説明

ひび割れ検出方法

【課題】撮影されたコンクリート表面に、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などが存在する場合でも、高い精度で実際のひび割れのみを検出することのできるひび割れ検出方法を提供すること。
【解決手段】ウェーブレット画像を作成するステップ、輪郭線追跡処理をおこなうことでノイズの一部が除去されてなる第1のひび割れ抽出画像を作成するステップ、第1のひび割れ抽出画像におけるひび割れに対してラベリングをおこない、ラベリングされたひび割れの特徴量を設定し、この特徴量と閾値を比較してノイズのさらに一部が除去されてなる第2のひび割れ抽出画像を作成するステップ、第2のひび割れ抽出画像における残りのノイズを除去して細線化画像を作成し、さらにひび割れ幅を設定するステップ、第1の関係式に細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入してひび割れ幅を推定するステップ、からなる検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法に係り、特に、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、簡易に高精度のひび割れ検出をおこなうことのできるひび割れ検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表面上のひび割れを検出する方法としては、従来、調査員がスケールを使用しながら目視観察をおこない、ひび割れの幅や長さを測定する方法が一般的であった。しかし、この目視観察による方法は調査員の測定技量などによって精度のばらつきが大きくなることや、ひび割れが大量に存在する場合においては大量の情報を正確に処理するために莫大な労力および時間を要するといった問題があった。
【0003】
上記の問題に対して、コンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込み、画像をひび割れ領域とそれ以外の領域とに2値化処理する画像処理手法が適用されている。画像の2値化処理とは、ある濃度値に対して画像の濃度を0または1に表現することであり、例えば、入力画像f(i,j)に対して2値化処理で得られる2値化画像b(i,j)はb(i,j)=1(f(i,j)>k)、0(f(i,j)≦k)となる。ここで、kは2値化する際の閾値であり、したがって2値化画像の良し悪しは閾値kの選定によって決まるといってよい。
【0004】
従来の閾値を求める手法としては、固定閾値または可変閾値による処理方法がある。固定閾値による処理方法には、Pタイル法やモード法、相関比を用いた方法などが挙げられる。固定閾値による処理方法は、対象画像の濃度ヒストグラムを作成し、画像の背景(コンクリート表面)の濃度値とひび割れの濃度値との間に明確な谷が現れるような双峰性のヒストグラムが得られる場合において有効な方法である。
【0005】
一方、可変閾値による処理方法は、照明条件などによって撮影ムラが生じ、背景の濃度値と対象部分の濃度値が画像全体で一定でない場合に有効な方法である。この可変閾値処理法は、注目している画素を中心とする局所領域の平均濃度値を閾値とする方法である。この方法の欠点は、背景領域の微妙な濃淡変化に応じて、例えばひび割れ以外のノイズが多い画像となってしまう点である。
【0006】
従来の画像処理方法は、撮影された入力画像に対して閾値を決定し、2値化処理をおこないながらひび割れの抽出をおこなうものである。すなわち、この一般的な処理の流れは次のようになる。1)撮影画像をコンピュータに取り込んで入力画像を作成する。2)入力画像の濃度の補正をする。3)2値化処理をおこなってひび割れの抽出をおこなう。以下、この従来の検出方法を「従来方法1」という。
【0007】
上記する従来の画像処理法は、濃度が一様なコンクリート表面上のひび割れの検出においては比較的高精度のひび割れ検出が可能である。しかし、実際のコンクリート構造物の表面は様々な汚れを含んでおり、さらにはひび割れの濃度も、ひび割れの幅や深度などに応じてばらつきがあるのが一般的である。このようなコンクリート表面に対して従来の画像処理法を用いると、ひび割れの抽出に際しては様々な問題が生じ得る。例えば、固定閾値処理の場合において、コンクリート表面上の汚れ領域とひび割れ領域が同程度の濃度値である場合には、これらを2値化処理することが極めて困難となる。濃度ヒストグラムが双峰性を呈していて、閾値を容易に決定できたとしても、ひび割れ領域と判断される範囲には汚れ領域が含まれる可能性が極めて高くなる。また、逆に、ひび割れ周辺部の汚れ領域を含ませないような閾値をあらたに設定しようとすると、今度は他のひび割れ領域を除外してしまうことになってしまう。
【0008】
可変閾値処理の場合には、コンクリート表面上の汚れが多くなるにしたがって、ひび割れ抽出画像中にひび割れ以外のノイズが多く含まれることになり、場合によってはひび割れ抽出画像を一見しても、どの部分がひび割れ領域なのか全く判別できないこととなる。
【0009】
上記する従来手法の問題に対して本発明者等は、撮影されたコンクリート表面の汚れや照明条件などによってひび割れの検出が困難な場合においても、簡易に高精度のひび割れ検出をおこなうことのできるひび割れ検出方法を発案し、特許文献1にその開示をおこなっている。このひび割れ検出方法は、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成するステップ、ウェーブレット係数テーブル内において局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数を閾値とし、注目画素のウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はこの注目画素をひび割れと判定し、閾値よりも小さな場合は注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と閾値との比較をおこなうことでひび割れ抽出画像を作成するステップ、からなる検出方法である。
【0010】
この検出方法では、さらに輪郭線追跡処理により、任意の画素に対してこれに隣接する8方向の画素を対象に繋がりのある画素を連結し、連結された画素の集合体にラベリングをおこなっている。ここで、ラベリングごとに構成画素の数(もしくは対応する面積)がその閾値よりも小さな場合にラベリングされた集合体をノイズと見なして除去するようにしている。以下、この検出方法を「従来方法2」という。
