説明

アクティブアレイアンテナ装置

【課題】アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけ、低雑音増幅器の内部雑音を低減し受信系の高感度化を図るアクティブアレイアンテナ装置。
【解決手段】M個(M≧2)のアンテナ素子で受信された受信信号に対して所定の帯域を通過させるM個の受信フィルタ7、M個の受信フィルタのM個の受信信号を増幅するM個の低雑音増幅器8、M個の増幅信号の各々の増幅信号について増幅信号をN個(N≧2)の分配信号に分配するM個の分配器9、各々の分配器毎に設けられN個の分配信号の位相を移相させるN個の移相器10、N個の移相信号を減衰させるN個の減衰器11、N個の減衰器に対応して設けられ各減衰器毎にM個の分配器分の減衰器出力を加算してビーム合成するN個のビーム合成回路12、低雑音増幅器と超電導素材で構成される受信フィルタを収納する断熱用保温容器6、受信フィルタ及び低雑音増幅器を冷却し受信フィルタを超電導状態にする冷却手段69。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ、通信システムやマイクロ波放射計や電波受信システムなどの受信用アンテナとして用いられるアクティブアレイアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ性能は、レーダ方程式により表される。レーダ性能を向上させるためには、レーダ方程式に表されるパラメータに関して、(a)送信尖頭電力の増大、パルス幅の増大、(b)アンテナ利得の増加、(c)長波長の利用、(d)システム雑音温度の低減、(e)システム損失の低減などがある。
【0003】
送信尖頭電力の増大やアンテナの大型化などには制約も多く、システム規模の増大を招くため、実施する上では、一定の限界がある。また、近年の電波資源不足などから長波長を利用することは困難である。
【0004】
また、ステルスと呼ばれるような意図的に電波反射を小さくした目標が出現するようになり、レーダ性能を向上させる要請は極めて強い。これに対処するため高感度な受信性能が必要であり、システム損失の低減やシステム雑音温度の低減が求められている。
【0005】
システム損失には種々の項目があるが、代表的な項目に送信機からアンテナまでの送信給電損失がある。送信給電損失を低減するため、送信増幅機能、送受切換え機能および受信機能を一体化した送受信モジュールと呼ばれるモジュールを多数使用するアクティブアレイアンテナが用いられ、特に、アクティブフェーズドアレイ方式が主流である。
【0006】
アクティブフェーズドアレイ方式とは、それぞれのアンテナ素子と移相器の間に送受切換え機能を組み込むとともに、送信系に送信増幅器、受信系に受信用低雑音増幅器((LNA; Low Noise Amplifier))の両方(又は一方)を組み込んだ送受信モジュールと呼ばれるモジュールを配列したアンテナ方式である。
【0007】
送受信モジュールに送信増幅器を組み込んだ場合、アンテナ素子に近接してモジュールが配置されるため、導波管による給電損失などは発生せず、送信給電損失を必要最小限の部品(サーキュレータなど)による損失のみに抑えることができる。
【0008】
また、送受信モジュールに受信用LNAを組み込んだ場合には、受信時の損失を低減でき且つマルチビームを形成できる。即ち、LNAにより増幅された受信信号は、S/Nを劣化させることなく複数の信号に分配できるため、分配された受信信号によって独立の複数の受信ビームが形成できる。
【0009】
アクティブフェーズドアレイアンテナは、複数の受信ビームを持つことで、同時にそれぞれ別の目標に対処でき、多彩な機能を同時にかつ独立に実現できる。マルチビームを必要とする多機能化には、少なくとも受信LNAをアンテナ素子ごとに持たせたアクティブアレイが適合することが分かる。
【0010】
