説明

アクリル酸含有液体の精留分離法

本発明は、アクリル酸の多い物質流を供給位置より上で精留塔から取り出し、精留塔の上側部分でジアクリル酸を使用して重合を抑制することにより、アクリル酸含有液体を精留分離する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル酸含有液体Fを供給位置Zにより精留塔に供給し、物質流Sを精留塔の供給位置Zより上の取り出し位置Eで取り出し、前記物質流Sが物質流Sの質量に対して90質量%以上であり、質量%での液体Fの相当するアクリル酸含量より大きいアクリル酸含量を有することによりアクリル酸含有液体Fを精留分離する方法に関する。
【0002】
供給位置Zでの液体Fは80%より多い、有利に85%より多い、または90%より多い、または95%より多い、または99%より多い全体積が凝縮相として存在する物質流に関する。言い換えると例えばドイツ特許第19924532号またはドイツ特許第19924533号に記載される分別または全凝縮の方法は本発明に含まれない。
【0003】
アクリル酸はきわめて反応性の二重結合および酸官能基の結果として、例えば吸水樹脂として使用できるポリマーを製造するための価値あるモノマーである。
【0004】
アクリル酸を取得する1つの方法は中実触媒の存在で、高温で、プロペン、プロパンおよび/またはアクロレインを酸素または酸素含有ガスを用いて不均一接触部分気相酸化による(例えば欧州特許第700714号参照)。
【0005】
しかしこの方法は純粋なアクリル酸を生ぜず、むしろアクリル酸だけでなく、二次成分として、未反応アクロレインおよび/またはプロペンおよび水蒸気、酸化炭素(CO、CO)、窒素、酸素、プロパン、メタンのような成分、蟻酸、酢酸およびプロピオン酸のような低級飽和カルボン酸、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、アクロレインおよびフルフラールのような低級アルデヒド、および安息香酸、無水フタル酸および無水マレイン酸のような高級カルボン酸およびその無水物を含有する生成物ガス混合物を生じる。
【0006】
アクリル酸は一般に気体の生成物ガス混合物から基本的に溶剤(例えば水または有機溶剤)に吸収することによりまたは生成物ガス混合物の分別凝縮により分離する。得られる凝縮物または吸収物を引き続き(一般に複数の工程で)精留分離していくらか純粋なアクリル酸を得る(WO03/051810号、欧州特許第982289号、欧州特許第982287号およびドイツ特許第19606887号およびドイツ特許第10224341号参照)。分別凝縮の代わりに全部の凝縮を最初に使用することができ、得られた凝縮物を引き続き精留処理する。
【0007】
アクリル酸含有液体の精留分離の欠点は所望の分離に熱エネルギーの供給が必要である熱分離法であることである。これはアクリル酸が液相で、特に熱エネルギーの作用下に好ましくないラジカル重合の傾向を有することが欠点である。
【0008】
ラジカル重合抑制剤(例えばフェノチアジン、ヒドロキノンのモノメチルエーテル、ヒドロキノン、N−オキシルラジカル等)の使用にもかかわらず、アクリル酸含有液体の精留分離は精留塔(特に上側部分)から精留の間に好ましくないやり方で形成されるポリマーを除去するために、時折中断しなければならない(例えばドイツ特許第19746688号、ドイツ特許第102111273号、ドイツ特許第19536179号、欧州特許第1033359号およびドイツ特許第10213027号参照)。
【0009】
しかし精留塔の前記運転停止は製造の損失を意味し、この損失によりアクリル酸含有液体の精留分離の延長した運転を可能にする改良された重合抑制剤系を見出すために世界的に大きな努力がなされるべきである。
【0010】
後者は特に精留により精留塔に分離されるアクリル酸含有液体の供給位置より上にある精留塔の部分に該当する。このための1つの理由はこの部分にアクリル酸より揮発性でない二次成分が蓄積されることである。しかしこれらの多くの比較的揮発性の二次成分(例えばアクロレイン)はアクリル酸のラジカル重合傾向を促進し(例えば欧州特許第1041062号)、これによりこの部分での抑制が特に重要である。
【0011】
しかしアクリル酸含有液体を精留塔に供給し、精留塔の供給位置より上で物質流を取り出し、前記物質流が90質量%以上であり、液体の相当するアクリル酸含量より大きいアクリル酸含量を有することによる、アクリル酸含有液体を精留分離する既存の方法の欠点は、精留塔の上側部分での重合抑制が不十分であることである。
【0012】
本発明の課題はこの重合抑制を改良することである。
【0013】
凝縮した相でのアクリル酸の他の一般に好ましくない随伴現象は結果として形成されるアクリル酸それ自体およびアクリル酸二量体(オリゴマー)へのアクリル酸のマイケル付加による2個以上のモノマー単位を有するオリゴマーの形成である。統計的理由から特にジアクリル酸:
【0014】
【化1】

が形成され、これは重要であるが、高級アクリル酸オリゴマー(三量体、四量体等)の形成は一般に重要でない。
【0015】
ジアクリル酸はアクリル酸よりラジカル重合の顕著な傾向が少ないので、アクリル酸が典型的にきわめてわずかなジアクリル酸を含有することが要求される(ドイツ特許第19923389号、ドイツ特許第19627679号およびWO03/064367号参照)。これは特にジアクリル酸の形成が可逆的であり、ラジカル共重合したジアクリル酸の場合に引き続くポリマーの熱処理が(例えば吸水剤樹脂を乾燥する場合に)モノマーのアクリル酸を除去し、これは一般に好ましくない。
【0016】
著しく異なる沸点の結果として、アクリル酸から簡単なやり方で精留によりジアクリル酸を除去することができる。ジアクリル酸は精留塔の下側部分に蓄積され、アクリル酸は精留塔の上側部分に蓄積され、上側部分は一般に基本的にジアクリル酸をほとんど含まない。これは特に新しいジアクリル酸の形成が遅い方法であることによる。
【0017】
アクリル酸を標準条件下で放置する場合に、新たに形成されるアクリル酸の質量に対してジアクリル酸150ppmに関して約24時間かかる。精留塔の上側部分のジアクリル酸の存在はこれまで前記の理由から好ましくなかった。
【0018】
しかし本発明の基礎はジアクリル酸の存在がアクリル酸のラジカル重合に関して重合抑制作用を有するという意想外な知見である。これはアクリル酸それ自体よりラジカル重合の顕著な傾向が明らかに少ないジアクリル酸に起因すると考えられる。この減少した重合傾向の結果としてアクリル酸に分配されるジアクリル酸がラジカル成長アクリル酸ポリマー鎖に鎖成長停止剤のように作用することが推測される。
