説明

アゴメラチン合成の新規な方法

【課題】式(I)で示されるアゴメラチンの工業的合成のための新規な方法を提供する。
【解決手段】式(I):


で示される化合物を工業的に合成する方法であって、式(II):


で示される(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルを、極性プロトン性媒体中に無水酢酸を含む媒体中、ラネーニッケルの存在下での水素による還元に付して反応させ、式(I)の化合物を得て、これを固体形態で単離することを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式(I)で示されるアゴメラチン、またはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドの工業的合成のための新規な方法に関するものである:
【0002】
【化1】

【背景技術】
【0003】
アゴメラチン、またはN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドは、有用な薬理学的特性を有する。
【0004】
実際、それは、一方ではメラトニン作動系レセプターのアゴニストであり、他方では5−HT2Cレセプターのアンタゴニストであるという二重の特徴を有する。それには、これらの特性により、中枢神経系における活性、より特別には、大うつ病、季節性情動障害、睡眠障害、心血管系の病態、消化系の病態、時差ぼけによる不眠および疲労、食欲障害、ならびに肥満症の処置における活性が与えられる。
【0005】
アゴメラチン、その製造、および治療におけるその使用は、欧州特許出願公開第0 447 285号および第1 564 202号公報(EP 0 447 285およびEP 1 564 202)に記載されている。
【0006】
この化合物の薬学的価値を考慮すると、工業的規模に容易に移行させることができ、アゴメラチンを良好な収量および優れた純度で提供する、効果的な工業的合成法を用いてそれを製造できることが第一義的に重要になっている。
【0007】
欧州特許出願公開第0 447 285号公報は、7−メトキシ−1−テトラロンから出発する8工程での、30%未満の平均収量でのアゴメラチンの製造を記載している。
【0008】
欧州特許出願公開第1 564 202号公報で、出願人は、アゴメラチンを充分に特定された結晶形態で、高い再現性で得るのを可能にする、はるかに効果的で工業化できる4工程のみの新規な合成経路を開発した。
【0009】
ここに、出願人は、その研究を継続し、従来の技術に記載されたものよりはるかに効果的である、アゴメラチン合成の新規な方法を開発した。すなわち、(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルから出発して直接アゴメラチンを得るが、これは、7−メトキシ−1−テトラロンから出発して、3工程のみで完全な合成を達成するのを可能にする。この新規な方法は、アゴメラチンを、高い再現性で、かつ面倒な精製を必要とせずに、薬学的活性成分としてのその使用に適合する純度で得るのを可能にする。
【0010】
合成過程で一つまたはそれ以上の工程を節約することは、時間の節約、収量の増加、結果としてのより低い最終原価を可能にするため、工業には常に望ましい。しかし、合成手順中の工程数を減らすことは、特に工業的な量が必要とされるときには、些細な課題ではなく、すなわち、1工程に組み合わされた2工程は、存在する試薬の数および量の増加を必要とし、混合物の複雑さが増大するために、反応生成物の精製がより困難になる。最後に、同時に存在する試薬の数が増加するために、副次的生成物の出現する可能性が非常に高くなる。
【0011】
ここに、出願人は、(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルから出発して、直接アゴメラチンを得るのを可能にする、工業的な方法を開発した。
【発明の概要】
【0012】
より具体的には、本発明は、式(I):
【0013】
【化2】

