説明

アクリル系プラスチゾル組成物及び成形品

【課題】低粘度で高い粘度経時安定性を有し、かつブリードの無い均一で柔軟な薄膜が得られ、耐ブロッキング性、耐熱性、難燃性において優れた成形品を得る事ができる浸漬成形法に好適なアクリル系プラスチゾル組成物を提供する。
【解決手段】アクリル系重合体微粒子(P)及び可塑剤(A)を含むプラスチゾル組成物において、アクリル系重合体微粒子(P)がコア/シェル構造を有する一次粒子から成り、該一次粒子の平均粒子径が300nm以上であり、かつ互いに反応する官能基の一方を該一次粒子のコア重合体に導入し、他方をシェル重合体に導入したアクリル系プラスチゾル組成物;並びに、このアクリル系プラスチゾル組成物を用いて浸漬成形法により成形された成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクリル系重合体を用いたプラスチゾル組成物に関し、特に低粘度で高い粘度経時安定性を有し、ブリードが無く、均一で柔軟な薄膜を得ることができ、耐ブロッキング性、耐熱性、難燃性に優れた成形品を得ることができる浸漬成形法に好適なプラスチゾル組成物、及び、これを用いた成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性重合体の微粒子を可塑剤に分散してなるペースト状の材料は、プラスチゾルと総称される。特に、塩化ビニル系重合体を用いたプラスチゾル(塩ビゾル)は、これを浸漬成形法に用いることによって、例えば、難燃キャップ、電気絶縁キャップ、耐熱保護カバー、メッキの付着を防止する目留めキャップ等の成形品の製造などに長年にわたり広く使用されている。
【0003】
また近年では、アクリル系重合体を用いたプラスチゾル(アクリル系プラスチゾル)が提案され、焼却時の有毒ガスが少ない点など環境適合性に優れた材料として注目されている(例えば、特許文献1等)。
【特許文献1】国際公開00/01748号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、アクリル系プラスチゾル組成物への要求性能はさらに高くなって来ている。特にプラスチゾル組成物を用いた浸漬成形法により、キャップや保護カバー等の成形品を製造する場合は、プラスチゾル組成物が低粘度であり、粘度経時安定性が良好であり、また、得られる成形品が優れた耐ブロッキング性及び耐熱性、難燃性等の物性を有することが要求される。
【0005】
一方、難燃性が強く要求される電気絶縁キャップや耐熱保護カバーにおいては、難燃性を付与するために、燐酸エステル系可塑剤を使用する必要がある。しかし、この燐酸エステル系可塑剤をアクリル系プラスチゾル組成物に使用すると、粘度が経時的に上昇して、浸漬成形不可能な粘度に増粘したり、成形後、アクリル系重合体が可塑化され過ぎることで、成形品同士のブロッキングが発生し、成形品同士の密着が起き、剥がすことが著しく困難となる。
【0006】
また、燃焼時の高温環境下において成形品が溶融してしまうことも問題となっている。一方、これらの点を改善するために重合体粒子内に架橋構造を導入する試みがあり、これによりアクリル系プラスチゾル組成物の「粘度経時安定性」は改善される。しかし、単に架橋構造を導入しただけでは、成形後均一な薄膜とならず、また薄膜が得られたとしてもブリードの多い膜しか得られない。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、低粘度で高い粘度経時安定性を有し、かつ、ブリードの無い均一で柔軟な薄膜が得られ、耐ブロッキング性、耐熱性、難燃性において優れた成形品を得る事ができる浸漬成形法に好適なアクリル系プラスチゾル組成物、及び、これを用いた成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定のアクリル系プラスチゾル組成物を用いることによって優れた効果が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、アクリル系重合体微粒子(P)及び可塑剤(A)を含むプラスチゾル組成物において、アクリル系重合体微粒子(P)がコア/シェル構造を有する一次粒子から成り、該一次粒子の平均粒子径が300nm以上であり、かつ互いに反応する官能基の一方を該一次粒子のコア重合体に導入し、他方をシェル重合体に導入したことを特徴とするアクリル系プラスチゾル組成物である。
【0010】
さらに本発明は、上記アクリル系プラスチゾル組成物を用いて浸漬成形法により成形された成形品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低粘度で高い粘度経時安定性を有し、かつ、ブリードの無い均一で柔軟な薄膜が得られ、耐ブロッキング性及び耐熱性、難燃性において優れた成形品の製造を可能とするアクリル系プラスチゾル組成物を提供できる。また、このアクリル系プラスチゾル組成物は、浸漬成形法に非常に好適である。さらに、このアクリル系プラスチゾル組成物を用いて浸漬成形法により成形された成形品は、上記各特性において非常に優れている。したがって、本発明は、特に工業的な面で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いるアクリル系重合体微粒子(P)は、コア/シェル構造を有する一次粒子から成り、互いに反応する官能基の一方をコア重合体に導入し、他方をシェル重合体に導入したものである。コア重合体とシェル重合体にそのような官能基を導入することにより、コア重合体とシェル重合体の間に架橋構造が生成する。この結果、例えば、難燃性を付与するために可塑化能の高い燐酸エステル系可塑剤を使用した場合であっても、高い粘度経時安定性を示し、成形後ブリードの無い柔軟で均一な薄膜を形成でき、かつ耐ブロッキング性、耐熱性、難燃性に優れた成形品の製造が可能となる。なお、アクリル系重合体微粒子(P)において、コア重合体とシェル重合体の間に架橋構造が生成するが、コア重合体内やシェル重合体内にはそれら官能基は架橋反応せずに残存する。したがって、コア重合体内やシェル重合体内に残存する官能基を検知することによって、本発明のアクリル系重合体微粒子(P)であることを確認することができる。
