説明

アキラルジオールによって橋架けされた光学活性ビスホスファイトから製造された非対称触媒

本発明は、プロキラル又はキラル化合物を、光学活性金属−配位子錯体触媒の存在下で接触させて、光学活性アルデヒド又は光学活性アルデヒドから誘導された生成物を製造する、非対称ヒドロホルミル化(hf)方法に関する。本発明は、このような方法に於いて使用する新規な配位子及び触媒を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロキラル又はキラル化合物を、一酸化炭素及び水素と、光学活性金属−配位子錯体触媒の存在下で反応させて、光学活性アルデヒド又は光学活性アルデヒドから誘導された生成物を製造する、非対称ヒドロホルミル化(hf)方法に関する。本発明は、このような方法に於いて使用するための新規な配位子及び触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
非対称合成は、しばしば唯一の光学活性異性体(エナンチオマー)が治療的に活性であるので、例えば医薬工業に於いて重要なものである。このような医薬製品の例は、非ステロイド性抗炎症薬ナプロキセンである。(S)−エナンチオマーは、強力な坑関節炎薬であり、他方、(R)−エナンチオマーは肝臓毒素である。従って、その鏡像よりも多くの1種の特定のエナンチオマーを選択的に製造することがしばしば望ましい。
【0003】
光学的に不活性のラセミ混合物、即ち、等量の、それらの反対の光学活性がお互いに打ち消し合うそれぞれの鏡像エナンチオマーを製造する傾向のために、所望のエナンチオマーを確実に製造するために、特別の予防措置を取らなくてはならないことが知られている。このようなラセミ混合物から所望のエナンチオマー又は鏡像立体異性体を得るために、ラセミ混合物を、その光学活性成分に分離しなくてはならない。この光学分割として知られている分離は、実際の物理的区分け、ラセミ混合物の直接的結晶化又は当該技術分野で公知の他の方法によって実施することができる。このような光学分割手順は、しばしば、手間を要し、高価でありそして所望のエナンチオマーに対して破壊的である。これらの困難性のために、増加した注目は、エナンチオマーの1種が著しく大量で得られる、非対称合成に置かれてきた。
【0004】
オレフィンの非対称ヒドロホルミル化は、この反応はまた、キラル中心を確定する一炭素ホモログ化であるので、光学活性生成物の合成のために特に価値がある。効率的な非対称ヒドロホルミル化は、望ましくは、位置選択率(分枝鎖/直鎖比)及びエナンチオ選択率の両方を制御するための能力を与える。非対称hfに於いて製造される光学活性アルデヒドは、更に、次の反応工程により又は他の試薬とのインシトゥ(その場での(in situ))反応により、他の官能基に変えることができる。
【0005】
種々の非対称ヒドロホルミル化触媒は、当該技術分野で示されている。非特許文献1参照。例えば、非特許文献2は、キラル配位子、1−(tert−ブトキシカルボニル)−(2S,4S)−2−[(ジフェニルホスフィノ)メチル]−4−(ジベンゾホスホリル)ピロリジン、1−(tert−ブトキシカルボニル)−(2S,4S)−2−[(ジベンゾホスホリル)メチル]−4−(ジフェニルホスフィノ)ピロリジン及び1−(tert−ブトキシカルボニル)−(2S,4S)−4−(ジベンゾホスホリル)−2−[(ジベンゾホスホリル)メチル]ピロリジンを含有する、3種の白金(II)の錯体の合成に関する。スチレンの非対称ヒドロホルミル化が、これらの3種の配位子の白金錯体を使用して、触媒として塩化第一スズの存在下で試験された。種々の分枝鎖/直鎖比(0.5〜3.2)及びエナンチオマー過剰値(12〜77%)が得られた。この反応をオルトギ酸トリエチルの存在下で実施したとき、全ての4種の触媒は、ほぼ完全なエナンチオ選択率(ee>96%)及び同様の分枝鎖/直鎖比を与えた。しかしながら、白金ヒドロホルミル化触媒は、それらの低い触媒活性及び高いCO−H2、即ち合成ガス圧力の必要性のために、限定された有用性のものである。
【0006】
ホスファイト配位子は、非対称ヒドロホルミル化方法に於いて使用するために特に有効である。例えば、非特許文献3には、クロロジオキサホスホラン中間体によるキレート化ビス(ジオキサホスホラン)配位子の合成及びビス(ホスファイト)ロジウムカチオンの触媒的能力の実例が開示されている。ジヒドロベンゾインから誘導された錯体が、オレフィンのヒドロホルミル化に於ける前駆体として試験されたが、これはアルデヒド生成物のラセミ混合物を与えた。
【0007】
非特許文献4には、ロジウム触媒作用hfに於いて使用するための、混合ホスフィン−ホスファイト配位子、ビナホス(BINAPHOS)の使用が報告された。スチレンヒドロホルミル化について、96%のように高いエナンチオ選択率が観察されたが、位置選択率(分枝鎖/直鎖比)は比較的低かった。非特許文献5には、シアン化アリルのヒドロホルミル化のためのビナホスの適用が報告されている。この方法は、中度に選択的であるに過ぎず、66%ee及び72:28の分枝鎖/直鎖比のキラルアルデヒド生成物を与えた。混合ホスフィン−ホスファイト配位子は、合成することが、それらの対称的同等物よりも一層困難である。
【0008】
ユニオン・カーバイド社(Union Carbide)に付与された特許文献1には、非対称hfに於いて使用するための非常に有効なキラルビスホスファイト(bisphosphite)配位子が開示されている。2個のリン原子を橋架けしている、光学活性ジオールから製造された配位子は、種々のオレフィン基体のために特に有用であった。好ましい配位子、例えばキラファイト(Chiraphite)として知られている原型配位子は、光学活性(2R,4R)−ペンタンジオール及び置換されたビフェノールから製造された。最高の位置選択率及びエナンチオ選択率(85%ee超)が、ビニルアレーン基体(vinyl arene substrate)で観察された。他の基体は、より低い選択率でヒドロホルミル化された。
【0009】
【化1】

