説明

アクチュエータ及び液体噴射装置

【課題】外気圧の変動に影響されることなく、常に所望の圧力が発生できる静電アクチュ
エータ、液滴の吐出を適切に行うことのできる静電式液体噴射装置を提案することにある

【解決手段】静電式のインクジェットヘッド1は、インクノズル21に連通した圧力室6
と、大気開放された大気圧室12を備え、圧力室6の底面には振動板5が形成され、この
振動板5と個別電極43の間に電圧を印加することにより、振動板5が静電気力により振
動して、インク液滴の吐出が行われる。密閉室としての振動室41は圧力補償室49に連
通しており、圧力補償室49の底面は外気圧の変動に応じて面外方向に変位可能な変位板
16が形成されている。変位板16が変位することにより、圧力補償室49の容積が増減
し、これに連通している各振動室41の内圧が外気圧に一致するように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電気力により振動板を変位させることにより圧力を発生させる静電アクチ
ュエータの製造方法に関するものであり、また、これを応用した、インクジェット等の液
滴を吐出する静電式液体噴射装置に関するものである。さらに詳しくは、外気圧変動にか
かわりなく常に適正な液滴の吐出動作を行うことのできる、例えばインクジェットヘッド
・プリンタ等の静電式液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電式液体装置の一例として、インクジェットプリンタを例にとり以下、背景技術を説
明する。静電式インクジェットヘッドを備えたインクジェットプリンタは、例えば、特開
平6−55732号公報に開示されている。この形式のインクジェットヘッドは、静電気
力によってインク液が貯留されている圧力室の一部を形成している振動板を振動させるこ
とにより、圧力室内のインクをインクノズルから吐出するものである。従って、外気圧が
変化すると、それに伴って、インク液滴の吐出特性が変動し、所望のインク液滴を吐出で
きないおそれがある。
【0003】
すなわち、静電式のインクジェットヘッドでは、圧力室の一部を規定している振動板を
、電極板に対して狭いギャップで対峙させ、これらの間に駆動電圧を印加することにより
、振動板を静電気力により振動させるようになっている。振動板と電極板のギャップは1
乃至2μm程度と極めて狭いので、これらの間に塵などが侵入して振動板の振動が阻害さ
れることのないように、振動板と電極板の間が封止されて密閉室となっている。
【0004】
外気圧が変動すると、圧力室と密閉室を仕切っている振動板は、密閉室の内圧が外気圧
に一致する方向に変位する。この結果、電圧が印加されていない状態において既に振動板
が変位した状態となる。よって、外気圧が変動すると、同一の駆動電圧を印加した場合に
おいても、振動板の振動特性が異なり、インク液滴の吐出特性(吐出一回当たりの液滴の
量、液滴の吐出速度)が変動してしまう。
【0005】
ここで、インクジェットプリンタとしては、特開平4−284255号公報に開示され
ているバブルジェット(登録商標)式のインクジェットヘッドを備えたものが知られてい
る。当該公開特許公報には、周囲の気圧を検出し、電気熱変換体に印加する電圧波形、す
なわち、インクジェットヘッドの駆動電圧波形を外気圧に応じて変化させ、これにより、
外気圧の変動に関わらずに常に安定したインク液滴の吐出動作を行わせる方法が開示され
ている。
【0006】
この方法は、圧力室内のインク液を加熱・発泡するバブルジェット(登録商標)方式の
インクジェットヘッドには有効であるが、静電式インクジェットヘッドに適用した場合に
は効果が少ない。特に、高地のように著しく気圧が通常と異なる環境では振動板を駆動す
る駆動電圧波形を調整するのみでは、液滴の吐出を適切に行うことができない場合がある

【0007】
ここで例示した、インクジェットプリンタ以外にも、例えば、内燃機関等の燃料噴射装
置、香料等の液体を吐出する噴射装置、マイクロポンプ等にも静電アクチュエータを適用
できるが、これらの装置においても、外気圧の変動によって、液滴の吐出特性が変動する
ことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−284255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、外気圧の変動に影響されることなく、常に所望の圧力が発生できる静
電アクチュエータ、液滴の吐出を適切に行うことのできる静電式液体噴射装置を提案する
ことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の静電アクチュエータは、振動板と、この振動板
に対峙している電極板と、この電極板および前記振動板の間に形成された密閉室とを有し
、前記振動板および前記電極板の間に電圧を印加することにより前記振動板を静電気力に
より変位させる静電アクチュエータにおいて、前記密閉室の内圧と外気圧の圧力差を低減
するための圧力補償手段を有していることを特徴としている。
【0011】
前記圧力補償手段としては、前記密閉室に連通していると共に外気圧に応じて容積を増
減可能な圧力補償室を採用することができる。この場合、圧力補償室の全体を膨張収縮可
能な素材から形成することもできるが、前記圧力補償室の一部を、外気圧に応じて面外方
向に変位可能な変位板により規定すればよい。
【0012】
ここで、前記変位板は、前記圧力補償室の対向内壁から僅かに離れているのみなので、
外気圧が高い場合には当該変位板が変位して対向内壁に当たり、圧力補償機能が阻害され
るおそれがある。また、前記変位板が凹状に変位するとそのコンプライアンスが小さくな