【0019】
前記課題は、アクリル酸含有液体Fを供給位置Zにより精留塔に供給し、物質流Sを精留塔の供給位置Zより上の取り出し位置Eで取り出し、前記物質流Sが物質流Sの質量に対して90質量%以上であり、質量%での液体Fの相当するアクリル酸含量より大きいアクリル酸含量を有することによりアクリル酸含有液体Fを精留分離す精留分離法により解決され、精留塔の領域の内部の、供給位置Zより上の少なくとも2個の理論的棚段で、還流液のジアクリル酸含量Gが少なくとも部分領域で還流液の質量に対して550質量ppm以上であることを特徴とする。
【0020】
精留塔内部で液相の下降(還流液)および蒸気相の上昇がそれぞれ向流で行われる。物質流の間に存在する非平衡の結果として、所望の分離を行う熱と物質の移動が存在する。一般に物質移動表面積を増加するために、精留塔に分離部品が存在する。本発明の方法で有用なこれらの部品は、例えば構造化充填物、ランダム充填物および/または任意の形式の物質移動トレーである。
【0021】
下降する液体と上昇する蒸気の間に平衡が存在する物質移動トレーは理論的棚段と呼ぶ。この用語は向流の精留に適している他のすべての部品に適用される(例えば構造化充填物およびランダム充填物)。
【0022】
従ってこの明細書は適当にはごく一般的に理論的棚段に関する。理論的棚段は熱動力学的平衡により蓄積される空間的単位として規定される。
【0023】
本発明の方法は特に物質流Sのアクリル酸含量が93質量%以上または95質量%以上である場合に有利であることが示される。しかし物質流Sのアクリル酸含量が97質量%以上、または98質量%以上、または99質量%以上または99.5質量%以上または99.8質量%以上である場合に有利に使用できる。
【0024】
本発明の方法において、還流液のジアクリル酸含量は還流液の質量に対して、供給位置Zの上に少なくとも2個(または3個、または4個または5個)の理論的棚段が存在する精留塔の領域内部で、有利に少なくともいくつかの領域で、550質量ppm以上、600質量ppm以上、または650質量ppm以上、または700質量ppm以上、または750質量ppm以上、または800質量ppm以上の値である。
【0025】
本発明の方法において、このジアクリル酸含量が850質量ppm以上または900質量ppm以上または950質量ppm以上または1000質量ppm以上であることが特に有利である。
【0026】
より有利に本発明の方法における前記ジアクリル酸含量Gは1250質量ppm以上または1500質量ppm以上、または1750質量ppm以上または2000質量ppm以上または2500質量ppm以上または3000質量ppm以上である。
【0027】
しかし前記ジアクリル酸含量は一般に10質量%または5質量%より多くなく、一般に3質量%以下または2質量%以下である。
【0028】
本発明により、本発明により好ましい還流液の前記ジアクリル酸含量Gは供給位置Zの上に少なくとも2個の理論的棚段が存在し、物質流Sの取り出し位置Eから出発してE+0.5個の理論的棚段からE+5個の理論的棚段の間隔の範囲にある精留塔の領域で適当に満たされる。
【0029】
本発明の方法は特に本発明により好ましい還流液の前記ジアクリル酸含量Gが供給位置Zの上に少なくとも2個または少なくとも4個または少なくとも6個または少なくとも8個以上の理論的棚段が存在する精留塔の全部の領域で満たされる場合が有利である。
【0030】
しかし本発明の方法は取り出し位置Eが供給位置Zより上の少なくとも2個または少なくとも4個または少なくとも6個または少なくとも8個以上の理論的棚段であり、還流液の前記ジアクリル酸含量Gが取り出し位置Eの上にある精留塔の全部の領域で満たされる場合にも有利である。
【0031】
本発明により、本発明の方法での取り出し位置Eは精留塔の供給位置Zよりほぼ少なくとも2個の理論的棚段または少なくとも5個の理論的棚段または少なくとも8個の理論的棚段または少なくとも10個の理論的棚段または少なくとも12個の理論的棚段より上である。
【0032】
更に本発明による精留分離の有利な方法は取り出し位置Eの上に少なくとも0.5の理論的棚段または少なくとも1つの理論的棚段または少なくとも1.5個の理論的棚段を有する。
【0033】
本発明の方法から取り出される物質流に存在するジアクリル酸は場合により下流の分離工程で除去することができる。これらの分離工程は例えば結晶化特性または精留特性を有してもよい。後者が適当である1つの場合はアクリル酸の重合傾向が最小化され、還流液に存在するジアクリル酸により付加的な抑制が必要でない条件下に精留を行う場合である。除去されるジアクリル酸は公知方法でアクリル酸に分離できる(例えばWO03/048100号参照)。
【0034】
本発明により必要な還流液のジアクリル酸含量の調節は種々の方法で実現できる。1つの方法はアクリル酸と異なり、還流液へのアクリル酸のマイケル付加に触媒作用するブレンステッド酸の添加(例えば塔頂で)である。本発明により、pK値(25℃、1気圧、溶剤として水、Grundlagen der allgemeinen und anorganischen Chemie[Basis of General and Inorganic Chemistry] H.R.Christen,Verlag Sauerlaender,Aarau,1973,354)の形で引用されるこれらのブレンステッド酸の酸濃度は約16以下、有利に7以下、より有利に5以下である。
【0035】
例えばHOおよび強プロトン性無機酸、例えばHSO、HClまたはHPOが本発明により特に適している。これらの中で揮発性無機酸(すなわち特にアクリル酸より揮発性であり、すなわちアクリル酸より低い沸点およびpK値16以下を有するブレンステッド酸)が特に有利である。精留塔の下側部分で無機酸の触媒作用を中和するブレンステッド塩基の添加により再び除去することができる。
【0036】
