説明

アカシア属樹皮由来物を含有するPPARδ発現促進剤

【課題】骨格筋において脂肪燃焼・熱産生関連因子の発現を促進させて、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、及び抗疲労効果を奏することができる、長期に服用しても、副作用などのおそれがない、ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体δ(PPARδ)発現促進剤を提供。
【解決手段】アカシア属樹皮由来物のポリフェノールを含有する、持久力向上剤、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤、又は抗疲労剤である、PPARδ発現促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アカシア属(Acacia)に属する樹木に由来するペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体δ(PPARδ)発現促進剤、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
PPARδは、リガンド依存的に遺伝子発現を調整する核内受容体のPPAR(peroxisome proliferator-activated receptor、ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体)の一つである。PPARδは、骨格筋の脂肪酸取り込み、輸送、酸化、及び脱共役タンパクといった一連の脂肪酸代謝を調整する因子である(非特許文献1)。骨格筋は、末梢への脂肪酸の供給と代謝を司る肝臓や脂肪酸をエネルギー源として貯蔵する脂肪組織とは違い、心筋と共に、脂肪酸をエネルギー源として消費する組織である。PPARδの生理的役割として,飢餓や長期間の運動時においてグルコース代謝から脂肪酸代謝へと代謝経路を方向づけるものであると考えられている(非特許文献1)。
【0003】
骨格筋における脂肪分解・熱産生メカニズムは以下のとおりである。
血液中の遊離脂肪酸は骨格筋に取り込まれた後、細胞質でアシルCoA(脂肪酸アシル−補酵素A複合体)に変換される。アシルCoAはcarnitine O-palmitoyltransferase type 1(CPT1)によりカルニチンと結合し、ミトコンドリアの内膜を通過し、ミトコンドリア内でβ酸化されアセチルCoAとなる。また、炭素数が多い脂肪酸はペルオキシソーム内においてβ酸化系酵素のacyl-CoA oxidase(ACO)によりβ酸化され、熱産生される。CPT1およびACOはβ酸化の律速酵素であり、β酸化活性を調節している。さらに、骨格筋にはUCP3(uncoupling protein 3、脱共役蛋白質3)が多く発現しており、UCP3の活性化によっても熱産生が起こる。また、骨格筋は血中グルコースを取り込み、グリコーゲンへと変換するが、過剰なグルコースはトリグリセリドへと変換される。これは、筋肉収縮時の血液を経由しないエネルギーの直接的な供給源として重要であり、このトリグリセリドは分解酵素のhormone sensitive lipase(Lipe)により脂肪酸へと分解される。
ACO、CPT1、UCP3、及びLipeの発現は、核内受容体PPARαやPPARδにより調節されており、PPARα、PPARδ、ACO、CPT1、UCP3、及びLipeの発現量が増加することにより、骨格筋での熱産生が促進され、抗肥満作用や抗糖尿病作用を示すことが知られている(例えば、非特許文献3)。特にPPARδの発現増大により、抗肥満、インスリン抵抗性改善、抗疲労、抗高脂血症効果を示すことが知られている(非特許文献2〜4)。
【0004】
一方、骨格筋においてPPARδの発現が増加すれば、上述のとおり、骨格筋内で熱産生が増大し、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、及び抗疲労といった効果がもたらされることも自然に理解できる。実際、骨格筋のPPARδの発現増大が、持久力向上をもたらし、疲労も低下させたことが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
