説明

アクチュエータ用高分子材料

【課題】小さい磁場強さでも大きな変位量が得られるアクチュエータ用材料を提供する。
【解決手段】主鎖を形成するゴム系重合体と、前記主鎖を架橋し、前記主鎖とともに網目状のネットワークを形成する架橋剤と、前記網目状のネットワークのセル内に内包されており、前記主鎖と前記架橋剤によって構成された隔壁によって他のセルと隔離されている、柱状の形状を有する磁性体と、を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ用高分子材料に関し、より詳細には、小さい磁場強さの磁場においても、大きな変位量が得られるアクチュエータ用高分子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の分野では、小型でかつ軽量で柔軟性に富むアクチュエータ動作を可能にする材料、およびそれを用いたクッションやシート等の装置の必要性が高まっている。従来の技術としては、以下のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1では、同一相内での分子の配向状態の変化、相転移などによって体積変化する液晶性分子と、この液晶性分子を封入するための変形可能なセルとから構成され、電界、磁界、および光からなる群より選択される一つの作用に対して液晶性分子の配向状態が変わることにより動作する液晶アクチュエータが開示されている。
【0004】
特許文献2では、イオン性液体を電解質として使用し、共役ポリマーを活性電極として備え、長寿命でかつ高い安定性を有する電気化学アクチュエータが開示されている。
【特許文献1】特開2003−88148号公報
【特許文献2】特表2004−527902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術においては、アクチュエータ動作を行うために大きな磁場強さを必要とするため、磁場発生装置も大型のものが必要となる。そのため、例えば自動車用途への適用が困難であるという問題があった。
【0006】
そこで本発明は、小さい磁場強さでも大きな変位量が得られるアクチュエータ用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、柱状の形状を有する磁性体が、主鎖を形成するゴム系重合体と、前記主鎖を架橋し、前記主鎖とともに網目状のネットワークを形成する架橋剤と、前記網目状のネットワークのセル内に内包されており、前記主鎖と前記架橋剤によって構成された隔壁によって他のセルと隔離されている、柱状の形状を有する磁性体と、を含む高分子材料をアクチュエータに用いることにより、小さな磁場強さでも大きな変位量が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、主鎖を形成するゴム系重合体と、前記主鎖を架橋し、前記主鎖とともに網目状のネットワークを形成する架橋剤と、前記網目状のネットワークのセル内に内包されており、前記主鎖と前記架橋剤によって構成された隔壁によって他のセルと隔離されている、柱状の形状を有する磁性体と、を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小さい磁場強さでも大きな変位量が得られるアクチュエータ用高分子材料が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
(第1実施形態)
本発明は、主鎖を形成するゴム系重合体と、前記主鎖を架橋し、前記主鎖とともに網目状のネットワークを形成する架橋剤と、前記網目状のネットワークのセル内に内包されており、前記主鎖と前記架橋剤によって構成された隔壁によって他のセルと隔離されている、柱状の形状を有する磁性体と、を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料である。
【0012】
まず、本発明のアクチュエータ用高分子材料について、図面を参照して説明する。なお、本発明においては、説明の都合上、図面が誇張されており、本発明の技術的範囲は、図面に掲示する形態に限定されない。したがって、図面以外の実施形態も採用されうる。
【0013】
図1は、本発明のアクチュエータ用高分子材料の一実施形態を示す断面図である。図1に示す形態のアクチュエータ用高分子材料100は、ゴム系重合体101が架橋剤102によって架橋されたネットワーク構造を有している。ゴム系重合体101が架橋されることによって、ゴム系重合体101および架橋剤102がいわば隔壁の役割をする、セル状の空間が形成される。セル状の空間が形成されることによって、磁性体103は該空間に入りやすくなり、磁性体同士の凝集が起こりにくくなる。磁場Hを印加すると、磁場方向と平行に近い方向に磁性体103が整列しようとする。それにより、ゴム系重合体101が磁場方向に伸長し、アクチュエータ用高分子材料100全体も伸長する。その結果、アクチュエータ用高分子材料100は、その上部に備えられたクッションを押し上げることができる。
【0014】
