説明

アクリル系粘弾性体材料

【課題】 広い温度範囲で高い制振性能を維持することができる、アクリル系粘弾性体材料を提供する
【解決手段】 1)単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であるアクリル酸アルキルエステル、80〜99重量%、及び、2)メタクリル酸、又は、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるメタクリル酸エステル、1〜20重量%を含むモノマー混合物であって、前記重量%はモノマー混合物中のモノマーの合計重量を基準とするモノマー混合物を共重合することで得られるポリマーを含むアクリル系粘弾性体材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は制振材料として有用なアクリル系粘弾性体材料に関する。
【背景技術】
【0002】
制振材料は種々の分野で使用されている。例えば、建築分野におけるビルの骨格構造形成材料は風や地震などの衝撃的な変位や振動を吸収することができるものでなければならず、また、コンピュータディスクドライブなどの電子部品は振動による破損又は誤作動を防止するために振動を吸収する材料で保護されている。このような変位や振動を吸収する材料には、通常、粘弾性ダンパー材料が用いられている。
【0003】
このような粘弾性ダンパー材料は広い範囲の使用温度で安定な制振性能を提供することが望ましい。例えば、特許文献1には、(a)ポリジオルガノシロキサンジアミンとポリイソシアネートとを反応させたポリジオルガノシロキサンポリ尿素セグメントコポリマー、及び、(b)シリケート樹脂を含む粘着付与組成物が開示されていて、せん断モードでの動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(G’)の0℃における値と40℃における値の比(G'0℃/G'40℃)が10以下を示し、かつ、前記測定により得られる損失正接(tanδ)が0℃〜40℃において、0.4以上を示す制振材組成物が開示されている。このように、比較的に広い温度で良好で安定な制振性能が提供されうることを示している。また、このようなシリコーン系粘弾性体組成物は、一般的に耐候性、耐熱性に優れ、長期の使用の信頼性が高く、非常に有用である。しかし、材料が高価であり、また、接着性に劣るため、被着体に接着して固定するのが困難である。
【0004】
特許文献2には、せん断モードでの動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率(G’)の0℃における値と40℃における値の比(G'0℃/G'40℃)が15以下を示し、かつ、前記測定により得られる損失正接(tanδ)が0℃〜40℃において、0.4以上を示す制振材組成物が開示されている。構成成分は、数平均分子量10,000以下の芳香族ビニル(例:スチレン)重合体ブロック(a)とイソブチレン重合体ブロック(b)からなるブロック共重合体である。しかし、このような合成ゴム系ブロック共重合体は、一般的に耐候性、耐熱性に劣るため、長期の使用の信頼性が低い。また、粘着性が乏しいため、被着体に接着させるのが困難である。
【0005】
一方、特許文献3には、(a)(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主成分とするビニルモノマーと、(b)単独重合体のガラス転移温度が35℃以上でかつAlfreyとPriceのモノマー反応性比を示すQ値が0.45以下であるカルボン酸ビニルモノマーと、(c)光重合開始剤とを含有することを特徴とする光重合性組成物が開示されている。Q値が0.45以下であるカルボン酸ビニルモノマーとしては、具体的には、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどが開示されている。この文献では、上記Q値の低いモノマーから生成したラジカルのほうが他のモノマーとの反応性が高く、短時間で重合を行なうことができるので、生産速度を高めることができることを記載している。この文献には、制振材料の温度依存性については全く考慮していない。
【0006】
特許文献4には、a)C1−14アルキル(メタ)アクリレート、70〜80重量部、b)上記アクリレートと共重合可能でかつその共重合体のガラス転移温度が50℃以上のビニルモノマー、30〜20重量部、及び、c)光ラジカル開始剤 0.05〜5重量部を含む組成物に光照射して得られる光重合ポリマー制振材が開示されている。成分a)としては、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが例示されており、成分b)としてはアクリル酸、メタクリル酸、ピニルピロリドン、メタクリルアミドなどが例示されている。実施例で実際に使用しているのは成分a)としてブチルアクリレート、成分b)としてアクリル酸の組み合わせのみである。また、モノマー成分a)及びb)の共重合反応性および制振材料の温度依存性については全く考慮されていない。
【0007】
【特許文献1】国際公開第WO96/035458号明細書
【特許文献2】国際公開第WO01/074964号明細書
【特許文献3】特開平5−247141号公報