持久力向上などを目的にした食品や薬剤などとして、例えば、プロアントシアニジン及びリコペンを含有する持久力向上用食品組成物(特許文献1)、カテキン類を有効成分とする持久力向上、抗疲労剤(特許文献2)、緑茶抽出物を配合したpH2〜7の液であって、非重合体カテキン類、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンを含有する、脂質燃焼促進、エネルギー消費量増加、運動持久力増加用容器詰飲料(特許文献3)、カテキン類を有効成分とする、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤(特許文献4)、筋張力の増強に有効な果実由来のポリフェノールを有効成分とする筋張力増強剤又は体脂肪調整剤及びそれを含む飲食品、医薬品(特許文献5)が、それぞれ知られている。
【0006】
アカシアについては、アカシア蜂蜜やその樹皮から抽出されるタンニンが皮なめし剤や木材用接着剤として利用できることが知られている。最近はアカシア属の抽出物にCOX−2の選択的阻害効果(特許文献6)のあることやアカシア属の樹皮に活性酸素消去効果(特許文献7)やチロシナーゼ活性阻害効果による美白効果(特許文献8)のあることが開示されている。
しかしながら、アカシア属の樹皮由来のポリフェノールが骨格筋においてPPARα、PPARδ、ACO、CPT1、UCP3、及びLipeなどの脂肪燃焼・熱産生関連因子、特にPPARδの発現増加を引き起こすことは知られていなかった。
また、アカシア樹皮ポリフェノールは、フィセチニドール、ロビネチニドール、カテキン、ガロカテキンなどが重合したポリフェノールであるところ、これらの重合体に持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、抗疲労の効果があることについても知られていなかった。
【特許文献1】特開2003−334022号公報
【特許文献2】特開2005−089384号公報
【特許文献3】特開2006−158379号公報
【特許文献4】特開2008−031148号公報
【特許文献5】再表2005/074962号公報
【特許文献6】特表2004−532811号公報
【特許文献7】特開2004−352639号公報
【特許文献8】特開平10−025238号公報
【非特許文献1】田中十志也,「PPARδとメタボリックシンドローム」,日本薬理学雑誌,2006年, 第128巻, p.225-230
【非特許文献2】Yong-Xu Wang, et al., "Regulation of Muscle Fiber Type and Running Endurance by PPARδ", October 2004, PLoS Biology, Volume 2, issue 10, e294, p.1532-1539
【非特許文献3】Toshiya Tanaka, et al., "Activation of peroxisome proliferator-activated receptor δ induces fatty acid β-oxidation in skeletal muscle and attenuates metabolic syndrome.", Proc. Natl. Acad. Sci. USA., December 23, 2003, Vol. 100, No. 26, p.15924-15929
【非特許文献4】William R. Oliver, et al., "A selective peroxisome proliferator-activated receptor δ agonist promotes reverse cholesterol transport", April 24, 2001, PNAS, Vol. 98, No. 9, p.5306-5311
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、アカシア樹皮ポリフェノールの研究過程で知見を得たものであり、長期に服用しても、副作用などのおそれがない、PPARδ発現促進剤及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、アカシア属樹皮由来物が、骨格筋の脂肪燃焼・熱産生関連因子、特にPPARδの発現を促進することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、アカシア属樹皮由来物を含有するPPARδ発現促進剤に関する。
また、本発明は、持久力向上剤、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤、又は抗疲労剤である、上記PPARδ発現促進剤にも関する。
