説明

りんケイ酸塩ガラスを有した発光装置

光学的能動りんケイ酸塩ガラスを有した利得媒質を備える発光装置であって、上記りんケイ酸塩ガラスが、少なくとも1種類の活性イオンドーパントと、約1〜30モル%の酸化りんとを含む発光装置が提供される。上記酸化りんは、フォトダークニング現象を抑制して装置の飽和エネルギを増大するために必要な量を有して含有されていてもよい。上記活性イオンドーパントは希土類ドーパントとしてもよい。上記発光装置は、利得媒質を有する光導波路を備えていてもよい。上記光導波路は、コアと少なくとも1つのクラッドとを有していて、上記りんケイ酸塩ガラスを有した利得媒質が、上記コアの中及び・または上記クラッドの1つの中に存在するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的能動ガラス(optically active glass)及びその様なガラスを有した発光装置に関するものであり、具体的には、りんケイ酸塩(phosphosilicate)の光導波路、及び当該光導波路を有した高出力の増幅器またはレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
光を増幅する際に使用する光ファイバレーザ及び増幅器は、例えばツリウム、エルビウム、イッテルビウム、及びネオジムのような希土類活性イオンをドープした光学的能動導波コアを有する光ファイバを備えているのが一般的である。
【0003】
イオンがドープされた光ファイバ内のドーパントイオンからの光子の誘導放出によって増幅が行われるため、放出される増幅光の特性に対して光ファイバの組成が影響を及ぼすことになる。このため、所定の適用に対して必要な特性を最適化するために、光ファイバの組成が調整される。但し、時間の経過に対して、光ファイバの最適化された光学的特性が維持されることも重要である。
【0004】
一般的に光ファイバは、マルチモード光ファイバ、単一モード光ファイバ、或いはラージモード領域(LMA)光ファイバのような少数モード光ファイバとすることができる。マルチモード光ファイバやLMA光ファイバは、複数の光のモードをコア内に閉じ込めて光ファイバに沿って案内することができるものであって、それぞれのモードは異なる位相速度で伝播する。単一モード光ファイバは、所定周波数での単一の横空間モードに対応するものである。十分に小径のコア或いは十分に小さい開口数とすることにより、基本モードである単一モードをコアに閉じ込めることができる。基本モードは、より高いビーム品質と集束性とが得られると共に、光ファイバから発せられる光の強度分布が射出条件や光ファイバのいかなる外乱にもかかわらず不変であることから、多くのものに好んで適用されている。
【0005】
現実の光ファイバは内部を伝播する光を減衰させるため、光ファイバの長さをできるだけ短くするのが効果的である。また、利得媒質中に蓄えられるエネルギを最大化することが重要である。利得媒質の飽和エネルギは、利得媒質を著しく飽和した状態とするのに必要なエネルギである。また、蓄えられているエネルギから抽出されるエネルギを最大化することも重要である。光ファイバ内での高いピークパワーを達成する上での制約は、モードのサイズが小さいこと及び伝播距離が長いことにあり、これらによって非線形効果が生じる。高い放出断面積を有したいくつかの利得媒体におけるもう1つの問題は、単位面積あたりの飽和エネルギが低いことにあり、この結果、抽出することができるエネルギの量が制限され、パルスの歪みが生じる。
【0006】
縦モードのビートは高周波ノイズの重大な発生源となりうるものであり、高周波ノイズによって、パルス増幅器或いはパルスレーザのパルス列におけるピークパワーの変動が生じる。このようなノイズは、微細構造の特別な形状を有した安定的な光パルスを生成する能力を、振幅及び周波数帯域に応じて大幅に制限する。
【0007】
高エネルギ増幅器及びレーザが直面するもう1つの問題は、高エネルギにおいて現れる非線形効果である。非線形効果が生じると、スペクトルの内容をひどく劣化させたり、レーザ源の出力を制限したりする。
【0008】
いくつかの希土類ドープコア構造では、時間の経過に伴うフォトダークニング(photodarkening)、即ち光の作用に感応した構造的変化が、光ファイバのドープガラスにおける損失を引き起こし、光ファイバの出力効率を低下させる。
【0009】
フォトダークニングは、希土類ドープシリカ光ファイバにおいて既に認められており、M.M.ブロール(M. M. Broer)ほかは、ツリウムドープ光ファイバにおけるフォトダークニングについて述べ(Opt. Lett. 1993年, 18 (10), 799〜801頁)、またセリウムドープ光ファイバにおけるフォトダークニングについて述べ(Opt. Lett. 1991年, 16 (18), 1391〜1393頁)、更にE.G.ベーレンス(E. G. Behrens)ほかはユーロピウム及びプラセオジムドープ光ファイバにおけるフォトダークニングについて述べている(1990年, JOSA B 7 (8), 1437〜1444頁)。イッテルビウムドープシリカ光ファイバにおけるこのような現象についての、実験に基づく最初の根拠は、R.パスコッタ(R. Paschotta)ほかによってOpt. Commun. 1997年, 136 (5-6), 375〜378頁に述べられている。