【0013】
アクリル系重合体微粒子(P)を構成するアクリル系重合体は、(メタ)アクリレート等のアクリル系単量体を主成分として得た重合体である。コア重合体及びシェル重合体に官能基を導入する代表的な方法は、コア重合体及びシェル重合体を製造する際に、上記官能基を有する単量体を一部使用して共重合を行う方法である。
【0014】
官能基の種類は特に制限されない。官能基の組合せの態様としては、コア重合体とシェル重合体のうちの一方にエポキシ基を導入し、他方にカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等のエポキシ基と反応可能な官能基を導入する態様、一方にN−メチルアルコキシド基を導入し、他方に水酸基、カルボキシル基等のN−メチルアルコキシド基と反応可能な官能基を導入する態様などが挙げられる。これら官能基は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。特に、反応時に揮発成分の発生が無い点から、一方にエポキシ基を導入し、他方にカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を導入する態様が好ましい。
【0015】
コア重合体とシェル重合体のどちらにどのような種類の官能基を導入するかは特に制限されないが、特に、親水性の高い官能基をシェル重合体に導入することが好ましい。具体的には、例えば、エポキシ基と、カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基との組み合わせの場合は、コア重合体にエポキシ基を導入し、シェル重合体にカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を導入することが好ましい。この場合、具体的には、アクリル系重合体微粒子(P)のコア重合体を与える単量体組成が、(C1)エポキシ基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体、及び(C2)エポキシ基と反応しないその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体からなる単量体組成であり、シェル重合体を与える単量体組成が、(S1)エポキシ基と反応可能なカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を含有するエチレン性不飽和単量体、及び、(S2)カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基と反応しないその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体からなる単量体組成とすることにより、上記の組合せを好適に実現できる。
【0016】
コア重合体又はシェル重合体にエポキシ基を導入する場合は、例えば、重合体を製造する際に、エポキシ基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体を、エポキシ基と反応しないエチレン性不飽和単量体と併用して共重合させればよい。エポキシ基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ誘導体などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。なお「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
【0017】
エポキシ基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体の添加量は、エポキシ基と反応可能な官能基を含有するエチレン性不飽和単量体との架橋反応を十分進ませて、十分な架橋効果を得る点から、コア重合体又はシェル重合体の単量体組成を100mol%とした場合、下限値については、0.5mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が特に好ましい。また、上限値については、70mol%以下が好ましく、60mol%以下がより好ましく、50mol%以下が特に好ましい。
【0018】
エポキシ基と反応しないエチレン性不飽和単量体としては、代表的には(メタ)アクリレート類が挙げられる。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリレート類;などが挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用してもよい。中でも、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートは、容易に入手することができ、工業的な実用化の点で好ましい。ただし、これらモノマーに限定されるものではない。
