説明

アイソレータ保護装置、免震装置

【課題】 基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を低減させてアイソレータを保護するアイソレータ保護装置を低コストに実現しつつ、その引っ張り力でアイソレータ保護装置自体が損傷してしまう虞を低減させる。
【解決手段】 基礎11には、ボルト33が突設されている。下部フランジ21のボルト孔211にボルト33が挿通された状態で、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位可能に係合している。下部フランジ21の上側には、ゴム弾性体31及びその内周面側に鋼管32が、ボルト33に挿通された状態で配設されている。ゴム弾性体31及び鋼管32の上側には、円形鋼板34がボルト33に挿通された状態で配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させた構成を有する免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基礎と該基礎上の構造物(ビル等の建築物や橋、塔等)との間にアイソレータを介在させた構成を有する免震装置は、アイソレータとして、ゴム板と鋼板とが交互に接着されて上下方向へ複数積層された構成を有する積層ゴムを採用したものが一般的である。この積層ゴムは、上下方向の圧縮力に対しては高い強度を有しているが、逆に上下方向への引っ張り力に弱いという性質を有している。そのため、地震の揺れによって積層ゴムに大きな引っ張り力が作用すると、ゴム板と鋼板との間に剥離や空隙が生じてしまい、それによって、積層ゴムの免震性能が低下してしまう虞がある。
【0003】
このようなことから、一般的に免震装置の設計に際しては、地震の揺れに対して積層ゴムに作用する引っ張り力が、ゴム板と鋼板との間に剥離や空隙が生じない程度(例えば、1N/mm以下)となるようにする必要がある。具体的には、例えば、積層ゴムの直径を大きくするといった対策が従来行われてきたが、それに伴って、地震に対する免震性能が低下してしまうという課題が生ずることになる。
【0004】
このような課題を解決可能な従来技術の一例としては、積層ゴムの直径を大きくするのではなく、例えば、取付ボルトの頭部と積層ゴムのフランジとの間に、ゴムシート、棒ばね、皿ばね等の緩衝座を介在させることによって、積層ゴムに作用する引っ張り力を低減させる構成を有する免震装置が公知である(例えば、特許文献1〜5を参照)。
【特許文献1】特開平11−153191号公報
【特許文献2】特開2001−124142号公報
【特許文献3】特開平10−110551号公報
【特許文献4】特開2000−240072号公報
【特許文献5】特開2003−194146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、皿ばねは使用した緩衝座(例えば、特許文献3〜5を参照)は、一般的に非常に高価であるため、免震装置のコストが大幅に上昇してしまうという課題が生ずる。
【0006】
また、上記従来技術においては、積層ゴムに作用する引っ張り力に対してゴムシートやばね等が圧縮変形するため、大きな引っ張り力が作用すると、そのゴムシートやばね等に弾性限界を超える圧縮変形が生ずる虞がある。すなわち、その弾性限界を超える圧縮変形によって、ゴムシートやばね等が押しつぶされてしまったり亀裂が生じてしまったり等の虞が生ずる。そうなると、ゴムシートやばね等の弾性力が低下して、積層ゴムに対する引っ張り力を低減させる機能を発揮することができなくなるため、積層ゴムに大きな引っ張り力が作用しやすくなり、積層ゴムのゴム板と鋼板との間に剥離や空隙が生じてしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑み成されたものであり、その課題は、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を低減させてアイソレータを保護するアイソレータ保護装置を低コストに実現しつつ、その引っ張り力でアイソレータ保護装置自体が損傷してしまう虞を低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様は、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、前記アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を低減させて前記アイソレータを保護するアイソレータ保護装置であって、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる弾性体と、前記弾性体が弾性限界を超える変形をしないように前記弾性変位の変位量を規制する弾性変位量規制手段とを備えている、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0009】
ここで、アイソレータとは、地盤からビル等の構造物を絶縁する部材や機構等であり、ゴム板と鋼板とが交互に接着されて上下方向へ複数積層された構成を有する公知の積層ゴムの他、例えば、ダンパー機構等も含まれる。より具体的には、基礎と構造物との間に介在させた状態で、構造物を支持するとともに、地盤からビル等の構造物を絶縁して地震による揺れを低減させることが可能な手段であれば、全て含まれる。
【0010】
本発明に係るアイソレータ保護装置は、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、アイソレータと基礎又は構造物とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させることができるので、地震の際にアイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を弾性体の変形により吸収して低減させることができる。それによって、地震の際にアイソレータに作用する上下方向の引っ張り力でアイソレータが損傷等してしまうことを防止することができるので、その引っ張り力からアイソレータを保護することができる。
【0011】
また、本発明に係るアイソレータ保護装置は、この弾性体が弾性限界を超える変形をしないように弾性変位の変位量を規制する弾性変位量規制手段が設けられているので、地震の際にアイソレータに作用する上下方向の引っ張り力で弾性体の変形が弾性限界を超えて、弾性体に過大な歪み等が生じてしまうことを確実に防止することができる。それによって、地震の際にアイソレータに作用する上下方向の引っ張り力で弾性体が損傷等してしまうことを未然に防止することができる。
【0012】
そして、本発明に係るアイソレータ保護装置は、弾性限界を超える変形をしないように、弾性変位量規制手段によって弾性体の変形が規制される構成を有しているので、弾性体に高い強度をもたせる必要がない。それによって、アイソレータ保護装置に使用する弾性体の選択の幅が広がり、例えば大型の皿ばね等の高価な弾性体でなく、安価なゴム材等からなる弾性体を利用することが可能になるので、アイソレータ保護装置を低コストに実現することが容易に可能になる。
【0013】