しかしブレンステッド酸の代りにジアクリル酸形成に触媒作用するブレンステッド塩基を添加することもできる。本発明により、pK値(25℃、1気圧、溶剤として水、Grundlagen der organischen Chemie H.R.Christen,Verlag Sauerlaender,Aarau,1975,392)の形で引用されるこれらのブレンステッド塩基の塩基濃度は約10以下、有利に8以下、より有利に5以下である。本発明により特に適当なブレンステッド塩基の例はアミンブレンステッド塩基、例えばメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、ベンジルアミン、ピリジン、アニリン、尿素またはアンモニアである。これらの中で揮発性アミンブレンステッド塩基が特に有利である。塔頂で相当する水溶液を添加できることが理解される。精留塔の下側部分でブレンステッド塩基の触媒作用を中和するブレンステッド酸の添加により再び除去することができる。しかし一部の場合に精留塔の底部に向けて温度を高めてアクリル酸と反応させることにより精留塔の下側部分に向けてブレンステッド塩基の触媒作用を自動的に自己除去して相当するアミドを形成し、アミドが塔底に蓄積する。
【0037】
付加的にまたは選択的に、分離する液体Fに直接添加、例えば水を添加することができる。これは特にアクリル酸より揮発性であるブレンステッド酸または塩基の場合に該当する。部分酸化からの反応ガス混合物からのアクリル酸を吸収することにより液体Fを得る場合は、吸収の経過中にできるだけ速く添加する。
【0038】
しかし本発明の方法で還流液に必要なジアクリル酸をそのまま添加できることが理解される。ジアクリル酸は、例えば最初にアクリル酸中で濃縮し、引き続き蒸留または結晶化の方法で除去することにより得られる。除去されたジアクリル酸を添加する代りに高い程度のジアクリル酸含有アクリル酸それ自体を精留塔の上側部分で還流液に添加することもできる。適用の観点から適当な方法で精留塔に必要な他の重合抑制剤を有利にこのアクリル酸に添加する。この場合にジアクリル酸がアクリル酸中で濃縮し、その純度が存在する抑制剤を除いて本発明の方法で除去される物質流Sのアクリル酸に少なくとも相当することが理解される。
【0039】
本発明の方法はもちろん自体公知の方法で添加される他の重合抑制剤、例えばフェノチアジン、ヒドロキノンのモノメチルエーテル、N−オキシル基等を添加して行う。これらを塔頂で溶解した形で(例えばジアクリル酸含有アクリル酸)または溶融した形で添加することが有利である。しかしその消費速度を本発明の方法で減少することができる。
【0040】
本発明の方法は特に精留塔がトレーカラムである場合に適している。これは分離部品が主にもっぱら物質移動トレーである精留塔である。本発明により適当な精留塔は物質移動トレーの少なくとも80%がシーブトレーであるトレーカラムである。有利に本発明に使用されるトレー精留塔は物質移動トレーとしてシーブトレーのみを有する。これはこの明細書では上昇する気相または蒸気相(気体状および蒸気状の用語はこの明細書では同じ意味で使用する)の通路が簡単な穴および/またはスロットであるプレートに関する。
【0041】
使用されるシーブトレーは典型的に2つの群に、すなわち強制液体流を有するトレーと強制液体流を有しないトレーに区別される。
【0042】
ごく一般的に強制液体流は物質移動トレー上で少なくとも1個の降下管(排水管)を有する物質移動トレーにより達成され、降下管により還流液が上昇する蒸気流の流動通路に関係なく高いトレーから次の最も低いトレー(供給位置)に流れる。供給管から排水管への物質移動トレーの上の水平な液体流は処理技術的課題の設定に相当して選択される。気体または蒸気が物質移動トレーの開いた横断面を通過する。
【0043】
還流液を逆流でトレーに導入する(供給管および物質移動トレーの排水管がトレーの同じ側に配置される)場合は、逆流トレーと呼ばれる。半径方向の流動トレーにおいて液体流がトレー上に半径方向に中心(供給管)からトレーの縁の排水管に流れる。
【0044】
横流トレーにおいて、全流動面積で見て、液体を、トレーの上に横方向に供給管から排水管に導入する。一般に横流トレーは1つの流れの配置を有する。言い換えると供給管と排水管がトレーの反対の面に配置される。しかし横流トレーは二重流(または多重流)の配置を有することもできる。この場合に供給位置は例えば中心におよび排水は物質移動トレーのそれぞれの反対の面に配置することができる。
【0045】
言い換えると還流液の強制流はシーブトレーで、上昇する気相または蒸気相の通路のほかに、少なくとも1つの降下管(排水管)を有するシーブトレーにより達成され、降下管により還流液が蒸気の流動通路に関係なく、上側トレーから次の最も下側のトレー(供給管)に流れる。液体は、例えばトレーの上に横流で少なくとも1つの供給管から少なくとも1つの排水管に流れ、供給管と排水管が液体の閉鎖およびトレーでの所望の液体の高さを保証する。しばしば(特にカラムの直径が少ない場合は)強制液体流を有するシーブトレーは1つの流れの配置を有する。言い換えると供給管と排水管が物質移動トレーの反対の面に配置される。しかしこれらは二重流(または多重流)の配置を有することもできる。この場合に供給管を例えば中心におよび排水管を物質移動トレーのそれぞれの反対の面に配置することができる。これらのシーブトレーを以下に強制シーブトレーと呼ぶ。これらのトレーにおいて、分離作用を減少する細流で通過する還流液は水圧式に閉鎖される横流トレーの場合のように通路に続く煙突により阻止されず、むしろ最低蒸気の負荷がこの目的のために必要である。蒸気が通路を上昇し、気泡が排水管により維持される液層を通過する。
【0046】
二重流または細流シーブトレーは排水部分を有しない点で強制シーブトレーと異なる。二重流トレーでの排水部分(降下管)の不在は分離カラムを上昇するガスと下降する液体がトレーの同じ通路を通過する。強制シーブトレーの場合のように二重流トレーの場合にも、適当な分離作用を達成するために、最低蒸気負荷が必要である。蒸気負荷が著しく低い場合に、上昇するガスおよび下降する還流が実質的に交換せずに互いに通過し、物質移動トレーは乾燥して流れる危険がある。
【0047】
言い換えると二重流トレーの場合にもトレーを処理するために、トレーに一定の液層が維持されるように低い限界速度が存在しなければならない。通常の処理範囲内で二重流トレー中の液体が通路をトレーからトレーに流れ、連続的な気相がトレーの間の分かれた液相により存在する。本発明により使用される精留塔の前記シーブトレーが二重流トレーであることが有利である。
【0048】
本発明の方法に有利なシーブトレー精留塔はドイツ特許第10230219号に記載されている精留塔である。しかしドイツ特許第10156988号および欧州特許第1029573号に記載されるシーブトレー精留塔も本発明の方法に同様に有効である。
【0049】