【0011】
本発明者等は上記する従来方法1,2を用いて、実際の撮影画像データから2値化画像を作成し、この2値化画像の精度の検証を試みた。
【0012】
具体的には、図13aで示す撮影画像に対し、従来方法1を適用して2値化処理の際の閾値を177、185にそれぞれ設定して2値化画像を作成し、さらに、従来方法2を適用してひび割れ抽出画像を作成した。また、これとは別に、図14aで示す撮影画像に対し、従来方法1を適用して2値化処理の際の閾値を185に設定して2値化画像を作成し、さらに、従来方法2を適用してひび割れ抽出画像を作成した。この図14aで示す撮影画像では、画像の右側にロープを一緒に撮影しており、コンクリート面にひび割れや染み、汚れとは全く異なるものが2値化画像やひび割れ抽出画像としてどのように抽出され得るかに関し、検証したものである。
【0013】
なお、従来方法2の適用に際しては、ウェーブレット係数値とウェーブレット係数テーブル内の閾値の許容値を25、ノイズを除去するための閾値として輪郭線追跡処理から求められるひび割れと判定された画素の塊の個数を50(この値以下の場合には画素の塊をノイズと見なして除去)として計算している。
【0014】
従来方法1で2値化処理の際の閾値が177,185の場合の2値化画像(それぞれの閾値以下の画素をひび割れでないとして除去する)をそれぞれ図13b、cに、従来方法2によるひび割れ抽出画像を図13dに示している。
【0015】
図13a,b,cを参照するに、まず、閾値を相対的に小さく設定している図13bでは、コンクリート面の汚れが除去されているものの、これに付随して細かなひび割れも同時に除去されている。
【0016】
一方、閾値を相対的に大きく設定している図13cでは、細かなひび割れが抽出されているものの、これに付随してコンクリート面の汚れも同時に抽出している。
【0017】
以上より、人為的に閾値を設定する従来方法1では、閾値の設定が極めて重要であるものの、この閾値をいずれに設定したとしても、コンクリートの汚れを抽出しないことと細かなひび割れを精緻に抽出することを同時に満足するのは極めて困難である。
【0018】
また、図13a,dを参照するに、従来方法2によって作成された図13dのひび割れ抽出画像は、図13b、cに比してより精度よく図13aの撮影画像データにおけるひび割れの抽出を実現している。
【0019】
しかし、依然としてコンクリート面上の染みや汚れを抽出しており、このノイズがひび割れ抽出画像内に目立っていることは否定できない。
【0020】
一方、図14a,bを参照するに、図14bで示す2値化画像では右側のロープが完全に抽出されており、図14a,cを参照するに、図14cで示すひび割れ抽出画像では、図14bに比してノイズの除去はおこなわれているものの、同様に右側のロープが完全に抽出されている。
【0021】
ところで、特許文献2には、ウェーブレット変換を適用するものの、特許文献1とは異なるひび割れ検出方法が開示されている。この検出方法は、ウェーブレット変換、2値化処理、膨張処理、画素の演算処理を適用して、ひび割れとコンクリート表面の染みや汚れを識別するものである。
【0022】
しかし、この検出方法には以下の課題がある。その一つは、周波数設定や2値化する際に設定される閾値により、ひび割れと染みや汚れの除去がどの程度まで実施できるかが明確に示されておらず、その信憑性に疑問があることである。また、他の一つは、膨張処理の必要性が明確に示されていない点である。さらに他の一つは、高周波成分を除去するためのウェーブレット変換をひび割れ除去画像データに適用し、背景画像データを作成することとしているが、ひび割れ除去画像データ中にどの程度までノイズが含まれているかが明確に示されていない点である。さらに他の一つは、画像演算における白画素比率算定は、隣接する8画素を対象としているが、この妥当性が明確に示されておらず、さらには、隣接する画素の個数を対象としているもののそれらの方向性に関する検討が一切なされていない点である。最後に、これらの処理を実施した際の検出精度に関する開示が一切ないことが挙げられる。
【0023】
したがって、上記する特許文献2では、その発明の本質的特徴部分の開示が不十分であり、発明方法の妥当性等が実証されていないことからその検出方法を適用した際の信頼性に乏しいものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2006−162583号公報
【特許文献2】特開2008−267943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、撮影されたコンクリート表面に、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などが存在する場合でも、高い精度で実際のひび割れのみを検出することのできるひび割れ検出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記目的を達成すべく、本発明によるひび割れ検出方法は、コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法であって、対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する第1のステップ、ウェーブレット係数テーブル内において局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数をウェーブレット係数に関する閾値とし、注目画素のウェーブレット係数が前記閾値よりも大きな場合は注目画素をひび割れと判定し、小さな場合は注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と前記閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなうことで、ノイズの一部が除去されてなる第1のひび割れ抽出画像を作成する第2のステップ、第1のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対してラベリングをおこない、ラベリングされたひび割れの特徴量を前記ウェーブレット係数を用いて設定し