このようにして、本発明の第1の態様によれば、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を低減させてアイソレータを保護するアイソレータ保護装置を低コストに実現しつつ、その引っ張り力でアイソレータ保護装置自体が損傷してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の第2の態様は、前述した第1の態様に記載のアイソレータ保護装置において、前記アイソレータは、ゴム板と鋼板とが交互に接着されて上下方向へ複数積層された構成を有している、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0015】
本発明の第2の態様に記載のアイソレータ保護装置によれば、基礎と該基礎上の構造物との間に、ゴム板と鋼板とが交互に接着されて上下方向へ複数積層されたアイソレータ、いわゆる積層ゴムを介在させる免震装置において、この積層ゴムと基礎又は構造物とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させることができるので、地震の際に積層ゴムに作用する上下方向の引っ張り力を弾性体の変形により吸収して低減させることができる。それによって、地震の際に積層ゴムに作用する上下方向の引っ張り力で積層ゴムのゴム板と鋼板との間に剥離や空隙が生じてしまうことを防止することができるので、その引っ張り力から積層ゴムを保護することができる。
【0016】
したがって、基礎と該基礎上の構造物との間に積層ゴムを介在させる免震装置において、積層ゴムに作用する上下方向の引っ張り力を低減させて積層ゴムを保護するアイソレータ保護装置を低コストに実現しつつ、その引っ張り力でアイソレータ保護装置自体が損傷してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0017】
本発明の第3の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、前記弾性変位量規制手段は、前記フランジと前記係止部との間に配設される規制部材を有し、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物との離間方向への相対的な変位に伴って、前記フランジと前記係止部との間で前記弾性体が変形するとともに、前記規制部材の一端が前記フランジに当接し他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0018】
本発明の第3の態様において、アイソレータと基礎又は構造物とは、アイソレータの上端又は下端のフランジ(アイソレータを基礎又は構造物等と結合させるための鍔)に形成された取付孔に取付ボルトが挿通された状態で、離間方向へ相対的に変位可能に係合している。そして、アイソレータに対して基礎又は構造物が離間方向へ変位すると、その変位に伴ってフランジと係止部との間で弾性体が変形し、その結果、アイソレータと基礎又は構造物とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合することになる。
【0019】
また、アイソレータに対する基礎又は構造物の離間方向への弾性変位は、規制部材の一端がフランジに当接し他端が係止部に当接した状態で、その変位量が規制される。すなわち、アイソレータと基礎又は構造物との離間方向への相対的な弾性変位位置が規制部材の両端で規制されることによって、その離間方向への変位に伴う弾性体の変形が規制されることになる。したがって、弾性体の形状や弾性特性等に応じて規制部材の長さ等を適切に設定することによって、弾性体に弾性限界を超える変形が生じないようにすることが可能になる。
【0020】
本発明の第4の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、前記弾性体は、円筒体形状を有し、前記弾性変位量規制手段は、前記弾性体の内周面側又は外周面側に配置される円筒体形状で軸方向長が前記弾性体より短い鋼管であり、前記弾性体及び前記鋼管は、前記取付ボルトに挿通された状態で前記フランジと前記係止部との間に配設され、前記鋼管の軸方向一端が前記フランジに当接し軸方向他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0021】
本発明の第4の態様において、アイソレータと基礎又は構造物とは、アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に取付ボルトが挿通された状態で、離間方向へ相対的に変位可能に係合している。そして、アイソレータに対して基礎又は構造物が離間方向へ変位すると、取付ボルトが挿通されているフランジと取付ボルトの端部に設けられた係止部との間隔が狭くなっていく。それによって、取付ボルトに挿通された状態でフランジと係止部との間に配設されている円筒体形状の弾性体は、フランジと係止部とで狭圧されて圧縮されていくことになる。
【0022】
すなわち、本発明の第4の態様は、取付ボルトに挿通された状態でフランジと係止部との間に配設されている円筒体形状の弾性体が圧縮変形することによって、アイソレータと基礎又は構造物とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合する構成を有している。
【0023】
また、本発明の第4の態様は、この円筒体形状の弾性体の内周面側又は外周面側に、取付ボルトに挿通された状態で、フランジと係止部との間に円筒体形状の鋼管が配設されている。したがって、アイソレータと基礎又は構造物との相対的な変位位置は、その離間方向への変位に伴って狭くなっていくフランジと係止部との間において、鋼管の軸方向両端にフランジと係止部とがそれぞれ当接した状態で規制されることになる。そして、この円筒体形状の鋼管は、軸方向長が円筒体形状の弾性体より短く設定されている。
【0024】
すなわち、本発明の第4の態様は、アイソレータと基礎又は構造物との離間方向への相対的な弾性変位位置が鋼管の軸方向両端で規制されることによって、その離間方向への変位に伴う弾性体の圧縮変形が規制されることになる。したがって、弾性体の軸方向長や弾性特性等に応じて鋼管の軸方向長を適切に設定することによって、弾性体に弾性限界を超える圧縮変形が生じないようにすることが可能になる。
【0025】
本発明の第5の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、前記弾性変位量規制手段は、前記係止部と一体に形成された規制部材を有し、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物との離間方向への相対的な変位に伴って、前記フランジと前記係止部との間で前記弾性体が変形するとともに、前記規制部材が前記フランジに当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0026】
