説明

アクリル流延フィルム

【課題】強度、透明性、外観に優れたアクリルフィルムを提供する。
【解決手段】ゴム含有多段重合体(A)1〜100質量部とアクリル(共)重合体(B)99〜0質量部との合計100質量部からなるアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)を溶液流延法で製膜して得られるアクリルフィルムであって、ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量が84質量%未満であるアクリルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル流延フィルムに関する。特に、本発明は、溶剤への分散性が優れたゴム含有多段共重合体を使用した、強度、透明性、外観に優れたアクリル流延フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂は、透明性、耐擦傷性、耐候性に優れ、成型加工時の流動配向や残留応力による複屈折が生じ難いという特徴がある。これらの特徴を活かし、アクリル樹脂は、偏光子保護フィルム、拡散板保護フィルム、導光フィルム、マイクロレンズアレイ、反射防止基材などの種々の光学用途、内装材などの建材、自動車部品、道路標識などの反射材などの様々な用途で使用されている。
【0003】
特に、光学用途に用いられるアクリルフィルムには、近年極めて高い透明性や外観が求められるようになってきた。しかし、従来の溶融製膜法では、ゲルポリマーなどによるフィルム異物、流動配向による複屈折、滞留劣化による樹脂の着色や曇価増加などの問題があり、光学用途に要求される高い透明性や良好な外観を持つアクリルフィルムの製造が困難であった。
【0004】
一方で、溶液流延法では、溶剤の種類や固形分などを調節することにより、溶液粘度を低くできる。そのため、溶融製膜法と比較すると高精度の濾過が可能であり、透明性や外観に優れたアクリルフィルムが得られる。しかし、溶液流延法において、アクリルフィルムの脆さを解消するために、ゴム含有多段共重合体を添加した場合、ゴム含有多段共重合体が溶剤にうまく分散せず、目の細かいフィルターを用いての濾過ができないことがあった。結果として、フィルムに異物が増加するため、ゴム含有多段共重合体を用いた場合において、光学用途に要求される外観を満足するアクリルフィルムを得ることが困難であった。
【0005】
特定の環状構造単位を有するゴム質含有共重合体の有機溶媒可溶成分の重量平均分子量と熱可塑性樹脂の重量平均分子量の差を小さくすることで、熱可塑性樹脂への分散性を向上させたゴム質含有共重合体と熱可塑性樹脂からなる、溶液流延法で得られるアクリルフィルムが、特許文献1に記載されている。また、その特許文献1の比較例3には特定の環状構造単位を有さないゴム質含有共重合体と熱可塑性樹脂からなる、溶液流延法で得られるアクリルフィルムが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−169626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、特定の環状構造単位を有するゴム質含有共重合体の有機溶媒可溶成分の重量平均分子量と熱可塑性樹脂の重量平均分子量の差を小さくすることにより、透明なアクリルフィルム得られている。しかしながら、特定の環状構造単位を有さないゴム質含有共重合体を用いた場合には、比較例3に記載される通り、本発明の目的とするような透明性を有するアクリルフィルムは得られていなかった。
【0008】
本発明は、上記の如き従来技術の問題点を解消し、ゴム含有多段重合体の溶剤への分散性を向上させることにより、強度、透明性、外観に優れたアクリルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定のゲル含有量のゴム含有多段重合体が溶剤への分散性に優れることを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
よって、本発明の第1の要旨は、ゴム含有多段重合体(A)1〜100質量部とアクリル(共)重合体(B)99〜0質量部との合計100質量部からなるアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)を溶液流延法で製膜して得られるアクリルフィルムであって、前記ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量が84質量%未満であるアクリルフィルムである。
【0011】
第2の要旨は、ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量が70質量%以下である上記のアクリルフィルムである。
【0012】
第3の要旨は、JIS K 7105に準拠して測定したときのYIが0.8以下である上記のアクリルフィルムである。
【0013】