シーブトレーに比べて水圧式に閉鎖された横流トレーは分離カラムが閉鎖される場合に、それぞれの横流トレーが有効性の理由で所有するわずかな空のドリルホール(横断面は一般に全横断面より200倍以上小さい)を除いて、乾燥して流れることができないことが特徴である。
【0050】
言い換えると分離カラムの負荷が低くても、水圧式に閉鎖された横流トレーは液体(還流および供給流)を蓄積し、乾燥して流れる危険がない。これは水圧式に閉鎖された横流トレーの通路がシーブトレーの場合のように煙突のないドリルホールでないことから生じる。むしろそれぞれの通路は煙突に開口し、煙突がトレーを乾燥して流れなくする。煙突の上に蒸気偏向フード(バブルキャップ)が取り付けられ、蓄積されたトレー液に浸漬される。しばしば蒸気偏向フードは縁部で溝または刻み目が付けられる(すなわち移動スロットを有する)。通路から上昇する蒸気流が蒸気偏向フードにより偏向され、トレーに平行に、すなわちカラムに直角に蓄積された液体に流れる。
【0051】
一般にトレーに等間隔で分配される隣接するフードを離れる蒸気気泡は蓄積された液体に泡の層を形成する。
【0052】
トレーを離れる排水管または排水部分は一般に左または右に交互に堰に支持されて物質移動トレーの液面を調節し、トレーの下に液体を供給する。上側トレーの排水管または排水部分がトレー下側の蓄積された液体に浸漬することが水圧式閉鎖作用に重要である。有利に供給堰が存在しない。高さを調節できるバブルキャップが流動条件を適合し、製造が不規則な場合に浸漬深さを等しくし、トレーのすべてのバブルキャップが均一なガス流を有する。
【0053】
バブルキャップの構成および配置に依存して、1つの流れの配置を有する水圧式に閉鎖される横流トレーは例えば円形バブルキャップトレー(通路、煙突およびバブルキャップが円形である)、トンネルキャップトレー(通路、煙突およびバブルキャップが長方形であり、バブルキャップが連続して配置され、長い長方形の縁部が液体の横流方向に平行に存在する)およびソーマントレー(Thorman tray、通路、煙突およびバブルキャップが長方形であり、バブルキャップが連続して配置され、長い長方形の縁部が液体の横流方向に直角である)に分類される。
【0054】
この明細書においてバルブトレーは限られた動きのプレートを有するトレードリルホール、バラストまたは個々のカラム負荷に蒸気通路オリフィスの大きさを適合する引き上げ弁(浮遊たれ板)を有する横流トレーに関する。上昇するガス流が偏向され、トレーに平行に蓄積された還流液に流れ、泡の層を形成する。堰を有する排水管は還流をトレーからトレーに導く。しばしば排水管は二重流の配置を有する。しかし排水管は三重流および多重流(例えば八重流まで)の配置を有することができる。
【0055】
精留塔が物質移動トレーの数の少なくとも80%が水圧式に閉鎖された横流物質移動トレーであるトレー精留塔である場合に本発明の方法を使用できることが理解される。物質移動トレーの全部の数が水圧式に閉鎖された横流トレーであってもよい。しかし精留塔の上側部分のトレーがバルブトレーであるトレー精留塔がしばしば本発明の方法に使用される。
【0056】
本発明により水圧式に閉鎖された横流トレーがソーマントレーであることが有利である、これは特に精留塔の上側部分にバルブトレーを使用する場合である。本発明の方法に必要な熱は例えば通常の構成の内部熱交換器および/または外部熱交換器によりおよび/またはジャケット加熱により適当に供給される。自然循環または強制循環を有する外部循環蒸発器がしばしば使用される。
【0057】
本発明により直列または並列に接続された複数の蒸発器を使用できる。
【0058】
本発明の方法において、有利に外部強制循環蒸発器、より有利に例えばドイツ特許(DE−A)第10332758号および欧州特許(EP−A)第854129号に記載される外部強制循環減圧蒸発器により熱エネルギーが供給される。
【0059】
強制循環蒸発器に対して、絞り装置により精留塔から強制循環減圧蒸発器を分離する。分離カラムの一部の液体部分を圧力Pで連続的に取り出し、循環ポンプにより例えば管状蒸発器(管束熱交換器)の供給流に搬送する。管状蒸発器の内部管の周りを流れる熱媒体、例えば加熱蒸気(一般に圧力下の蒸気)は分離カラムの液体部分の温度より高い温度を有する。管状蒸発器の供給管および排出管の通路で取り出された分離カラム液が間接的熱交換により分離カラムの液体部分の温度より高い温度Ty´に加熱される。
【0060】
弁装置は管状蒸発器と分離カラムを圧力側で分離し、循環ポンプ出力の適当な選択によりPより高く、温度Ty´に相当して取り出された分離カラム液の沸騰圧力Py´より高い弁入口圧力Py´の調節を可能にする。前記手段は管状蒸発器の管に供給することにより循環される分離カラム液部分の沸騰を抑える。供給により循環される分離カラム液の部分は実際に管状反応器の管内で分離カラムの液体部分より高い圧力Pに関して加熱され、沸騰工程が弁装置の通路側に移動する(すなわち管状蒸発器の管の部分は単相であり、管状蒸発器は過熱器としてのみ機能する)。過熱された液体は弁装置を通過して分離カラムに、(分離カラム底部の)分離カラムの液体部分に直接導入できる。これらの条件下で分離カラム底部の液体部分の温度は一般に底部液体より高い圧力Pに相当して沸騰温度Tに相当する。
【0061】
しかし過熱された液体は原則的に弁装置を通過して分離カラム底部の液面より高い分離カラムに導入できる。これらの条件下で分離カラム底部の液体部分の温度は底部液体より高い圧力Pに相当して沸騰温度Tより一般に低い。例えば分離カラムの外部に取り付けられた管状蒸発器の蒸発冷却作用が分離カラム内部まで、すなわち循環蒸発器の外部で生じない。弁は例えば機械的(ダイヤフラム、バルブ)および/または静水圧(過熱した液体が通過する適当に高い液体カラムにより)であってもよい。
【0062】
本発明の方法において液体Fは精留塔に、精留塔の底部にまたはその下側部分またはその中央部分に供給できる。中央は精留塔の理論的プレートの数により規定される。理論的プレートの中点(底部から頭部で見て)は中央である。中央部分はすぐ下であり、中央部分が終了する所で、すなわち理論的プレートの1/3が終了する精留塔の位置より低い所で(低部から頭部で見て)下側部分が開始する。
【0063】
本発明の方法を減圧下で行うことが有利である。本発明により特に適した頭部圧は500ミリバール以下、より有利に10〜500ミリバール、しばしば10〜200ミリバール、有利に10〜150ミリバールである。本発明の方法での精留塔での圧力低下は有利に300〜100ミリバールまたは250〜150ミリバールである。本発明の方法での精留塔底部の温度は約100〜230℃、有利に120〜210℃または160〜200℃である。