、この特徴量と予め設定された特徴量に関する閾値を比較して、ラベリングされたそれぞれのひび割れに対してさらにひび割れであるか否かの判定をおこない、ここでノイズのさらに一部が除去されてなる第2のひび割れ抽出画像を作成する第3のステップ、第2のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対して残りのノイズを除去し、次いで、細線化処理を実行してその中心線で構成されるひび割れの細線化画像を作成し、この細線化画像に対応するウェーブレット係数から大小2つのウェーブレット係数を抽出するとともに、2つのウェーブレット係数に対応する相対的に大きなひび割れ幅と小さなひび割れ幅を設定する第4のステップ、2つのウェーブレット係数、および、相対的に大きなひび割れ幅と小さなひび割れ幅で構成される第1の関係式に前記細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入してひび割れ幅を推定する第5のステップものである。
【0027】
ウェーブレット(wavelet)とは、小さな波という意味であり、局在性を持つ波の基本単位を、ウェーブレット関数を用いた式で表現することができる。このウェーブレット関数を拡大または縮小することにより、時間情報や空間情報と周波数情報を同時に解析することが可能となる。このウェーブレット係数を、ひび割れを有するコンクリート表面に適用する場合のこの係数の特徴としては、コンクリート表面の濃度と、ひび割れの濃度と、ひび割れ幅に依存するということである。例えば、ひび割れ幅が大きくなるにつれてウェーブレット係数の値は大きくなる傾向があり、また、ひび割れの濃度が濃くなるにつれて(黒色に近づくにつれて)ウェーブレット係数の値は大きくなる傾向がある。
【0028】
ウェーブレット変換によって算定されるウェーブレット係数を用いて、ひび割れの検出をおこなうアルゴリズムは以下のようになる。まず、コンクリート表面の撮影画像とウェーブレット関数との内積よりウェーブレット係数を求める。このウェーブレット係数を256階調に変換することで、連続量を持ったウェーブレット画像が作成できる。
【0029】
ウェーブレット係数は、上記するようにひび割れ幅やひび割れの濃度、コンクリート表面の濃度によって変化することから、擬似的に作成されたデータを用いてひび割れの濃度とコンクリート表面の濃度に関するウェーブレット係数を各階調ごとに算定しておき、ウェーブレット係数テーブルを作成しておく。このウェーブレット係数テーブルにある各階調ごとのウェーブレット係数が、ひび割れ検出の際の閾値となる。例えば、対比される2つの濃度(一方の濃度をコンクリート表面の濃度、他方の濃度をひび割れの濃度と仮定することができる)に対応するウェーブレット係数(閾値)がウェーブレット係数テーブルを参照すれば一義的に決定される。したがって、後述するように、撮影画像において対比される2つの濃度間のウェーブレット係数を算定した際に、このウェーブレット係数がウェーブレット係数テーブルの閾値よりも大きな場合は、ひび割れであると判断できるし、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断することができる。
【0030】
このウェーブレット係数テーブルを作成する際の擬似的なデータは特に限定するものではないが、例えば、ひび割れ幅が1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)までの中で、各画素幅のひび割れごとに、コンクリート表面の階調とひび割れの階調に対応するウェーブレット係数を算定する。閾値の設定に際しては、例えば、ひび割れ幅が1画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れに対応するウェーブレット係数を選定し、ひび割れ幅が5画素の場合のウェーブレット係数のうち、ひび割れ領域でない箇所のウェーブレット係数を選定し、これら2つのウェーブレット係数の平均値をもって任意の階調における閾値とすることができる。
【0031】
本発明のひび割れ検出方法においては、まず、第1のステップにおいて、上記するウェーブレット係数テーブルを作成しておくとともに、撮影画像に対してレンズ収差補正やあおり補正などの補正処理をおこない、これをコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する。このウェーブレット画像の作成は、コンピュータ内部において以下のように実施される。まず、適宜に設定された広域領域(例えば30×30画素の領域)に対してウェーブレット係数を算定する。次に、この広域領域から一画素移動した広域領域(同じように例えば30×30画素の領域であって、移動前の30×30画素の領域とほとんどの画素が共通している)で、同じようにウェーブレット係数を算定する。この操作を入力画像全体に繰り返すことにより、コンピュータ内部には、ウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像が作成される。
【0032】
次に第2のステップにおいて、このウェーブレット係数の連続量からなるウェーブレット画像において、ウェーブレット係数テーブル内の閾値(ウェーブレット係数)とウェーブレット画像を構成するウェーブレット係数とを比較し、画像を構成するウェーブレット係数が閾値よりも大きな場合はひび割れと判断し(画面上では例えば白色)、閾値よりも小さな場合はひび割れでないと判断する(画面上では例えば黒色)。そして、この操作をウェーブレット画像全体でおこなうことにより、黒い背景色内に白いひび割れが描き出された2値化画像が作成される。
【0033】
この2値化画像に対し、この画像中のノイズの一部を除去するべく、輪郭線追跡処理を実施して第1のひび割れ抽出画像を作成する。
【0034】
この輪郭線追跡処理は、ある任意の画素(ひび割れと判断されている画素)から出発して、隣接する画素がひび割れ箇所の場合には出発画素と接続し、さらに隣接する画素がひび割れ箇所の場合にはさらに双方を接続し、最終的に出発画素に閉合した場合(例えば、第1画素、第2画素、…、第n−1画素、第n画素、第1画素の順に接続される場合)や、次に繋がるひび割れ箇所が存在しなくなった場合に終了するものである。この輪郭線追跡処理によれば、ループ状に閉合するようなひび割れラインや、複数の屈曲部を備えて線状に伸びるひび割れラインなど、適宜のひび割れラインが作成されることになる。この際、繋げられる画素数の最小数を予め設定しておくことにより、この設定数以下の画素はすべてひび割れでないとして、画面のひび割れ表示から削除することができる。