本発明のアクチュエータ用高分子材料が駆動するために加えられる磁場の強さは、好ましくは0.0001〜1T(テスラ)、より好ましくは0.01〜0.1Tである。前記範囲であれば、磁場印加により磁場方向に高分子材料を伸縮させ、かつ高分子材料が大きな応力を発生することができ好ましい。
【0015】
[ゴム系重合体]
本発明に用いられるゴム系重合体101は、特に制限はなく、従来公知のものが使用できる。その具体的な例としては、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・酢酸ビニル共重合体、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴム、ニトリルゴム、ニトリル・イソプレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。中でも、弾力性の観点から、シリコーンゴム、フッ素ゴムが好ましく、シリコーンゴムがより好ましい。特に、耐熱性の観点から、下記化学式(1)または(2)で表される構造を有するシリコーンゴムが好ましい。
【0016】
【化1】

【0017】
前記化学式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して、メチル基またはエチル基である。
【0018】
【化2】

【0019】
前記化学式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立してメチル基またはエチル基である。
【0020】
前記化学式(1)および(2)で表される重合体のうち、好ましい重合体は、前記化学式(1)のR1とR2とがメチル基である重合体、および前記化学式(2)のR1とR2とがメチル基である重合体である。
【0021】
前記ゴム系重合体の重量平均分子量は、ゴム弾性率の観点から、2000〜500000であることが好ましく、3000〜100000がより好ましく、4000〜20000であることが最も好ましい。
【0022】
なお、本発明において、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)または光散乱法により測定した値を採用するものとする。
【0023】
[架橋剤]
本発明に用いられる架橋剤102は、分子量が異なる少なくとも2つの材料であることが好ましい。ここで、「分子量が異なる少なくとも2つの材料」とは、分子量が異なっている同じ種類の材料であっても、または分子量が異なっている違う種類の材料であってもよい。
【0024】
分子量が異なる少なくとも2つの架橋剤を用いることにより、ゴム系重合体と架橋剤とが隔壁となるセル状の空間が形成され、該空間に前記磁性体が入り込みやすくなる。その結果、磁性体は互いに凝集しにくくなり、磁場を印加したときの磁性体の整列がより起こりやすくなる。
【0025】
ここで、分子量が異なる2つの架橋剤について、高い分子量を有する架橋剤と低い分子量を有する架橋剤との分子量の比は、好ましくは1:1〜1:4、より好ましくは1:1〜1:2である。前記範囲であれば磁性体のセル内での位置が固定化されうるため好ましい。
【0026】
また、分子量が異なる2つの架橋剤について、高い分子量を有する架橋剤と低い分子量を有する架橋剤との含有量の比は、好ましくは1:1〜1:4(質量比)、より好ましくは1:1〜1:2(質量比)である。前記範囲であれば磁性体のセル内での位置が固定化されうるため好ましい。
【0027】
前記架橋剤として用いられる化合物の例としては、両末端がビニル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体などの有機シロキサン系化合物が挙げられる。
【0028】
これら架橋剤の中でも、コストの観点から、両末端がビニル基で封鎖されたポリジメチルシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサンが好ましく、両末端がビニル基で封鎖されたポリジメチルシロキサンがより好ましい。
【0029】
[磁性体]
本発明のアクチュエータ用高分子材料100に用いられる磁性体103は、磁性を有し、かつ柱状の形状を有するものであれば特に限定されない。柱状であれば、磁性体が磁場方向と平行に近い方向に整列しやすくなり、アクチュエータとしての機能を果たしうる。
【0030】
前記磁性体の形態については、形状が柱状であれば特に制限はなく、例えば、カーボンナノチューブに金属原子を分散させた形態、磁性微粒子を酸化シリコンや酸化チタンなどで被覆した形態などが好ましく挙げられる。中でも、カーボンナノチューブに金属原子を分散させた形態の磁性体は、安価で量産することができ、より好ましい。
【0031】
前記磁性体の長さは、好ましくは0.5〜5.0nm、より好ましくは1.0〜3.0nmである。磁性体の長さが前記範囲であれば、前記ゴム状重合体と前記架橋剤とから形成される網目状のネットワークのセル内に、前記磁性体が内包されることができ、好ましい。
【0032】
なお、本発明において、前記磁性体の長さは、レーザ回析/散乱式粒子径分布測定装置または透過型電子顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
【0033】