【0010】
米国特許第5,173,456号明細書には、高エネルギレーザに有用なりん酸塩ガラス(phosphate glass)が開示されている。即ち、高い熱伝導率と、低い熱膨張係数と、低い放出断面積と、高い蛍光寿命とを有したマルチパス、高エネルギレーザシステムにおけるレーザ増幅器として有用な、低シリカのもしくはシリカを含まないりん酸塩ガラス、または低アルカリのもしくはアルカリを含まないりん酸塩ガラスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,173,456号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】M. M. Broer et al. Opt. Lett. 1993年, 18 (10), 799〜801頁
【非特許文献2】M. M. Broer et al. Opt. Lett. 1991年, 16 (18), 1391〜1393頁
【非特許文献3】E. G. Behrens et al. JOSA 1990年, B 7 (8), 1437〜1444頁
【非特許文献4】R. Paschotta et al. Opt. Commun. 1997年, 136 (5-6), 375〜378頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような背景から、出力が増大し、高抽出エネルギ及び高飽和エネルギであって、非線形効果が抑制され、パルス成形の必要性が低減され、高いビーム品質及び集束性を有しており、容易にポンピングが可能であると共に実現が可能であって、時間が経過しても安定した高エネルギレーザ及び増幅器が求められている。
【0014】
従って、本発明の目的は、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを有した発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の1つの特徴によれば、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを含む利得媒質を備えた発光装置が提供され、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、少なくとも1種類の活性イオンドーパント(active ion dopant)と、約1〜30モル%の酸化りん(phosphorous oxide)とを含有している。
【0016】
上記少なくとも1つの活性イオンドーパントは、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスの光学的特性にフォトダークニング現象を引き起こしうるものであって、上記酸化りんは、上記フォトダークニング現象を抑制するために必要な量をもって含有されていてもよい。
【0017】
上記活性イオンドーパントは、希土類ドーパントであってもよい。上記希土類ドーパントは、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ネオジム、これらいずれかの酸化物、或いはこれらいずれかの化合物とすることができる。
【0018】
上記発光装置は、上記利得媒質を有した光導波路を備えていてもよい。
【0019】
上記光導波路は、コアと、上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドとを有していてもよい。本発明の一態様によれば、上記光導波路は、光ファイバであってもよい。
【0020】
上記コアは、外側領域と内側領域とを有し、上記外側領域は、上記内側領域より低い屈折率を有するようにしてもよい。
【0021】
本発明の一態様によれば、上記利得媒質は上記光導波路のコアを構成する。別の態様によれば、上記利得物質は、上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドを構成する。また、本発明の更に別の態様によれば、上記利得媒質は、上記コア及び上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドを構成する。
【0022】
上記光導波路は、上記コアを取り囲む2つ以上のクラッドを有していてもよい。このような光導波路には、ペデスタル構造(pedestal design)のトリプルクラッド光ファイバを含めることができる。
【0023】