【0035】
次に、第3のステップにおいて、第1のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対してラベリングをおこない、ラベリングされたひび割れの特徴量を前記ウェーブレット係数を用いて設定し、この特徴量と予め設定された特徴量に関する閾値を比較して、ラベリングされたそれぞれのひび割れに対してさらにひび割れであるか否かの判定をおこなう。
【0036】
ここで、ラベリングされたひび割れの特徴量として、このひび割れを構成する各画素のウェーブレット係数の平均値や標準偏差、もしくは平均値と標準偏差の双方を設定することができる。
【0037】
本発明者等の検証によれば、このラベリングされたひび割れに対してその特徴量に関する閾値でノイズを除去することにより、次の第4のステップにおける最終的なノイズ除去を効率的におこなえることが実証されている。
【0038】
また、この第3のステップにおいては、ラベリングされたひび割れの始点から終点までの距離がさらに計算され、計算された距離が予め設定された距離に関する閾値以下の場合には、さらにラベリングされたひび割れの傾きが計算され、近傍のラベリングされたひび割れ同士を仮に結合してなる結合ひび割れの傾きが結合前のラベリングされたひび割れそれぞれの傾きと同一か近似している場合に、この結合ひび割れをひび割れであると判定することが含まれるのが好ましい。
【0039】
さらに、このラベリングされたひび割れに対して傾きが計算され、水平方向もしくは鉛直方向に延びる直線状を呈している場合には、このラベリングされたひび割れはひび割れでないと判定することが含まれるのが好ましい。
【0040】
これらは、第3のステップにおいて、ラベリングされたひび割れが1つの集合体としてひび割れであるか否かを精緻に判定するものであり、このステップを経ることで、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などが効果的に取り除かれてなる第2のひび割れ抽出画像を作成することができる。
【0041】
次に、第4のステップにおいて、第2のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対して残りのノイズを除去する。
【0042】
このノイズ除去は、最終的なノイズの除去となり、既述する輪郭線追跡処理によるノイズ除去、ラベリングによるノイズ除去に続くものである。ここでは、たとえば、公知の画像編集ソフトを使用して、ドット部を除去したり、所定長さ未満の線分を非クラック部としてノイズを除去する等の方法が適用できる。
【0043】
この最終的なノイズ除去において画像編集ソフトを適用する際に、本来は種々の条件をマニュアル操作入力で実行させる必要があるが、本発明の検出方法によれば、上記する第3のステップにて実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などが既にひび割れ抽出画像から取り除かれていることより、上記する条件設定のためのマニュアル操作を不要とでき、自動処理にて画像編集ソフトの実行とこれに基づく最終的なノイズ除去を可能とするものである。
【0044】
ノイズの除去が終了したら、そのひび割れ抽出画像に対して細線化処理を実行することにより、ひび割れの中心線で構成され、たとえばひび割れ全体が1画素幅(1ピクセル幅)を有する細線化画像を作成する。本発明者等の検証によれば、任意幅のひび割れにおいて、その中心線部分が最も濃度が濃くなることが分かっており、したがって、細線化処理により、任意幅で任意長さのひび割れを構成するひび割れにおいて、各部位のひび割れ濃度を設定することができる。
【0045】
任意の細線化画像には1本もしくは複数本のひび割れが包含されているが、この細線化画像の中から、大小2つのウェーブレット係数を選定する。この2つのウェーブレット係数の選定は、任意に選定したウェーブレット係数と、このウェーブレット係数よりも相対的に小さな(または大きな)ウェーブレット係数であれば特に限定されるものではないが、最終的にひび割れを推定する上で、細線化画像中のウェーブレット係数の中で、最大値と最小値を選定するのが好ましい。この場合、最大値は、分解能のひび割れ、すなわち、撮影機器の種類(デジタル一眼レフカメラ、ハイビジョンデジタルカメラ、デジタルビデオカメラなど)、使用されるレンズの種類、撮影距離などの撮影状況によって決定される分解能のひび割れ幅に設定することができる。一方、最小値は、画像解析で検出可能なひび割れ幅に設定できる。
【0046】
次いで、第5のステップでは、上記する選定された2つのウェーブレット係数(たとえば最小値と最大値)、およびこの2つのウェーブレット係数に対応するひび割れ幅を用いて、細線化画像のウェーブレット係数を変数としたひび割れ幅の推定式を設定する。
【0047】
上記推定式によってひび割れ幅を推定した結果と、実際にコンクリート表面上のひび割れをクラックスケールにて測定した測定結果とを比較照合すると、相互に極めて高い相関があることが特定されている。ここで、実際に分解能の低い画像データの場合でも、微細幅のひび割れを高精度で検出することができる。
【0048】
最後に、推定されたひび割れ幅に基づくひび割れデータ、すなわち、全ひび割れ長さの算定やひび割れ幅ごとのひび割れ長さの算定、ひび割れ幅ごとの分布図の作成などをおこない、該ひび割れデータから所望の情報を抽出することが可能となる。
【0049】
また、本発明によるひび割れ検出方法の他の実施の形態は、前記第1のステップでは、コンクリート表面にクラックスケールを密着させ、該クラックスケールを含むコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力することがさらに含まれ、かつ、この入力画像をウェーブレット変換することによってひび割れ画像とクラックスケール画像双方のウェーブレット画像を作成するものであり、前記第4のステップでは、さらにクラックスケール画像に関するウェーブレット係数から大小2つのウェーブレット係数を抽出し、これを回帰分析することで回帰式を決定する係数を求め、前記細線化画像に対応するウェーブレット係数から抽出された前記大小2つのウェーブレット係数、およびクラックスケール画像に関する大小2つのウェーブレット係数で構成される第2の関係式に前記細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入することで、細線化画像に対応するウェーブレット係数の補正値を求め、前記回帰式を決定する係数で構成される第3の関係式に前記補正値を代入してひび割れ幅を推定するものである。
