容易とするために、無線通信装置とひずみ計と組合せ、構造物に生じるひずみを容易に点検しようと無線通信での電波は金属材の影響を受けるために、無線通信装置のアンテナの設置場所が変わると安定した通信ができなくなる、という問題を見出した。
【0008】
また、無線通信装置は、構造物の長期間のモニタリングを考慮すると、なるべく小電力で駆動する必要があり、特に、パッシブRFIDと呼ばれる外部からの読取り装置(リーダーライター)の電波をエネルギーとして駆動することで、電池を搭載せずともひずみを計測することが可能なシステムでは、極めて微小な電力で駆動する必要があるが、ひずみセンサーは、極僅かな抵抗の変化で生じる電位差を電気的に増幅してひずみ値とするため、ひずみセンサー取付け時にゆがみが生じると、その後のA/D変換を広範囲に測定できる設計とする必要が生じ、電源電圧を高く設定しなくては分解能が得られず、結果として商用電源など高い電圧源が必要となるので無線方式が困難で、精度も不十分であることが判った。
【0009】
そこで、構造物に生じるひずみを無線でモニターしながら、感度の良いひずみ測定器及び測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕ひずみセンサーを金属板に装着し、構造物に取り付けた金属板とひずみセンサーからの構造物のひずみ情報を、RFIDタグを介する無線通信で送信することを特徴とする構造物のひずみ計測装置、を提供する。
【0011】
〔2〕金属板が、厚さ0.08mm以上2mm以下の鉄製であり、
無線通信に、リーダーライターからの電波で駆動するパッシブ型RFIDを用い、
RFIDタグのブリッジ回路に可変抵抗を用いて、予め可変抵抗でひずみゲージの抵抗をキャンセルした後、RFIDタグを樹脂コートすることを特徴とする請求項1記載の構造物のひずみ計測装置、を提供する。
【0012】
〔3〕前記ひずみ情報を構造物の外部のリーダーライターで読取り、記録、演算処理することを特徴とするひずみ計測システム、を提供する。
【0013】
(ひずみセンサー)
ひずみセンサーは、抵抗変化を捉えるひずみゲージ、光ファイバー、振動弦形計器、差動トランス型等を用いることができる。しかしながら、本発明の目的である構造物に生じる変状を容易に点検するためには、小電力で駆動することが求められることから、ひずみゲージを用いることが望ましい。
【0014】
ひずみゲージは薄い樹脂の上に抵抗を持つ金属箔をエッチング等で格子状に形成したもので、変形によって抵抗値が変化することでひずみを計測する。ひずみセンサーは、予め母材である金属板に接着、封入することで、現場で直接、構造物に取り付ける手間がなく、また、現場の天候に左右されず、また、工場等で接着作業が行えることで、熱硬化型樹脂、熱可塑性樹脂などの高い耐久性を有する樹脂による封入が可能となり、品質安定性が向上する効果がある。
【0015】
しかし、通常の商用電源によるひずみセンサーを用いたひずみ測定では、ブリッジ回路を構成する抵抗は固定抵抗を用い、ひずみセンサーの挿入および樹脂封入時に多少の伸びちじみが生じた、すなわち、抵抗が変化した状態で封入されても、主にアナログ出力値の測定となるため問題は生じない。
【0016】
これに対して、本発明では、RFID技術によってひずみ測定データを転送するため、極めて小電力で駆動する必要がある。具体的には、内部駆動電圧は3.3V以下で駆動させることが好ましい。増幅回路およびA/D変換の範囲に限界があり予め固定される。
【0017】
本発明のひずみセンサーを使用する場合は、特に現場での封入の問題には効果的であり、金属板に予め接着することで耐久性を有し、かつ小電力で駆動するひずみ計測装置とすることが可能となり、コスト的にも優位であり、またRFIDタグも簡易な回路構成とでき、省電力化の観点からも好ましい。
【0018】
無線モジュールが省電力であると同時に、RFIDタグも省電力を図ることが望まれる。RFIDタグは、ひずみセンサーからの出力が小さいために増幅し、さらにインピーダンス整合を図る回路を挿入し、A/D変換してその信号を無線モジュールに受け渡す。RFIDタグは、用いるセンサーによって異なり、センサーとしてひずみゲージを用いることが省電力やコストの面から好ましい。
【0019】
本発明のRFID技術には、センサー信号の入力が可能な電池を搭載しないパッシブタイプのRFIDタグを用いることが好ましい。図2は、本発明の実施例のひずみ計測装置の構成の一例を示すブロック図である。外部から供給される電波によるエネルギーを用いて駆動するパッシブタイプのRFIDタグは、アンテナを含む送受信回路、制御部とメモリ部を含むICチップ、更にひずみ検出回路を含んで構成した。ひずみ検出回路は、ひずみゲージからの信号を検出する検出回路と増幅回路を含んでいる。
【0020】