【0019】
高温時のアクリル系重合体の解重合を防ぐ点からは、単量体組成中にアクリレートを添加することが好ましい。アクリレートの添加量は特に制限されないが、解重合を防止する効果が高くなる点から、コア重合体又はシェル重合体の単量体組成を100mol%とした場合、下限値については、0.5mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が特に好ましい。また、上限値については、50mol%以下が好ましく、40mol%以下がより好ましく、30mol%以下が特に好ましい。
【0020】
コア重合体又はシェル重合体にエポキシ基と反応可能なカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を導入する場合は、上述の場合と同様に、カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体を、それらと反応しないエチレン性不飽和単量体と併用して共重合させればよい。
【0021】
エポキシ基と反応可能なカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体の例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基含有エチレン性不飽和単量体類;などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
エポキシ基と反応可能なカルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基を分子中に有するエチレン性不飽和単量体の添加量は、エポキシ基との十分な架橋効果を得る点から、コアもしくはシェル重合体の単量体組成を100mol%とした場合、下限値については、0.5mol%以上が好ましく、1mol%以上がより好ましく、5mol%以上が特に好ましい。また、上限値については、40mol%以下が好ましく、30mol%以下がより好ましく、20mol%以下が特に好ましい。
【0023】
カルボキシル基、スルホン酸基又はリン酸基と反応しないエチレン性不飽和単量体の例及び添加量は、上述したエポキシ基と反応しないエチレン性不飽和単量体の例及び添加量と同様である。
【0024】
浸漬成形法にて要求されるゾル粘度に関しては、一般に、せん断速度2.6sec-1において20Pa・s以下のゾル粘度が適切とされている。これは、ゾルに金型を浸漬して引き上げた際のタレ性を維持し、かつ均一な薄膜の成形品を得るためである。このゾル粘度は、さらに15Pa・s以下が好ましい。プラスチゾルの粘度を低下させる方法としては、一般に可塑剤を増量する方法が考えられるが、それを用いた硬化物は可塑剤がブリードアウトし易く、機械的強度が低下する。また、プラスチゾルの粘度を低下させるために希釈剤を添加する方法も考えられるが、希釈剤はアクリル系重合体を溶解させるので、貯蔵時のプラスチゾル粘度を著しく増加させたり、成形品の透明性の低下を引き起こしたりする場合があり、また揮発性有機物の抑制という観点から希釈剤の添加は控えることが望まれる。
【0025】
一方、本発明においては、上記以外の方法で粘度の低減化が可能である。まず、本発明に用いるアクリル系重合体微粒子(P)の一次粒子の平均粒子径は、300nm以上である。そして、このような平均粒子径の一次粒子から成るアクリル系重合体微粒子(P)において、例えば炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤をシェル重合体用の単量体組成中に添加すると、その重合時にメルカプト系連鎖移動剤がシェル相中に十分取り込まれ、アクリル系重合体微粒子(P)の粒子表面が改質され、プラスチゾル組成物に優れた粘度低減効果を発現する。したがって、本発明においては、炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤を添加することが好ましい。これにより、可塑剤の増量及び希釈剤の添加を必要とせず、ゾル粘度が20Pa・s以下のゾル組成物を容易に得ることができ、かつ可塑剤のブリードアウトが抑制され、揮発性有機物の懸念もない。
【0026】
炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤の種類は特に制限されない。その具体例としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸オクチル、チオグリコール酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸トリデシル等が挙げられる。炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤の添加量は特に制限されないが、粘度低減効果が良好となる点から、シェル重合体の単量体組成を100mol%とした場合、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が特に好ましい。
【0027】
