説明

アジドとアルキン含有成分の間の付加環化反応を用いる新規プロトン交換膜

【課題】機械的安定性を向上したイオン伝導性ポリマーの製造方法を提供。
【解決手段】アルキン基などの官能基を含有するポリマーを第一のポリマーとし、アジド基などの官能基を有するポリマーを第二のポリマーとし、触媒として銅などを用いて、各ポリマーの官能基の間の付加環化反応により形成される1,2,3−トリアゾール基などのような形成された窒素含有ヘテロ環を含んでいる架橋を有している。なお、各ポリマーはスルホン酸、ホスホン酸等の酸基を含有することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年12月1日に出願された米国仮出願シリアルナンバー第60/632,249に基づく利益を主張し、その全内容が参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0002】
本発明は、ポリマー、例えば、燃料電池で使用される架橋プロトン交換膜(PEM)に関する。
【背景技術】
【0003】
イオン交換膜には、多くの用途がある。特に、プロトン交換膜(PEM)は燃料電池で使用される。プロトン交換膜(PEM)が燃料電池に適用されることにより、プロトン伝導性ポリマーに大きな関心が持たれるようになった。
【0004】
理想的には、PEMは、高いプロトン伝導性、低い電子伝導性、寸法安定性(水中での膨潤度が小さい)、酸化安定性、還元安定性、加水分解安定性、及び、低い燃料クロスオーバー速度(例えば、ダイレクトメタノール燃料電池に対するメタノールの低いクロスオーバー、又は、H2/O2燃料電池に対する水素若しくは窒素の低いクロスオーバー)を示す。今日まで、中温でプロトンを伝導することが報告されている膜はメタノールと水素の高い浸透性も示し、また、寸法安定性に劣るという欠点を有している。
【0005】
PEMは熱水中で膨潤する傾向が強く、従って、機械的安定性を向上させることを目的とした架橋方法の開発がなされている。Buchiら(J. Electrochem. Soc., 142, 3044(1995))は、スルホン化架橋ポリオレフィン-ポリスチレンコポリマーを用いて合成した材料について報告した。該ポリマーは、ラジカル開始剤の存在下で、ジビニルベンゼンを添加することにより、重合中に架橋される。
【0006】
国際特許出願WO 97/019480(Yen et al.)には、スルホン化ポリマーが直接結合を形成し、その結果、ポリマー鎖が架橋されるということが開示されている。しかしながら、この反応は、イオン交換容量を低減させ、従って、プロトン伝導性を低減させる。
【0007】
Maoらに対する米国特許第6,090,895号明細書には、スルホン酸基をスルホン酸塩化物/臭化物に変換すること及びそれに続く芳香族/脂肪族ジアミンとの反応によるスルホン酸基の活性化を介する部分的に架橋されたポリマーについて開示されている。このスルホンアミド架橋は、燃料電池用途のためには加水分解に対して充分に安定ではなく、また、スルホン酸基を使用することにより、イオン交換容量が低減し、従って、プロトン伝導性が低減する。
【0008】
国際特許出願WO 00/072395(Pintauro et al.)には、紫外線及びベンゾフェノンの存在下におけるスルホン化ポリホスファゼンの架橋について開示されている。米国特許出願公開第2004/0116546(Kosek et al.)には、ペルフルオロカーボン膜にスチレンモノマー及びビニルベンゼンを吸収させてペルフルオロカーボン膜内に架橋ポリマーを生成させることについて開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第97/019480号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,090,895号明細書
