説明

アスファルト組成物

【課題】アスファルト混合物の製造温度を従来より10〜50℃低減しても、生産能力を低下させることなく、かつ従来と同等以上の性能を有するアスファルト混合物を得ることができる、アスファルト組成物を提供する。
【解決手段】アスファルトに、(A)下記の一般式(1)
1−CONH−R2 ・・・・(1)
(式中、R1は、水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数7〜23のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は、水素、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属、あるいは水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)で表される脂肪酸アミド化合物、及び(B)炭素数8〜30の脂肪酸の周期律表第3、4、7,8、若しくは11〜14族金属塩、の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸誘導体を配合してなるアスファルト組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト組成物に関し、詳しくは、舗装用に用いるアスファルト混合物を低温で製造することが可能なアスファルト組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アスファルト舗装は、主材料となるアスファルト混合物の製造設備が全国に普及しており、材料が入手しやすいこと、施工技術が確立しており維持修繕が容易であること、かつ安価であることから多くの舗装に利用されている。
【0003】
舗装に用いられるアスファルト混合物は、製造あるいは施工するときにアスファルトの粘度を下げて、適切な混合性あるいは作業性を維持しなければならない。このため、アスファルト混合物は、加熱式アスファルト混合物製造所において骨材、砂、フィラー、アスファルトなどを通常140〜160℃で加熱混合して製造されている。
また、耐久性を向上させるため、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体(SBS)などの高分子材料により改質されたアスファルトを用いたアスファルト混合物(以下、改質アスファルト混合物)を用いる場合、粘度が通常のアスファルトよりも高いことから160〜185℃の高温で製造されている。舗装施工は、製造温度からそれぞれ10〜30℃程度低下した温度により通常行われている。
【0004】
構築した舗装は、一般車両が通行可能となる50℃程度まで冷却されなければならず、施工温度が高ければ、当然交通規制の時間が長くなり工事渋滞などの問題につながる。このことから、アスファルト混合物の製造、施工温度はできるだけ低温であることが望ましい。
【0005】
また、近年では、地球環境の保全が世界的な急務となっており、我が国でも国土交通省をはじめ多くの機関が、温室効果ガスの一つであるCO2の排出抑制対策に取り組んでいる。
【0006】
舗装業界においては、石油資源の消費抑制、CO2の削減、あるいは作業性の向上を目的として、アスファルト混合物の製造時、舗装施工時の温度を10〜50℃下げても、所定の性能が得られる技術(以下、中温化技術)の開発がなされている。
【0007】
かかる中温化技術は、通常の製造温度で製造したアスファルト混合物でも、外気温の影響を受け、所定の施工温度を維持することが難しい寒冷期の施工あるいは温度の冷え易い薄層での施工においても有効な手段と考えられている。
【0008】
従来アスファルト混合物における中温化技術として、(1)発泡系材料を添加し、アスファルト中に微細な気泡を発生させることによるベアリング効果を利用した技術(例えば、特許文献1、2参照)、(2)アスファルト中に水または水蒸気などを添加し、泡を発生させ粘度を低下させる技術(例えば、特許文献3参照)、(3)アスファルトの粘度を低減させる添加剤(中温化材)を使用する技術(例えば、特許文献4,5参照)などが提案されている。
【0009】
前記(1)及び(2)の技術は、発泡時間を確保するため、アスファルト混合物の製造時に1バッチ(大半の加熱式アスファルト混合物製造所は、1トン〜4トン/1バッチ)ごとに薬品あるいは水分を含有する物質を添加する(プラントミックス)必要がある。このため、製造時間が異なる混合物の間で品質のばらつきが生じやすい。さらに、薬品あるいは水分を含有する物質を人力により投入しなければならないため、工事に使用するアスファルト混合物が大量であれば多大な労力を必要とするとともにアスファルト混合物の生産能力の低下を招くこととなる。
【0010】
また、(3)の技術にあるアスファルトの粘度低減剤として用いられる薬品として、石油系ワックス、合成系ワックスが検討されているが、舗装材の性能低下を招くことがあるため別途補強材の添加を必要とするなどの問題が有る。
【0011】
【特許文献1】特許第3839203号公報
【特許文献2】特開2002−332606号公報
【特許文献3】特開2001−64065号公報
【特許文献4】特開2006−57077号公報