【0010】
特許文献1に記載されているビスホスファイト配位子は、全て、橋架け位置に光学活性ジオラート(diolate)を含有している。このビフェニル基は、ビアリール結合の周りの回転により相互転換できる非平面キラル立体配座を採択している。van Leeuwen(非特許文献6)は、追加の光学活性成分として立体配置的に安定なビナフトールを使用することにより、橋架け光学活性ジオールの立体配置とビアリール単位の立体配置との調和の影響を研究した。得られる光学活性ビスホスファイトジアステレオマーは、触媒活性、位置選択率及びエナンチオ選択率に於いて顕著な差異を示した。この著者は、「2,4−ペンタンジオール配位子主鎖の絶対立体配置とキラルビスナフトール置換基の絶対立体配置との両方は、ロジウム錯体の安定性及び触媒(性能)を決定する」と結論づけた。同様の結果が、非特許文献7によって、光学活性橋架けジオール及び光学活性ビスナフトールから製造されたビスホスファイト配位子を含有する白金−スズ触媒を使用して報告された。
【0011】
更に有効な非対称ヒドロホルミル化方法についての研究は、当該技術分野に於いて持続しているものである。光学分割の必要無しに光学活性生成物の良好な収率を有する非対称hf方法を提供できれば望ましいであろう。高い立体選択率、高い位置選択率及び良好な反応速度の特性を有する非対称hf方法を提供できれば、更に望ましいであろう。追加の望ましい特徴は、種々の異なったオレフィン基体、特に、従来、反応性、生成物収率、位置選択率及び立体選択率の項目に於いて合成的に有用な結果を与えると報告されていなかった基体で使用するための、多数の構造的に種々の触媒を容易に合成するための能力である。このような基体には、限定されることなく、酢酸ビニル及びシアン化アリルが含まれる。更なる追加の望ましい特徴は、触媒を製造するために使用される合成経路が、工業的応用を容易に実施するために、コスト効率的方法で容易にスケールアップできることである。
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,491,266号明細書
【非特許文献1】van Leeuwen,P.W.N.M.及びClaver,C.著、「ロジウム触媒作用Hf(Rhodium Catalyzed Hf)」、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht、2000年刊
【非特許文献2】Stille,John K.等、Organometallics、1991年、第10巻、第1183−1189頁
【非特許文献3】Wink,Donald J.等、Inorg.Chem.、1990年、第29巻、第5006−5008頁
【非特許文献4】Takaya,H.等、J.Am.Chem.Soc.、1993年、第115巻、第7033頁
【非特許文献5】Lanbers−Verstappen,M.H.L及びde Vries,J.G.、Adv.Synth.Catal.、2003年、第345巻、第478−482頁
【非特許文献6】van Leeuwen等、Organometallics、1997年、第16巻、第2929頁
【非特許文献7】Bakos,J.等、Canadian Journal of Chemistry、2001年、第79巻、第725頁
【発明の開示】
【0013】
本発明の一つの面は、プロキラル又はキラル化合物を、一酸化炭素及び水素と、光学活性金属−配位子錯体触媒の存在下で反応させて、光学活性アルデヒド又は光学活性アルデヒドから誘導された生成物を製造する、非対称ヒドロホルミル化方法であって、配位子が、式(1)として下記に定義されるような新規化合物であるヒドロホルミル化方法に関する。
【0014】
本発明の方法は、それが、光学分割の必要無しに、高い立体選択率、高い位置選択率及び良好な反応速度を有して、光学活性生成物の良好な収率を与える点で独特である。本発明の方法は、キラル中心をエナンチオ選択的に生成する。本発明の利点は、光学活性生成物を光学不活性反応物質から合成できることである。他の利点は、望ましくないエナンチオマーの生成に付随する収率低下を、実質的に減少させることができることである。
【0015】
本発明の非対称合成方法は、多数の光学活性有機化合物、例えばアルデヒド、アルコール、エーテル、エステル、アミン、アミド、カルボン酸等(これらは広範囲の種々の応用を有する)の製造のために有用である。
【0016】
本発明の他の面は、式(1):
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、それぞれのWは、独立に、酸素又はアルキルアミノ(−NR)、アリールアミノ(−NAr)、シリルアミノ(−NSiR3)若しくは−NHであり、それぞれのZ及びYは、同じか又は異なっており、そして水素以外の置換基であり、それぞれのZ’及びY’は、同じか又は異なっており、そして水素;炭素、窒素、酸素又はケイ素を介してビアリール単位に結合された置換基及びハロゲンから選択され、Z及びZ’は、任意的に橋架けされて、置換又は非置換の環式炭化水素残基を形成することができ、Xは、対応するHW−X−WHが光学的に活性でないような置換又は非置換の炭化水素残基である]
を有する新規な光学活性配位子に関する。この配位子の置換されたビアリール部分への前駆体、例えば2,2’−ビアリールジオールは、光学的に活性である。
【0019】
本発明は、更に、式(1)の光学活性配位子によって錯化された金属を含む光学活性金属−配位子錯体触媒に関する。
【0020】
本発明は、なお更に、本発明の非対称合成によって製造された光学活性生成物に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、プロキラル又はキラルオレフィン性化合物を一酸化炭素及び水素と反応させる光学活性アルデヒドの製造に於いて、光学活性金属−リン配位子錯体触媒及び任意的に式(1)の遊離配位子の使用を含む非対称ヒドロホルミル化に関する。製造された光学活性アルデヒドは、オレフィン結合の同時飽和と共に、出発物質中のオレフィン性不飽和炭素原子へのカルボニル基の付加によって得られる化合物に対応する。本発明のプロセス技術は、一般的なヒドロホルミル化反応に於いて従来使用された任意の公知のプロセス技術に対応させることができる。
【0022】
例えば、この非対称hf方法は、連続式、半連続式又は回分式様式で実施することができ、これには、所望により液体再循環及び/又は気体再循環運転が含まれる。本発明の方法は、好ましくは、回分式様式で実施される。同様に、反応成分、触媒及び溶媒の添加の方式又は順序も重要ではなく、任意の一般的な様式で行うことができる。
【0023】
一般的に、この非対称hf反応は、光学活性触媒のための溶媒を含有する液体反応媒体中で、好ましくは、触媒を含む反応成分が、その中に実質的に可溶性であるものの中で実施される。その代わりに、この反応を、追加の非反応性溶媒の不存在下で、生の液体オレフィン中で実施することができる。
【0024】
本発明の非対称hf方法の或るものに於いて有用である例示的オレフィン出発物質反応剤には、末端不飽和又は内部不飽和であってよく、直鎖、分枝鎖又は環式構造のものであってよいものが含まれる。このようなオレフィンには、4〜40個又はそれ以上の炭素原子を含有してよく、そして1個又はそれ以上のエチレン性不飽和基を含有してよい。更に、このようなオレフィンには、非対称hf方法を本質的に不利に妨害しない基又は置換基、例えばカルボニル、カルボニルオキシ、オキシ、ヒドロキシ、オキシカルボニル、シアノ、ハロゲン、アルコキシ、アリール、ハロアルキル等が含まれてよい。例示的オレフィン性不飽和化合物には、置換及び非置換の末端オレフィン、内部オレフィン、アルケン酸アルキル、アルカン酸アルケニル、アルケニルアルキルエーテル、アルケノール等々、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−オクタデセン、2−ブテン、イソアミレン、2−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、2−ヘプテン、シクロヘキセン、プロピレン二量体、プロピレン三量体、プロピレン四量体、2−エチルヘキセン、3−フェニル−1−プロペン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、3−シクロヘキシル−1−ブテン、アリルアルコール、ヘキス−1−エン−4−オール、オクト−1−エン−4−オール、酢酸ビニル、酢酸アリル、酢酸3−ブテニル、プロピオン酸ビニル、プロピオン酸アリル、酪酸アリル、メタクリル酸メチル、酢酸3−ブテニル、ビニルエチルエーテル、ビニルメチルエーテル、アリルエチルエーテル、n−プロピル−7−オクテノエート、3−ブテンニトリル、5−ヘキセンアミド、スチレン、ノルボルネン、α−メチルスチレン等々が含まれる。例示的好ましいオレフィン性不飽和化合物には、例えば、p−イソブチルスチレン、2−ビニル−6−メトキシナフチレン、フェニルビニルエーテル、塩化ビニル、シアン化アリル、酢酸ビニル、α−(p−トリフルオロメチルフェノキシ)スチレン等が含まれる。勿論、所望により、本発明の非対称hf方法により、異なったオレフィン性出発物質の混合物を利用できることが理解される。更に好ましくは、本発明は、炭素数4〜40又はそれ以上の末端オレフィン及び炭素数4〜40又はそれ以上の内部オレフィン並びにこのようなα−オレフィン及び内部オレフィンの出発物質混合物をヒドロホルミル化することによる、光学活性アルデヒドの製造のために特に有用である。
【0025】
本発明の方法に於いて有用である例示的プロキラルオレフィン及びキラルオレフィンには、式:
【0026】
【化3】

【0027】
[式中、R1、R2、R3及びR4は、同じか又は異なっており(但し、R1はR2とは異なり又はR3はR4とは異なる)、そして水素;アルキル;置換されたアルキル(前記置換基は、アルキルアミノ及びジアルキルアミノ、例えばベンジルアミノ及びジベンジルアミノを含むアミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、例えばメトキシ及びエトキシ、アシルオキシ、例えばアセトキシ、ハロ、ニトロ、ニトリル、チオ、カルボニル、カルボキサミド、カルボキサルデヒド、カルボキシル、カルボン酸エステル、フェニルを含むアリールから選択される);置換されたフェニルを含むアリール(前記置換基は、アルキル、アルキルアミノ及びジアルキルアミノ、例えばベンジルアミノ及びジベンジルアミノを含むアミノ、ヒドロキシ、アルコキシ、例えばメトキシ及びエトキシ、アシルオキシ、例えばアセトキシ、ハロ、ニトリル、ニトロ、カルボキシル、カルボキサルデヒド、カルボン酸エステル、カルボニル及びチオから選択され、前記アリール置換基は4個未満の置換基である);アルコキシ、例えばメトキシ及びエトキシ;アルキルアミノ及びジアルキルアミノ、例えばベンジルアミノ及びジベンジルアミノを含むアミノ;アシルアミノ及びジアシルアミノ、例えばアセチルベンジルアミノ及びジアセチルアミノ;ニトロ;カルボニル;ニトリル;カルボキシル;カルボキサミド;カルボキサルデヒド;カルボン酸エステル並びにアルキルメルカプト、例えばメチルメルカプトから選択される]
によって表されるものが含まれる。
【0028】
この定義のプロキラルオレフィン及びキラルオレフィンには、また、式中、R−基群が連結して環式化合物を形成する、上記の一般式の分子、例えば3−メチル−1−シクロヘキセン等も含まれることが理解される。
【0029】
本発明に於いて有用な光学活性触媒には、式(1)の配位子が光学活性、好ましくは光学的に純粋である、光学活性金属−配位子錯体触媒が含まれる。光学活性金属−配位子錯体を作る許容される金属には、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)及びこれらの混合物から選択された第VIII族金属が含まれ、好ましい金属は、ロジウム、コバルト、イリジウム及びルテニウムであり、更に好ましくはロジウム及びルテニウム、特にロジウムである。他の許容される金属には、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)及びこれらの混合物から選択された第IB族金属並びにまたクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びこれらの混合物から選択された第VIB族金属が含まれる。第VIII族、第IB及び第VIB族からの金属の混合物を、本発明に於いて使用することができる。本発明の成功裡の実施は、配位子が光学活性である限り、それらの単核形、二核形及び/又はより高級核形で存在し得る、光学活性金属−配位子錯体種の正確な構造に依存せず、そしてこの構造に基づいて予想されないことが注目されるべきである。実際に、正確な光学活性構造は知られていない。
【0030】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語「錯体(complex)」は、独立の存在が可能な1個又はそれ以上の電子的に富んだ分子又は原子群と、1個又はそれ以上の電子的に乏しい分子又は原子群(これらのそれぞれは、また、独立の存在が可能である)との結合(union)によって形成された配位化合物を意味する。例えば、本発明に於いて使用可能な好ましい光学活性配位子、即ちリン配位子は、それぞれ、独立に又はおそらく金属と(例えば、キレート化により)協奏して、配位共有結合を形成することができる、1個の利用可能な又は非共有電子対をそれぞれ有する、1個又はそれ以上のリン供与体原子を有することができる。上記の検討から推測できるように、一酸化炭素(これも配位子として適切に分類される)も存在していてよく、そして金属で錯化させることができる。光学活性錯体触媒の最終的組成物には、また、追加の配位子、例えば水素又は金属の配位部位又は核電荷を満足させるアニオンが含有されていてよい。勿論、光学活性錯体種には、好ましくは、触媒を無力にし、そして触媒性能に過度の悪影響を有する、如何なる追加の有機配位子又はアニオンも含有されていないことが理解されるべきである。本発明のロジウム触媒作用非対称ヒドロホルミル化反応に於いて、活性触媒には、ロジウムに直接結合しているハロゲン及び硫黄が含有されていないことが好ましいが、このようなことは絶対的に必要ではない。
【0031】
このような金属上の利用可能な部位の数は当該技術分野で公知である。従って、光学活性種(species)には、好ましくは、ロジウムの1分子当たり少なくとも1個の錯化されたリン含有分子によって特徴付けられる、それらの単量体形、二量体形又はより高級核形で、錯体触媒混合物が含まれてよい。前記のように、非対称ヒドロホルミル化の間に本発明に於いて使用される好ましいロジウム触媒の光学活性種を、非対称ヒドロホルミル化方法によって使用される一酸化炭素及び水素ガスを考慮して、光学活性リン配位子に加えて一酸化炭素及び水素で錯化できることが考えられる。
【0032】
更に、反応ゾーンの中に導入する前に光学活性錯体触媒を前生成するか又は反応の間に活性種をインシトゥ(その場で)で製造するかに関係なく、非対称ヒドロホルミル化反応を遊離配位子の存在下で実施することができるけれども、このようなことは絶対的に必要ではない。
【0033】
本発明は、また、式(1):
【0034】
【化4】