【特許文献3】国際公開第00/072395号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願公開第2004/0116546号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Buchiら, J. Electrochem. Soc., 第142巻, p. 3044(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記で開示されているポリマーは、所望の性質、特に、燃料電池の用途に関して所望の性質を提供することができない。これまで報告されている膜は、メタノールと水素の浸透性が高く、また、寸法安定性が不充分である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の実施形態は、架橋されているイオン伝導性ポリマー、そのような架橋されているイオン伝導性ポリマーを含んでいるイオン交換膜、及び、そのようなイオン交換膜を用いた装置を包含する。架橋されているイオン伝導性ポリマーは、末端のアジド基とアルキン基の間の付加環化反応により架橋されて、付加環化反応により形成されたトリアゾール基を有する架橋を形成しているポリマーを包含する。特に、架橋されているプロトン伝導性ポリマーは、燃料電池及び他の装置で使用されるプロトン交換膜(PEM)に有用であるということが開示されている。プロトン交換膜は、さらにまた、高分子電解質膜と称されることもある。
【0013】
プロトン伝導性ポリマーを架橋することにより、該ポリマーを含んでいるPEMの機械的安定性及び寸法安定性が改善される。また、プロトン伝導性ポリマーを架橋することにより、該膜の自由体積(free volume)が低減され、それにより、燃料電池用途において燃料のクロスオーバー速度が有意に低減され得る。本発明のプロトン伝導性ポリマーは、プロトン伝導性を増強するために、さらに、酸基も含み得る。そのようなポリマーの例には、硫酸化ポリマーなどがある。
【0014】
イオン伝導性ポリマーの製造方法は、第1の官能基を有する第1のポリマーを供給すること、第2の官能基を有する第2のポリマーを供給すること、及び、第1の官能基と第2の官能基の間の付加環化反応を用いて第1のポリマーと第2のポリマーを架橋させ、それによりイオン伝導性ポリマーを形成させることを含み、ここで、該イオン伝導性ポリマーは、該付加環化反応により形成された窒素含有ヘテロ環を含んでいる架橋を有している。該第1のポリマー及び/又は該第2のポリマーは、酸ポリマー(acid polymer)、例えば、スルホン酸又はホスホン酸などの酸基を含んでいる酸ポリマーであり得る。
【0015】
本発明のイオン交換膜は、1,2,3-トリアゾール基を含んでいる架橋を有するイオン伝導性ポリマーを含んでいる。該イオン交換膜は、プロトン交換膜、例えば、本発明の燃料電池で使用されるようなプロトン交換膜であり得る。本発明の膜電極アセンブリ(MEA)は、第1の電極、第2の電極、及び、それらの電極の間に挟まれた本発明のイオン交換膜を含んでいる。本発明の膜電極アセンブリは、改良された燃料電池又は他の装置で使用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】高分子電解質燃料電池の簡略化した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
改良された架橋ポリマー及びその製造方法を記述する。その架橋ポリマーは、イオン交換膜(イオン電解質膜と称されることもある)で用いることができる。重要なイオン種は、その用途に応じて、プロトン、アルカリイオン又は別のイオンであり得る。下記例では、プロトン伝導性ポリマーについて論じる。しかしながら、そのアプローチは、別のイオン伝導性ポリマー及びそれから製造した膜でも使用可能であるので、本発明は、プロトン伝導性材料に限定されない。
【0018】
燃料電池は、典型的には、アノード、カソード、燃料源、及び、該アノードと該カソードの間に配置されたプロトン交換膜(PEM)を含んでいる。そのPEMはプロトン伝導性ポリマーを含んでいるが、さらに、プロトン伝導性又は別の電気的性質、機械的性質若しくは他の性質を改善するために選択されたさらなる材料も含み得る。
【0019】
該架橋方法は、自由体積を効果的に低減し、架橋されたポリマーの安定性(熱的安定性及び機械的安定性)を向上させ、その結果、ガス浸透性、膜の劣化及び膜製造コストは有意に低減され得る。従って、本発明の方法及びプロトン伝導性ポリマーは、プロトン交換膜(PEM)燃料電池(FC)での適用に有用である。
【0020】
本発明の代表的な例では、該架橋方法は、アジドと末端アルキン基を銅(I)が触媒するカップリングに付して1,2,3-トリアゾール基を形成させることを含み得るか、又は、別の同様の触媒反応プロセスを含み得る。本発明の方法の例においては、架橋されたプロトン伝導性ポリマーを含んでいるPEMが提供され、該PEMは、従来のPEMと比較して、大幅に増強された寸法安定性及び機械的安定性並びに低減された燃料クロスオーバー速度を有し得る。
【0021】