上記発光装置は、光の放出もしくは増幅、または光の増幅と放出とを行うものであってもよい。上記発光装置は利得媒質を有した増幅器を備えていてもよい。また、上記発光装置は利得媒質を有したレーザを備えていてもよい。
【0024】
本発明のもう1つの特徴によれば、発光装置に用いられる光導波路が提供され、上記光導波路は、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを含む利得媒質を備えており、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、少なくとも1種類の活性イオンドーパントと、約1〜30モル%の酸化りんとを含有している。
【0025】
上記光導波路は、コアと、上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドとを備えており、上記利得媒質は、上記コアと、上記少なくとも1つクラッドとを含むものとしてもよい。
【0026】
本発明の目的、利点及び更なる特徴は、本発明の好ましい実施形態に関し、添付図面を参照しつつなされる以下の限定されない説明を読むことにより更に明確になると共に、更に理解を深めることができる。添付の図面は、単なる例示のために用いられるものであって、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1A】本発明の一実施形態に係る発光装置の光導波路の断面図である。
【図1B】本発明の別の実施形態に係る発光装置の光導波路の断面図である。
【図1C】本発明の一実施形態に係る発光装置の光導波路の断面図である。
【図2】りんケイ酸塩ベースの光導波路に関し、910〜970nmの波長範囲において一定した吸収量を示す、吸収量とポンプエネルギの波長との関係を表すグラフである。
【図3】光学的能動りんケイ酸塩ガラスコアを有した光導波路におけるフォトダークニングに起因する微小損失を示す、固有損失と光の波長との関係を表すグラフである。
【図4】飽和エネルギではパルス成形が不要であることを示すと共に、飽和エネルギを超過した場合にパルス歪みが増大することを示す、時間経過に伴う発生パルスの振幅変化のグラフである。
【図5A】光導波路に中継光ファイバを接続した場合の理論上の損失を示す図である。
【図5B】本発明に係る光導波路に中継光ファイバを接続した場合に計測される損失を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係るダブルクラッド光導波路及びトリプルクラッド光導波路の径方向における屈折率特性を表し、トリプルクラッド光導波路についてのコア開口数の減少を示す図である。
【図7A】本発明の一実施形態に係る光導波路のコアの断面図である。
【図7B】本発明の一実施形態に係る光導波路のコアの径方向における屈折率特性を表し、屈折率がステップ状に変化することを示す図である。
【図7C】本発明の一実施形態に係る光導波路のコアの径方向における屈折率特性を表し、屈折率が漸次変化することを示す図である。
【図8】時間経過に伴う矩形パルスの振幅の変化を示し、光学的能動りんケイ酸塩ガラスの利得媒質を備えた光導波路の方が、出力パルスの歪みが少なく良好に矩形が維持されることを示すグラフである。
【図9A】本発明の一実施形態に係る発光装置の図である。
【図9B】本発明の一実施形態に係る利得媒質を備えたレーザの概略図である。
【図9C】本発明の一実施形態に係る利得媒質を備えた光ファイバを有するファイバレーザの図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、同様の部材には一貫して同様の番号が付された添付の図1A〜図9Cに基づき、本発明について更に詳細に説明する。
【0029】
以下の記載において「光」という用語は、可視光を含んでいる一方、これに限定されないあらゆる電磁放射について言及する際に用いられる。また、「光学的」という用語は、あらゆる電磁放射、即ち可視波長域内の光、及びそれ以外の波長(λ)領域内の光に適用可能なものに対して用いられる。
【0030】
本発明の1つの特徴によれば、光学的能動りんケイ酸塩ガラス(optically active phosphosilicate glass)を有した利得媒質(gain medium)を備え、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスが少なくとも1種類の活性イオンドーパント(active ion dopant)と約1〜30モル%の酸化りん(phosphorus oxide)とを有した発光装置が提供される。
【0031】
この発光装置は、光を発するものであってもよいし、これに代えて、或いはこれに加えて、光を増幅するものであってもよい。発光装置は増幅器またはパルス増幅器によって実現されるのが好ましいが、レーザ、パルスレーザ、増幅された自然放出光(ASE)の光源、あらゆる連続波(CW)または準連続波(quasi−CW)の増幅器またはレーザであってコヒーレント(coherent)またはインコヒーレント(incoherent)な増幅器またはレーザ、もしくはそのほかの様々な光増幅手段または光発生源(光源)によって実現することができる。