【0064】
本発明により使用される精留塔に存在する分離部品が構造化された充填物および/またはランダム充填物であってもよいことが理解される。有効なランダム充填物の例はリング、らせん、サドル、ラッシヒリング、イントスリングまたはパールリング、たる形サドルまたはインタロックスサドル、トップパックまたはリボンである。この明細書に記載されるすべての可能なカラム内装部品はもちろん混合した形で精留塔に存在してよい。
【0065】
すでに記載されるように、カラムの頭部に典型的に本発明の方法で他の重合抑制剤を導入する。しかし重合抑制剤は底部に添加することができ、すでに分離されるアクリル酸含有液体に存在する。これらの重合抑制剤の代表的なものは再びフェノチアジン、4−メトキシフェノール、および4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシルである。液相のアクリル酸含量に対して一般に数百質量ppmまでの重合抑制剤を使用する。
【0066】
付加的な重合抑制の目的で、精留の間に精留塔に分子状酸素(例えば空気またはリーン空気)を導入することが知られており(例えばドイツ特許第10256147号、ドイツ特許第19501325号およびChem.Eng.Technol.21(1998)10.829−836頁参照)、本発明により同様に適用できる(ドイツ特許第10238145号)。
【0067】
本発明の方法での物質流Sの取り出し位置はカラムの頭部にまたはカラム頭部の下の側面取り出し位置(例えば精留塔の上側部分または中央部分)として配置されてもよい。後者が本発明により有利である。
【0068】
有利に側面取り出し位置はカラム頭部の下の少なくとも0.2〜5個の理論的プレート、しばしば0.5〜3個の理論的プレートまたは0.6〜2個の理論的プレートである。
【0069】
本発明により分離されるアクリル酸含有液体はアクリル酸を多少とも純粋な形でまたは溶液で含有できる。
【0070】
溶剤は水性または有機溶剤であってもよい。溶剤の具体的な種類は本発明により実質的に重要でない。場合により少ない水性割合を有する水性または有機溶剤が有利である。
【0071】
液体F中のアクリル酸含量は2質量%以上、または5質量%以上または10質量%以上、または20質量%以上、または40質量%以上、または60質量%以上、または80質量%以上、または90質量%以上、または95質量%以上、または99質量%以上であってよい。
【0072】
特に本発明の方法は、精留法がアクリル酸(一般に液体の質量に対して10〜35質量%、しばしば15〜30質量%)および主成分としてアクリル酸より高い沸点を有する(有利に不活性)疎水性有機液体および二次成分として(例えば低級)アルデヒド(例えば10000または5000質量ppm)を含有する混合物からアクリル酸を除去することに関する場合、例えばドイツ特許第4436243号、ドイツ特許第2136396号、欧州特許第925272号およびドイツ特許第4308087号またはドイツ特許第10336386号に記載される方法による接触気相酸化の反応ガス混合物からアクリル酸を除去する場合のように使用することができ、第一級アミンおよび/またはその塩は、例えば欧州特許第717029号に記載されるように、本発明の精留処理の前に液体Fに添加でき、取り出される物質流Sは一般に99.5質量%以下、しばしば99質量%以下、多くの場合に98.5質量%以下のアクリル酸を含有する。これはアクリル酸および主成分としてアクリル酸より高い沸点を有する不活性疎水性有機液体および二次成分として低級アルデヒドを含有する本発明の方法の出発混合物が例えば接触気相酸化の反応ガス混合物から、ドイツ特許第213639号、欧州特許第925272号またはドイツ特許第4308087号またはドイツ特許第10336386号による向流吸収および引き続くストリッピングによる脱着の液体流出物としてまたはドイツ特許第4436243号による向流吸収および重なる精留の液体流出物として得られる場合である。高沸点不活性疎水性有機液体はここで気圧(1気圧)での沸点がアクリル酸の沸点より高く、アクリル酸オリゴマーおよび/またはポリマーの溶解性(溶液の質量に対する質量%)が25℃および1気圧で純粋のアクリル酸より低い液体である。
【0073】
これらは特に外部活性極性基を有せず、例えば水素結合を形成できない、分子少なくとも70質量%からなる高沸点有機液体である。狭い意味でこの用語はここでドイツ特許第2136396号、ドイツ特許第4308087号およびドイツ特許第4436243号で勧められる高沸点有機吸収液体を含む。
【0074】
これらは主に気圧での沸点が160℃より高い液体である。例はパラフィン蒸留からの中間油フラクション、ジフェニルエーテル、ジフェニルまたは前記液体の混合物、例えばジフェニルエーテル70〜75質量%およびジフェニル25〜30質量%の混合物(ジフィルとして知られている)を含む。好ましい高沸点疎水性有機吸収液体はジフェニルエーテル70〜75質量%およびジフェニル25〜30質量%および混合物に対して0.1〜42.5質量%のo−ジメチルフタレートの混合物からなる混合物である。
【0075】
言い換えると本発明の方法は特に以下の成分(割合は全量に対する)からなる液体Fに適している。
ジフィル 50〜75質量%
ジメチルフタレート 10〜25質量%
ジアクリル酸 0.2〜3質量%
アクリル酸 15〜35質量%、しばしば15〜25質量%
水 0.07〜0.2質量%
酢酸 0.01〜0.2質量%
蟻酸 0.001〜0.02質量%
プロピオン酸 0.001〜0.02質量%
フェノチアジン 0.01〜0.1質量%
無水フタル酸 0.1〜1質量%
安息香酸 0.2〜2質量%
無水マレイン酸 0.1〜2質量%
ベンズアルデヒド 0.1〜1質量%および
フルフラール 0.01〜0.05質量%。
【0076】
使用される精留装置は公知の構成を有してもよく、通常の内装部品を有することができる。有効なカラム内装部品は原則的にすべての一般的な内装部品、例えばトレー、構造化充填物および/またはランダム充填物である。トレーの中でバブルキャップトレー、シーブトレー、バルブトレー、ソーマントレーおよび/または二重流トレーが有利である。ランダム充填物の中でリング、らせん、サドル、ラッシヒリング、イントスリングまたはパールリング、たる形サドルまたはインタロックスサドル、トップパック等、またはリボンが有利である。二重流トレーが特に有利である。
【0077】