本発明の一例においては、アジドとアルキン基含有化合物の間の付加環化反応を用いて、PEMで使用するための架橋されたプロトン伝導性ポリマーを合成する。アジドと末端アルキン基の間の銅(I)が触媒する付加環化反応により、1,2,3-トリアゾールが生じる。従って、得られたプロトン伝導性ポリマーは、付加環化により形成されたトリアゾール部分を含んでいる架橋を有している。このPEMの安定性は架橋により改善され、また、自由体積を低減することができる。また、窒素含有ヘテロ環が存在することにより、プロトン伝導性もさらに増強される。
【0022】
下記スキーム1は、反応の例を示す。
【化1】

【0023】
スキーム1に示してあるアジド基とアルキン基の間の反応については、H.C. Kolb 及び K.B Sharpless (Drug Discovery Today, 第8巻, p. 1128-1137(2003))によって、薬物の発見に関連してさらに詳細に説明される。該付加環化の反応速度は、銅(I)触媒により大きく増大される。
【0024】
スキーム1は、アルキン基を有する第2のポリマーに架橋する、アジド基を有する第1のポリマーを例示している。形成された架橋はトリアゾール基を含んでいる。当該官能基(この場合は、アジド基及びアルキン基)は、ポリマー骨格に直接結合させるか、又は、連結基を介して結合させることができる。ポリマー骨格には、複数の官能基を含ませることが可能であり、その際、それらの官能基は同一であっても又は異なっていてもよい。例えば、単一のポリマー種にアジド基とアルキン基の両方を含ませて、それ自体で架橋させることもできる。
【0025】
1,4-置換1,2,3-トリアゾールを形成させるためのアルキンとアジドの付加環化は、「クリック反応」と称されることもある。用語「クリック反応」は、一般に、炭素原子とヘテロ原子の間の、不可逆的で、エネルギー的に非常に有利な、大部分は完結する、互いの間以外では一般に非反応性である2つの基の間で起こる反応のことを指している。本発明の架橋ポリマーを調製するために、架橋内に窒素含有ヘテロ環を形成する別の付加環化反応を包含する別のクリック反応を用いることも可能である。別の例としては、ヘテロ環を含んでいる架橋を形成させるための第1のポリマーの炭素原子と第2のポリマーのヘテロ原子(例えば、酸素、硫黄又は窒素)が関与する反応(ここで、該ヘテロ環は該ヘテロ原子を含んでいる)などがある。架橋反応の例としては、さらに、芳香族ヘテロ環を含んでいる架橋を形成させるための第1のポリマーのカルボニル基と第2のポリマーの反応、及び、炭素-炭素多重結合への別の付加(例えば、エポキシ化)などがある。
【0026】
官能基は、ポリマー骨格に付いている側鎖の基(例えば、末端基)、又は、化学結合を介してポリマー骨格に直接結合している基であり得る。
【0027】
該アジド-アルキン付加環化反応は、プロトン交換膜で用いるための架橋されているプロトン伝導性ポリマーの調製には、これまで、全く用いられていない。形成されたトリアゾール基は、酸化、還元又は加水分解による結合の切断に対して安定である。従って、形成された架橋ポリマーは、燃料電池用途で用いるのに適している。そのトリアゾール基は窒素ヘテロ原子も提供し、これは、該膜のプロトン伝導性を増大させる。
【0028】
該アジド-アルキン反応は、金属同士を接着するのに使用されるトリアゾールポリマーの合成に関連して、文献(Diaz et al., J. Poly. Sci. Part A, 42, 4392-4403(2004))に記載されている。この反応は、文献(Wu et al., Angew. Chem. Int. Ed., 43、3928-3932(2004))に記載されているように、デンドリマーの合成においても用いられてきた。しかしながら、これらの文献及び他の文献は、該反応が起こる実験条件についてのさらなる詳細について記載しているものの、このアプローチを用いてPEMを製造することについては示唆していない。
【0029】
本発明の例では、該アジド-アルキン付加環化反応を用いて、架橋された酸ポリマーなどの架橋ポリマー、例えば、架橋されたポリエーテルケトン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化トリフルオロスチレン誘導体、スルホン化ポリホスファゼン、フッ素化ポリマー(例えば、Nafion)、フッ素化スルホンアミド、双性イオン性アイオネン(zwitterioninc ionene)、別のアイオネン、アイオノマー、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアゾール、スルホン化シリコーン及びポリイミダゾールなどを製造する。さらに、該架橋方法を用いて上記ポリマーのホスホン化類似体を製造することもできる。