さらに、本発明は、PPARδ発現促進剤を製造するための、アカシア属樹皮由来物を使用する方法にも関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のPPARδ発現促進剤は、骨格筋においてPPARδを初めとする脂肪燃焼・熱産生関連因子の発現を促進させて、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、及び抗疲労効果を奏することができる。また、本発明のPPARδ発現促進剤は、簡単に摂取でき、かつ持久力を高めることができるので、持久力が必要となる場面で持久力を発揮する際に有用である。本発明によれば、安全で、長期に服用しても副作用などの心配が少ないPPARδ発現促進剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用できるアカシア属樹皮由来物とは、アカシア属(Acacia)に属する樹木(以下、「アカシア」又は「アカシア属」という)の樹皮を原料として得られるものであれば特に制限されず、例えば、アカシア属の樹皮の細片、粉末及びこれらの懸濁液、アカシア属の樹皮の抽出液、濃縮抽出液、及びエキス粉末などの抽出物ならびにこの抽出物を精製して得た精製物が挙げられる。優れたPPARδ発現促進効果が得られる上で、アカシア属の樹皮の抽出物、特にアカシア樹皮ポリフェノールが好ましい。
本発明では、これらアカシア属樹皮由来物を1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0011】
本発明で使用できるアカシアは、アカシア属に属する樹木であれば特に制限されないが、優れたPPARδ発現促進作用があるアカシア属樹皮由来物が得られる点で、マメ科アカシア属、好ましくはマメ科アカシア属Phyllodineae亜属の樹皮が使用される。なかでも学名:Acacia mearnsii De Wild.(一般名ブラックワトル)、学名:Acacia mangium Willd.(一般名アカシアマンギュウム)、学名:Acacia dealbata Link、学名:Acacia decurrens Willd.、及び学名:Acacia pycnantha Benth.からなる群より選ばれるアカシア属の樹皮が好ましく、特にAcacia mearnsii De Wild.及びAcacia mangium Willd.、とりわけAcacia mearnsii De Wild.が好ましい。
本発明では、これらアカシア属の樹皮を1種のみ使用してもよいし、2種以上併用してもよい。
【0012】
上記アカシア属の樹皮は、通常、樹木として伐採したのち、樹皮だけを剥がして採取し乾燥することで得られるが、後の加工工程、例えば粉末工程などを効率よく行えるため、さらに天日、又は熱風、電子線、若しくは加熱などの人工的作業で乾燥させた樹皮が好ましい。
アカシア属の樹皮は、外皮とやや繊維質の内皮とからなり、含水率20%程度以下に乾燥するとハンマーミルなどの粉砕機で容易に微粉化する。本発明では、アカシア属の樹皮として、このアカシア属の内皮と外皮の両方を一緒に用いてもよいし、いずれか一方のみを用いてもよい。
【0013】
前記アカシア属の樹皮の細片は、慣用の方法に従って、アカシア属の樹皮を適当な大きさに粉砕して得ることができる。
また、前記アカシア属の樹皮の粉末は、アカシア属の樹皮を慣用の方法で粉砕し粉末化して得ることができるが、特に、粒径が100μm以下、特に50〜70μmである粉末が好ましい。粉末の分画は、含水率20%以下に乾燥した樹皮を適当な大きさ、例えば粒径1.6mm以下程度に粉砕し、得られた粉末を振動ふるい機などで分級して所要の粉末を得ることができる。
【0014】
上記アカシア属の樹皮の抽出物は、アカシア属の樹皮を慣用の方法に従って抽出して得ることができる。優れたPPARδ発現促進作用を有するアカシア属の樹皮の抽出物を得るために、アカシア属の樹皮をアルコールや極性溶媒で抽出することが好ましい。
このようなアルコールとしてエタノールが、極性溶媒として水などが使用できるが、水、エタノール以外にも、食品あるいは薬剤の製造に許容される有機溶媒、例えば、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブタン、アセトン、ヘキサン、シクロヘキサン、プロピレングリコール、含水エタノール、含水プロピレングリコール、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸メチル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、及び1,1,2−トリクロロエテンを用いることができる。水、エタノール、及びこれらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。例えば、水とエチルアルコールなどのアルコールとの混合溶媒が使用できる。
さらに、同一又は異なる溶媒によって複数回抽出操作を行ってもよい。
