説明

アクチュエータ

【課題】新規な発想に基づくアクチュエータを提供する。
【解決手段】特定方向に運動する出力部材104と、前記出力部材104の運動方向と非平行に往復運動する2以上のキャリア106と、前記出力部材104に形成された所定の繰り返し数で振幅するガイド溝105と、キャリア106と共に往復運動しながら前記ガイド溝105内を移動する移動体としてのボール108と、キャリア106の各々を独立して駆動するボイスコイルモータ112と、を有してアクチュエータを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、より詳しくは入力部材の往復運動を特定の運動へと変換して出力可能な運動変換装置一体型のアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクチュエータの一部として機能する様々な種類の運動変換装置が開発され、市場で使用されている。例えば、回転運動を直線運動へと変換する運動変換装置として、ボールネジやラックピニオンが存在する。
【0003】
一方、直線運動を回転方向の運動へと変換するものとして、特許文献1に記載の運動変換装置が知られている。特許文献1に記載される運動変換装置を図20乃至図22に示す。図20は公知の運動変換装置1の斜視図である。この運動変換装置1は、ケーシングである支持部材2と、該支持部材の長手方向に貫通する形で往復運動する溝カム板6と、該溝カム板6に設けられた溝5と、この溝カム板6が往復運動(直線運動)するに伴って回転運動する回転軸4とを有している。
【0004】
図21に、この運動変換装置1の回転軸4に沿う断面図を示す。
【0005】
溝カム板6に設けられた溝5には、ボール8が嵌合しており、該ボール8を介して回転軸4の底面と接触している。このボール8は溝カム板6に設けられた溝5の本数と同じ数だけ存在している。
【0006】
図22に示すように、溝カム板6には、所定の曲線を描いた溝5が複数本設けられている。ここでは溝5は6本設けられている。このそれぞれの溝5に対応するようにボール8も6つ設けられている。このボール8は溝カム板6が往復運動することによって、溝5内を移動することが可能である。一方、このボール8は回転軸4との関係においてはその位置は固定されている。即ち、この運動変換装置1においては、溝カム板6が往復運動することによって、曲線を描いた溝5に沿って移動するボール8と共に、回転軸4が回転するように構成されている。
【0007】
【特許文献1】特開平7−224918号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ボールネジの場合には、変換後の運動(出力される運動)が直線運動のみに限定され、例えば円弧に沿って揺動するような運動を出力することはできず、又、長ストローク化を図る場合には、ネジ部の撓み等によって精度か悪化してしまう。一方、ラックピニオンの場合には、歯車を使用するという機構上、ガタの問題が発生し、高精度の駆動には適していない。更に、ボールネジ及びラックピニオンいずれの場合にも、運動の変換比率(例えば減速比)を場所により変えることは不可能である。更に、上記で説明した運動変換装置1においては、確かに溝カム板6の往復運動を、回転軸4の回転運動に変換することはできても、その回転は、最大でも約360°までしか回転することができず、連続した回転を出力し続けることはできない。又、出力軸として機能する回転軸4の軸方向の一方には、溝カム板6が位置して往復運動していることから、この回転軸4を中空とした場合でも、その中空部分に配線等を貫通して通すことは不可能である。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決した運動変換装置を備えたアクチュエータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特定方向に運動する出力部材と、前記出力部材の運動方向と非平行に往復運動する2以上の入力部材と、前記出力部材に形成された所定の繰り返し数で振幅するガイド溝と、前記入力部材と共に往復運動しながら前記ガイド溝内を移動する移動体と、前記入力部材の各々を独立して駆動する動力源を有してなるアクチュエータとして構成することで、上記課題を解決するものである。
【0011】
上記構成のアクチュエータは、往復運動する2以上の入力部材が、移動体及びガイド溝を介して出力部材を駆動するという今までにない新たな着想から具現化されたものである。当該運動変換装置において出力される運動は、以下の実施形態の説明において詳細に説明するように、直線運動としても、回転運動としても、更には円弧に沿った揺動運動として出力することも可能となっている。更に、ガイド溝の形状を予め変化させておくことによって、場所によって運動変換比率を変えることも可能となった。加えて、歯車機構を用いずに、溝と該溝内を移動する移動体を利用して作動するため、ガタの問題も発生し難い。又、出力される運動が回転運動の場合には、その回転を連続して出力し続けることも可能である。
