説明

アクセル開度推定装置およびエンジン音生成装置

【課題】アクセル機構にセンサを取り付けないで、アクセル開度を推定することのできる技術を提供する。
【解決手段】車両走行時に、車速センサ210が検知する車速情報と、車速と巡航速度走行時のアクセル開度の関係を示す基準アクセル開度テーブル122により、基準アクセル開度及び推定される変速段度を取得する。また車速・原動機回転数相関テーブル121より、前述の車速における推定される原動機回転数を取得し、原動機回転数センサ220が検知する原動機回転数との差分を算出する。算出した差分と、車両ごとの特性で定められる補正係数を乗じた数値を、基準アクセル開度に加えることで、推定アクセル開度を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクセル開度推定装置およびエンジン音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両において、運転者が操作するアクセルペダル等の操作量を検出し、検出結果に応じてエンジン音などを生成する装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の装置においては、電気モータを駆動原とする低騒音車両において、運転状況に応じた疑似エンジン音を生成するために、エンジンに取り付けたスロットル開度センサ11でスロットル開度を検出したり、アクセル操作量センサ14でアクセル操作量を検出している。
【0003】
他にもアクセルペダルの踏込み量を検出する装置が、特許文献2に開示されている。この装置では、アクセルペダル15の揺動軸となるペダル軸24の一端に連結したペダル踏込み量検出部25でペダルの踏込み量を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−69487号公報
【特許文献2】特開2005−90347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アクセルペダルなどの操作子にセンサを取り付けることが難しい場合があり、また、操作性の面などから妥当でない場合もある。
本発明の目的は、アクセルペダルなどの操作子にセンサを取り付けることなく、アクセル開度を知ることができるアクセル開度推定装置およびエンジン音生成装置を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、車両の速度を検出する車速検出手段と、前記車両の原動機の回転数を検出する原動機回転数検出手段と、前記車両の一定条件下の走行における速度とこれに対応したアクセル開度および前記原動機の回転数との関係を記憶した記憶手段と、前記車速検出手段が検出した速度に対応するアクセル開度および前記原動機の回転数を、前記記憶手段を参照して取得する取得手段と、前記取得手段が取得した回転数と前記原動機回転数検出手段が検出した回転数とを比較し、この比較結果に基づいて前記取得手段が取得したアクセル開度を補正するアクセル開度補正手段と、を備えることを特徴とするアクセル開度推定装置を提供する。
【0007】
本発明の好ましい態様において、前記アクセル開度補正手段は、前記原動機回転数検出手段が検出した回転数が、前記取得手段が取得した回転数より大きい場合、その差分に応じて前記取得手段が取得したアクセル開度の値が大きくなるように補正を行い、前記原動機回転数検出手段が検出した回転数が、前記取得手段が取得した回転数より小さい場合、その差分に応じて前記取得手段が取得したアクセル開度の値が小さくなるように補正を行ってもよい。
【0008】
また、本発明は、前記アクセル開度推定装置と、前記アクセル開度補正手段により補正されたアクセル開度と前記原動機回転数検出手段が検出した回転数に基づいて、エンジン音波形を生成するエンジン音波形生成手段を備えることを特徴とするエンジン音生成装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクセルなどの操作子にセンサを取り付けることなく、アクセル開度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】エンジン音生成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】変速比ごとの原動機回転数と車速の関係を示したテーブルである。
【図3】車速に対する基準アクセル開度と推定原動機回転数の関係を示したテーブルの一例である。
【図4】5種類のエンジン音の波形と原動機回転数及びアクセル開度との関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