第4の要旨は、JIS K 7136に準拠して測定したときのヘーズの値が0.8%以下である上記のアクリルフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ゴム含有多段重合体の溶剤への分散性が向上し、その結果として強度、透明性、外観に優れたアクリルフィルムを得ることができる。これらのフィルムは、高品質が要求される、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイ、携帯電話の導光フィルム、フレネルレンズ、偏光フィルム、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、マイクロレンズアレイ、タッチパネル用導電フィルム等の、各種光学用途フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はそれらの形態のみに限定されるものではなく、本発明の精神と実施の範囲内において様々な変形が可能であることを理解されたい。
【0016】
本発明のアクリルフィルムは、ゴム含有多段重合体(A)1〜100質量部とアクリル共重合体(B)99〜0質量部との合計100質量部からなるアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)を溶液流延法で製膜して得られるものである。
【0017】
ゴム含有多段重合体(A)
本発明に用いられるゴム含有多段重合体(A)は、ゴムの存在下に単量体又は単量体混合物を重合して得られるものである。
【0018】
本発明におけるゴムは、構成成分として架橋性単量体成分を含む、ガラス転移温度が10℃以下の重合体である。その種類は特に限定されないが、例えば、アルキルアクリレート系単量体、シリコーン系単量体、スチレン系単量体、ニトリル系単量体、共役ジエン系単量体、ウレタン結合を生成する単量体、エチレン系単量体、プロピレン系単量体、イソブテン系単量体などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。
本発明で用いるゴムは、1段以上の重合にて得られるものを用いることができる。また、ゴムは何段目で重合しても良い。例えば、ガラス転移点が室温以上である重合体の存在下でゴムを構成する単量体を重合したようなゴムを用いることもできる。
【0019】
本発明のゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量は、84質量%未満であることが必要である。ゲル含有量が84質量%以上であると、ゴム含有多段重合体(A)の溶剤への分散性が悪化し、目の細かいフィルターを用いての濾過が難しくなる。その結果、アクリルフィルム中の異物が増加するため、本発明の目的とするような外観に優れたアクリルフィルムを得ることができなくなる。ゲル含有量が84重量%未満であれば、ゴム含有多段重合体(A)の溶剤への分散性に優れ、良好な外観のアクリルフィルムを得ることができる。ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量は75質量%以下であることが、溶剤への分散がより良好となるため好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。また、ゲル含有量の下限値としては、10質量%以上が好ましく、さらには20質量%以上が好ましい。
【0020】
ゲル含有量
所定量(抽出前質量)のゴム含有多段重合体をアセトン溶媒中で、還流下に抽出処理し、次いで抽出処理液を雰囲気温度4℃、14000rpmで、30分間遠心分離することによって分別し、乾燥後、アセトン不溶分の質量(抽出後質量)を測定し、下記式により算出する。
ゲル含有量(%)=(抽出後質量/抽出前質量)×100
【0021】
以下、上述したゴム含有多段重合体(A)の好ましい例について具体的に説明する。
ゴムの製造には、公知のアルキル基の炭素数が1〜8であるアルキルアクリレートが用いられ、なかでもブチルアクリレート、2―エチルヘキシルアクリレート等が好ましい。
【0022】
また、その使用量は、全ゴム中、35〜100質量%の範囲であるのが好ましい。35質量%未満では、得られるアクリルフィルムの伸度が低下し、フィルムの成形や加工が困難になる場合がある。より好ましい使用範囲は、50〜90質量%である。
【0023】
ゴムには上記アルキルアクリレートと共重合可能な他のビニル単量体を65質量%以下の範囲で使用してもよく、かかる他のビニル単量体としては、具体的には、メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどが好ましく、これらを1種以上使用できる。
【0024】
ゴムに使用される架橋性単量体としては、特に制限はないが、好ましくは、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジメタクリレート、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、フタル酸ジアリル、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、マレイン酸ジアリル、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリルシンナメート等が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0025】