【0035】
[式中、それぞれのWは、独立に、酸素又はアルキルアミノ(−NR)、アリールアミノ(−NAr)、シリルアミノ(−NSiR3)若しくは−NHであり、それぞれのZ及びYは、同じか又は異なっており、そして水素以外の置換基であり、それぞれのZ’及びY’は、同じか又は異なっており、そして水素;炭素、窒素、酸素又はケイ素を介してビアリール単位に結合された置換基及びハロゲンから選択され、Z及びZ’は、任意に橋架けされて、置換又は非置換の環式炭化水素残基を形成することができ、Xは、対応するHW−X−WH前駆体が光学的に活性ではないような置換された又は置換されていない炭化水素残基である]
を有する前記の光学活性配位子に関する。この配位子の置換されたビアリール部分(portion)は光学的に活性である。
【0036】
勿論、上記の式中のビアリール部分(moiety)は、また、本発明の方法に過度に悪い影響を与えない任意の置換基で置換されていてもよいことが更に理解されるべきである。例示的置換基には、炭素数1〜18の基、例えばアルキル、アリール、アラルキル及びシクロアルキル基;アルコキシ基;シリル基、例えば−SiR3及び−Si(OR)3;アミノ基、例えば−NR2;アシル基、例えば−C(O)R;アシルオキシ基、例えば−OC(O)R;カルボニルオキシ基、例えば−COOR;アミノ基、例えば−C(O)NR2及び−N(R)COR;スルホニル基、例えば−SO2R;スルフィニル基、例えば−SOR2;チオニル基、例えば−SR;ホスホニル基、例えば−P(O)R2;並びにハロゲン、ニトロ、シアノ、トリフルオロメチル及びヒドロキシ基等[式中、それぞれのRは、一価の炭化水素基、例えばアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル及びシクロアルキル基であってよいが、但し−NR2のようなアミノ置換基に於いて、それぞれのRは、一緒に、窒素原子と共に複素環式基を形成する二価の橋架け基を構成することができ、−C(O)NR2及び−N(R)CORのようなアミド置換基に於いて、Nに結合しているそれぞれのRは、また水素であってよく、そして−P(O)R2のようなホスホニル置換基に於いて、1個のRは水素であってよい]が含まれる。特定の置換基中のそれぞれのRは、同じか又は異なっていてよいことが理解されるべきである。このような炭化水素置換基は、如何なるそのようなことも本発明の方法に過度に悪い影響を与えない限り、場合により、続いて、ここで前に既に略述したような置換基で置換されてよい。カルボン酸の塩及びスルホン酸の塩から選択された少なくとも1個のイオン性部分を、前記式中のアリール部分上に置換させることができる。
【0037】
前記式中でZ、Z’、Y及びY’基によって表される例示的な一価の炭化水素残基には、置換又は非置換の、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル及び脂環式基から選択される、炭素数1〜30の置換又は非置換の一価の炭化水素基が含まれる。与えられた式中のそれぞれのZ、Z’、Y及びY’基は、個々に同じか又は異なっていてよいが、好ましくは、これらは、それぞれのビアリール単位について同じものである。
【0038】
Z、Z’、Y及びY’によって表される更に具体的な例示的な一価の炭化水素残基には、第一級、第二級及び第三級鎖アルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ネオペンチル、sec−アミル、t−アミル、イソオクチル、2−エチルヘキシル、イソノニル、イソデシル、オクタデシル等;アリール基、例えばフェニル、ナフチル、アントラシル等;アラルキル基、例えばベンジル、フェニルエチル等;アルカリール基、例えばトリル、キシリル、p−アルキルフェニル等及び脂環式基、例えばシクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロヘキシルエチル、1−メチルシクロヘキシル等々が含まれる。好ましくは、非置換のアルキル基には、1〜18個の炭素原子、更に好ましくは1〜10個の炭素原子が含有されていてよく、一方、非置換のアリール、アラルキル、アルカリール及び脂環式基には、好ましくは6〜18個の炭素原子が含有されている。更に好ましいZ、Z’、Y及びY’残基の中には、tert−ブチル基がある。
【0039】
更に、前記式のZ、Z’、Y及びY’によって表される前記の基は、更に、本発明の所望の結果に過度に悪い影響を与えない任意の置換基によって置換されていてよい。例示的置換基は、例えば炭素数1〜約18の一価炭化水素基、例えばアルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、シクロアルキル及び前記定義されたような他の基である。更に、存在していてよい種々の他の置換基には、例えばハロゲン、好ましくは塩素又はフッ素、−NO2、−CN、−CF3、−OH、−Si(CH33、−Si(OCH33、−Si(C373、−C(O)CH3、−C(O)C25、−OC(O)C65、−C(O)OCH3、−N(CH32、−NH2、−NHCH3、−NH(C25)、−CONH2、−CON(CH32、−S(O)225、−OCH3、−OC25、−OC65、−C(O)C65、−O(t−C49)、−SC25、−OCH2CH2OCH3、−(OCH2CH22OCH3、−(OCH2CH2)3OCH3、−SCH3、−S(O)CH3、−SC65、−P(O)(C652、−P(O)(CH32、−P(O)(C252、−P(O)(C372、−P(O)(C492、−P(O)(C6132、−P(O)CH3(C65)、−P(O)(H)(C65)、−NHC(O)CH3等が含まれる。更に、それぞれのZ、Y、Ar、Y’及びY”基には、任意の与えられた配位子分子中で、また同じか又は異なっていてよい1個又はそれ以上のこのような置換基が含まれていてよい。好ましい置換基には、炭素数1〜18、更に好ましくは炭素数1〜10のアルキル基及びアルコキシ基が含まれる。
【0040】
式(1)中の橋架け単位W−X−Wに関して、タイプHW−X−WHの前駆体は、ジオール(式中、それぞれのW=O)、ジアミン(式中、それぞれのW=NR、このようなR基は、置換又は非置換の炭化水素残基であり、与えられた配位子中で同じか又は異なっている)及びアミノアルコールジアミン(式中、1個のW=O、そして他のW=NR、このようなR基は、置換又は非置換の炭化水素残基である)からなる。基Xの例示的例には、CH2CH2、CH2CH2CH2、CH2CH2CH2CH2、2,2’−ビフェニル、2,2’−ビフェニルジメチル、CH2CMe2CH2、1,2−C64、1,2−(CH2)C64、1,3−(CH2)C64が含まれる。タイプHW−X−WHの好ましい前駆体には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2’−ビフェノール、2,2’−ビフェニルジメタノール、ネオペンチルグリコール、カテコール、1,2−ベンゼンジメタノール、1,3−ベンゼンジメタノール、エチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N,N’−ジフェニルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,2’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル、N,N’−ジメチル−2,2’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル、1,2−ジアミノベンゼン、1,2−N,N’−ジメチルジアミノベンゼン、1,2−ビス(N−メチルアミノメチル)ベンゼン、エタノールアミン、3−アミノプロパノール、o−アミノフェノール及び2−ヒドロキシ−2’−アミノビフェニルが含まれる。
【0041】
好ましい光学活性配位子の例示的であるが限定ではない例には、下記のものが含まれる。
【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
本発明の錯体触媒に於いて使用される光学活性配位子は、非対称hfのために独特に適合性であり、そして適している。例えば、光学活性リン配位子は、許容されるオレフィンの全ての種類の非対称ヒドロホルミル化のための良好な触媒活性を与えることに加えて、非常に良好なロジウム錯体安定性を与えることができる。更に、これらの独特の化学的構造は、非対称ヒドロホルミル化の間及び貯蔵の際に加水分解されるような副反応に対する、非常に良好な安定性を有する配位子を与えるであろう。
【0045】
本発明に於いて使用することができる一般的クラスの新規な光学活性配位子の種類は、当該技術分野で公知の方法によって製造することができる。例えば、本発明に於いて使用することができる光学活性リン配位子は、アルコール又はアミン成分の少なくとも一方が光学的に活性であるか又は光学的に純粋である、一連の一般的なリンハロゲン化物−アルコール又はアミン縮合反応によって製造することができる。それを行うことができるこのような種類の縮合反応及び方式は、当該技術分野で公知である。更に、ここで使用することができるリン配位子は、一般的な分析技術、例えば所望により、プロトン−1及び/又はリン−31核磁気共鳴分光法及び高速原子衝撃質量分光法により、容易に同定及びキャラクタリゼーションすることができる。
【0046】
前記のように、光学活性配位子は、光学活性金属−配位子錯体触媒の配位子として並びに本発明の方法の反応媒体中に存在してよい遊離配位子として使用することができる。更に、金属−配位子錯体触媒の光学活性配位子及び本発明の与えられた方法に於いて好ましく存在する全ての過剰の遊離配位子は、通常、同じ種類の配位子であるが、異なった種類の光学活性配位子及び2種又はそれ以上の異なった光学活性配位子の混合物を、所望により任意の与えられた方法に於いてそれぞれの目的のために使用することができることが理解されるべきである。
【0047】
本発明の光学活性金属−配位子錯体触媒は、当該技術分野で公知の方法によって形成することができる。例えば、特許文献1及びその中の文献参照。例えば、予め生成した金属ヒドリド−カルボニル触媒は、おそらく製造し、非対称合成方法の反応媒体の中に導入することができる。更に好ましくは、本発明の金属−配位子錯体触媒は、活性触媒のインシトゥ生成のために反応媒体の中に導入することができる金属触媒前駆体から誘導することができる。例えばロジウム触媒前駆体、例えばロジウムジカルボニルアセチルアセトネート、Rh23、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Rh(NO33等は、活性触媒のインシトゥ生成のための配位子と共に反応媒体の中に導入することができる。好ましい態様に於いて、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネートを、ロジウム前駆体として使用し、溶媒の存在下でリン配位子化合物と反応させて、触媒性ロジウム−リン錯体前駆体を形成し、これを反応器の中に、任意に、活性触媒のインシトゥ生成のための、過剰の遊離リン配位子と共に導入する。いずれにしても、光学活性金属−配位子錯体触媒が、非対称ヒドロホルミル化方法の条件下で、反応媒体中に存在することを理解することが、本発明の目的のために十分である。
【0048】
更に、本発明の与えられた方法の反応媒体中に存在する光学活性錯体触媒の量は、使用すべき所望の与えられた金属濃度を与えるために必要な最低量であることのみを必要とすることが明らかであり、これは、少なくとも、所望の特定の非対称hf方法に触媒作用するために必要な金属の触媒量についての根拠を与えるであろう。一般的に、遊離金属として計算した、約1ppm〜約10,000ppmの範囲内の金属濃度及び約0.5:1〜約200:1の範囲内の触媒中の配位子対金属モル比が、殆どの非対称合成方法のために十分であろう。更に、本発明のロジウム触媒作用非対称ヒドロホルミル化方法に於いて、遊離金属として計算して、約10〜1000ppmのロジウム、そして更に好ましくは25〜750ppmのロジウムを使用することが、一般的に好ましい。
【0049】
本発明の更なる面を、可溶化した金属−配位子錯体前駆体触媒、有機溶媒及び遊離配位子から本質的になる触媒前駆体組成物の非対称hfに於ける使用として説明することができる。このような前駆体組成物は、金属出発物質、例えば金属酸化物、水素化物、カルボニル又は塩、例えば硝酸塩(これは、錯体組合せ中に存在するか又は存在しなくてよい)の、本明細書に定義したような光学活性配位子、有機溶媒及び遊離配位子との溶液を形成することによって製造することができる。任意の適当な金属出発物質、例えばロジウムジカルボニルアセチルアセトネート、Rh23、Rh4(CO)12、Rh6(CO)16、Rh(NO33、ビスホスファイトロジウムカルボニルヒドリド、イリジウムカルボニル、ビスホスファイトイリジウムカルボニルヒドリド、ハロゲン化オスミウム、クロルオスミン酸(chlorosmic acid)、オスミウムカルボニル、水素化パラジウム、ハロゲン化第一パラジウム、白金酸、ハロゲン化第一白金、ルテニウムカルボニル並びに他の金属の他の塩及びC2〜C16酸のカルボン酸塩、例えば塩化コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト、オクタン酸コバルト、酢酸第二鉄、硝酸第二鉄、フッ化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸パラジウム、オクタン酸オスミウム、硫酸イリジウム、硝酸ルテニウム等を使用することができる。勿論、任意の適当な溶媒、例えば実施すべき所望の非対称hf方法で使用することができるものを、使用することができる。その代わりに、この反応を、追加の非反応性溶媒の不存在下で、生の液体オレフィン中で実施することができる。勿論、所望の非対称hf方法は、また、前駆体溶液中に存在する、金属、溶媒及び光学活性配位子の種々の量を指定することができる。前もって最初の金属で錯体化されていない光学活性配位子を、非対称合成方法の前又はその間にインシトゥで、金属に錯体化させることができる。
【0050】
実例として、好ましい金属はロジウムであり、そして好ましい光学活性配位子はリン配位子であるので、本明細書中に定義されたような、ロジウムジカルボニルアセチルアセトネート、有機溶媒及び光学活性リン配位子の溶液を形成することによって製造された、本発明の好ましい触媒前駆体組成物は、可溶化されたロジウムカルボニルリン錯体前駆体触媒、有機溶媒及びリン配位子を含有し得る。リンは、一酸化炭素ガスの発生によって証明されるように、室温で、ロジウム−アセチルアセトネート錯体前駆体のカルボニル配位子の一方又は両方に、容易に入れ替わる。この置換反応は、所望により溶液を加熱することによって促進することができる。ロジウムジカルボニルアセチルアセトネート錯体前駆体及びロジウムリン錯体前駆体の両方が可溶性である任意の適当な有機溶媒を使用することができる。従って、このような触媒前駆体組成物中に存在する、ロジウム錯体触媒前駆体、有機溶媒及び光学活性リン配位子並びにこれらの好ましい態様の量は、明らかに、本発明の非対称ヒドロホルミル化方法中に使用可能な、本明細書中で既に検討したこれらの量に対応し得る。前駆体触媒のアセチルアセトネート配位子は、非対称ヒドロホルミル化方法が始まった後、異なった配位子、例えば水素又は一酸化炭素によって置き換えられて、前記説明したような光学活性ロジウム錯体触媒を形成すると信じられる。ヒドロホルミル化条件下で前駆体触媒から解放されたアセチルアセトンは、生成物アルデヒドと共に反応媒体から除去することができ、従って、非対称ヒドロホルミル化方法に対して決して有害ではない。従って、このような好ましいロジウム錯体触媒前駆体組成物を使用することによって、簡単で経済的で効率的な、ロジウム前駆体金属の取扱及びヒドロホルミル化始動の方法が得られる。
【0051】
光学活性触媒は、任意に担持されていてよい。担持触媒の利点には、触媒分離及び配位子回収の容易性が含まれるであろう。担体の例示的例には、アルミナ、シリカゲル、イオン交換樹脂、ポリマー担体等が含まれる。
【0052】
本発明の非対称ヒドロホルミル化方法を実施する反応条件は、従来一般的に使用されているものであってよく、約−25℃以下から約200℃までの反応温度及び約1〜10,000psiaの範囲内の圧力からなるであろう。更に、非対称hf反応は、通常好ましいものよりも低い温度で実施して、生成物エナンチオ選択率を一層効率的に上昇させることができる。