ひずみゲージは、単独で用いるとひずみによる抵抗変化が、ひずみゲージそのものの抵抗に対して極めて小さい。そのため、ひずみゲージそのものの抵抗値とほぼ同じ抵抗を用いてホイーストンブリッジを形成し、検出回路としている。このブリッジ回路によってひずみに比例した出力電圧が得られる。従来の商用電源をひずみ測定では、ブリッジ回路を構成する抵抗は固定抵抗を用い、ひずみゲージの貼付け時に多少の伸びちぢみが生じた、すなわち、抵抗が変化した状態で貼り付けられると、その後の増幅回路の倍率を大きくするかA/D変換の範囲を広く設定する必要があった。
【0021】
これに対して、無線通信によって、ひずみ測定データを転送するためには、極めて少電力で駆動する必要があるため、先の増幅回路の倍率を大きくすることやA/D変換の範囲を広くすることは困難である。無線通信の場合、一般的にはその駆動電圧は、例えば3.3V以下と非常に低く設定することが望ましい。
【0022】
図1に本ひずみ測定装置のブリッジ回路を示す。この回路を用いることで、予め、母材である金属板にひずみゲージを取付け、取付け時に生じるひずみゲージ自体の抵抗を、回路に搭載される可変抵抗でキャンセルすることができる。
【0023】
このように、本ひずみ測定装置においてひずみゲージを用いる場合にはブリッジ回路に可変抵抗を使用し、まず、ひずみゲージの金属板への取付け、続いて、ひずみゲージそのものの抵抗に取付け時に生じる可変抵抗を調整してキャンセルさせることで、小電力で駆動し、かつ、分解能の高いひずみ測定装置とすることができる。例えば、内部駆動電圧は3.3V以下で駆動させることができる。
【0024】
可変抵抗による調整方法によって、ICチップにマイコンを搭載して、A/D変換とともに温度などの補正計算や、連続的にデータ収集、あるいはメモリ内に測定データの格納を行うことも容易となった。
【0025】
図3に、ひずみセンサー10、ICチップ20、送受信アンテナ40の配置例を模式的に示す平面図、図4にその概観図を示す。
【0026】
ひずみセンサー、ICチップ、送受信アンテナは、金属板30に取付け、更にこれらを、構造物に付着して使用する。母材とする金属板の厚さは0.08mm以上2.0mm以下が好ましい。これより薄いと剛性が不足し、取り扱いが困難であるだけでなく、金属板の構造物への取付け時にひずみが生じ、構造物に生じるひずみの伝達に直線性が無くなる。また、2mmより厚いと、金属板自体が応力を負担する割合が増加するため、構造物に生じるひずみを拘束することとなり、構造物のひずみを適切に評価できなくなる。
【0027】
母材の金属板の厚さは、さらに好ましくは0.1mm以上、0.8mm以下である。この厚さであれば、剛性が不足することなく、また溶接での構造物との一体化が容易であり、また構造物に生じるひずみを妨げることはない。
【0028】
金属板の大きさは、縦13mm、横35mm以上、縦50mm、横100mm以下が好ましい。金属板の大きさは、各種の検討を行った結果、非常に重要な要素である。金属板は、通常、溶接、ボルト固定またはリベットを用いて構造物に固定されるが、金属板が大きくなると、構造物に生じたひずみの伝達において金属板内で不均一なひずみとなり、安定した測定ができない。一方で金属板の大きさが小さすぎると、金属板に変形が伝わらず、ひずみ値としては小さくなる現象が生じる。また、金属板が小さいと、特に溶接では熱伝導のために無線通信システムに損傷を与えることもある。
【0029】
金属板の材質は、金属が好ましい。材質としては、測定対象とする構造物の金属材の弾性係数、線膨張係数に対してなるべく近いことが望ましい。用いる金属板の弾性係数は、ひずみ測定時の分解能に依存するが、分解能が5×10−6ひずみ以上200×10−6ひずみであれば、構造物の金属材の弾性係数、熱膨張率に対してプラスマイナス50%以内とすることで、構造物のひずみを検知するに十分な精度を得ることができる。
【0030】
より具体的には、鉄などの普通金属材の他、ステンレス、チタン、りん青銅がよい。構造物との取付けでは、異種金属接触による腐食が生じることもあるため、より好ましくは鉄材を用いることがよい。鉄材の場合は亜鉛メッキ等の防食を施すことが望ましい。
【0031】
アンテナを含む無線通信装置、ひずみセンサーを取り付けた金属板は、耐候性を向上のため保護する。保護は、各種塗料を用いたコーティングを施すか、シリコンゴムやブチルゴム等で覆ったのちに塗料でコーティングする方法など、非金属の樹脂系材料で保護する。
【0032】
また、図5に示すように、アンテナを含む無線通信装置、ひずみセンサーを取り付けた金属板に枠を取付け、エポキシ樹脂を流し込んで保護する方法(B)は有効である。この場合、樹脂は一般に線膨張係数が大きいため、ひずみセンサーの上部をまず、シリコンゴムやブチルゴム等の軟質系の材料で覆ったのちに、樹脂を流し込み成型すること(A)が有効となる。これにより、ひずみセンサーへ保護樹脂の熱による変形の影響が少なくなる。
【0033】