【特許文献5】特許第3818849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、このような状況下においてなされたものであり、アスファルト混合物の製造温度を従来より10〜50℃低減しても、生産能力を低下させることなく、かつ従来と同等以上の性能を有するアスファルト混合物を得ることができる、アスファルト組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、中温化材として、特定の脂肪酸誘導体を用い、これをアスファルトに配合したアスファルト組成物が、前記課題を解決し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、本発明は、
【0014】
〔1〕アスファルトに、(A)下記の一般式(1)
1−CONH−R2 ・・・・(1)
(式中、R1は、水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数7〜23のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は、水素、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属、あるいは水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸アミド化合物、及び
(B)炭素数8〜30の脂肪酸の周期律表第3、4、7,8、若しくは11〜14族金属塩、
の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸誘導体を配合してなるアスファルト組成物、
〔2〕前記脂肪酸誘導体の融点が、60℃以上170℃以下である前記〔1〕に記載のアスファルト組成物、
〔3〕アスファルト組成物における脂肪酸誘導体の配合量が、アスファルト組成物基準で0.05〜10質量%の範囲である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のアスファルト組成物、
〔4〕前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のアスファルト組成物に、さらに骨材を配合してなるアスファルト混合物、
〔5〕舗装用アスファルト混合物に用いる前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のアスファルト組成物、及び
〔6〕舗装用アスファルトに用いる前記〔4〕に記載のアスファルト混合物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アスファルト混合物の製造温度を、従来より10〜50℃低減しても、生産能力を低下させることなく、かつ従来と同等以上の性能を有するアスファルト混合物を得ることができる。
【0016】
また、本発明によれば、アスファルト混合物の製造温度を低減することが可能となったことにより、加熱に必要とされる石油資源の消費が抑制され、燃料消費抑制によりCO2の発生も削減できる。
また、本発明によれば、アスファルト混合物の製造温度を低減させることができるため、舗設したアスファルト舗装の温度が50℃程度まで冷却されるに要する時間を短縮することができる。このことにより、工事時間の短縮、アスファルト舗装の日施工量の増加、あるいは都市部における工事渋滞の緩和やこれに伴う車両の燃料消費の軽減が可能となる。
さらに本発明によれば、施工に必要な温度を確保することが難しい寒冷期での施工あるいは温度が冷え易い薄層での施工であっても良好な施工が可能となる効果がある。
さらに本発明によれば、事前に中温化材をアスファルトに混合すること(プレミックス)ができるため、加熱式アスファルト混合物製造所で特殊な薬品あるいは水分を含有する物質を製造ロットごとに投入(プラントミックス)する必要がない。このことから、アスファルト混合物の品質は安定しておりかつ生産能力を低下させることなくアスファルト混合物を供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のアスファルト組成物は、(A)特定の脂肪酸アミド化合物と(B)特定の脂肪酸金属塩の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸誘導体である中温化材を、アスファルトに配合してなるものである。
(A)は、下記の一般式(1)
1−CONH−R2 ・・・・(1)
で表される脂肪酸アミド化合物である。
【0018】
式中、R1は、置換基を有してもよい炭素数7〜23の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基である。R1は、性能上、炭素数11〜21のアルキル基又はアルケニル基であることがより好ましい。
1の、「置換基を有してもよい」の置換基は、水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩である。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウム、アルカリ土類金属としてはマグネシウム、カルシウム、バリウム、周期律表第12族金属としては、亜鉛が代表例として挙げられる。R1は、これらの置換基1種を1以上有していてもよく、該置換基2種以上を各1以上有してもよい。
これらの置換基の中でも、入手の容易性の点から、水酸基が好ましい。
【0019】
一方、一般式(1)のR2は、水素、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属、若しくは置換基を有してもよい炭素数1〜24、好ましくは、12〜22の直鎖状又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基を表す。R2の「置換基を有してもよい」の置換基は、前記R1の場合と同様のものである。