[実施形態の構成]
図1は、本発明の第1実施形態に係るエンジン音生成装置10の構成を示すブロック図である。図示のセンサ装置20は、車速情報を検出する車速センサ210と、原動機回転数を検出する原動機回転数センサ220で構成される。車速センサ210には、例えば、シャフトの回転を検出するセンサが用いられ、検出した回転数を表す車両走行速度情報(以下車速情報という)を出力する。
【0012】
原動機回転数センサ220は、車両の駆動源である原動機の回転数を検出し、この回転数を表す原動機回転数情報を出力する。原動機の回転数検出は、例えばイグニッションパルスを検出することによる測定、エンジン振動を検出することによる測定など周知の方法を用い、原動機回転数センサ220には、それらの方法に適合したセンサが用いられる。上述した車速情報と原動機回転数情報は、センサインターフェース130を介してアクセル開度算出部110へ入力される。
【0013】
アクセル開度算出部110は、CPU(Central Processing Unit)111と、このCPU111で用いられるプログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)112と、CPU111のワークエリアとして用いられるRAM(Random Access Memory)113とを有しており、これらは一般的なコンピュータを構成している。
【0014】
車両情報記憶部120には、車速と原動機回転数の関係を示すテーブル等の車両の特性を表す情報が格納されている。図2に示す車速・原動機回転数相関テーブル121は車両情報記憶部120に記憶されているテーブルの一つであり、原動機回転数と車速との関係を、変速機の変速段度毎に現したテーブルである。車速・原動機回転数相関テーブル121においては、巡航走行をしているときの車速と原動機回転数の関係を示している。この車速・原動機回転数相関テーブル121に対応して、各巡航速度を達成するためのパーシャルアクセル開度と変速段度の対応関係を示す基準アクセル開度テーブル122が車両情報記憶部120内に設けられている。
【0015】
この基準アクセル開度テーブル122の一例を図3に示す。この基準アクセル開度テーブル122には、例えば、低速から高速に至る車速について所定の車速範囲ごとに変速段度をあらかじめ定めて、各車速及びあらかじめ定めた変速段度(以下、基準変速段度と言う)に対応したパーシャルアクセル開度として基準アクセル開度が設定されている。図3のテーブルでは、車速が40Km/hのとき、基準変速段度を3速として、基準アクセル開度を12.5%と設定している。同様に、車速が30Km/hのときは、基準変速段度をaとして、基準アクセル開度をA%と設定している。この場合の基準変速段度は、各車速ごとに、一般の自動変速装置によって標準的に選択される変速段度を設定してもよく、また、例えば、3速の速度領域を広くとるなど、任意の設定をしてもよい。また、いわゆる無断変速機とよばれる連続可変トランスミッションを搭載した車両においては、各速度と連続可変トランスミッションの変速比との対応関係に対して、アクセル開度を対応付けるテーブルにすればよい。
【0016】
エンジン音記憶部320には、エンジン音をサンプリングしたデータが記憶されており、エンジン音生成部310はエンジン音記憶部320内のサンプリングデータを用いて擬似エンジン音を生成する。
【0017】
本実施形態においては、エンジン音記憶部320内には5種類のサンプリングデータが記憶されている。図4に、これらのサンプリングデータがどのような状況に対応したデータであるかを示す。すなわち、5種類のサンプリングデータに対応する波形である波形1から波形5は、各々図4に示す縦軸のアクセル開度と横軸の原動機回転数によって特定される状況における波形である。例えば、波形1は、アクセルを開かずに原動機がアイドリング状態のとき発せられるエンジン音の波形である。また、波形5は、アクセルを全開にして、原動機も最大に回転しているときに発せられるエンジン音の波形である。他の波形も同様に、各座標が示すアクセル開度及び原動機回転数の状態であるときのエンジン音の波形である。
【0018】
[実施形態の動作]
(アクセル開度推定)
次に、図1を用いてアクセル開度を推定する動作について説明する。車両が起動されると、車速センサ210は車速情報を検出し、原動機回転数センサ220は、原動機回転数情報を検出する。検出された車速情報及び原動機回転数情報は、センサインターフェース130を介してアクセル開度算出部110へ入力される。
【0019】