ひずみ計測装置の構造物(図5で図示せず。)への取付けは、スポット溶接、リベットを用いる方法、またはボルト接合が好ましい。スポット溶接およびリベットを用いる場合、本発明の金属板の厚では、その周囲を最低でも25mm間隔とし、かつ、金属板のそれぞれの辺に対し、各2箇所以上であることが好ましい。接合部を図5の(C)で示した。ボルト接合の場合は、ボルト径は3mm以上16mm以下であることが望ましく、ボルトはひずみ測定方向の延長線上にあることが、より望ましい。
【0034】
本発明で用いる金属板と取付け方法によって、構造物に生じるひずみ測定分解能として5×10−6ひずみを確保できる。これに示した範囲を外れると、構造物に生じるひずみを金属板に効率的に伝達することができず、測定精度が低下し、また、取付け時に金属板に応力が生じ、ブリッジ回路における可変抵抗の再調整が生じる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、構造物に生じるひずみを無線でモニターする、感度の良いひずみ測定器及び測定システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例に用いる可変抵抗を含む回路を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例のひずみ計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例に用いるひずみ計測装置の平面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施例に用いるひずみ計測装置の外観を模式的に示す図である。
【図5】本発明の実施例の樹脂封止したひずみ計測装置を模式的に示す図である。
【図6】本発明の実施例のひずみ計測システムを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0037】
10:ひずみセンサー
20:ICチップ
30:鉄製鋼板
40:アンテナ
50:リーダーライター
60:パソコン
【発明を実施するための形態】
【0038】
ひずみセンサーは、小電力で駆動することが求められることから、ひずみゲージを用いた。
【0039】
図1に、封入時に生じるひずみゲージ自体の抵抗変化を、回路に搭載される可変抵抗R4でキャンセルする場合を示した。ゲージへの印加電圧をE、出力電圧をeとすると、ひずみゲージ封入した後、e=0vとするように可変抵抗R4の抵抗値を調整した。
【0040】
図3に、ひずみセンサー10、ICチップ20、送受信アンテナ40の配置例を模式的に示す平面図、図4にその概観図を示す。
【0041】
まず、鉄製鋼板を縦20mm、横50mmの寸法で調整して、ひずみセンサー、ICチップ、送受信アンテナは、鋼板30に取付け、更にこれらを、構造物に付着し、可変抵抗でゼロ点を調整した。母材とする鋼板の厚さは0.5mmとした。鋼板の材質は、鉄材として、亜鉛メッキの防食を施した。
【0042】
アンテナを含む無線通信装置、ひずみセンサーを取り付けた鋼板は、シリコンゴムで覆ったのちに塗料でコーティングした。
【0043】
また、アンテナを含む無線通信装置、ひずみセンサーを取り付けた鋼板に枠を取付け、エポキシ樹脂を流し込んで保護した。ひずみ計測装置の構造物への取付けは、スポット溶接とした。
【0044】
図6に、本発明の実施例のひずみ計測システムを模式的に示す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
構造物に生じるひずみをモニターしながら、精度よく測定するひずみ測定器及び測定システムが実現した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひずみセンサーを金属板に装着し、構造物に取り付けた金属板とひずみセンサーからの構造物のひずみ情報を、RFIDタグを介する無線通信で送信することを特徴とする構造物のひずみ計測装置。
【請求項2】
金属板が、厚さ0.08mm以上2mm以下の鉄製であり、
無線通信に、リーダーライターからの電波で駆動するパッシブ型RFIDを用い、ひずみ計測のためのブリッジ回路に可変抵抗を用いて、予め可変抵抗でひずみゲージの抵抗変動をキャンセルした後、RFIDタグを樹脂コートすることを特徴とする請求項1記載の構造物のひずみ計測装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のひずみ情報を構造物の外部のリーダーライターで読取り、記録、演算処理することを特徴とするひずみ計測システム。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−179817(P2011−179817A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41220(P2010−41220)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】