説明

アクチュエータ装置

【課題】電極とアクチュエータ素子との接続信頼性を高めることができるアクチュエータ装置を提供する。
【解決手段】イオン伝導層4と電極層5A、5Bとを有するアクチュエータ素子1と、アクチュエータ素子1の電極層5A、5Bにそれぞれ電気的に接続された一対の電極2A、2Bと、を備えたアクチュエータ装置10。電極2A、2Bによって電位差が与えられることにより電極層5A、5Bが伸長または収縮することによって、アクチュエータ素子1が厚さ方向に曲げ変形可能である。電極2A、2Bは、アクチュエータ素子1に、導電性ペーストからなる導電接合部6を介して固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学反応により作動するアクチュエータ素子を有するアクチュエータ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中や真空中で作動可能なアクチュエータ素子として、伸縮性のある電極層を有するアクチュエータ素子が提案されている(例えば特許文献1、2を参照)。
図5は、このアクチュエータ素子を用いたアクチュエータ装置の例を示すもので、ここに示すアクチュエータ装置40は、アクチュエータ素子1と、アクチュエータ素子1に接続された電極2A、2Bと、電極2A、2Bに接続された電源3とを備えている。
アクチュエータ素子1は、イオン伝導層4の一方および他方の面に、それぞれ伸縮性のある電極層5A、5Bを備えている。
電極2A、2Bは、先端2Aa、2Baが電極層5A、5Bの外面5Aa、5Baに当接することにより電極層5A、5Bに電気的に接続されている。
電極2A、2Bと電極層5A、5Bとの接続には半田付けが用いられていないため、半田付け時の高温により電極層5A、5Bが破損することはない。
アクチュエータ装置40は、電源3により電極2A、2B間に電位差がかかると、図5に2点鎖線で示すように、電極層5A、5Bが伸縮することによりアクチュエータ素子1に曲げ変形が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−160952号公報
【特許文献2】特開2005−176428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アクチュエータ装置40では、アクチュエータ素子1の変位や振動などによって、電極2A、2Bと電極層5A、5Bとの接触が不十分となり、電極2A、2Bとアクチュエータ素子1との間の接続信頼性が低下するおそれがあった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、電極とアクチュエータ素子との接続信頼性を高めることができるアクチュエータ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明では以下の構成を提供する。
本発明は、イオン伝導層とその両面にそれぞれ形成された一対の電極層とを有するアクチュエータ素子と、前記アクチュエータ素子の電極層にそれぞれ電気的に接続された一対の電極と、を備え、前記電極によって電位差が与えられることにより前記電極層が伸長または収縮することによって、前記アクチュエータ素子が厚さ方向に曲げ変形可能であり、前記電極は、前記アクチュエータ素子に、導電性ペーストからなる導電接合部を介して固定されているアクチュエータ装置を提供する。
前記イオン伝導層は、イオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなることが好ましい。
前記電極層は、カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなることが好ましい。
本発明のアクチュエータ装置は、前記電極がフレキシブルプリント基板であり、前記アクチュエータ素子の外面に対面させて設けられている構成とすることができる。
本発明のアクチュエータ装置は、前記電極が、前記電極層の外面に前記導電接合部を介して固定されている構成としてよい。
本発明のアクチュエータ装置は、前記電極層の外面に導電層が形成され、前記電極が、前記導電層の外面に前記導電接合部を介して固定されている構成としてよい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電極が、導電性ペーストからなる導電接合部を介してアクチュエータ素子に固定されているため、アクチュエータ素子が変位したり、振動が加えられた場合においても、電極とアクチュエータ素子との電気的接続を確保できる。
従って、電極とアクチュエータ素子との間の接続信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のアクチュエータ装置の第1の実施形態を示す模式図である。