【0020】
一般式(1)で表される脂肪酸アミド化合物の具体例としては、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、ヤシ油脂肪酸アミド、なたね油脂肪酸アミド、牛脂脂肪酸アミド、豚脂脂肪酸アミド、N−ラウリルラウリン酸アミド、N−パルミチルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−ステアリルパルミチン酸アミド、N−ステアリル12−ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイル12−ヒドロキシステアリン酸アミドなどが好適なものとして挙げられる。
これらの中でも、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、12−ヒドロキシステアリン酸アミドなどが、性能及び入手性の点で好ましい。
【0021】
本発明に用いる中温化材(B)としては、脂肪酸金属塩を用いる。
当該脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、炭素数8〜30の脂肪酸であり、炭素数12〜22の脂肪酸がより好ましい。この脂肪酸は、直鎖状又は分岐状の飽和若しくは不飽和の脂肪酸であり、1または2以上の水酸基を有していてもよい。具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ヤシ油脂肪酸、なたね油脂肪酸、牛脂脂肪酸、豚脂脂肪酸などの油脂脂肪酸が好適なものとして挙げられる。
一方、脂肪酸金属塩を構成する金属としては、周期律表第3、4、7,8、及び11〜14族の金属が使用でき、例えば、セリウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、鉛の中から選択される金属が好ましい。中でも、性能及び入手性の点から、亜鉛、銅、アルミニウムなどが好ましく、特に亜鉛が好ましい。
【0022】
脂肪酸金属塩の具定例としては、例えば、ラウリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛、パルミオチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、ラウリン酸銅、ミリスチン酸銅、パルミオチン酸銅、ステアリン酸銅、12−ヒドロキシステアリン酸銅、オレイン酸銅、ラウリン酸アルミニウム、ミリスチン酸アルミニウム、パルミオチン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、12−ヒドロキシステアリン酸アルミニウム、オレイン酸アルミニウムなどが好適なものとして挙げられる。
【0023】
本発明に使用する中温化材(A)、(B)の脂肪酸誘導体は、融点が60℃以上170℃以下のものが好ましく、融点が70℃以上130℃以下のものがより好ましい。
融点が60℃以上であれば、組成物の製造時に煙を発生して環境を損なう恐れがなく、170℃以下であれば、アスファルト混合物の粘度低下が十分に達成され、その製造温度を低減することができる。
【0024】
本発明のアスファルト組成物は、上記脂肪酸誘導体をアスファルトに配合して得られる。
該アスファルトとしては、特に制限はなく、種々のアスファルトが使用でき、例えば、舗装用石油アスファルトであるストレートアスファルトのほか、スチレン・ブタジエン・ブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体(SIS)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)など熱可塑性エラストマーなど高分子材料で改質した改質アスファルトなども含まれる。
【0025】
本発明では、中温化材としての脂肪酸誘導体とアスファルトとを配合して得られる組成物であるが、該脂肪酸誘導体の配合量は、アスファルト組成物基準で、0.05〜10質量%の範囲であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
脂肪酸誘導体の配合量が0.05質量%以上であれば、製造温度を低減しても良好な性能を有するアスファルト混合物が得られ、10質量%以下であれば、配合量に見合った効果が得られ経済性を損なう恐れはない。
【0026】
本発明のアスファルト組成物の製造方法については、特に制限はなく、いかなる方法で製造してもよい。例えば、事前にアスファルトを溶融させ、所定量の脂肪酸誘導体を配合することによりアスファルト組成物を製造すればよい。
【0027】
本発明におけるアスファルト混合物は、前記アスファルト組成物に、さらに骨材を配合してなるものである。
該アスファルト混合物の製造方法は、通常本発明のアスファルト組成物を製造し、その後にそのアスファルト組成物に骨材(必要により、さらにその他の配合材)を配合して製造する。この場合の製造温度(混合温度)としては、従来の製造温度より10〜50℃低い温度で製造することができる。このような低温で製造しても、良好な性能を有するアスファルト混合物を得ることができる。
また、アスファルト混合物の製造方法として、アスファルトに、脂肪酸誘導体と共に骨材を直接配合して製造してもよい。この場合の製造温度は、前記アスファルト組成物に骨材などを配合して製造する場合と同じ方法を用いることができる。この方法は、本発明の中温化材である、脂肪酸誘導体がアスファルトに対して相溶性が高いことを利用したものであり、アスファルト混合物を少量製造する場合に有効な製造方法である。