【特許文献4】特開平11−124925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、広い温度範囲で高い制振性能を維持することができる、アクリル系粘弾性体材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様によると、1)単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であるアクリル酸アルキルエステル、80〜99重量%、及び、2)メタクリル酸、又は、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるメタクリル酸エステル、1〜20重量%、を含むモノマー混合物であって、前記重量%はモノマー混合物中のモノマーの合計重量を基準とするモノマー混合物を共重合することで得られるポリマーを含むアクリル系粘弾性体材料が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記モノマー混合物を用いて共重合することで得られるポリマーを含むアクリル系粘弾性材料は、動的粘弾性測定により得られる貯蔵弾性率及び損失正接(tanδ)の温度依存性が低く、このため、広い温度範囲で高い制振性能を維持することができる。
また、アクリル系ポリマーであるため、従来の合成ゴム系制振材より、耐候性・耐熱性に優れ、長期使用時の性能信頼性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の実施形態について好適な実施形態によって説明するが、本発明は例示された形態に限定されることはない。
まず、本発明のアクリル系粘弾性材料の温度依存性について説明する。成分1)アクリル酸エステルモノマーと、成分2)メタクリル酸又はメタクリル酸エステルモノマーとを含むモノマー混合物の共重合を行なった場合、メタクリル酸又はメタクリル酸エステル(成分2))はそれ自身の反応(成分2)どうしの反応)の速度が速く、アクリル酸エステルとの反応(成分2)と成分1)との反応)の速度が低い。このため、成分1)と成分2)のモノマーはランダムに共重合せず、得られるポリマーの組成分布が広くなる。すなわち、成分2)のモノマー単位に富む成分と、成分1)のモノマー単位に富む成分を含むポリマーとなる。そのため、成分1)に富む成分のガラス転移温度(Tg)は成分1)が支配的要因となって低いTgを示し、一方、成分2)に富む成分のガラス転移温度(Tg)は成分2)が支配的要因となって高いTgを示すことになる。このように、得られるポリマーの損失正接(tanδ)は広い温度範囲で高い値を示し、また、貯蔵弾性率G’の温度依存性が小さくなる。なお、本明細書において、「貯蔵弾性率」及び「損失正接(tanδ)」は、特に指示がないかぎり、1.0Hzの周波数及び50%歪みでのせん断モードの動的粘弾性測定において、昇温速度を3℃/分として昇温しながら温度−60℃〜160℃で測定したときに得られるチャートから読み取られる測定値とする。
【0012】
モノマーの共重合性は、そのモノマー同士の反応性比r1とr2と相関がある(J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulke 編集 Polymer Handbook 4th Edition,“Free Radical Copolymerization Reactivity Ratios”参照)。
〜M1*+M1 → 〜M11* k11
〜M1*+M2 → 〜M12* k12
〜M2*+M2 → 〜M22* k22
〜M2*+M1 → 〜M21* k21
〜M*:ポリマー中のモノマーM由来のラジカル、k:反応速度、
r1=k11/k12、r2=k22/k21
アクリル酸エステルモノマー(M1)とメタクリル酸またはメタクリル酸エステルとアクリル酸エステルモノマー(M2)における反応性比は、r1<<r2となる。例えば、アクリル酸ブチル(M1)とメタクリル酸(M2)の場合、r1=0.31、r2=1.25であり、メタクリル酸自身の反応が速く、ポリマーのモノマー単位組成の分布が広くなる。
【0013】
また、AlfreyとPriceによる下式のQ値及びe値に関する式もよく知られている。
Q2=(Q1/r1)exp{−e1(e1−e2)}
Q1=(Q2/r2)exp{−e2(e2−e1)}
Q1:モノマー(M1)のQ値、e1:モノマー(M1)のe値
Q2:モノマー(M2)のQ値、e2:モノマー(M2)のe値
r1:モノマー(M1)の反応性比、
r2:モノマー(M2)の反応性比、
Q値及びe値に関する詳細はJ.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulke 編集 Polymer Handbook 4th Edition, “Q and e Value for Free Radical Copolymerizations of Vinyl Monomers and Telogens”を参照されたい。
【0014】