【0012】
なお、ガイド溝の所定の「繰り返し数」とは、サイン波等の周期的に振幅するラインに沿った溝が、出力部材の運動方向(出力部材が円柱体や円筒体のような場合には、一周、即ち360度の間)に、繰り返される回数(最大値又は最小値の回数)のことを意味している。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来の問題点を同時に解消することのできるアクチュエータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下添付図面を用いて、本発明に係る実施形態の一例を詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例であるアクチュエータ100の主要部分のみを模式的に示した全体斜視図である。このアクチュエータ100は、ベースとなるフレーム102と、直線運動する出力部材としての出力板104と、この出力板104の運動方向と非平行(本実施形態においては出力板の運動方向と直行する方向)に往復運動する入力部材としての複数のキャリア106と、この複数のキャリア106を往復運動させるためのボイスコイルモータ(図1においては図示していない。)を有している。
【0016】
アクチュエータ100においては、キャリア106は、出力板104の側面に出力板104の運動方向に沿って3つ設けられている。この3つのキャリア106はそれぞれが、独立したボイスコイルモータによって駆動され、出力板104の運動方向と非平行(図1においては上下方向)に往復運動可能とされている。
【0017】
又、出力板104はキャリア106の往復運動方向と平行な平面を有する板状体であって、当該平面(側面)には、一定の幅且つ所定の繰り返し数で振幅するガイド溝(図1においては図示していない)が形成されている。
【0018】
次に図2及び図3を用いて説明する。
【0019】
図2は、アクチュエータ100の構造図である。又、図3(A)は、図2におけるIIIA−IIIA線に沿う断面図、図3(B)は、図2におけるIIIB−IIIBに沿う断面図、図3(C)は、図2におけるIIIC−IIIC線に沿う断面図である。
【0020】
出力部材である出力板104の側面には、一定の幅且つ所定の繰り返し数で振幅するガイド溝105が形成されている。
【0021】
出力板104は、ガイド116を介してフレーム102に支持されており、この出力板104はフレーム102に対してスライド可能とされている。又、フレーム102は、出力板104側に位置する内壁102Bと、反出力板104側に位置する外壁102Aとが、底部102Cで連結された構造とされている。勿論、一体的に構成されていても良い。又、フレーム102は磁性体で構成されている。なお、本実施形態においては、出力板104の一方の側面側にのみガイド116が設けられて支持されているが、他方側からも支持するように構成してもよく、そのようにすれば出力板104の支持剛性を向上させることができる。
【0022】
この外壁102Aの内側、即ち内壁102B側には、2つのマグネット114が設置されている。図3における上側に位置するマグネットが上部マグネット114Hであり、下側に位置するマグネットが下部マグネット114Lである。上部マグネット114Hは、その内側(内壁102B側)がN極とされ、外側(外壁102A側)がS極とされている。一方、下部マグネット114Lは、その内側(内壁102B側)がS極とされ、外側(外壁102A側)がN極とされている。又、このマグネット114と、内壁102Bとの間には、ボイスコイル113が位置しており、このボイスコイル113と連結されてキャリア106が形成されている。なお、このボイスコイル113と各マグネット114との間、及び、ボイスコイル113と内壁102Bとの間はそれぞれ若干の隙間を有して構成されており、非接触が保たれている。
【0023】
一方、出力板104の運動方向に位置を異ならせて配置される各キャリア106A、106B、106Cのそれぞれの間には、フレーム102と一体的に形成されたガイドバー103が配置されている。又、このガイドバー103と、各キャリア106A、106B、106Cとの間には、それぞれ、複数のころ110が備わっており、各キャリアが、出力板104と非平行に往復運動する際の、往復運動方向のガイドとして機能している。
【0024】