複数の受信ビーム(受信マルチビーム)を実現するためには、LNAによって増幅されたアンテナ素子ごとの受信信号を、必要な受信ビーム数だけ分配した後に、サイドローブ抑圧のための振幅ウェイト、ビーム指向方向制御のための位相ウェイトを施す減衰器、移相器などを通過させた後に信号を合成するビーム合成回路が受信ビーム数分だけ必要であり、システム規模が増大するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−236206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、アクティブフェーズドアレイアンテナにあっても、アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけるとともに、低雑音増幅器の内部雑音を低減して受信系の高感度化を実現することができなかった。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけるとともに、低雑音増幅器の内部雑音を低減して受信系の高感度化を図ることができるアクティブアレイアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置によれば、M個(M≧2)のアンテナ素子又はアンテナサブアレイにより受信された受信信号に対して所定の帯域を通過させるM個の受信フィルタと、前記M個の受信フィルタからのM個の受信信号を増幅するM個の低雑音増幅器と、前記M個の低雑音増幅器で増幅されたM個の増幅信号の各々の増幅信号について、増幅信号をN個(N≧2)の分配信号に分配するM個の分配器と、前記各々の分配器毎に設けられ、前記分配器で分配されたN個の分配信号の位相を移相させるN個の移相器と、前記N個の移相器からのN個の移相信号を減衰させるN個の減衰器と、N個の減衰器に対応して設けられ、各減衰器毎に前記M個の分配器分の減衰器出力を加算することによりビームを合成するN個のビーム合成回路と、前記低雑音増幅器と超電導素材により構成される前記受信フィルタとを収納する真空容器などの断熱用保温容器と、前記受信フィルタ及び前記低雑音増幅器とを冷却し前記受信フィルタを超電導状態にする冷却手段とを備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の受信フィルタと低雑音増幅器とが封入された真空容器の断面図である。
【図3】第2の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図4】第3の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図5】第4の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図6】第5の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図7】第6の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図8】第7の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図9】第8の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【図10】第9の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【第1の実施形態】
【0017】
第1の実施形態のアクティブアレイアンテナ装置は、少なくとも受信用LNAを組み込んだアクティブフェーズドアレイ方式を用い、複数の独立した受信ビーム(マルチビーム)を形成するDBF(Digital Beam Forming)方式を採用し且つ多機能を実現する。なお、実施形態はDBF方式に限定されない。このアクティブアレイアンテナ装置は、アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけるとともに、低雑音増幅器の内部雑音を低減して受信系の高感度化を図る。
【0018】
まず、受信アンテナにおけるシステム雑音温度について説明する。システム雑音温度とは、受信系におけるノイズレベルを決定する数値であり、システム雑音温度と受信系帯域幅との積に一定の定数(ボルツマン定数)を乗算した乗算出力が受信系における雑音電力である。このため、システム雑音温度を低減すると、受信信号のS/Nを直接改善でき、受信系を高感度化できる。
【0019】
一般的にシステム雑音温度は、アンテナ出力端におけるシステム雑音温度Tsで代表して表し、アンテナ出力(受信)端に出力されるアンテナ外部から入射する雑音(Ta)とアンテナからLNAまでの給電系における損失による雑音(Tr)と、LNAで付加されるLNA内部雑音(Te)とLNA以降の受信系で付加される雑音とで構成される。
【0020】
LNA以降の受信系で付加される雑音は、LNAの利得を充分高くするなどの設計的な配慮を行うことで、その影響を無視できる。すると、システム雑音温度の算出式は次のようになる。