本発明の粘弾性材料の原料モノマー成分1)は4〜12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルである。成分1)として使用することができるものは、例えば、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチルなどが挙げられる。これらのモノマーの単独重合体におけるTgが0℃以下と低く、低温での制振性能を付与することができるとともに、得られるポリマーに粘着性を与えることもできる。このモノマー成分はモノマー混合物中のモノマーの合計重量を基準として80〜99重量%の量で存在する。この成分の量が少なすぎると、低温での制振性能が不十分であるとともに、得られるポリマーの粘着性が低くなる。さらに、材料の柔軟性が低くなり、被着体への密着性が低くなる。他方、この成分の量が多すぎると、性能の温度依存性が高くなり、すなわち、高温での制振性能が低くなり、使用可能温度が制限された材料となる。
【0015】
本発明の粘弾性材料の原料モノマー成分2)は、メタクリル酸、又は、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるメタクリル酸エステルであり、例えば、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸イソボルニル等が挙げられる。好ましくは、成分2)は上記のQ値が0.7以上である。また、成分2)は好ましくは成分1)に対する共重合性比r1及びr2がr2/r1>3を満たすものである。このような条件を満たすモノマーは、例えば、メタクリル酸(Q=0.98,r1=0.31,r2=1.25(ブチルアクリレートに対する値))、メタクリル酸メチル(Q=0.78,r1=0.13,r2=0.92(ブチルアクリレートに対する値)、メタクリル酸エチル(Q=0.76,r1=0.28,r2=2.25(ブチルアクリレートに対する値))、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(Q=1.78,r1=0.09,r2=4.75(ブチルアクリレートに対する値))、メタクリル酸イソブチル(Q=0.82,rl=0.28,r2=2.52(ブチルアクリレートに対する値))、メタクリル酸ベンジル(Q=0.88,rl=0.28,r2=2.76(ブチルアクリレートに対する値))である。なお、成分2)はモノマー混合物中のモノマーの合計重量を基準として1〜20重量%の量で含まれる。成分2)の量が多すぎると、低温での制振性能が不十分であるとともに、得られるポリマーの粘着性が低くなる。さらに、材料の柔軟性が低くなり、被着体への密着性が低くなる。他方、この成分の量が少なすぎると、性能の温度依存性が高くなり、すなわち、高温での制振性能が低くなり、使用可能温度が制限された材料となる。
【0016】
本発明で使用されるモノマー混合物には、本発明の効果を損なわないかぎり、他のモノマーも含まれてよい。例えば、得られるポリマーの凝集性を維持するために、アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリル、ヒドロキシエチルアクリレート、マレイン酸、イタコン酸などの極性モノマーもモノマー混合物中に含まれてよい。このような極性モノマーは、通常、モノマー混合物の合計重量を基準として10重量%以下の量で含まれる。
【0017】
また、得られる材料のせん断強度などの機械強度や耐熱性などの熱特性を上げるために、架橋剤を用いることもできる。架橋剤としては多価アクリレートなどの架橋性モノマーを用いることが便利である。架橋剤として使用可能な多価アクリレートとしては1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどが挙げられる。架橋剤は、通常、モノマー混合物100重量部に対して0.01〜5重量部の量で使用される。
【0018】
本発明のアクリル系粘弾性材料を構成するポリマーは、上記のとおりのモノマー混合物を共重合することで製造できる。例えば、共重合は熱重合で行なっても、電子ビームや紫外線などによる放射線重合で行なってもよい。熱重合による場合には、通常、熱重合開始剤をモノマー混合物100重量部あたりに5重量部以下の量で用い、紫外線重合では、通常、光重合開始剤をモノマー混合物100重量部あたりに5重量部以下の量で用い、電子線による重合の場合には一般に開始剤は必要ない。以下において、紫外線による光重合を例にとってポリマーの製造方法について述べる。
【0019】
紫外線重合などの光重合によりポリマーを得る場合には、通常、光重合開始剤が上記の量で含まれる。開始剤として、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン[ダロキュア2959:メルク社製]、α−ヒドロキシ−α,α' −ジメチルアセトフェノン[ダロキュア1173:メルク社製]、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノンなどのアセトフェノン系開始剤;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインエーテル系開始剤;ベンジルジメチルケタールなどのケタール系開始剤;その他、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド、アシルホスフォナートなどを例示することができる。
【0020】