各キャリア106には、移動体であるボール(球体)108が備わっている。このボール108は、キャリア106に備わる凹部107に配置されている。又、ボール108はキャリア106に固定されておらず、該凹部107に位置したまま、自転することが可能である。このボール108は図3においてはキャリア106に固定されておらず、別体として構成されているが、キャリア106に固定するように一体的に(例えば、キャリアと一体的に削り出したり、一体的に鋳造したり、溶接する等)構成しても良い。このボール108はキャリア106と共に往復運動可能とされており、キャリア106が往復運動するに伴ってボール108も同様に往復運動するように構成されている。又、このボール108は、出力板104の側面に形成されているガイド溝105に嵌合している。ここで、本実施形態において、ガイド溝105の断面は、三角溝として構成されているが、この三角形状に限定されるものではない(詳細は後述)。
【0025】
なお、図示はしないが、アクチュエータ100には、出力板104の位置(突出量)を検出可能なエンコーダが備わっている。
【0026】
続いて、アクチュエータ100の作用について説明する。
【0027】
アクチュエータ100の電源が入れられると、図示せぬドライバによって制御されたボイスコイルモータ112のボイスコイル113に電流が流れる。このボイスコイル113に電流が流れると、流れた電流の方向とマグネット114の磁界との作用により、ボイスコイル113は上下に運動を始める(フレミングの左手の法則)。ボイスコイル113に流れる電流の方向は、出力板104の位置を監視するエンコーダからの情報を基にドライバにより適宜切り替えられるため、その切り替えに応じてボイスコイルの運動の方向は反転する。即ち、ボイスコイル113と一体的に形成されているそれぞれのキャリア106を往復運動させ始める。このときの各キャリア106の移動する方向(往復方向のいずれか)やそのタイミングは、前述したドライバによりコントロールされる。
【0028】
各キャリア106が往復運動することによって、各キャリア106に備わっている各ボール108もそれに伴い(出力板104の側面に沿った)往復運動を始める。このとき各ボール108は、出力板104の側面に形成されたガイド溝105に嵌合しているため、出力板104に対して往復運動の動き(力)を伝達する。この伝達された力によって、出力板104は以下のように運動する。
【0029】
キャリア106の往復運動、即ちボール108の往復運動によって、出力板104が運動(スライド)することについて図4を用いて説明する。図4は、出力板104の側面に形成されたガイド溝105と、各ボール108の位置関係を示したものである。第1ボール108Aは第1キャリア106Aと一体化しており、第2ボール108Bは第2キャリア106Bと一体化しており、第3ボール108Cは第3キャリア106Cと一体化している。この状態で、出力板104を図4における運動方向(矢示)に運動させようとする場合には、第2ボール108Bが図4における下方向に駆動され、第3ボール108Cが図4における上方向に駆動されている必要がある。即ち、第2ボール108Bが、ガイド溝105に嵌合しつつ図4における下方向に駆動されることによって、出力板104を矢示した運動方向(図4においては左方向)に運動させようとする分力Frが発生する。又、第3ボール108Cを図4における上方向に駆動することによって、出力板104を矢示した運動方向へと運動させる分力Frが発生する。ここで発生した分力Frによって、出力板104は矢示方向へと運動を始める。
【0030】
なお、図4の状態において、第1ボール108Aは出力板104の運動には寄与しない。これは、第1ボール108Aが、ちょうど振幅するガイド溝の頂点に位置しているため、第1ボール108Aが図4における上方向又は下方向のいずれかに駆動されたとしても、出力板104に対する運動方向への分力は発生し得ないからである。
【0031】
このようにして出力板104が運動すると、その直後には第2ボール108Bがガイド溝105のちょうど底辺のところに位置する。このときの第2ボール108Bは、先程説明した第1ボール108Aと同様に、出力板104の運動には寄与し得ない。但し、その時点においては先の時点で運動に寄与していなかった第1ボール108Aが出力板104を運動させるための分力を発生している。
【0032】
即ち、この実施形態におけるアクチュエータ100においては、常に2つのボール108が出力板104の運動方向と非平行に駆動されることによって、出力板104の運動に寄与する分力を発生させている。
【0033】