【0050】
この検出方法は、同じひび割れ幅をもつ画素の濃度に対して、コンクリート濃度の濃淡によってウェーブレット係数が異なってくることを勘案し、実際にクラックスケールをコンクリート表面上に密着させてクラックスケールの撮影もおこない、クラックスケールに関するウェーブレット係数をも算定し、この算定値を勘案してひび割れに関する細線化画像のウェーブレット係数を補正する(もしくは標準化する)ものである。この補正(キャリブレーション)は、クラックスケールをコンクリート表面に貼着できる撮影条件(撮影距離が短い、撮影されるコンクリート表面が高所でないなど)の場合に好適である。
【0051】
クラックスケールの撮影画像に関してウェーブレット係数を求め、上記と同様に、2つの大小のウェーブレット係数を選定する。このクラックスケールの場合も、ウェーブレット係数中の最大値と最小値を選定するのが好ましい。
【0052】
クラックスケールに関する2つのウェーブレット係数に対応するクラックスケールのひび割れ幅の平均値を求め、たとえば線形関数による回帰式:y = ax + b の係数a,bを求める。
【0053】
ひび割れに関する細線化画像のウェーブレット係数に関しても上記と同様に2つのウェーブレット係数を選定しておき(最大値、最小値が好ましいことは同様)、この2つのウェーブレット係数とクラックスケール画像に関する大小2つのウェーブレット係数と、で構成され、細線化画像のウェーブレット係数を変数とした第2の関係式を設定する。この関係式に細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入することで、ウェーブレット係数の補正値(標準化された値)を算定し、この値を、たとえば上記回帰式の係数a,bを有する一次式(補正値を変数とする式)に代入することにより、ひび割れ幅を推定するものである。
【0054】
発明者等の検証によれば、ウェーブレット係数をキャリブレートする本方法によっても、実際の計測値と高い相関が得られることが実証されており、上記のごとく撮影条件が悪い場合でも、微細幅のひび割れを高精度で検出することが可能となる。
【発明の効果】
【0055】
以上の説明から理解できるように、本発明のひび割れ検出方法によれば、作成されたひび割れ抽出画像にラベリングを施し、このラベリングされたひび割れをその閾値と比較してノイズを除去することにより、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などのノイズを効果的に取り除くことができ、ひび割れを高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】入力画像と局所領域の関係を示した模式図である。
【図2】局所領域と注目画素の関係を示した模式図である。
【図3】本発明のひび割れ検出方法を示したフローである。
【図4】擬似画像を示した図である。
【図5】図4の擬似画像のウェーブレット係数の鳥瞰図である。
【図6】ウェーブレット係数テーブルの一実施の形態を示した図である。
【図7】図3のフローにおける第2のひび割れ抽出画像の作成方法の一実施の形態のフロー図である。
【図8】図3のフローにおける第2のひび割れ抽出画像の作成方法の他の実施の形態のフロー図である。
【図9】図3のフローにおけるひび割れ幅の推定値の算定方法の一実施の形態のフロー図である。
【図10】図3のフローにおけるひび割れ幅の推定値の算定方法の他の実施の形態のフロー図である。
【図11】本発明の検出方法の検出精度に関する検証結果を示す図であり、(a)は撮影画像を、(b)はひび割れ抽出画像をそれぞれ示した図である。
【図12】本発明の検出方法の検出精度に関する他の検証結果を示す図であり、(a)は撮影画像を、(b)はひび割れ抽出画像をそれぞれ示した図である。
【図13】従来の検出方法の検出精度に関する検証結果を示す図であり、(a)は撮影画像を、(b)、(c)は2値化画像を、(d)はひび割れ抽出画像をそれぞれ示した図である。
【図14】従来の検出方法の検出精度に関する他の検証結果を示す図であり、(a)は撮影画像を、(b)は2値化画像を、(c)はひび割れ抽出画像をそれぞれ示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0058】
図1は、入力画像と局所領域の関係を示した模式図である。本発明のひび割れ検出方法では、入力画像1における広域領域2でウェーブレット変換をおこない、広域領域2の中心である局所領域3におけるひび割れの検出をおこなうものである。入力画像1内をくまなく広域領域2を上下左右に平行移動して、入力画像1内におけるひび割れの検出をおこなう。この方法により、従来の固定閾値法のように、例えば入力画像1内で一つの閾値を決める方法に比べて、精度のよいひび割れの検出をおこなうことができる。
【0059】
図2は、局所領域3を拡大した図であり、図示する実施形態では、たとえば3×3の9つの画素(8つの近傍画素31,31,…と、中央に位置する注目画素32)を対象としてひび割れ判定をおこなう。なお、ウェーブレット係数の算定は、図1における広域領域2を対象としておこなわれる。
【0060】
ここで、ウェーブレット関数(マザーウェーブレット関数)を用いたウェーブレット変換をおこなうことでウェーブレット係数を算定する算定式を以下に示す。
【0061】
【数1】

【0062】
【数2】

【0063】
【数3】

【0064】
ここで、f(x、y)は入力画像を、ψはマザーウェーブレット関数(ガボール関数)を、(x、y)はψの平行移動量を、aはψの拡大や縮小を、fは中心周波数を、σはガウス関数の標準偏差を、θは波の進行方向を表す回転角を、それぞれ示している。
【0065】
ここで、数式1を用いて計算した複数のθ、kに対して、ウェーブレット係数Ψの累計値C(x、y)を求めたのが数式4となる。
【0066】
【数4】

【0067】
上記のパラメータは、任意に設定できるが、例えば、σを0.5〜2に、aは0〜5に、fは0.1に、回転角は0〜180度に、それぞれ設定できる。
