説明

アクリルシラップの製造方法

【課題】シラップ硬化時に発泡を起こしにくいアクリルシラップを提供すると共に、該シラップから透明性に優れた樹脂成形品を得る。
【解決手段】メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを主成分とするビニル系単量体の混合物100質量部に、多価アルコールを0.005〜0.1質量部添加して、ラジカル重合開始剤の存在下に重合率1〜50質量%まで重合する工程を有するアクリルシラップの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性に優れ、且つ、発泡を起こしにくい、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物を重合して得られる重合体を含むアクリルシラップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリルシラップは、メタクリル樹脂注型板や光ファイバー等の光学材、人工大理石、床材、接着剤等の中間原料として従来より用いられている。このようなアクリルシラップとしては、一般に、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物に、メタクリル酸メチルまたは前記単量体混合物の重合体を溶解させた液体混合物、あるいは前記単量体混合物と、これらの単量体混合物の一部を重合して得られた重合体とを含有する液体混合物が知られている。
【0003】
メタクリル樹脂注型板用のアクリルシラップの製造方法としては、冷却コンデンサーを備えた重合設備を用いた種々の製造方法が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
また、得られる樹脂板の発泡を抑える方法として、アクリルシラップを製造する際に炭素数1〜3のアルコールを添加する方法(例えば特許文献3参照)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特公昭52−36155号公報
【特許文献2】特公昭53−39918号公報
【特許文献3】特開2004−67722公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に記載のシラップの製造方法では、発泡の少ないメタクリル樹脂板を工業的に安定に製造するのは困難であった。また、特許文献3に記載の炭素数1〜3のアルコール添加による方法は工業的に安定に製造することが出来、作業性に優れた発泡抑制法であるが、重合時間を短縮するために反応温度を上げたり、重合開始剤添加量を増加したりすると多数の発泡が発生してしまうため充分とは言えない。
【0006】
本発明の目的は、シラップ硬化時に発泡を起こしにくいアクリルシラップ、及び発泡欠陥が少ない上に透明性に優れたアクリル成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物100質量部に、多価アルコールを0.005〜0.1質量部添加して、ラジカル重合開始剤の存在下に重合率1〜50質量%まで重合することを特徴とするアクリルシラップの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発泡を起こしにくいアクリルシラップ、及び本発明のアクリルシラップを用いて成形品とした場合、発泡欠陥が少なく透明性に優れたアクリル成形品を工業的に安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を更に具体的に説明する。以下の記載において量比を表す「部」および「%」は、特に断らない限り質量基準とする。
「メタクリル酸メチル(以下、「MMA」という。)を主成分とする単量体の混合物」における「主成分とする」の意味は、アクリルシラップ本来の特性を確保する点からMMAと他の単量体との合計を100質量部としたときにMMAが50質量部以上であることを言い、80質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることがさらに好ましい。
【0010】
本発明に用いる単量体はMMAと共重合可能なものであれば特に制限されない。その具体例としては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸s−ブチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸1−メンチル、メタクリル酸アダマンチル、メタクリル酸ジメチルアダマンチル等のMMA以外のメタクリル酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル類;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、イソプロペニルスチレン、ビニルトルエン等のビニル芳香族類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン等の多価不飽和化合物;等が挙げられるが、これらに限定されない。また、これら共重合成分は、MMAに対して1種を単独で、または必要に応じてMMAに対して2種以上を組み合わせて用いることができる。(ここで、「(メタ)アクリレート」とは、「メタクリレート」あるいは「アクリレート」のことをいう。)
【0011】