り、やはり圧力補償機能が阻害されるおそれがある。そこで、当該変位板は、前記圧力補
償室の対向内壁から離れる方向に凸となった曲面形状となっていることが望ましい。
【0013】
次に、前記圧力補償室の一部に、外気圧に応じて変位する変位板の代わりに、面外方向
に変位可能な変位板を配置し、当該変位板と電極板とを対向配置し、静電気力によって当
該変位板を外気圧の変化に応じて変位させるようにしてもよい。
【0014】
一方、前記圧力補償手段は、前記圧力補償室の代わりに、前記密閉室の封入気体を少な
くとも加熱可能な発熱体を備えた構成とすることができる。発熱体によって封入気体を加
熱すれば、密閉室の内圧が高まるので、外気圧との圧力差を緩和することができる。
【0015】
静電アクチュエータを構成する材料には、精密な加工を施すことが可能な半導体基板を
用いることが好ましい。これにより、例えば、半導体基板にボロンをドープした後、エッ
チングし、ボロンドープ層を変位板とすれば、好ましい特性(コンプライアンス)の変位
板を得ることができる。また、静電アクチュエータをコンパクトに構成するためには、前
記振動板、変位板を、共通の半導体基板を用いて区画形成することが望ましい。
【0016】
また、本発明の静電式液体噴射装置は、上述の圧力補償機能を備えた静電アクチュエー
タを液滴を吐出するための圧力発生源として用いたものである。即ち、液滴を吐出するた
めのノズルと、ノズルが連通していると共に液体を保持している圧力室を備え、この圧力
室の一部を設けられた振動板を上述の静電アクチュエータにより振動させて、前記圧力室
内の液体に対して、液滴を吐出するための圧力変動を与えるものである。
【0017】
液体吐出装置として一般的なインクジェットヘッドには、複数個のインクノズルが備わ
っており、各インクノズルにそれぞれ前記圧力室が対応して設けられて、各圧力室に対し
てインク液を供給するための共通インク室(共通液室)が設けられる。
【0018】
ここで、共通インク室には、そこに連通している各圧力室の圧力変動が当該共通インク
室を経由して隣接した圧力室の側に伝搬することのないように、面外方向に変位可能なダ
イヤフラムが形成される場合がある。この様なインクジェットヘッドに、本発明を適用す
る場合は、ダイヤフラムと前記変位板とを兼用することができる。また、装置もしくはそ
の一部(インクジェットヘッド)をコンパクトに構成するためには、前記圧力室、前記共
通インク室および前記圧力補償室を、共通の半導体基板を用いて区画形成することが望ま
しい。
【0019】
特に、前記の静電気力によって圧力補償室の前記変位板を変位させる構成の静電アクチ
ュエータを備えた液体噴射装置においては、外気圧を検出する外気圧検出手段と、検出さ
れた外気圧に応じて前記変位板を駆動する制御手段とを有する構成とすることができる。
【0020】
また、前記の発熱体を備えた静電アクチュエータを有する液体噴射装置においては、外
気圧を検出する外気圧検出手段と、検出された外気圧に応じて前記発熱体を駆動する制御
手段とを有する構成とすることができる。
【0021】
ここで、前記外気圧検出手段としては、前記振動板および前記電極板の間の静電容量を
検出する静電容量検出手段を備え、検出された前記静電容量に基づき外気圧を推定する構
成のものを採用してもよい。
【0022】
本発明の静電アクチュエータの製造方法は、振動板と、この振動板に対峙している電極
板と、この電極板および前記振動板の間に形成された振動室とを有し、前記振動板および
前記電極板の間に電圧を印加することにより前記振動板を静電気力により変位させる静電
アクチュエータの製造方法において、前記振動室に連通する圧力補償室を形成する工程と
、当該圧力補償室の一部に、外気圧に応じて変位可能な変位板を、前記圧力補償室の対向
内壁から離れる方向に、凸となった曲面形状に撓んだ形状に形成する工程と、前記振動室
と共に、前記圧力補償室を、外気から遮断し封止する工程とを有することを特徴としてい
る。更に、前記圧力補償室を封止する気圧を調整してもよい。これにより、変位板の初期
的な撓みが調整され、所望のコンプライアンス特性を有する変位板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を適用可能なインクジェットプリンタの機構の概要を示す概略構成図。
【図2】本発明の第1の実施例に係るインクジェットプリンタのインクジェットヘッドを示す分解斜視図。
【図3】図2のインクジェットヘッドの概略縦断面図。
【図4】図2のインクジェットヘッドの概略横断面図。
【図5】図2のインクジェットヘッドの電極配置を示す説明図である。
【図6】図1のインクジェットプリンタの制御系を示す概略構成図。
【図7】本発明の第2の実施例に係るインクジェットヘッドの圧力補償手段の主要部分を示す概略部分断面図。
【図8】図7のインクジェットヘッドの変位板のコンプライアンス特性を示すグラフ。
【図9】図7のインクジェットヘッドの変位板の挙動を示す説明図。
【図10】本発明の第3の実施例に係るインクジェットヘッドの主要部分を示す概略部分断面図。
【図11】図10のインクジェットヘッドの振動室と圧力補償室の配置関係を示す説明図。
【図12】振動室と圧力補償室の配置の別の例を示す説明図。
【図13】図10のインクジェットヘッドの改良例を示す概略部分断面図。
【図14】(A)、(B)は、本発明の第4の実施例に係るインクジェットヘッドの概略部分断面図、および振動室と圧力補償室の配置関係を示す説明図。
【図15】(A)、(B)は、図14のインクジェットヘッドの圧力補償動作を示す説明図。
【図16】図14のインクジェットヘッドの変位板の駆動制御機構を示す概略構成図。
【図17】本発明の第5の実施例に係るインクジェットヘッドの主要部分の概略部分断面図。