前記磁性体のアスペクト比は、好ましくは1.2〜5、より好ましくは2〜3である。アスペクト比が前記範囲であれば、本発明のアクチュエータ用高分子材料の磁場印加による発生応力が増大しうるため、好ましい。
【0034】
なお、本発明において、前記磁性体のアスペクト比は、透過型電子顕微鏡により測定した値を採用するものとする。
【0035】
加えて、前記磁性体の外表面には、非磁性かつ非伝導性の無機材料、有機材料、またはこれらの混合した材料からなる修飾層を有していてもよい。
【0036】
前記修飾層を設けることにより、前記磁性体同士の電子移動や、磁場の磁気反転によって起こる前記磁性体の磁気モーメントの低下を防ぐことができる。
【0037】
さらに、前記ゴム系重合体および前記磁性体と結着しうる結着剤を加えると、前記ゴム状重合体と前記架橋剤とで形成されるセル状の空間に、前記磁性体が入りやすくなるため、好ましい。
【0038】
前記結着剤は、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、オクタデシルメチル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライドなどのシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤は、分子内に、有機材料との親和性または反応性を有する有機基、および無機材料との親和性または反応性を有する無機基を含む構造であるため、有機材料である前記ゴム状重合体と無機材料である前記磁性体とを架橋する形で結合しうる。
【0039】
上記で説明した、ゴム系重合体、架橋剤、および磁性体の含量は、前記ゴム系重合体と架橋剤と磁性体との総質量が100質量%として、磁性体の含量が10〜30質量%、ゴム系重合体の含量が50〜70質量%、および架橋剤の含量が10〜30質量%であることが好ましく、磁性体の含量が20〜30質量%、ゴム系重合体の含量が50〜60質量%、架橋剤の含量が20〜30質量%であることがより好ましい。
【0040】
次に、本発明のアクチュエータ用高分子材料の製造方法について説明する。
【0041】
なお、以下の態様は、本発明の好ましい態様を示したものであり、本発明のアクチュエータ用高分子材料の製造方法が下記の方法に限定されるものではない。
【0042】
[磁性体作製工程]
本工程では磁性体を作製する。磁性体の好ましい形態は、カーボンナノチューブに金属を分散させた金属分散カーボンナノチューブである。以下、金属分散カーボンナノチューブを例に挙げて、磁性体作製工程の好ましい形態を説明するが、本工程がこれに限定されるものではない。
【0043】
前記カーボンナノチューブは、特に制限されず、従来公知のものが使用でき、その具体的な例としては、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、ダブルウォールカーボンナノチューブ(DWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)などが好ましく挙げられる。この中でも、本発明に用いられる磁性体の製造のしやすさの観点から、シングルウォールカーボンナノチューブがより好ましい。
【0044】
前記カーボンナノチューブは、例えば、アルミニウムなどの金属に対して、陽極酸化処理を行い、アルミニウム表面にナノサイズの孔を形成させ、次に、プロピレンガスなどの炭化水素ガスを用い、化学気相蒸着(CVD)法により、前記孔における外表面および孔内でカーボンを成長させることにより、作製することができる。
【0045】
前記金属は、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、鉄、マンガン、コバルト、およびニッケルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、中でも高分子材料の耐久性および磁場応答性の観点から、鉄、コバルト、またはニッケルがより好ましい。
【0046】
前記カーボンナノチューブに金属を分散させる方法としては、メッキ法、化学気相蒸着(CVD)法、スパッタ法など従来公知の方法が使用できる。中でも生産性の観点から、メッキ法が好ましい。
【0047】
前記カーボンナノチューブに対する前記金属の分散量は、磁場応答性の観点から、カーボンナノチューブの総質量に対して10〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0048】
[混合液調製工程]
本工程ではアクチュエータ用高分子材料を製造するための混合液を調製する。混合液の調製方法としては、例えば、有機溶媒に、磁性体、ゴム系重合体、および架橋剤を添加および混合して混合液を得る方法が挙げられる。
【0049】
前記有機溶媒は特に制限されず、例えば、トルエン、キシレン、メタノール、エタノールなどを好ましく用いることができる。中でも、溶解度の観点からトルエン、キシレンがより好ましい。
【0050】
[アクチュエータ用高分子材料の製造]
本工程ではアクチュエータ用高分子材料を製造する。前記高分子材料の形成方法としては、例えば、前記混合液調製工程で得られた混合液に対してγ線、X線、電子線、紫外線などの放射線を照射し、架橋反応を行う方法が好ましく挙げられる。
