説明

アクリル系重合体微粒子、プラスチゾル組成物及び成形品

【課題】 低粘度で貯蔵安定性に優れたプラスチゾル組成物とし、また、スラッシュ成形法、ディップ成形法、ローテーション成形法などの成形法において離型性及びブルーム性に優れたアクリル系重合体微粒子を提供し、また、これを用いたプラスチゾル組成物、並びにその成形品を提供することにある。
【解決手段】アクリル系重合体微粒子(P)100質量部中に滑剤(A)が0.05〜10質量部含有されることを特徴とするプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子。及び上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子及び可塑剤(B)からなるプラスチゾル組成物。並びにこのプラスチゾル組成物を用いて成形して得られる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子、プラスチゾル組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体微粒子を可塑剤に分散してなるプラスチゾル組成物は一般にペーストレジンと称され、現在、工業的に広く用いられている。具体的には、例えば、自動車用、床材用、壁紙用、鋼板用等の用途に使用するコーティング剤として、あるいはスラッシュ成形用、ディップ成形用、ローテーション成形用等の成型材料として用いられている。従来、重合体微粒子として塩化ビニル重合体微粒子を用いた塩化ビニル系プラスチゾル組成物が広く使用されているが、塩化ビニル樹脂は低温で焼却すると猛毒物質であるダイオキシンが発生するといった難点を有している。ダイオキシンの発生量を減らすためには、塩化ビニル系樹脂の使用量を削減することが有効とされていることから、塩化ビニル系樹脂を含まないプラスチゾル組成物として各種アクリル系樹脂微粒子を用いたアクリル系プラスチゾル組成物が提案されている。(例えば、特許文献1、特許文献2等)
【特許文献1】特開平8−73601号公報
【特許文献2】WO2000/01748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年、アクリル系プラスチゾル組成物の利用範囲は広がってきており、例えばスラッシュ成形法、ディップ成形法、ローテーション成形法等の成形法によって玩具やキャップ等の成形品を製造することが挙げられる。この場合、プラスチゾル組成物が低粘度で貯蔵安定性に優れていることが要求され、また成形時の離型性及びブルーム性に優れていることが要求される。
すなわち、本発明の目的は、低粘度で貯蔵安定性に優れたプラスチゾル組成物とし、また、スラッシュ成形法、ディップ成形法、ローテーション成形法などの成形法において離型性及びブルーム性に優れたアクリル系重合体微粒子を提供し、また、これを用いたプラスチゾル組成物、並びにその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、特定のアクリル系重合体微粒子を用いることによって優れた効果が得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明は、アクリル系重合体微粒子(P)100質量部中に滑剤(A)が0.05〜10質量部含有されてなるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子にある。
更に本発明は、上記プラスチゾル用アクリル系重合体微粒子及び可塑剤(B)からなるプラスチゾル組成物、及び、このプラスチゾル組成物を成形して得られる成形品にある。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、低粘度で貯蔵安定性に優れたプラスチゾル組成物とし、成形時に離型性及びブルーム性に優れたアクリル系重合体微粒子を提供できる。また、このプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子からなるプラスチゾル組成物は、スラッシュ成形法、ディップ成形法又はローテーション成形法に非常に好適であり、得られた成形品は上記各特性において非常に優れている。従って、本発明は特に工業的な面で非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明において用いられるアクリル系重合体微粒子(P)は可塑剤中に分散可能であり、且つ加熱によりゲル化し、硬化被膜や成形物に所望の物性を付与するための成分である。
アクリル系重合体微粒子(P)を構成するアクリル系重合体は(メタ)アクリル酸エステル等のアクリル系不飽和単量体を主成分として得られる重合体が挙げられる。尚、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの総称である。