【図18】図17のインクジェットヘッドの熱制御体の制御機構の概略構成図。
【図19】図17のインクジェットヘッドの熱制御体の制御機構の別の例を示す概略構成図。
【図20】本発明のインクジェットヘッドの別の例を示すための説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお、これらの実施例は、インクジ
ェットプリンタを例にとって説明されているが、インクジェットプリンタ以外の液体吐出
装置、例えば燃料、香料等を噴射する装置、液状の薬品等に圧力を加える装置等にも、静
電アクチュエータを用いた装置であれば、本発明は適用可能である。
【0025】
また、これらの実施例は説明のためにあげるものである。従って、当業者であれば、こ
の例の各要素を均等なものに置換することが可能であり、これらの実施例も本発明の範囲
に含まれる。
【0026】
[第1の実施例]
図1〜図6には、本発明の第1の実施例に係るインクジェットヘッドが搭載されたイン
クジェットプリンタを示してある。
【0027】
(機構系の概要)
図1は本発明を適用したインクジェットプリンタの機構系の全体構成を示す概略構成図
である。本例のインクジェットプリンタ300の機構系は一般的なものであり、記録紙1
05を搬送するための搬送手段の構成要素であるプラテンローラ300と、このプラテン
ローラ300に対峙しているインクジェットヘッド1と、このインクジェットヘッド1を
プラテンローラ300の軸線方向である行方向(主走査方向)に往復移動させるキャリッ
ジ302と、インクジェットヘッド1に対してインクチューブ306を介してインクを供
給するインクタンク301を有している。
【0028】
303はポンプであり、インクジェットヘッド1にインク吐出不良が発生した場合等に
おいて、キャップ304、廃インクチューブ308を介して、インクを吸引して廃インク
溜め305に回収するために使用する。
【0029】
(インクジェットヘッド)
図2は本例のインクジェットヘッドの分解斜視図、図3は組み立てられたインクジェッ
トヘッドの概略縦断面図、図4はその概略縦断面図であり、図5はその電極配置を示す説
明図である。
【0030】
これらの図に示すように、インクジェットヘッド1は、インク液滴を基板の上面に設け
たインクノズルから吐出させるフェイスインクジェットタイプの静電式インクジェットヘ
ッドである。このインクジェットヘッド1は、キャビティプレート3を挟み、上側のノズ
ルプレート2、下側にガラス基板4がそれぞれ積層された3層構造となっている。
【0031】
キャビティプレート3は例えばシリコン基板であり、当該プレートの表面には、底板が
振動板5として機能する圧力室6を構成することになる凹部7と、凹部7の後部に設けら
れたインク供給口8を形成することになる細溝9と、各々の圧力室6にインクを供給する
ための共通インク室10を構成することになる凹部11とがエッチングによって形成され
ている。
【0032】
これに加えて、大気に連通した大気圧室12を構成することになる凹部13が、最も端
に位置している圧力室用の凹部7の隣接位置にエッチングによって形成されている。この
大気圧室12の底板部分が外気圧変動に応じて変位する変位板16として機能する。本例
では、この変位板16のコンプライアンスを、各振動板5のコンプライアンスの総和の約
1万倍以上となるように設定している。
【0033】
さらに、大気圧室12を外部に連通するための連通孔14を構成することになる細溝1
5も形成されている。キャビティプレート3の下面は鏡面研磨によって平滑化されている

【0034】
キャビティプレート3の上側に接合されるノズルプレート2は、キャビティプレート3
と同様に例えばシリコン基板である。ノズルプレート2において、圧力室6の上面を規定
している部分には各圧力室6に連通する複数のインクノズル21が形成されている。また
、共通インク室10の上面を規定する部分には共通インク室10にインクを供給するイン
ク供給孔22が形成されている。
【0035】
ノズルプレート2をキャビティプレート3に接合することにより、上記の凹部7,11
,13および細溝9,15が塞がれて、圧力室6、インク供給口8、共通インク室10、
大気圧室12および連通孔14のそれぞれが区画形成される。
【0036】
なお、インク供給孔22は、接続パイプ23およびインクチューブ306(図1参照)
を介してインクタンク301(図1参照)に接続される。インク供給孔22から供給され
たインクは、各インク供給口8を経由して独立した各圧力室6に供給される。
【0037】
キャビティプレート3の下側に接合されるガラス基板4は、シリコンと熱膨張率が近い
ホウ珪酸ガラス基板である。ガラス基板4において、各々の振動板5に対向する部分には
密閉室としての振動室41を構成することになる凹部42が形成されている。各凹部42
の底面には、各振動板5に対応する個別電極43が形成されている。個別電極43は、I
TOからなるセグメント電極部44と端子部45を有している。
【0038】
また、ガラス基板4における大気圧室12の底板部分である変位板16に対向する部分
にも、凹部42と同一の深さの凹部46が形成されており、この凹部46は連通用凹部4
7を介して各凹部42に繋がっている。凹部46にもITOからなるダミー電極48が形
成されている。
【0039】
ガラス基板4をキャビティプレート3に接合することにより、各圧力室6の底面を規定
している振動板5と個別電極43のセグメント電極部44は、非常に狭い隙間Gを隔てて
対向する。この隙間Gはキャビティプレート3とガラス基板4の間に配置された封止剤2
0によって封止され、密閉状態の振動室41が形成される。また、大気圧室12の底板部