【0014】
で示される化合物を工業的に合成する方法であって、式(II):
【0015】
【化3】

【0016】
で示される(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルを、極性プロトン性媒体中に無水酢酸を含む媒体中、ラネーニッケルの存在下で水素による還元に付して反応させ、式(I)の化合物を得、これを固体形態で単離することを特徴とする方法に関するものである。
【0017】
式(II)の化合物は、有機化学の慣用の反応によって得られる。たとえば、式(II)の化合物は、欧州特許出願公開第1 564 204号および第1 564 205号公報(EP 1 564 204およびEP 1 564 205)に記載のとおり、シアノ酢酸を7−メトキシ−テトラロンと縮合させた後、縮合生成物を酸化することによって得ることができる。
【0018】
好ましくは、本発明による式(I)の化合物への式(II)の化合物の転換は、最低5バールの圧力下で実施し、より好ましくは、10〜50バールの水素圧を用いて実施する。
【0019】
好都合には、本発明による式(I)の化合物への式(II)の化合物の転換は、25〜90℃、より格別には50〜70℃で実施する。
【0020】
式(II)の化合物を式(I)の化合物に転換する反応に用いられるラネーニッケルの量は、少なくとも5重量%、より好ましくは10〜20重量%である。
【0021】
式(II)の化合物を式(I)の化合物に転換する反応のための反応媒体は、好ましくは、一つまたはそれ以上の極性プロトン性媒体、たとえばエタノール、酢酸および/または水、より好ましくはエタノールおよび/または水を含む。場合により、該反応媒体は、酢酸ナトリウムを更に含有する。
【0022】
本方法は、以下の理由で特に有用である:
−式(I)の化合物を、(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルから出発するただ一つの工程で、85%を上回る優れた収量で、工業的規模で得るのを可能にする。したがって、この新規な方法は、式(I)の化合物を、7−メトキシ−テトラロンから出発する3工程のみで製造するのを可能にする。
−得られた式(I)の化合物は、欧州特許出願公開第1 564 202号公報に記載された結晶形態の特性を、再現性良く有する。
−開発された操作条件により、反応の主要な副次的生成物、すなわち二つの中間体どうしの二量体化から生じるN,N−ビス[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドの形成を最小化するのが可能になる。先験的には、(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルから出発して式(I)の化合物を、その後の薬学的な用途に適合する純度条件で直接得ようと考えることは、反応をワンポット反応として実施するときに規模が劇的に増大するこの副次的反応がまさに存在することを考慮すると、実際には非常に困難であって、式(I)の化合物の医薬としてのその後の用途に許容され得る、二量体化された化合物のための不純物レベルに到達するには、操作条件に関する長期間の非常に詳細な研究が必要であったのである。
【0023】
下記の実施例は、本発明を例示するが、いかなる方途でもそれを限定しない。
【実施例1】
【0024】
N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド
工程A:(7−メトキシ−3,4−ジヒドロ−1−ナフチル)アセトニトリル
670リットル入り反応器に、トルエン中の7−メトキシ−1−テトラロン85.0kg、シアノ酢酸60.3kg、およびヘプタン酸15.6kgを、ベンジルアミン12.7kg(またはアニリン11.0kg)の存在下で導入した。混合物を還流にて加熱した。出発物質がすべて消失したとき、溶液を冷却し、ろ過した。得られた沈殿を、トルエンで洗浄し、次いで、得られたろ液を2N水酸化ナトリウム溶液、次いで水で、中性になるまで洗浄した。溶媒を蒸発し去った後、得られた固体を、エタノール/水(80/20)混合物から再結晶させて、標記生成物を、90%の収量、および99%を越える化学的純度で得た。
融点:48〜50℃
【0025】
工程B:(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリル
670リットル入り反応器に、トルエン中の5%炭素担持パラジウム12.6kgを導入し、これを、還流にて加熱し、次いで、トルエンに溶解した(7−メトキシ−3,4−ジヒドロ−1−ナフチル)アセトニトリル96.1kgを加え、またメタクリル酸アリル63.7kgも加えた。反応を、還流にて継続し、蒸気相クロマトグラフィーによって追跡した。出発物質がすべて消失したとき、反応混合物を、周囲温度まで冷却し、次いでろ過した。トルエンを蒸発し去った後、得られた固体残渣を、エタノール/水(80/20)混合物から再結晶させて、標記生成物を、91%の収量、および99%を越える化学的純度で得た。
融点:83℃
【0026】
工程C:N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミド
8リットル入り反応器に、ラネーニッケル136g、エタノール2.06L、および水0.23Lを導入した。70℃、かつ30バールの水素下で撹拌しつつ、工程Bで得られ、無水酢酸(2.4L)に溶解した化合物(0.8kg)を徐々に加えた。添加の終点で、反応混合物を、30バールの水素下で1時間撹拌した。次いで、反応器を減圧に付し、液体をろ過した。混合物を濃縮した後、残渣を、エタノール/水の35/65混合物から晶出させて、標記生成物を、89%の収量、および99%を越える化学的純度で得た。
融点:108℃
【実施例2】
【0027】
実施例1で得た化合物N−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドの結晶形態の決定
Bruker AXS社のD8なる高分解能回折計を用い、以下のパラメーター:2θに関して3〜90°の角度範囲、0.01°のステップ、および1ステップあたり30秒でデータ記録を実施した。実施例1で得たN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドの粉末を、透過搭載支持具上に沈着させた。X線源は、銅管であった(λCuKα1=1.54056Å)。搭載は、前方モノクロメーター(Ge(111)結晶)、およびエネルギー分解型固体式検出器(MXP−D1、Moxtec−SEPH)を含む。化合物は、充分に結晶化されていて、半幅値は、2θに関して0.07°のオーダーであった。
【0028】
上記により、以下のパラメーターを決定した。
−単位胞の結晶構造:単斜晶系
−単位胞のパラメーター:a=20.0903Å、b=9.3194Å、c=15.4796Å、β=108.667°
−空間群:P21/n
−単位胞内の分子数:8
−単位胞の体積:Vunit cell=2746.742Å3
−密度:d=1.13g/cm3
【実施例3】
【0029】
実施例1で得たN−[2−(7−メトキシ−1−ナフチル)エチル]アセトアミドなる化合物の、粉末X線回折図表を用いた結晶形態の決定
実施例1で得た化合物の結晶形態を、Siemens D5005なる回折計(銅の対陰極)を用いて測定され、面間隔d、ブラッグ角2θ、および相対強度(最も強い線に対する百分率として表される)の単位で表される、下記の粉末X線回折図表によって特徴付けた:
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化4】


で示される化合物を工業的に合成する方法であって、式(II):
【化5】


で示される(7−メトキシ−1−ナフチル)アセトニトリルを、極性プロトン性媒体中に無水酢酸を含む媒体中、ラネーニッケルの存在下での水素による還元に付して反応させ、式(I)の化合物を得て、これを固体形態で単離することを特徴とする方法。
【請求項2】
反応を水素の10〜50バールの圧力下で実施することを特徴とする、請求項1記載の式(I)の化合物を合成する方法。
【請求項3】
反応を25〜90℃で実施することを特徴とする、請求項1記載の式(I)の化合物を合成する方法。
【請求項4】
反応に用いられるラネーニッケルの量が10〜20重量%であることを特徴とする、請求項1記載の式(I)の化合物を合成する方法。
【請求項5】
反応のための反応媒体がエタノールおよび/または水を含むことを特徴とする、請求項1記載の式(I)の化合物を合成する方法。

【公開番号】特開2010−111654(P2010−111654A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−182088(P2009−182088)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】