架橋性単量体は、全ゴム中、0.1〜10質量%の範囲で使用することが好ましい。0.1質量%未満では、ゴム層にグラフトされる単量体量が極端に少なくなる。10質量%を超えて使用してもよいが、添加量に見合う効果は発現しない。より好ましい使用範囲は0.3〜7質量%である。
【0026】
ゴムの存在下に重合される単量体としては、アルキルメタクリレートを50質量%以上の量で用いるのが好ましい。アルキルメタクリレートとしては、具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2―エチルヘキシルメタクリレート、シクロへキシルメタクリレート等が挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。特に好ましくはメチルメタクリレートである。
【0027】
さらに、これらと共重合可能な他のビニル単量体の少なくとも1種を50質量%以下の量で使用でき、かかるビニル単量体としては、具体的には、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。特に好ましくはメチルアクリレートである。
【0028】
単量体又は単量体混合物は、ゴム100質量部に対し10〜400質量部の範囲で使用するのが好ましい、より好ましくは20〜200質量部である。
【0029】
ゴム含有多段重合体(A)は、通常の乳化重合で得られる。なお、重合時に連鎖移動剤、その他の重合助剤等を使用してもよい。連鎖移動剤としては公知のものが使用できるが、好ましくはメルカプタン類である。連鎖移動剤は、ゲル含有量と重合体分子量を制御するために、単量体又は単量体混合物全量100質量部に対して0.1〜3.0質量部の割合で使用するのが好ましい。
【0030】
乳化液を調製する際に使用される界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系およびノニオン系の界面活性剤が使用できるが、特にアニオン系の界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、ロジン石鹸、オレイン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム系等のカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系等のスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩等が挙げられる。これらのうちでは、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウム系等のリン酸エステル塩が好ましい。
【0031】
上記界面活性剤の好ましい具体例としては、三洋化成工業社製のNC−718、東邦化学工業社製のフォスファノールRS−610NA,フォスファノールLS−529、フォスファノールRS−620NA、フォスファノールRS−630NA、フォスファノールRS−640NA、フォスファノールRS−650NA、フォスファノールRS−660NA、花王社製のラテムルP−0404、ラテムルP−0405、ラテムルP−0406、ラテムルP−0407(以上いずれも商品名)等が挙げられる。
【0032】
また、乳化液を調製する方法としては、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法、水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法、単量体成分中に界面活性剤を仕込んだ後水を投入する方法等が挙げられる。これらのうちでは、水中に単量体成分を仕込んだ後界面活性剤を投入する方法および水中に界面活性剤を仕込んだ後単量体成分を投入する方法が、ゴム含有多段重合体(A)を得るための方法としては好ましい。
【0033】
また、乳化液を調製するための混合装置としては、攪拌翼を備えた攪拌機;ホモジナイザー、ホモミキサー等の各種強制乳化装置;膜乳化装置等が挙げられる。
【0034】
また、調製する乳化液としては、W/O型、O/W型のいずれの分散構造のものでもよく、特に水中に単量体成分の油滴が分散したO/W型で、分散相の油滴の直径が100μm以下であるものが好ましい。
【0035】
アクリル(共)重合体(B)
アクリル(共)重合体(B)は、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートに由来する構成単位50〜100質量%、およびこれと共重合可能な他のビニル単量体に由来する構成単位0〜50質量%からなる重合体であってよい。
【0036】
炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルメタクリレートと共重合可能な他のビニル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、プロピルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート等のアルキルメタクリレート;スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等が挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0037】