【0021】
Ts=Ta+Tr+Lr*Te
一般的な条件のもとでは下式で表される。
【0022】
Ta=(0.876*Tsky+36)/La+Tta*(1−1/La)
Tr=Ttr*(Lr−1)
Te=To*(Fn−1)
ここで、Tsky;スカイ雑音温度、La;アンテナオーミック損、Tta;アンテナ温度
Ttr;給電系温度、Lr;給電系損失、To;器材(LNA部)温度、Fn;LNA雑音指数である。 通常の設計においては、器材各部の標準温度としてTta=Ttr=To=290Kが用いられる。
【0023】
上記算出式から、(外部から到来する雑音であるスカイ雑音は環境雑音であるため対象外)各損失を低減するとともにLNAの雑音指数を低減することで、システム雑音温度を低減できる。また、システム雑音温度は、冷却により温度を下げることで低減できる。
【0024】
ここで、仮想的な受信系構成におけるシステム雑音温度の算出例を示す。算出例では、スカイ雑音温度をレーダで多用する1GHz〜10GHzのマイクロ波帯において、概ね50K(仰角2度相当)を代表値とした。
【0025】
Tsky=50K ;スカイ雑音温度
Tta=Ttr=To=290K ;標準の器材温度
La=0.2dB;アンテナオーミック損
Lr=5dB ;給電系損失
Fn=3dB ;LNA雑音指数
Ta=89K、Tr=627K、Te=289K→Ts=1629Kである。
【0026】
ここで、他の条件を変更しないで、Lr=0dB,Fn=1dBとすることができれば、
Ta=89K、Tr=0K、Te=75K→Ts=164K
となる。システム雑音温度が1/10となることで、S/Nが10dB改善できる。即ち、アンテナからLNAまでの給電損失をゼロに近づけると同時に、LNAで付加される内部雑音を極力低減する。即ち、LNAの雑音指数(Fn)を極力小さくすることで、受信系の高感度化が実現できる。
【0027】
このように、多数のアンテナ素子を配列したアクティブフェーズドアレイを適用することで、マルチビーム形成と受信の高感度化とを同時に実現できる。また、アクティブアンテナの特性を有効に生かすために、本実施形態は、アンテナからLNAまでの給電系を超電導線路とし損失をゼロに近づけるとともに、LNAを冷却することによりLNAで付加される内部雑音を低減する。
【0028】
また、LNAを冷却することで、雑音指数が低下するとともに器材温度を下げることで雑音温度を低下できる。両者を組み合わせることで大きな雑音低減効果を得ることができる。ここで、それぞれの雑音低減効果は次のようになる。
【0029】
(1) パラボラアンテナなどの場合(改善前)
Lr=5dB;給電系損失、 Fn=3dB;LNA雑音指数
Ta=89K、Tr=627K、Te=289K→Ts=1629K
(2) アクティブアンテナである場合
Lr=2dB;給電系損失、 Fn=3dB;LNA雑音指数
Ta=89K、Tr=170K、Te=289K→Ts=716K
(3.6dB改善)
(3) 給電系に超電導技術を適用した場合
Lr=0.5dB,Ttr=80Kに変更
Ta= 89K、Tr=10K、Te=289K→Ts=423K
(5,9dB改善)
(4) LNAの冷却を(3)に加えて適用した場合
To=100K、 Fn=1dBに変更
Ta=89K、Tr=10K、Te=26K→Ts=128K
(11.0dB改善)
このように超電導線路を用いるとともにLNAを冷却することで、システム雑音温度を大幅に低減できる。
【0030】
次に具体的な第1の実施形態の構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。アクティブアレイアンテナ装置は、分配器1、移相器2−1〜2−n、送信アンプ3−1〜3−n、送信フィルタ4−1〜4−n、サーキュレータ5−1〜5−n、真空容器6−1〜6−n、受信フィルタ7−1〜7−n、LNA(低雑音増幅器)8−1〜8−n、分配器9−1〜9−n、移相器10a−1〜10a−n,10b−1〜10b−n、減衰器11a−1〜11a−n,11b−1〜11b−n、合成回路12−1,12−2を有する。アンテナ素子は、送信フィルタ4−1〜4−nに対応してn個設けられている。
【0031】
分配器1は、送信信号を移相器2−1〜2−nに分配する。移相器2−1〜2−nは、分配器1からの送信信号をアンテナ素子毎に所定の位相だけ移相させて送信アンプ3−1〜3−nに出力する。送信アンプ3−1〜3−nは、移相器2−1〜2−nからの送信信号を増幅して送信フィルタ4−1〜4−nに出力する。
