説明

アコースティックエミッション(AE)によるコンクリート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法

【課題】本発明は、鉄筋コンクリート構造物の鉄筋腐食量をアコースティックエミッションを利用して定量的に評価する方法を提供する。
【解決手段】鉄筋コンクリート構造物に圧電素子センサーを設置し、前記コンクリート構造物が受ける外部負荷に伴い発生するアコースティックエミッションを検出し、該アコースティックエミッションを処理して得られるピーク周波数fが、任意の周波数f、f、f、f(f<f≦f<f)に対して、f≦f<fを満たすヒット数Hlowと、f≦f<fを満たすヒット数Hhighとの比で評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物の鉄筋腐食量をアコースティックエミッション(AE)を利用して、定量的に評価する方法である。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造物における鉄筋腐食は、構造物の著しい劣化を引き起こすとともに、安全性にも大きな影響を与える。従来、鉄筋コンクリートの鉄筋腐食を評価する非破壊手法として、「自然電位測定」、「分極抵抗測定」、「電気抵抗測定」等があった。この内絶対的な腐食程度を評価する手法は「自然電位測定」であるが、照合電極の種類により電位が変化することや、腐食以外の要因により電位が変化する場合が多く、相当の熟練技術を要する。さらにコンクリート構造物を補修する上での事前調査では、多くの場合、コンクリート表面の目視検査あるいは、打音調査のみ実施しているのが現状である。鉄筋コンクリートの鉄筋腐食の評価にアコースティックエミッション(以下AEと表示する)を適用しようとする試みは、下記先行技術の項に記載等により報告されているが、鉄筋の腐食過程に着目したものが多数を占めるが、鉄筋の劣化期を対象とし、外部負荷を加えたアクティブな条件下での評価を試みた研究成果は報告されてない。
特許文献1の先行技術は、コンクリート構造物に漸増履歴荷重を加えた際に生じるAEの発生状況からコンクリート構造物の劣化を判定する構成になっている。
特許文献2の先行技術は、調査対象物の物性に左右されずにAEの振幅頻度分布を利用して調査対象の内部破壊を正確に、リアルタイムに検知する構成になっている。
非特許文献1の先行技術には、補修した鉄筋コンクリート供試体に再載荷時にAEの発生した荷重と以前に経験した最大荷重の比であるCBI値を使って、コンクリート構造物の健全性診断を行う方法が開示されている。
非特許文献2の先行技術には、水セメント比の異なる2種類のコンクリート構造物を作成し、塩害試験を実施し、AEの発生挙動と塩分浸透状況を比較することにより、鉄筋腐食の進行過程を早期に定量的に判定する方法が報告されている。
【先行技術文献】
【0003】
【特許文献1】特許公開平10−90235 コンクリート構造物の劣化判定方法
【特許文献2】特許公開平7−134060 AE音による破壊検知方法及び破壊検知装置
【非特許文献1】AE法によるコンクリート構造物の健全性診断 非破壊検査第49巻2号(2000)
【非特許文献2】AE法による鉄筋コンクリートの塩害劣化の早期判定法の開発 コンクリート工学年次論文集Vol.24 No.1 2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示されている先行技術は、任意の時期にコンクリート構造物の劣化を判定する方法であるが、コンクリート構造物全体についてのことが主題であり、内部の鉄筋の腐食に関しては触れられてない。
特許文献2に開示された先行技術は、具体的な対象物は明示されてなく、理論的に内部破壊予測値Sを求める方法であるが、実施例が示してなく、理論の適合性に関しては不明である。
非特許文献1に開示された先行技術は、補修した鉄筋コンクリート供試体に再載荷時にAEの発生した荷重と以前に経験した最大荷重の比であるCBI値と、AE法によるコンクリート構造物の健全性診断を実際の桟橋上に荷重の異なるダンプトラックを走行させて、載荷試験を行いAEを発生させ、そのヒット数と変位の関係を使って劣化診断を行う方法である。この方法には、CBI値を求めるために以前に経験した最大荷重のデータが必要になる。
非特許文献2に開示された先行技術は、電食実験中にAE計測を行い劣化の時期の判定を試みており、実際のコンクリート構造物に適用した場合の適応性については不明である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を達成するために、コンクリート構造物に圧電素子センサーを設置し、前記コンクリート構造物が受ける外部負荷に伴い発生するAEを検出し、該AEを処理して得られるピーク周波数fが、任意の周波数f、f、f、f(f<f≦f<f)に対して、f≦f<fを満たすヒット数Hlowと、f≦f<fを満たすヒット数Hhighとの比で評価する方法であり、コンクリート構造物の供試体を4個製作して、3種類の促進腐食試験を実施した後、各供試体に圧電センサーを設置し、載荷試験を行い、載荷試験で発生するAEを分析した結果、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食レベルが高くなると、低い周波数成分を有すAEの発生数が多くなる特徴を得て本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0006】