アクリル(共)重合体(B)を得るための重合方法は、特に限定されるものではなく、通常公知の懸濁重合法、乳化重合法等の各種方法が適用される。
【0038】
好ましく使用できるアクリル(共)重合体(B)としては、三菱レイヨン(株)製ダイヤナールBRシリーズ、三菱レイヨン(株)製アクリペットが有り、これらは商業的に入手可能である。
【0039】
アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)
アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)は、上述のゴム含有多段重合体(A)とアクリル共重合体(B)との混合物からなるか、またはゴム含有多段重合体(A)のみからなる。すなわち、アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)においては、ゴム含有多段重合体(A)/アクリル(共)重合体(B)の割合(質量比)が1/99〜100/0であり、両者の合計が100質量部であることが必要である。十分な強度を得るためには、ゴム含有多段重合体(A)/アクリル(共)重合体(B)の割合(質量比)が1/90〜100/0であり、両者の合計が100質量部であることが好ましい。
【0040】
アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)には、必要に応じて、一般の配合剤、例えば、安定剤、滑剤、加工助剤、可塑剤、耐衝撃助剤、発砲剤、充填剤、抗菌剤、防カビ剤、離型剤、紫外線吸収剤を添加しても良い。
【0041】
溶液流延法
本発明のアクリルフィルムは、上記アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)と溶剤を含有する溶液を支持体上に塗布し、乾燥後、支持体とアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)の塗膜を剥離することからなる、溶液流延法によって得られる。
【0042】
アクリルフィルムの厚みは、10〜600μmの範囲内であることが好ましいが、搬送時等の取り扱いやすさと、溶剤の乾燥のしやすさを考慮すると、30〜100μmの範囲内であることがより好ましい。
【0043】
上記の溶剤としては、アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)が溶解するいずれの溶剤をも用いることができる。例えば、塩化メチレン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、n−プロパノール、イソプロパノール、などのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸n−ブチルなどのエステル類、トルエン、キシレンなどの芳香族類、テトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。また、これらの溶剤を複数種混合して用いても良い。これらの中では、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、トルエンが特に好ましく用いられる。
【0044】
これら溶液におけるアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)の含有量は10〜50質量%であることが好ましい。10質量%以下の場合、溶剤の乾燥時間が多く必要となることがあり、また厚いフィルムが得られにくくなることがある。50質量%を超えると粘度が高くなり、溶液の濾過が難しくなることがある。より好ましくは15〜40質量%である。
【0045】
溶液流延に使用される支持体としては、ポリマーフィルム、エンドレスベルトなどいずれを用いても良い。ポリマーフィルムの支持体としては、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムなどが挙げられるが、コストなどの観点からポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0046】
支持体にアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)の溶液を塗布する方法として、スロットダイ、正回転ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、アプリケーター、バーコーターなどによる塗布方法が挙げられる。
【0047】
アクリル樹脂又は樹脂組成物(C)の溶液は、アクリルフィルム中の異物をなくし、透明性を良好なものとするため、濾過により異物を除去することが好ましい。このような濾過に用いるフィルターとしては、例えば、金網、焼結金属、多孔質セラミック、ガラス、ポリプロピレン樹脂やポリエチレン樹脂などポリマーからなるフィルター、あるいは上記素材の2種類以上を組み合わせたフィルターが挙げられる。
【0048】