分である変位板16によって凹部46が塞がれて、外気圧の変動による各振動室41の圧
力を補償するための圧力補償室49が形成される。この圧力補償室49は連通用凹部47
によって形成された連通部50を介して各振動室41に連通した状態になる。
【0040】
振動板5は薄肉とされており、面外方向、すなわち、図3において上下方向に弾性変形
可能となっている。この振動板5は、各圧力室側の共通電極として機能する。隙間Gを挟
み、振動板5と、対応する各セグメント電極部44とによって、対向電極が形成されてい
る。
【0041】
振動板5と個別電極43との間には後述のヘッドドライバ220(図6参照)が接続さ
れている。ヘッドドライバ220の一方の出力は各個別電極43の端子部45に接続され
、他方の出力はキャビティプレート3に形成された共通電極端子26に接続されている。
キャビティプレート自体は導電性をもつために、この共通電極端子26から振動板5に電
圧を供給することができる。なお、より低い電気抵抗で振動板5に電圧を供給する必要が
ある場合には、例えば、キャビティプレート3の一方の面に金等の導電性材料の薄膜を蒸
着やスパッタリングで形成すればよい。本例では、キャビティプレート3とガラス基板4
の接続に陽極接合を用いているので、キャビティプレート3の流路形成面側に導電膜を形
成してある。また、前述のダミー電極48も、陽極接合時に変位板16がガラス基板の側
に貼りついてしまうことを防止するためのものである。
【0042】
(圧力補償動作)
この構成のインクジェットヘッド1においては、ヘッドドライバ220からの駆動電圧
が対向電極間に印加されると、対向電極間に充電された電荷による静電気力が発生し、振
動板5はセグメント電極部44の側へ撓み、圧力室6の容積が増加する。次にヘッドドラ
イバ220からの駆動電圧を解除して対向電極間の電荷を放電すると、振動板はその弾性
復帰力によって復帰し、圧力室6の容積が急激に収縮する。この時に発生する内圧変動に
より、圧力室6に貯留されたインクの一部が、圧力室6に連通しているインクノズル21
から記録紙に向かって吐出する。
【0043】
ここで、外気圧が変動した場合について説明する。例えば、平地から高地に移動した場
合には外気圧が低下する。この場合、各振動室41の内圧が変動しないとすると、当該内
圧は外気圧に比べて大幅に高くなる。この結果、圧力平衡状態を得るために、各振動室4
1の振動板5は図4において上方に撓み、各振動室41の容積を増加させることになる。
【0044】
しかしながら、本例では、各振動室41は連通部50を介して、圧力補償室49に連通
している。この圧力補償室49は変位板16を挟み、大気側に連通した大気圧室12に面
している。変位板16のコンプライアンスは各振動板5に比べて非常に大きい。よって、
振動板5が変位する前に、当該変位板16が図4において上方に変位して圧力補償室49
の容積が増加し、外気圧との圧力平衡状態が形成される。従って、各振動板5と個別電極
43のギャップが外気圧の変動に関係なく常に一定の値に保持される。
【0045】
以上のように、本例のインクジェットヘッド1においては、外気圧が変動しても、それ
が各振動板の振動特性に悪影響を及ぼすことが実質的に無い。よって、外気圧の変動にか
かわりなく、常に安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0046】
なお、本例のインクジェットヘッドにおいては、振動室41および圧力補償室49を平
面方向に形成している。すなわち、キャビティプレート3に圧力室用の凹部7を形成する
際、すなわち振動板5を形成する際に、同時に、振動板5の厚みとほぼ等しい変位板16
を形成している。よって、圧力補償機能を備えたインクジェットヘッドの製造が容易であ
る。また、変位板16は、ノズルプレート2によって覆われているので、この部分が破損
することの無い様に確実に保護できるという利点もある。さらに、このような保護部分は
ノズルプレート2の一部を利用しているので、別途、保護プレート等を設ける場合に比べ
て製造が容易であるという利点もある。
【0047】
(制御系)
なお、図6は本例のインクジェットプリンタ300の制御系の概略構成図である。この
制御系の中心をなす回路部分は例えば1チップマイクロコンピュータにより構成すること
ができる。図を参照して本例の制御系の概要を簡単に説明すると、201はプリンタ制御
回路であり、このプリンタ制御回路201には、アドレスバスおよびデータバスを含む内
部バス202,203,204を介して、RAM205、ROM206およびキャラクタ
ジェネレータROM(以降、CG−ROMという)207が接続されている。
【0048】
ROM206内には制御プログラムが格納されており、ここから呼び出されて起動する
制御プログラムに基づき、インクジェットヘッド1の駆動制御動作が実行される。RAM
205は駆動制御における作業領域として利用され、CG−ROM207には入力文字に
対応したドットパターンが展開されている。
【0049】
210はヘッド駆動制御回路であり、内部バス209を介して接続されているプリンタ
制御回路201の制御の下に、ヘッドドライバ220に対して駆動信号、クロック信号等
を出力する。また、データバス211を介して印刷データDATAが供給される。
【0050】
ヘッドドライバ220は例えばTTLアレイから構成されており、入力される駆動信号
に対応した駆動電圧パルスを生成して、これらを駆動対象となる個別電極43および共通
電極端子26に印加して、対応するインクノズル21からインク液滴の吐出を行わせる。
駆動電圧パルスを生成するために、ヘッドドライバ220には、接地電圧GND、駆動電
圧Vn等が供給されている。これらの電圧は電源回路230の駆動電圧Vccから生成さ