【0032】
送信フィルタ4−1〜4−nは、送信アンプ3−1〜3−nからの送信信号に対してフィルタリングを行い、対応するアンテナ素子に出力する。サーキュレータ5−1〜5−nは、対応するアンテナ素子からの受信信号を受信フィルタ7−1〜7−nに出力する。
【0033】
真空容器6−1〜6−nは、受信フィルタ7−1〜7−n、LNA(低雑音増幅器)8−1〜8−nとを有する。真空容器6−1〜6−n、受信フィルタ7−1〜7−n、LNA8−1〜8−nの詳細については、後述する。受信フィルタ7−1〜7−nは、サーキュレータ5−1〜5−nからの受信信号に対して所定の帯域を通過させ、通過した信号をLNA8−1〜8−nに出力する。LNA8−1〜8−nは、受信フィルタ7−1〜7−nからの信号を低雑音増幅して分配器9−1〜9−nに出力する。
【0034】
分配器9−1〜9−nは、受信フィルタ7−1〜7−nからの信号を移相器10a−1〜10a−nと移相器10b−1〜10b−nとに分配する。移相器10a−1〜10a−n,10b−1〜10b−nは、分配器9−1〜9−nからの信号を移相器毎に予め定められた位相量だけ移相させて、減衰器11a−1〜11a−n,11b−1〜11b−nに出力する。
【0035】
減衰器11a−1〜11a−n,11b−1〜11b−nは、減衰器毎に予め定められた減衰量だけ減衰させて合成回路12−1,12−2(ビーム合成回路に対応)に出力する。合成回路12−1は、減衰器11a−1〜11a−nからの複数の信号をビーム合成してビーム出力1とする。合成回路12−2は、減衰器11b−1〜11b−nからの複数の信号をビーム合成してビーム出力2とする。
【0036】
なお、図1におけるビーム出力は2出力として記載しているが、これに限定されるものではなく、必要な数の複数ビーム出力を形成することができる。
【0037】
図2は、第1の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の受信フィルタと低雑音増幅器とが封入された真空容器の断面図である。超電導状態は、極めて低い温度で実現でき、周囲からの断熱のために真空容器6(断熱用保温容器に対応)が用いられる。
【0038】
この真空容器6の入力側にはサーキュレータを介してアンテナ素子に接続される気密コネクタ61aが取り付けられている。なお、サーキュレータの残る端子は送信アンプ3を含む送信増幅系に接続されている。真空容器6の出力側には気密コネクタ61bが取り付けられている。気密コネクタ61aと超伝導基板62とは、同軸ケーブル66により接続され、気密コネクタ61bと超伝導基板62とは、同軸ケーブル67により接続されている。
【0039】
真空容器6内には冷却プレート68が設置され、冷却プレート68上には超伝導素子からなる超伝導基板62が配置され、基板パターンにより構成される冷却対象の受信フィルタ63などの超電導回路が超伝導基板62上に設置されている。受信フィルタ63の他に、冷却プレート68によってアンテナ素子、サーキュレータ、接続線路なども冷却することによりさらに高感度化を実現することもできるが、これらの全てを冷却する必要はない。冷却対象としては受信フィルタ63及びその入出力部分が主である。また、超電導回路基板62上にはチップマウントされたLNA64が配置されている。
【0040】
なお、LNAに必要となる整合回路はLNAチップ内に構成することもできるが、超電導基板62上に構成することもできる。
【0041】
LNA64は、ボンディングワイヤ65により超電導回路基板62に接続されている。LNA64の出力は超電導基板62上の線路及び同軸ケーブル67を介して、真空容器6の出力側の気密コネクタ61bに接続される。ここで、LNA64に対する電源・制御などの接続も真空容器6を貫通する配線により行われる。
【0042】
真空容器6の外から冷却プレート68を冷却手段69により冷却することによって、冷却プレート68を介して超電導回路を超電導状態にするとともに、同時にLNA64を冷却する。真空容器6を用いるため、冷却対象物のサイズには一定の制約ができる。
【0043】
第1の実施形態は、アンテナ内にLNA64が組み込まれているアクティブアンテナにおける受信系、さらには、送受信モジュールの受信系などに適用できる。
【0044】
第1の実施形態は、真空容器6に収納された受信系に加えて、送信アンプ3を含む送信増幅系、サーキュレータ5などを送受信モジュールとして構成し、アンテナ素子及び送受信モジュールをアレイ状に配列することによってアクティブアレイアンテナ装置を構成している。ここで、アンテナ素子の代わりにサブアレイを用いることもできる。また、サーキュレータではなく、スイッチなどを用いることもできる。