一般に精留装置に10〜25個の理論的プレートが十分である。精留は典型的に減圧下で、有利に70〜140ミリバールの頭部圧力で実施する。底部圧力は頭部圧力、カラム内装部品の数と種類、および精留の流体動力学の要求から得られ、有利に300〜400ミリバールである。
【0078】
分離内装部品として二重流トレーを使用する場合は、供給流の上のトレーのホール直径は一般に5〜25mm、有利に10〜20mmである。供給流の下のトレーのホール直径は典型的に15〜80mm、有利に25〜50mmであり、最も有利にはドイツ特許第10156988号に記載されるように、段階が付けられている。トレーの間隔(トレーは一般に等間隔に配置される)は典型的に300〜700mm、有利に350〜400mmおよび最も有利に380mmである。
【0079】
精留装置の上側部分をトレース加熱することが有利である。n個の理論的プレートを有する精留装置の場合にこれはn/2番目の理論的プレートより上の領域に関する。トレース加熱の温度は内部カラム壁でアクリル酸が凝縮できないように選択する。この温度は有利に精留装置の該当する部分に存在する圧力でアクリル酸の沸点より5〜10℃高い。
【0080】
精留装置は典型的にオーステナイト鋼、有利に材料1.4571(DINEN10020による)から製造される。
【0081】
精留装置への供給は適当にはその下側部分である。有利に精留塔の底部より上の2〜5個のプレートである。供給温度は典型的に150℃である。
【0082】
熱は通常の構成の内部および/または外部熱交換器(熱媒体は再び有利に蒸気である)および/またはジャケット加熱により供給する。熱は有利に自然または強制循環を有する外部循環蒸発器により供給する。強制循環を有する外部循環蒸発器が特に有利である。直列にまたは並列に接続された複数の蒸発器を使用できる。並列で2〜4個の蒸発器を運転することが有利である。循環装置の底部温度は典型的に170〜210℃、有利に180〜200℃である。精留塔の底部で凝縮する高沸点フラクションは一般に主に以下の成分(割合は全量に関する)を有する。
ジフィル 70〜85質量%
ジメチルフタレート 10〜25質量%
ジアクリル酸 0.5〜5質量%
アクリル酸 0.2〜2質量%
フェノチアジン 0.01〜0.1質量%
無水フタル酸 0.1〜1質量%
安息香酸 0.2〜2質量%
無水マレイン酸 0.1〜2質量%
ベンズアルデヒド 0.1〜0.5質量%および
フルフラール 0.01〜0.05質量%。
【0083】
精留装置から取り出され、凝縮した高沸点吸収剤を含有する底部液体を部分的に、有利に精留装置への供給流に対して75〜90質量%排出し、熱交換器により部分的に精留塔の底部領域に循環する。
【0084】
粗製アクリル酸を側流により精留塔への供給流の上で、有利にカラム底部より上の8〜20個の理論的プレートで取り出す。粗製アクリル酸の取り出しは通常の方法で実施し、制限はない。収集トレーにより取り出すことが適当であり、この場合に全部の還流を収集し、一部を排出し、他の部分を還流として収集トレーの下で使用し、または組み込まれた取り出し手段を有するトレーを使用し、有利に組み込まれた取り出し手段を有する二重流トレーを使用する。取り出された粗製アクリル酸は一般に主に以下の成分(割合は全量に対する)を有する。
アクリル酸 98〜99.9質量%
酢酸 0.05〜0.3質量%
水 0.001〜0.05質量%
蟻酸 0.001〜0.005質量%
プロピオン酸 0.01〜0.05質量%
フルフラール 0.01〜0.05質量%
アリルアクリレート 0.001〜0.01質量%
ベンズアルデヒド 0.001〜0.01質量%
無水マレイン酸 0.002〜0.02質量%
ジアクリル酸 0.01〜0.05質量%および
フェノチアジン 0.01〜0.05質量%。
【0085】
取り出された粗製アクリル酸は冷たい粗製アクリル酸(以前に得られた)および/または熱交換器(適当な冷却剤の例は地表水である)により冷却される。直列にまたは並列に接続された、複数の熱交換器を使用することができる。当業者に知られており、特に制限されない熱交換器中で、粗製アクリル酸を有利に40〜70℃だけ冷却する。
【0086】
取り出された粗製アクリル酸は、有利に精留塔への供給流に対して10〜25質量%が排出され、重合抑制剤の溶剤として部分的に使用される。
【0087】
精留塔の頭部で除去される低沸点流を間接的に、例えば当業者に知られており、特に制限がない熱交換器(使用される冷却剤は例えば地表水である)により、または直接、例えば急冷により冷却することができる。有利に直接冷却により冷却する。このためにすでに凝縮された低沸点フラクションを適当な熱交換器により冷却し、冷却された液体を取り出し位置より上の蒸気に噴霧する。この噴霧を分離装置または精留装置自体中で行うことができる。精留装置で噴霧する場合は、低沸点フラクションの取り出し位置は有利に収集トレーとして形成される。冷却した低沸点フラクションと蒸気の混合を改良する内装部品を直接冷却の有効性を高めるために使用できる。原則的にすべての一般的な内装部品、例えばトレー、構造化充填物、および/またはランダム充填物がこの目的に有用である。トレーの中でバブルキャップトレー、シーブトレー、バルブトレー、ソーマントレーおよび二重流トレーが有利である。ランダム充填物の中でリング、らせん、サドル、ラッシヒリング、イントスリングまたはパールリング、バレル、またはインタロクスサドル、トップパック等またはひもを有するものが有利である。二重流トレーが特に有利である。この場合に一般に2〜5個の理論的棚板が十分である。これらのトレーは精留装置の理論的棚板の数に関してこれまで得られた情報で説明されない。低沸点フラクションの直接的凝縮は複数の工程で実施することができ、上に向かって温度が低下する。精留塔の頭部から取り出された低沸点物流は実質的に以下の成分を含有する(割合は全量に対する)。
アクリル酸 90〜99質量%
酢酸 0.5〜3質量%
水 0.5〜2質量%
フェノチアジン 0.02〜0.1質量%
アリルアクリレート 0.01〜0.1質量%
フルフラール 0.002〜0.01質量%
プロピオン酸 0.01〜0.05質量%
蟻酸 0.1〜1質量%および
アクロレイン 0.001〜0.002質量%。
【0088】
低沸点フラクションとして取り出された液体の割合、有利に精留塔への供給物に対して30〜50質量%が還流として使用される。残りの低沸点フラクション、有利に精留塔への供給物に対して0.5〜2質量%が排出される。本発明により有利な方法において、前記精留を還流中のジアクリル酸含量がその質量に対して少なくとも550質量ppmであるように運転する。前記ジアクリル酸含量は有利に1000質量ppmまたは1500質量ppm以上である。