代表的なアクリル系不飽和単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の直鎖アルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルは容易に入手することができ、工業的な実用化の点で好ましい。但し、これらアクリル系不飽和単量体に限定されるものではない。
更に、上記以外の不飽和単量体を、単独で又は上記不飽和単量体と併用して使用することもできる。その不飽和単量体の例としては、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、メタクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸2−マレイノイルオキシエチル、メタクリル酸2−フタロイルオキシエチル、メタクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等のカルボキシル基含有不飽和単量体;アリルスルホン酸等のスルホン酸基含有不飽和単量体;(メタ)アクリル酸アセトアセトキエチル等のカルボニル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド;ウレタン変性(メタ)アクリレート類;エポキシ変性(メタ)アクリレート類;シリコーン変性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これら不飽和単量体は、用途に応じて使い分けることが可能である。
【0007】
また、アクリル系重合体微粒子(P)は上記不飽和単量体を重合して得られる非架橋重合体又は上記不飽和単量体にエチレングリコール等の従来公知のビニル基を2以上有する多官能性不飽和単量体を使用した架橋重合体のいずれでもよく、目的に応じて選択すればよい。
アクリル系重合体微粒子(P)が非架橋の場合の重量平均分子量は特に制限されないが、成形品の強度及び成形性の点から5万以上が好ましく、10万以上がより好ましく、20万以上が特に好ましい。
アクリル系重合体微粒子(P)の製造方法としては、滑剤(A)がアクリル系重合体微粒子(P)中に含まれれば、特に限定されないが、予め滑剤を単量体中に溶解させ、重合を行う方法が好ましい。例えば、乳化重合法、微細懸濁重合法、懸濁重合法など、公知の方法を用いることができる。その中でも、水系分散媒に分散されたシード粒子に、不飽和単量体を吸収させ、成長させる工程を少なくとも1回有するシード乳化重合法が、得られる粒子の体積平均一次粒子径が大粒子となることから好ましい。
本発明のアクリル系重合体微粒子(P)の形態はその体積平均一次粒子径が0.3μm〜10μmの範囲であることが好ましい。プラスチゾル組成物の粘度及び貯蔵安定性の観点から粒子径が0.3μm以上であることが好ましく、粒子が沈殿せずに安定に分散するという観点から10μm以下であることが好ましい。
【0008】
アクリル系重合体微粒子(P)の粒子構造は、公知の構造から適宜選ぶことができ、例えば、単一構造、多段重合で得られるコア/シェル構造等の2層以上の構造とすることができる。
その中でも、必要に応じてプラスチゾルに更なる付加的な物性を導入することができることから、コア/シェル構造が好ましい。例えば、可塑剤と相溶性の高いコア層と、可塑剤と相溶性の低いシェル層からなるコア/シェル構造の粒子形状としたアクリル系重合体微粒子(P)を用いたプラスチゾル組成物は、貯蔵時において粘度の経時変化が低くなる傾向にある。また、このプラスチゾル組成物を用いて得た成形品は可塑剤(B)のブリードアウトが小さく、且つ高強度となる傾向にある。ここでいう可塑剤と相溶性の高いものとは、可塑剤と重合体を1対1の質量比で混合した後、130〜200℃の成形温度にて成形した場合に、得られた成形品から可塑剤のブリードアウトが認められない重合体組成のものをいう。また、可塑剤と相溶性の低いものとは、前記と同様に可塑剤と重合体を混合した後、成形した場合に、得られた成形品から可塑剤のブリードアウトが短時間にて多く認められる重合体組成のものをいう。
【0009】
アクリル系重合体微粒子(P)は乾燥粉体としての性状や構造は問わない。例えば、重合で得られた一次粒子が多数集合して凝集粒子(二次粒子)を形成していても構わないし、またそれ以上の高次構造も可能である。但し、このような凝集構造の場合、出来るだけ可塑剤(B)中で一次粒子が均一に分散可能とする為には、一次粒子同士が強固に結合せず、緩く凝集している状態が好ましい。
本発明においては、滑剤(A)はアクリル系重合体微粒子(P)中に含有されていることが必要である。
アクリル系重合体微粒子中に滑剤(A)を含有させず、プラスチゾル製造時に滑剤(A)を配合する方法では、プラスチゾル組成物を貯蔵中に滑剤(A)が分離し易く、また、成形時の離型性も十分でなく、更に可塑剤(B)に滑剤(A)が十分溶解しなかったり、滑剤(A)をプラスチゾル組成物に溶解させるとプラスチゾル組成物の粘度が高くなったりするため好ましくない。
【0010】
アクリル系重合体微粒子(P)に含有される滑剤(A)の添加量は、成形時に金型からの離型性が向上する効果の点から、アクリル系重合体微粒子100質量部中0.05質量部以上であり、0.1質量部以上がより好ましく、0.2質量部以上が特に好ましい。また、上限値は、得られた成形品のブルーム性の点で10質量部以下であり、8質量部以下がより好ましく、6質量部以下が特に好ましい。