【0045】
なお、減衰器11の機能を合成回路12に併せて持たせることもできる。また、移相器10と減衰器11の順序を逆にすることもできる。
【0046】
さらに、LNA6の出力をAD変換した受信信号、もしくは、周波数変換を行ってIF信号を使ってAD変換した受信信号のいずれかによって、分配器9以降の処理をディジタル処理にて行うDBF方式を適用することもできる。
【0047】
また、送信機能が不要である場合は、送信に関わる分配器1、移相器2、送信アンプ3、送信フィルタ4、サーキュレータ5などは削除しても良い。
【0048】
このように、第1の実施形態のアクティブアンテナアレイ装置によれば、アクティブフェーズドアレイ方式を用いてマルチビームを形成し、冷却プレート68を冷却することによって受信フィルタ63を有する超電導回路を超電導状態にするとともに、同時にLNA64を冷却するので、アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけるとともに、LNAの内部雑音を低減して受信系の高感度化を図ることができる。
【第2の実施形態】
【0049】
図3は第2の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図3の第2の実施形態では、図1の第1の実施形態の複数の受信フィルタ7−1〜7−n及びLNA8−1〜8−nの全てが、複数の真空容器6a〜6m(m<n)に分割されている。図3に示す例では、2つの受信フィルタと2つのLNAとが1つの真空容器に設けられている。このようにすれば、真空容器が少なくて済む。
【0050】
この場合、各々の真空容器6a〜6mの片面に複数の気密コネクタが一列に配置され、それぞれがサーキュレータを介してアンテナ素子に接続される。なお、サーキュレータの残る端子は、それぞれ送信フィルタに接続されている。
【0051】
各々の真空容器6a〜6m内には、一枚の共通冷却プレートがあり、その上に超電導基板が配置される。超電導基板には、複数の受信フィルタが基板パターンとして構成され、それぞれの受信フィルタの入出力は、一方が気密コネクタに、他方がLNA入力に接続される。
【0052】
受信フィルタと同数のLNAが超電導基板上にチップアマウントされ、その出力は超電導基板上の線路を介して、真空容器の反対側の面に一列に並ぶ出力側気密コネクタにそれぞれ接続される。この出力側気密コネクタを削減するために、同時に必要なビーム合成回路を真空容器内に収納することもできる。LNAに対する電源・制御などの接続も、真空容器を貫通する配線により行われる。
【0053】
この真空容器に収納された受信系に加えて、送信増幅系、サーキュレータなどを一体にして構成し、アンテナ素子とともにアレイ状に配列することによってアクティブアレイアンテナを構成することができる。アレイアンテナは一列に(1次元状に)配置しても良く、さらに2次元に配置しても良い。
【0054】
また、アンテナ素子の代わりにアンテナサブアレイを用いたアレイアンテナで構成しても良い。受信系としては、単純に受信フィルタ及びLNAとして図示しているが、真空容器の内外を接続する気密コネクタなど構造上必要な部品も含まれる。
【0055】
なお、複数の受信フィルタ7−1〜7−n及びLNA8−1〜8−nの一部を、複数の真空容器に分割しても良い。
【第3の実施形態】
【0056】
図4は第3の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図4の第3の実施形態では、受信フィルタ7−1〜7−n、LNA8−1〜8−n、分配器9−1〜9−n、移相器10a−1〜10a−n、移相器10b−1〜10b−n、減衰器11a−1〜11a−n、減衰器11b−1〜11b−n、合成回路12−1,12−2を、同一の真空容器6Aに設けたことを特徴とする。
【0057】
このような構成によれば、受信信号を増幅し分配した後にビームを合成する部分が同一の真空容器6A内に設けられているので、さらに容易に受信の高感度化を実現できる。
【第4の実施形態】
【0058】