【0089】
精留装置からのオフガスは一般に主に以下の成分を含有する(以下になお説明すべき酸素または空気の同時阻害を使用する場合は、割合は全量に関する)。
窒素 70〜80質量%
酸素 15〜25質量%、しばしば15〜21質量%
アクリル酸 1〜5質量%
酢酸 0.05〜0.5質量%
水 0.2〜0.8質量%
アクロレイン 0.001〜0.005質量%
蟻酸 0.02〜0.2質量%
アリルアクリレート 0.001〜0.005質量%および
酸化炭素 0.02〜0.06質量%
オフガスは他の製造残留物と一緒に消却される。
【0090】
精留塔に使用される重合抑制剤はアルキルフェノール、例えばo−、m−またはp−クレゾール(メチルフェノール)、2−t−ブチル−4−メチルフェノール、6−t−ブチル−2,4−ジメチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチルフェノール、4−t−ブチルフェノール、2,4−ジ−t−ブチルフェノール、2−メチル−4−t−ブチルフェノール、4−t−ブチル−2,6−ジメチルフェノール、または2,2′−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、ヒドロキシフェノール、例えばヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、ピロカテコール(1,2−ジヒドロキシベンゼン)またはベンゾキノン、アミノフェノール、例えばパラ−アミノフェノール、ニトロソフェノール、例えばパラ−ニトロソフェノール、アルコキシフェノール、例えば2−メトキシフェノール(グアヤコール、ピロカテコールモノメチルエーテル)、2−エトキシフェノール、2−イソプロポキシフェノール、4−メトキシフェノール(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、モノ−またはジ−t−ブチル−4−メトキシフェノール、トコフェロール、例えばα−トコフェロール、または2,3−ジヒドロ−2,2−ジメチル−7−ヒドロキシベンゾフラン(2,2−ジメチル−7−ヒドロキシクマラン)、N−オキシル、例えば4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシル、4−オキソ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシル、4−アセトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシル、4,4′,4′′−トリス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジンN−オキシル)ホスファイト、または3−オキソ−2,2,5,5−テトラメチルピロリジンN−オキシル、芳香族アミンまたはフェニレンジアミン、例えばN,N−ジフェニルアミン、N−ニトロソジフェニルアミン、N,N′−ジアルキル−パラフェニレンジアミン、ここでアルキル基は同じかまたは異なり、互いに独立に1〜4個の炭素原子を有することができ、直鎖状または分枝状であってもよく、ヒドロキシルアミン、例えばN,N−ジエチルヒドロキシルアミン、リン化合物、例えばトリフェニルホスフィン、次亜リン酸、またはトリエチルホスファイト、硫黄化合物、例えばジフェニルスルフィド、またはフェノチアジンであり、場合により金属塩、例えば銅、マンガン、セリウム、ニッケルまたはクロムの塩化物、ジチオカルバミン酸塩、硫酸塩、サリチル酸塩または酢酸塩と組み合わせて使用する。前記重合抑制剤の混合物を使用できることが理解される。
【0091】
精留装置で重合抑制剤としてフェノチアジンまたはフェノチアジンと同じ有効性を示す他の重合抑制剤を使用することが有利である。
【0092】
重合抑制剤は有利に凝縮した低沸点物還流に比較的純粋なアクリル酸中の溶液として、より有利に側流により取り出される粗製アクリル酸中の溶液として添加する。安定剤混合物に使用されるアクリル酸中のアルデヒド不純物の全濃度は500質量ppm未満である。安定剤混合物(安定剤溶液)中の安定剤(抑制剤)濃度は使用される安定剤および使用される溶剤に依存する。安定剤混合物中の最適な安定剤濃度は溶解試験により決定することができ、安定剤としてフェノチアジンおよび溶剤として粗製アクリル酸の場合は0.1〜2質量%、有利に1.2〜1.7質量%である。安定剤は排出される粗製アクリル酸が50〜500質量ppm、有利に150〜350質量ppmであるように供給する。
【0093】
安定剤混合物容器に導入する固体の重合抑制剤の形は原則的に任意である。有用な形は例えばフレーク、顆粒、またはペレットである。低いダスト割合およびより好ましい流れ特性によりペレットが有利である。固体の重合抑制剤は例えばサイロから搬送スクリューにより安定剤混合物容器に導入することができる。
【0094】
安定化(重合抑制)を更に促進するために、酸素ガス、有利に空気または空気と窒素の混合物(リーン空気)、より有利に空気が存在することができる。
【0095】
この酸素ガスは有利に精留塔の底部領域および/または循環蒸発器に導入する。
【0096】
空気は大気から、有利に1個以上の取り出し位置で直接適当に取り出す。
【0097】
本発明により、部分酸化に関してすでに記載したように、使用する前に、こうして使用される空気を同様に濾過することが有利である。
【0098】
例えば有機および無機塩化物、特にアルカリ金属塩化物の塩含量10質量ppm未満を有する空気を使用することが特に有利である。
【0099】
精留装置の頭部で酸素分圧が少なくとも0.5ミリバール、有利に少なくとも2ミリバールであるように酸素空気を供給する。
【0100】
更に例えばドイツ特許第19810962号に記載されるように、精留装置に界面活性剤を供給できる。
【0101】
しかし本発明の方法はすでにアクリル酸95〜99.5または99.8質量%を含有する高い品質のアクリル酸の精留による更なる精製に適用できる(高い品質のアクリル酸が2質量ppm以上または5質量ppm以上、または10質量ppm以上、または20ppm以上または50質量ppm以上のアルデヒド、例えばアクロレイン、フルフラール、ベンズアルデヒド、等を含有する場合、特に気圧(1atm)での沸点がアクリル酸の沸点より低い場合が特に好ましい)。これらは精留の前に、例えばドイツ特許第10219592号、欧州特許第713854号および欧州特許第270999号に記載されるように、ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体(例えばアミノグアニジン炭酸水素塩)のようなアミンで処理されてもよい。
