説明

めっき膜の製造方法、及びめっき処理装置

【課題】酸素供給時におけるめっき液の流れへの影響を低減し、信頼性の高いものを得る、めっき膜の製造方法、及びめっき処理装置を提供する。
【解決手段】めっき液5中に少なくとも一対の電極20a,20bを配し、めっき液5中に基材Pを浸漬する。そして、一対の電極20a,20bに電圧を印加し、めっき液5中に含有された水を電気分解することでめっき液中に酸素を発生させるとともに、基材Pにめっき膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき膜の製造方法、及びめっき処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から無電解Auめっき処理や無電解Cuめっき処理を行う場合、めっき液の自己分解を防止する目的で酸素あるいは空気等の酸素含有ガスをめっき液中に供給することでめっき処理を安定させ、めっきの異常析出を防止することでめっき液の長寿命化を図っていることが知られている。
【0003】
このような酸素含有ガスをめっき液中に供給する方法として、めっき液中に設けられた散気管から酸素含有ガスの気泡をめっき液中に直接導入する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−154056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された方法では、散気管から酸素が送り込まれる際の圧によりめっき液に大きな流動が生じてしまい、これによりめっき液中に不均一な流れが起こることでめっき膜の膜厚にバラツキが生じてしまう。また、めっき液に大きな流動が生じることで、めっきの析出不良、析出速度の低下といった不具合を引き起こすおそれもある。したがって、上記方法では、信頼性のあるめっき膜を製造することが難しかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、酸素供給時にめっき液中に生じる流動を低減し、信頼性の高いめっき膜を得る、めっき膜の製造方法、及びめっき処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のめっき膜の製造方法は、めっき液中に少なくとも一対の電極を配し、該めっき液中に基材を浸漬する工程と、前記一対の電極に電圧を印加し、前記めっき液中に含有された水を電気分解することで前記めっき液中に酸素を発生させるとともに、前記基材にめっき膜を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明のめっき膜の製造方法によれば、めっき液中に含有される水を電気分解し、めっき液中に酸素を直接発生させるので、外部から直接酸素を送り込む場合に比べ、めっき液中に大きな圧を加えることなく、単に微小な気泡を生じさせ、さらには発生した酸素の一部をめっき液中に溶け込ませることができ、したがってめっき液中に大きな流動を起こさせることなく酸素を供給することができる。
よって、酸素供給時における、めっき液の流動が抑制された状態でめっき処理を行うことができ、めっき膜の析出速度低下、めっき膜の析出不良、あるいは膜厚ムラ等といった不具合が防止され、したがって基材に信頼性の高いめっき膜を製造できる。
【0008】
また、上記めっき膜の製造方法においては、前記電極に交流電圧を印加するのが好ましい。
この構成によれば、酸素が発生する電極を所定の間隔にて切り換えることができ、電気分解時に各電極から発生する酸素の気泡が大きくなり過ぎてめっき液に大きな流動を起こさせるのを防止できる。
【0009】
また、上記めっき膜の製造方法においては、前記交流電圧の周波数が、30Hz以上100Hz以下であるのが好ましい。
この構成によれば、周波数を30Hz以上とすることで、電極自体がめっき処理されてしまうことが防止される。また、周波数を100Hz以下とすることで、電気分解を行うことなく電圧極性が切り替わってしまい、酸素を発生できないといった不具合が防止される。
【0010】
また、上記めっき膜の製造方法においては、前記めっき液として、無電解Auめっき液を用いるのが好ましい。
この構成によれば、基板上に均一な膜厚からなるAuめっきを良好に形成することができる。
【0011】
また、上記めっき膜の製造方法においては、前記基材として、貫通孔が設けられた基材を用いるのが好ましい。
【0012】
一般に基材に形成された貫通孔にめっき液の流込みが生じると、貫通孔の周辺にめっき膜を良好に形成できなくなってしまう。そこで、本発明を採用すれば、上述したように酸素発生時においてもめっき液の流動が抑制されているので、貫通孔にめっき液が流れ込むことがなく、めっき膜を貫通孔の周辺に良好に形成できる。