光重合開始剤は、モノマー混合物100重量部に対して、0.01〜5.0重量部で配合される。この配合量が0.1重量部未満であると、光重合開始剤が光エネルギーにより重合初期に消費されてしまうために、未反応モノマーが残存しやすく、凝集力が低下する。逆に5.0重量部を超えると、重合反応速度は大きくなるが、光重合開始剤の分解に伴う残留臭気が激しくなり、また、得られる重合物の分子量のばらつきが大きくなり粘着性能も低下する。
【0021】
光照射には通常紫外線が用いられる。紫外線ランプとしては、光波長300〜400nmに発光スペクトル分布を有するものが用いられ、その例としてはケミカルランプ、ブラックライトランプ(東芝電材社の商品名)、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯などが用いられる。
【0022】
適当な反応容器にモノマー混合物を装填し、モノマー混合物に光重合開始剤を添加し、さらに、必要に応じて架橋剤や他の添加剤を添加して、適量の紫外線などの光照射により重合反応を行い、ポリマーを得る。反応は、通常、窒素などの不活性雰囲気で行なわれる。また、光照射は一度に行なってもよいが、二段階以上に分けて行なってもよい。例えば、重合開始剤を含むモノマー混合物に光照射して部分的に反応させて、適度の粘度の重合性プレポリマーシロップを得る。その後、追加のモノマーをシロップ中に入れ、この混合物を、剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)などの基材2枚の間に導入し、その後、光照射することで最終的なポリマーを得ることができる。得られたポリマーは粘着性を有した粘弾性材料となり、そのままで制振材料して使用することができる。また、複数枚のポリマーシート間に剛体シートを挟持した構造として用いられてもよい。上記ポリマーシートを1枚あるいは複数枚の剛体シートと積層した拘束体構造とすることにより、制振性をより一層高めることができる。
【0023】
上記剛体シートとしては、金属板やポリマー樹脂板を用いることができる。金属板としては、鉄鋼板、ステンレス、アルミメッキ鋼板、亜鉛メッキ鋼板、エポキシ塗装鋼板等の鉄素材からなるもの及び亜鉛、アルミ、チタン等の金属材料からなるものが挙げられる。また、ポリマー樹脂板としては、繊維強化プラスチック(FRP)、塩化ビニル板、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アクリル等の素材からなる板状体が挙げられる。また、上記金属板とポリマー樹脂板とを併用してもよい。
【0024】
本発明の粘弾性体材料のためのポリマーには、粘弾性製品に高水準の粘着力を付与するために、粘着付与樹脂を含有させることもできる。本発明で用いられる粘着付与樹脂としては、ロジン系樹脂、変性ロジン系樹脂(水素添加ロジン系樹脂、不均化ロジン樹脂、重合ロジン系樹脂など)、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、C5 及びC9系石油樹脂、クマロン樹脂などがある。
【0025】
本発明の粘弾性体材料のためのポリマーには増粘剤やチキソトロープ剤、増量剤や充填剤などの通常用いられる添加剤を配合してもよい。増粘剤としては、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、イソプレンゴム、ブチルゴムなどが用いられる。チキソトロープ剤としては、コロイドシリカ、ポリビニルピロリドンなどが用いられる。増量剤としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、クレーなどが用いられる。充填剤としては、ガラスバルン、アルミナバルン、セラミックバルンなどの無機中空体;ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコンビーズなどの有機球状体;塩化ビニリデンバルン、アクリルバルンなどの有機中空体;ポリエステル、レーヨン、ナイロンなどの単繊維などが用いられる。
【0026】
本発明の粘弾性体材料は、上記の特定のモノマー混合物を用いることにより、0℃での貯蔵弾性率G’0と40℃での貯蔵弾性率G’40の比(G’0/G’40)が10以下となり、また、損失正接(tanδ)が0〜40℃において常に0.4以上を示すことができる。このように、本発明の粘弾性体材料は温度依存性の少ない制振材料として有用である。本発明の粘弾性体材料は、例えば、建築分野におけるビルの骨格構造形成材料の風や地震などの衝撃的な変位や振動を吸収する粘弾性ダンパー用制振材、または、コンピュータディスクドライブの振動を吸収する粘弾性ダンパーとして有用である。
【実施例】
【0027】
〈実施例1〉
アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)(株式会社日本触媒社製AEH)96重量部、アクリル酸(AA)(和光純薬工業株式会社製)4重量部、メタクリル酸(MAA)(和光純薬工業株式会社製)5重量部、光開始剤としてIrgacure 651(CIBA-GEIGY社製、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン)0.04重量部を均一になるまでフラスコ中で攪拌し、窒素ガスによるバブリングを行い、光波長300〜400nmかつ351nmに最大発光スペクトルを有する蛍光黒色電球(Sylvania F20T12B)で積算量90mJ/cm2の紫外線を照射し、反応率10%、粘度1,000cpsの重合性プレポリマーシロップ(A)を作成した。