図5は第4の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図5の第4の実施形態では、図1の第1の実施形態の構成に対して、真空容器6B内に、アンテナ素子15またはアンテナサブアレイ(図示せず)を設けるとともに、真空容器6Bの少なくとも一部に受信電波を真空容器6B内部に透過する性質を持つ材質、例えばレドーム材14を設けたことを特徴とする。レドーム材14を介してアンテナ素子15で受信された信号をサーキュレータ5を介して受信フィルタ7に入力する。
【0059】
このような構成によれば、アンテナ素子15及びサーキュレータ5を真空容器6B内に設けたので、さらに受信の高感度化を実現できる。また、気密コネクタを削減することができる。
【0060】
なお、サーキュレータは、送信側回路とともに真空容器外に設けることもできる。また、アンテナ素子を受信専用として使用する場合(送受のアンテナ素子が別となっている場合など)は、サーキュレータを削除してもよい。
【第5の実施形態】
【0061】
図6は第5の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図6の第5の実施形態では、図1の第1の実施形態に対して、LNA8−1〜8−nの出力側にIF変換器21−1〜21−n、AD変換器22−1〜22−nを設けたことを特徴とする。
【0062】
IF変換器21−1〜21−nは、LNA8−1〜8−nからの信号を周波数変換してIF信号を得る。AD変換器22−1〜22−nは、IF信号をA/D変換する。即ち、DBF(デジタルビームフォーミング)処理によりビーム合成を行うことができる。
【0063】
また、受信信号の分配器9−1〜9−n以降のビーム合成処理において、IF変換器、及びAD変換器によりディジタル処理を行うDBF方式を用いても良い。
【第6の実施形態】
【0064】
図7は第6の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図7の第6の実施形態においては、図1の第1の実施形態に対して、RF信号による複数の縦ビーム(1次元)を合成する縦合成回路12−1,12−2、合成された縦ビーム(1次元)をIF変換するIF変換器21、IF変換器21のIF信号をデジタル信号に変換するA/D変換器22、デジタル信号による複数の横ビームを合成する横合成回路13−1,13−2を有することを特徴とする。
【0065】
即ち、DBF処理を行う場合でビーム合成回路の規模が大きくなる場合に、アンテナ素子および真空容器を含む受信系(又は送受信モジュール)が並ぶアンテナ開口とは分離した筐体にビーム合成回路13−1,13−2を構成している。
【0066】
この場合には、RF信号によって複数の縦ビームを合成し、合成されたビームをIF変換した後、A/D変換してデジタル信号によって複数の横ビームを合成するDBF処理を行い、ビーム合成を多段階に分解して実施することができる。
【0067】
また、多段階でのビーム合成を行う場合、適切な大きさの真空容器に収納できる範囲においては、ビーム合成回路の一部を同じ真空容器内に収納することもできる。
【0068】
図7においては、RF信号を分配器9で複数に分配して縦合成回路12−1,12−2によりそれぞれ異なるビーム出力を得るように構成しているが、AD変換器22の出力を複数に分配することによって横合成回路の出力において複数の異なるビーム出力を得るようにすることもできる。さらに、この両者を組み合わせて用いることもできる。
【第7の実施形態】
【0069】
図8は第7の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図8の第7の実施形態は、サーキュレータ5と受信フィルタ7との間にリミタ23を設け、送信及び受信中心周波数を同一としたことを特徴とする。
【0070】
このような構成によれば、リミタ23を用いることで、受信信号が所定のレベルに制限されるので、受信フィルタ7、LNA8などの受信系を保護することができる。
【第8の実施形態】
【0071】
図9は第8の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図9の第8の実施形態は、アクティブアレイアンテナ装置33のアンテナ素子を受信用アンテナとして用い、送信アンテナ31から送信された電波が目標から反射され、反射された電波をアクティブアレイアンテナ装置33のアンテナ素子が受信することを特徴とする。これにより、アクティブアレイアンテナ装置33のアンテナ素子で受信した受信信号により目標を検知することができる。
【第9の実施形態】
【0072】
