説明

めっき品及びその製造方法

【課題】従来のめっきは色調が限られており、塗装では金属調外観を出すことはできない。さらに塗装においては耐摩耗性が低いため、環境の厳しいところでは長期の使用で塗膜が摩耗することもあり、使用には適さない。真空成膜加工では金属皮膜を付けるためめっき同様の色調が出せるが、耐摩耗性が低く使用できない。また大物や複雑な形状のものはできない。
【解決手段】複数層のめっき被膜を形成する場合は最上層〜第3層までに、単層の場合はそのめっきを微細な凹凸によってできるものとし、凹凸の面積、深さを調整することで、干渉色のあるめっき品ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、めっきの色調に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のめっきは最上層がクロムのめっきの場合において、金属光沢、黒色、つや消し(例えば、特許文献1、特許文献2参照)しかなく、他の色目を出すには、塗装、真空成膜加工が必要であった。
【特許文献1】特開平3−39495号公報
【特許文献2】特開昭50−20934号公報
【発明の開示】

【本発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、以上の技術によれば、めっきにおいては色調が限られている。塗装では塗装顔料の微細化に限度があり、金属調外観を出すことはできない。さらに耐摩耗性が低いため、自動車外装等の環境の厳しいところでは長期の使用で塗膜が摩耗することもあり、使用には適さない。真空成膜加工では金属皮膜を付けるためめっき同様の色調が出せ、多層膜にすることで広範な色調を出すことができるが、耐摩耗性が低く手の触れるところでは皮膜が剥がれてしまうため使用できない。また大物や複雑な形状のものはできない。
【0004】
そこで、この発明は、金属光沢があり、且つ、干渉色があるめっき品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明の要項は下記の通りとする。
1.基材と、該基材の表面に形成され、自己の表面に光が干渉する微細な凹凸が形成されている下めっき層と、該下めっき層の表面に形成され、下めっき層の光の干渉を妨げない厚みの上めっき層とからなることを特徴とするめっき品。
2.前記凹凸が、深さ0.1〜1μm、単位面積に占める円形状凹凸の割合が10〜50%であることを特徴とする請求項1に記載のめっき品。
3.基材上に、自己の表面に光の干渉する微細な凹凸を持つニッケルを含む下めっき層を形成するニッケルめっき工程と、該下めっき層上に該下めっき層の光の干渉を妨げない厚みのクロムを含む上めっき層を形成するクロムめっき工程とを備えていることを特徴とするめっき方法。
4.前記ニッケルめっき工程は、前記基材上に半光沢層を形成する第1工程と、該半光沢層上に前記凹凸を持つ凹凸層を形成する第2工程とからなる請求項3に記載のめっき方法。
5.前記第2工程を有機物からなるエマルジョンを使用する請求項4に記載のめっき方法。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、金属光沢があり、且つ、干渉色があるめっき品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
実施例1
(1)金属電気めっき下地層の形成
導電化処理されたABS樹脂板(100×100mm)に、硫酸銅めっき浴を用い厚さ20μmの銅めっきを施したものを導電性素地として用い、次の組成及び条件により、金属めっき下地層を形成させた。すなわち、まず硫酸ニッケル250g/l、塩化ニッケル40g/l、ホウ酸50g/l、荏原ユージライト社製CF−MU 3ml/l、荏原ユージライト社製CF−5P 3ml/lを含みpH4.0の電解液を用い、温度50℃、電流密度3A/dm↑2の条件下で20分間電解めっきを行い、厚さ10μmの半光沢ニッケルめっき層を形成させた。
(2)サテンニッケルめっき層の形成
前記下地層の上に硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−4 10ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lを含み、温度50℃、電流密度3A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、厚さ0.5μmのサテンニッケル層を形成させた。
(3)クロムめっき層の形成
前記の電解めっき層をもつ試料で、無水クロム酸250g/l、硫酸1.0g/l、三価クロム1.5g/lを含む電解液を用い、温度45℃、電流密度15A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、厚さ0.2μmのクロムめっき被膜を施した。このようにして、サテンニッケルめっき製品を製造した。
「実施形態の効果」
【0008】
この発明の一実施形態を図1、図2に示す。この実施形態によれば、このエマルジョンめっき層の断面を見るとエマルジョンによりクレーターができる(図3参照)。表面は円形状のクレーターが大小重なっている(図4参照)。エマルジョンをコントロールすることにより凹凸ができる。前記実施例においてエマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μmである。また単位面積あたり30%クレーターが存在する。また、断面拡大概念を図5に示す。
【0009】
この微細な構造によれば、クレーターの底で反射する光もあり、クレーターでない表面でも反射する光がある。クレーター底からの反射波と表面からの反射波はクレーターの深さの分だけ光の波長がずれる。この波長のズレが波長と同等になったとき、その波長は強め合い、逆に1/2波長のとき波長は弱め合う。この実施例では光による干渉は赤の波長が強め合い、赤色の干渉色が発現する。金属光沢があり、干渉色のあるめっきができる。
【0010】
エマルジョンにおける凹凸を調整することで、めっき品外観は、装飾クロムめっきの金属光沢とサテン調の淡いつや消しが融合した、光沢感があり、さらに干渉色のある外観を出す。
「他の実施形態」
【0011】
実施例2
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度1A/dm↑2の条件下で9分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり40%クレーターが存在した。
【0012】
実施例3
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度6A/dm↑2の条件下で1分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり20%クレーターが存在した。
【0013】
実施例4
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.6ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度3A/dm↑2の条件下で1分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり10%クレーターが存在した。