れるものである。
【0051】
次に、プリンタ制御回路201には、内部バス231を介してキャリッジモータ駆動制
御回路232が接続されている。キャリッジモータ駆動制御回路232は、モータドライ
バ233を介して、インクジェットヘッド1を担持しているキャリッジ302を往復移動
させるためのキャリッジモータ(図示せず)を駆動して、図において矢印234で示す行
方向にインクジェットヘッド1を移動させる。また、プリンタ制御回路201には、内部
バス241を介して搬送モータ駆動制御回路242が接続されている。搬送モータ駆動制
御回路242は、モータドライバ243を介して、搬送モータを駆動して、プラテンロー
ラ300に沿って記録紙105を図の矢印244で示す搬送方向に搬送制御する。
【0052】
[第2の実施例]
ここで、上記のインクジェットヘッド1における圧力補償用の変位板16は次に述べる
ように、平地における標準的な外気圧の下で平板状ではなく曲面状とすることもできる。
【0053】
図7は大気圧室12の側に凸状態に湾曲した曲面状の変位板16Aを備えたインクジェ
ットヘッド1Aの部分断面図である。この変位板16A以外の部位は図2〜図5に示すイ
ンクジェットヘッド1と同一である。
【0054】
このような形状をした変位板16Aは次のように製造することができる。キャビティプ
レート3のエッチングに先立って、変位板16Aを形成する部分に、ボロンをドープする
ことにより、シリコンのボロンドープ層を形成しておく。振動板5を形成するためのエッ
チング時に同時に当該ボロンドープ層をエッチングして変位板16Aを形成する。
【0055】
ボロンドープ層の部分は、ボロンが拡散されているので、他のシリコン部分に比べて膨
張している。また、当該ボロンドープ層が形成されている部位の両側部分はボロンがドー
プされていないシリコン部分によって膨張が拘束された状態にある。従って、当該ボロン
ドープ層の部分に薄い変位板16Aを形成すると、当該変位板16Aは、全体として面外
方向に凸状あるいは凹状に湾曲した曲面状になる。
【0056】
変位板16Aが形成されたキャビティプレート3の下側にはガラス基板4が陽極接合さ
れ、変位板16Aと、これに対峙するガラス基板の部分とによって密閉された圧力補償室
49が区画形成される。変位板16Aの反対側は大気圧室12に面している。従って、変
位板16Aは、図7に示すように、大気圧室12の側に凸の曲面状に撓む。
【0057】
このように大気圧室12の側に凸状に撓んだ変位板16Aを備えたインクジェットヘッ
ド1Aにおいては、外気圧が高い場合には、変位板16Aは圧力補償室49の側に押され
て撓む。よって、平坦な変位板16の場合に比べて、外気圧が高い場合の気圧変動をより
効果的に補償できる。
【0058】
しかしながら、このように大気圧側に凸の変位板16Aは、外気圧が圧力補償室49の
内圧(当該圧力補償室49を封止したときの気圧)よりも低い場合には、より凸状態とな
る方向に撓む必要があるので、そのコンプライアンスが小さくなる。このために、充分な
圧力補償機能を発揮できない場合が考えられる。
【0059】
図8は、変位板16Aの外気圧に対するコンプライアンスの変動特性を定性的に示す特
性曲線を示すグラフである。このグラフにおいて、横軸は外気圧を示し、縦軸はコンプラ
イアンスを示している。このグラフから分かるように、圧力補償室49の封止時の気圧よ
りも外気圧が低下する程、変位板16Aのコンプライアンスは小さくなり、非線形状態で
急激に低下する。すなわち、変位板16Aが撓みにくくなり、従って、圧力補償機能が急
激に低下してしまう。
【0060】
外気圧が低い場合、例えば高地においても変位板16Aのコンプライアンスが充分に高
くなるようにするためには、圧力補償室49を減圧封止することが望ましい。例えば、絶
対圧で650hPa±50hPa程度の圧力状態で圧力補償室49を減圧封止することが
望ましい。
【0061】
図9は減圧封止した場合の変位板16Aの挙動を示すための説明図である。この図にお
いて、実線は気密封止前の変位板16Aの状態を示し、点線は減圧封止を行った後の変位
板16Aの状態を示し、一点鎖線は、外気圧が高い場合の変位板16Aの状態を示す。
【0062】
このように、外気圧が高圧の場合においても、変位板16Aが、圧力補償室49の底面
(ダミー電極48の表面)に当たって機能しなくなることがない。また、図8のグラフか
ら分かるように、外気圧の変動に対して変位板16Aのコンプライアンスをほぼ線形関係
に保持することができるので、外気圧の変動に伴う補償を確実に行うことが可能になる。
【0063】
[第3の実施例]
図10および図11は、本発明を適用したインクジェットヘッドの第3の実施例を示す
概略断面図、および振動室と圧力補償室の配置関係を示す説明図である。本例のインクジ
ェットヘッド1Bの基本的な構造は上記のインクジェットヘッド1,1Aと同様であり、
キャビティプレート3Bを挟み、上下にそれぞれ、ノズルプレート2Bおよびガラス基板
4Bが積層された構造となっている。
【0064】
ノズルプレート2Bにはインクノズル21Bが形成されている。ノズルプレート2Bと
キャビティプレート3Bの間には、インクノズル21Bに連通している圧力室6Bと、各
圧力室6Bに対してインク供給室8Bを介して連通している共通インク室10Bが区画形
成されている。また、共通インク室10Bに隣接した位置には、大気圧室12Bが区画形
成されており、この大気圧室12Bは大気連通孔14Bを介して大気に連通している。
【0065】
大気圧室12Bの底面部分には薄い変位板16Bが形成されており、各圧力室6Bの底
面部分にも振動板5Bが形成されている。キャビティプレート3Bの下面とガラス基板4