又、前記説明したガイド溝105は、説明等の便宜上、出力板104の側面にわたって繰り返し数1又は2の振幅として説明している。しかし実際には、図5に示す例のようなガイド溝が形成される。図5における符号Wは、ガイド溝105の振幅幅を示しており、符号Mはガイド溝105の1繰り返し単位(例えば最小値から次の最小値まで)に必要な運動方向の距離を示している。実際に出力板104に形成されるガイド溝105は、振幅幅Wの値が1繰り返し単位に要する運動方向の距離Mの1/2(即ち、M/2)よりも大きくなるように設計される。これは、ガイド溝105内を移動するボール(移動体)が出力板104の運動方向と非平行に駆動された際に、このガイド溝105との接触角αが45度以下になることによって、出力板104の運動トルクを増幅させる作用が発揮できるからである。即ち、摩擦等の損失を考慮しなければ、キャリア106の駆動されるトルクよりも、出力板104の運動トルクを大きくして出力することができる。よって、この振幅幅Wの値は、ガイド溝105の1繰り返し単位に要する運動方向の距離Mの1/2よりも大きいのが好ましい。この比率は、アクチュエータ100の用途等により適宜変更して構成可能である。
【0034】
なお、本実施形態においては、それぞれのキャリア106は、各々が独立したボイスコイルモータ112によって直接駆動され、出力板104の運動方向と非平行に往復運動可能とされている。これにより、間接的に駆動されるような場合と比べて(例えば回転部材を介して駆動されるような場合に比べて)損失が少なく、装置全体としての伝達効率を向上させることができる。
【0035】
次に、図6に示す例のように、1つのキャリア106に対して、複数のボール108を設けるような構成としても良い。このようにすれば、個々のボール108に係る負荷が分散されることによって、ボール108やガイド溝105の耐久性を向上させることが可能であると共に、伝達容量を増大することが可能となる。図6における実施例においては、各キャリア106に対して2つのボール108を設けているが、これに限られる趣旨のものではなく、3つ以上であれば更に上述のメリットは大きくなる。
【0036】
なお、ガイド溝105の振幅形状は、図4乃至図6で説明したような正弦波(サイン波)形状のものに限られるものではない。例えば、図7に示すように、波形の一部が直線状に形成されていても良い。このような形状のガイド溝とすれば、溝自体の加工も容易であり、駆動時におけるボールに対する負荷変動を少なく抑えることが可能となる。又、キャリアの往復運動を制御しやすいというメリットもある。更に、図18(A)のように一部振幅が省略され、その間を直線の溝でつなぐような構成とすることも可能である。このようにすれば、駆動トルクや位置精度がそれ程必要なく、出力板104を素早く移動させたい場所(ここではガイド溝105の直線部分)を設けることができる。加えて同図(B)に示すように、場所によってガイド溝105の振幅する周期を変化させてもよい。このようにすれば、場所によって駆動トルクや位置精度を調整することができる。勿論これらを組み合わせて構成してもよい。このような場合には、図19に示したように、1のガイド溝105に対して1のキャリア106を配置することが望ましい。これは、例えば、同じ周波数でキャリア106を駆動した場合に、1のガイド溝105に対して複数のキャリア106が存在すると、出力板104の動きを阻害してしまうからである。又、出力板104を連続的に運動させるためには、少なくとも2つのキャリアによって駆動する必要がある。そこで、具体的には、図19(A)のように、出力板104の上下方向に2本のガイド溝105を設け、それぞれのガイド溝105に、1つずつキャリア106を配置する。このとき、キャリア106は、出力板104の運動方向に対して同位置に配置し、且つ、ガイド溝105の直線部分も出力板104の運動方向に対して同位置に配置することとなる。又、図19(B)に示したように、出力板104の表面(同図手前側)と裏面にそれぞれガイド溝105を設け、キャリア106もこれに対応して、出力板104の表面及び裏面に1つずつ配置してもよい。
【0037】
又、ガイド溝105の断面形状は、図3で説明したような三角形状のものであればボール108との圧力角を取り易く、耐荷重性が向上するというメリットがあるが、三角形状以外にも、特に、軸受円弧形状としても良い。
【0038】
又、移動体としてボール108を例にして説明しているが、必ずしもこのボールのような球体に限られるものではなく、例えば図8に示すようなローラ109を用いて構成してもよい。今まで説明したような球体である場合には、簡易に構成でき、ボール自身が自転することによって摩擦ロスや摺動ロスの少ない構造とすることが可能である。一方、図8のようにローラ109として構成した場合には、ローラ109がガイド溝105内を移動するに伴って自由に回転することによって、ボール等の球体に比べて更に摩擦ロス・摺動ロスを低減することが可能となる。又、移動体としては、キャリアに円柱状(円筒状)のものを一体的に設けてもよい。
【0039】
又、アクチュエータ100のように、キャリア106の数を3の整数倍の数設けるようにすれば、広く一般に利用される三相モータドライバにより駆動源となるボイスコイルモータの電流制御を行なうことが可能となるため、別途ドライバを専用に用意する必要が無い。
【0040】
次に、図9を用いて前述したボイスコイルモータ112の代わりに電磁石を利用した運動変換装置200について説明する。