本発明においては、MMA単独またはMMAを主成分とする単量体混合物(以下、これらを便宜的に「単量体混合物」という。)100質量部に、多価アルコールを0.005〜0.1質量部添加する。多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、グリシトール等が挙げられる。この多価アルコールは、添加量が0.005質量部以上であると、アクリルシラップ硬化時に発泡が生じにくくなる傾向がある。また、添加量が0.1質量部以下であると、アクリルシラップ硬化製品の優れた特性である光学的性質や機械的性質を保持し易い傾向にある。この多価アルコールは、MMAへの溶解度の観点から平均重量分子量が1000以下であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記単量体混合物にこの多価アルコールを添加した後、さらに、ラジカル重合開始剤を添加して重合性原料とし、その一部を重合させることにより粘度のある液状物としてアクリルシラップを得ることができる。使用するラジカル重合開始剤は特に制限されない。具体例としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤;ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート等の有機過酸化物系重合開始剤;等が挙げられる。これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を併用することができる。ラジカル重合開始剤の添加量は、使用する単量体混合物等により適宜決められる単量体混合物100質量部に対し、0.01〜0.5質量部が好ましい。
【0013】
本発明において、この重合性原料の一部を重合させることの意味は、重合率として1〜50質量%の範囲内で重合させることを言う。この重合率が1質量%以上であると、アクリルシラップ使用時の硬化時間が短縮され、外観欠陥が生じにくくなる。また、重合率が50質量%以下であると、アクリルシラップの粘度が適当であり、アクリルシラップの取扱い性が良好となる。アクリルシラップを重合硬化させて使用する時の硬化時間を短縮し、硬化物の外観欠陥を生じにくくするためには、アクリルシラップの重合率はなるべく高い方が良い。逆に、アクリルシラップの取扱い性や添加剤の混合性等を考慮すると、この重合率はなるべく低い方が良い。これらの観点から、重合率は特に5〜40質量%の範囲内にすることが好ましい。
【0014】
この重合性原料を重合率1〜50質量%の範囲内で重合させる方法としては特に限定されないが、通常は冷却管、温度計及び撹拌機を備えた反応機に、MMA単独またはMMAを主成分とする単量体の混合物を所定量計量し、撹拌しながら加熱し、少量の重合開始剤を加え、所定の温度保持した後冷却することにより得られる。なお、多価アルコールは適時添加できる。
【0015】
得られたアクリルシラップの着色や自然硬化を避けるために、重合禁止剤を添加することが好ましい。重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール等が挙げられる。これらは1種を単独で、または必要に応じて2種以上を併用することができる。
【0016】
さらに本発明においては、必要に応じて、分子量調節のための連鎖移動剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、難燃剤、着色に用いられる染料、顔料、離型剤等、従来、知られている各種の添加剤を、重合性原料の一部を重合させる前の単量体混合物または重合性原料の一部を重合させた後のシラップに添加することもできる。
【0017】
本発明により得たアクリルシラップは、従来、知られている各種の用途に使用できる。例えば、このアクリルシラップに重合開始剤を添加し、これを型内で硬化させてアクリル板等の所望の成形品を得ることができる。また、空隙内で硬化させて所望の補強・充填材とすることもできる。本発明により得たアクリルシラップは、このような使用の際の作業性に優れており、しかも硬化物には発泡等の外観欠陥が発生しにくく、さらにアクリルシラップ硬化物特有の優れた光学的性質や機械的性質も損なわれない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。各種物性は下記方法で評価した。なお、「部」は質量部を表わす。
(1)重合率
アクリルシラップをアセトンに溶解した試料を大量のヘキサン中に投入し、生じた沈殿物を濾過し、残渣を減圧乾燥して質量を測り、元の試料に対する質量割合を算出し、その値を重合率とした。
(2)粘度
B型粘度計を用い、20℃での粘度を求めた。
(3)外観
シラップ硬化後の製品において、表面欠陥・内部発泡の有無等を目視にて観察した。
【0019】
[実施例1]
冷却管、温度計及び攪拌機を備えた反応器(重合釜)に、MMA2500部とエチレングリコール(和光純薬製:分子量62.07)0.125部を供給し、撹拌しながら−90kPaで10分間減圧した。次いで、窒素ガスで大気圧に戻し、加熱を開始した。内温が80℃になった時点で、ラジカル重合開始剤である2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)1.45部を添加し、更に内温100℃まで加熱して9分間保持した。