【0028】
本発明のアスファルト組成物及びアスファルト混合物は、種々の用途に利用できるが、特に、舗装用アスファルトの製造に有効に利用できる。
【実施例】
【0029】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
実施例1〜3
中温化材として融点が異なる3種類(A、B、C)の脂肪酸誘導体を用意し、それぞれ単独でストレートアスファルト60/80(針入度60以上80以下を表す。以下同じ)に対し組成物基準で2.5質量%配合して実施例1〜3のアスファルト組成物を得た。
なお、脂肪酸誘導体Aは、ステアリン酸アミド(融点101℃)、Bは、オレイン酸アミド(融点75℃)、Cは、ステアリン酸亜鉛(融点128℃)である。
【0031】
前記アスファルト組成物と骨材、砂およびフィラーを混合して密粒度アスファルト混合物(以下、密粒度混合物)を調製した。このときの温度条件は、通常のアスファルト混合物を製造するときの設定温度よりも30℃低い混合温度130℃、締固め温度110℃とした。
【0032】
比較例1
中温化材として市販されているワックス系材料をストレートアスファルト60/80に対し組成物基準で2.5質量%配合したアスファルト組成物を製造し、これを用いて実施例1〜3と同様に密粒度混合物を調製した。
【0033】
比較例2
実施例1〜3と同配合のストレートアスファルト60/80、骨材、砂およびフィラーを混合する際に、中温化材として市販されている発泡系材料をストレートアスファルト60/80に対し組成物基準で2.5質量%加えて密粒度混合物を調製した。また、混合物調製時の温度条件は、実施例1〜3と同様に混合温度130℃、締固め温度110℃とした。
【0034】
比較例3、4
比較例3、4は、中温化材を使用しない以外は実施例1〜3と同配合の密粒度混合物を、温度条件を変えて調製した。
【0035】
実施例4
実施例4のアスファルトには、(社)日本道路協会にて出版される舗装設計施工指針に記載されるポリマー改質アスファルトII型(以下、改質IIと称す)を用いた。
前記改質II型に実施例1で用いた脂肪酸アミドAを改質II型に対し組成物基準で2.5質量%添加してアスファルト組成物を得た。
前記アスファルト組成物と骨材、砂およびフィラーを混合して密粒度混合物を調製した。このときの温度条件は、通常の設定温度よりも50℃低い混合温度125℃、締固め温度105℃とした。
【0036】
実施例5〜7
実施例5〜7に用いたアスファルト組成物は、実施例1〜3で用いた融点が異なる3種類(A、B、C)の脂肪酸誘導体を用い、それぞれ単独で改質II型に対し組成物基準で2.5質量%添加して得た。
前記アスファルト組成物と骨材、砂およびフィラーを混合して密粒度混合物を調製した。また、このときの温度条件は、通常の設定温度よりも30℃低い混合温度145℃、締固め温度125℃とした。
【0037】
比較例5
中温化材として市販されているワックス系材料を改質II型に対し組成物基準で2.5質量%添加したアスファルトを製造し、これを用いて実施例5〜7と同様に密粒度混合物を調製した。
【0038】
比較例6
実施例5〜7と同配合の改質II型、骨材、砂およびフィラーを混合する際に、中温化材として市販されている発泡系材料を改質II型に対し組成物基準で2.5質量%加えて密粒度混合物を調製した。また、混合物調製時の温度条件は、実施例5〜7と同様に混合温度145℃、締固め温度125℃とした。
【0039】
比較例7、8
比較例7、8は、中温化材を使用しない以外は実施例5〜7と同じ配合の密粒度混合物を、温度条件を変えて調製した。
【0040】
前記実施例1〜7および比較例1〜8の試料についてジャイレトリー試験機(以下、SGC)によるアスファルトの締固め試験とホイールトラッキング試験を行った。これらの実験方法を以下に示す。また、その結果を第1表に示す。
〔SGCによるアスファルトの締固め試験〕
(社)日本道路協会にて出版されている「舗装調査・試験法便覧」に記載されている「ジャイレトリー試験機によるアスファルトの締固め試験方法」に準拠して行った。SGCの仕様は、旋回角度1.25°、締固め圧力600kPa、モールド直径10cm、旋回回転速度30rpmである。表中のSGCの旋回数は、供試体が基準密度となるまでの回転数を示す。この旋回数が少ないほど供試体の締固めが容易であることを示す。
〔ホイールトラッキング試験〕
(社)日本道路協会にて出版されている「舗装調査・試験法便覧」に記載されている「ホイールトラッキング試験」に準拠して行った。動的安定度とは、試験温度60℃において走行車輪が供試体表面から1mm沈下するまでの走行回数を指す。動的安定度が大きいほど、わだち掘れ抵抗性が高いことを示す。この値には舗装設計施工指針((社)日本道路協会)の規格がある。
【0041】
【表1】

【0042】
なお、表中の「動的安定度の規格T3000以上=3000以上」とは、舗装計画交通量が3000台以上の路線の場合に3000回/mm以上の値が必要であることを示している。同様に、T3000未満=1500以上とは、舗装計画交通量が3000台未満の路線の場合に1500回/mm以上の値が必要であることを示している。その他=500以上とは、交通量が少ない路線では500回/mm以上の値が必要であることを意味する。
【0043】
第1表より、以下のことが分る。