【0041】
この電磁石を用いた運動変換装置200においては、非磁性体からなるフレーム202にヨーク221を抱えたコイル222が設置されている。即ち、コイル222に通電することでヨーク221及びコイル222は電磁石224となる、該ヨーク221と若干の隙間を有して、マグネット220と連結されたキャリア206が配置されている。このマグネット220の極性(ヨーク側の極性)は、N極でもS極でもいずれでもよい。コイル222に流される電流の方向によって電磁石224の極性は変化する。電磁石224のヨーク221側の極性がマグネット220と同極となればお互いに反発し合うため、キャリアは上側(図9における上側)に駆動される。一方、電磁石224のヨーク221側の極性がマグネット220と異極となればお互いに引き合うためキャリアは下側(図9における下側)に駆動される。
【0042】
前述したアクチュエータ100のようにキャリアの駆動源としてボイスコイルモータを用いた場合には、設計及び設計変更が容易であり、制御性が良好(電流/推力の線形性が良い)、推力が大きくストロークが長い、反応が早く位置決めが正確である等の利点を有している。一方、アクチュエータ200のように、電磁石を用いれば更に単位体積当りの推力を大きくとることができる。
【0043】
なお、出力板の形状は、上述した実施形態のように直線状のものに限定されるものではなく、図10に示したように、所定の半径を有する円弧に沿って湾曲している板状体を出力版304として構成してもよい。このように構成することにより、揺動運動(円弧に沿った運動)を出力することが可能となる。
【0044】
次に、図11乃至図17を用いて、本発明の他の実施形態として、出力部材が回転する円筒状の部材として構成されたアクチュエータの実施形態を説明する。
【0045】
図11は、本発明の実施形態の一例である回転アクチュエータ400の主要部分のみを示した全体斜視図である。この回転アクチュエータ400は、ベースとなるフレーム402と、回転運動する出力部材としての出力軸404と、この出力軸404の回転軸方向に往復運動する入力部材としての複数のキャリア406と、この複数のキャリア406を往復運動させるためのボイスコイルモータ(図11においては図示していない。)とを有している。
【0046】
回転アクチュエータ400においては、キャリア406は、出力軸404の径方向外側に約120°の位相を異ならせて3つ設けられている。この3つのキャリア406はそれぞれが、独立したボイスコイルモータによって駆動され、出力軸404の回転軸と平行(図11に示す矢印方向)に往復運動可能とされている。
【0047】
なお、本実施形態においては、出力軸404は、回転軸方向に貫通する中空部分を有する円筒体で構成されている。背景技術で説明した場合のように、出力軸404の回転軸方向を何らかの部材が遮るような構成とはされていないため、この中空部分に配線等のケーブル類を自由に貫通させて使用することができる。
【0048】
又、出力軸404には、周方向に1周にわたって一定の幅且つ所定の繰り返し数で振幅するガイド溝(図11においては図示していない)が形成されている。
【0049】
次に図12及び図13を用いて説明する。図12は、回転アクチュエータ400を、出力軸404の径方向から見て展開した展開図である。又、図13(A)は、図12におけるIIIA−IIIA線に沿う断面図、図13(B)は、図12におけるIIIB−IIIBに沿う断面図、図13(C)は、図12におけるIIIC−IIIC線に沿う断面図である。
【0050】
出力部材である出力軸404の外周面(周方向)には、1周にわたって一定の幅且つ所定の繰り返し数で振幅するガイド溝405が形成されている。なお、説明の便宜及び理解容易のため、このガイド溝405の繰り返し数(例えば最大値の数)は1として説明する。
【0051】
出力軸404は、ガイド416を介して断面がコの字状のフレーム402に支持されており、この出力軸404はフレーム402に対して回転可能とされている。又、フレーム402は、出力軸404側に位置する内壁402Bと、外側に位置する外壁402Aとが、底部402Cで連結された構造とされている。勿論、一体的に構成されていても良い。なお、フレーム402は磁性体で構成されており、ヨークとして機能する。
【0052】
この外壁402Aの内側、即ち内壁402B側には、2つのマグネット414が設置されている。図13における上側に位置するマグネットが上部マグネット414Hであり、下側に位置するマグネットが下部マグネット414Lである。上部マグネット414Hは、その内側(内壁402B側)がN極とされ、外側(外壁402A側)がS極とされている。一方、下部マグネット414Lは、その内側(内壁402B側)がS極とされ、外側(外壁402A側)がN極とされている。又、このマグネット414と、内壁402Bとの間には、ボイスコイル413が位置しており、このボイスコイル413と連結されてキャリア406が形成されている。なお、このボイスコイル413と各マグネット414との間、及び、ボイスコイル413と内壁402Bとの間には、半径方向(出力軸404の半径方向)にそれぞれ若干の隙間を有して位置しており、非接触が保たれている。