【0032】
「レーザ」という用語は、誘導放出による光の増幅のことをいう。光増幅器はレーザに類似するものであるが、光キャビティ(optical cavity)からの帰還がない。
【0033】
例えば、レーザは誘導放出によって光を増幅する。レーザは、光キャビティ内の利得媒質と、この利得媒質にエネルギの供給、即ちポンピングを行う手段とを有している。利得媒質は、適切な光学特性を有した材料からなる。光キャビティは利得媒質内で光を往復させ、利得媒質にエネルギがポンピングされる。このエネルギにより、利得媒質内の原子が励起されて高エネルギ準位に遷移することで反転分布が生じる。適切な波長の光が利得媒質を通過するときに、励起された原子を光子が刺激し、同じ波長の光子を更に放出させると共に原子を低い方のエネルギ準位に遷移させることで光の増幅が行われる。また、励起された原子は、別の波長の光子、即ち放射光(incident light)を自然放出することによって低い方のエネルギ準位に自然に遷移し、これにより光増幅の効率が低下する。
【0034】
発光装置は、例えば増幅器、レーザ、或いは光導波路を有するものであってもよく、この場合に増幅器、レーザ、或いは光導波路は、りんケイ酸塩ガラスを含む利得媒質を有する。図9Aは、光学的能動りんケイ酸塩ガラス50を有した利得媒質40を備える発光装置30の全体を示している。りんケイ酸塩ガラス50からなる利得媒質40には光56が入射される。利得媒質は光58を用いてポンピングされ、出力光信号60が放出される。図9Bは、単純な光ポンピングレーザ32の例を示している。レーザキャビティ、即ち共振器は、高反射率の曲面ミラー34と、往復するレーザ光の一部を取り出して出力ビーム38を生成する半透過平板ミラー36とを備えている。光学的能動りんケイ酸塩ガラスを有した利得媒質40は、適切な波長のポンピング光44を用いて側方からポンピングされるレーザガラス42となっている。図9Cは、更に別の光ポンピングレーザ46を示している。このレーザ46は、マルチモードポンピングダイオード48を用いてポンピングされる。光は、高反射率ダブルクラッドファイバのブラッグ回折格子(Bragg grating)52を通過し、光ファイバ10内に入射される。次に光は、低反射率ダブルクラッドファイバのブラッグ回折格子54を介して光ファイバ10から出力される。この場合、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを有する利得媒質を備えているのは光ファイバ10である。
【0035】
「光導波路」という用語は、導波路により形成される通路に沿って電磁波の伝播を規制または案内するもののことをいう。
【0036】
光導波路は光ファイバによって実現するのが好ましく、ここでは簡素化のためにその様な好適な実施形態に従って本発明を説明する場合があるが、光導波路は、平板状導波路、パンダファイバ(panda fiber)のような複屈折導波路、フォトニック結晶ファイバ(photonics crystal fiber)、マルチコアファイバ、偏波保持ファイバ、エアクラッドファイバ(air cladding fiber)、シングルクラッドファイバ、またはマルチクラッドファイバといった、適切な光導波路、或いは微小構造光ファイバ(microstructured optical fiber)であればどのようなものによっても実現可能である。
【0037】
光導波路は、コアと、当該コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドとを有していてもよい。光導波路のコア、光導波路のコアを取り囲むクラッドの1つ、或いはこれらコアとクラッドとの組み合わせが、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを含んだ利得媒質を有するようにしてもよい。
【0038】
光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、少なくとも1つの活性イオンドーパントを含んでいる。本発明の場合、「光学的に能動な」という表現は、光を増幅または発生するのに用いられる材料に適用されるものであると解される。この活性イオンドーパントは希土類イオンドーパントであってもよい。希土類イオンドーパントは、イッテルビウム、ツリウム、ネオジム、エルビウム、これらのいずれかの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物を含んでいてもよい。希土類イオンはイッテルビウムであるのが好ましいが、例えばチタン或いはクロムのような、別の活性イオンを用いることも、もちろん可能である。
【0039】