濾過精度は50μm以下であることが異物の少ないアクリルフィルムを得る上では好ましい。さらに好ましくは10μm以下、最も好ましくは1μm以下である。
【0049】
アクリルフィルムの外観
本発明のアクリルフィルムは、平均厚み30μmのアクリルフィルムを目視評価したときに、きょう雑物測定図表で0.05mm以上の面積に相当する異物が1mあたり5個以下であることが好ましい。1mあたり1個以下であることがより好ましく、1mあたりに全く観察されないことが最も好ましい。
【0050】
アクリルフィルムの透明性
本発明のアクリルフィルムは、平均厚み30μmのアクリルフィルムをJIS K 7105に準拠して測定したときのYIの値が、2%以下であることが好ましい。YIの値が2%を超える場合、光源からの光が着色して見え、例えば、これを用いた画像投影機器の発光品位が悪化するため好ましくない。さらに好ましくは1%以下である。
【0051】
ヘーズは、平均厚み30μmのアクリルフィルムをJIS K 7136に準拠して測定したときに、2%以下であることが好ましい。ヘーズの値が2%を超える場合、光源からの光が効率よく透過せず、輝度が低下するので好ましくない。さらに好ましくは1%未満である。
【0052】
また、全光線透過率は、平均厚み30μmのアクリルフィルムをJIS K 7361−1で測定したときの値が80%以上であることが好ましい。全光線透過率が80%以上の場合、光源からの光が効率よく透過せず、輝度が低下するので好ましくない。さらに好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらに限定されることはない。
【0054】
なお、実施例および比較例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」をそれぞれ表す。また、参考例中の略号は以下のとおりである。
【0055】
メチルメタクリレート MMA
メチルアクリレート MA
n−ブチルアクリレート BA
スチレン St
アリルメタクリレート AMA
1,3−ブチレングリコールジメタクリレート 1,3BD
t−ブチルハイドロパーオキサイド tBH
クメンハイドロパーオキサイド CHP
n−オクチルメルカプタン nOM
エチレンジアミン四酢酸 EDTA
テトラヒドロフラン THF
ポリエチレンテレフタレート PET
乳化剤(1):モノ−n−ドデシルオキシテトラオキシエチレンリン酸ナトリウム[商品名フォスファノールRS−610NA、東邦化学(株)製]
【0056】
合成例1
ゴム含有多段重合体(A−1)の合成
攪拌機を備えた容器にイオン交換水8.5部を仕込んだ後、MMA0.3部、BA4.5部、1,3BD0.2部、AMA0.05部、CHP0.025部からなる第1の単量体混合物を投入し、攪拌混合した。次いで、乳化剤(1)1.3部を攪拌しながら上記容器に投入し、再度20分間攪拌を継続し、乳化液(N−1)を調製した。
【0057】
次いで、冷却器付き反応容器内にイオン交換水186.5部を投入し、これを70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.20部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。
【0058】
次いで、窒素下で撹拌しながら、乳化液(N−1)を8分間かけて反応容器に滴下した後、15分間反応を継続させて重合体を得た。
次いで、MMA1.5部、BA22.5部、1,3BD1.0部、AMA0.25部からなる第2の単量体混合物をCHP0.016部とともに90分間かけて反応容器に添加した後、60分間反応を継続させてゴムを得た。
【0059】
次いで、MMA6.0部、BA4.0部、AMA0.075部、およびCHP0.0125部の第3の単量体混合物を45分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させた。
【0060】
次いで、MMA55.2部、BA4.8部、nOM0.19部、およびtBH0.08部からなる第4の単量体混合物を140分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて重合体を形成し、ゴム含有多段重合体(A−1)のラテックスを得た。ラテックス中のゴム含有多段重合体(A−1)の重量平均粒子径は、0.12μmであった。
【0061】
ゴム含有多段重合体(A−1)のラテックスを、酢酸カルシウム3部を含有する水溶液に投入してゴム含有多段重合体(A−1)を塩析させ、水洗し、分離回収した後、乾燥して粉体状のゴム含有多段重合体(A−1)を得た。ゴム含有多段重合体(A−1)のゲル含有量は60%であった。
【0062】
合成例2
ゴム含有多段重合体(A−2)の合成
冷却器付き反応容器内にイオン交換水195部を投入し、これを70℃に昇温し、さらに、イオン交換水5部にソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.10部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0003部を加えて調製した混合物を一括投入した。次いで、窒素下で撹拌しながら、MMA2.3部、BA2.13部、ST0.37部、1.3BD0.2部、CHP0.01部からなる第1の単量体混合物および乳化剤(1)1.3部からなる混合物を8分間かけて反応容器に添加した後、15分間反応を継続させて重合体を得た。
