説明

アキシャル型温度ヒューズ

【課題】筒状ケースタイプのアキシャル型温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメント2に鉛フリー合金を使用しても、可溶合金エレメント2とリード線1との優れた機械的強度を確保できるようにする。
【解決手段】可溶合金エレメント2の各端部が各リード線1,1の先端々面の凹部10,10に収容されてその間が接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアキシャル型の筒状ケース温度ヒューズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
合金型温度ヒューズは、低融点可溶合金片をヒューズエレメントとしており、被保護機器に熱的に接触して取付けられ、機器の過電流に基づく異常発熱で低融点可溶合金片が溶融され、溶融合金の表面張力に基づく球状化で分断されて機器への給電が遮断される。従って、機器の火災等の事故の発生を未然に防止できる。
この合金型温度ヒューズとして、一対のリード線の先端間に可溶合金エレメントを接合し、その可溶合金エレメントにフラックスを塗布し、このフラックス塗布可溶合金エレメント上に筒状ケースを挿通し、該ケースの各端開口と各リード線との間を封止したアキシャル型の筒状ケース温度ヒューズが多用されている。
その作動機構は、被保護機器の異常発熱で可溶合金エレメントが溶融され、その溶融合金が溶融フラックスの活性化によるバックアップのもとで表面張力によりリード線に濡れ拡がって球状化分断され、通電が遮断されて被保護機器の通電発熱が停止され、被保護機器の冷却に伴い分断合金が凝固されることにあり、この分断により機器への給電が遮断され機器の燃焼等を未然に防止している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
旧来、合金型温度ヒューズのヒューズエレメントには、Pbを主成分とする合金が使用されている。しかしながら、鉛部品乃至鉛合金部品の廃棄による環境汚染が地球規模で問題視され、近来、はんだを含む多くの分野で鉛フリー化が企画され、温度ヒューズの分野においても、可溶合金エレメントの鉛フリー化が進められている。
しかしながら、はんだ付けには、リフロー法やフロー法が使用され、要求されるはんだ融点が240℃〜270℃といった高温であるのに対し、温度ヒューズの可溶合金エレメントに要求される融点は55℃〜230℃である。
従って、温度ヒューズの可溶合金エレメントの組成には、Bi及びInを含み残部がSnであるBi−In−Snの三元合金(例えば特許文献1、2)、Biを含み残部がSnであるBi−Snの二元合金(例えば特許文献3)、Inを含み残部がSnであるIn−Snの二元合金(例えば特許文献4)、これらに少量のAg、Cu、Au等を添加してその温度特性を充分に保持させつつ導電性や機械的強度を向上させるもの等が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−266723号公報
【特許文献2】特開2003−34831号公報
【特許文献3】特開2002−25405号公報
【特許文献2】特開2002−25402号公報
【0005】
しかしながら、これらの合金では銅との接合強度が低く、これらの合金を可溶合金エレメントとするヒューズでは、可溶合金エレメントとリード線との突合せ接合界面が取扱中の振動や使用中ヒートサイクルに基づく熱応力等で剥離し易い。
【0006】
本発明の目的は、筒状ケースタイプのアキシャル型温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントに鉛フリー合金を使用しても、可溶合金エレメントとリード線との優れた機械的強度を確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係るアキシャル型温度ヒューズは、一対のリード線の先端間に可溶合金エレメントを接合し、その可溶合金エレメントにフラックスを塗布し、このフラックス塗布可溶合金エレメント上に筒状ケースを挿通し、該ケースの各端開口と各リード線との間を封止した温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントの各端部が各リード線の先端々面の凹部に収容されてその間が接合されていることを特徴とする。
請求項2に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1のアキシャル型温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントの先端がリード線の先端々面の凹部底面に達していることを特徴とする。
請求項3に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1のアキシャル型温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントの先端がリード線先端々面の凹部底面から離隔されていることを特徴とする。
請求項4に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1または2のアキシャル型温度ヒューズにおいて、リード線の外径が筒状ケース内径にほぼ等しくされていることを特徴とする。
請求項5に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1〜3何れかのアキシャル型温度ヒューズにおいて、リード線先端に径大部が設けられ、該径大部の先端々面に凹部が設けられていることを特徴とする。
請求項6に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1〜3何れかのアキシャル型温度ヒューズにおいて、リード線先端から所定の距離を隔てたリード線外面箇所に径大部が設けられ、リード線の先端々面に凹部が設けられ、筒状ケース内径が径大部外径にほぼ等しくされていることを特徴とする。