【0011】
本発明においては滑剤(A)の種類は特に限定されず、必要に応じ公知の滑剤から適宜選択して使用すれば良い。例えば、流動パラフィン、天然パラフィン、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等の炭化水素系化合物;高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸系化合物;脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド等の脂肪酸アミド系化合物;脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル等のエステル系化合物;高級脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール等のアルコール系化合物;炭素数12〜30の脂肪酸から誘導される金属石けん系化合物;牛脂硬化油、ヒマシ硬化油等の硬化油などを挙げることができる。
その中でも物性発現性の点で、水酸基及び/又はカルボキシル基等の極性官能基を構造中に有する炭素数10〜22の高級脂肪アルコール、炭素数10〜24の高級脂肪酸及び硬化油の少なくとも一種から選ばれることが好ましい。例えば、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類;ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸等の高級脂肪酸;ヒマシ硬化油等の硬化油などが挙げられる。これらは単独又は二種以上を混合して使用してもよい。
【0012】
本発明のプラスチゾル組成物に用いる可塑剤(B)は特に限定されず、公知の可塑剤から適宜選択して使用すれば良い。その具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジー2−エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ−2−エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤;トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤;ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤;ポリ−1,3−ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤;アルキルスルホン酸フェニルエステル等のアルキルスルホン酸フェニルエステル系可塑剤;脂環式二塩基酸エステル系可塑剤;ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤;クエン酸アセチルトリブチル等が挙げられる。
可塑剤(B)は必要に応じて1種で又は2種以上を混合して用いることができ、またその配合量も所望に応じて適宜変更することができる。
可塑剤(B)の配合量は所望に応じて適宜変更できる。特に、重合体微粒子(P)100質量部に対して35〜250質量部が好ましく、40〜200質量部がより好ましく、45〜150質量部が特に好ましい。
【0013】
本発明のプラスチゾル組成物には用途に応じて各種の添加剤又は充填剤を配合できる。添加剤、充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、バライタ、クレー、コロイダルシリカ、マイカ粉、珪砂、珪藻土、カオリン、タルク、ベントナイト、ガラス粉末、酸化アルミニウムなどの無機フィラー類、酸化チタン、カーボンブラックなどの顔料、ミネラルターペン、ミネラルスピリットなどの希釈剤、オクチル酸亜鉛等の減粘剤、更に消泡剤、防黴剤、防臭剤、抗菌剤、界面活性剤、滑剤、紫外線吸収剤、香料、発泡剤、レベリング剤、接着剤などを必要に応じて配合できる。
本発明のプラスチゾル組成物は、従来より知られる各種の成形法に用いることが可能であるが、特にサンプルディスプレー見本、子供用玩具等の成形物に好適なスラッシュ成形法、バッテリーのキャップ等の滑り止め表装材等の成形物に好適なディップ成形法又はゴムマリ等の中空製品の成形物に好適なローテーション成形法に好適である。例えば、金型内にプラスチゾル組成物を投入し、加熱炉に入れてゲル化させ、型から脱型することで本発明の成形品を好適に得ることができる。
【実施例】
【0014】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。各例中、「部」は「質量部」を意味する。また、各評価は以下の方法により実施した。
[アクリル系重合体微粒子(P)の体積平均一次粒子径]
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA−920)を用いて、水を分散媒として超音波2分照射した後、透過率が75〜95%の範囲内になるように調製し、重合体微粒子の体積平均一次粒子径を測定した。