【0053】
一方、約120°の位相を異ならせて配置される各キャリア406A、406B、406Cのそれぞれの間には、フレーム402と一体的に形成されたガイドバー403が配置されている。又、このガイドバー403と、各キャリア406A、406B、406Cとの間には、それぞれ、複数のころ410が備わっており、各キャリアが、出力軸404の回転軸と平行に往復運動する際の、往復運動方向のガイドとして機能している。
【0054】
各キャリア406には、移動体であるボール(球体)408が備わっている。このボール408は、キャリア406に備わる凹部407に配置されている。又、ボール408はキャリア406に固定されておらず、該凹部407に位置したまま、自転することが可能である。このボール408は図13においてはキャリア406に固定されておらず、別体として構成されているが、キャリア406に固定するように一体的に(例えば、キャリアと一体的に削り出したり、一体的に鋳造したり、溶接する等)構成しても良い。このボール408はキャリア406と共に往復運動可能とされており、キャリア406が往復運動するに伴ってボール408も同様に往復運動するように構成されている。又、このボール408は、出力軸404の外周面に1周にわたって形成されているガイド溝405に嵌合している。ガイド溝405の断面は、ここでも三角溝として構成されているが、この三角形状に限定されるものではない。
【0055】
なお、図示はしないが、回転アクチュエータ400には、出力軸404の回転位置(回転角度)を検出可能なエンコーダが備わっている。
【0056】
続いて、回転アクチュエータ400の作用について説明する。
【0057】
回転アクチュエータ400の電源が入れられると、図示せぬドライバによって制御されたボイスコイルモータ412のボイスコイル413に電流が流れる。このボイスコイル413に電流が流れると、流れた電流の方向とマグネット414の磁界との作用により、ボイスコイル413は出力軸404の回転軸と平行に運動を始める(フレミングの左手の法則)。ボイスコイル413に流れる電流の方向は、出力軸404の回転位置を監視するエンコーダからの情報を基にドライバにより適宜切り替えられるため、その切り替えに応じてボイスコイルの運動の方向は反転する。即ち、ボイスコイル413と一体的に形成されているそれぞれのキャリア406を往復運動させ始める。このときの各キャリア406の移動する方向(往復方向のいずれか)やそのタイミングは、前述したドライバによりコントロールされる。
【0058】
各キャリア406が往復運動することによって、各キャリア406に備わっている各ボール408もそれに伴い(出力軸404の回転軸と平行な)往復運動を始める。このとき各ボール408は、出力軸404の外周面に形成されたガイド溝405に嵌合しているため、出力軸404に対して往復運動の動き(力)を伝達する。この伝達された力によって、出力軸404には回転力が発生する。
【0059】
キャリア406の往復運動、即ちボール408の往復運動によって、出力軸404が回転すること、及び応用例については、前述したアクチュエータ100の場合と略同様である。
【0060】
なお、前述した実施例においては、全て出力軸404の外周面にガイド溝405が形成されていた。これは、外周面に形成することによって、ボール(移動体)から回転分力を受ける位置を、出力軸404の軸心から離し、より高い出力軸の回転力(回転トルク)を得る為である。一方、回転アクチュエータ400のように、出力軸404が中空部を有する円筒体で形成されている場合には、必ずしも外周面にガイド溝405を設ける必要は無く、例えば内周面側に設けると共に、ボール、キャリア及びボイスコイルモータも円筒体の内周面側に設けることによって、回転アクチュエータ自体の径方向の大きさをコンパクトに設計することが可能となる。更に、出力軸404の外周面と内周面の両方にガイド溝405を形成することも可能であり、そのように構成することで、出力軸404の内側及び外側の両方にキャリア及びボール(やローラ)を設けることができ、より伝達容量を大きくすることが可能となる。
【0061】