【0013】
本発明のめっき処理装置は、水を含有するめっき液が入れられためっき槽と、該めっき液中に配される少なくとも一対の電極と、該電極間に電圧を印加し、前記めっき液中の水を電気分解することにより、該めっき液中に酸素を発生させる電源部と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
本発明のめっき処理装置によれば、めっき液中に含有される水を電気分解し、めっき液中に酸素を直接発生させるので、外部から直接酸素を送り込む場合に比べ、めっき液中に大きな圧を加えることなく、単に微小な気泡を生じさせ、さらには発生した酸素の一部をめっき液中に溶け込ませることができ、したがってめっき液中に大きな流動を起こさせることなく酸素を供給することができる。
よって、酸素供給時における、めっき液の流動が抑制された状態でめっき処理を行うことができ、めっき膜の析出速度低下、めっき膜の析出不良、あるいは膜厚ムラ等といった不具合が防止された信頼性の高いめっき膜を提供することができる。
【0015】
また、上記めっき処理装置においては、前記電源部は、交流電源であるのが好ましい。
この構成によれば、酸素が発生する電極を所定の間隔にて切り換えることができ、電気分解時に各電極から発生する酸素の気泡が大きくなり過ぎて、めっき液中に流動を起こさせるのを防止できる。
【0016】
また、上記めっき処理装置においては、前記交流電源の周波数が、30Hz以上100Hz以下であるのが好ましい。
この構成によれば、周波数を30Hz以上とすることで、電極自体がめっき処理されてしまうことが防止される。また、周波数を100Hz以下とすることで、電気分解を行うことなく電圧極性が切り替わってしまい、酸素を発生できないといった不具合が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、めっき膜の製造方法、及びめっき処理装置についての一実施形態について、図面を参照して説明する。先に、めっき処理装置の一実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係るめっき処理装置100の概略構成を示す図である。めっき処理装置100は、図1に示すようにめっき液5が設けられためっき槽10と、該めっき液5中に配された一対の電極20a,20bと、該電極20a,20bに配線40を介して接続された電源(電源部)30とを備えるものである。
【0019】
本実施形態では、前記電源30として交流電源を用いており、該電源30は前記電極20a,20b間に電圧を印加し、前記めっき液5に含有される水を電気分解することで、めっき液5中に酸素を発生させるようになっている。
【0020】
前記電極20a,20bは、例えば炭素、白金等から構成されている。また、本実施形態では、上記めっき液5として、亜硫酸を含有する無電解Auめっき液、すなわち亜硫酸水溶液中に錯体化したAuとその錯化剤及び還元剤等を含むものが用いられる。
【0021】
続いて、本発明のめっき膜の製造方法の一実施形態について説明する。
はじめに、図2に示すように前記めっき槽10に設けられためっき液5中にシリコンからなる半導体基板(基材)Pを浸漬する。
【0022】
この半導体基板P上には、予め従来公知の方法により、図示しないNi−Cr膜(Cr20%)とAu膜とが積層されてなる下地パターンが形成されている。
前記Ni−Cr膜の膜厚は、例えば0.03〜0.2μm(本実施形態では0.1μm)となっている。また、Au膜の膜厚は、例えば0.1〜0.3μm(本実施形態では0.2μm)となっている。なお、無電解Auめっき浴中に基板を浸漬をするに際し、前記基材を洗浄しておくのが好ましい。
【0023】
本実施形態では、上記めっき処理装置100を用いて、半導体基板P上に設けられた下地パターン上にめっき膜を形成し、配線パターンを形成する場合について説明する。
【0024】
無電解Auめっき処理は、例えば60〜80℃に加温しためっき液5中に所定時間、半導体基板Pを浸漬することにより行われる。ここで、無電解法を用いてめっき膜を形成する場合には、めっき液5中に生じる流動を小さくすることにより、半導体基板P上に形成された下地パターンに均一なめっき膜を形成できる。
【0025】
ところで、上記めっき液5を構成する無電解Auめっき液中に含有された還元剤は、めっき反応を促進し過ぎることで、前記半導体基板Pにめっき膜を異常析出あるいはめっき液の自己分解を生じさせるおそれがあり、これを防止するため、めっき液5中に酸素(O)を供給する必要がある。
【0026】