Bの間には、振動板5Bを変位させるためのギャップを備えた振動室41Bと、変位板1
6Bを変位させるためのギャップを備えた圧力補償室49Bが区画形成されている。各振
動室41Bに圧力補償室49Bが連通している。これら振動室41Bの底面にはITOか
らなる個別電極43Bが形成され、圧力補償室49Bの底面にもITOからなるダミー極
48Bが形成されている。ここで、共通インク室10Bを形成しているノズルプレート2
Bの部分は面外方向に変位可能な変位板10aとされている。この変位板10aは、各圧
力室6B内での圧力変動が共通インク室10Bを介して隣接している圧力室6Bに伝搬す
るのを防止するためのものであり、圧力変動に応じて面外方向に弾性変位する。
【0066】
本例のインクジェットヘッド1Bにおいても、圧力補償室49Bを区画している変位板
16Bが外気圧の変動に応じて変位する。よって、各振動板5Bが外気圧の変動により変
位することを防止して、安定したインク吐出特性を保持できる。
【0067】
なお、大気圧室12B、圧力補償室49Bを複数形成する構成を採用することもできる
。図12には、2個の大気圧室と、これらに対応する2個の圧力補償室とを形成し、これ
に応じて、2つの変位板を配置した例を示してある。
【0068】
図13には、インクジェットヘッド1Bの改良例を示してある。このインクジェットヘ
ッド1Cも、キャビティプレート3Cを挟み、上下にそれぞれ、ノズルプレート2Cおよ
びガラス基板4Cが積層された構造となっている。ノズルプレート2Cにはインクノズル
21Cが形成されている。ノズルプレート2Cとキャビティプレート3Cの間には、イン
クノズル21Cが連通している圧力室6Cと、各圧力室6Cに対してインク供給室8Cを
介して連通している共通インク室10Cが区画形成されている。
【0069】
各圧力室6Cの底面部分には振動板5Cが形成されている。また、共通インク室10C
の底面部分には当該振動板5Cに比べて遥かにコンプライアンスが大きな変位板16Cが
形成されている。キャビティプレート3Cの下面とガラス基板4Cの間には、振動板5C
を変位させるためのギャップを備えた振動室41Cと、変位板16Cを変位させるための
ギャップを備えた圧力補償室49Cが区画形成されている。各振動室41Cに圧力補償室
49Cが連通している。これら振動室41Cの底面にはITOからなる個別電極43Cが
形成され、圧力補償室49Cの底面にもITOからなるダミー電極48Cが形成されてい
る。
【0070】
本例のインクジェットヘッド1Cにおいては、共通インク室10Cの底面部分に変位板
16Cを形成してある。従って、この変位板16Cは、上記のインクジェットヘッド1B
における変位板16Bと変位板10aの双方の機能を兼ね備えている。すなわち、この変
位板16Cは、各圧力室6C内での圧力変動が共通インク室10Cを介して隣接している
圧力室6Cに伝搬するのを防止する。また、外気圧の変動に応じて変位して、各振動板5
Cが外気圧の変動により変位することを防止して、安定したインク吐出特性を保持してい
る。
【0071】
本例のインクジェットヘッド1Cは、前述のインクジェットヘッド1Bに比べて、小型
コンパクトに構成できる。すなわち、大気圧室を別途設ける必要がなく、また、単一の変
位板16Cによって、外気初の変動補償および共通インク室内の内圧変動を吸収している
からである。
【0072】
[第4の実施例]
図14(A)および図14(B)は,本発明を適用したインクジェットヘッドの第4の
実施例を示す部分断面図および、その振動室と圧力補償室の配置関係を示す説明図である
。このインクジェットヘッド1Dも、キャビティプレート3Dを挟み、上下にそれぞれ、
ノズルプレート2Dおよびガラス基板4Dが積層された構造となっている。ノズルプレー
ト2Dにはインクノズル21Dが形成されている。ノズルプレート2Dとキャビティプレ
ート3Dの間には、インクノズル21Dが連通している圧力室6Dと、各圧力室6Dに対
してインク供給室8Dを介して連通している共通インク室10Dと、大気に連通した大気
圧室12Dとが区画形成されている。
【0073】
各圧力室6Dの底面部分には振動板5Dが形成されている。また、共通インク室10D
の底面部分には第1の変位板16D1が形成されている。同様に大気圧室12Dの底面部
分にも第2の変位板16D2が形成されている。
【0074】
キャビティプレート3Dの下面とガラス基板4Dの間には、振動板5Cを変位させるた
めのギャップを備えた振動室41Dと、第1の変位板16D1を変位させるためのギャッ
プを備えた第1の圧力補償室49D1と、第2の変位板16D2を変位させるためのギャ
ップを備えた第2の圧力補償室49D2が区画形成されている。各振動室41Dに第1の
圧力補償室49D1が連通しており、この第1の圧力補償室49D1には第2の圧力補償
室49D2が連通している。
【0075】
各振動室41Dの底面にはITOからなる個別電極43Dが形成され、第1の圧力補償
室49D1、第2の圧力補償室49D2の底面にもそれぞれITOからなる電極48D1
,48D2が形成されている。
【0076】
図15(A)に示すように、第1の変位板16D1と電極48D1の間に電圧を印加す
ると、静電吸引力が発生して第1の変位板16D1が電極側に吸引されて撓む。この結果
、第1の圧力補償室49D1の容積が減少して、連通している振動室41Dの内圧を高め
る。電圧の印加を停止すると、第1の変位板16D1が弾性復帰するので、振動室41D
の内圧も元に戻る。
【0077】
例えば、周囲の気圧が所定の値である場合に、図15(B)に示すように、第1の変位
板16D1と電極48D1の間に電圧を印加して第1の変位板16D1を電極48D1に
吸引しておく。外気圧が低くなった場合には、印加電圧を低下させるか、あるいは電圧印