【0063】
次いで、BA24.54部、St4.26部、1.3BD1.2部、AMA0.225部からなる第2の単量体混合物をCHP0.03部とともに90分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させてゴムを得たた。
【0064】
次いで、MMA6.0部、BA3.28部、St0.72部、AMA0.15部、およびCHP0.02部の第3の単量体混合物を30分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させた。
【0065】
次いで、MMA52.25部、BA2.26部、St0.49部、nOM0.193部、およびtBH0.055部からなる第4の単量体混合物を130分間かけて反応容器に滴下した後、60分間反応を継続させて、ゴム含有多段重合体(A−2)のラテックスを得た。ラテックス中のゴム含有多段重合体(A−2)の重量平均粒子径は、0.09μmであった。
【0066】
ゴム含有多段重合体(A−2)のラテックスを、酢酸カルシウム3部含有する水溶液中に投入してゴム含有多段重合体(A−2)を塩析させ、水洗し、分離回収した後、乾燥して粉体状のゴム含有多段重合体(A−2)を得た。ゴム含有多段重合体(A−2)のゲル含有量は、72%であった。
【0067】
合成例3
ゴム含有多段重合体(A−3)の合成
冷却器付き反応容器内にイオン交換水142.5部、炭酸ナトリウム0.02部、乳化剤(1)0.1部を投入し、80℃に昇温した。
【0068】
次いで、イオン交換水5部、硫酸第一鉄0.0001部、EDTA0.0002部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を加えて5分間保持した。
【0069】
次いで、St11.5部、BA51部、AMA0.56部、tBH0.19部、乳化剤(1)0.79部を120分間かけて滴下した後、60分間反応を継続させて重合体を得た。
【0070】
次いで、イオン交換水2.5部、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.075部を投入し、20分間保持した後、MMA35.6部、MA1.9部、tBH0.06部、nOM0.17部、乳化剤(1)0.25部を90分間かけて滴下し、60分間反応を継続させて重合体を形成して、ゴム含有多段重合体(A−3)のラテックスを得た。
【0071】
ゴム含有多段重合体(A−3)のラテックスを、酢酸カルシウム3部含有する水溶液中に投入してゴム含有多段重合体(A−3)を塩析させ、水洗し、分離回収した後、乾燥して粉体状のゴム含有多段重合体(A−3)を得た。ゴム含有多段重合体(A−3)のゲル含有量は84%であった。
【0072】
アクリル共重合体(B−1)
アクリル共重合体(B−1)としては、アクリペットVH(三菱レイヨン(株)製、還元粘度0.059L/g)を用いた。
【0073】
アクリル共重合体(B−2)
アクリル共重合体(B−2)としては、アクリペットMD(三菱レイヨン(株)製、還元粘度0.057L/g)を用いた。
【0074】
実施例1
合成例1で得たゴム含有多段重合体(A−1)を、THFに、ゴム含有多段重合体(A−1)含有量が20%になるように溶解させ、濾過精度10μmのフィルターを用いて濾過を行い、24時間静置することで脱泡を行い、ポリマー溶液を得た。この溶液は均一であり、ゲル状の異物は観察されなかった。
【0075】
このポリマー溶液を、スロットダイを用いてPETフィルム上に流延し、60℃、80℃、125℃、150℃と段階的に昇温した全長3mの乾燥炉、さらに150℃に設定した1mの乾燥炉に、支持体の巻取り速度2.0m/sで通すことによって乾燥を行い、フィルムをPETフィルム上から剥離して厚み30μmのアクリルフィルムを得た。このフィルムの物性を表1に示す。
【0076】
実施例2
合成例2で得たゴム含有多段重合体(A−2)50部とアクリル共重合体(B−2)50部を、THFに、ゴム含有多段重合体(A−2)及びアクリル共重合体(B−2)の含有量が20%になるように溶解させ、目開き25μmのナイロンメッシュを用いて濾過を行い、ポリマー溶液を得た。このポリマー溶液は均一であり、ゲル状の異物は観察されなかった。このポリマー溶液を、アプリケーターを用いてPETフィルム上に流延し、熱風オーブンに入れ、160℃で10分間乾燥を行い、フィルムをPETフィルム上から剥離して厚み30μmのアクリルフィルムを得た。このフィルムの物性を表1に示す。
【0077】
実施例3
合成例2で得たゴム含有多段重合体(A−2)を10部、アクリル共重合体(B−1)90部を、THFに、ゴム含有多段重合体(A−2)及びアクリル共重合体(B−1)の含有量が20%になるように溶解させ、目開き25μmのナイロンメッシュを用いて濾過を行い、ポリマー溶液を得た。この溶液は均一であり、ゲル状の異物は観察されなかった。このポリマー溶液を、アプリケーターを用いてPETフィルム上に流延し、熱風オーブンに入れ、160℃で10分間乾燥を行い、フィルムをPETフィルム上から剥離して厚み30μmのアクリルフィルムを得た。このフィルムの物性を表1に示す。