【0030】
本発明の方法は、酸化的に及び加水分解的に安定な架橋の生成を介して、イオン交換容量を低減することなく、従って、プロトン伝導性を低減することなく、架橋されたPEMを提供する。さらに、該トリアゾール基が該膜を通したプロトンの輸送を促進し、従って、低い相対湿度におけるプロトン伝導性を向上させる。従って、アジドとアルキン基含有化合物の間の付加環化反応により、向上したプロトン伝導性を有する材料物質の合成が可能となる。そのような方法で製造された架橋プロトン伝導性ポリマーは、燃料電池用途のためのPEMに有用である。
【0031】
この方法で調製された架橋酸ポリマーは、架橋されたポリエーテルケトン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化トリフルオロスチレン誘導体、スルホン化ポリホスファゼン、フッ素化ポリマー(例えば、Nafion)、フッ素化スルホンアミド、双性イオン性アイオネン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアゾール、スルホン化シリコーン及びポリイミダゾールを含み得る。
【0032】
本発明の例においては、1つ以上のアジド基を有する第1のポリマーを供給し、1つ以上のアルキン基を有する第2のポリマーを供給し、該アジド基と該アルキン基を付加環化に付してトリアゾール基を含んでいる架橋を形成させることにより、架橋ポリマーを形成させる。第1のポリマーと第2のポリマーは、同じタイプであってもよい。例えば、単一のポリマーがアジド基とアルキン基の両方を有していてもよい。そのポリマーを、次に、隣接するポリマー分子上のアジド基及びアルキン基との間の付加環化反応により架橋させることができる。
【0033】
改良されたプロトン交換膜(PEM)は、窒素含有ヘテロ環を含んでいる架橋を有する架橋されたプロトン伝導性ポリマーを含んでいる。特定の例では、該窒素含有ヘテロ環は、アジドとアルキンの付加環化により形成されたトリアゾール基である。
【0034】
本発明のイオン伝導性ポリマーは、例えばイオン伝導性を向上させるために、さらなる基を含み得る。さらなる基としては、酸基、孤立電子対をもたらす別の基(例えば、窒素含有ヘテロ環)などを挙げることができる。酸基としては、スルホン酸基、ホスホン酸基、ボロン酸基及び/又は別の酸基等を挙げることができる。従って、架橋されたプロトン伝導性ポリマーのポリマー鎖は、それに結合している酸基をさら含み得る。
【0035】
付加環化は、ポリマーと非ポリマー化合物の間でも起こり得る。代表的な1つの例では、ポリマーにアジド基を付与し、非ポリマー化合物は1つ以上のアルキン基を含んでいる。該ポリマーと該非ポリマーの間で反応させて、例えば形態X-Y-M-Y-X(ここで、Xはポリマーであり、Mは非ポリマーであり、Y基は付加環化により形成された環構造を含んでいる)で表されるネットワークを形成させることにより、架橋を形成させることができる。あるいは、該ポリマーがアルキン基を有していてもよく、該非ポリマーがアジド基を有していてもよく、又は、該ポリマーと非ポリマーの両方がアジド基とアルキン基を有していてもよい。
【0036】
それ自体で架橋する場合、ポリマーは、ほぼ等しい数のアルキン基とアジド基を含み得る。別の例では、どちらか一方の基を過剰に存在させることができ、架橋には用いられないその余分な基は、別の基を該ポリマーに結合させるのに使用され得る。例えば、該ポリマーを架橋させるのに使用されるクリック反応と同じクリック反応を用いて酸含有部分構造を該ポリマーに結合させることができる。
【0037】
本発明の架橋されたポリマーネットワークは、窒素含有ヘテロ環(例えば、該架橋方法の間に付加環化反応により形成された窒素含有ヘテロ環)を含んでいる架橋を有するネットワークを包含する。例えば、アジドと末端アルキンの間の銅(I)で触媒された付加環化反応により、1,2,3-トリアゾールが生じる。別の例では、別の付加環化反応を用いてプロトン伝導性ポリマーを架橋して、窒素含有ヘテロ環を含んでいる架橋を生じさせることが可能である。
【0038】