加を停止すると、各振動室41Dの内圧が低下するので、外気圧との圧力差が小さくなる
。よって、振動板5Dの振動特性を一定に保持して、インクの吐出特性の変化を抑制でき
る。
【0078】
一方、外気圧が高くなった場合には、印加電圧を高くすると、第1の変位板16D1の
撓みが大きくなり、振動室41Dの圧力を上昇させることができるので、外気圧との圧力
差を小さくでき、この場合においてもインクの吐出特性の変動を抑制できる。
【0079】
ここで、外気圧の変化量が大きい場合には次のように第2の圧力補償室12D2の容積
変化を利用すればよい。すなわち、外気圧が所定の値である場合に、図15(A)に示す
ように、第1の変位板16D1と電極48D1の間に電圧を印加し、第1の変位板16D
1を電極48D1に吸引した状態に保持しておく。外気圧が高くなった場合には、第2の
変位板16D2と電極48D2の間に電圧を印加して第2の変位板16D2も撓ませる。
この結果、第2の圧力補償室12D2の容積も減少するので、各振動室41Dの圧力を外
気圧の上昇に合わせて大幅に増加させることができる。これにより、大幅に上昇した外気
圧と各振動室の内圧との圧力差を減少あるいは無くすことができる。
【0080】
逆に、外気圧が低下した場合には、電圧印加を停止して、第1の変位板16D1を元の
状態に復帰させることにより、第1の圧力補償室49D1の容積を増加させる。この結果
、各振動室41Dの内圧が低下して、外気圧との圧力差が減少あるいは無くなる。
【0081】
このような第1の圧力補償室12D1および第2の圧力補償室12D2の容積を増減す
るための各電極48D1,48D2に対する電圧印加制御は、次のような制御機構によっ
て行うことができる。
【0082】
すなわち、図16に示すように、気圧検出手段401により外気圧を検出し、圧力比較
手段402により設定気圧と検出された外気圧を比較し、比較結果に基づき、変位板駆動
手段403によって各第1の変位板16D1、第2の変位板16D2を変位させればよい

【0083】
なお、気圧検出手段としては、例えば静電容量式の気圧センサ、圧電式の気圧センサ等
の各種のセンサを用いることができる。また、気圧検出手段の取り付け位置は、インクジ
ェットヘッド1Dの近傍に限定されるものではなく、同様な気圧測定ができる位置ならば
いずれの位置でもよい。
また、外気圧は、変位板と電極間の電気容量を検出することによって算出することが可
能である。
【0084】
[第5の実施例]
図17は本発明を適用したインクジェットヘッドの第5の実施例の主要部分を示す部分
構成図である。本例のインクジェットヘッド1Eの基本的な構造は上記の各例における場
合と同様であり、キャビティプレート3Eを挟み、上下にそれぞれ、ノズルプレート2E
およびガラス基板4Eが積層された構造となっている。ノズルプレート2Eにはインクノ
ズル21Eが形成されている。ノズルプレート2Eとキャビティプレート3Eの間には、
インクノズル21Eが連通している圧力室6Eと、各圧力室6Eに対してインク供給室8
Eを介して連通している共通インク室10Eとが区画形成されている。各圧力室6Eの底
面部分には振動板5Eが形成されている。
【0085】
キャビティプレート3Eの下面とガラス基板4Eの間には、振動板5Eを変位させるた
めのギャップを備えた振動室41Eが区画形成されている。各振動室41Eの底面にはI
TOからなる個別電極43Eが形成されている。
【0086】
本例の特徴は、圧力補償手段として、変位板によって容積が変動する圧力補償室を設け
る代わりに、熱制御体160を用いて、振動室41Eの封入気体を加熱冷却することによ
り、当該振動室41Eの内圧を増減させ、これにより、外気圧との圧力差を低減あるいは
解消している点にある。
【0087】
ボイル・シャルルの法則で周知であるが、気圧は温度によっても制御可能である。例え
ば、外気圧が高くなった場合には、熱制御体160を発熱させ、ガラス基板4Eにおける
振動室形成部分を加熱すると、振動室内の気体が温められて膨張しようとする。しかし、
振動室41Eは密閉状態にあるので内圧が高まり、外気圧との圧力差が緩和される。
【0088】
逆に、外気圧が低下した場合には、熱制御体160により吸熱あるいは冷却動作を行い
、ガラス基板4Eを冷却し、振動室内の気体を冷却して、その内圧を低下させる。これに
よって、外気圧との圧力差を解消できる。
【0089】
熱制御体としては、例えば、窒化タンタル薄膜にように発熱体であってもよい。又は、
ペルチエ素子のように吸熱も行えるものでもよい。
【0090】
図18は熱制御体の駆動制御機構の概略図である。この図に示すように、気圧検出手段
501により外気圧を検出する。検出された外気圧を、気圧・温度換算手段502におい
て、振動室41Eの内部温度に換算する。換算された温度を、温度比較手段503におい
て、予め設定されている目標温度と比較する。熱制御体駆動手段504では、比較結果に
基づき、振動室内の温度が目標温度となるように熱制御体160を駆動する。
【0091】
なお、ガラス基板4Eに温度検出手段505を取り付け(図17参照)、この検出値を
目標温度と比較することにより、より正確な温度管理を実行することができる。
【0092】
また、気圧の検出は、気圧センサ等をインクジェットプリンタに搭載する代わりに、振
動室41Eにおける振動板5Eと個別電極43Eの間の電気容量に基づき算出することも
できる。
【0093】
この場合には、図19に示すように、振動板と電極間の電気容量を、電気容量検出手段
601によって検出し、検出された電気容量を、比較手段602により予め定めた目標値
と比較し、この比較結果に基づき、熱制御体駆動手段603によって熱発熱体を駆動制御
すればよい。
【0094】