優れたPPARδ発現促進作用を有する抽出物を得る上で、アカシア属の樹皮からの水又は熱水による抽出物をさらにエタノールなどの上記溶媒で抽出して得た抽出物を使用してもよい。
【0015】
抽出は、通常、アカシア属の樹皮の細片や粉末などに溶媒を加えて必要に応じて攪拌して行うが、温度や時間あるいは固液比については特に限定されない。抽出方法は、特に制限されず、例えば、加温抽出法、超臨界流体抽出法などが用いられ、また圧力を加えた条件のもと、常温又は加熱しながら抽出を行ってもよい。
溶媒に水を用いる場合には、熱水で抽出してもよい。得られた抽出液は、そのまま凍結乾燥あるいは噴霧乾燥してもよいし、あるいは減圧濃縮してから凍結乾燥又は噴霧乾燥してもよい。得られる抽出物は、抽出液、溶液、粉末、濃縮液、ペースト状物などの種々の形態とすることができ、広く必要に応じて使用できる。
さらに、これらの形態で得られた本発明のアカシア属の樹皮抽出物はそのままPPARδ発現促進剤として使用できるほか、さらに必要に応じて精製し、その精製物もPPARδ発現促進剤として使用することができる。
【0016】
本発明では、アカシア属樹皮由来物として、アカシア属の樹皮に含有されている成分も例示される。このような成分として、アカシア樹皮ポリフェノールなどが例示される。特に、アカシア樹皮ポリフェノールは優れたPPARδ発現促進作用を示すので好ましい成分である。
本発明のアカシア樹皮ポリフェノールとは、例えば、(−)−フィセチニドール、(−)−ロビネチニドール、(+)−カテキン、及び(+)−ガロカテキンなどのフラバン−3−オール;ならびにこれらフラバン−3−オール及び/又はフラバン−3,4−オールを基本骨格とするフラバノール類がC4−C8、C4−C6結合した重合体である縮合型タンニン、例えば、プロロビネチニジン及びプロフィセチニジンなどの2量体の縮合型タンニン、及び主にロビネチニドール骨格を伸張単位とする3量体以上の縮合型タンニンなどを意味する。ここで、このような縮合型タンニンとして分子量280〜5000、特に300〜3000、とりわけ500〜3000のものが好ましい。本発明で用いるアカシア樹皮ポリフェノールは、上記アカシア属の樹皮の粉末などを熱水抽出することにより得ることができる。
また、アカシア樹皮ポリフェノール製品としてはMIMOSA Central Co-operative Ltd.製の登録商標MIMOSA ME POWDER、MIMOSA MS POWDER、MIMOSA GS POWDER、MIMOSA FS POWDER、MIMOSA WS POWDER、MIMOSA RG POWDER、MIMOSA RN POWDER、MIMOSA DK POWDER、MIMOSA AL POWDER、MIMOSA CR POWDER、GOLDEN MIMOSA POWDERなどが例示される。
【0017】
本発明のPPARδ発現促進剤は、アカシア属樹皮由来物、例えば、アカシア属の樹皮、その抽出物、その精製物、又はアカシア樹皮ポリフェノールそのものであってもよいが、本発明の効果を損なわない限り、賦形剤、甘味料、酸味料、増粘剤、香料、色素、乳化剤及びその他に医薬品や食品で一般に利用されている素材を含んでいてもよい。
【0018】
本発明に係るPPARδ発現促進剤は、持久力向上剤、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤、又は抗疲労剤として使用することができる。この場合、本発明の持久力向上剤、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤、又は抗疲労剤は、アカシア属樹皮由来物、例えば、アカシア属の樹皮、その抽出物、その精製物、又はアカシア樹皮ポリフェノールそのものであってもよいが、他の持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、又は抗疲労の効果を有する物質、例えば、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンP、パントテン酸、カルニチン、コエンザイムQ10、オクタコサノール、又はα−リポ酸などを含んでもよい。
【0019】
本発明に係るPPARδ発現促進剤は、食品又は動物用飼料として、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、又は抗疲労などの目的で、健康食品、機能性食品、健康補助食品、特定保健用食品、美容食品、及び栄養補助食品(サプリメント)として使用することができる。これら食品及び動物用飼料は、例えば、お茶及びジュースなどの飲料水;アイスクリーム、ゼリー、あめ、チョコレート、及びチューインガムなどの形態であってもよい。また、液剤、粉剤、粒剤、カプセル剤、又は錠剤の形態であってもよい。ここで、動物用飼料の動物には、ペット動物、畜産動物、又は動物園等で飼育されている動物を含む、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、又は抗疲労を必要とする全ての動物を含む。