【図2】図1のアクチュエータ装置のアクチュエータ素子の動作を示す模式図であり、(a)は未変形状態であり、(b)は曲げ変形した状態である。
【図3】本発明のアクチュエータ装置の第2の実施形態を示す模式図である。
【図4】本発明のアクチュエータ装置の第3の実施形態を示す模式図である。
【図5】従来のアクチュエータ装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第一の実施形態)
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明のアクチュエータ装置の第1の実施形態であるアクチュエータ装置10を示すもので、ここに示すアクチュエータ装置10は、アクチュエータ素子1と、アクチュエータ素子1に接続された一対の電極2A、2Bと、電極2A、2Bに接続された電源3とを備えている。
アクチュエータ素子1は、イオン伝導層4と、その一方および他方の面にそれぞれ形成された伸縮性のある電極層5A、5Bとを有する。
【0009】
イオン伝導層4は、例えばイオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなる。
イオン性液体は、例えば常温溶融塩であり、常温(室温)を含む幅広い温度域で溶融状態となる。イオン性液体の導電率は0.1Sm−1以上が好ましい。
イオン性液体としては、下記の一般式(I)〜(IV)で表わされるカチオン(好ましくは、イミダゾリウムイオン)と、アニオン(X)からなるものを例示することができる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
[NR4−x (III)
[PR4−x (IV)
上記の式(I)〜(IV)において、Rは炭素数1〜12のアルキル基またはエーテル結合を含み炭素と酸素の合計数が3〜12のアルキル基を示し、式(I)においてRは炭素数1〜4のアルキル基または水素原子を示す。式(I)において、RとRは同一ではないことが好ましい。式(III)および(IV)において、xはそれぞれ1〜4の整数である。
【0013】
アニオン(X)としては、テトラフルオロホウ酸アニオン、ヘキサフルオロリン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸アニオン、過塩素酸アニオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)炭素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ジシアンアミドアニオン、トリフルオロ酢酸アニオン、有機カルボン酸アニオンおよびハロゲンイオンより選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
イオン伝導層4を構成するゲル状組成物に使用できるポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体[PVDF(HFP)]、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、パーフルオロスルホン酸(Nafion,ナフィオン)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリアクリロニトリル(PAN)などが挙げられる。
イオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物におけるイオン性液体とポリマーの配合比(質量比)は、イオン性液体:ポリマー=1:2〜4:1が好ましく、イオン性液体:ポリマー=1:1〜2:1がより好ましい。
前記ポリマーは、電極層5A、5Bにも使用できる。
【0015】
電極層5A、5Bは、例えばカーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなり、導電性があり電気応答伸縮活性を有する。
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを筒形とした炭素系材料であり、その周壁の構成数から単層ナノチューブ(SWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)とがある。また、グラフェンシートの構造の違いからカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型などがある。
カーボンナノチューブは、アスペクト比が大きいとゲルが形成し易くなる傾向があるため、単層ナノチューブが好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブとイオン性液体とからなるゲル(カーボンナノチューブゲル)におけるカーボンナノチューブの配合割合は、カーボンナノチューブ/ゲル=1〜40質量%が好ましく、カーボンナノチューブ/ゲル=5〜20質量%がより好ましい。