なお、図14に示すように、ボイスコイル513´を駆動するために、ボイスコイルの両側に位置するヨーク530´の一方(例えば図に示すように内壁側)を出力軸504´に組み込んだ(一体化した)構成とすれば、装置の厚みが抑えられることによって、装置全体をコンパクトに構成できる。又は、装置全体の大きさを変えることなく、中空部分の径(ホロー径)を大きくすることができ、より多くの配線等を通すことが可能となる。更に、図15に示すように、ヨーク514だけでなく永久磁石514をも組み込んだ(一体化した)構成とすれば、ボイスコイル513設置領域での磁束密度が増加し、出力トルクを増加させることができる。又、この場合、出力軸504に組み込まれている側の永久磁石514は、出力軸504の形状に沿って円筒形状とされている。その結果、出力軸が回転した場合でも一定のトルクを得ることが可能となっている。更に、当該構成は上述したアクチュエータ100のように、出力部材が板状体のアクチュエータに適用しても、装置の厚みを低減できるという効果を発揮する。
【0062】
更に、完全な円筒の出力部材ではなく、図16に示したように、円筒の一部が出力板604となるように構成してもよい。即ち、当該出力板604を、所定の半径を有する円弧に沿って湾曲した板状体として構成し、当該板状体の湾曲面にガイド溝を形成することによって、所定の半径を有する円弧に沿って出力(揺動)するアクチュエータ600を構成することができる。この実施形態を更に発展させて、図17に示すように、アクチュエータ600を対向に組み合わせ、それぞれの出力板604を連結部材630で連結すれば、連結部材630上に種々の物を配置して回転させることが可能となる。
【0063】
なお、図示はしないが、上述の各実施形態の応用例として、ボイスコイルモータや電磁石の代わりに、例えば、圧電素子(電圧を加えると伸縮する素子、電気特性的には抗電界が大きい線形領域の広い物質)を用いれば推力が大きく応答性の良い動力源が構成できる。又、ピストンのように内燃機関の爆発力に起因する動力源を用いれば推力が大きな動力源を安価に構成することができる。又、電気的入力を機械的往復振動に直接変換可能な磁石可動形リニア振動運動変換装置(Moving-Magnet-Type Linear Oscillatory Actuator,LOA)を動力源として用いれば、汎用ドライバを利用して制御性が良好となる。その他にも、リニアステッピングモータ(VR型含む)、ソレノイドプランジャなどを用いてもよい。
【0064】
又、各アクチュエータは、連続した運動(回転運動)を出力し続けるだけでなく、キャリアの往復運動を制御することによって、例えばステッピングモータのように機能させることも可能である。このとき、出力部材に形成されるガイド溝の繰り返し数を多くとることで、1繰り返し単位当りの運動方向(周方向)の距離を短くすることができ、より細かなステップで位置を制御することが可能となる。
【0065】
なお、本明細書において今までに説明した各アクチュエータにおいては、キャリアは3つ設けられ、それに伴いボール(移動体)も3つ設けられて構成されていたが、最低限2つずつ設けられていることによって、本発明の目的は達成し得る。即ち、常時最低限1つのボール(移動体)がガイド溝を介して出力部材を運動(回転運動)させるための分力を発生している限りにおいて、出力部材の運動(回転運動)を維持しつつけることができるからである。
【0066】
又、キャリアやボールの数を、出力部材を挟んで丁度対称位置に位置するような数(例えば6つ)で構成し、この対称位置に位置するキャリアを同じ動きとなるように制御することにより、装置全体のフレームなどに対する反力のバランスを取ることができ好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、アクチュエータとして広く一般に利用でき、特に、ロボットの関節部等への利用が適している。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係るアクチュエータの主要部品を示した全体斜視図
【図2】アクチュエータ100の構造図
【図3】(A)は図2におけるIIIA−IIIA線に沿う断面図、(B)は図2におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図、(C)は図2におけるIIIC−IIIC線に沿う断面図
【図4】図2における出力板、ガイド溝、ボールの位置関係を示す図
【図5】現実的なガイド溝の構成例
【図6】1つのキャリアに対して複数のボールを配置した場合の出力板、ガイド溝、ボールの関係図
【図7】ガイド溝の一部を直線とした場合の構成例
【図8】移動体をローラとして構成した場合の図3相当図
【図9】キャリアの駆動源を電磁石として構成した場合の図3相当図
【図10】本発明の他の実施形態(出力部材が所定の半径を有する円弧に沿って湾曲している板状体の実施形態その1)にかかるアクチュエータの主要部品を示した全体斜視図
【図11】本発明の更に他の実施形態(出力部材が回転する円筒体の実施形態)にかかるアクチュエータの主要部品を示した全体斜視図
【図12】図11の展開図
【図13】(A)は図12におけるIIIA−IIIA線に沿う断面図、(B)は図12におけるIIIB−IIIB線に沿う断面図、(C)は図12におけるIIIC−IIIC線に沿う断面図