光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、予め設定された波長の光を用いてポンピングを行うと、所望の波長の光を発する。例えば、ある種のりんケイ酸塩ダブルクラッド光ファイバのレーザ及び増幅器では、910〜980nmの光でポンピングすることにより1060〜1090nmの光を出力させることが可能であり、ある種の単一クラッド光ファイバでは、975nmの光でポンピングすることにより1015nmの光を出力させることが可能である(例示した典型的な波長の値は、実際には±5%程度の波長幅を有すると解すべきである)。
【0040】
光学的能動希土類ドープドりんケイ酸塩ガラス(optically-active rare-earth-doped phosphosilicate glass)は、約50〜98モル%のシリカ、0.01〜約5モル%の少なくとも1種類の希土類ドーパント、及び約1〜30モル%の酸化りんを含むものとすることができる。特に高エネルギを適用する場合、フォトダークニング(photodarkening)を抑制する上で有効となる必要な量の酸化りんが存在しているのが好ましい。光学的能動希土類ドープドりんケイ酸塩ガラスは、約50〜98モル%のシリカと、0.01〜約5モル%のYbを任意で含むようにしてもよい。
【0041】
光学的能動希土類ドープドりんケイ酸塩ガラスには、更に0.01〜約30モル%の少なくとも1種類のコドーパント(co-dopant)が含まれていてもよい。このコドーパントは、Alの酸化物、Laの酸化物、Luの酸化物、Pの酸化物、Geの酸化物、Tiの酸化物、Fの酸化物、Bの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物とすることができる。
【0042】
また、光ファイバのコアは、径方向に均質である必要はない。図7Aに示すように、コア12のうち、外側領域12Bは内側領域12Aよりも低い屈折率を有していてもよい。屈折率は、図7B及び図7Cにそれぞれ示すように、漸次変化するようにしてもよいし、ステップ状に変化するようにしてもよい。外側コアの屈折率を低下させるには、例えばAl、La、Lu、P、Ge、Ti、F、B、これらのいずれかの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物といった、適切な外側コア用のドーパントを外側コアにドープしてもよい。コアに補足的に設けられるほかの1つ以上のサブ領域は、全くドーパントを有さずに純粋なシリカ(silica)からなるようにしてもよい。
【0043】
本発明に係る好適な光学的能動希土類ドープドりんケイ酸塩ガラスは、約90モル%のシリカ、約1モル%のYb、約1モル%のAl、及び約8モル%の酸化りんを含むものとすることができる。このような組成は、図3に示すように、増幅器及びレーザにおいてパワーの低下を引き起こす有害なフォトダークニング現象を抑制しようとするものである。
【0044】
別の光学的能動りんケイ酸塩ガラスの組成は、「フォトダークニングを抑制した光学的能動ガラス及び光ファイバ、並びにフォトダークニングを抑制する方法」の名称でモラッセ(Morasse)ほかにより2007年7月3日に出願された関連米国特許出願に示されており、この米国特許出願は参照によりここに全てが編入される。
【0045】
光ファイバ導波路へのりんの加入は、屈折率の違いを増大させると共に、光ファイバの折り曲げへの耐性を改善する上で効果的である。
【0046】
前述したように、本発明の一実施形態によれば、りんケイ酸塩ガラスを含んだ利得媒質を有する光導波路を備えた発光装置は、コアと、少なくとも1つのクラッドを有していてもよい。このクラッドは純粋なシリカからなるのが好ましい。但しクラッドは、例えば酸化フッ素がドープされたシリカなど、適合するいかなる材料で構成してもよい。また、クラッドは微小構造(micro structure)を有していてもよい。発光装置は光学的能動りんケイ酸塩ガラスを用いたコアを有するのが好ましいが、クラッドも光学的能動りんケイ酸塩ガラスを含むことが可能であると解すべきである。少なくとも1種類の活性イオンドーパントと約1〜30モル%の酸化りんとを有したりんケイ酸塩ガラスは、コア及び・またはいずれかのクラッドに含まれていてもよい(図1A、図1B、及び図1Cを参照)。また、コア中の光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、クラッド中の光学的能動りんケイ酸塩ガラスとは組成が相違していてもよい。更にまた、光導波路は追加のクラッドを有していてもよい。光導波路はトリプルクラッド光ファイバであるのが好ましい。トリプルクラッド光ファイバの構造は、ペデスタル構造(pedestal design)として知られている。ダブルクラッド及びトリプルクラッド構造は図1A、図1B、及び図1Cに示されている。
【0047】