アクリル系重合体微粒子(P)の一次粒子の平均粒子径は、300nm以上であれば特に制限されないが、粒子の表面積低減による粘度低減効果の点から、400nm以上が好ましく、500nm以上が特に好ましい。
【0028】
一次粒子のコア/シェル構造において、コア重合体/シェル重合体の単量体組成比に関しては、十分な架橋効果が得られる点から、コア重合体及びシェル重合体を構成する全単量体を100質量部とした場合、コア重合体が20〜90質量部、シェル重合体が80〜10質量部であることが好ましい。
【0029】
アクリル系重合体微粒子(P)の製造方法は特に限定されない。例えば、乳化重合を行った後で噴霧乾燥する方法、微細懸濁重合法、懸濁重合法など、公知の方法を用いることができる。
【0030】
アクリル系重合体微粒子(P)は、乾燥粉体としての性状や構造は問わない。例えば重合で得られた一次粒子が多数集合して凝集粒子(二次粒子)を形成していても構わないし、またそれ以上の高次構造も可能である。ただし、このような凝集構造の場合、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態が好ましく、これにより可塑剤中で一次粒子が均一に分散可能となる為である。
【0031】
本発明に用いる可塑剤(A)の種類は特に制限されない。ただし、例えば、電気絶縁キャップや耐熱保護カバー等の難燃性が強く要求される成形品を得る場合などにおいては、燐酸エステル系可塑剤を使用することが好ましい。また、難燃性をさらに向上させたい場合は、難燃剤を添加してもよい。
【0032】
可塑剤(A)に使用する燐酸エステル系可塑剤としては、特に、トリアリール燐酸エステル系可塑剤、芳香族縮合型燐酸エステル系可塑剤が好ましい。トリアリール燐酸エステル系可塑剤の具体例としては、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。芳香族縮合型燐酸エステル系可塑剤の具体例としては、レゾルシン・ビス(ジフェニルホスフェート)等が挙げられる。
【0033】
また、上記具体例以外の可塑剤も使用可能である。例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート等の燐酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリブチル;などを可塑剤(A)として使用することもできる。
【0034】
以上の各可塑剤は、必要に応じて単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
可塑剤(A)の配合量は、所望に応じて適宜変更できる。特に、重合体微粒子(P)100質量部に対して、50〜250質量部が好ましく、70〜170質量部がより好ましい。
【0036】
難燃剤の種類は特に制限されず、一般に市販されているものを使用可能である。例えば、燃焼時に結晶水が気化することによって難燃性効果を発現する水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム、燃焼時に不燃性ガスを発生する燐酸メラミン等が使用できる。難燃剤の配合量は、重合体微粒子(P)100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、40〜150質量部がより好ましい。
【0037】
アクリル系プラスチゾル組成物には、用途に応じて各種の充填剤又は添加剤を配合できる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、パーライト、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウム、フライアッシュ、シラスバルーン等の無機充填剤類、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、ミネラルターペン、ミネラルスピリット等の希釈剤、消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤などを必要に応じて配合できる。
【0038】
本発明のアクリル系プラスチゾル組成物は、従来より知られる各種の成形法に用いることが可能であるが、特に浸漬成形法に好適である。例えば、予めアクリル系プラスチゾル組成物を入れた浸漬槽の中に型を浸漬し、その後引き上げ、型の外面にプラスチゾル組成物が付着した状態で加熱炉に入れてゲル化させ、型から脱着することで成形品を好適に得ることができる。すなわち、本発明の成形品は、このような好適な成形法により得られ、かつ優れた特性を示す成形品である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。各例中、「部」は「質量部」を意味する。また、各評価は以下の方法により実施した。
【0040】
[重合体微粒子の体積平均一次粒子径]
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて、水を分散媒として、重合体微粒子の体積平均一次粒子径を測定した。なお、重合体微粒子が二次凝集している場合は、超音波を5分照射した後に測定を行った。
【0041】
[プラスチゾル組成物の粘度]
プラスチゾル組成物を25℃の恒温槽で2時間保温した後、BL型粘度計(トキメック製、ローターNo.4)を用いて、回転数12rpm(せん断速度2.6sec-1)で、1分後の粘度(単位mPa・s)を測定し、以下の基準により評価した。