【0028】
できたシロップ(A)100重量部に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)(新中村化学工業株式会社製NKエステルA−HD)0.21重量部、Irg.651を0.16重量部加えさらに攪拌し、均一溶液にした。このようにして得られた溶液を、2枚の剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)に膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0029】
〈動的粘弾性測定〉
できたポリマーの動的粘弾性測定を行なった。動的粘弾性特性はRheometric Scientific 社製 Advanced Rheometric Expansion System(ARES)を用い、せん断モード、周波数1.0Hz及び歪み50%で、昇温速度3℃/分で−60℃〜160℃における貯蔵弾性率G’と損失正接(tanδ)を測定した。
【0030】
結果を表1に示す。G’(0℃)/G’(40℃)=8.8、tanδ(Min−Max)=0.46〜0.57であった。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さいことが判る。
【0031】
〈実施例2〉
96重量部のアクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、4重量部のアクリル酸(AA)および、0.04重量部のIrg.651を用い、実施例1と同様にSylvania F20T12Bで積算量90mJ/cm2の紫外線を照射し、反応率11%、粘度10,240cpsの重合性プレポリマーシロップ(B)を作成した。
【0032】
できたシロップ(B)100重量部にメタクリル酸(MAA)を5重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.21重量部、Irg.651を0.16重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にした。
できた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0033】
実施例1と同一の条件でできたポリマーの動的粘弾性測定を行なった。結果を表1に示す。G’(0℃)/G’(40℃)=6.2、tanδ(Min−Max)=0.62〜0.67であった。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。結果をさらに図1及び2のグラフに示す。
【0034】
〈実施例3〉
実施例2でできたシロップ(B)100重量部に、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)(和光純薬工業株式会社製)を15重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.12重量部、Irg.651を0.17重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0035】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0036】
〈実施例4〉
98重量部のアクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、2重量部のアクリル酸(AA)および、0.04重量部のIrg.651を用い、実施例2と同様にSylvania F20T12Bで積算量90mJ/cm2の紫外線を照射し、反応率11%、粘度9,760cpsの重合性プレポリマーシロップ(C)を作成した。
【0037】
できたシロップ(C)100重量部にメタクリル酸(MAA)を5重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.11重量部、Irg.651 0.16重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0038】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0039】
〈実施例5〉
実施例4でできたシロップ(C)100重量部に、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)を20重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.24重量部、Irg.651を0.18重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0040】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。また、結果を図1及び2のグラフにも示す。
【0041】
〈実施例6〉