【0014】
実施例5
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.1ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度3A/dm↑2の条件下で9分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり50%クレーターが存在した。
【0015】
実施例6
工程(3)クロムめっき層の作成を除くこと以外は実施例1と同様にしてサテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり30%クレーターが存在した。
【0016】
実施例7
工程(1)半光沢ニッケルめっき層と工程(2)サテンめっき層の間に、硫酸ニッケル250g/l、塩化ニッケル45g/l、ホウ酸40g/l、荏原ユージライト社製トリストライク 5ml/lを含み、温度50℃pH4.0の電解液を用い、電流密度3A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、トリニッケルめっきを行ったことと、工程(2)サテンめっき層と工程(3)クロムめっき層の間に、硫酸ニッケル270g/l、塩化ニッケル40g/l、ホウ酸40g/l、荏原ユージライト社製光沢剤MP−33310ml/l、荏原ユージライト社製光沢剤MP−311 4ml/l、荏原ユージライト社製添加剤MP−308 1g/lを含み、温度55℃pH4.0の電解液を用い、電流密度3A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、非導電性微粒子共析ニッケルめっきを行ったこと以外は全く実施例1と同様にしてサテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり30%クレーターが存在した。
【0017】
比較例1
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度3A/dm↑2の条件下で9分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり60%クレーターが存在した。
【0018】
比較例2
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度6A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり70%クレーターが存在した。
【0019】
比較例3
工程(2)を硫酸ニッケル500g/l、塩化ニッケル30g/l、ホウ酸35g/l、上村工業社製パールブライトK−3 3ml/l、上村工業社製 パールブライトK−410ml/l、上村工業社製パールブライトK−6 0.3ml/l、上村工業社製パールブライトK−8 0.3ml/lとし、温度50℃、電流密度1A/dm↑2の条件下で3分間電解めっきを行い、サテンニッケル層を形成させたこと以外は全く実施例1と同様にして、サテンニッケルめっき製品を製造した。これにより、エマルジョンによるクレーターの深さは0.1〜1μm、また単位面積あたり5%クレーターが存在した。
【0020】
上述した実施例及び比較例のめっき品のうち、実施例1〜7では、光沢感があり干渉色が現れた。比較例1〜2においては、クレーターの数が多く、乱反射が起きて白色となり、光沢感はなく干渉色が現れなかった。比較例3においては、クレーターの数が少なく、光沢クロムめっきのように特定方向への光の反射となり、光沢感はあるが干渉色は現れなかった。表1に本発明の実施例と比較例の条件及び外観比較表を示す。
【0021】
上述した実施例では、化学的金属被膜形成後に銅、及びニッケルを電気的金属被膜形成させたが、これに限定されることなくさらに化学的金属被膜形成をおこなってもよく、金属も銅やニッケルに限定されることなく、金、銀、クロム、コバルト、鉄、亜鉛、錫、はんだ、及びこれらを含有する金属で化学的あるいは電気的反応によって被膜を形成させることができるものであれば如何なるものでも良い。
【0022】
上述した実施例では、ニッケルめっきを銅めっき上に施しているが、これに限定されることなく、ニッケルめっきの下地は炭素鋼等の鉄鋼、亜鉛、アルミ、ニッケル、砲金、真鍮等いかなる金属やこれらの合金またはめっき被膜でも良い。
【0023】
上述した実施例では、各めっきの膜厚や電流密度を具体的数値で示したが、求められる耐食性等の性能、外観等によっては、上記記載の範囲外でも良い。
【0024】
上述した実施例では、電気めっき薬品として一例を挙げてあるが、サテン状めっきにおいて、めっき表面に微細な凹凸を調整できる構造であれば、上記記載の薬品以外を使用しても良い。
【0025】
上述した実施例では、トリニッケルめっき及び非導電性微粒子共析ニッケルめっきを施した一例を挙げてあるが、要求される耐食性に応じて省略しても良い。また、めっき層について複数層のめっき被膜を形成する場合は最上層〜第3層までに、単層の場合はそのめっき被膜が微細な凹凸を備えるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を具体化した一実施例における、基材にめっきを施した状態
【図2】図1の正面図
【図3】図1のA−A線断面図
【図4】図1の表面写真
【図5】図1のA−A線断面拡大概念図
【府号の説明】
【0027】
1…クロムめっき層
2…サテンニッケルめっき層
3…最下層ニッケルめっき層
4…銅めっき層
5…基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成され、自己の表面に光が干渉する微細な凹凸が形成されている下めっき層と、該下めっき層の表面に形成され、下めっき層の光の干渉を妨げない厚みの上めっき層とからなることを特徴とするめっき品。
【請求項2】
前記凹凸が、深さ0.1〜1μm、単位面積に占める円形状凹凸の割合が10〜50%であることを特徴とする請求項1に記載のめっき品。
【請求項3】
基材上に、自己の表面に光の干渉する微細な凹凸を持つニッケルを含む下めっき層を形成するニッケルめっき工程と、該下めっき層上に該下めっき層の光の干渉を妨げない厚みのクロムを含む上めっき層を形成するクロムめっき工程とを備えていることを特徴とするめっき方法。
【請求項4】
前記ニッケルめっき工程は、前記基材上に半光沢層を形成する第1工程と、該半光沢層上に前記凹凸を持つ凹凸層を形成する第2工程とからなる請求項3に記載のめっき方法。
【請求項5】
前記第2工程を有機物からなるエマルジョンを使用する請求項4に記載のめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−223132(P2008−223132A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102195(P2007−102195)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(591083266)東洋理工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】