本発明の第5の態様において、アイソレータと基礎又は構造物とは、アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に取付ボルトが挿通された状態で、離間方向へ相対的に変位可能に係合している。そして、アイソレータに対して基礎又は構造物が離間方向へ変位すると、その変位に伴ってフランジと係止部との間で弾性体が変形し、その結果、アイソレータと基礎又は構造物とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合することになる。
【0027】
また、アイソレータに対する基礎又は構造物の離間方向への弾性変位は、規制部材がフランジに当接した状態で、その変位量が規制される。すなわち、アイソレータと基礎又は構造物との離間方向への相対的な弾性変位位置が規制部材で規制されることによって、その離間方向への変位に伴う弾性体の変形が規制されることになる。したがって、弾性体の形状や弾性特性等に応じて規制部材の長さ等を適切に設定することによって、弾性体に弾性限界を超える変形が生じないようにすることが可能になる。
【0028】
そして、係止部と規制部材とが一体に形成されていることによって、係止部と規制部材とが相互に補強し合って剛性が高められるので、係止部及び規制部材の形状や板厚等をより小さくすることが可能になり、それによって、アイソレータ保護装置をより小型化及び薄型化することが可能になる。さらに、係止部と規制部材とが一体に形成されていることによって、係止部と規制部材との間に位置ずれやガタツキ等が生ずることがないので、アイソレータと基礎又は構造物との離間方向への相対的な弾性変位位置をより安定的に規制することが可能になる。
【0029】
本発明の第6の態様は、前述した第5の態様に記載のアイソレータ保護装置において、複数の前記弾性体が前記取付ボルトを対称中心として対称的に配置される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0030】
このように、複数の弾性体でアイソレータと基礎又は構造物とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる構成とすることによって、弾性体の個々の大きさを小さくすることができる。また、複数の弾性体は、取付ボルトを対称中心として対称的に配置されるので、バランスの取れた安定的な弾性係合を実現しつつ弾性体の配置の自由度を高めることができる。それによって、例えば、アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔とアイソレータ本体との間隔が狭い場合等、取付ボルトの近傍に配設される弾性体の大きさや配置等に制約が生ずるような場合であっても、その制約に柔軟に対応したアイソレータ保護装置を実現することが可能になる。
【0031】
本発明の第7の態様は、前述した第1の態様又は第2の態様に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、前記弾性体は、円筒体形状を有し、前記弾性変位量規制手段は、前記弾性体の内周面側に配置される円筒体形状の第1鋼管と前記弾性体の外周面側に配置される円筒体形状の第2鋼管とを有し、前記弾性体、前記第1鋼管及び前記第2鋼管が前記取付ボルトに挿通された状態で前記フランジと前記係止部との間に配設され、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位することによって、前記フランジと前記係止部とで前記第1鋼管と前記第2鋼管とが相反する方向へ押動されて移動し、その前記第1鋼管と前記第2鋼管との相反する方向への移動によって前記弾性体が剪断変形し、前記第1鋼管又は前記第2鋼管の軸方向一端が前記フランジに当接し軸方向他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
【0032】
本発明の第7の態様において、アイソレータと基礎又は構造物とは、アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に取付ボルトが挿通された状態で、離間方向へ相対的に変位可能に係合している。そして、アイソレータに対して基礎又は構造物が離間方向へ変位すると、取付ボルトが挿通されているフランジと取付ボルトの端部に設けられた係止部との間隔が狭くなっていく。また、弾性体の内周面側には第1鋼管が配置されており、弾性体の外周面側には第2鋼管が配置されており、弾性体は、フランジと係止部とで第1鋼管と第2鋼管とが相反する方向へ押動されて移動することによって、剪断変形する。
【0033】
すなわち、本発明の第7の態様は、取付ボルトに挿通された状態でフランジと係止部との間に配設されている円筒体形状の弾性体が剪断変形することによって、アイソレータと基礎又は構造物とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合する構成を有している。
【0034】
そして、本発明の第7の態様は、第1鋼管又は第2鋼管の軸方向両端がフランジと係止部とにそれぞれ当接した状態で、弾性変位の変位量が規制される構成を有している。すなわち、アイソレータと基礎又は構造物との離間方向への相対的な弾性変位位置が第1鋼管又は第2鋼管の軸方向両端で規制されることによって、その離間方向への変位に伴う弾性体の剪断変形が規制されることになる。したがって、弾性体の剪断変形特性等に応じて第1鋼管又は第2鋼管の軸方向長を適切に設定することによって、弾性体に弾性限界を超える剪断変形が生じないようにすることが可能になる。
【0035】
本発明の第8の態様は、前述した第1〜第7の態様のいずれかに記載のアイソレータ保護装置において、前記弾性体は、ゴム弾性体である、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
このように、安価なゴム材等からなる弾性体を利用することによって、アイソレータ保護装置を低コストに実現することができる。
【0036】
本発明の第9の態様は、前述した第1〜第6の態様のいずれかに記載のアイソレータ保護装置において、前記弾性体は、ゴム弾性体と鋼板とが上下方向へ交互に複数積層された構成を有している、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
このように、ゴム弾性体と鋼板とを上下方向へ交互に複数積層して弾性体を形成することによって、弾性体の変形時に生ずる弾性力を全体的により均一にすることができる。また、弾性体をより小型化することが可能になるので、よりコンパクトなアイソレータ保護装置を実現することが可能になる。
【0037】
本発明の第10の態様は、前述した第1〜第9の態様のいずれかに記載のアイソレータ保護装置において、前記アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を1N/mm以下に低減させる、ことを特徴としたアイソレータ保護装置である。
本発明の第10の態様に記載のアイソレータ保護装置によれば、アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を1N/mm以下に低減させることができるので、アイソレータに1N/mmを超える引っ張り力が作用してしまうことを未然に防止してアイソレータを保護することができる。
【0038】