図1B及び図1Cは、ダブルクラッドを有した本発明の好ましい実施形態に係る光ファイバの例を示している。これらの図に示されるように、光ファイバ10には光学的能動りんケイ酸塩ガラス50Aを有した導波コア12が設けられている。この場合、コアは円形断面を有している。コアは光ファイバ10の中心部分に延設されている。コア12は、ポンプエネルギを受け取ってコア12に伝達するためのポンプガイドとなる内側クラッド14によって取り囲まれている。図1Bに示す内側クラッド14は円形断面を有する一方、図1Cに示す内側クラッドは五角形断面を有している。更に、図1Bにおける光ファイバ10の内側クラッド14は、光学的能動りんケイ酸塩ガラス50Bからなる。また、図1B及び図1Cに示すダブルクラッド光ファイバには、内側クラッド14を取り囲む外側クラッド16が設けられている。図1Aは、光学的能動りんケイ酸塩ガラス50を含むコア12と、2つのクラッド14及び16を取り囲む3つめのクラッド18を有するトリプルクラッドとを備えた、本発明の一実施形態に係る光ファイバを示している。当然のことながら、これらのコア及びクラッドは、例えば五角形や六角形などのように、適切な断面形状とすることが可能であって、例示された形状に限定されるものではないと当業者は理解することができよう。
【0048】
図6は、ダブルクラッド光ファイバ及びトリプルクラッド光ファイバの径方向における屈折率特性を示している。図6に示すように、トリプルクラッド構造はコアの開口数を低減することが可能であり、このことは導波路内を伝播するモードのモード領域の拡大とそれによる非線形効果の抑制、モード数の減少及びそれによるビーム品質の改善、並びに増幅された自然放出光(ASE)の減少及びそれによる効率の上昇を意味する。ビーム品質の改善によって、より低いM、より低いBPPパラメータ、よりガウシアンパルスに近い形状、及びより優れた集束特性を得ることができるのはよく知られている。トリプルクラッド構造のもう1つの利点は、必要に応じて適切な径のトリプルクラッドを用いることにより、曲げ損失に対してより高い抑制が可能なことである。
【0049】
上述したりんケイ酸塩ベースの光導波路は、従来の光ファイバと比較して多くの有用な利点があることから、増幅器やレーザ、とりわけパルス増幅器及びパルスレーザでの使用に極めて適している。りんケイ酸塩ベースの光導波路は、パルス増幅器及びパルスレーザの抽出エネルギだけでなく、飽和エネルギをも増大させることが可能である。
【0050】
図2は、このような光導波路を用いて達成される、910〜970nmの波長範囲で一定すると共に増大した吸収量を示している。このような状態は、ポンピングの調整が不要であること、及びイッテルビウムの吸収周波数域と重複する910〜970nmの波長範囲でのポンピングがより効率的であることを意味している。吸収量が大きいほど、短いファイバ長を可能とし、非線形効果を抑制することが可能となる。表1に示すように、りんケイ酸塩ベースの光導波路は、1064nmの波長において、標準的光ファイバに対し、より小さな放出断面積(σes)及びより小さな吸収断面積(σas)であることにより、3倍に達する大きさの飽和エネルギ(Esat)を示している。その値は、式(1)によって得られ、式中のhはプランク係数、vは波長λの光の周波数、Αはコア面積、Γはコアと伝播するモードとの重複度を示す。
【0051】
【数1】

【0052】
【表1】

【0053】
図4は、出力エネルギの増大に伴うパルス歪みの問題を示している。りんケイ酸塩ベースの光導波路は、パルス歪みを抑制することにより、パルス成形を容易にし、或いはパルス成形の必要性を低減する。また、りんケイ酸塩ベースの光導波路の場合には飽和エネルギが増大するので、りんケイ酸ベースの光導波路を用いた増幅器及びレーザにおいて、飽和エネルギのほぼ10倍になりうる高い抽出エネルギを得ることが可能となる。従って、高い抽出エネルギを達成することが可能となり、より小径のコアを必要に応じて使用することも可能となる。
【0054】
図5A及び図5Bは、本発明によるテーパ状をなすりんケイ酸塩ベースの光導波路の、アンドープドパッシブリレーファイバ(undoped passive relay fiber)への改善された接続を示している。本発明によるりんケイ酸塩ベース光導波路のテーパ化及びドーパントの改善された拡散により、テーパ状をなすりんケイ酸塩ベースの光導波路10Bで計測される接続損失は、リレーファイバと整合するようなテーパ状ではなくドーパントが同等な拡散特性を有していない光ファイバ(例えば光ファイバ10A)の理論上の接続損失の1/4とすることができる。改善されたドーパントの拡散は、例えばりんの高い蒸気圧によって生じる。図5A及び図5Bに示す例では、1060nm単一モード用の5μmのリレーファイバが、15μmのりんケイ酸塩ベースの光導波路に接続されている。この例において、非テーパ状接続13Aにおける接続損失は、理論的に1.6dbと見積もられるのに対し、テーパ状接続13Bで計測される接続損失は0.35dbである。従って、単一モードを実現可能である。