本発明の例には、一般形態X-Y-Z[ここで、Xは第1のポリマーであり、Yはトリアゾール基を含んでいる架橋であり、Zは第2のポリマー(ここで、該ポリマーはXと同じ種であってもよいし又は異なっていてもよい)である]で表されるイオン伝導性架橋ポリマーなどがある。X及び/又はZは、架橋された状態にあるイオン伝導性ポリマー(例えば、酸ポリマー又はスルホン化ポリマーなど)であり得る。Xは、ポリエーテルケトン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化トリフルオロスチレン、スルホン化ポリホスファゼン、フルオロポリマー、フッ素化スルホンアミド、双性イオン性アイオネン、アイオノマー、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアゾール、スルホン化シリコーン、ポリイミダゾール及びそれらの誘導体からなるポリマーの群から選択することができる。
【0039】
改良されたプロトン交換膜は、第1のポリマーと第2のポリマーの反応生成物として形成された架橋イオン伝導性ポリマーを含んでおり、ここで、第1のポリマーはアルキン基を含んでおり、第2のポリマーはアジド基を含んでおり、該アルキン基と該アジド基は付加環化反応を受けてトリアゾール基を形成する。この第1のポリマーと第2のポリマーは同一の種であってもよいし又は異なった種であってもよい。プロトン伝導性膜を調製するための改善された方法は、第1のポリマーと第2のポリマーを架橋させることを含み、ここで、その架橋ステップは、第1のポリマーのアジド基と第2のポリマーのアルキン基を付加環化反応させてトリアゾール基を形成させることを含む。ここでも、第1のポリマーと第2のポリマーは同一であってもよいし又は異なっていてもよい。該第1のポリマー及び/又は第2のポリマーは、酸性プロトン伝導性ポリマーなどのプロトン伝導性ポリマーでありうる。
【0040】
本発明の実施形態には、さらに、架橋可能なプロトン伝導性ポリマー、例えば、アルキン基とアジド基の両方を有しているプロトン伝導性ポリマーなども包含される。例としては、置換基として酸基、アルキン基及びアジド基を有している架橋可能なプロトン伝導性ポリマーなどがある。例としては、形態X-Y-Z(ここで、Xは酸基を含んでおり、Yはポリマー骨格であり、Zはアルキン基及び/又はアジド基を含んでいる)で表されるポリマーがある。
【0041】
従って、イオン伝導性ポリマーの製造方法は、アルキン基とアジド基を有するポリマーを架橋させることを含む。そのイオン伝導性ポリマーは、アルキン基とアジド基の間の付加環化反応により形成された1,2,3-トリアゾール基を含んでいる架橋を有する。
【0042】
図1は、慣用の高分子電解質燃料電池の簡略化した概略図であり、第1の電極(10)、第2の電極(12)、第1の電極と第2の電極の間に配置されたプロトン交換膜(14)、第1の電極と第2の電極に電気的に接続された電気負荷(16)、及び、燃料源(18)を含んでいる。例えば、燃料電池(18)は、第1の電極(即ち、アノード)に水素を供給することができ、第2の電極(即ち、カソード)には燃料として作用する大気酸素を供給することができる。該燃料電池の作動中に水及び電子(この電子は、該負荷を通る)が生成される。本発明のプロトン交換膜は任意の形状の高分子電解質燃料電池で使用可能であるので、上記例示は限定的であることは意図されていない。燃料電池には、さらに、触媒層、集電装置、燃料及び廃物取扱いシステムなどの他の構成要素も含ませることができる。
【0043】
従って、本発明の燃料電池は、第1の電極、第2の電極、第1の電極と第2の電極の間に配置されたPEM、及び、燃料源を含んでいる。そのようなPEMは、本発明の例に従うプロトン伝導性ポリマー(例えば、1,4-二置換1,2,3-トリアゾール基を含んでいる架橋を有するプロトン伝導性ポリマー)を含んでいる。
【0044】
本発明の膜電極アセンブリ(MEA)は、第1の電極、第2の電極、及び、第1の電極と第2の電極の間に挟まれた本発明のイオン交換膜を含んでいる。例えば、図1を再度参照すれば、MEAは、イオン交換膜(この場合、プロトン交換膜(14))を間に挟んでいる第1の電極(10)と第2の電極(12)を含み得る。本発明の膜電極アセンブリは、改良された燃料電池又は別の装置で使用することができる。
【0045】
本発明のイオン交換膜の用途としては、改良された燃料電池、例えば、水素燃料電池、ダイレクトメタノール燃料電池及び他の燃料電池などがある。他の用途としては、エレクトロクロミック(electrochromic)装置、コンデンサー、水素分離精製装置、炭化水素燃料を改質又は部分的に酸化するための装置、汚染物除去装置、ガスセンサ、電気分解装置、透析装置、電気透析装置、他の電気化学的装置、並びに、エネルギーの貯蔵及び変換に関連した別の装置などがある。該イオン交換膜の厚さは、一般的に、その用途に応じてさまざまである。燃料電池及び他の用途の場合、その厚さは、0.05〜0.5mm(例えば、約0.2mm)であり得るが、別の厚さも可能である。該イオン交換膜は、相当のイオン伝導性を有している。