【0020】
また、本発明に係るPPARδ発現促進剤は、医薬又は医薬部外品として、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、又は抗疲労などに使用することができる。これら医薬品は、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、硬若しくは軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳濁剤、又は懸濁剤の形態で経口的に投与する。
【0021】
本発明に係るPPARδ発現促進剤の摂取量は、特に制限されないが、剤型、ならびに使用者若しくは患者などの摂取者又は摂取動物の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択することができる。例えば、有効成分量として1日あたり摂取者又は摂取動物の体重1kgにつきアカシア樹皮ポリフェノール量で0.001〜1g、好ましくは0.001〜0.5g、より好ましくは0.003〜0.1gを経口摂取することが、優れたPPARδ発現促進作用が得られるので、望ましい。
摂取期間は、使用者又は患者の年齢、症状に応じて任意に定めることができる。
【0022】
本発明において持久力向上とは、持久力を必要とする運動や筋肉動作を繰り返し行う必要のある労働などを始めとする広義の運動に対して持久力を向上させる作用のこといい、全身持久力(より全身に負荷が作用している場合;ランニング、水泳など)及び局所持久力(身体の特定の部分に対してより負荷が作用している場合;ボクシングでガードを維持する腕の運動など)の何れに対しても持久力を向上させる作用である。運動は、エネルギー供給の観点から、有酸素的なエネルギー供給に基づく、基本的にゆっくりとした動きを持続させる長距離走、水泳、及びエアロビクスなどの有酸素運動、ならびに無酸素的なエネルギー供給に基づく、ボクシングでのパンチの連打などの激しい動きを持続させる運動などが例示される。本発明のPPARδ発現促進剤は、PPARδ発現を促進することで、骨格筋での運動時のエネルギー源としての脂肪の利用を促進させることから、特に、長距離走、水泳、及びエアロビクスなどの有酸素運動に対して持久力を向上させる。
本発明において筋力とは、骨格筋が運動神経からの信号を受けることで、筋繊維が収縮して、発揮される力のことであり、一般に、動員される筋繊維が多いほど筋力は大きくなる。
本発明において筋疲労とは、持続的な筋収縮により筋出力(張力)と弛緩速度が低下した状態と定義され、すなわち筋疲労抑制とは、筋疲労による張力低下を抑制することをいう。
本発明において疲労は生理的疲労と病的疲労に区別される。生理的疲労とは、基礎疾患のないもので、自然の状態で回復が可能な範囲で、活動量が休養のレベルを上回る場合に現れるものである。病的疲労とは、身体疾患やうつ病、睡眠障害などの精神疾患や慢性疲労症候群と持続的な疲労を特徴とするものである。本発明のPPARδ発現促進剤は、PPARδ発現を促進することで、骨格筋での運動時のエネルギー源としての脂肪の利用を促進させることから、特に生理的疲労の回復に効果がある。
本発明において運動効果向上とは、運動による筋力の向上を増強し、運動の効果をより有効に発揮せしめることをいう。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
以下、製造例、試験例、配合例を挙げて本発明を更に詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に、ここでは本発明のアカシア属の樹皮を外皮と内皮とに分けないで実施例を示しているが、外皮を内皮から分離してそれぞれ使用することもできる。
以下の製造例、試験例等において、本発明の各アカシアをそれぞれの学名の後の括弧内に示した番号で示す。例えば、学名:Acacia mearnsii De Wild.のアカシアをアカシアNo.1と記す。
学名:Acacia mearnsii De Wild.(No.1)、学名:Acacia mangium Willd.(No.2)、学名:Acacia dealbata Link(No.3)、学名:Acacia decurrens Willd.(No.4)、学名:Acacia pycnantha Benth.(No.5)。