【0053】
前記のように、本発明の好ましい方法には、光学活性金属−リン配位子錯体触媒及び任意に遊離リン配位子、特に光学活性ロジウム−リン配位子錯体触媒の存在下での、プロキラル又はキラルオレフィン性不飽和化合物の、一酸化炭素及び水素との非対称ヒドロホルミル化による、光学活性アルデヒドの製造が含まれる。
【0054】
勿論、所望の最良の結果及び効率を達成するために必要な反応条件を最適化することは、本発明の利用に於ける経験に依存性であるが、実験の一定の尺度のみが、与えられた状況のために最適であるこれらの条件を確認するために必要であろうし、このようなことは、十分に当業者の知識内であり、本明細書中に説明したような本発明の更に好ましい面に従って容易に得ることができ及び/又は簡単な日常的実験であることが理解されるべきである。
【0055】
例えば、本発明の非対称ヒドロホルミル化方法の水素及び一酸化炭素の全気体圧力は、約1〜約10,000psiaの範囲内であってよい。しかしながら、更に好ましくは、光学活性アルデヒドを製造するためのプロキラルオレフィンの非対称ヒドロホルミル化に於いて、この方法を、約1500psiaよりも低い、更に好ましくは約1000psiaよりも低い、水素及び一酸化炭素の全気体圧力で運転することが好ましい。反応剤の最低全圧力は特に臨界的ではなく、主として、所望の反応速度を得るために必要な反応剤の量によってのみ限定される。一般的に、気体状の水素対一酸化炭素のモル比は、約1:10〜100:1以上の範囲であってよく、更に好ましい水素対一酸化炭素モル比は、約1:1〜1:10である。一酸化炭素の気体状水素に対する一層高いモル比は、一般的に、より高い分枝鎖/直鎖比を有利にする傾向がある。
【0056】
更に前記のように、本発明の好ましい非対称ヒドロホルミル化方法は、約−25℃以下から約200℃までの反応温度で実施することができる。与えられた方法に於いて使用される好ましい反応温度は、勿論、特定のオレフィン性出発物質及び使用する光学活性金属−配位子錯体触媒並びに所望の効率に依存する。より低い反応温度は、一般的に、より高いエナンチオマー過剰(ee)及び分枝鎖/直鎖比を有利にする傾向がある。一般的に、約0℃〜約120℃の反応温度での非対称ヒドロホルミル化が、全ての種類のオレフィン性出発物質のために好ましい。更に好ましくは、α−オレフィンは、約0℃〜約90℃の温度で効率よくヒドロホルミル化することができるけれども、一般的な線状α−オレフィン及び内部オレフィン並びにα−オレフィンと内部オレフィンとの混合物よりも低い反応性のオレフィンでも、約25℃〜約120℃の温度で、効率よく、そして好ましくヒドロホルミル化される。実際に、本発明のロジウム−触媒作用非対称ヒドロホルミル化方法に於いて、120℃よりも遙かに高い反応温度で運転する際に、実質的な利益は見られず、このようなことはあまり望ましくないと考えられる。
【0057】
この方法は、光学活性生成物を製造するために十分な時間実施する。使用する正確な反応時間は、部分的に、温度、出発物質の性質及び比率等のような要因に依存する。反応時間は、通常、約半時間〜約200時間以上、好ましくは約1時間よりも短くから約10時間までの範囲内であろう。
【0058】
本明細書に略述したように、本発明の非対称hf方法は、液相又は気相で実施することができ、回分システム、連続式液体若しくは気体再循環システム又はこのようなシステムの組合せを含む。本発明の方法を実施するために、回分システムが好ましい。好ましくは、本発明の非対称ヒドロホルミル化には、回分均一触媒プロセスが含まれ、この方法に於いて、ヒドロホルミル化は、本明細書に於いて別に略述したような、遊離リン配位子及び全ての適当な一般的な溶媒の両方の存在下で実施される。
【0059】
本発明の非対称ヒドロホルミル化方法は、光学活性金属−配位子錯体触媒のための有機溶媒の存在下で実施することができる。使用する特定の触媒及び反応剤に依存して、適当な有機溶媒には、例えばアルコール、アルカン、アルケン、アルキン、エーテル、アルデヒド、ケトン、エステル、酸、アミド、アミン、芳香族化合物等が含まれる。意図する非対称合成方法に過度に悪い影響を与えない任意の適当な溶媒を使用することができ、そしてこのような溶媒には、公知の金属触媒作用方法で従来一般的に使用されているものが含まれてよい。溶媒の誘電定数又は極性を増加させることは、一般的に増加した反応速度を有利にする傾向があろう。勿論、所望により、1種又はそれ以上の異なった溶媒の混合物を使用することができる。使用する溶媒の量は本発明のために臨界的ではなく、与えられた方法のために所望される特定の金属濃度を有する反応媒体を与えるために十分な量であることのみが必要である。一般的に、使用するとき溶媒の量は、反応媒体の全重量基準で約5重量%〜約95重量%以上の範囲内であってよい。
【0060】
前記のように、本発明の非対称ヒドロホルミル化方法は、遊離配位子、即ち、使用する光学的活性金属−配位子錯体触媒の金属と錯体化していない配位子の存在下で実施することができる。金属−配位子錯体触媒の配位子と同じものである遊離配位子を使用することが好ましいが、このような配位子は与えられた方法に於いて同じものである必要はなく、所望により異なっていてよい。本発明の非対称ヒドロホルミル化方法は、所望する遊離配位子の如何なる過剰の量中でも実施することができるが、遊離配位子の使用は絶対的に必要ではない。従って、一般的に、反応媒体中に存在する金属(例えば、ロジウム)の1モル当たり、約2〜約100モル、好ましくはそれ以上の配位子の量が、殆どの目的のために適当であろう。ここで、使用する配位子の量は、存在する金属に結合している(錯化している)配位子の量と、存在する遊離(錯化していない)配位子の量の両方の合計である。勿論、所望により、反応媒体中の遊離配位子の予定されたレベルを維持するために、補給配位子を、非対称ヒドロホルミル化方法の反応媒体に、任意の時点で、そして任意の適当な方法で供給することができる。
【0061】
遊離配位子の存在下で本発明の方法を実施するための能力は、どのような量の遊離配位子が、方法の間に存在するときでも、それが、その活性が阻害される一定の錯体触媒を必要とする、非常に低い正確な濃度の配位子を使用することの重要性を除去し、特に、大規模商業的運転が含まれるとき、このようにして運転者に、より大きい許容範囲を与えることを助ける点で、本発明の有利な面であり得る。
【0062】
本発明の方法の光学活性生成物は、先行技術に於いて公知であり、文献に記載されている広範囲の有用性を有する。例えば、これらは、医薬、フレーバー、香料、農薬等として特に有用である。例示的治療応用には、例えば、非ステロイド性抗炎症薬、ACE阻害薬、β遮断薬、鎮痛薬、気管支拡張薬、鎮痙薬、坑ヒスチミン薬(antihistimines)、抗生物質、抗うつ薬、抗腫瘍薬等が含まれる。
【0063】
本発明の方法は、非常に高いエナンチオ選択率及び位置選択率を有する光学活性キラルアルデヒド生成物を提供することができる。商業的応用のために実用的であるために、プロセスがこれらの選択率規準の両方を満足させることが必須である。好ましくは50%よりも大きい、更に好ましくは75%よりも大きい、最も好ましくは90%よりも大きいエナンチオマー過剰を、本発明の方法によって得ることができる。好ましくは4:1よりも大きい、更に好ましくは10:1よりも大きい、最も好ましくは20:1よりも大きい分枝鎖/直鎖モル比を、本発明の方法によって得ることができる。プロキラルオレフィンの構造に依存して、直鎖アルデヒド生成物はキラルであろう。ここで、好ましくは4:1よりも大きい、更に好ましくは10:1よりも大きい、最も好ましくは20:1よりも大きい直鎖/分枝鎖モル比を、本発明の方法によって得ることができる。本発明の方法は、また、商業的使用のために適している非常に望ましい反応速度で実施することもできる。
【0064】
所望の光学活性生成物、例えばアルデヒドは、任意の一般的な方法で回収することができる。適当な分離技術には、例えば、溶媒抽出、結晶化、蒸留、蒸発、ワイプド(wiped)薄膜蒸発、流下薄膜蒸発等が含まれる。それらは、WO特許(PCT)第88/08835号明細書に記載されているような捕捉剤の使用により形成されるので、反応系から光学活性生成物を除去することが望ましいであろう。エナンチオマー過剰及び/又は分枝鎖/直鎖比は、米国特許第5,430,194号明細書に記載されているような再結晶又は誘導体の再結晶により増加させることができる。
【0065】
本発明の非対称hf方法によって製造された光学活性生成物は、それらの所望の誘導体を与えるための、更なる反応(群)を受けることができる。このような許容される誘導反応は、当該技術分野で公知の一般的な手順に従って実施することができる。誘導は、hf生成物の単離後の別の合成手順として又はインシトゥ法によって実施することができる。インシトゥ誘導、例えば還元又は還元的アミノ化のために、誘導を、非対称ヒドロホルミル化方法に続いて又は非対称ヒドロホルミル化方法と同時に実施することができる。非対称ヒドロホルミル化によって製造された光学活性アルデヒドのために、例示的誘導反応には、例えばカルボン酸への酸化、アルコールへの還元、アルドール縮合、アミンへの還元的アミノ化、イミンへのアミノ化等が含まれる。更に、本発明によって製造された光学活性アルデヒドは、生成物中に存在する追加の反応性官能基との分子間反応又は分子内反応を受けることができる。例えば側鎖アルコール置換基を含有するオレフィンのヒドロホルミル化により製造されたアルデヒドは、分子内環化を受けて、キラルラクトール誘導体を形成することができる。本発明は、如何なる方法でも、許容される誘導体反応によって制限されることを意図しない。
【0066】
前記のように、本発明の方法は、必要な場合に未消費の出発物質の再循環を伴って、回分式又は連続式で実施することができる。この反応は、単一の反応ゾーン内で又は直列若しくは並列になっている複数個の反応ゾーン内で実施することができ又はこれは、細長い管状ゾーン又はこのようなゾーンの連続内で、回分様式で若しくは連続的に実施することができる。使用される構造物の材料は、反応の間に出発物質に対して不活性でなくてはならず、そして装置の製作が、反応温度及び圧力に耐えることができなくてはならない。反応の過程の間に反応ゾーンの中に回分様式で又は連続的に導入される出発物質又は成分の量を導入し及び/又は調節するための手段を、特に出発物質の所望のモル比を維持するために、この方法に於いて便利に利用することができる。反応工程は、出発物質の1種の、他のものへの増分添加によって影響を受けるであろう。また、反応工程は、光学活性金属−配位子錯体触媒への出発物質の共同添加によって組合せることができる。完全転化を望まないか又は得ることができないとき、出発物質を生成物から分離し、次いで反応ゾーンの中に戻し再循環させることができる。
【0067】
この方法は、ガラスライニングした、ステンレススチール製の又は同様の型の反応装置内で実施することができる。反応帯域に、過度の温度変動を制御するために又は全ての可能性のある「暴走」反応温度を防止するために、1個又はそれ以上の内部及び/又は外部熱交換器を取り付けることができる。
【0068】
本発明の一つの好ましい態様に於いて、シアン化アリルを、触媒として、式(1)に従った配位子のロジウム錯体の存在下での、非対称ヒドロホルミル化に付した。或る範囲のこのような触媒を、最適化していない方法条件下でのスクリーニング実験で使用して、エナンチオ選択率(%ee)、位置選択率(b/l)及び基体の転化率%を決定した。結果を、表1(実施例区画)に、キラファイト配位子のRh錯体及びビナホス配位子のRh錯体を使用する比較例と並べて示す。これらの結果、特に表記載25は、この興味をそそるhf基体について、本発明の新規な配位子の予想外の有用性及び優れた性能を示す。
【0069】
本発明の他の好ましい態様に於いて、酢酸ビニルを、触媒として、式(1)に従った配位子のロジウム錯体の存在下での、非対称ヒドロホルミル化に付した。或る範囲のこのような触媒を、最適化していない方法条件下でのスクリーニング実験で使用して、エナンチオ選択率(%ee)、位置選択率(b/l)及び基体の転化率%を決定した。結果を、表2(実施例区画)に、キラファイト配位子のRh錯体及びビナホス配位子のRh錯体を使用する比較例と並べて示す。これらの結果、特に表記載32は、この興味をそそるhf基体について、本発明の新規な配位子の予想外の有用性及び優れた性能を示す。
【0070】
本明細書で使用する下記の用語についてその意味を説明する。
【0071】
キラル―1個又はそれ以上の非対称の中心又は軸を有し、そしてそれらの鏡像の上に重ね合わせることができない分子。
【0072】
アキラル―光学活性を示さない分子又は方法。
【0073】
プロキラル―特別の方法でキラル生成物に転化される可能性を有する分子。
【0074】
キラル中心―非対称の部位である、分子の任意の構造的特徴。
【0075】
ラセミ―キラル化合物の2種のエナンチオマーの50/50混合物。
【0076】
立体異性体―同じ化学構造を有するが、種に於ける原子又は基の配置に関して異なる化合物。
【0077】
エナンチオマー―お互いの重ね合わせることができない鏡像である立体異性体。
【0078】
立体選択的―他方に有利である特別の立体異性体を製造する方法。
【0079】
エナンチオマー過剰(ee)―生成物中に存在する2種のエナンチオマーの相対量の尺度。eeは、式[多量エナンチオマーの量−少量エナンチオマーの量]/[多量エナンチオマーの量+少量エナンチオマーの量]によって計算することができる。
【0080】
光学活性―与えられた生成物中に存在する立体異性体の相対量の間接的尺度。キラル化合物は、平面偏光を回転する能力を有する。1種のエナンチオマーが他のものよりも過剰に存在するとき、この混合物は光学的に活性である。
【0081】
光学的に活性―他のものを越えた立体異性体の1種の過剰に起因して、平面偏光を回転する立体異性体の混合物。
【0082】
光学的に純粋―平面偏光を回転する単一の立体異性体。
【0083】
位置異性体―同じ分子式を有するが、原子の接続性が異なっている化合物。
【0084】
位置選択的―全ての他のものを越えて、特別の位置異性体の製造に有利である方法。
【0085】
本発明の目的のために、化学元素は、元素の周期表、CAS版、化学及び物理学ハンドブック(Handbook of Chemistry and Physics)、第67版、1986−87年、内側カバーに従って同定される。また、本発明の目的のために、用語「炭化水素」は、少なくとも1個の水素原子及び少なくとも1個の炭素原子を有する全ての許容される化合物を含めることを意図する。広い面に於いて、この許容される炭化水素には、置換されているか又は置換されていなくてよい、非環式及び環式、分枝鎖の及び非分枝鎖の、炭素環式及び複素環式、芳香族及び非芳香族有機化合物が含まれる。
【0086】
本明細書で使用する用語「置換された」は、有機化合物の全ての許容される置換基を含めることを意図する。広い面に於いて、許容される置換基には、有機化合物の、非環式及び環式、分枝鎖の及び非分枝鎖の、炭素環式及び複素環式、芳香族及び非芳香族置換基が含まれる。例示的置換基には、例えば本明細書に於いて前記したものが含まれる。許容される置換基は、適切な有機化合物について、1個又はそれ以上であってよく、そして同じ又は異なっていてよい。本発明の目的のために、窒素のようなヘテロ原子は、水素置換基及び/又はヘテロ原子の原子価を満足させる本明細書に記載した有機化合物の任意の許容される置換基を有していてよい。本発明は、如何なる方法に於いても、有機化合物の許容される置換基によって限定することを意図するものではない。
〔実施例〕
【0087】
本発明を更に例示するために下記の実施例を示す。
実施例1:(R)−(ビフェン(BIPHEN))PBrの製造
(R)−ビフェン−H2(ストレム・ケミカル社(Strem Chemical)から得られた、4.06g、11.45ミリモル)を、100mLのトルエン中に溶解させた。トリエチルアミン(3.25mL、23.31ミリモル)を添加した。三臭化リン(1.1mL、11.6ミリモル)を、この反応混合物に添加し、次いで18時間攪拌した。この懸濁液を濾過し、そして濾液を蒸発させて、(R)−(ビフェン)ブロミダイト(bromidite)を、構造:
【0088】
【化7】