この発明の効果として下記の2項目が挙げられる。
1.鉄筋の一部を露出させて、その部分に設置した圧電素子から得られるAEの分析により、熟練した技術を要せず、容易に未露出部を含めたコンクリート構造物の鉄筋の腐食レベルを評価できる。
2.コンクリート構造物の補修の必要性の有無の評価もできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】 本発明のAEの計測システム
【図2】 供試体の形状及び、鉄筋の配置
【図3】 促進腐食試験の概要
【図4】 公知田森式との整合性を示す図
【図5】 圧電素子センサーの設置位置
【図6】 載荷試験の概要
【図7】 載荷試験の結果(荷重−変位曲線)
【図8】 載荷試験の結果(荷重−変位曲線−中央変位0〜5mmの範囲)
【図9】 載荷試験におけるAEの最大周波数(変位−周波数、コンクリート表面)
【図10】 載荷試験におけるAEの最大周波数(変位−周波数、鉄筋)
【図11】 AEのピーク周波数図(基準RC)
【図12】 AEのピーク周波数図(鉄筋腐食量3%)
【図13】 AEのピーク周波数図(鉄筋腐食量10%)
【図14】 AEのピーク周波数図(鉄筋腐食量30%)
【図15】 鉄筋腐食量とαの関係図
【表1】
コンクリートの配合
【表2】
鉄筋の質量損失と総電流の関係
【表3】
鉄筋腐食量に対するHlow、Hhighの値
【発明を実施するための形態】
【0008】
【実施例】
【0009】
本発明が得られた試験方法について図1〜図15、表1〜表3を使って簡単に説明する。
【0010】
本発明のAEの計測システムを図1に示す。AEをコンクリート構造物の表面及び、鉄筋に設置した150kHz共振型のプリアンプ内蔵型センサーにより検出した。機器はAMSY−5(Vallen Sytem製)AE計測装置により、AE特性パラメータと、1MHzのサンプ リングレートでAE波形を記録した。
【0011】
試験に使用した4個のRC供試体の形状及び、鉄筋の配置は図2の通りであった。鉄筋はD13(SD345)を使用した。コンクリートの配合は、表1に示す通りであり、セメントにはポルトランドセメント(3.15g/cm)、細骨材には川砂(2.55g/cm),粗骨材には川砂利(最大寸法15mm、2.57g/cm)をそれぞれ使用した。化学添加剤には、AE減水剤を使用し、コンクリートのスランプ及び、空気量はそれぞれ、7.5cm、2.2%であった。
【0012】
上記の条件で製作した供試体の内3個を図3に示す装置で促進腐食試験を実施した。供試体を3%の塩化ナトリウム水溶液を満たしたコンテナ内の銅板上に載置し、各供試体の鉄筋に0.6A(0.907mA/cm)の電流を、それぞれ鉄筋の質量減少がほぼ3%、10%、30%腐食レベルになるまで与え続けた。表2に鉄筋の質量損失と総電流の関係を示す。
【0013】
上記表2の鉄筋の質量損失と総電流の関係を、図4の公知の田森式のグラフにプロットするとかなり高い相関が認められ、この促進腐食試験の適合性が確認された。
【0014】
上記促進腐食試験を実施して得られた、3%、10%、30%腐食レベルの各供試体及び、促進腐食試験を実施しなかったそれぞれの供試体のコンクリート表面4箇所及び、鉄筋2箇所の図5に示す位置に、圧電素子センサーを6個設置して、図6のように支持し、載荷試験を行った。
【0015】
図7に全ての供試体で得られた荷重−変位曲線を示す。腐食に伴う鉄筋の断面減少により降伏荷重が低下し、それに伴って降伏時の変位もやや減少する傾向を示した。0%と3%では大きな違いは見られないが、10%、30%では、腐食レベルの増加に伴い、降伏荷重及び最大荷重が低くなっている。
【0016】
図8は、中央変位が5mmまでの拡大図を示しており、各曲線とも除荷時を除いて示した。いずれも初期ひび割れが発生した荷重は同様であるが、鉄筋とコンクリートの付着劣化に相当する引張硬化域が、わずかに異なる。特に腐食レベル30%では、鉄筋腐食により引張硬化域の剛性低下が明らかである。これらのことから、腐食レベルの増加に伴い、コンクリート−鉄筋間のすべり効果が増しているものと考えられる。
【0017】
載荷試験により、コンクリート表面及び、鉄筋に設置したセンサーから得られたAE最大周波数と中央変位の関係はそれぞれ図9、図10のようになった。これらの図の最大周波数はAEヒット毎にFFTにより得られた各ヒットの最大周波数を、載荷サイクル毎の全ヒットの平均値として算出した。