請求項7に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1〜6何れかのアキシャル型温度ヒューズにおいて、凹部内面とリード線先端部との接合が圧接または融着乃至は溶接されていることを特徴とする。
請求項8に係るアキシャル型温度ヒューズは、請求項1〜7何れかのアキシャル型温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントが鉛フリー合金であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
リード線の先端々面の凹部に可溶合金エレメントの端部が収容さられているから、図6に示すように、可溶合金エレメントとリード線との接合部に加わる剪断力Sに対し、接合界面に作用する応力が垂直応力fとなり、接合界面をすべらせるような剪断応力が発生しない。
また、リード線と可溶合金エレメントとの接合面積が、従来の突合せ接合に較べて広くできる。
従って、リード線と可溶合金エレメントとの接合強度を増強でき、その接合部の機械的安定性を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
図1の(イ)は本発明に係るアキシャル型温度ヒューズの一実施例を示す縦断面図、図1の(ロ)は図1の(イ)におけるロ−ロ断面図である。
図1において、1,1はリード線であり、通常銅リード線が使用され、先端々面に凹部10が形成されている。2は可溶合金エレメントであり、両端部がリード線先端々面の凹部10に受容され、両者の接触界面が圧接または溶着若しくは溶接されている。溶着若しくは溶接とは、接触界面が合金層の形成により結合されていることをいい、可溶合金エレメント端部をリード線の凹部に挿入したのち、その挿入部を含むリード線部分に加熱鏝を当接するか超音波振動を加え接触界面の可溶合金のみを溶融させ、銅リード線側は加熱するだけである。3は可溶合金エレメント上に塗布したフラックスである。
4は筒状ケース、例えばセラミックス筒体であり、フラックス塗布可溶合金エレメント上に挿通され、筒状ケース4の各端開口と各リード線1との間が封止材5、例えばエポキシ樹脂(シリカ等のフィラー入り)で封止されている。
【0010】
図2に示すように、筒状ケース4の内径とリード線1の外径とを実質的に等しくすれば、筒状ケース4と可溶合金エレメント2との同心配置の確保に有利である。
【0011】
前記リード線の先端々面の凹部は、型成形により形成でき、例えば、図3に示すように、リード線先端部を枠型(2つ割り)51で把持し、先端にピン部100を突設した中子52を枠型51内に圧入することにより形成できる。
【0012】
前記の実施例では、リード線の先端々面の凹部底面と可溶合金エレメント先端との間にギャップを置き、可溶合金エレメントの多少の長さ誤差を吸収可能としている。
【0013】
リード線先端々面の凹部内径を可溶合金エレメントの外径よりも多少大きくすることもできる。この場合、リード線の先端々面の凹部とリード線先端部側面との間に隙間を残存させたままとすると、リード線の先端々面の凹部とリード線先端部側面との間接合面積が隙間なしのときに較べ小さくなるので、凹部底面と可溶合金エレメント先端との間を接合して接合面積を増すことが望ましい。前記隙間には、フラックスが充填される。
【0014】
前記したリード線の先端々面の凹部形成においては、図4に示すように、リード線1の先端部を膨出して径大化し、この膨出部11の先端々面に凹部10を形成することもできる。この場合、図4に示すように、筒状ケース4の内径を膨出部11の外径に実質的に等しくすることが好ましい。
【0015】
図5に示すように、リード線先端から所定の距離を隔てた箇所を膨出し、膨出部11よりも手前の範囲内でリード線先端々面に凹部10を形成し、筒状ケース4の内径を膨出部11の外径に実質的に等しくすることもできる。
【0016】
前記可溶合金エレメントの外径は通常300μm〜5000μmとされ、リード線の外径は通常300μm〜6000μmとされる。
可溶合金エレメントには鉛フリーで融点が55℃〜230℃のものから、温度ヒューズの作動温度に応じて選択される。
【0017】
例えば、[A](1)43%<Sn<70%,0.5%<In<10%,残Bi、(2)25%<Sn<40%,50%<In<55%,残Bi、(3)25%<Sn<44%,55%<In<74%,1%<Bi<20%、(4)46%<Sn<70%,18%≦In<48%,1%<Bi<12%、(5)5%<Sn<28%,15%<In<37%,残Bi(但し、Bi57.5%,In25.2%,Sn17.3%とBi54%,In29.7%,Sn16.3%のそれぞれを基準にBi±2%,In及びSn±1%の範囲を除く)、(6)10%<Sn<18%,37%<In<43%,残Bi、(7)25%<Sn<60%,20%<In<50%,12%<Bi<33%、(8)(1)〜(7)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(9)33%<Sn<43%,0.5%<In<10%,残Bi、(10)47%<Sn<49%,51%<In<53%の100重量部にBiを3〜5重量部を添加、(11)40%<Sn<46%,7%<Bi<12%,残In、(12)0.3%<Sn<1.5%,51%<In<54%,残Bi、(13)2.5%<Sn<10%,25%<Bi<35%,残In、(14)(9)〜(13)の何れか100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(15)10%<Sn<25%,48%<In<60%,残Biを100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Sn−Bi系合金の組成
[B](16)30%<Sn<70%,0.3%≦Sb≦20%,残Bi、(17)(16)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn−Sb系合金の組成