これにより、アクセル開度算出部110は、車両情報記憶部120に記憶された基準アクセル開度テーブル122を参照し、検出された車速に対応する基準アクセル開度及び基準変速段度を取得する。続いてアクセル開度算出部110は、車両情報記憶部120に記憶された車速・原動機回転数相関テーブル121を参照し、検出された車速及び取得された基準変速段度に対応する推定原動機回転数を取得する。
【0020】
ここで、基準アクセル開度及び推定原動機回転数は、巡航走行時を想定したものであるから、車両が加速や減速を行っていたり、あるいは半クラッチ状態であったなどの条件によっては、実際の走行時のアクセル開度、原動機回転数と差異が生じる。そこで、本実施形態においては、原動機回転数センサ220が検出した実際の原動機回転数と、推定原動機回転数の差分を算出し、この差分の値を利用して、基準アクセル開度を補正する。
【0021】
具体的には、この差分の値にあらかじめ定められた値(以後「補正の係数」と言う)を掛けて、基準アクセル開度に加えることで、補正後のアクセル開度を算出し、これをアクセル開度の推定値とする。この補正の係数は、アクセル開度推定値を算出するために定められる数値であり、車種もしくは車両ごとにあらかじめ測定等を行い定められる。この補正係数は、CPU111が用いるROM112内のプログラムに予め設定しておいてもよく、RAM113や車両情報記憶部120に記憶して、CPU111が適宜参照するようにしてもよい。なお、タイヤの空気圧センサや加速度センサ等で、走行中の車両の状態を検出した数値を元に、この補正の係数を増減させてもよい。
【0022】
次に、アクセル開度推定動作の具体例について説明する。補正の係数が0.02と定められていたとする。そして、車両が時速40kmで走行中に、検出された原動機回転数が3700rpmだった場合、基準アクセル開度テーブル122に基づいて、車速40km/hに対応する基準変速段度3を求め、さらに車速・原動機回転数相関テーブル121において車速40km/h、基準変速段度3速に対応する原動機回転数2000rpmを推定原動機回転数として求める。そして、検出された原動機回転数と推定原動機回転数の差に補正の係数を掛け、基準アクセル開度に加えると、12.5+(3700−2000)×0.02=46.5(%)となる。
これは、車速40km/hを一定に保って走行するよりも検出された原動機回転数が大きい場合の例であったが、この例では加速をするため原動機を多く回転させている状態と推定されるので、アクセル開度も増加するように補正されている。
【0023】
さらに一例を示す。前述の例で検出された原動機回転数が1600rpmだったとすると、この場合のアクセル開度推定値は、12.5%+(1600−2000)×0.02=4.5(%)となる。
これは、車両が減速中であると推定されるので、アクセル開度が減少するように補正されている。
以上のように、原動機回転数センサ220が検出した実際の原動機回転数と推定原動機回転数との差分値を利用して基準アクセル開度を補正することにより、任意の速度におけるアクセル開度が推定される。
【0024】
(エンジン音生成)
続いて、エンジン音生成部310が、擬似エンジン音を生成する動作について説明する。アクセル開度算出装置110により算出されたアクセル開度の推定値と、原動機回転数センサ220により検出された原動機回転数は、それぞれエンジン音生成部310に入力される。エンジン音生成部310は、これらアクセル開度推定値と原動機回転数を元に、エンジン音記憶部320内の5種類のサンプリングデータを適宜合成してエンジン音波形を生成する。
【0025】
例えば、図4に示すように、原動機回転数がX1、アクセル開度推定値がY1である場合、これらの条件に対応する座標上の点Pに近接する3つのエンジン音の波形(この場合は波形1〜3)を合成の対象とする。このとき、波形1〜3を示す3つの座標と点Pとの距離に応じて各サンプリングデータの重み付けをする。こうして重み付けされた3つのサンプリングデータを合成して点Pの条件にあったエンジン音波形を生成する。なお、原動機回転数とアクセル開度推定値が示す座標に対して、近接する3つのエンジン音の波形を選択したが、この数は予め定めた任意の数でよい。
【0026】
次に、エンジン音生成部310によって生成された擬似エンジン音の波形は、図示せぬアンプによって増幅された後、外部のスピーカー等に出力されることにより、擬似エンジン音が放音される。
【0027】
なお、本実施形態においては、5種類のサンプリングデータを用いたが、それ以上のサンプリングデータを用いてもよい。
【0028】
<変形例1>