【0046】
イオン交換膜には、さらに、イオン伝導性を向上させるための付加的な成分、例えば、遊離酸分子(例えば、リン酸、硫酸、固形の無機酸、又は、1つ以上の酸基を含んでいる遊離分子など)、イオン伝導性無機化合物、又は、別のイオン伝導性ポリマー(例えば、Nafion(登録商標))、金属粒子なども含ませることができる。イオン交換膜には、さらに、水又は別の溶媒も含ませることができる。機械的性質を改善するために、ポリマー繊維などの他の成分も含ませることができる。
【0047】
本発明は、上記で記載した例証的な例に限定されない。例は、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中に記載されている方法、装置、組成物などは、例示であって、本発明の範囲を限定するものではない。その変更及び他の用途は、当業者には明らかである。本発明の範囲は、「特許請求の範囲」の範囲によって定義される。
【0048】
本明細書中で言及されている特許、特許出願又は刊行物は、あたかも個々の文献について明確に且つ個別的に示されている程度まで、参照により本明細書に組み入れる。特に、2004年12月1日に出願された米国仮出願シリアルナンバー第60/632,249は、参照により本明細書に組み入れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性ポリマーの製造方法であって、
第1の官能基を有する第1のポリマーを供給すること;
第2の官能基を有する第2のポリマーを供給すること;
及び
第1の官能基と第2の官能基の間の付加環化反応を用いて第1のポリマーと第2のポリマーを架橋させ、それによりイオン伝導性ポリマーを形成させること;
を含み、
ここで、該イオン伝導性ポリマーは、該付加環化反応により形成された窒素含有ヘテロ環を含んでいる架橋を有している、前記方法。
【請求項2】
前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーが同一の分子種である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の官能基がアジド基であり、前記第2の官能基がアルキン基であり、前記窒素含有ヘテロ環が1,4-置換1,2,3-トリアゾールである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン伝導性ポリマーがプロトン伝導性ポリマーである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のポリマーが酸ポリマーである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のポリマー及び前記第2のポリマーが両方とも酸ポリマーである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のポリマーがスルホン酸基を含んでいる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のポリマーがホスホン酸基を含んでいる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、プロトン伝導性ポリマーを含んでいるプロトン交換膜の製造方法である、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
請求項9に記載のプロトン伝導性膜を含んでいる燃料電池。
【請求項11】
前記第1のポリマーが、ポリエーテルケトン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化トリフルオロスチレン、スルホン化ポリホスファゼン、フルオロポリマー、フッ素化スルホンアミド、双性イオン性アイオネン、アイオノマー、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリアゾール、スルホン化シリコーン及びポリイミダゾールからなるポリマーの群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