本発明の第11の態様は、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置であって、前述した第1〜第10の態様のいずれかに記載のアイソレータ保護装置を備える、ことを特徴とした免震装置である。
本発明の第11の態様に記載の免震装置によれば、基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、前述した第1〜第10の態様のいずれかに記載の発明による作用効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0040】
図1は、本発明に係る「免震装置」の実施例を模式的に図示した正面図であり、図2は、その一部を拡大して模式的に図示した断面図である。
本発明に係る「免震装置」は、地盤に施工された基礎11とビル等の構造物12との間に「アイソレータ」としての積層ゴム20を複数介在させる構成を有している。公知の積層ゴム20は、図2に図示した如く、略円板形状のゴム板23と略円板形状の鋼板24とが交互に接着されて上下方向へ複数積層された構成を有している。地震による地盤の揺れは、基礎11の揺れが積層ゴム20で吸収されることによって、積層ゴム20上にある構造物12の揺れが低減されることになる。
【0041】
このとき、地震の揺れによって構造物12が左右に揺れると、複数の積層ゴム20の一部に上下方向の引っ張り力が作用するが、本発明に係る「免震装置」は、その引っ張り力を低減させて積層ゴム20の損傷を防止するアイソレータ保護装置30が積層ゴム20ごとに複数配設されている。積層ゴム20は、下部フランジ21が基礎11に対して、アイソレータ保護装置30を介して離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合しているとともに、上部フランジ22が構造物12に対して、同様にアイソレータ保護装置30を介して離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合している。
尚、上部フランジ22と構造物12とだけをアイソレータ保護装置30を介して離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させるようにして、下部フランジ21と基礎11とは直接連結するようにしても良い。或いは逆に、下部フランジ21と基礎11とだけをアイソレータ保護装置30を介して離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させるようにして、上部フランジ22と構造物12とは直接連結するようにしても本発明の実施は可能であり、本発明による作用効果を得ることができる。
【0042】
以下、本発明に係るアイソレータ保護装置30について、複数の実施例を挙げながら詳細に説明する。尚、基礎11側のアイソレータ保護装置30に対して構造物12側のアイソレータ保護装置30は、上下方向が逆に配設されているだけであり、その構成及び機能は全く同じなので、基礎11側を例に説明して構造物12側のアイソレータ保護装置30の説明は省略することとし、以下同様とする。
【0043】
<第1実施例>
図3は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第1実施例を模式的に図示した正面視の断面図であり、図4は、そのA−A断面の平面図である。
本発明に係るアイソレータ保護装置30は、積層ゴム20と基礎11とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる「弾性体」としてのゴム弾性体31と、このゴム弾性体31が弾性限界を超える変形をしないように弾性変位の変位量を規制する「弾性変位量規制手段」及び「規制部材」としての鋼管(ワッシャ)32とを備えている。ゴム弾性体31は、天然ゴム等の硬質ゴムで形成されており、図示の如く円筒体形状を有している。また、鋼管32は、図示の如く、ゴム弾性体31の内周面側に配置可能な円筒体形状で軸方向長がゴム弾性体31より短い形状を有している。
【0044】
基礎11には、下部フランジ21に設けられている「取付孔」としてのボルト孔211に対応する位置に、袋ナット111が配設されている。「取付ボルト」としてのボルト33は、この袋ナット111に螺合された状態で基礎11に突設される。アイソレータ保護装置30は、下部フランジ21のボルト孔211にボルト33が挿通された状態で、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位可能に係合している。下部フランジ21の上側には、ゴム弾性体31及びその内周面側に鋼管32が、ボルト33に挿通された状態で配設されている。
【0045】
ゴム弾性体31及び鋼管32の上側には、「係止部」としての円形鋼板34が、ボルト33に挿通された状態で、そのボルト33の端部近傍に配設され、その上側にナット35が螺合されている。すなわち、ゴム弾性体31及び鋼管32は、ボルト33に挿通された状態で積層ゴム20の下部フランジ21と円形鋼板34との間に配設されている。
【0046】
図5は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第1実施例を模式的に図示した正面視の断面図であり、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用したときの状態を図示したものである。
前記の通り、積層ゴム20と基礎11とは、積層ゴム20の下部フランジ21に形成されたボルト孔211にボルト33が挿通された状態で、離間方向へ相対的に変位可能に係合している。したがって、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用すると、図示の如く、積層ゴム20に対して基礎11が離間方向へ変位し、下部フランジ21と円形鋼板34との間隔が狭くなっていく。それによって、下部フランジ21と円形鋼板34との間に配設されているゴム弾性体31は、図示の如く下部フランジ21と円形鋼板34とで狭圧されて圧縮される。
【0047】
すなわち、アイソレータ保護装置30は、ボルト33に挿通された状態で下部フランジ21と円形鋼板34との間に配設されている円筒体形状のゴム弾性体31によって、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合している。それによって、本発明に係るアイソレータ保護装置30は、地震の際に積層ゴム20に作用する上下方向の引っ張り力をゴム弾性体31の圧縮変形により吸収して低減させることができるので、許容範囲を超える上下方向の引っ張り力(例えば、1N/mm以上の引っ張り力)が積層ゴム20に作用しないようにすることができる。したがって、その引っ張り力で積層ゴム20のゴム板23と鋼板24との間に剥離や空隙が生じてしまうことを防止することができるので、地震の際に、その引っ張り力から積層ゴム20を保護することができる。
【0048】