【0068】
数式4における平行移動量(x、y)は、注目画素の位置に対応するものであり、注目画素の位置を順次移動させることによって、ウェーブレット係数の連続量(C(x、y))が算定でき、この連続量を図示することによってウェーブレット画像が作成できる。
【0069】
広域領域2を構成する全画素に対して、ウェーブレット係数を上算定式に基づいて算定した後、注目画素を一つ左右または上下に移動させてできる広域領域2の全画素において同様にウェーブレット係数を算定する。このウェーブレット係数算定を入力画像全体で実施することにより、適宜の範囲内における構成画素がそれぞれのウェーブレット係数を備えたウェーブレット画像(ウェーブレット係数の連続量からなる画像)を作成することができる。
【0070】
次に、図3に基づいて、ひび割れ検出方法の一実施形態を説明する。
【0071】
CCDカメラ等のデジタルカメラで撮影されたコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに取り込むことにより、入力画像の作成(ステップS10)がおこなわれる。ここで、クラックスケールをコンクリート表面に貼着できる場合には、このクラックスケールの撮影も同時におこなわれ、その入力画像も作成される(ステップS11)。
【0072】
次に、入力画像とは何らの関係もない、対比する2つの濃度からなる擬似画像に対して、ウェーブレット係数の算定をおこなう。例えば、図4に示すように、コンクリート表面と仮定される背景色a(例えば、背景色のR、G、Bが、255,255,255とする)と、ひび割れと仮定される線分b1〜b5からなる擬似画像のウェーブレット係数を求める。ここで、線分b1〜b5は、線幅が順に1画素(1ピクセル)〜5画素(5ピクセル)まで変化しており、さらに、各線分は、3種類の濃度を備えている(例えば、線分b1では、濃度の濃い順に、b11(黒色)、b12(薄い黒色)、b13(灰色)と変化している)。この擬似画像に対してウェーブレット変換をおこなうことで算定されるウェーブレット係数の鳥瞰図を示したのが図5である。図5において、X軸は線分の幅を、Y軸は線分の色の濃度を、Z軸はウェーブレット係数をそれぞれ示している。この線幅の設定は、最終的に抽出したいひび割れ幅の最大値によって設定すればよい。なお、画素幅ごとに、ひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ領域以外のウェーブレット係数が算定できる。
【0073】
本実施形態では、コンクリート表面と仮定される任意の濃度(階調)と、ひび割れと仮定される任意の濃度(階調)に対応する閾値(ウェーブレット係数)を算定するにあたり、例えば、ひび割れ幅が1画素幅の場合におけるひび割れ領域のウェーブレット係数と、ひび割れ幅が5画素幅の場合におけるひび割れ領域以外のウェーブレット係数との平均値をもって、設定したひび割れ幅範囲内において対象となる階調に対応した閾値としている。この閾値の設定は、勿論任意でかまわない。
【0074】
対比する2つの濃度の組み合わせをそれぞれ0〜255の256階調でおこなうことで、図6に示すようなウェーブレット係数テーブルの作成(ステップS30)がおこなわれる。なお、この作業は、図示するフロー位置でなくともよく、例えば、入力画像の作成前であってもかまわない。
【0075】
入力画像をウェーブレット変換することにより、ウェーブレット画像の作成(ステップS20)がおこなわれる。なお、クラックスケールの入力画像がある場合には、同様にクラックスケール画像のウェーブレット画像が作成される(ステップS21)。
【0076】
ウェーブレット画像は、上記するように、各画素が固有のウェーブレット係数を備えた連続量からなるものであり、各画素のウェーブレット係数を対応するウェーブレット係数テーブルのウェーブレット係数(閾値)と比較することによって2値化画像が作成され、この2値化画像に対してさらに輪郭線追跡処理をおこなうことにより、ノイズの一部が除去されてなる第1のひび割れ抽出画像が作成される(ステップS40)。なお、この2値化画像の作成に際しては、たとえば、任意の画素のウェーブレット係数がこの画素の濃度(ウェーブレット係数テーブルではこの画素濃度はひび割れ濃度に対応する)と、局所領域内の近傍画素の平均濃度(ウェーブレット係数テーブルではこの局所領域内の近傍画素の平均濃度がコンクリート濃度に対応する)で一義的に決定されるウェーブレット係数(閾値)よりも大きな場合は、この画素をひび割れであると判定することができる。各画素のウェーブレット係数に対して同様の比較をコンピュータ内でおこなうことにより、たとえば、黒い画面(コンクリート表面)内に、白い線分(ひび割れ)が描き出された2値化画像が作成される。
【0077】
ここで、輪郭線追跡処理の内容を概説する。この輪郭線追跡処理は、各ひび割れ領域における任意のひび割れ画素を起点とし(第1画素)、例えば、この第1画素から反時計回りに隣接する画素に注目し、この隣接画素(第2画素)がひび割れ画素である場合には第1画素と第2画素を接続する。以後、同様に第2画素、第3画素、…、第n−1画素、第n画素とひび割れ画素の追跡をおこない、第n画素の次に起点となる第1画素がくる場合には、第一画素〜第n画素までを一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。あるいは、第n画素の次に続くひび割れ画素が存在しなくなった時点で、第1画素〜第n画素を一つのひび割れ箇所(ひび割れライン)と判定する。なお、ひび割れラインの中には、その途中で二股以上に分岐するようなひび割れも含まれる。この次数nの設定は任意であり、第1画素からの追跡数がこの設定された次数n以上の場合をひび割れと判定することにより、ノイズの一部が除去されてなる第1のひび割れ抽出画像が作成される。
【0078】
次に、作成された第1のひび割れ抽出画像に対してさらにノイズの一部を除去して第2のひび割れ抽出画像を作成する。
【0079】
この第2のひび割れ抽出画像の作成方法としては、以下2つの方法形態がある。
【0080】
その一つの方法(ステップS50)は、図7で示すように、第1のひび割れ抽出画像におけるひび割れにラベリングをおこない(ステップS51)、ラベリングされたひび割れの特徴量を算定するとともに(ステップS52)、別途この特徴量に関する閾値を設定し(ステップS53)、これら特徴量と閾値を比較する。