イオン交換膜であって、1,2,3-トリアゾール基を含んでいる架橋を有するイオン伝導性ポリマーを含んでいる、前記イオン交換膜。
【請求項13】
前記イオン交換膜がプロトン交換膜である、請求項12に記載のイオン交換膜。
【請求項14】
前記架橋ポリマーがそれに結合している酸基をさらに有している、請求項12に記載のイオン交換膜。
【請求項15】
前記酸基が、スルホン酸、ホスホン酸及びボロン酸からなる酸基の群から選択される、請求項14に記載のイオン交換膜。
【請求項16】
請求項12に記載のイオン交換膜を含んでいる燃料電池。
【請求項17】
膜電極アセンブリであって、
第1の電極;
第2の電極;
及び
第1の電極と第2の電極の間に配置されたイオン交換膜;
を含み、
ここで、該イオン交換膜が1,2,3-トリアゾール基を含んでいる架橋を有する架橋イオン伝導性ポリマーを含んでいる、前記膜電極アセンブリ。
【請求項18】
前記イオン交換膜がプロトン交換膜である、請求項17に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項19】
請求項18に記載の膜電極アセンブリを含んでいる燃料電池。
【請求項20】
前記イオン伝導性ポリマーが酸ポリマーである、請求項17に記載の膜電極アセンブリ。
【請求項21】
ポリマーの製造方法であって、
第1の官能基を有する第1のポリマー骨格を提供すること;
第2の官能基を有する第2のポリマー骨格を提供すること;
及び
第1の官能基と第2の官能基の間の付加環化反応を用いて第1のポリマー骨格と第2のポリマー骨格を架橋させること
を含む前記方法。
【請求項22】
前記第1の官能基がアジド基であり、前記第2の官能基がアルキン基である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリマーが窒素含有ヘテロ環を有している少なくとも1つの架橋を含んでいる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記窒素含有ヘテロ環が1,2,3-トリアゾール基を含んでいる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記窒素含有ヘテロ環が1,4-置換1,2,3-トリアゾールである、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
第1の骨格と第2の骨格を含んでいるポリマーであって、前記第1の骨格と前記第2の骨格が互いの間で1つ以上の架橋を有しており、前記1つ以上の架橋が付加環化反応により形成されたものである、前記ポリマー。
【請求項27】
前記付加環化反応によって、前記第1の骨格の少なくとも1つのアジド基と前記第2の骨格の少なくとも1つのアルキン基との間の1つ以上の架橋が形成されている、請求項26に記載のポリマー。
【請求項28】
1つ以上の前記架橋が窒素含有ヘテロ環を含んでいる、請求項26に記載のポリマー。
【請求項29】
前記窒素含有ヘテロ環が1,2,3-トリアゾール基を含んでいる、請求項28に記載のポリマー。
【請求項30】
前記窒素含有ヘテロ環が1,4-置換1,2,3-トリアゾールである、請求項28に記載のポリマー。
【請求項31】
第1の骨格と第2の骨格を含んでいるポリマーであって、前記第1の骨格と前記第2の骨格が互いの間で1つ以上の架橋を有しており、前記1つ以上の架橋が窒素含有ヘテロ環を含んでいる、前記ポリマー。
【請求項32】
前記窒素含有ヘテロ環が1,2,3-トリアゾール基を含んでいる、請求項31に記載のポリマー。
【請求項33】
前記窒素含有ヘテロ環が1,4-置換1,2,3-トリアゾールである、請求項31に記載のポリマー。

【図1】
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【公開番号】特開2011−168779(P2011−168779A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17560(P2011−17560)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【分割の表示】特願2007−544502(P2007−544502)の分割
【原出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(505406626)トヨタ テクニカル センター,ユー.エス.エー.,インコーポレイティド (3)
【Fターム(参考)】