本発明のアスファルト組成物を用いた場合の製造温度については、ストレートアスファルト60/80を用いた場合は30℃、改質II型を用いた場合は30℃あるいは50℃まで下げてもSGCによる旋回数は、通常の温度で製造・締固めを行った混合物と同等の旋回数である。したがってアスファルト混合物の製造から締固めまでの温度を低減できることが分る(実施例1〜3と比較例4、及び実施例4〜7と比較例8)。
【0044】
また、本発明のアスファルト組成物を用いれば、中温化材として市販されているワックス系材料や発泡系材料を用いたアスファルト組成物(比較例1,2、5,6)と比較しても同等以上の締固め特性を有していることが分る。
【0045】
さらに、本発明のアスファルト組成物を用いることにより、温度条件をストレートアスファルト60/80を用いた場合は30℃、改質II型を用いた場合は30℃あるいは50℃まで下げてもアスファルト混合物の動的安定度は低下せず、重交通路線に必要となる動的安定度3,000回/mm以上を十分満足する。このことから、アスファルト混合物の製造から締固めまでの温度を低減してもアスファルト混合物の品質に問題ないことが分る(実施例1〜3と比較例4、及び実施例4〜7と比較例8)。
【0046】
次に、本発明について、実際の加熱式アスファルト混合製造所において、試験製造・施工を行い、温度低減効果を確認した。
【0047】
実施例8、9、及び比較例9〜13
実施例8、9では、実施例4、5と同配合、同温度条件により加熱式アスファルト混合物製造所で密粒度混合物を製造した。また、施工場所までの移動時間を考慮し、ミキサーにより排出された密粒度混合物をダンプに積み込み30分運搬した後に施工を行った。また、比較例9〜13では、中温化材を添加しないアスファルト混合物と発泡系材料を配合したアスファルト混合物について、実施例8、9と同様に製造・施工を行った。
各温度条件および施工した混合物の締固め度を第2表に示す。
【0048】
なお、施工に用いた施工機械は、通常のアスファルト舗装と同様に、アスファルトフィニッシャにより混合物を敷きならし、初期転圧にマカダムローラ(12トン)、次いで仕上げ転圧にタイヤローラ(15トン)を用いた。また、試験施工後、施工箇所より切り取り供試体を採取し、締固め度を確認した。
【0049】
【表2】

【0050】
第2表より、実際使用されるアスファルト混合物の製造設備および施工機械を用いた試験によれば、本発明品を用いることにより、混合・締固め温度を低減しても所定の締固め度を得られることが分る。
また、本発明に従えば、中温化材として市販されている発泡系材料用いる場合と比較しても、同等以上の締固め度を得ることができる(実施例8と比較例10、及び実施例9と12)。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、アスファルト混合物の製造温度を、従来より10〜50℃低減しても、生産能力を低下させることなく、かつ従来と同等以上の性能を有するアスファルト混合物を得ることができる。したがって、有用な中温化技術が実施可能となり、石油資源の消費を低減でき、それに伴ってCO2の発生を抑制することができる。また、アスファルト舗装の温度が50℃程度まで冷却されるまでに要する時間を短縮することができ、工事時間の短縮、アスファルト舗装の日施工量の増加、あるいは都市部における工事渋滞の緩和やこれに伴う車両の燃料消費の軽減などに貢献することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスファルトに、(A)下記の一般式(1)
1−CONH−R2 ・・・・(1)
(式中、R1は、水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数7〜23のアルキル基又はアルケニル基を示し、R2は、水素、またはアルカリ金属、アルカリ土類金属及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属、あるいは水酸基、または水酸基のアルカリ金属、アルカリ土類金属、及び周期律表第12族金属の中から選ばれる金属の塩で置換されてもよい炭素数1〜24のアルキル基又はアルケニル基を示す。)
で表される脂肪酸アミド化合物、及び
(B)炭素数8〜30の脂肪酸の周期律表第3、4、7,8、若しくは11〜14族金属塩、
の中から選ばれる一種又は二種以上の脂肪酸誘導体を配合してなるアスファルト組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸誘導体の融点が、60℃以上170℃以下である請求項1に記載のアスファルト組成物。
【請求項3】
アスファルト組成物における脂肪酸誘導体の配合量が、アスファルト組成物基準で0.05〜10質量%の範囲である、請求項1又は2に記載のアスファルト組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアスファルト組成物に、さらに、骨材を配合してなるアスファルト混合物。
【請求項5】
舗装用アスファルト混合物に用いる請求項1〜3のいずれかに記載のアスファルト組成物。
【請求項6】
舗装用アスファルトに用いる請求項4に記載のアスファルト混合物。

【公開番号】特開2009−221436(P2009−221436A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70288(P2008−70288)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(390019998)東亜道路工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】