【0018】
図9に示すように、コンクリート表面から検出されたAEは、載荷サイクル毎における周波数の著しい変化は確認できない。一方、図10に示すように、鉄筋に設置したセンサーから得られたAEは、腐食レベルの増加に伴い、周波数(最大周波数の平均値)は低くなり、腐食レベル30%で100kHz付近まで低下している。既述のように、高い腐食レベルにおける破壊メカニズムの特徴として、鉄筋−コンクリート間のすべり挙動が考えられる。従って、高い腐食レベルで得られる低い周波数を持つAEは、腐食に伴う鉄筋−コンクリート間の付着力低下が引き起こすものと推察する。
【0019】
鉄筋の腐食量変化により100kHz付近にピークを持つAEのヒット数も変化していることが確認できた。AEのピーク周波数を載荷試験開始から終了までの全時間領域において観察した結果は、図11〜図14に図示するようになった。これらの図から、鉄筋に取付けたセンサーから得たAEのプロット集中は、鉄筋の腐食量の増加に伴い、センサーの共振周波数である150kHz付近から100kHz付近の低い周波数へと移行していることがわかる。
【0020】
鉄筋腐食の増加に伴い低い周波数に移行する現象を数値化するため、次のようなパラメータで比較することにした。α=Hlow/Hhigh ここで、Hlow:周波数80kHz〜110kHzにピークを持つAEのヒット数、Hhigh:周波数150kHz〜180kHzにピークを持つAEのヒット数 である。計測開始から終了までのすべての時間領域におけるα値を算出した結果が表3である。
【0021】
表3のα値と腐食量の関係をグラフに表示すると図15のようになる。この図を見ると鉄筋の腐食量とαには極めて強い相関があることがわかる。この結果から、外部負荷が生じている状況において、鉄筋に直接設置したセンサーから得られたα値によって、鉄筋の腐食の程度を概ね30%以内の範囲で予測することが可能である。
【0022】
コンクリート表面に取付けたセンサーから得た各周波数範囲におけるヒット数及び、α値も、鉄筋に設置したセンサーから得られたAE同様に周波数分析したが図15に示すように腐食量の影響はほとんど認められなかった。本試験では、微小なクラックにも対応できるよう150kHz共振型センサーを使用しており、検出範囲が狭いといえる。また、コンクリート−鉄筋間の音響インピーダンス差が大きく、鉄筋のごく近傍で得られたAEは入射時にほとんど反射されると考えられ、コンクリート取り付けセンサーから検出されるAEは「コンクリート割れ」がその発生原因のほとんどを占めていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
コンクリート構造物の鉄筋の一部を露出させて、その部分に設置した圧電素子から得られるAEの分析により、熟練した技術を要せず、容易に未露出部を含めたコンクリート構造物の鉄筋の腐食レベルを評価できる。また、コンクリート構造物の補修の必要性の有無の評価もできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート構造物に圧電素子センサーを設置し、前記コンクリート構造物が受ける外部負荷に伴い発生するアコースティックエミッションを検出し、該アコースティックエミッションを処理して得られるピーク周波数fが、任意の周波数f、f、f、f(f<f≦f<f)に対して、f≦f<fを満たすヒット数Hlowと、f≦f<fを満たすヒット数Hhighとの比で評価することを特徴とするコンクリート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法。
【請求項2】
前記コンクリート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法において、コンクリート構造物内部の鉄筋の腐食レベルが高くなると、低い周波数成分を有すAEの発生数が多くなる特徴を採用した請求項1記載のコンクート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法。
【請求項3】
前記コンクリート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法において、鉄筋に直接圧電素子を設置することを特徴とする請求項1、請求項2記載のコンクート構造物の鉄筋腐食量の定量評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−133448(P2011−133448A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299570(P2009−299570)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(502257247)財団法人東海技術センター (1)
【Fターム(参考)】