また、前記の通り、円筒体形状のゴム弾性体31の内周面側には、ボルト33に挿通された状態で、下部フランジ21と円形鋼板34との間に円筒体形状の鋼管32が配設されている。したがって、積層ゴム20と基礎11との相対的な変位位置は、その離間方向への変位に伴って狭くなっていく下部フランジ21と円形鋼板34との間において、鋼管31の軸方向両端に下部フランジ21と円形鋼板34とがそれぞれ当接したところで、それ以上の離間方向への弾性変位が規制されることになる。そして、この鋼管32は、軸方向長がゴム弾性体31より短く設定されている。
【0049】
すなわち、本発明に係るアイソレータ保護装置30は、積層ゴム20と基礎11との離間方向への相対的な弾性変位位置が、鋼管32の軸方向長で規制されることによって、その離間方向への変位に伴って圧縮されるゴム弾性体31の圧縮変形が規制されることになる。したがって、ゴム弾性体31の軸方向長や弾性特性等に応じて鋼管32の軸方向長を適切に設定すれば、ゴム弾性体31に弾性限界を超える圧縮変形が生じないようにすることが可能になる。それによって、地震の際に積層ゴム20に作用する上下方向の引っ張り力でゴム弾性体31の変形が弾性限界を超えてしまうことを確実に防止することができるので、その引っ張り力でゴム弾性体31に座屈等が生じて損傷してしまうことを未然に防止することができる。
【0050】
そして、本発明に係るアイソレータ保護装置30は、ゴム弾性体31が弾性限界を超える変形をしないように、「弾性変位量規制手段」としての鋼管32でゴム弾性体31の変形が規制される構成を有しているので、「弾性体」に高い強度をもたせる必要がない。それによって、アイソレータ保護装置30に使用する「弾性体」の選択の幅が広がり、例えば大型で頑強な皿ばね等の高価な弾性体ではなく、安価なゴム材等からなるゴム弾性体31を利用することが可能になるので、積層ゴム20のアイソレータ保護装置30を低コストに実現することが容易に可能になる。
【0051】
ここで、当該実施例において、ゴム弾性体31は、硬度約75°の天然ゴム材で形成されており、外径約100mm、内径約50mmで、高さ(軸方向の長さ)が約30mmに設定されている。鋼管32は、板厚が約8mmで、高さ(軸方向の長さ)が約15mm、外径が約48mm、内径が約40mmに設定されている。ボルト33は、M36のボルトであり、円形鋼板34の板厚は、約9mmに設定されている。また、下部フランジ21は、孔径約39mmのボルト孔211が積層ゴム20を中心とする同心円上に等間隔で12個設けられており、板厚は約28mmである(上部フランジ22も同様である。)。
例えば、積層ゴム20の一例として、ブリヂストン社製の積層ゴムNH100G4を使用した場合において、アイソレータ保護装置30の各構成要素の形状や寸法等を上記のように設定すると、この積層ゴム20が約1N/mmの引っ張り力を受けるときに、ゴム弾性体31が圧縮力を受けて高さが約50%程度になるまで圧縮変形するようにすることができる。
【0052】
尚、各構成要素(弾性ゴム31、鋼管32、ボルト33、円形鋼板34、下部フランジ21等)の上記形状や寸法等は、本発明が特にこれに限定されるという性質のものではなく、「免震装置」における積層ゴム20の大きさや特性等の条件、実施態様等に応じて適宜決定されるものであることは言うまでもない。
また、「弾性体」の一例であるゴム弾性体31は、例えば、天然ゴムの他、ウレタンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ノンブレン、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、イソブレンゴム、クロロブレンゴム、エチレン・ブロビレンゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、エピクロロヒドリンゴム、フッ素ゴム、クロロスルホン化ポリエチレン等の多種多様なゴム材を適用することが可能であるが、本発明における「弾性体」は、特にこれらに限定されるものではなく、所望の弾性力を発揮し得る弾性体であれば、どのような弾性体であっても本発明の実施は可能である。このことは、後述する他の実施例においても同様である。
【0053】
<第2実施例>
図6は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第2実施例を模式的に図示した正面視の断面図であり、図7は、そのB−B断面の平面図である。
第2実施例におけるアイソレータ保護装置30は、第1実施例と同様に、積層ゴム20と基礎11とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる「弾性体」としてのゴム弾性体31と、このゴム弾性体31が弾性限界を超える変形をしないように弾性変位の変位量を規制する「弾性変位量規制手段」及び「規制部材」としての鋼管(ワッシャ)32とを備えている。第1実施例と異なる点は、円筒体形状を有する鋼管32が、図示の如くゴム弾性体31の外周面側に配置されている点であり、軸方向長がゴム弾性体31より短い形状を有している点は第1実施例と同様である。すなわち、第2実施例は、下部フランジ21の上側において、ゴム弾性体31の外周面側に鋼管32が配設されており、それ以外の構成は、第1実施例と同様なので、構成の詳細な説明は省略する。
【0054】
図8は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第2実施例を模式的に図示した正面視の断面図であり、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用したときの状態を図示したものである。
第2実施例におけるアイソレータ保護装置30は、第1実施例と同様に、地震の際に積層ゴム20に作用する上下方向の引っ張り力をゴム弾性体31の圧縮変形により吸収して低減させることができる。それによって、許容範囲を超える上下方向の引っ張り力(例えば、1N/mm以上の引っ張り力)が積層ゴム20に作用して積層ゴム20のゴム板23と鋼板24との間に剥離や空隙が生じてしまうことを防止することができるので、地震の際に。その引っ張り力から積層ゴム20を保護することができる。
【0055】
また、円筒体形状のゴム弾性体31の外周面側には、ボルト33に挿通された状態で、下部フランジ21と円形鋼板34との間に円筒体形状の鋼管32が配設されており、この鋼管32は、第1実施例と同様に、軸方向長がゴム弾性体31より短く設定されている。したがって、積層ゴム20と基礎11との相対的な変位位置は、その離間方向への変位に伴って狭くなっていく下部フランジ21と円形鋼板34との間において、鋼管32によって規制されることになる。
【0056】
このように、ゴム弾性体31の外周面側に鋼管32を配設しても本発明の実施は可能であり、第1実施例と同様の作用効果が得られる。また、第2実施例においては、ボルト33の外周面と鋼管32の内周面との間にゴム弾性体31が配置されているので、ゴム弾性体31は、内周面側及び外周面側への変形が規制されつつ圧縮変形をすることとなる。したがって、第2実施例のアイソレータ保護装置30は、ゴム弾性体31の座屈がより生じにくくなるというメリットがある。
【0057】
<第3実施例>