【0051】
前記放射線の照射量は、架橋剤の架橋速度の観点から、好ましくは100〜10000Gy/min、より好ましくは200〜1000Gy/minである。ここで、Gy(グレイ)とは、物質1kgに対して1J(ジュール)のエネルギーを与える放射線量の単位である。
【0052】
放射線を照射する際の前記混合液の温度は、好ましくは0〜60℃、より好ましくは20〜40℃である。
【0053】
また、放射線の照射時間は、好ましくは60〜1000分、より好ましくは300〜500分である。
【0054】
また、放射線を照射する代わりに、前記混合液中に金属触媒を添加し架橋反応を行う方法も、本発明のアクチュエータ用高分子材料の製造方法として好ましく挙げられる。
【0055】
前記金属触媒の具体的な例としては、ビス(シクロオクタジエン)白金、ジメチル(シクロオクタジエン)白金、ビス(ベンジリデンアセトン)白金、トリス(ジベンジリデンアセトン)二白金、トリス(エチレン)白金などの白金錯体触媒、アリル化合物をπ配位子としたニッケル錯体触媒などが好ましく挙げられ、中でも反応速度や反応収率の観点から、ビス(シクロオクタジエン)白金、ジメチル(シクロオクタジエン)白金がより好ましい。
【0056】
前記金属錯体を用いて架橋反応を行う際の混合液の温度は、好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜70℃であり、好ましくは50〜200時間、より好ましくは100〜150時間の間架橋反応させる。
【0057】
(第2実施形態)
本発明の第2は前記アクチュエータ用高分子材料を含む高分子アクチュエータである。
【0058】
本発明の高分子アクチュエータは、アクチュエータ用高分子材料を含む繊維状構造体、層状構造体、発泡構造体からなる群より選択される少なくとも1つの構造体と、前記構造体の近傍に、磁場発生装置を備えることを特徴とする。
【0059】
前記構造体は、例えば、以下のように製造されうる。
【0060】
繊維状構造体は、本発明のアクチュエータ用高分子材料を溶融し、紡糸、延伸して繊維状とし、それらを編むことによって得られる。
【0061】
層状構造体は、本発明のアクチュエータ用高分子材料を溶融し、金型を使って押し出し成型し、それを延伸することによって得られる。
【0062】
発泡構造体は、揮発性の液体中で本発明のアクチュエータ用高分子材料を製造し、その後、揮発性の液体を気化させ発泡させて得られる。
【0063】
図2は、本発明のアクチュエータ用高分子材料と、磁気コイルとを備えたクッション200の概略図である。本発明のアクチュエータ用高分子材料201の一部分を、金属材料や導電性高分子材料からなる磁気コイル202内に挿入して、固定層203に、碁盤の目のように、敷きつめる。そしてこの上に、高分子からなる人体に接触する接触部204を設置する。
【0064】
この構成で、各磁気コイルに電流を印加すると、磁場205が発生し、磁性体が磁場方向に整列する。磁性体は磁気異方性を有するので、磁性体にトルクが発生し、高分子材料201の磁場方向への膨張と、磁場方向に垂直な方向に収縮が起こり、接触部204の上下運動を起こすことができる。
【0065】
(第3実施形態)
本発明の第3は、前記高分子アクチュエータを備えたシートシステムである。
【0066】
本発明のアクチュエータ用高分子は、シートクッションのクッション内部に備えられることが好ましい。
【0067】
図3は、本発明の高分子アクチュエータを備えたシートシステムの一実施形態を示す概略図である。
【0068】
図3に示すように、シートシステム300は、クッション200、およびクッションの制御をする制御装置301を備える。シートに着座したドライバーの状態や外部運転環境の情報に基づき、制御装置301が指令を出し、クッション200の制御をすることができる。制御装置301は、プログラムで作動するマイクロコンピュータを含むこともできる。
【実施例】
【0069】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0070】
(実施例1)
<磁性体の作製>
アルミニウムに対して陽極酸化処理(条件:20質量%硫酸溶液中、40℃、電圧5V)を9分間行い、アルミニウム表面にナノサイズの孔を形成させた。
【0071】
次に、プロピレンガスを用い、CVD法により、前記孔における外表面および孔内でカーボンを成長させ、カーボンナノチューブを作製した。
【0072】
上記で作製したカーボンナノチューブを、硫酸コバルト220g/l、ホウ酸30g/l、添加剤であるサッカリンナトリウムを6g/l含むメッキ液1000mlに浸漬させた。この際、真空脱泡処理を行って、前記カーボンナノチューブの管内に前記メッキ液を十分に浸透させた。そして電着法にてメッキ処理を行い、前記カーボンナノチューブ内にメッキ層を形成させた。
【0073】
更に、前記孔に対し、10M(mol/l)のNaOH水溶液を150℃に温めたもので熱処理を行い、アルミニウム層を溶解除去し、磁性体であるCo分散シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)を得た。得られたCo分散SWCNTを、透過型電子顕微鏡により測定した結果、得られたCo分散SWCNTの長さは3nm、直径は1nm、アスペクト比は3であった。