[プラスチゾル組成物の経時蔵安定性]
プラスチゾル組成物を40℃の恒温水槽にて10日間貯蔵した後の滑剤の分離を目視及び触感で確認して、以下の基準によりプラスチゾル組成物の貯蔵安定性を評価した。
○:滑剤の分離が認められない。
×:滑剤の分離が認められる。
[プラスチゾル組成物の粘度]
プラスチゾル組成物を25℃の恒温槽で2時間保温した後、BL型粘度計(トキメック製、ローターNo.4)を用いて、回転数12rpm(せん断速度2.6sec-1)で、1分後の粘度(単位mPa・s)を測定した。
[成形品のブルーム性]
得られた成形品を25℃の室内に1週間放置した後、成形品のブルーム性を目視及び触感より評価した。
○:ブルーム性無し。
×:ブルーム性有り。
[成形品の作製及び引張強度の測定]
プラスチゾル組成物をポリテトラフルオロエチレンでコートされた鉄板(厚さ1mm)の上に膜厚2mmにキャストし、これを160℃のギヤーオーブンに入れて10分間加熱し、成形品を得た。これを金属板から剥離した後、ダンベル3号にて切り出し、引張測定装置((株)エー・アンド・デイ製引張測定装置(商品名「RTA―250」)により機械的物性の測定を行った。試験速度は200mm/分で行った。
[成形品の離型性]
アルミ皿上にプラスチゾル組成物を流し込み、これを160℃のギヤーオーブンに入れて10分間加熱し、成形品を得た。得られた成形品を室温まで冷却した後、アルミ皿から剥離する際の状態を以下の基準により評価した。
○:成形品のアルミ皿からの剥離が容易である。
×:成形品のアルミ皿からの剥離が困難である。
【0015】
[アクリル系重合体微粒子(P1)の調製]
温度計、窒素ガス導入管、攪拌棒、滴下漏斗及び冷却管を備えた2リットルの4つ口フラスコに純水546部を入れ、30分間十分に窒素ガスをバブリングし、純水中の溶存酸素を置換した。次に、窒素ガスをフローに変えた後、メチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルM」)22.8部及びn−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルB」)17.4部を入れ、200rpmで攪拌しながら80℃に昇温した。内温が80℃に達した時点で、純水10部に過硫酸カリウム0.35部を溶解して得た溶液をフラスコ内に一度に添加し、重合を開始させた。その後、80℃にて60分攪拌、重合し、シード粒子分散液を得た。
次いで、このシード粒子分散液に、メチルメタクリレート546.0部、n−ブチルアクリレート(三菱化学製)14.0部、エチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルED」)0.56部、セチルアルコール(日本油脂製、商品名「NAA−44」)5.6部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(花王製、商品名「ペレックスOTP」)5.3部及び純水476.0部を混合攪拌して乳化して得たアクリル系単量体乳化液を3.0時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌、重合し、前記シード粒子に上記不飽和単量体を吸収、成長させて得られたコア粒子の重合体分散液を得た。
次いで、このコア粒子の重合体分散液に、メチルメタクリレート122.0部、メタクリル酸(三菱レイヨン製)18.0部、エチレングリコールジメタクリレート0.14部、チオグリコール酸2−エチルヘキシル(淀化学製)0.14部、セチルアルコール1.4部、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム1.4部及び純水56.0部を混合攪拌して乳化して得たアクリル系単量体乳化液を1.5時間かけて滴下し、引き続き80℃にて1時間攪拌、重合し、コア/シェル型重合体分散液を得た。
このコア/シェル型重合体分散液を室温まで冷却し、スプレードライヤを用いて、入口温度150℃、出口温度65℃で噴霧乾燥して、体積平均一次粒子径が564nmのアクリル系重合体微粒子(P1)を得た。組成及び物性を表1に示す。
【0016】
[アクリル系重合体微粒子(P2)〜(P8)の調製]
コア滴下とシェル滴下のアクリル系単量体及び滑剤(A)をそれぞれ表1に記載の内容に変更する以外はアクリル系重合体微粒子(P1)の場合と同様にして重合体微粒子(P2)〜(P8)を調製した。尚、アクリル系単量体に対する乳化剤の添加量、アクリル系単量体の滴下速度、噴霧乾燥の条件などはアクリル系重合体微粒子(P1)の場合と同一である。
【0017】
【表1】

【0018】
表1中の略号:
・「MMA」:メチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルM」)
・「n−BMA」:n−ブチルメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルB」)