94重量部のアクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、6重量部のアクリル酸(AA)および、0.04重量部のIrg.651を用い、実施例2と同様にSylvania F20T12Bで積算量90mJ/cm2の紫外線を照射し、反応率11%、粘度16,250cpsの重合性プレポリマーシロップ(D)を作成した。
【0042】
できたシロップ(D)100重量部にメタクリル酸(MAA)を5重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.11重量部、Irg.651を0.16重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0043】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0044】
〈実施例7〉
実施例6でできたシロップ(D)100重量部に、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)を10重量部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.11重量部、Irg.651を0.17重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0045】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0046】
〈比較例1〉
実施例2でできた重合性プレポリマーシロップ(B)に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.2重量部、Irg.651を0.15重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0047】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。貯蔵弾性率G’(0℃)/G’(40℃)=2.4で温度依存性が小さいが、損失正接tanδ(Min−Max)=0.25−0.69と温度依存性が大きくなり、値も小さい。
【0048】
〈比較例2〉
87.5重量部のアクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)、12.5重量部のアクリル酸(AA)および、0.04重量部のIrg.651を用い、実施例2と同様にSylvania F20T12Bで積算量90mJ/cm2の紫外線を照射し、反応率11%、粘度9,000cpsの重合性プレポリマーシロップ(E)を作成した。
【0049】
できたシロップ(E)100重量部に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)を0.1重量部、Irg.651を0.15重量部加え、さらに攪拌し均一溶液にし、実施例2と同様にできた溶液を、2枚の剥離処理したPETに膜厚1.0mmになるように挟み、Sylvania F20T12Bで積算量1500mJ/cm2の紫外線を照射し、完全に反応硬化させた。
【0050】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性特性を測定した。結果を表1に示す。tanδ(Min−Max)=0.63−1.21で、値は大きいが、温度依存が大きい。また、G’(0℃)/G’(40℃)=20.8で、温度依存性が著しく大きい。
【0051】
実施例1〜7の結果から、本発明の粘弾性体材料は、G’の温度依存性が低く、tanδ値が高いので、性能の温度依存性の低い、良好な材料であることが判る。一方、比較例1及び2の結果からは、ガラス転移温度を下げることにより、G’の温度依存性を小さくできるが、損失正接が低くなり、また損失正接を高くするためには、ガラス転移温度を高くしなければならず、その結果G’の温度依存性が大きくなってしまう。
【0052】
【表1】

【0053】
〈実施例8〉
本発明による粘弾性体材料が建築構造の制振装置として用いられる場合を模擬し、その実用形態に近い状況で動的粘弾性測定を行った。
50mm×50mm×4mmサイズの実施例2で得られた粘弾性体シートを作成した。できたシートを3枚の鋼板の間に積層し、せん断変形を与え、下記条件で貯蔵弾性率G’(N/cm2)と損失係数η(tanδ)の動的粘弾性特性を求めた。試験装置は、MTS社製1軸加振装置MTS810(最大変位250mm、最大速度75kine、最大荷重25kN)を用いた。計測するデータ点数は、各周波数において1サイクルあたり300点以上のデータが取れるように決定した。
−温度:10、20、30℃
−周波数:0.33Hz、1.0Hz
−せん断歪み:10%、50%、100%
結果を、図3、図4および表2に示す。
図3及び図4より、粘弾性体の荷重−変形曲線が楕円を示し、エネルギーを吸収することがわかり、温度依存性が少ない粘弾性ダンパーとして有用であることが判る。
【0054】
【表2】

【0055】
以下の実施例は本発明の粘弾性体材料のポリマーが溶液中での熱重合によっても製造されうることを示す実施例である。
〈実施例9〉