めっき液5中に酸素を供給する際においても、信頼性の高いめっき膜を形成するために、酸素供給時にめっき液5中に大きな流動を起こさせないことが必要となってくる。
【0027】
そこで、本実施形態では、上記めっき処理装置100の電源30から前記電極20a,20b間に電圧を印加し、めっき液5中に含有された水を電気分解する。なお、前記電源30の駆動電圧としては、1.5V〜10Vとした。
【0028】
ここで、例えば電極20aが陽極として機能する場合、図3に示すように電極20aの表面で酸素(O)が発生する。
例えば外部から酸素をめっき液5中に送り込む場合、空気等の酸素含有ガスに所定の圧力を印加する必要があった。よって、めっき液5中に酸素が送り込まれた際の圧により、めっき液中に大きな流動が起こってしまう。
【0029】
一方、本実施形態では、上述したように電気分解によって、めっき液5中に直接酸素を発生させているので、上述したような圧がめっき液5中に生じることがなく、従来に比べてめっき液5中に大きな流動を生じさせることがない。また、電気分解によってめっき液5中に発生した酸素は、その気泡(バブル)の大きさが小さいものとなり、めっき液5を流動させることがない。
【0030】
さらに、本実施形態では、電気分解で発生した酸素の一部が、従来に比べてめっき液5中に溶け込んで溶存し易くなるため、上述したようなめっき液5に含まれる還元剤に起因するめっき膜の異常析出を抑制することができる。よって、めっき液5中のめっき材料の使用量を削減できる。
【0031】
ところで、前記電源30は、上述したように交流電源となっている。よって、所定の間隔で電極20a,20b間に印加される電圧極性を切り替えることで、各電極20a,20bの表面からそれぞれ酸素を発生させることができる。
【0032】
これにより、前記電極20a,20bの一方側からのみ酸素が発生し、めっき液5中に発生する気泡が大きくなりすぎてめっき液に大きな流動を起こさせるのを防止できる。
【0033】
具体的に本実施形態では、上記電源30の周波数を30Hz以上100Hz以下としている。
周波数を30Hz以上とすれば、めっき液5中に浸漬されている各電極20a,20bの表面にめっき膜が形成されてしまうのを確実に防止できる。また、周波数を100Hz以下とすれば、各電極20a,20b上で酸素を発生させる前に電源30の極性が切り替わってしまい、酸素が発生しないといった不具合を防止できる。
【0034】
本実施形態では、このように電気分解を交流電圧を用いて行うことによりめっき液5中に大きな流動を生じさせることなく酸素を供給しているので、めっき液5中の成分分解、あるいは電極20a,20b上へのめっき膜の析出を防止することができる。
【0035】
なお、上記実施形態では交流電源を用いているが、直流電源を用いてもよい。この場合、前記電極20a,20bに直流電流を間欠で流すことで、めっき液中に生じる気泡の大きさを制御でき、これによりめっき液中に大きな流動が生じるのを防止し、上述したように信頼性の高いめっき膜を形成することができる。
【0036】
本実施形態に係るめっき膜の製造方法によれば、めっき液5中に含有される水を電気分解し、めっき液5中に酸素を直接発生させるので、従来のように外部から直接酸素を送り込む場合に比べ、めっき液5中に大きな圧を加えることなく、単に微小な気泡を生じさせ、さらには発生した酸素の一部をめっき液中に溶け込ませることができ、したがってめっき液5中に大きな流動を起こさせることなく酸素を供給することができる。
【0037】
よって、酸素供給時における、めっき液5の流動が抑制された状態でめっき処理を行うことができる。このように本実施形態に係る方法では、めっき液中に大きな流動が起こらない状態にてめっき処理が行われるので、めっき膜の析出速度が低下したり、めっき膜の析出不良が生じたり、あるいは生成されるめっき膜の膜厚にムラが生じるといった不具合を防止することができ、したがって半導体基板P上の下地パターン上に信頼性の高いめっき膜が形成される。
【0038】
よって、めっき液5の流れを安定させた状態でめっき処理が行われ、めっき膜の析出速度の低下や、めっき膜の析出不良、あるいは膜厚ムラ等といった不具合が防止される。したがって、半導体基板Pの前記下地パターンに均一な膜厚からなる信頼性の高いめっき膜を形成することができる。
【0039】
このようにして形成されためっき膜は、十分な膜厚を有している。よって、半導体基板P上に形成された配線は、その電気抵抗が低減されたものとなり、良好な電気的接続を可能とする。また、配線はその表面が均一な膜厚のAuめっき膜によって構成されたものであり、したがってこの配線自体も断線が生じ難く、接続信頼性の高いものとなる。
【0040】
