説明

めっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法およびレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板

【課題】簡易な手段でレーザ溶接により重ね合せ部で発生するめっき層によるガスを円滑に外部へ抜くことができるレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板を提供する。
【解決手段】レーザ重ね合せ溶接が施されるめっき鋼板において、めっき鋼板1の重ね合せ部3の内側表面に溶接方向と交差する溝4を複数設け、これらの溝4はめっき鋼板1の表面を塑性加工することによりその周辺に隆起部5を有して形成される。溝4の間隔Dは、隣り合う溝4の隆起部5が干渉し合う距離である。溝4の間隔Dは、レーザLaの照射部15の径よりも短い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接品質を損ねるめっき層によるガスを、重ね合せ部から円滑に外部へ抜くことができるめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法およびレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法としては、2枚の亜鉛めっき鋼板を重ね合せ、この重ね合せ部の溶接方向に沿ってこの重ね合せ部の両端を圧接しながら、重ね合せ部の非圧接部をレーザ溶接により接合する亜鉛めっき鋼板の溶接方法であって、2枚の亜鉛めっき鋼板のうち少なくとも一方の亜鉛めっき鋼板の重ね合せ部の内側表面に、非圧接部から圧接側端部に向かって延びる溝部を形成した状態で、重ね合せ部を接合することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−246445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の亜鉛めっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法おいては、溝部を亜鉛めっき鋼板の重ね合せ部より幅広に形成してレーザ溶接により発生する亜鉛ガスを抜くようにしているが、重ね合せ部の厳密な管理が必要となり、フランジ面出しで多大な工数が掛かるという問題がある。
【0005】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な手段でレーザ溶接により重ね合せ部で発生するめっき層によるガスを円滑に外部へ抜くことができるめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法およびレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、めっき鋼板の重ね合せ部にレーザを照射して溶接する方法において、少なくとも一方のめっき鋼板の重ね合せ部の内側表面に溶接方向と交差する溝を複数設け、これらの溝はめっき鋼板の表面を塑性加工することによりその周辺に隆起部を有して形成され、前記溝の間隔は隣り合う溝の隆起部が干渉し合う距離であり、前記重ね合せ部は前記隆起部を介してなるものである。また、前記溝の間隔は、レーザの照射部の径よりも短いことが望ましい。
【0007】
請求項3に係る発明は、レーザ重ね合せ溶接が施されるめっき鋼板において、めっき鋼板の重ね合せ部の内側表面に溶接方向と交差する溝を複数設け、これらの溝はめっき鋼板の表面を塑性加工することによりその周辺に隆起部を有して形成されるものである。また、前記溝の間隔は、隣り合う溝の隆起部が干渉し合う距離であることが望ましい。更に、前記溝の間隔は、レーザの照射部の径よりも短いことが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、隣り合う溝が干渉し合って隆起部が確実に形成され、この隆起部によってめっき鋼板の重ね合せ部に隙間が生じるので、レーザ溶接により重ね合せ部で発生するめっき層によるガスを円滑に外部へ抜くことができるため、良好な溶接品質を得ることができる。また、溝の間隔をレーザの照射部の径よりも短くすれば、レーザのキーホールと溝が常に接する状態となるので、めっき層によるガスが外部により抜け易くなる。
【0009】
請求項3に係る発明によれば、隣り合う溝が干渉し合って隆起部が形成され、この隆起部によってめっき鋼板の重ね合せ部に隙間が生じるので、レーザ溶接により重ね合せ部で発生するめっき層によるガスを円滑に外部へ抜くことができるため、良好な溶接品質を得ることができる。また、溝の間隔を隣り合う溝の隆起部が干渉し合う距離にすれば、より大きな隆起部が確実に形成される。
【0010】
更に、溝の間隔をレーザの照射部の径よりも短くすれば、レーザによるキーホールと溝が常に接する状態となるので、めっき層によるガスが外部により抜け易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板の斜視図
【図2】図1のA−A線断面拡大矢視図
【図3】図1のB−B線断面拡大矢視図
【図4】本発明に係るめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法の説明図で、(a)は溝に対して平行な方向から見た図、(b)は溝に対して垂直な方向から見た図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。本発明に係るレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板1は、図1に示すように、防錆処理としてその表面(両面)に亜鉛めっきが施され、亜鉛(Zn)層2が形成されている。そして、めっき鋼板1は、レーザを照射する重ね合せ部3の内側表面に溶接方向と交差する略平行で所定の長さの溝4を複数形成している。
【0013】