【0055】
図8は、時間の経過に対する矩形パルスの振幅変化を示すグラフである。グラフから明らかなように、光学的能動りんケイ酸塩ガラスの利得媒質からなる光導波路、例えば光ファイバにおいては、最初に矩形パルスであった出力パルスは、歪みがより少なく、より良好に矩形を維持している。
【0056】
また、りんケイ酸塩ベースの光導波路は、例えばりん酸塩ベースのガラスに比べ、高い耐久性、高い融点、及び低い減衰量といった、優れた機械的、熱的、及び光学的特性も有している点で有用である。好ましい実施形態では、シリカベースのガラスと良好に整合し容易に接続することも可能である。
【0057】
例えば、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを用いた高エネルギレーザ及び高エネルギ増幅器のように、本発明の実施形態に係る発光装置は、出力の増大、抽出エネルギ及び飽和エネルギの増大、フォトダークニング現象の抑制、非線形効果の抑制、パルス成形の必要性の低減、並びに高いビーム品質及び集束特性をもたらすものであって、容易にポンピング可能であると共に実現が可能であり、時間が経過しても安定している。
【0058】
上述した実施形態のいずれにおいても、添付の特許請求の範囲に定める本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的能動りんケイ酸塩ガラスを有する利得媒質を備えた発光装置であって、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、少なくとも1種類の活性イオンドーパントと、約1〜30モル%の酸化りんとを含有することを特徴とする発光装置。
【請求項2】
上記少なくとも1種類の活性イオンドーパントは、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスの光学特性にフォトダークニング現象を引き起こすものであって、上記酸化りんは、上記フォトダークニング現象を抑制するために必要な量をもって含有されていることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
上記活性イオンドーパントは希土類ドーパントであることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項4】
上記希土類ドーパントは、イッテルビウム、ツリウム、エルビウム、ネオジム、これらのいずれかの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物からなることを特徴とする請求項3に記載の発光装置。
【請求項5】
上記光学的能動能動りんケイ酸塩ガラスは、更に少なくとも1種類のコドーパントを含有することを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項6】
上記コドーパントは、Alの酸化物、Bの酸化物、Fの酸化物、Geの酸化物、Laの酸化物、Luの酸化物、Pの酸化物、Tiの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物からなることを特徴とする請求項5に記載の発光装置。
【請求項7】
上記発光装置は、光の放出もしくは増幅、または光の増幅と放出とを行うことを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項8】
上記利得媒質を有した増幅器を備えることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項9】
上記利得媒質を有したレーザを備えることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項10】
上記利得媒質を有した光導波路を備えることを特徴とする請求項1に記載の発光装置。
【請求項11】
上記光導波路は、コアと、上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドとを備えることを特徴とする請求項10に記載の発光装置。
【請求項12】
上記利得媒質は、上記コアを構成することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
上記利得媒質は、上記コアを取り囲む上記少なくとも1つのクラッドのうちの少なくとも1つを構成することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項14】
上記利得媒質は、上記コアと、上記コアを取り囲む上記少なくとも1つのクラッドのうちの少なくとも1つとを構成することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項15】