図9及び図10は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第3実施例を模式的に図示した正面視の断面図である。図9は、平常時の状態を図示したものであり、図10は、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用したときの状態を図示したものである。
第3実施例のアイソレータ保護装置30は、図示の如く「弾性体」がゴム弾性体36と鋼板37とが上下方向へ交互に複数積層された構成を有しており、それ以外の構成は、前述した第1実施例と同様なので、詳細な説明は省略する。ゴム弾性体36は、前記のゴム弾性体31と同様に円筒体形状を有する硬質ゴムである。鋼板37は、ゴム弾性体36と略同形状の円筒体形状を有している。
【0058】
このように、ゴム弾性体36と鋼板37とを上下方向へ交互に複数積層して「弾性体」を構成することによっても本発明の実施は可能であり、第1実施例と同様の作用効果が得られる。また、このような構成とすることで、「弾性体」の変形時に生ずる弾性力を全体的により均一にすることができるとともに、第1実施例や第2実施例のような単層型にした場合と比較して、「弾性体」をより小型化することができるので、よりコンパクトなアイソレータ保護装置30を実現することが可能になる。
尚、複数のゴム弾性体36と鋼板37とを単に交互に積み重ねるだけでも本発明の実施は可能であるが、ゴム弾性体36と鋼板37とを交互に加硫接着して積層した方が、より安定した弾性と強度向上が期待できる点で好ましい。
【0059】
<第4実施例>
図11及び図12は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第4実施例を模式的に図示した正面視の断面図である。図11は、平常時の状態を図示したものであり、図12は、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用したときの状態を図示したものである。
第4実施例におけるアイソレータ保護装置30は、積層ゴム20と基礎11とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる「弾性体」としてのゴム弾性体31と、このゴム弾性体31が弾性限界を超える変形をしないように弾性変位の変位量を規制する「弾性変位量規制手段」及び「規制部材」としての第1鋼管321及び第2鋼管322とを備えている。ゴム弾性体31は、第1実施例と同様に、天然ゴム等の硬質ゴムで形成されており、図示の如く円筒体形状を有している。
【0060】
基礎11には、「取付ボルト」としてのボルト33が突設されており、下部フランジ21のボルト孔211にボルト33が挿通された状態で、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位可能に係合しており、この点は、第1実施例と同様である。また、ゴム弾性体31及び鋼管32の上側には、「係止部」としての円形鋼板34が、ボルト33に挿通された状態で配設されており、円形鋼板34より上側のボルト33にナット35が螺合されている点も第1実施例と同様である。
【0061】
下部フランジ21と円形鋼板34との間には、ゴム弾性体31、第1鋼管321及び第2鋼管322が、ボルト33に挿通された状態で配設されている。第1鋼管321は、ゴム弾性体31の内周面側に配置されており、第2鋼管322は、ゴム弾性体31の外周面側に配置されている。ゴム弾性体31は、内周面が第1鋼管321の外周面に接着されており、外周面が第2鋼管322の内周面に接着されている。第1鋼管321の上端は、円形鋼板34に当接しており、第1鋼管321の下端と下部フランジ21との間には、図示の如く一定の間隔が設けられている。第2鋼管322の下端は、下部フランジ21に当接しており、第2鋼管322の上端と円形鋼板34との間には、図示の如く一定の間隔が設けられている(図11)。
【0062】
このような構成を有する第4実施例のアイソレータ保護装置30においては、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用すると、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位し、下部フランジ21と円形鋼板34との間隔が狭くなっていく。それによって、第1鋼管321は、円形鋼板34に押動されて下方へ移動し、第2鋼管322は、下部フランジ21に押動されて上方へ移動し、その結果、ゴム弾性体31が図示の如く剪断変形する。
【0063】
すなわち、第4実施例のアイソレータ保護装置30は、ボルト33に挿通された状態で下部フランジ21と円形鋼板34との間に配設されている円筒体形状のゴム弾性体31が剪断変形することによって、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合する構成を有している(図12)。それによって、許容範囲を超える上下方向の引っ張り力(例えば、1N/mm以上の引っ張り力)が積層ゴム20に作用して積層ゴム20のゴム板23と鋼板24との間に剥離や空隙が生じてしまうことを防止することができるので、地震の際に。その引っ張り力から積層ゴム20を保護することができる。
【0064】
そして、第4実施例においては、第1鋼管321の軸方向長より第2鋼管322の軸方向長の方が長く設定されており、第2鋼管322の上端が円形鋼板34に当接した状態で弾性変位の変位量が規制されるように構成されている。すなわち、積層ゴム20と基礎11との離間方向への相対的な弾性変位位置が第2鋼管322の軸方向長で規制されることによって、その離間方向への変位に伴うゴム弾性体31の剪断変形が規制されることになる。したがって、ゴム弾性体31の軸方向長や弾性特性等に応じて第2鋼管322の軸方向長を適切に設定することによって、ゴム弾性体31に弾性限界を超える剪断変形が生じないようにすることが可能になる。
尚、第2鋼管322の軸方向長より第1鋼管321の軸方向長の方を長く設定して、積層ゴム20と基礎11との離間方向への相対的な弾性変位位置を第1鋼管321で規制するように構成することも可能であることは、言うまでもないことである。
【0065】
さらに、第4実施例は、積層ゴム20と基礎11との離間方向への相対的な弾性変位に際して、ゴム弾性体31を剪断変形させる構成を有していることから、ゴム弾性体31を圧縮変形させる構成(第1実施例、第2実施例)と比較して、ゴム弾性体31の外周面側又は内周面側にゴム弾性体31の変形に必要な空間を設ける必要がない。したがって、アイソレータ保護装置30をより小型化することが可能になる。
【0066】
<第5実施例>
図13は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第5実施例を模式的に図示したものであり、図13(a)は平面図、図13(b)は正面図、図13(c)は側面図である。
第5実施例におけるアイソレータ保護装置30は、矩形の鋼板からなる矩形鋼板38、「取付ボルト」としての六角ボルト39及び「弾性体」としての2つのゴム弾性体31で構成されている。ゴム弾性体31は、天然ゴム等の硬質ゴムで形成されており、図示の如く円柱体形状を有している。矩形鋼板38は、中心位置に、六角ボルト39が挿通される貫通孔385が形成されており、上面381には、図示の如く貫通孔385に挿通された六角ボルト39の頭が係止される座ぐり穴383が形成されている。