【0081】
ここで、ラベリングされたひび割れの特徴量は、このひび割れを構成するすべての画素のウェーブレット係数値の平均値と標準偏差をもって特徴量とするのが好ましい。そして、これらウェーブレット係数値の平均値と標準偏差のそれぞれの閾値を設定して特徴量の閾値とする。
【0082】
このように、ラベリングされたひび割れを1つのグループと見なし、このグループが閾値以上であればこれをひび割れと判定し、閾値未満であればひび割れでないと判定してノイズの除去をおこない、第2のひび割れ抽出画像が作成されることになる(ステップS54)。
【0083】
このステップS50により、特に、実際のひび割れと類似した汚れや染み、撮影ムラ、型枠跡などのノイズを効果的に取り除くことができる。
【0084】
一方、第2のひび割れ抽出画像の作成方法の他の方法(ステップS50A)は、図8で示すように、第1のひび割れ抽出画像におけるひび割れにラベリングをおこない(ステップS51)、ラベリングされたひび割れの始点〜終点までの距離(長さ)を算定するとともに(ステップS55)、別途この距離に関する閾値を設定し(ステップS55a)、これら距離と閾値を比較して、距離が閾値以下の場合には、さらにラベリングされたひび割れの傾きを計算する(ステップS56)。
【0085】
次いで、近傍のラベリングされたひび割れ同士を仮に結合して結合ひび割れを作成し、この結合ひび割れの傾きと結合前のラベリングされたひび割れそれぞれの傾きを比較する(ステップS57)。
【0086】
比較した結果(ステップS58a)、結合ひび割れと結合前の2つのラベリングされたひび割れのそれぞれの傾きが同一か近似している場合には、さらに、この傾きが水平方向および鉛直方向のいずれかの方向に延びる直線状を呈しているか否かを検証する(ステップS58b)。
【0087】
結合ひび割れと結合前の2つのラベリングされたひび割れのそれぞれの傾きが同一でも近似してもいない場合には、この結合ひび割れはひび割れでないと判定される(ステップS58c)。また、傾きが水平方向および鉛直方向のいずれかの方向に延びる直線状を呈している場合は、結合ひび割れが型枠跡等からなるコンクリート表面の汚れや染みであるとして、同様にひび割れでないと判定される(ステップS58c)。
【0088】
一方、傾きが水平方向および鉛直方向のいずれの方向にも延びていない場合には、図7と同様に、今度はラベリングされた結合ひび割れの特徴量が算定され(ステップS59a)、別途特徴量の閾値が設定され(ステップS59b)、これらを比較して結合ひび割れが閾値以上であればこれをひび割れと判定し、閾値未満であればひび割れでないと判定してノイズの除去をおこない、第2のひび割れ抽出画像が作成されることになる(ステップS59c)。
【0089】
図3に戻り、ステップS50、もしくはステップS50Aにて作成された第2のひび割れ抽出画像に対し、さらに、画像編集ソフトを使用して、ドット部を除去する方法、所定長さ未満の線分を非クラック部として除去するといった方法を適用してノイズの最終除去をおこなった後に、このノイズ除去後のひび割れ抽出画像に対して、それぞれのひび割れの中心線で構成され、たとえばひび割れ全体が1画素幅(1ピクセル幅)を有する細線化画像を作成する(ステップS60)。
【0090】
この細線化画像を使用してひび割れ幅の推定値を算定する。ここで、このひび割れ幅の推定に関しては、クラックスケール画像のウェーブレット係数を使用して細線化画像に関するウェーブレット係数を補正し(キャリブレートし)、その後にひび割れ幅の推定をおこなうステップS70Aと、キャリブレーションをおこなわず、細線化画像に関するウェーブレット係数のみを使用してひび割れ幅の推定をおこなうステップS70とがある。まず、図9に基づいてステップS70を説明し、次いで、図10に基づいてステップS70Aを説明する。なお、ステップS70とステップS70Aのいずれか一方の選択、もしくは双方の選択はいずれも任意であり、たとえばクラックスケールの入力画像が作成できている場合には、ステップS70Aを選択し、そうでない場合にはステップS70を選択することができる。
【0091】
まず、ステップS70を図9に基づいて説明する。ステップS60で求められた細線化画像のウェーブレット係数の最大値と最小値を求め(ステップS71)、この最大値に対応する最大ひび割れ幅と最小値に対応する最小ひび割れ幅を設定する(ステップS72)。この最大値は、分解能のひび割れ幅に、最小値は画像解析で検出可能なひび割れ幅にそれぞれ設定できる。
【0092】
次に、ひび割れ幅の推定値を算定するための推定式を設定してひび割れ幅の推定をおこなう(ステップS73)。この推定式として、たとえば下式を使用することができる。
【0093】
【数5】

【0094】

【0095】
細線化画像のウェーブレット係数を定式に代入することによって対象となるひび割れのひび割れ幅を推定(特定)する。
【0096】
一方、ステップS70Aを図10に基づいて説明する。まず、クラックスケール画像のウェーブレット係数の最大値、最小値を求め(ステップS74)、クラックスケールのひび割れ幅ごとのウェーブレット係数の平均値を求め、線形関数による回帰式:y = ax + bの係数a,bを求める(ステップS75)。
【0097】
次に、ステップS60で求められた細線化画像のウェーブレット係数の最大値と最小値を求め(ステップS76)、この最大値、最小値とステップS74で求めておいたクラックスケールの最大値、最小値から構成される下式により、まず、細線化画像のウェーブレット係数の補正値(標準化された値)を求める(ステップS77)。
【0098】
【数6】

【0099】

【0100】
上式にて補正されたウェーブレット係数を推定式である上回帰式(y = ax + b)に代入して、ひび割れ幅の推定をおこなう(ステップS78)。
【0101】
図3に戻り、ステップS70もしくはステップS70Aによってひび割れ幅の推定をおこなった後に、各ひび割れの分布状態、ひび割れ幅ごとのひび割れ数量などに関するテーブルや図面をデータとして作成する(ステップS80)。
【0102】
[本発明の検出方法の検出精度に関する検証とその結果]
本発明者等は、図13a,14aで示した撮影画像に対し、本発明の検出方法を適用してひび割れ抽出画像を作成した。
【0103】