【図14】出力軸に、ヨークを組み込んだ実施例の図13相当図
【図15】出力軸に、ヨーク及び永久磁石を組み込んだ実施例の図13相当図
【図16】本発明の更に他の実施形態(出力部材が所定の半径を有する円弧に沿って湾曲している板状体の実施形態その2)にかかるアクチュエータの主要部品を示した全体斜視図
【図17】図16のアクチュエータの応用例を示す斜視図
【図18】ガイド溝の構成例であり、(A)は、一部振幅を省略し省略部分を直線の溝で連結した構成例、(B)は、更に振幅周期を変更した構成例
【図19】ガイド溝の構成例であり、(A)は、出力部材の上下に2本のガイド溝を配置した構成例、(B)は、出力部材の表裏にそれぞれガイド溝を配置した構成例
【図20】特許文献1に記載される運動変換装置の全体斜視図
【図21】図20における回転軸に沿う断面図
【図22】特許文献1記載の運動変換装置における溝カム板と回転軸との関係図
【符号の説明】
【0069】
100…アクチュエータ
102…フレーム
103…ガイドバー
104…出力板
105…ガイド溝
106…キャリア
108…ボール(移動体)
110…ころ
112…ボイスコイルモータ(駆動源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定方向に運動する出力部材と、
前記出力部材の運動方向と非平行に往復運動する2以上の入力部材と、
前記出力部材に形成された所定の繰り返し数で振幅するガイド溝と、
前記入力部材と共に往復運動しながら前記ガイド溝内を移動する移動体と、
前記入力部材の各々を独立して駆動する動力源と、
を有してなるアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記出力部材は、前記入力部材の往復運動方向と平行な平面を有する板状体であって、
前記ガイド溝は、前記平面に形成されている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
請求項2において、
前記板状体は、所定の半径を有する円弧に沿って湾曲している
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項1において、
前記出力部材の運動は回転運動であり、
前記入力部材の運動方向は前記出力部材の回転軸と平行であり、
前記ガイド溝は前記出力部材の周方向に形成されている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項4において、
前記出力部材は円筒体である
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1において、
前記出力部材は、所定の半径を有する円弧に沿って湾曲した板状体であって、
前記ガイド溝は、前記板状体の湾曲面に形成されている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記ガイド溝の振幅は、前記所定の繰り返し数における1/2単位の繰り返しに必要な前記出力部材の運動方向の距離よりも大である
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記ガイド溝の少なくとも一部は直線状である
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記動力源は、ボイスコイルモータである
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項10】
請求項9において、
前記ボイスコイルモータを構成するマグネット及びヨークの少なくとも一部が、前記出力部材と一体化されている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記動力源は、電磁石である
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかにおいて、
前記出力部材と、前記2以上の入力部材とは、それぞれが複数の前記移動体を介して接触可能とされている
ことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれかにおいて、
前記入力部材は3の整数倍の数設けられており、
前記動力源は、3相モータドライバにより電流制御されている
ことを特徴とするアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2007−120749(P2007−120749A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214964(P2006−214964)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】