冷却管、攪拌装置、温度計、窒素導入管を備えた4つ口フラスコに、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)96重量部、アクリル酸(AA)4重量部、メタクリル酸(MAA)5重量部、熱開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製V−65)0.21重量部を157.5重量部の酢酸エチルに溶解させ、窒素雰囲気下50℃で、20時間溶液重合させた。
得られた溶液に、イソフタロイルビス(2−メチルアジリジン)の5wt%トルエン溶液4.2重量部(ポリマー固形分100重量部に対して0.2重量部)を加え、剥離処理したPETに膜厚50μmになるように、コーティング乾燥した。
【0056】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性測定を行なった。結果を表3に示す。G’(0℃)/G’(40℃)=9.6、tanδ(Min−Max)=0.68〜0.89であった。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0057】
〈実施例10〉
実施例9と同様に、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)98重量部、アクリル酸(AA)2重量部、メタクリル酸(MAA)5重量部、熱開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製V−65)0.21重量部を157.5重量部の酢酸エチルに溶解させ、窒素雰囲気下50℃で、20時間溶液重合させた。
得られた溶液に、イソフタロイルビス(2−メチルアジリジン)の5wt%トルエン溶液4.2重量部(ポリマー固形分100重量部に対して0.2重量部)を加え、剥離処理したPETに膜厚50μmになるように、コーティング乾燥した。
【0058】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性測定を行なった。結果を表3に示す。G’(0℃)/G’(40℃)=6.9、tanδ(Min−Max)=0.59−0.86であった。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0059】
〈実施例11〉
実施例9と同様に、アクリル酸2−エチルヘキシル(2−EHA)98重量部、アクリル酸(AA)2重量部、メタクリル酸(MAA)7.5重量部、熱開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業株式会社製V−65)0.22重量部を161.25重量部の酢酸エチルに溶解させ、窒素雰囲気下50℃で、20時間溶液重合させた。
得られた溶液に、イソフタロイルビス(2−メチルアジリジン)の5wt%トルエン溶液4.3重量部(ポリマー固形分100重量部に対して0.2重量部)を加え、剥離処理したPETに膜厚50μmになるように、コーティング乾燥した。
【0060】
実施例1と同一の条件で、できたポリマーの動的粘弾性測定を行なった。結果を表3に示す。G’(0℃)/G’(40℃)=8.9、tanδ(Min−Max)=0.67−0.83であった。高い損失正接を示し、貯蔵弾性率G’の温度依存性も小さい。
【0061】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例における貯蔵弾性率(G’)のグラフを示す。
【図2】実施例における損失正接(tanδ)のグラフを示す。
【図3】実施例における各温度での動的粘弾性特性のグラフを示す。
【図4】実施例における各歪みでの動的粘弾性特性のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)単独重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以下であるアクリル酸アルキルエステル、80〜99重量%、及び、
2)メタクリル酸、又は、単独重合体のガラス転移温度(Tg)が40℃以上であるメタクリル酸エステル、1〜20重量%、
を含むモノマー混合物であって、前記重量%はモノマー混合物中のモノマーの合計重量を基準とするモノマー混合物を共重合することで得られるポリマーを含むアクリル系粘弾性体材料。
【請求項2】
前記成分1)は炭素数が4〜12のアクリル酸アルキルエステルである、請求項1記載のアクリル系粘弾性体材料。
【請求項3】
前記成分2)はメタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2−ヒドロキシルエチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ベンジルからなる群より選ばれる、請求項1又は2記載のアクリル系粘弾性体材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−28224(P2006−28224A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204967(P2004−204967)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】