溝4は、パンチ(不図示)とダイ(不図示)による塑性加工により成形され、ダイの形状はパンチの打ち込みによってめっき鋼板1の裏側が変形しないよう平坦にしている。各溝4の周辺には、図2と図3に示すように、ダイに載置されためっき鋼板1の重ね合せ部3に打ち込まれたパンチの容積分だけめっき鋼板1の表面より盛り上がって連なる隆起部5が成形されている。
【0014】
溝4の間隔Dは、隣り合う溝4の隆起部5が干渉し合う距離であって、隆起部5は隣り合う溝4が干渉し合ってより大きく盛り上がる。例えば、溝4の間隔Dが1mmの場合には隆起部5の盛り上がりは平均約14μm、溝4の間隔Dが2mmの場合には隆起部5の盛り上がりは平均約4μmである。
【0015】
以上のように構成された本発明に係るレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板1の作用及びめっき鋼板1のレーザ重ね合せ溶接方法について説明する。先ず、図4に示すように、溝4を成形しためっき鋼板1の重ね合せ部3に他のめっき鋼板11の重ね合せ部13を重ね合せる。めっき鋼板11には、その両面に亜鉛めっきが施されて亜鉛層12が形成されている。
【0016】
そして、めっき鋼板1に成形した溝4の隆起部5によって、めっき鋼板1の重ね合せ部3とめっき鋼板11の重ね合せ部13の間に隙間Gが形成される。隙間Gの大きさは、隆起部5の盛り上がりにより決定され、例えば隆起部5の盛り上がりが平均約14μmの場合には、約14μmとなる。
【0017】
次いで、レーザ溶接機14により、めっき鋼板11の重ね合せ部13にレーザLaを照射する。レーザ溶接機14は、所定の速度で矢印C方向に移動する。レーザLaの照射により、微小な照射部15にエネルギーが集中され、照射部15では激しい蒸発が起こる。そして、レーザLaから得た熱と激しい蒸発の蒸発反力によって、照射部15にはめっき鋼板1の重ね合せ部3に至るキーホール16が形成される。
【0018】
その際、照射部15におけるめっき鋼板1,11に施された亜鉛層2,12もレーザLaから得た熱により蒸発して亜鉛(Zn)ガスを発生する。互いに接しない側のめっき鋼板1,11の亜鉛層2,12が蒸発して生じた亜鉛ガス17aは、外部にそのまま放出される。
【0019】
また、互いに接する側のめっき鋼板1,11の亜鉛層2,12が蒸発して生じた亜鉛ガス17bは、溝4や隙間Gを通って外部に放出される。このような亜鉛ガス17bを溝4や隙間Gにより円滑に外部に抜くことが可能になるので、レーザ溶接の良好な品質を得ることができる。
【0020】
溝4の間隔DをレーザLaの照射部15の径よりも短くすれば、レーザLaによるキーホール16と溝4が常に接する状態となるので、亜鉛ガス17bが外部により抜け易くなる。
【0021】
本発明の実施の形態では、両面に亜鉛めっきを施しためっき鋼板1,11について説明したが、一方のめっき鋼板の重ね合せ部の内側表面にだけ亜鉛めっきが施されて亜鉛層が形成されている場合も、少なくともいずれかの重ね合せ部の内側表面に溶接方向と交差する溝4を複数設ければよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、レーザ溶接によって重ね合せ部で発生するめっき層によるガスを円滑に外部へ導くことが可能になるため、良好な溶接品質を得ることができるめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法およびレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板を提供することができる。
【符号の説明】
【0023】
1,11…めっき鋼板、2,12…亜鉛層、3,13…重ね合せ部、4…溝、5…隆起部、14…レーザ溶接機、15…照射部、16…キーホール、17a,17b…亜鉛ガス、D…間隔、G…隙間、La…レーザ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき鋼板の重ね合せ部にレーザを照射して溶接する方法において、少なくとも一方のめっき鋼板の重ね合せ部の内側表面に溶接方向と交差する溝を複数設け、これらの溝はめっき鋼板の表面を塑性加工することによりその周辺に隆起部を有して形成され、前記溝の間隔は隣り合う溝の隆起部が干渉し合う距離であり、前記重ね合せ部は前記隆起部を介してなることを特徴とするめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載のめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法において、前記溝の間隔は、レーザの照射部の径よりも短いことを特徴とするめっき鋼板のレーザ重ね合せ溶接方法。
【請求項3】
レーザ重ね合せ溶接が施されるめっき鋼板において、めっき鋼板の重ね合せ部の内側表面に溶接方向と交差する溝を複数設け、これらの溝はめっき鋼板の表面を塑性加工することによりその周辺に隆起部を有して形成されることを特徴とするレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板。
【請求項4】
請求項3記載のレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板において、前記溝の間隔は、隣り合う溝の隆起部が干渉し合う距離であることを特徴とするレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板。
【請求項5】
請求項3記載のレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板において、前記溝の間隔は、レーザの照射部の径よりも短いことを特徴とするレーザ重ね合せ溶接用めっき鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−25260(P2011−25260A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−171417(P2009−171417)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】