【0089】
を有する白色固体(3.41g、7.87ミリモル、収率69%)として得た。
31P{1H}NMR(C66)δ184;1H NMR(C66)δ7.18(s,1H),7.08(s,1H),1.93(s,3H),1.92(s,3H),1.57(s,3H),1.56(s,3H),1.48(s,9H),1.39(s,9H)。
【0090】
実施例2:(R)−ビフェン−ビフェノール−ビスホスファイト(I)の製造
15mLのトルエン中の2,2’−ビフェノール(212mg、1.14ミリモル)及び300μLのEt3Nの溶液を、20mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(983mg、2.27ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これをMeCNと共にすりつぶした。上澄み液をデカンテーションし、そして固体生成物を真空下で乾燥させた(737mg、収率68%)。31P{1H}NMR(C66)δ134;1H NMR(C66)δ7.48(dd,2H);7.31(d,2H),7.25(s,2H),7.23(s,2H),7.03(dt,2H),6.86(dt,2H),2.17(s,6H),2.09(s,6H),1.83(s,6H),1.76(s,6H),1.49(s,18H),1.46(s,18H)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0091】
【化8】

【0092】
を有することが明らかになった。
【0093】
実施例3:(R)−ビフェン−エチレングリコール−ビスホスファイト(II)の製造
5mLのトルエン中のエチレングリコール(36.6mg、0.589ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(522mg、1.20ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて無色の油にし、これをMeCNと共にすりつぶした。上澄み液をデカンテーションし、そして油状固体生成物を真空下で乾燥させた(480mg、収率98%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0094】
【化9】