【0067】
また、矩形鋼板38の底面382には、二カ所の凹部384が貫通孔385を対称中心として対称的に形成されている。凹部384には、貫通孔385に挿通された六角ボルト39を対称中心として、2つのゴム弾性体31が対称的に配置される。凹部384の深さdは、ゴム弾性体31の高さhより短く設定されており、ゴム弾性体31の上面が凹部384の底部に当接して配置された状態で、ゴム弾性体31の底面が矩形鋼板38の底面382から突出した状態となる。尚、ゴム弾性体31は、上面を凹部384の底部に接着して位置を固定しても良いが、接着面において弾性変形が拘束されないように、例えば、接着せずに凹部384の底部に円形溝等を設けて、位置ずれしないように嵌合させる構成がより好ましい。
【0068】
例えば、当該実施例において、矩形鋼板38は、長さを約300mm、横幅を約120mm、板厚を約33mm、凹部384の深さdを約8mmとし、2つのゴム弾性体31の外径を約77mm、高さhを約18mmとすることで、外径1300mm程度の積層ゴム20に対して、歪み約50%で約10mmの引っ張り変形を許容するアイソレータ保護装置30を実現することが可能である。尚、これらの寸法等は、特にこれらに限定されるものではなく、積層ゴム20の大きさや特性等に応じて適宜設定されるべきものであることは言うまでもない。
【0069】
図14は、第5実施例におけるアイソレータ保護装置30の積層ゴム20に対する配置を模式的に図示した平面図である。
図15及び図16は、第5実施例におけるアイソレータ保護装置30のC−C断面(図13(a))の矢視図である。図15は、平常時の状態を図示したものであり、図16は、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用したときの状態を図示したものである。
【0070】
12個のアイソレータ保護装置30は、図示の如くゴム弾性体31が全て積層ゴム20から略等間隔となる同心円上に配置される向きで配設される(図14)。各アイソレータ保護装置30は、矩形鋼板38の貫通孔385及び下部フランジ21のボルト孔211を挿通させた六角ボルト39が、基礎11に設けられた袋ナット111に螺合された状態で配設される(図15)。このように配設されたアイソレータ保護装置30は、地震による構造物12の揺れによって積層ゴム20に引っ張り力が作用すると、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位する。
【0071】
アイソレータ保護装置30は、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に変位することによって、下部フランジ21と矩形鋼板38の凹部384の底部との間隔が狭くなっていく。それに伴って、下部フランジ21と凹部384との間に配設されているゴム弾性体31は、図示の如く下部フランジ21と凹部384とで圧縮されて変形し、その結果、積層ゴム20と基礎11とが離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合することになる。そして、積層ゴム20に対する基礎11の離間方向への弾性変位は、矩形鋼板38の底面382が下部フランジ21に当接した状態で、その変位量が規制される(図16)。
【0072】
すなわち、六角ボルト39の端部に設けられた矩形鋼板38は、ゴム弾性体31の上面が当接する凹部384が「係止部」として機能するとともに、底面382が下部フランジ21に当接した状態でゴム弾性体31の弾性変位量を規制する「規制部材」として機能する。換言すれば、矩形鋼板38は、「係止部」と「規制部材」とが一体に形成されている。それによって、アイソレータ保護装置30をより小型化及び薄型化することが可能になるので、積層ゴム20が水平方向へ変形した際にアイソレータ保護装置30に接触してしまう虞をより低減させることができる。また、「係止部」と「規制部材」とが一体構造であることによって、積層ゴム20と基礎11との離間方向への相対的な弾性変位位置をより安定的に規制することが可能になる。
【0073】
そして、第5実施例におけるアイソレータ保護装置30は、複数のゴム弾性体31が六角ボルト39を対称中心として対称的に配置されるので、ゴム弾性体31の個々の大きさを小さくすることができるとともに、バランスの取れた安定的な弾性係合を実現しつつゴム弾性体31の配置の自由度を高めることができる。それによって、例えば、下部フランジ21に形成されたボルト孔211と積層ゴム20との間隔が狭い場合等、六角ボルト39の近傍に配設されるゴム弾性体31の大きさや配置等に制約が生ずるような場合であっても、その制約に柔軟に対応することができるアイソレータ保護装置30を実現することが可能になる。
【0074】
さらに、第5実施例におけるアイソレータ保護装置30は、「弾性体」に六角ボルト39を挿通させない構成となっているので、「弾性体」の形状等の自由度が高いという特徴も有している。つまり、「弾性体」の形状等は、円柱体形状のゴム弾性体31(図13)に限定されず、例えば、直方体形状とすることもできるし、天然ゴム等の硬質ゴムではなく金属材からなる板ばね等で構成することもできる。
【0075】
<第6実施例>
図17は、本発明に係るアイソレータ保護装置30の第6実施例を模式的に図示した断面図である。
第6実施例は、前記の第5実施例において2つのゴム弾性体31を2つの波形鋼板ばね41に置き換えたアイソレータ保護装置30であり、それ以外の構成は第5実施例と同様である。
【0076】
波形鋼板ばね41は、矩形形状の波形鋼板を90度ずつ交互に角度を変えながら複数積層させた構成を有している。このような波形鋼板ばね41は、同程度の大きさのゴム弾性体31よりも外力による圧縮変形に対する耐久性が優れており、より広い弾性変位幅を得ることができるという利点がある。したがって、このような波形鋼板ばね41によれば、ゴム弾性体31を採用した場合と比較して「弾性体」及び「規制部材」をより小さくすることが可能であり、アイソレータ保護装置30をさらに小型化及び薄型化することが可能になる。
【0077】
<発明の効果>
このようにして、本発明に係るアイソレータ保護装置30によれば、基礎11と該基礎11上の構造物12との間に積層ゴム20等の「アイソレータ」を介在させる免震装置において、その積層ゴム20に作用する上下方向の引っ張り力を低減させて積層ゴム20を保護するアイソレータ保護装置30を低コストに実現しつつ、その引っ張り力でアイソレータ保護装置30自体が損傷してしまう虞を低減させることができるという作用効果が得られる。
【0078】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、基礎と該基礎上の構造物との間に積層ゴム等のアイソレータを介在させる免震装置において好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明に係る免震装置の実施例を模式的に図示した正面図である。
【図2】本発明に係る免震装置の一部を拡大して模式的に図示した断面図である。