[その他の実施の形態]
なお、前述の実施例においては、圧力補償室の一部に変位板を形成し、外気圧変動に応
じて当該変位板が変位することにより圧力補償室の容積が増減するようになっている。こ
の代わりに、図20に示すように、圧力補償室701の全体を伸縮性の素材から形成し、
外気圧変動に応じて全体を膨張および縮小させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明の静電アクチュエータは、振動板によって仕切られている
振動室の内圧と外気圧の圧力差を減少あるいは無くすための圧力補償手段を備えているた
め、振動板の振動特性が外気圧の変動によって変化することが無い。従って、本発明を適
用した液滴吐出装置は、外気圧の変動にかかわりなく、常に安定した液滴の吐出動作を行
うことのできる。例えば、本発明を用いたインクジェットプリンタは、高地、低地等の使
用場所に左右されることなく、常に高品位の画像形成を行うことができる。
【符号の説明】
【0096】
1,1A〜1E…インクジェットヘッド、2,2B〜2E…ノズルプレート、3,3B
〜3E…キャビティプレート、4,4B〜4E…ガラス基板、5,5B〜5E…振動板、
6,6B〜6E…圧力室、7,11,13,42,46…凹部、8…インク供給口、8B
〜8E…インク供給室、9,15…細溝、10,10B〜10E…共通インク室、10a
,16,16A〜16C…変位板、12,12B,12D…大気圧室、12D1,49D
1…第1の圧力補償室、12D2,49D2…第2の圧力補償室、14…連通孔、14B
…大気連通孔、16D1…第1の変位板、16D2…第2の変位板、20…封止剤、21
,21B〜21E…インクノズル、22…インク供給孔、23…接続パイプ、26…共通
電極端子、41…密閉室としての振動室、41B〜41E…振動室、43,43B〜43
E…個別電極、44…セグメント電極部、45…端子部、47…連通用凹部、48,48
C…ダミー電極、48B…ダミー極、48D1,48D2…電極、49,49B,49C
,701…圧力補償室、50…連通部、105…記録紙、160…熱制御体、201…プ
リンタ制御回路、202〜204,209,231,241…内部バス、205…RAM
、206…ROM、207…CG−ROM、211…データバス、220…ヘッドドライ
バ、230…電源回路、232…キャリッジモータ駆動制御回路、233,243…モー
タドライバ、234,244…矢印、242…搬送モータ駆動制御回路、300…インク
ジェットプリンタ、301…インクタンク、302…キャリッジ、304…キャップ、3
06…インクチューブ、308…廃インクチューブ、401,501…気圧検出手段、4
02…圧力比較手段、403…変位板駆動手段、502…気圧・温度換算手段、503…
温度比較手段、504,603…熱制御体駆動手段、505…温度検出手段、601…電
気容量検出手段、602…比較手段、DATA…印刷データ、G…隙間、GND…接地電
圧、ROM…キャラクタジェネレータ、Vcc,Vn…駆動電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板に対向している電極板と、
前記振動板と前記電極板が側壁となり外気と遮断された振動室と、
前記振動室に連通し外気と遮断された圧力補償室とを有し、
前記振動板及び前記電極板に電圧を印加することにより前記振動板を変位させ、
外気圧の変化に応じて前記圧力補償室の容積を増減し前記振動室の内圧と外気圧の圧力
差を低減することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記圧力補償室の一部が、外気圧の変化に応じて変位可能な変位板により構成されてい
ることを特徴とする請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記変位板と対向する電極板とを有することを特徴とする請求項2に記載のアクチュエ
ータ。
【請求項4】
前記振動板と、前記変位板は、区画形成された共通の半導体基板で構成されていること
を特徴とする請求項2に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
液滴を吐出させるためのノズルと、
前記ノズルが連通して液体を保持している圧力室と、
前記圧力室の一部を構成し振動可能な振動板と、
前記振動板に対向している電極板と、
前記振動板と前記電極板が側壁となり外気と遮断された振動室と、
前記振動室に連通し外気と遮断された圧力補償室とを有し、
前記振動板及び前記電極板に電圧を印加することにより前記振動板を変位させて、前記
圧力室内の液体を吐出するための圧力変動を与え、
外気圧の変化に応じて前記圧力補償室の容積を増減し前記振動室の内圧と外気圧の圧力
差を低減することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項6】
前記圧力補償室の一部が、外気圧の変化に応じて変位可能な変位板により構成されてい
ることを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−255582(P2009−255582A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180363(P2009−180363)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【分割の表示】特願2009−161552(P2009−161552)の分割
【原出願日】平成11年3月17日(1999.3.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】