【0078】
比較例1
合成例1で得たこのゴム含有多段重合体(A−1)を80℃で一昼夜乾燥し、300mm幅のTダイを取り付けた40mmφのノンベントスクリュー型押出機(L/D=26)を用いてシリンダー温度240℃、Tダイ温度240℃で溶融押出し、厚み30μmのアクリルフィルムを得た。このフィルムの物性を表1に示す。
【0079】
比較例2
合成例3で得たゴム含有多段重合体(A−3)24部とアクリル共重合体(B−1)76部を、THFに、ゴム含有多段重合体(A−3)及びアクリル共重合体(B−1)の含有量が20%になるように溶解させ、ポリマー溶液を得た。しかし、この溶液は未溶解のゲル状物が多数あり、見た目に非常に不均一であり、目開き32μmのナイロンメッシュでは濾過ができなかった。したがって、濾過を行わずに、このポリマー溶液を、アプリケーターを用いてPETフィルム上に流延し、熱風オーブンに入れ、160℃で10分間乾燥を行い、フィルムをPETフィルム上から剥離して厚み30μmのアクリルフィルムを得た。
【0080】
【表1】

【0081】
なお、各種の評価、測定は、以下の方法によった。
アクリルフィルムの外観
得られた30μmのアクリルフィルムを300cm×210cmの大きさに切り抜いたものを10枚用意し、きょう雑物測定図表と比較して0.05mm以上の面積に相当する異物の数を目視でカウントした。
◎:1mあたりフィルムに0〜1個
○:1mあたりフィルムに1〜5個
×:1mあたりフィルムに5個以上
【0082】
アクリルフィルムの全光線透過率
得られた平均厚み30μmのアクリルフィルムを5cm角に切り抜き、JIS K 7361−1に準拠して評価した。
【0083】
アクリルフィルムのヘーズ
得られた平均厚み30μmのアクリルフィルムを5cm角に切り抜き、JIS K 7127に準拠して評価した。
【0084】
アクリルフィルムのYI
得られた平均厚みのアクリルフィルムを5cm角に切り抜き、30μmのJIS K 7105に準拠して評価した。
【0085】
アクリルフィルムのレタデーション
得られた平均厚みのアクリルフィルムを5cm角に切り抜き、王子計測機器(株)製の自動複屈折計「KOBRA−WR」を使用し、面内位相差Re及び厚み方向位相差Rthを評価した。
【0086】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜3で得られたアクリルフィルムは、異物数が少なく、また良好なYI、ヘーズを示した。
【0087】
一方、比較例1で得られたアクリルフィルムは、実施例1〜3で得られたアクリルフィルムに比べ、異物が多くなり、樹脂の着色によるYIの増加、ヘーズの増加が見られ、良好な透明性、外観が得られなかった。
【0088】
また、比較例2で得られたアクリルフィルムは、ゴム含有多段重合体が溶液にうまく分散せず、充分な外観のフィルムを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明のアクリルフィルムは、その優れた外観、透明性を生かして、電気・電子部品、光学フィルター、自動車部品、機械機構部品、OA機器、家電機器などのハウジングおよびそれらの部品類、一般雑貨など種々の用途に用いることができる。
【0090】
上記成形品の具体的用途としては、情報機器関連部品として、液晶ディスプレイ、フラットパネルディスプレイ、プラズマディスプレイ、携帯電話の導光フィルム、フレネルレンズ、偏光フィルム、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルム、視野角拡大フィルム、反射フィルム、反射防止フィルム、防眩フィルム、輝度向上フィルム、プリズムシート、マイクロレンズアレイ、タッチパネル用導電フィルム等、これらの各種の用途にとって極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム含有多段重合体(A)1〜100質量部とアクリル(共)重合体(B)99〜0質量部との合計100質量部からなるアクリル樹脂又は樹脂組成物(C)を溶液流延法で製膜して得られるアクリルフィルムであって、該ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量が84質量%未満であるアクリルフィルム。
【請求項2】
ゴム含有多段重合体(A)のゲル含有量が70質量%以下である請求項1に記載のアクリルフィルム。
【請求項3】
JIS K 7105に準拠して測定したときのYIが0.8以下である請求項1に記載のアクリルフィルム。
【請求項4】
JIS K 7136に準拠して測定したときのヘーズの値が0.8%以下である請求項1に記載のアクリルフィルム。

【公開番号】特開2009−209295(P2009−209295A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55217(P2008−55217)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】