【0074】
<アクチュエータ用高分子材料の作製>
ゴム系重合体である平均重合度60のメチルハイドロジェンシリコーン60g、前記で得られたCo分散SWCNT20g、下記化学式(3)で表される架橋剤1 10gと、および下記化学式(4)で表される架橋剤2 10gとを、80℃のトルエン1000mlが入ったビーカーに入れ、十分にかき混ぜた。得られた溶液に、0.18mmol/lのビス(シクロオクタジエン)白金存在下、60℃で100時間反応させ架橋をさせた。その後、架橋させた材料を溶媒からとりだし、水で十分にトルエンを洗い流し、アルミニウムで作成した円柱状の空洞の型の中に押し込み、十分に固めて、一日乾燥させてから、取り出した。
【0075】
その結果、Co分散SWCNTが内包された長さ10cmの円柱状のアクチュエータ用高分子材料が得られた。
【0076】
【化3】

【0077】
【化4】

【0078】
(実施例2)
アルミニウムに対する陽極酸化処理の時間を15分間としたこと、および長さは3nm、直径は1nm、アスペクト比は3のCo分散SWCNTの代わりに長さは5nm、直径は1nm、アスペクト比は5のCo分散SWCNTを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でアクチュエータ用高分子材料を作製した。
【0079】
(実施例3)
Co分散SWCNTを20g、前記化学式(3)で表される架橋剤1を15g、前記化学式(4)で表される架橋剤2を5gとした以外は、実施例1と同様の方法でアクチュエータ用高分子材料を作製した。
【0080】
(実施例4)
ビス(シクロオクタジエン)白金を用いる代わりに、γ線を400分間、200Gy/minの照射量で照射した以外は、実施例1と同様の方法で、アクチュエータ用高分子材料を得た。
【0081】
(実施例5)
結着剤として前記化学式(3)で表される架橋剤1を20g用いた以外は、実施例1と同様の方法で、アクチュエータ用高分子材料を得た。
【0082】
(比較例)
架橋剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でアクチュエータ用高分子材料を得た。
【0083】
(性能評価)
上記実施例1〜5、および比較例で得られたアクチュエータ用高分子材料の変位、発生応力、および磁場への応答性に関する性能評価を行った。
【0084】
[変位の測定]
台座にアクチュエータ用高分子材料を固定し、その高分子材料に磁気コイルを巻いて、その磁気コイルに5Aの電流を流すことで、高分子材料に0.02Tの磁場を印加した。その結果、固定された側とは反対側の高分子材料の先端の膨張収縮が起こる。これによる変位をレーザでスキャンして測定した。
【0085】
[発生応力の測定]
固定して圧力センサを内蔵した圧力測定部と台座との間にアクチュエータ用高分子材料を挟み、上記の変位の測定と同様にして磁気コイルを用いて、磁場を高分子材料に印加した。この際、前記圧力測定部の圧力センサで発生する圧力を測定し、その圧力を発生応力とした。
【0086】
[磁場への応答性の測定]
上述の変位の測定と同じ装置で、磁気コイルに図4に示すようなデューティ比50%の周期性パルス電流を流すことで、周期パルス磁場を発生させ、アクチュエータ用高分子材料を固定した側とは反対側のアクチュエータ用高分子材料の先端の変位をレーザで測定し、応答性の測定をした。ここで、各高分子材料が、加えられた周期性パルス磁場に対して、追随して膨張収縮できる周期性パルス磁場の最大周波数を測定した。
【0087】
上記の性能評価結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
発生応力が10kPa以上であれば、後述するシートやクッションへ適用した場合、座っているドライバーに対する駆動が可能であり、変位が数mmあれば、多様なシートやクッションの変位制御が可能である。また、応答速度が5Hz以上であれば、各種制御に対して実時間でのシートやクッションの応答性(追随性)が確保できる。
【0090】
表1からわかるように、比較例の高分子材料に比べて、実施例1〜4の本発明のアクチュエータ用高分子材料が、変位、発生応力、および応答性に優れていることがわかった。
【0091】
(実施例6)
シランカップリング剤であるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3gとCo分散SWCNT20gとを、80℃のトルエンに入れて60分間かき混ぜた後に、ゴム系重合体である平均重合度60のメチルハイドロジェンシリコーン60g、前記化学式(3)で表される架橋剤1 10g、および前記化学式(4)で表される架橋剤2 10gを、さらに加えてかき混ぜたこと以外は、実施例1と同様にしてアクチュエータ用高分子材料を作製した。
【0092】
得られたアクチュエータ用高分子材料を用い、初期のアクチュエータ用高分子材料で発生する発生変位、発生応力、および応答性と、10時間連続の磁場の印加後の高分子材料で発生する変位、発生応力、および応答性とを調べた。
【0093】