【0102】
実施例および比較例
アクリル酸含量がすべての場合に99.8質量%であるそれぞれ0.5mlの4個の試料を新たに製造した(蒸留、引き続き凍結)。
【0103】
引き続き実質的に純粋なジアクリル酸を添加することにより4個の試料のジアクリル酸含量を以下の値に調節した。
試料1:5質量ppm以下
試料2:500質量ppm
試料3:1000質量ppm
試料4:1500質量ppm
試料5:10000質量ppm
試料6:15000質量ppm。
【0104】
アクリル酸試料中に重合抑制剤は存在しなかった。更に4個のすべての試料にベンズアルデヒド含量500質量ppmを有するように十分なベンズアルデヒドを添加した。
【0105】
空気雰囲気下でそれぞれの試料を1.8mlガラスアンプルに移した。終了後直ちに、完全な混合を保証するために、アンプルを強制空気乾燥棚中で回転下に120℃で保存した。個々の試料が完全に重合するまでの時間Tを目視で決定した。
【0106】
これらの試験の順序を3回繰り返し、計算した値を算術的に平均した。
【0107】
個々の試料の時間Tの平均的結果は以下のとおりである。
試料1:128分
試料2:136分
試料3:143分
試料4:153分
試料5:175分
試料6:195分。
【0108】
2003年10月9日出願の米国特許60/509540号は引用により本発明に含まれる。
【0109】
前記の思想に関して本発明から多くの変形および変更が可能である。従って本発明は請求の範囲の中でここに具体的に記載されるものと異なって実施できることが推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸含有液体Fを供給位置Zにより精留塔に供給し、物質流Sを精留塔の供給位置Zより上の取り出し位置Eで取り出し、前記物質流Sのアクリル酸含量が物質流Sの質量に対して90質量%以上であり、質量%での液体Fの相当するアクリル酸含量より大きいことによりアクリル酸含有液体Fを精留分離する方法において、供給位置Zより上の少なくとも2個の理論的棚段の内部に存在する精留塔の領域で、還流液のジアクリル酸含量Gが少なくとも部分領域で還流液の質量に対して550質量ppm以上であることを特徴とするアクリル酸含有液体Fを精留分離する方法。
【請求項2】
還流液のジアクリル酸の含量Gが650質量ppm以上である請求項1記載の方法。
【請求項3】
還流液のジアクリル酸の含量Gが1000質量ppm以上である請求項1記載の方法。
【請求項4】
還流液のジアクリル酸含量Gが供給位置Zより上の少なくとも2個の全部の理論的棚段に存在する精留塔の全部の領域に存在している請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
還流液のジアクリル酸含量Gが供給位置Zより上の少なくとも4個の全部の理論的棚段に存在する精留塔の領域に存在している請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
取り出し位置Eが精留塔の供給位置Zより少なくとも2個の理論的棚段の上方である請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
分離される液体Fが添加される、アクリル酸より低い沸点を有する16以下のpK値を有するブレンステッド酸を有する請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
ジアクリル酸それ自体および/またはジアクリル酸含有アクリル酸を還流液に添加する請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
精留塔が分離内装部品として少なくとも1個のシーブトレーを有する請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
精留塔が分離内装部品として少なくとも1個の水圧封止横流トレーを有する請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
本発明による方法に必要な熱エネルギーを外部強制循環減圧蒸発器により供給する請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
強制循環減圧蒸発器が管状蒸発器である請求項11記載の方法。
【請求項13】
液体Fがアクリル酸10〜35質量%、アクリル酸より高い沸点を有する疎水性有機液体50〜80質量%およびアルデヒド5000質量ppmまでを有する混合物である請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
液体Fが以下の成分:
ジフィル 50〜75質量%
ジメチルフタレート 10〜25質量%
ジアクリル酸 0.2〜3質量%
アクリル酸 15〜35質量%、しばしば15〜25質量%
水 0.07〜0.2質量%
酢酸 0.01〜0.2質量%
蟻酸 0.001〜0.02質量%
プロピオン酸 0.001〜0.02質量%
フェノチアジン 0.01〜0.1質量%
無水フタル酸 0.1〜1質量%
安息香酸 0.2〜2質量%
無水マレイン酸 0.1〜2質量%
ベンズアルデヒド 0.1〜1質量%および
フルフラール 0.01〜0.05質量%
を有する請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
液体Fがアクリル酸95〜99.8質量%を有する請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−508259(P2007−508259A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530079(P2006−530079)
【出願日】平成16年10月2日(2004.10.2)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011026
【国際公開番号】WO2005/035478
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】