【0095】
を有することが明らかになった。
【0096】
実施例4:(R)−ビフェン−ネオペンチルグリコール−ビスホスファイト(III)の製造
5mLのトルエン中のネオペンチルグリコール(71.0mg、0.68ミリモル)及び260μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(583mg、1.34ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で2時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これを真空下で乾燥させた(0.59g、収率99%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0097】
【化10】

【0098】
を有することが明らかになった。
【0099】
実施例5:(R)−ビフェン−(N−Me−ジエタノールアミン)−ビスホスファイト(IV)の製造
5mLのトルエン中のN−Me−ジエタノールアミン(77.8mg、0.653ミリモル)及び300μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(550mg、1.27ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これを真空下で乾燥させた(425mg、収率74%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0100】
【化11】

【0101】
を有することが明らかになった。
【0102】
実施例6:(R)−ビフェン−(1,2−ベンゼンジメタノール)−ビスホスファイト(V)の製造
5mLのトルエン中の1,2−ベンゼンジメタノール(82.5mg、0.598ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(527mg、1.22ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で2.5時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて無色固体にし、これを真空下で乾燥させた(0.543g、収率49%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0103】
【化12】

【0104】
を有することが明らかになった。
【0105】
実施例7:(R)−ビフェン−(2,2’−ビフェニルジメタノール)−ビスホスファイト(VI)の製造
5mLのトルエン中の2,2’−ビフェニルジメタノール(147.1mg、0.686ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(596mg、1.38ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で3.5時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これを真空下で乾燥させた(0.670g、収率98%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0106】
【化13】

【0107】
を有することが明らかになった。
【0108】
実施例8:(R)−ビフェン−1,3−プロパンジオール−ビスホスファイト(VII)の製造
5mLのトルエン中の1,3−プロパンジオール(46.0mg、0.604ミリモル)及び220μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(524mg、1.21ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これを真空下で乾燥させた(0.500g、収率98%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0109】
【化14】

【0110】
を有することが明らかになった。
【0111】
実施例9:(R)−ビフェン−(1,1’−メチレンビナフトール)−ビスホスファイト(VIII)の製造
10mLのトルエン中の1,1’−メチレンビナフトール(208.0mg、0.692ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(606mg、1.40ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させてピンク色固体にし、これを8mLのMeCNと共にすりつぶして白色固体を得、これを真空下で乾燥させた(0.688g、収率93%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0112】
【化15】

【0113】
を有することが明らかになった。
【0114】
実施例10:[(R)−(ビフェン)]−2,2‘−メチレンビス(4−クロロフェノール)−ビスホスファイト(IX)の製造
10mLのトルエン中の1,1’−メチレン−5,5’−ジクロロビスフェノール(185mg、0.687ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(589mg、1.36ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で4時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これをMeCNと共にすりつぶして白色固体を得、これを真空下で乾燥させた(0.533g、収率75%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0115】
【化16】

【0116】
を有することが明らかになった。
【0117】
実施例11:(R)−ビフェン−(2−ヒドロキシベンジルアルコール)−ビスホスファイト(X)の製造
10mLのトルエン中の2−ヒドロキシベンジルアルコール(70.7mg、0.570ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(502mg、1.16ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で14時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色フォームにし、これを沸騰するMeCN中に溶解させた。この溶液を−35℃で貯蔵し、そして白色固体を製造し、これを真空下で乾燥させた(0.372g、収率72%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0118】
【化17】