カーボンナノチューブゲルに対するポリマーの配合比は、ゲル:ポリマー=1:2〜4:1が好ましく、ゲル:ポリマー=1:1〜2:1がより好ましい。
電極層5A、5Bは、相互に絶縁状態となるように形成されている。
イオン伝導層4および電極層5A、5Bの厚さは、10〜500μm(好ましくは50〜200μm)が好適である。
【0017】
電極2A、2Bは、金属などの導電性材料からなり、先端2Aa、2Baに向かって厚さ寸法(または径)が小さくなる形状であり、図示例では、先端2Aa、2Baが電極層5A、5Bの上部の外面5Aa、5Ba(アクチュエータ素子1の外面)に当接または近接している。
【0018】
電極2A、2Bの先端2Aa、2Baを含む部分は、導電性ペーストからなる導電接合部6により外面5Aa、5Baに固定されている。電極2A、2Bの先端2Aa、2Baを含む部分は、導電接合部6に埋め込まれた状態となっており、これによって、電極2A、2Bは、導電接合部6を介して電極層5A、5Bに電気的に接続されている。
【0019】
導電性ペーストは、導電粒子とバインダ樹脂とを含むものが用いられる。導電粒子は金属(銀、銅、ニッケル、金、錫など)やカーボンなどの導電性物質からなる粒子または粉体である。
バインダ樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などが使用できる。
導電粒子は、バインダ樹脂100質量部に対して好ましくは230〜1900質量部、より好ましくは400〜900質量部添加することができる。
【0020】
導電接合部6は、導電性ペーストを印刷などにより塗布することによって形成することができる。導電性ペーストは、導電粒子およびバインダ樹脂のほか、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、エタノール、プロパノールなどがある。
導電性ペーストは、例えば120℃〜180℃で乾燥されることによって溶剤が除去され、固化するとともに、導電粒子どうしが互いに接触することにより高い導電性が得られる。
【0021】
図1に示すように、アクチュエータ装置10は、電源3により電極2A、2B間に電位差がかかると、導電接合部6を介して電極層5A、5Bに電位差がかかる。電極2A、2Bには、例えば0.5〜3Vの直流電圧をかけることができる。
電極層5A、5Bに電位差がかかると、2点鎖線で示すように、電極層5A、5Bが伸長または収縮することによりアクチュエータ素子1には曲げ変形が生じる。
【0022】
図2は、アクチュエータ素子1の動作を説明する図である。
電極層5A、5Bに電位差が加えられると、電極層5A、5Bのカーボンナノチューブ相とイオン性液体相の界面に電気二重層が形成され、それによる界面応力によって電極層5A、5Bが伸長または収縮する。
これによって、アクチュエータ素子1は、図2(a)に示す未変形状態から、図2(b)に示すように、厚さ方向に曲げ変形した状態となる。
【0023】
アクチュエータ素子1は、陽極側(図2の左方)に曲げが生じやすい。陽極側に曲げが生じやすいのは、量子化学的効果によりカーボンナノチューブが陰極側で大きく伸びること、およびイオン性液体ではアニオンに比べてカチオンのイオン半径が大きいためその立体効果により陰極側がより大きく伸びること、などによると考えられる。
アクチュエータ素子1の先端1aの変位量(例えば図2(b)に示すL1)は、例えばアクチュエータ素子1の長さの0.5〜1倍であってよい。
アクチュエータ素子1は、空気中や真空中でも作動する。
【0024】
アクチュエータ装置10は、電極2A、2Bが導電接合部6を介して電極層5A、5Bに固定されているため、アクチュエータ素子1が変位したり(図2(b)参照)、振動が加えられた場合においても、電極2A、2Bと電極層5A、5Bとの間の電気的接続を確保できる。
従って、電極2A、2Bとアクチュエータ素子1との間の接続信頼性を高めることができる。
また、電極2A、2Bは導電性ペーストからなる導電接合部6によりアクチュエータ素子1に接続されるため、電極が素子に半田付けされる場合とは異なり、高熱によるアクチュエータ素子1の損傷を防止できる。
【0025】
(第二の実施形態)
図3は、本発明のアクチュエータ装置の第2の実施形態であるアクチュエータ装置20を示すもので、ここに示すアクチュエータ装置20は、電極12A、12B以外は図1に示すアクチュエータ装置10と同様の構成である。
電極12A、12Bは、フレキシブルプリント基板であり、外面5Aa、5Baから間隔をおいて、外面5Aa、5Baに対面して設置されている。
図示例では、電極12A、12Bは、内面12Aa、12Ba下部が電極層5A、5Bの外面5Aa、5B上部に一定の間隔をおいて対面している。
【0026】