[C](18)52%<In<85%,残Sn、(19)(18)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Sn系合金の組成
[D](20)45%<Bi<55%,残In、(21)(20)の組成の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Sb、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のIn−Bi系合金の組成
[E](22)50%<Bi<56%,残Sn、(23)(22)の100重量部にAg、Au、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、等のBi−Sn系合金の組成
[F](24)Inの100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(25)90%≦In≦99.9%,0.1%≦Ag≦10%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加、(26)95%<In<99.9%,0.1%≦Sb≦5%の100重量部にAu、Bi、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加等のIn系合金の組成(27)2%<Zn<15%,70%≦Sn≦95%,残Bi及びその合金100重量部にAu、In、Cu、Ni、Pd、Pt、Ga、Ge、Pの1種または2種以上を合計0.01〜7重量部添加した合金の組成
等から温度ヒューズの動作温度に適合した融点の組成を選定することができる。
【0018】
これらの合金組成では、従来の鉛含有組成の可溶合金エレメントの鉛に代え、In、Biが使用されており、銅リード線との接合強度が低いが、本発明に係るアキシャル型温度ヒューズにおいては、リード線先端々面の凹部への可溶合金エレメント先端部の収容接合で可溶合金エレメントとリード線との接合を行っているので、可溶合金エレメントとリード線とを突合せ接合している従来例に較べ接合面積を広くでき、図に示すように、剪断力S若しくは曲げモーメントが作用しても接合界面での剪断すべり応力の発生を回避でき接合界面の剪断剥離を排除できるので、可溶合金エレメントとリード線との接合箇所の機械的安定性をよく保障でき、機械的に安定なアキシャル型温度ヒューズを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1の(イ)は本発明に係るアキシャル型温度ヒューズの一実施例を示す縦断面図、図1の(ロ)は図1の(イ)におけるロ−ロ断面図である。
【図2】本発明の別実施例を示す図面である。
【図3】本発明で使用するリード線先端端面の凹部形成治具を示す図面である。
【図4】本発明の上記とは別の実施例を示す図面である。
【図5】本発明の上記とは別の実施例の要部を示す図面である。
【図6】本発明に係るアキシャル型温度ヒューズにおける、可溶合金エレメントとリード線との接合部での剪断外力/応力との状態を示す図面である。
【符号の説明】
【0020】
1 リード線
10 凹部
2 可溶合金エレメント
3 フラックス
4 筒状ケース
5 封止材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のリード線の先端間に可溶合金エレメントを接合し、その可溶合金エレメントにフラックスを塗布し、このフラックス塗布可溶合金エレメント上に筒状ケースを挿通し、該ケースの各端開口と各リード線との間を封止した温度ヒューズにおいて、可溶合金エレメントの各端部が各リード線の先端々面の凹部に収容されてその間が接合されていることを特徴とするアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項2】
可溶合金エレメントの先端がリード線の先端々面の凹部底面に達していることを特徴とする請求項1記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項3】
可溶合金エレメントの先端がリード線先端々面の凹部底面から離隔されていることを特徴とする請求項1記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項4】
リード線の外径が筒状ケース内径にほぼ等しくされていることを特徴とする請求項1または2記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項5】
リード線先端に径大部が設けられ、該径大部の先端々面に凹部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3何れか記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項6】
リード線先端から所定の距離を隔てたリード線外面箇所に径大部が設けられ、リード線の先端々面に凹部が設けられ、筒状ケース内径が径大部外径にほぼ等しくされていることを特徴とする請求項1〜3何れか記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項7】
凹部内面とリード線先端部との接合が圧接または融着乃至は溶接されていることを特徴とする請求項1〜6何れか記載のアキシャル型温度ヒューズ。
【請求項8】
可溶合金エレメントが鉛フリー合金であることを特徴とする請求項1〜7何れか記載のアキシャル型温度ヒューズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−93868(P2009−93868A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261877(P2007−261877)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000225337)内橋エステック株式会社 (115)
【Fターム(参考)】