【0119】
を有することが明らかになった。
【0120】
実施例12:[(R)−ビフェン]−(ジフェン酸)−ビスホスファイト(XI)の製造
10mLのトルエン中のジフェン酸(145mg、0.600ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(522mg、1.20ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で14時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて薄黄色固体にし、これをMeCNと共にすりつぶした。得られた白色固体を真空下で乾燥させた(0.445g、収率74%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0121】
【化18】

【0122】
を有することが明らかになった。
【0123】
実施例13:(R)−ビフェン−(コハク酸)−ビスホスファイト(XII)の製造
10mLのトルエン中のコハク酸(74.7mg、0.632ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(546mg、1.26ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で1時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にした(0.551g、収率98%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0124】
【化19】

【0125】
を有することが明らかになった。
【0126】
実施例14:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール(BINOL))ブロミダイトの製造
(S)−3,3’−Me3Si−ビノール−H2(非特許文献6により記載された方法に従って製造した;5.90g、14.0ミリモル)を、20mLのトルエン中に溶解させた。トリエチルアミン(3.8mL)を添加した。この溶液を、200mLのトルエン中の三臭化リン(3.78g)の溶液に添加した。得られた懸濁液を1時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて、(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBrを、構造:
【0127】
【化20】

【0128】
を有する薄黄色固体(7.16g、収率95%)として得た。
【0129】
実施例15:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)−ネオペンチルグリコール−ビスホスファイト(XIII)の製造
5mLのトルエン中のネオペンチルグリコール(64.2mg、0.616ミリモル)及び260μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBr(669mg、1.24ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で3時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて薄黄色泡状固体にし、これを3mLのMeCNと共にすりつぶし、次いで真空下で乾燥させた(0.503g、収率80%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0130】
【化21】

【0131】
を有することが明らかになった。
【0132】
実施例16:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)−ビフェノール−ビスホスファイト(XIV)の製造
5mLのトルエン中の2,2‘−ビフェノール(107.6mg、0.578ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBr(646mg、1.20ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で3時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて薄黄褐色固体にし、これを3mLのMeCNと共にすりつぶした。得られた白色固体を真空下で乾燥させた(0.59g、収率92%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0133】
【化22】

【0134】
を有することが明らかになった。
【0135】
実施例17:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)−エチレングリコール−ビスホスファイト(XV)の製造
5mLのトルエン中のエチレングリコール(29.4mg、0.473ミリモル)及び160μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBr(512mg、0.949ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で2時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて無色の油にした(0.423g、収率91%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0136】
【化23】

【0137】
を有することが明らかになった。
【0138】
実施例18:[(R)−ビフェン]−1,3−ベンゼンジメタノール−ビスホスファイト(XVI)の製造
10mLのトルエン中の1,3−ベンゼンジメタノール(89.4mg、0.647ミリモル)及び240μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(569mg、1.31ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にした(0.576g、収率98%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0139】
【化24】

【0140】
を有することが明らかになった。
【0141】
実施例19:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)−1,4−ブタンジオール−ビスホスファイト(XVII)の製造
5mLのトルエン中の1,4−ブタンジオール(33.4mg、0.370ミリモル)及び140μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBr(410mg、0.761ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で3時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて油状白色固体にした(0.359g、収率96%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0142】
【化25】

【0143】
を有することが明らかになった。
【0144】
実施例20:[(R)−(ビフェン)]−1,4−ブタンジオール−ビスホスファイト(XVIII)の製造
5mLのトルエン中の1,4−ブタンジオール(55mg、0.61ミリモル)及び200μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(529mg、1.22ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で2時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にした(0.506g、収率97%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0145】
【化26】

【0146】
を有することが明らかになった。
【0147】
実施例21:[(R)−(ビフェン)]−カテコール−ビスホスファイト(XIX)の製造
15mLのトルエン中のカテコール(169mg、1.53ミリモル)及び460μLのEt3Nの溶液を、10mLのトルエン中の[(R)−(ビフェン)]PBr(1.329g、3.07ミリモル)の溶液に添加した。この溶液を環境温度で18時間攪拌し、次いで濾過した。濾液を蒸発させて白色固体にし、これをアセトニトリルと共にすりつぶした。得られた白色固体を真空下で乾燥させた(0.779g、収率58%)。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0148】
【化27】

【0149】
を有することが明らかになった。
【0150】
実施例22:[(R)−(ビフェン)]−(N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン)−ビスホスホルアミダイト(XX)の製造
4mLの、N,N’−ジメチル−N,N’−ビス−トリメチルシラニル−プロパン−1,3−ジアミン(83.8mg、0.34ミリモル)のトルエン溶液に、347mg(0.68ミリモル)の(R−ビフェン)PI(トルエン中の(R−ビフェン)PBrとMe3SiIとの反応によって製造した)を添加した。この溶液を18時間攪拌した。この溶液を約2mLにまで濃縮し、続いて4mLのヘキサンを添加した。30分間攪拌した後、濾過によって白色固体を集めた。この固体を減圧下で乾燥させて、246mg(収率83%)の生成物を得た。31P{1H}(C66)δ140.9。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0151】
【化28】

【0152】
を有することが明らかになった。
【0153】
実施例23:(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)−(N,N’−ジメチル−1,3−ジアミノプロパン)−ビスホスホルアミダイト(XXI)の製造
(S)−(3,3’−Me3Si−ビノール)PBrを4mLのトルエン中に溶解させた。N,N’−ジメチル−N,N’−ビス−トリメチルシラニル−プロパン−1,3−ジアミンを添加した。この反応物を18時間攪拌し、次いで、溶媒を除去して、0.359mgの生成物を灰白色固体として残した。収率101.6%。31P{1H}(C66)δ149.5。NMRキャラクタリゼーションによって、この生成物が、構造:
【0154】
【化29】

【0155】
を有することが明らかになった。
【0156】
実施例24〜44:光学活性Rh触媒を使用する非対称ヒドロホルミル化
これらの実施例は、全て、同じ一般的手順を使用して実施した。窒素雰囲気下で、Rh(CO)2(acac)(5.6mg、0.022ミリモル)及び試験すべき配位子(1.1当量/Rh)を、アセトン(5mL)中に溶解させた。得られた溶液に、0.5mLのアルケンを添加した。この溶液を8本の平行な機械式攪拌付き圧力反応器からなる反応器システムに移した。この平行反応器は、それぞれ個々の温度及び圧力コントロールを有している。それぞれの反応器の全体積は15mLである。触媒溶液を装入して、反応器を所望の温度まで加熱し、次いで、150psiの1:1 H2/COで加圧した。反応物を一定圧力下で3時間攪拌し、その後、反応器を大気圧に開放した。次いで、キラル固定相ガスクロマトグラフィーによる分析のために、サンプルを取り出した。酢酸ビニルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、2−アセトキシプロピオンアルデヒド及び3−アセトキシプロピオンアルデヒドのエナンチオマーを分割することができた、スペルコ(Supelco)BETA Dex−225(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。シアン化アリルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、3−ホルミルブチロニトリル及び4−ホルミルブチロニトリルのエナンチオマーを分割することができた、キラルデックス(Chiraldex)A−TA(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。これらのデータを、表I及び表IIに示す。
【0157】
比較例1:キラファイト−Rh触媒を使用する非対称ヒドロホルミル化
窒素雰囲気下で、Rh(CO)2(acac)(5.6mg、0.022ミリモル)及びキラファイト(1.1当量/Rh)を、アセトン(5mL)中に溶解させた。得られた溶液に、0.5mLのアルケンを添加した。この溶液を8本の平行な機械式攪拌付き圧力反応器の1個の中に移した。触媒溶液を装入して、反応器を所望の温度まで加熱し、次いで、150psiの1:1 H2/COで加圧した。反応物を一定圧力下で3時間攪拌し、その後、反応器を大気圧に開放した。次いで、キラル固定相ガスクロマトグラフィーによる分析のために、サンプルを取り出した。酢酸ビニルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、2−アセトキシプロピオンアルデヒド及び3−アセトキシプロピオンアルデヒドのエナンチオマーを分割することができた、スペルコBETA Dex−225(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。シアン化アリルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、3−ホルミルブチロニトリル及び4−ホルミルブチロニトリルのエナンチオマーを分割することができた、キラルデックスA−TA(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。これらのデータを、表1及び表2に示す。
【0158】
比較例2:ビナホス−Rh触媒を使用する非対称ヒドロホルミル化
窒素雰囲気下で、Rh(CO)2(acac)(5.6mg、0.022ミリモル)及びビナホス(1.1当量/Rh)を、アセトン(5mL)中に溶解させた。得られた溶液に、0.5mLのアルケンを添加した。この溶液を8本の平行な機械式攪拌付き圧力反応器の1個の中に移した。触媒溶液を装入して、反応器を所望の温度まで加熱し、次いで、150psiの1:1 H2/COで加圧した。反応物を一定圧力下で3時間攪拌し、その後、反応器を大気圧に開放した。次いで、キラル固定相ガスクロマトグラフィーによる分析のために、サンプルを取り出した。酢酸ビニルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、2−アセトキシプロピオンアルデヒド及び3−アセトキシプロピオンアルデヒドのエナンチオマーを分割することができた、スペルコBETA Dex−225(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。シアン化アリルヒドロホルミル化サンプルを、エナンチオマー過剰(%ee)及び位置選択率(b/l)の決定のために、3−ホルミルブチロニトリル及び4−ホルミルブチロニトリルのエナンチオマーを分割することができた、キラルデックスA−TA(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用して分析した。これらのデータを、表I及び表IIに示す。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【0161】
実施例45:配位子Iを使用する生のシアン化アリルのヒドロホルミル化
25mLの機械式攪拌付きオートクレーブに、Rh(CO)2(acac)(31.6mg、0.122ミリモル)及びビスホスファイトI(159mg、0.167ミリモル)を装入した。シアン化アリルを、溶解した酸素を除去するために窒素で散布し、そしてオートクレーブに添加した。反応器を1:1 H2/COでフラッシュし、次いで108psiaに加圧した。この反応混合物を108psiaのH2/CO下で18時間30℃で攪拌した。キラルデックスA−TA(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用するキラルGC分析によって、79%ee及び19:1b/lでの完全な転化が示された。
【0162】
実施例46:配位子Iを使用するクロトニトリルのヒドロホルミル化
窒素雰囲気下で、Rh(CO)2(acac)(5.6mg、0.022ミリモル)及びビスホスファイトI(29.2mg、0.031ミリモル)を、アセトン(5mL)中に溶解させた。得られた溶液に、0.5mLのクロトニトリルを添加した。この溶液を、8本の平行な機械式攪拌付き圧力反応器の1個に移した。反応器を30℃まで加熱し、次いで150psiの1:1 H2/COで加圧した。反応物を一定圧力下で3時間攪拌し、その後、反応器を大気圧に開放した。キラルデックスA−TA(30m×0.25mm、250μm膜厚さ)カラムを使用するキラルGC分析によって、75%eeでの3−ホルミルブチロニトリルの生成が示された。GCによって、直鎖位置異性体は検出されなかった。
【0163】
本発明を幾つかの前の実施例によって例示したが、本発明はこれらによって限定されるとして解釈されるべきではなく、むしろ、本発明は前に開示されたような一般的な範囲を包含する。種々の修正及び態様を、その精神及び範囲から逸脱することなく行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロキラル又はキラルオレフィン性不飽和有機化合物を、一酸化炭素及び水素と、光学活性金属−配位子錯体触媒の存在下に、反応させて、光学活性アルデヒド生成物を製造することを含んでなるヒドロホルミル化方法であって、前記光学活性金属−配位子錯体触媒が式:
【化1】