電極12A、12Bは、可撓性を有するフィルム状の基材13の少なくとも内面(内面12Aa、12Ba)に配線層(導電層)(図示略)が形成されている。基材13は厚さ方向に曲げ変形可能である。
基材13には、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステルなどの絶縁性の樹脂材料を使用できる。配線層は、金属(銅、アルミニウム等)などからなり、メッキなどにより基材13表面に形成できる。
【0027】
電極12A、12Bの内面12Aa、12Baは、導電性ペーストからなる導電接合部16を介して外面5Aa、5Baに固定されている。
導電接合部16は、内面12Aa、12Baの一部(外面5Aa、5Baに対する対面領域の一部)と外面5Aa、5Baとの間に設けられ、電極12A、12Bの配線層と電極層5A、5Bとを電気的に接続する。
【0028】
アクチュエータ装置20は、電極12A、12Bが導電接合部16を介して電極層5A、5Bに固定されているため、アクチュエータ素子1が変位したり(図3の2点鎖線を参照)、振動が加えられた場合においても、電極12A、12Bと電極層5A、5Bとの間の電気的接続は確保される。
また、電極12A、12Bはフレキシブルプリント基板であるため、アクチュエータ素子1の変位に追従して容易に変形できることから、確実に電気的接続を確保できる。
従って、電極12A、12Bとアクチュエータ素子1との間の接続信頼性を高めることができる。
【0029】
(第三の実施形態)
図4は、本発明のアクチュエータ装置の第3の実施形態であるアクチュエータ装置30を示すもので、ここに示すアクチュエータ装置30は、アクチュエータ素子1の電極層5A、5Bの外面5Aa、5Baに、それぞれ導電層7A、7Bが形成されていること以外は図1に示すアクチュエータ装置10と同様の構成である。
【0030】
導電層7A、7Bは、金属(金、銀など)、カーボンナノチューブなどの導電性材料からなる。導電層7A、7Bの厚さは例えば10〜50nmである。導電層7A、7Bの形成によって、アクチュエータ素子1の表面導電性が高められる。
電極2A、2Bの先端2Aa、2Baを含む部分は、導電性ペーストからなる導電接合部6により導電層7A、7Bの外面7Aa、7Baに固定されている。これによって、電極2A、2Bは、導電接合部6および導電層7A、7Bを介して電極層5A、5Bに電気的に接続されている。
【0031】
アクチュエータ装置30は、電極2A、2Bが導電接合部6を介して導電層7A、7Bに固定されているため、電極2A、2Bとアクチュエータ素子1との間の接続信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1・・・アクチュエータ素子、2A、2B・・・電極、3・・・電源、4・・・イオン伝導層、5A、5B・・・電極層、6、16・・・導電接合部、7A、7B・・・導電層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導層とその両面にそれぞれ形成された一対の電極層とを有するアクチュエータ素子と、
前記アクチュエータ素子の電極層にそれぞれ電気的に接続された一対の電極と、を備え、
前記電極によって電位差が与えられることにより前記電極層が伸長または収縮することによって、前記アクチュエータ素子が厚さ方向に曲げ変形可能であり、
前記電極は、前記アクチュエータ素子に、導電性ペーストからなる導電接合部を介して固定されていることを特徴とするアクチュエータ装置。
【請求項2】
前記イオン伝導層は、イオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなることを特徴とする請求項1記載のアクチュエータ装置。
【請求項3】
前記電極層は、カーボンナノチューブとイオン性液体とポリマーとを含むゲル状組成物からなることを特徴とする請求項1または2記載のアクチュエータ装置。
【請求項4】
前記電極はフレキシブルプリント基板であり、前記アクチュエータ素子の外面に対面させて設けられていることを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項記載のアクチュエータ装置。
【請求項5】
前記電極は、前記電極層の外面に前記導電接合部を介して固定されていることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載のアクチュエータ装置。
【請求項6】
前記電極層の外面に導電層が形成され、
前記電極は、前記導電層の外面に前記導電接合部を介して固定されていることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項記載のアクチュエータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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