上記実施形態では、無電解法を用いてAuめっき膜を備えるめっき膜を形成しているが、めっき液の種類を適宜変更することで、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ag(銀)、Co(コバルト)、あるいはPd(パラジウム)等から構成されるめっき膜を形成してもよい。
また、上記実施形態では、無電解めっき法を用いてめっき膜を形成する場合について説明したが、本発明は電解めっき法についても適用することができる。
【0041】
また、本発明に係るめっき膜の製造方法は、図4に示すように貫通孔Hが形成された基板(基材)P´にめっき膜を形成する場合にも採用することができる。
このような貫通孔Hを有した基板P´は、例えば液滴吐出ヘッドを構成する封止基板(図4中、1点鎖線で示されるもの)を複数含むウエハ基板である。また、この貫通孔Hは、液滴吐出ヘッドにおけるリザーバ部やインクの導入路として機能するものである。
【0042】
また、図4に示すように前記貫通孔Hをなす開口部の近傍には、上記実施形態と同様にNi−Cr膜(Cr20%)とAu膜とが積層されてなる下地パターン50が形成されている。
【0043】
ところで、一般に、このような貫通孔Hが形成された基板P´にめっき処理を行う際には、前記貫通孔H内にめっき液5の流込みが生じると、貫通孔Hの周辺に形成された前記下地パターン50上にめっき膜を良好に形成することができない。
【0044】
そこで、上記めっき処理装置100を用いれば、上述したように酸素発生時においてもめっき液5の流れが安定しているので、前記貫通孔Hへのめっき液5の流れ込みが抑制され、前記貫通孔Hの周辺にも良好にめっき膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】めっき処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】めっき膜の製造方法の一実施形態を説明する図である。
【図3】電気分解にて酸素が発生する際の状態を示す図である。
【図4】貫通孔Hが形成された基板にめっき膜を形成する場合を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
P…半導体基板(基材)、P´…基板(基材)、H…貫通孔、5…めっき液、10…めっき槽、20a,20b…電極、30…電源、100…めっき処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき液中に少なくとも一対の電極を配し、該めっき液中に基材を浸漬する工程と、
前記一対の電極に電圧を印加し、前記めっき液中に含有された水を電気分解することで前記めっき液中に酸素を発生させるとともに、前記基材にめっき膜を形成する工程と、を備えることを特徴とするめっき膜の製造方法。
【請求項2】
前記電極に交流電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項3】
前記交流電圧の周波数が、30Hz以上100Hz以下であることを特徴とする請求項3に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項4】
前記めっき液として、無電解Auめっき液を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項5】
前記基材として、貫通孔が設けられた基材を用いることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のめっき膜の製造方法。
【請求項6】
水を含有するめっき液が入れられためっき槽と、該めっき液中に配される少なくとも一対の電極と、該電極間に電圧を印加し、前記めっき液中の水を電気分解することにより、該めっき液中に酸素を発生させる電源部と、を備えたことを特徴とするめっき処理装置。
【請求項7】
前記電源部は、交流電源であることを特徴とする請求項6に記載のめっき処理装置。
【請求項8】
前記交流電源の周波数が、30Hz以上100Hz以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載のめっき処理装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−1966(P2008−1966A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175135(P2006−175135)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】