[式中、それぞれのWは、独立に、酸素又はアルキルアミド(−NR)、アリールアミド(−NAr)、シリルアミド(−NSiR3)若しくは−NHであり、それぞれのZ及びYは、同じか又は異なっており、そして水素以外の置換基であり、それぞれのZ’及びY’は、同じか又は異なっており、そして水素;炭素、窒素、酸素又はケイ素を介してビアリール部分に結合された置換基及びハロゲンから選択され、Z及びZ’は、任意的に橋架けされて、置換又は非置換の環式炭化水素残基を形成することができ、Xは、対応するHW−X−WH前駆体が光学的に活性でないような置換又は非置換の炭化水素残基である]
を有する光学的に活性な配位子で錯化された金属を含んでなるヒドロホルミル化方法。それぞれのWが酸素である、請求項1に記載の方法。
【請求項2】
それぞれのYが、同じものであり、そして、第三級アルキル、トリアルキルシリル及びアリールから選択された置換基である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
それぞれのYが第三級アルキルである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
それぞれのYがt−ブチルである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
W−X−Wが2,2’−ジヒドロキシビフェニルから誘導される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Yがt−ブチルであり、W−X−Wが2,2’−ジヒドロキシビフェニルから誘導され、そしてZ及びZ’がメチルである請求項1に記載の方法。
【請求項7】
光学活性金属−配位子錯体中の金属が第VIII族、第IB族及び第VIB族金属から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
光学活性金属−配位子錯体中の金属が第VIII族金属である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
第VIII族金属がロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)及びこれらの混合物から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項10】
第VIII族金属がロジウムである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
光学活性金属−配位子錯体触媒が一酸化炭素で更に錯化されている請求項1に記載の方法。
【請求項12】
添加された遊離配位子の存在下で実施する請求項1に記載の方法。
【請求項13】
プロキラル又はキラルオレフィン性不飽和有機化合物が置換又は非置換のオレフィンを含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
オレフィンが、構造:
【化2】

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項15】
オレフィンが構造:
【化3】

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項16】
オレフィンが構造:
【化4】

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項17】
オレフィンが構造:
【化5】

を有する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
置換又は非置換のオレフィンがp−イソブチルスチレン、2−ビニル−6−メトキシナフチレン、3−エテニルフェニルフェニルケトン、4−エテニルフェニル−2−チエニルケトン、4−エテニル−2−フルオロビフェニル、4−(1,3−ジヒドロ−1−オキソ−2H−イソインドール−2−イル)スチレン、2−エテニル−5−ベンゾイルチオフェン、3−エテニルフェニルフェニルエーテル、プロペニルベンゼン、イソブチル−4−プロペニルベンゼン、フェニルビニルエーテル、シアン化アリル、酢酸ビニル、クロトニトリル、α−(p−トリフルオロメチルフェノキシ)スチレン又は塩化ビニルからなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項19】
オレフィンがシアン化アリルである請求項1に記載の方法。
【請求項20】
オレフィンが酢酸ビニルである請求項1に記載の方法。
【請求項21】
オレフィンがクロトニトリルである請求項1に記載の方法。
【請求項22】
光学活性生成物が50%よりも大きいエナンチオマー過剰を有する請求項1に記載の方法。
【請求項23】
光学活性生成物が75%よりも大きいエナンチオマー過剰を有する請求項1に記載の方法。
【請求項24】
光学活性生成物が90%よりも大きいエナンチオマー過剰を有する請求項1に記載の方法。
【請求項25】
キラルオレフィン性不飽和有機化合物がモノ置換された末端オレフィンであり、そして分枝鎖生成物の直鎖生成物に対する比が4:1よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項26】
キラルオレフィン性不飽和有機化合物がモノ置換された末端オレフィンであり、そして分枝鎖生成物の直鎖生成物に対する比が10:1よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項27】
キラルオレフィン性不飽和有機化合物がモノ置換された末端オレフィンであり、そして分枝鎖生成物の直鎖生成物に対する比が20:1よりも大きい請求項1に記載の方法。
【請求項28】
更に、光学活性生成物を誘導することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項29】
光学活性生成物を誘導することを更に含み、その誘導反応が酸化、還元、縮合、アミノ化、エステル化、アルキル化又はアシル化反応を含む請求項1に記載の方法。
【請求項30】
式:
【化6】

[式中、それぞれのWは、独立に、酸素又はアルキルアミド(−NR)、アリールアミド(−NAr)、シリルアミド(−NSiR3)若しくは−NHであり、それぞれのZ及びYは、同じか又は異なっており、そして水素以外の置換基であり、それぞれのZ’及びY’は、同じか又は異なっており、そして水素;炭素、窒素、酸素又はケイ素を介してビアリール単位に結合された置換基及びハロゲンから選択され、Z及びZ’は、任意的に橋架けされて、置換又は非置換の環式炭化水素残基を形成することができ、Xは、対応するHW−X−WHが光学的に活性でないような置換又は非置換の炭化水素残基である]
を有する光学活性配位子。
【請求項31】
Wが酸素である請求項30に記載の配位子。
【請求項32】
それぞれのYが、同じものであり、そして、第三級アルキル、トリアルキルシリル及びアリールから選択された置換基である請求項30に記載の配位子。
【請求項33】
それぞれのYが第三級アルキルである請求項31に記載の配位子。
【請求項34】
それぞれのYがt−ブチルである請求項30に記載の配位子。
【請求項35】
W−X−Wが2,2’−ジヒドロキシビフェニルから誘導される請求項30に記載の配位子。
【請求項36】
Yがt−ブチルであり、W−X−Wが2,2’−ジヒドロキシビフェニルから誘導され、そしてZ及びZ’がメチルである請求項30に記載の配位子。
【請求項37】
式:
【化7】

[式中、それぞれのWは、独立に、酸素又はアルキルアミド(−NR)、アリールアミド(−NAr)、シリルアミド(−NSiR3)若しくは−NHであり、それぞれのZ及びYは、同じか又は異なっており、そして水素以外の置換基であり、それぞれのZ’及びY’は、同じか又は異なっており、そして水素;炭素、窒素、酸素又はケイ素を介してビアリール単位に結合された置換基及びハロゲンから選択され、Z及びZ’は、任意的に橋架けされて、置換又は非置換の環式炭化水素残基を形成することができ、Xは、対応するHW−X−WHが光学的に活性でないような置換又は非置換の炭化水素残基である]
を有する光学活性配位子で錯化された金属を含む光化学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項38】
金属が第VIII族、第IB族及び第VIB族金属から選択される請求項37に記載の光学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項39】
金属が第VIII族金属である請求項37に記載の光学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項40】
金属がロジウム(Rh)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)及びこれらの混合物から選択された第VIII族金属である請求項37に記載の光学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項41】
金属がロジウムである請求項37に記載の光学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項42】
一酸化炭素で更に錯化されている請求項37に記載の光学活性金属−配位子錯体触媒。
【請求項43】
(i)請求項30に記載の式を有する光学活性配位子で錯化された金属を含む光学活性金属−配位子錯体触媒、(ii)有機溶媒及び(iii)請求項29に記載の遊離配位子を含む光学活性金属−配位子錯体触媒前駆体組成物。
【請求項44】
請求項1に記載の方法によって製造された光学活性生成物。

【公表番号】特表2006−521385(P2006−521385A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508980(P2006−508980)
【出願日】平成16年3月2日(2004.3.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/006291
【国際公開番号】WO2004/094442
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ インコーポレイティド (1,383)
【Fターム(参考)】