上記コアは、径方向で不均質であることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項16】
上記コアは、外側領域と内側領域とを備え、上記外側領域は、上記内側領域より低い屈折率を有することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項17】
上記コアの屈折率は、漸次変化、またはステップ状に変化することを特徴とする請求項16に記載の発光装置。
【請求項18】
上記外側領域は、Al、B、F、Ge、La、Lu、P、Ti、これらのいずれかの酸化物、或いはこれらのいずれかの化合物がドープされていることを特徴とする請求項16に記載の発光装置。
【請求項19】
上記コアは、ドープされない1つ以上のサブ領域を備えることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項20】
ドープされない上記1つ以上のサブ領域は、純粋なシリカからなることを特徴とする請求項19に記載の発光装置。
【請求項21】
上記少なくとも1つのクラッドのうちの少なくとも1つは、純粋なシリカからなることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項22】
上記少なくとも1つのクラッドのうちの少なくとも1つは、ドープされたシリカからなることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項23】
上記少なくとも1つのクラッドのうちの少なくとも1つは、微小構造を有することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項24】
上記光導波路は、上記コアを取り囲む2つ以上のクラッドを有することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項25】
上記光導波路は光ファイバであることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項26】
上記光導波路は、ペデスタル構造のトリプルクラッド光ファイバであることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項27】
上記光導波路はダブルクラッド光ファイバであり、
上記ダブルクラッド光ファイバのコアは円形断面を有し、
上記少なくとも1つのクラッドは、五角形断面を有して上記コアを取り囲む内側クラッドと、上記内側クラッドを取り囲む外側クラッドとを備えることを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項28】
上記光導波路は、接続損失を低減するテーパ状の端部を有することを特徴とする請求項11に記載の発光装置。
【請求項29】
発光装置に用いられる光導波路であって、上記光導波路は、光学的能動りんケイ酸塩ガラスを含む利得媒質を備え、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスは、少なくとも1種類の活性イオンドーパントと、約1〜30モル%の酸化りんとを含有することを特徴とする光導波路。
【請求項30】
上記少なくとも1種類の活性イオンドーパントは、上記光学的能動りんケイ酸塩ガラスの光学特性にフォトダークニング現象を引き起こすものであって、上記酸化りんは、上記フォトダークニング現象を抑制するために必要な量をもって含有されていることを特徴とする請求項29に記載の光導波路。
【請求項31】
上記光導波路は、コアと、上記コアを取り囲む少なくとも1つのクラッドとを備え、上記利得媒質は、上記コア、または上記少なくとも1つのクラッドの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項29に記載の発光装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【公表番号】特表2010−533634(P2010−533634A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516339(P2010−516339)
【出願日】平成20年7月15日(2008.7.15)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001296
【国際公開番号】WO2009/009888
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(510015453)コラクティヴ ハイ−テック インコーポレイティド (2)
【氏名又は名称原語表記】CORACTIVE HIGH−TECH INC.
【住所又は居所原語表記】2700 Jean−Perrin, S. 121, Quebec, Quebec G2C 1S9, Canada
【Fターム(参考)】