図10は第9の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置の構成ブロック図である。図10の第9の実施形態は、アクティブアレイアンテナ装置33のアンテナ素子を受信用アンテナとして用い、送信信号を直接受信するための受信専用アンテナ34(目標反射を受信する受信用アンテナとは別の受信アンテナ)により、送信アンテナ31から発射される電波を直接受信することで、電波が発射された時刻を分析することができる。
【0073】
また、アクティブアレイアンテナ装置33を受信用アンテナとして使用する場合には、レーダ装置ではなく、アクティブアレイアンテナ装置33を対象物のマイクロ波放射を計測するマイクロ波放射計、あるいは、送信される電波を直接受信する高感度受信システムのアンテナとしても利用することができる。その他、高感度を必要とするさまざまな用途に適用することができる。
【0074】
このように本実施形態のアクティブアレイアンテナ装置によれば、アンテナ素子とLNAとの間に受信フィルタを設け、アンテナ素子、LNAを複数配列したアクティブアンテナを構成し、LNAで増幅された信号を分配器で分配して、独立したマルチビームを受信し、受信フィルタとLNAとを同一真空容器に収納し、受信フィルタとLNAとを超電導状態で冷却するので、アンテナから低雑音増幅器までの給電損失をゼロに近づけるとともに、LNAの内部雑音を低減し受信系の高感度化を図ることができる。
【0075】
なお、本発明は、第1の実施形態乃至第9の実施形態に係るアクティブアレイアンテナ装置に限定されない。例えば、同一の真空容器内にサーキュレータなどの送受切換え機能を収納することもできる。この場合、受信フィルタをアンテナ素子と送受切換え機能との間に挿入することで送受兼用とすることもできる。
【0076】
また、サーキュレータを冷却することでさらに高感度化を実現することもできる。
【0077】
また、アンテナ素子を超電導回路により構成することにより、アンテナ素子のオーミック損を回避でき、雑音温度をさらに低減できる。
【0078】
また、例えば、レーダアンテナにおいても開口の一部を送受兼用とするとともに、その他の部分を受信用とすることもできる。また、送信専用の開口を別に設けて別の開口部分を受信用に構成するなど、開口自身を送信用と受信用に分割したり、さらに送受兼用部分を組み合わせることもできる。
【0079】
また、送信専用のアンテナ素子と受信専用のアンテナ素子を組み合わせて配置することもできる。
【0080】
また、レーダ用途に限らず、電波送受信を行うアンテナとしても他の目的、例えば、通信用アンテナなどにも利用できる。また、送受信周波数が異なる場合には、送受切換え機能としてダイプレクサなどを用いることもできる。
【0081】
以上のように、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1,9−1〜9−n 分配器
2−1〜2−n,10a−1〜10a−n,10b−1〜10b−n 移相器
3−1〜3−n 送信アンプ
4−1〜4−n 送信フィルタ
5−1〜5−n サーキュレータ
6,6−1〜6−n 真空容器
7−1〜7−n,63 受信フィルタ
8−1〜8−n,64 LNA
11a−1〜11a−n,11b−1〜11b−n 減衰器
12−1〜12−2 合成回路
23 リミタ
61a,61b 気密コネクタ
62 超伝導基板
65 ボンディングワイヤ
66,67 同軸ケーブル
68 冷却プレート
69 冷却手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
M個(M≧2)のアンテナ素子又はアンテナサブアレイにより受信された受信信号に対して所定の帯域を通過させるM個の受信フィルタと、
前記M個の受信フィルタからのM個の受信信号を増幅するM個の低雑音増幅器と、
前記M個の低雑音増幅器で増幅されたM個の増幅信号の各々の増幅信号について、増幅信号をN個(N≧2)の分配信号に分配するM個の分配器と、
前記各々の分配器毎に設けられ、前記分配器で分配されたN個の分配信号の位相を移相させるN個の移相器と、
前記N個の移相器からのN個の移相信号を減衰させるN個の減衰器と、
N個の減衰器に対応して設けられ、各減衰器毎に前記M個の分配器分の減衰器出力を加算することによりビームを合成するN個のビーム合成回路と、
前記低雑音増幅器と超電導素材により構成される前記受信フィルタとを収納する断熱用保温容器と、
断熱用保温容器に収納される前記受信フィルタ及び前記低雑音増幅器とを冷却し前記受信フィルタを超電導状態にする冷却手段と、