「○」:20Pa・s以下。
「×」:20Pa・s超。
【0042】
[ゾルの経時安定性]
プラスチゾル組成物を25℃の恒温槽で3時間保温した後、BL型粘度計(トキメック製、ローターNo.4)を用いて、回転数12rpm(せん断速度2.6sec-1)で、1分後の粘度(単位mPa・s)を測定し、これを初期粘度η1として記録した。さらに、これを40℃の恒温水槽に10日間貯蔵し、次いで25℃の恒温槽で2時間保温した後、同じ装置及び測定条件下で粘度(単位mPa・s)を測定し、これを経時後粘度η2として記録した。そして、経時安定性はη2/η1の値を用いて以下の基準により評価した。
「○」:η2/η1が1.5未満。
「×」:η2/η1が1.5以上。
【0043】
[成形品のブリード]
得られた成形品を、25℃の室内に1週間放置した後、成形品表面ににじみ出た可塑剤を目視及び触感で確認して、以下基準により成形品のブリード性を評価した。
「○」:ブリードアウト無し。
「×」:ブリードアウト有り。
【0044】
[成形品の耐ブロッキング性]
得られた成形品の面同士を合わせたものを硝子板に挟み、一番上の硝子板におもりを片寄らないように載せて、温度50℃の乾燥機内に24時間放置し、その後乾燥機から取り出し、直ちに硝子板を外して室温25℃まで徐冷した。そして、成形品同士を注意深く剥がし、粘着性と成形品の表面剥離状態を目視にて観察し、成形品の耐ブロッキング性について以下の基準により評価した。
「○」:成形品同士を剥離でき、成形品表面に異常は認められない。
「×」:成形品同士を剥離するのが困難であり、一部成形品表面が欠落する。
【0045】
[成形品の耐熱性]
炎の大きさを20mmに調整した工業用グレードのメタンガスを通じたブンゼンガスバーナー(形状:長さ100mm/内径9.5mm、ガス流量105ml/min)の炎先端に、得られた成形品を10秒間接炎し、成形品の変化を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
「○」:接炎時及び接炎後、成形品の形状をそのまま保持する。
「×」:接炎時及び接炎後、成形品が溶融し、成形品の一部が欠落する。
【0046】
[アクリル系重合体微粒子(M1)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を備えた2リットルの4つ口フラスコに、純水500部を入れ、30分間十分に窒素ガスをバブリングし、純水中の溶存酸素を置換した。次に、窒素ガスをフローに変えた後、メチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルM」)16.3部及びn−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルB」)12.5部を入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、純水10部に過硫酸カリウム0.25部を溶解して得た溶液をフラスコ内に一度に添加し、重合を開始させた。その後、80℃にて60分攪拌し、シード粒子分散液を得た。
【0047】
次いで、このシード粒子分散液に、メチルメタクリレート300.0部、グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルG」)50.0部、n−ブチルアクリレート(三菱化学製)50.0部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王製、商品名「ペレックスOTP」)2.50部及び純水125.0部を混合攪拌して乳化して得たモノマー乳化液を3.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌して、コア粒子の重合体分散液を得た。
【0048】
次いで、このコア粒子の重合体分散液に、メチルメタクリレート87.5部、メタクリル酸(三菱レイヨン製)12.5部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル(淀化学製)0.1部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム2.50部及び純水125.0部を混合攪拌して乳化して得たモノマー乳化液を1.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌して、コアシェル型重合体分散液を得た。
【0049】
このコアシェル型重合体分散液を室温まで冷却し、スプレードライヤを用いて、入口温度150℃、出口温度65℃で噴霧乾燥して、体積平均一次粒子径が0.6μmのアクリル系重合体微粒子(M1)を得た。組成及び物性を表1に示す。
【0050】
[アクリル系重合体微粒子(M2)〜(M8)の調製]
コア滴下とシェル滴下のモノマーをそれぞれ表1に記載の内容に変更したこと以外は、重合体微粒子(M1)と同様にして重合体微粒子(M2)〜(M8)を調製した。なお、モノマーに対する乳化剤の添加量、モノマーの滴下速度、噴霧乾燥の条件などは重合体微粒子(M1)の場合と同一である。
【0051】
[アクリル系重合体微粒子(M9)の調製]
シェル滴下を行わず、コア滴下のモノマーを表1に記載の内容に変更したこと以外は、重合体微粒子(M1)と同様にして重合体微粒子を調製した。
【0052】