また、%は特に示さない限り重量%を意味する。
【0025】
アカシア樹皮粉末の製造例1
アカシアNo.1の樹皮を含水率20%以下まで乾燥し、その乾燥樹皮をハンマーミルで1.6mm以下(10メッシュ篩(タイラー:Tyler)通過)の粉末に粉砕した後、更に振動ふるい機で分級し、63μm以下(250メッシュ篩下)の微粉末を得た。
同様にして、残り4種のアカシアNo.2〜5の樹皮を粉砕してそれぞれ63μm以下の微粉末を得た。種類によって250メッシュ篩通過の微粉末の収率に多少の差はあるが、目的とする微粉末が得られた。
【0026】
アカシア樹皮抽出物の製造例2
本発明の各アカシアNo.1〜5の樹皮をそれぞれ含水率20%以下まで乾燥し、その乾燥樹皮をハンマーミルで1.6mm以下の粉末に粉砕した後、この乾燥粉砕樹皮100gに対して5倍量の熱水を加え、沸騰してから15分間抽出し、10〜20μmのフィルターを用いて濾過した。得られた濾液をスプレードライヤで噴霧乾燥し、樹皮抽出物各40gを得た。
以下、各樹皮抽出物はアカシアNo.1〜5熱水抽出物と記す。
【0027】
アカシア樹皮抽出物の製造例3
本発明のアカシアの樹皮を含水率20%以下まで乾燥し、その乾燥樹皮をハンマーミルで1.6mm以下の粉末に粉砕した後、この乾燥粉砕樹皮100gに対して5倍量のエタノールを加え、沸騰させて還流させながら15分間抽出し、10〜20μmのフィルターを用いて濾過した。得られた濾液からエタノールを蒸発させた後、濃縮液をクローズドスプレードライヤで噴霧乾燥し、樹皮抽出物(以下、アカシアNo.1エタノール抽出物の如く記す)40gを得た。
同様にして、アカシアNo.1〜5のエタノール抽出物を得た。
【0028】
アカシア樹皮抽出物の製造例4
製造例2で得られたアカシア熱水抽出物10gに3倍量のエタノールを加え、沸騰させて還流させながら15分間抽出し、10〜20μmのフィルターを用いて濾過した。得られた濾液からエタノールを蒸発させて、それに水を加えてから凍結乾燥させて9gの抽出物(以下、アカシアNo.1熱水抽出物エタノール画分の如く記す)を得た。
同様にして、アカシアNo.1〜5の熱水抽出物エタノール画分を得た。
【0029】
試験例
アカシア樹皮ポリフェノールの骨格筋における脂肪分解・熱産生に対する作用を調べた。
1.試験方法
(1)投与
KK−Aマウス(雄性、5週齢)を購入し、1週間予備飼育を行い、体重を測定後、1群10匹として表1に示すように群分けした。
試験食は、普通食(市販の普通のマウス用粉末飼料)又は高脂肪食(Research DIETS, INC. 製品番号D12492;ラードを35重量%含み、カロリー数は飼料重量あたり60Kcal%である)に、上記製造例2で得られたアカシアNo.1熱水抽出物を2.5又は5.0重量%含有するように配合させて調製した。
群分けを行った日を投与1日目とし、投与1日目より連日、2群、3群、5群、及び6群のマウスに、表2に従い試験食を自由摂取させて49日間飼育した。投与50日目にジエチルエーテル麻酔下で骨格筋を摘出し、mRNAを抽出後、リアルタイムRT-PCRによりPPARα及びδ、ACO、CPT1、UCP3、ならびにLipeの発現量を測定した。リアルタイムRT-PCRについては1群6匹を無作為に選んで行った。
【0030】
【表1】

【0031】
(2)リアルタイムRT-PCR
リアルタイムRT-PCRは、遺伝子発現を定量的に比較・解析することができる手法である。まず、摘出した臓器からRNAを抽出し、逆転写を行い、cDNAを合成する。変性・アニーリング・伸長鎖反応を繰り返し、cDNAを増幅し、増幅過程の蛍光強度をモニタリングする。一定の蛍光強度が得られるまでのサイクル数を各々の遺伝子発現強度とし、目的遺伝子とハウスキーピング遺伝子の発現強度の比を算出することにより、解析を行う。本試験例では、ハウスキーピング遺伝子として18S rRNAを用い、PPARα及びδ、ACO、CPT1、UCP3、ならびにLipeのmRNA発現量を解析した。
【0032】
2.試験結果
(1)骨格筋中のPPARα mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのPPARα mRNA発現量を図1に示す。普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のPPARα mRNA発現量は、普通食群(1群)に比べ有意に増加した。高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)のPPARα mRNA発現量は、高脂肪食群(4群)に比べ有意に増加した。
【0033】