上述した実施形態においては、原動機回転数センサ220が検出した実際の原動機回転数と推定原動機回転数との差分値を利用して基準アクセル開度を補正したが、差分に限らず両者の比などを用いて補正を行っても良い。要するに、原動機回転数センサ220が検出した実際の原動機回転数と推定原動機回転数との比較に基づいて補正が行われる構成であればよい。
<変形例2>
上述した実施形態においては、推定したアクセル開度を擬似エンジン音の生成に用いたが、推定アクセル開度の利用はこれに限らない。例えば、推定アクセル開度に基づいて、表示装置にアクセル開度に対応した画像を表示し、運転者に知らせるようにしてもよい。また、推定アクセル開度の情報を用いて、他の機器(照明、空調機器、ファンなど)を制御してもよい。
<変形例3>
上述した実施形態においては、予め記憶した波形データに対して重み付けを行って合成し、合成後のデータに基づいてエンジン音波形を生成したが、エンジン音波形の生成方法は他の方法を用いてもよい。例えば、正弦波合成方法を用いてもよく、この方法によって生成された波形に対して、各種のエンベロープ制御や変調制御を行うようにしてもよい。また、波形読み出しに際して、その読み出しアドレスを変調するなどの方法でもよい。要するに、推定されたアクセル開度に対応して、波形合成の仕方や変調の仕方を変え、これにより、エンジン音の波形が変化するような構成とすればよい。
<変形例4>
上述した実施形態においては、巡航走行(定地上を一定速度で走行)をしているときの車速と原動機回転数の関係及び各巡航速度を達成するためのパーシャルアクセル開度と変速段度の対応関係に基づいてアクセル開度を推定したが、路面の傾斜、路面とタイヤの摩擦状態及び空気抵抗等の条件を一定にした状態において計測されたこれらの値の対応関係に基づいてアクセル開度を推定してもよい。
【符号の説明】
【0029】
10…エンジン音生成装置、20…センサ装置(車速検出手段)、110…アクセル開度算出装置(取得手段:アクセル開度補正手段)、111…CPU(取得手段)、112…ROM、113…RAM、120…車両情報記憶部(記憶手段)、121…車速・原動機回転数相関テーブル(記憶手段)、122…基準アクセル開度テーブル(記憶手段)、130…センサインターフェース、210…車速センサ(車速検出手段)、220…原動機回転数センサ(原動機回転数検出手段)、310…エンジン音生成部(エンジン音波形生成手段)、320…エンジン音記憶部(エンジン音波形生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の速度を検出する車速検出手段と、
前記車両の原動機の回転数を検出する原動機回転数検出手段と、
前記車両の一定条件下の走行における速度とこれに対応したアクセル開度および前記原動機の回転数との関係を記憶した記憶手段と、
前記車速検出手段が検出した速度に対応するアクセル開度および前記原動機の回転数を、前記記憶手段を参照して取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した回転数と前記原動機回転数検出手段が検出した回転数とを比較し、この比較結果に基づいて前記取得手段が取得したアクセル開度を補正するアクセル開度補正手段と
を備えることを特徴とするアクセル開度推定装置。
【請求項2】
前記アクセル開度補正手段は、
前記原動機回転数検出手段が検出した回転数が、前記取得手段が取得した回転数より大きい場合、その差分に応じて前記取得手段が取得したアクセル開度の値が大きくなるように補正を行い、
前記原動機回転数検出手段が検出した回転数が、前記取得手段が取得した回転数より小さい場合、その差分に応じて前記取得手段が取得したアクセル開度の値が小さくなるように補正を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のアクセル開度推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアクセル開度推定装置と、
前記アクセル開度補正手段により補正されたアクセル開度および前記原動機回転数検出手段が検出した回転数に基づいて、エンジン音波形を生成するエンジン音波形生成手段と
を備えることを特徴とするエンジン音生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−12579(P2011−12579A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156031(P2009−156031)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】