初期の発生変位、発生応力、応答性は、それぞれ4mm、40kPa、30Hzであり、10時間後の発生変位、発生応力、応答性は、それぞれ3.5mm、35kPa、25Hzであり、経時に伴う性能の低下はほとんど見られなかった。
【0094】
(実施例7)
実施例1で作製したアクチュエータ用高分子材料を円柱状に切り出し、これを銅線からなる磁気コイル内に挿入して、これを30個、固定板上にアレイ状に並べた。この上に薄い発泡ウレタンを載せた構造のクッション(図2参照)を作成した。
【0095】
そして、磁気コイルに、図4に示すような10Hzの周期性パルス電流を流すと、クッションの上下運動が起こった。
【0096】
(実施例8)
実施例7で作製したクッションと、16ビットのマイクロコンピュータとからなる制御装置を内蔵するシートを図3のように作成した。
【0097】
このシートにドライバーが座って、車の運転時のシートの制御実験を行った。
【0098】
ドライバーの状態と運転状態の情報に基づき、マイクロコンピュータからの制御によって、クッションの上下運動を起こさせたところ、クッションが上下に動いた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明のアクチュエータ用高分子材料の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明の高分子アクチュエータを備えたクッションを示す概略図である。
【図3】図2のクッションを備えた、本発明のシートシステムの一実施形態を示す概略図である。
【図4】磁場への応答性の測定に用いた、デューティ比50%の周期性パルス電流を示すグラフである。
【符号の説明】
【0100】
100、201 アクチュエータ用高分子材料、
101 ゴム系重合体、
102 架橋剤、
103 磁性体、
200 クッション、
202 磁気コイル、
203 固定層、
204 接触部、
205 磁場、
300 シート、
301 制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖を形成するゴム系重合体と、
前記主鎖を架橋し、前記主鎖とともに網目状のネットワークを形成する架橋剤と、
前記網目状のネットワークのセル内に内包されており、前記主鎖と前記架橋剤によって構成された隔壁によって他のセルと隔離されている、柱状の形状を有する磁性体と、
を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料。
【請求項2】
前記磁性体が、スカンジウム、イットリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウム、鉄、マンガン、コバルト、およびニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むことを特徴とする、請求項1に記載のアクチュエータ用高分子材料。
【請求項3】
前記ゴム系重合体が、炭化水素基または有機シリル基の少なくとも一方を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のアクチュエータ用高分子材料。
【請求項4】
前記架橋剤が、分子量の異なる少なくとも2種の化合物を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクチュエータ用高分子材料。
【請求項5】
前記ゴム系重合体に対して、結着剤で前記磁性体が結着されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクチュエータ用高分子材料。
【請求項6】
前記結着剤がシランカップリング剤であることを特徴とする、請求項5に記載のアクチュエータ用高分子材料。
【請求項7】
ゴム系重合体と、
架橋剤と、
磁性体と、
溶媒と、
を混合し混合液を調製する工程と
前記混合液に放射線を照射する工程と、
を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料の製造方法。
【請求項8】
ゴム系重合体と、
架橋剤と、
磁性体と、
溶媒と、
を混合し混合液を調製する工程と、
前記混合液に金属触媒を加えて架橋反応を行う工程と、
を含むことを特徴とする、アクチュエータ用高分子材料の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクチュエータ用高分子材料を含む繊維状構造体、層状構造体、および発泡構造体からなる群より選択される少なくとも1種の構造体と、
磁場発生装置と、
を含むことを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項10】
請求項9に記載の高分子アクチュエータを含む、シートシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−101086(P2008−101086A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283969(P2006−283969)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】