【図3】本発明に係るアイソレータ保護装置の第1実施例の断面図である。
【図4】図3のA−A断面の平面図である。
【図5】アイソレータ保護装置の第1実施例の動作を図示した断面図である。
【図6】本発明に係るアイソレータ保護装置の第2実施例の断面図である。
【図7】図6のB−B断面の平面図である。
【図8】アイソレータ保護装置の第2実施例の動作を図示した断面図である。
【図9】本発明に係るアイソレータ保護装置の第3実施例の断面図である。
【図10】アイソレータ保護装置の第3実施例の動作を図示した断面図である。
【図11】本発明に係るアイソレータ保護装置の第4実施例の断面図である。
【図12】アイソレータ保護装置の第4実施例の動作を図示した断面図である。
【図13】本発明に係るアイソレータ保護装置の第5実施例の平面図等である。
【図14】積層ゴムに対するアイソレータ保護装置の配置等の平面図である。
【図15】図13(a)のC−C断面の矢視図である。
【図16】アイソレータ保護装置の第5実施例の動作を図示した断面図である。
【図17】本発明に係るアイソレータ保護装置の第6実施例の断面図である。
【符号の説明】
【0081】
11 基礎、12 構造物、20 積層ゴム、21 下部フランジ、22 上部フランジ、23 ゴム板、24 鋼板、31、36 ゴム弾性体、32 鋼管、33 ボルト、34 円形鋼板、35 ナット、38 矩形鋼板、39 六角ボルト、41 波形鋼板ばね、111 袋ナット、211 ボルト孔、321 第1鋼管、322 第2鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置において、前記アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を低減させて前記アイソレータを保護するアイソレータ保護装置であって、
前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とを離間方向へ相対的に弾性変位可能に係合させる弾性体と、
前記弾性体が弾性限界を超える変形をしないように前記弾性変位の変位量を規制する弾性変位量規制手段とを備えている、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアイソレータ保護装置において、前記アイソレータは、ゴム板と鋼板とが交互に接着されて上下方向へ複数積層された構成を有している、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、
前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、
前記弾性変位量規制手段は、前記フランジと前記係止部との間に配設される規制部材を有し、
前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物との離間方向への相対的な変位に伴って、前記フランジと前記係止部との間で前記弾性体が変形するとともに、前記規制部材の一端が前記フランジに当接し他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、
前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、
前記弾性体は、円筒体形状を有し、
前記弾性変位量規制手段は、前記弾性体の内周面側又は外周面側に配置される円筒体形状で軸方向長が前記弾性体より短い鋼管であり、
前記弾性体及び前記鋼管は、前記取付ボルトに挿通された状態で前記フランジと前記係止部との間に配設され、前記鋼管の軸方向一端が前記フランジに当接し軸方向他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、
前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、
前記弾性変位量規制手段は、前記係止部と一体に形成された規制部材を有し、
前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物との離間方向への相対的な変位に伴って、前記フランジと前記係止部との間で前記弾性体が変形するとともに、前記規制部材が前記フランジに当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項6】
請求項5に記載のアイソレータ保護装置において、複数の前記弾性体が前記取付ボルトを対称中心として対称的に配置される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のアイソレータ保護装置において、前記基礎又は前記構造物に突設される取付ボルトの端部に設けられる係止部を備え、
前記アイソレータの上端又は下端のフランジに形成された取付孔に前記取付ボルトが挿通された状態で、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位可能に係合し、
前記弾性体は、円筒体形状を有し、
前記弾性変位量規制手段は、前記弾性体の内周面側に配置される円筒体形状の第1鋼管と前記弾性体の外周面側に配置される円筒体形状の第2鋼管とを有し、
前記弾性体、前記第1鋼管及び前記第2鋼管が、前記取付ボルトに挿通された状態で前記フランジと前記係止部との間に配設され、前記アイソレータと前記基礎又は前記構造物とが離間方向へ相対的に変位することによって、前記フランジと前記係止部とで前記第1鋼管と前記第2鋼管とが相反する方向へ押動されて移動し、その前記第1鋼管と前記第2鋼管との相反する方向への移動によって前記弾性体が剪断変形し、前記第1鋼管又は前記第2鋼管の軸方向一端が前記フランジに当接し軸方向他端が前記係止部に当接した状態で前記弾性変位の変位量が規制される、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のアイソレータ保護装置において、前記弾性体は、ゴム弾性体である、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアイソレータ保護装置において、前記弾性体は、ゴム弾性体と鋼板とが上下方向へ交互に複数積層された構成を有している、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のアイソレータ保護装置において、前記アイソレータに作用する上下方向の引っ張り力を1N/mm以下に低減させる、ことを特徴としたアイソレータ保護装置。
【請求項11】
基礎と該基礎上の構造物との間にアイソレータを介在させる免震装置であって、請求項1〜10のいずれか1項に記載のアイソレータ保護装置を備える、ことを特徴とした免震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2008−215442(P2008−215442A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51925(P2007−51925)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【Fターム(参考)】