[アクリル系重合体微粒子(M10)の調製]
シード粒子分散液を得る際に、シード分散液のモノマー全量に対し、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムを5部添加し、かつコア滴下とシェル滴下のモノマーをそれぞれ表1に記載の内容に変更したこと以外は、重合体微粒子(M1)と同様にして重合体微粒子(M10)を調製した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1中の略号:
・「MMA」:メチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルM」)
・「nBMA」:n−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルB」)
・「GMA」:グリシジルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルG」)
・「nBA」:n−ブチルアクリレート(三菱化学製)
・「MAA」:メタクリル酸(三菱レイヨン製)
・「OTG」:チオグリコール酸2−エチルヘキシル(淀化学製)
・「nDM」:ノルマルドデシルメルカプタン(日本油脂製)。
【0055】
[実施例1]
アクリル系重合体微粒子(M1)100部、可塑剤として、トリキシレニルホスフェート(大八化学工業製、商品名「TXP」)50部と、レゾルシノールジホスフェート縮合リン酸エステル(旭電化工業製、商品名「アデカスタブPFR」)100部、及び、難燃剤として水酸化アルミニウム(日本軽金属製、商品名「B703」)80部を計量し、真空ミキサー((株)シンキー製、商品名「ARV−200」)に投入した。これを大気圧(760mmHg)で5秒間混合し、さらに20mmHgに減圧して55秒間混合し、均一なアクリル系プラスチゾル組成物を得た。このプラスチゾル組成物の25℃での粘度は、せん断速度2.6sec-1において、9.2Pa・sであった。
【0056】
得られたプラスチゾル組成物をテフロンコートされた鉄板(厚さ1mm)の上にウェット膜厚2mmとなるようにキャストし、これを160℃のギヤーオーブンに入れて10分間加熱し、成形品を得た。その際のプラスチゾル組成物の経時安定性、成形品のブリード、耐ブロッキング性、耐熱性について評価した。組成及び評価結果を表2に示す。
【0057】
[実施例2〜5、比較例1〜4、及び、参考例1]
表2記載の配合に変更したこと以外は実施例1と同様にして、均一なプラスチゾル組成物を製造し、成形し、評価した。組成及び評価結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
[各例の考察]
以下に各実施例及び比較例について考察する。
【0060】
実施例1は本発明の一実施例であり、実施例2は実施例1に対して重合体微粒子(P)を形成するコア重合体中のエポキシ基量を変更した例であり、実施例3は実施例1に対して重合体微粒子(P)を形成するシェル重合体中のカルボキシル基量を変更した例である。いずれの物性も特に問題点はなく、良好である。
【0061】
実施例4は、実施例1に対してシェル重合体中の炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤の添加量を変更した例であり、実施例5は、実施例1に対してシェル重合体中の炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤の種類を変更した例である。いずれの物性も特に問題点はなく、良好である。
【0062】
比較例1は、シェル重合体中にカルボキシル基を導入しなかった例であり、成形品の耐ブロッキング性が劣り、不適当である。
【0063】
比較例2は、コア重合体中にエポキシ基を導入しなかった例であり、プラスチゾル組成物の経時安定性が低下し、また成形品の耐ブロッキング性、耐熱性が劣り、不適当である。
【0064】
比較例3は、コア重合体中にエポキシ基とカルボキシル基を導入し、シェル重合体には導入しなかった例であり、コア重合体全体に架橋が形成されるため、成形品に可塑剤のブリードが大きく、不適当である。
【0065】
比較例4は、一次粒子の平均粒子径が300nm未満の例であり、粒子径が小さいためゾル粘度が高く、不適当である。
【0066】
参考例1は、シェル重合体中に炭素数4以上のメルカプト系連鎖移動剤を未添加の例であり、プラスチゾル組成物の粘度が比較的高くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体微粒子(P)及び可塑剤(A)を含むプラスチゾル組成物において、アクリル系重合体微粒子(P)がコア/シェル構造を有する一次粒子から成り、該一次粒子の平均粒子径が300nm以上であり、かつ互いに反応する官能基の一方を該一次粒子のコア重合体に導入し、他方をシェル重合体に導入したことを特徴とするアクリル系プラスチゾル組成物。
【請求項2】
請求項1記載のアクリル系プラスチゾル組成物を用いて浸漬成形法により成形された成形品。

【公開番号】特開2006−131825(P2006−131825A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324940(P2004−324940)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】