その後、減圧冷却により室温まで冷却し、重合禁止剤である2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノールを0.06部添加して、アクリルシラップを得た。このアクリルシラップの重合率は約20%、粘度は1.5Pa・sであった。
このアクリルシラップ600部に、ラジカル重合開始剤であるt−ヘキシルパーオキシピバレート1.8部、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3部を添加し、撹拌し、−75kPaで5分間減圧脱気した。このアクリルシラップを、ポリ塩化ビニル製ガスケットを介して約6mmの間隔で積層された大きさ300×300×6mmの2枚の強化ガラス板からなる、クランプで固定された鋳型に注入した。
次いで、このシラップが注入された鋳型を80℃の温水中に30分間浸漬してシラップを重合硬化させ、さらに130℃の空気加熱炉中で1時間熱処理し、90℃まで冷却した。その後、この鋳型中の硬化物を剥離し、板厚が約6mmのメタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は僅か4個であり、外観が良好なものであった。
【0020】
[実施例2]
重合硬化時のラジカル重合開始剤t−ヘキシルパーオキシピバレートの添加量を1.5部に変更した以外は、実施例1と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は0であり、外観が良好なものであった。
【0021】
[実施例3]
実施例1と同様の反応器(重合釜)に、MMA2450部、アクリル酸ブチル(以下「BA」という)50部、ポリエチレングリコール(和光純薬製:分子量200)0.25部を供給し、さらに連鎖移動剤としてn−ドデシルメルカプタンを0.25部添加し、撹拌しながら−90kPaで10分間減圧した。次いで、窒素ガスで大気圧に戻し、加熱を開始した。内温が60℃になった時点で、ラジカル重合開始剤である2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)2.13部を添加し、更に内温100℃まで加熱して9分間保持した。
その後、減圧冷却により15℃まで冷却し、重合禁止剤である2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールを0.06部添加して、アクリルシラップを得た。このアクリルシラップの重合率は約26%、粘度は1.7Pa・sであった。
得られたアクリルシラップを用い、実施例1と同様にして板厚が約6mmのメタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は僅か2個であり、外観が良好なものであった。
【0022】
[実施例4]
ポリエチレングリコールをポリプロピレングリコール(和光純薬製:分子量400)に変更して、1.25部を添加したこと以外は、実施例3と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は僅か2個であり、外観が良好なものであった。
【0023】
[実施例5]
ポリエチレングリコールをエチレングリコール(和光純薬製:分子量62.07)に変更して、添加量を2.5部にしたこと以外は、実施例3と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は僅か2個であり、外観が良好なものであった。
【0024】
[比較例1]
エチレングリコールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は45個であり、外観が劣っていた。
【0025】
[比較例2]
エチレングリコールの代わりにメタノールを3.75部添加したこと以外は、実施例1と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡数は10個であり、外観が劣っていた。
【0026】
[比較例3]
エチレングリコール(和光純薬製:分子量62.07)の添加量を50部にしたこと以外は、実施例5と同様の方法でアクリルシラップを調製し、メタクリル樹脂注型板を得た。このメタクリル樹脂注型板の内部発泡は3個であったが、型から離型する際に、多数のひび割れが生じた。
【0027】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0028】
透明性に優れ、且つ、発泡を起こしにくい、アクリルシラップ、及び発泡欠陥が少ないアクリル成形品を工業的に安価に製造することができる。このアクリルシラップは、メタクリル樹脂注型板や光ファイバー等の光学材、人工大理石、床材、接着剤等の中間原料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを主成分とする単量体混合物100質量部に、多価アルコールを0.005〜0.1質量部添加して、ラジカル重合開始剤の存在下に重合率1〜50質量%まで重合するアクリルシラップの製造方法。

【公開番号】特開2007−284567(P2007−284567A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−113614(P2006−113614)
【出願日】平成18年4月17日(2006.4.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】