(2)骨格筋中のPPARδ mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのPPARδ mRNA発現量を図2に示す。普通食+ポリフェノール2.5%投与群(2群)、普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のPPARδ mRNA発現量は、普通食群(1群)に比べ投与量依存的に有意に増加した。高脂肪食+ポリフェノール2.5%投与群(5群)、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)のPPARδ mRNA発現量は、高脂肪食群(4群)に比べ有意に増加した。
【0034】
(3)骨格筋中のACO mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのACO mRNA発現量を図3に示す。
普通食+ポリフェノール2.5%投与群(2群)、普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のACO mRNA発現量は、普通食群(1群)との間に有意な差は認められなかった。高脂肪食+ポリフェノール2.5%投与群(5群)のACO mRNA発現量は、高脂肪食群(4群)に比べ有意に増加し、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)では高脂肪食群(4群)に比べ増加傾向を示した。
【0035】
(4)骨格筋中のCPT1 mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのCPT1 mRNA発現量を図4に示す。普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のCPT1 mRNA発現量は、普通食群(1群)に比べ有意に増加した。高脂肪食+ポリフェノール2.5%投与群(5群)、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)のCPT1 mRNA発現量は、高脂肪食群(4群)に比べ増加し、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)では有意な差が認められた。
【0036】
(5)骨格筋中のUCP3 mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのUCP3 mRNA発現量を図5に示す。普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のUCP3 mRNA発現量は、普通食群(1群)に比べ有意に増加した。高脂肪食+ポリフェノール2.5%投与群(5群)、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)のUCP3 mRNA発現量は、投与量依存的に有意に増加した。
【0037】
(6)骨格筋中のLipe mRNA発現量
骨格筋におけるリアルタイムRT-PCRでのLipe mRNA発現量を図6に示す。普通食+ポリフェノール2.5%投与群(2群)、普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)のLipe mRNA発現量は、投与量依存的に増加し、普通食+ポリフェノール5.0%投与群(3群)では、普通食群(1群)に比べ有意な差が認められた。高脂肪食+ポリフェノール2.5%投与群(5群)、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)のLipe mRNA発現量は、投与量依存的に増加し、高脂肪食+ポリフェノール5.0%投与群(6群)では、高脂肪食群(4群)に比べ有意な差が認められた。
【0038】
前記実施例の試験から、アカシアNo.1熱水抽出物の投与により、骨格筋において脂肪分解・脂肪燃焼に重要な役割を担う因子(PPARα、PPARδ、ACO、CPT1、UCP3、Lipe)のmRNA発現量が有意に増加することが認められた。
さらに、PPARδの発現増進が持久力などを向上させることも報告されていることなどから(非特許文献2)、骨格筋におけるPPARδ発現量を増加させるアカシア樹皮ポリフェノールは持久力を高めたり、抗疲労に働いたりすることも自然に理解できる。
【0039】
配合例1 内服剤の調製
製造例4のアカシア樹皮熱水抽出物エタノール画分を用い、下記に示す組成にて内服剤を調製した。
製造例4の抽出物画分 1.0(重量%)
乳糖 30.0
コーンスターチ 60.0
結晶セルロース 8.0
ポリビニールピロリドン 1.0
計 100.0