図13aを再度図11aで、図14aを再度図12aでそれぞれ示しており、それらの撮影画像に対するひび割れ抽出画像をそれぞれ図11b、12bで示している。
【0104】
なお、ラベリングされたひび割れに関する特徴量の閾値として、ウェーブレット係数の平均値を160、標準偏差を20に設定している。
【0105】
図13b〜c、図14b、cなどとも比較しながら図11b、12bのひび割れ画像を見るとその違いが明りょうとなるが、それぞれ図11a,12aで示す撮影画像におけるひび割れを極めて精緻に検出していることが分かり、コンクリート表面の汚れや染み、さらにはロープなどは精度よくノイズ除去されていることが明りょうである。
【0106】
この検証により、本発明によるひび割れ検出方法が精緻に実際のひび割れのみを検出するものであることが実証されている。
【0107】
以上、本発明の実施の形態を、図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0108】
1…入力画像、2…広域領域、3…局所領域、31…近傍画素、32…注目画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート表面に生じているひび割れの検出をおこなうひび割れ検出方法であって、
対比される2つの濃度に対応したウェーブレット係数を算定するとともに、この2つの濃度をそれぞれ変化させた場合のウェーブレット係数を算定してウェーブレット係数テーブルを作成し、ひび割れ検出対象であるコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力して入力画像とし、この入力画像をウェーブレット変換することによってウェーブレット画像を作成する第1のステップ、
ウェーブレット係数テーブル内において局所領域内の近傍画素の平均濃度と注目画素の濃度に対応するウェーブレット係数をウェーブレット係数に関する閾値とし、注目画素のウェーブレット係数が前記閾値よりも大きな場合は注目画素をひび割れと判定し、小さな場合は注目画素をひび割れでないと判定し、局所領域および注目画素を変化させながら注目画素のウェーブレット係数と前記閾値との比較をおこない、さらに輪郭線追跡処理をおこなうことで、ノイズの一部が除去されてなる第1のひび割れ抽出画像を作成する第2のステップ、
第1のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対してラベリングをおこない、ラベリングされたひび割れの特徴量を前記ウェーブレット係数を用いて設定し、この特徴量と予め設定された特徴量に関する閾値を比較して、ラベリングされたそれぞれのひび割れに対してさらにひび割れであるか否かの判定をおこない、ここでノイズのさらに一部が除去されてなる第2のひび割れ抽出画像を作成する第3のステップ、
第2のひび割れ抽出画像においてノイズを含むひび割れに対して残りのノイズを除去し、次いで、細線化処理を実行してその中心線で構成されるひび割れの細線化画像を作成し、この細線化画像に対応するウェーブレット係数から大小2つのウェーブレット係数を抽出するとともに、2つのウェーブレット係数に対応する相対的に大きなひび割れ幅と小さなひび割れ幅を設定する第4のステップ、
2つのウェーブレット係数、および、相対的に大きなひび割れ幅と小さなひび割れ幅で構成される第1の関係式に前記細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入してひび割れ幅を推定する第5のステップ、からなるひび割れ検出方法。
【請求項2】
前記第3のステップにおいて、ラベリングされたひび割れの特徴量は、このひび割れを構成する各画素のウェーブレット係数の平均値および/または標準偏差からなる、請求項1に記載のひび割れ検出方法。
【請求項3】
前記第3のステップでは、ラベリングされたひび割れの始点から終点までの距離がさらに計算され、計算された距離が予め設定された距離に関する閾値以下の場合には、さらにラベリングされたひび割れの傾きが計算され、近傍のラベリングされたひび割れ同士を仮に結合してなる結合ひび割れの傾きが結合前のラベリングされたひび割れそれぞれの傾きと同一か近似している場合に、この結合ひび割れをひび割れであると判定する、請求項1または2に記載のひび割れ検出方法。
【請求項4】
前記第3のステップにおいて、ラベリングされたひび割れに対して傾きが計算され、水平方向もしくは鉛直方向に延びる直線状を呈している場合に、このラベリングされたひび割れはひび割れでないと判定する、請求項3に記載のひび割れ検出方法。
【請求項5】
前記大小2つのウェーブレット係数は、細線化画像に対応するウェーブレット係数中の最大値と最小値であり、
前記2つのウェーブレット係数に対応する相対的に大きなひび割れ幅はウェーブレット係数の最大値に対応する最大ひび割れ幅であり、相対的に小さなひび割れ幅はウェーブレット係数の最小値に対応する最小ひび割れ幅である、請求項1〜4のいずれかに記載のひび割れ検出方法。
【請求項6】
前記第1のステップでは、コンクリート表面にクラックスケールを密着させ、該クラックスケールを含むコンクリート表面の撮影画像をコンピュータに入力することがさらに含まれ、かつ、この入力画像をウェーブレット変換することによってひび割れ画像とクラックスケール画像双方のウェーブレット画像を作成するものであり、
前記第4のステップでは、さらにクラックスケール画像に関するウェーブレット係数から大小2つのウェーブレット係数を抽出し、これを回帰分析することで回帰式を決定する係数を求め、前記細線化画像に対応するウェーブレット係数から抽出された前記大小2つのウェーブレット係数、およびクラックスケール画像に関する大小2つのウェーブレット係数で構成される第2の関係式に前記細線化画像に対応するウェーブレット係数を代入することで、細線化画像に対応するウェーブレット係数の補正値を求め、前記回帰式を決定する係数で構成される第3の関係式に前記補正値を代入してひび割れ幅を推定する、請求項1〜5のいずれかに記載のひび割れ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−2531(P2012−2531A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135111(P2010−135111)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】