を備えることを特徴とするアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項2】
同一の前記ビーム合成回路に入力される受信信号を構成する前記M個の受信フィルタ及び前記M個の低雑音増幅器の全て又はその一部は、前記M個のアンテナ素子又は前記アンテナサブアレイに対応する複数の前記断熱用保温容器に収納されていることを特徴とする請求項1記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項3】
同一の前記ビーム合成回路に入力される受信信号を構成する前記M個の受信フィルタ及び前記M個の低雑音増幅器の全て又はその一部は、複数の前記断熱用保温容器に分割されて収納されていることを特徴とする請求項1記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項4】
前記断熱用保温容器は、さらに、前記N個のビーム合成回路を収納することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項5】
前記断熱用保温容器は、さらに、前記M個のアンテナ素子又は前記アンテナサブアレイを収納するとともに、受信電波を保温容器内に透過して前記アンテナ素子又は前記サブアレイに入力する透過材を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項6】
前記M個の低雑音増幅器に対応して設けられ、前記低雑音増幅器により増幅されたM個の受信信号をRF信号のまま、もしくは周波数変換を施したIF信号によりA/D変換して前記M個の分配器に出力するM個のA/D変換器を有し、前記A/D変換器によりA/D変換されたディジタル信号によりN個のビーム合成を行うデジタルビームフォーミング方式を用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項7】
前記M個のアンテナ素子又はアンテナサブアレイの一部について受信信号であるRF信号でビーム合成を行う第1ビーム合成回路と、前記第1ビーム合成回路の合成出力であるRF信号を周波数変換する周波数変換器と、周波数変換された信号をA/D変換するA/D変換器と、A/D変換されたディジタル信号によってさらに複数のビーム合成を行う第2ビーム合成回路とを有し、
前記第2ビーム合成回路は、前記断熱用保温容器とは分離して配置されることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項8】
前記断熱用保温容器は、少なくとも一部が真空状態である真空保温容器であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項9】
前記アンテナ素子に対する信号の送信及び受信を切り替える送受信切換部と、
前記送受信切換部と前記低雑音増幅器との間に設けられ、前記送受信切換部からの受信信号の信号レベルを制限するリミタと、
を備えることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項10】
前記M個のアンテナ素子又は前記アンテナサブアレイは、送信用アンテナから送信され且つ目標で反射された電波を受信し、受信信号をレーダ装置の目標検出に用いることを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項11】
前記M個のアンテナ素子又は前記アンテナサブアレイは、対象物から放射された電波を受信し、受信信号を前記対象物の電波放射強度の計測に用いることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。
【請求項12】
前記M個のアンテナ素子又は前記アンテナサブアレイは、本装置と別の送信用アンテナから送信された電波を受信し、少なくともこの電波が送信された時刻を分析することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載のアクティブアレイアンテナ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−222725(P2012−222725A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89001(P2011−89001)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】