【0040】
配合例2 ペットフードの調製
製造例2のアカシア樹皮熱水抽出物を用い、下記に示す組成にてペットフードを調製した。
製造例2の抽出物 1.0(重量%)
オートミール 88.0
でんぷん 5.0
食塩 2.5
全卵 3.0
調味料 0.5
計 100.0
【0041】
配合例3 錠剤(菓子)の調製
製造例4のアカシア樹皮熱水抽出物エタノール画分を用い、下記に示す組成にて錠剤(菓子)を調製した。
製造例4の抽出物画分 1.0(重量%)
クエン酸 1.0
脱脂粉乳 15.0
ショ糖エステル 1.0
フレーバー 0.5
粉糖 20.0
乳糖 61.5
計 100.0
【0042】
配合例4 錠剤の調製
製造例2のアカシア樹皮No.1熱水抽出物を用い、下記に示す組成にて錠剤を調製した。
製造例2のアカシア樹皮No.1熱水抽出物 125(mg)
ショ糖エステル 9
乳糖 166
計 300
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のPPARδ発現促進剤は、持久力向上、筋力向上、筋疲労抑制、運動効果向上、及び抗疲労に使用するための医薬品又は医薬部外品、あるいは健康食品、健康補助食品、特定保健用食品又は栄養補助食品などの食品あるいは動物用飼料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】骨格筋におけるPPARα mRNA発現量(リアルタイムRT-PCR:n=6、平均値±標準偏差、*;p<0.05 vs 普通食、#;p<0.05 vs 高脂肪食)を示す図である。図中の「% of 普通食」は普通食群の値を100としたときの各群の割合を示す(他の図でも同様である)。
【図2】骨格筋におけるPPARδ mRNA発現量(n=6、平均値±標準偏差、**;p<0.01 vs 普通食、***;p<0.001 vs 普通食、###;p<0.001 vs 高脂肪食)を示す図である。
【図3】骨格筋におけるACO mRNA発現量(n=6、平均値±標準偏差、##;p<0.01 vs 高脂肪食)を示す図である。
【図4】骨格筋におけるCPT1 mRNA発現量(n=6、平均値±標準偏差、**;p<0.01 vs 普通食、##;p<0.01 vs 高脂肪食)を示す図である。
【図5】骨格筋におけるUCP3 mRNA発現量(n=6、平均値±標準偏差、***;p<0.001 vs 普通食、###;p<0.001 vs 高脂肪食)を示す図である。
【図6】骨格筋におけるLipe mRNA発現量(n=6、平均値±標準偏差、*;p<0.05 vs 普通食、#;p<0.05 vs 高脂肪食)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アカシア属樹皮由来物を含有することを特徴とする、ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体δ(PPARδ)発現促進剤。
【請求項2】
アカシア属樹皮由来物がアカシア属の樹皮の抽出物である、請求項1記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項3】
アカシア属樹皮由来物がアカシア樹皮ポリフェノールである、請求項1記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項4】
持久力向上剤、筋力向上剤、筋疲労抑制剤、運動効果向上剤、又は抗疲労剤である、請求項1〜3のいずれか1項記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項5】
食品である、請求項1〜4のいずれか1項記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項6】
動物用飼料である、請求項1〜4のいずれか1項記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項7】
医薬品である、請求項1〜4のいずれか1項記載のPPARδ発現促進剤。
【請求項8】
医薬部外品である、請求項1〜4のいずれか1項記載のPPARδ発現促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−105923(P2010−105923A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276956(P2008−276956)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(507103020)株式会社mimozax (3)
【Fターム(参考)】