・「n−BA」:n−ブチルアクリレート(三菱化学製)
・「EDMA」:エチレングリコールジメタクリレート(三菱レイヨン製、商品名「アクリエステルED」)
・「MAA」:メタクリル酸(三菱レイヨン製、商品名「メタクリル酸」)
・「OTG」:チオグリコール酸2−エチルヘキシル(淀化学製)
・滑剤a1:セチルアルコール(日本油脂製、商品名「NAA―44」)
・滑剤a2:ステアリン酸(日本油脂製、商品名「NAA−180」)
・滑剤a3:12−ヒドロキシステアリン酸(日本油脂製、商品名「ヒマシ硬化脂肪酸」)
・滑剤a4:ヒマシ硬化油(日本油脂製、商品名「カスターワックスA」)
【0019】
[実施例1]
アクリル系重合体微粒子(P1)100部、可塑剤(B)として、クエン酸アセチルトリブチル(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「モノサイザーATBC」)80部と、オクチル酸亜鉛(ホープ製薬(株)製、商品名「18%オクトープZn」)0.5部を計量し、真空ミキサー((株)シンキー製、商品名「ARV−200」)に投入した。これを大気圧(760mmHg)で15秒間混合し、更に20mmHgに減圧して165秒間混合し、均一なプラスチゾル組成物を得た。このプラスチゾル組成物の25℃での粘度は、せん断速度2.6sec-1において、3450mPa・sであった。得られたプラスチゾル組成物をポリテトラフルオロエチレンでコートされた鉄板(厚さ1mm)の上に膜厚2mmにキャストし、これを160℃のギヤーオーブンに入れて10分間加熱し、成形品を得た。その際のプラスチゾル組成物の経時安定性、粘度、成形品の離型性、ブルーム性、引張強度について評価した。プラスチゾル組成及び評価結果を表2に示す。
【0020】
[実施例2〜7、比較例1〜3]
表2記載のプラスチゾル組成配合に変更したこと以外は実施例1と同様にして、均一なプラスチゾル組成物を製造し、成形し、評価を実施した。プラスチゾル組成及び評価結果を表2に示す。
実施例1は本発明の一実施例であり、実施例2は実施例1に対して重合体微粒子(P)を形成するコア重合体中及びシェル重合体中の滑剤量を変更した例であり、実施例3は実施例1に対して重合体微粒子(P)を形成するシェル重合体中の滑剤量を変更した例である。いずれの物性も特に問題点はなく、良好である。
実施例4〜6は、実施例1に対して重合体微粒子(P)を形成するコア重合体中及びシェル重合体中の滑剤種類を変更した例であり、いずれの物性も特に問題点はなく、良好である。
実施例7は、実施例1に対して重合体微粒子(P)に対する可塑剤添加量を減量した例であり、いずれの物性も特に問題点はなく、良好である。
比較例1は、重合体中に滑剤が含有されていない例であり、成形品の離型性が劣り、不適当である。
比較例2は、重合体中に滑剤が過剰に含有された例であり、成形品からの滑剤のブルーム性が認められ、不適当である。
比較例3は、滑剤を含まない重合体微粒子を用いて、プラスチゾル組成物中に滑剤を溶解させた例であり、プラスチゾル組成物を40℃にて貯蔵後、滑剤の分離が認められ、不適当である。
【0021】
【表2】

【0022】
表2中の略号
・可塑剤:クエン酸アセチルトリブチル(大日本インキ化学工業(株)製、商品名「モノサイザーATBC」)
・「オクチル酸亜鉛」:オクチル酸亜鉛(ホープ製薬(株)製、商品名「18%オクトープZn」)
・滑剤a1:セチルアルコール(日本油脂製、商品名「NAA―44」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系重合体微粒子(P)100質量部中に滑剤(A)が0.05〜10質量部含有されてなるプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子。
【請求項2】
滑剤(A)が、炭素数10〜22の高級アルコール、炭素数10〜24の高級脂肪酸及び硬化油から選ばれたの少なくとも一種である請求項1記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子。
【請求項3】
アクリル系重合体微粒子(P)が、水系分散媒に分散されたシード粒子に、不飽和単量体を吸収させ、成長させる工程を少なくとも1回有するコア/シェル構造からなる請求項1記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のプラスチゾル用アクリル系重合体微粒子及び可塑剤(B)からなるプラスチゾル組成物。
【請求項5】
請求項4記載のプラスチゾル組成物を成形してなる成形品。
【請求項6】
請求項5記載の成形法がスラッシュ成形法、ディップ成形法又はローテーション成形法である成形品。

【公開番号】特開2007−63453(P2007−63453A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253078(P2005−253078)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】