説明

アスベスト無害化処理方法及び該処理方法による土壌改良剤

【課題】容易に入手することができる材料を使用してアスベストを無害化し、さらに処理後のアスベストを土壌改良剤として再利用することができるアスベスト無害化処理方法及び該処理方法による土壌改良剤を提供する。
【解決手段】アスベストと酸処理剤をミキサーに入れて約2時間混合する。次に、酸処理したアスベストをミキサーから取り出し、第1処理で使用したミキサーとは別のミキサーに入れる。そしてアスベストに生石灰と水を加えてミキサーで混練する。アスベストと生石灰と酸素の化学反応と、生石灰に水を加えると発生する熱による高温処理によって、クリソタイルはケイ酸カルシウム等に変化していく。そして、アスベスト、生石灰及び水の混練物が完全に団子状の固化物になったら加水と混練を終了する。その後、ミキサーから固化物を取り出して冷却し、細かく粒状に破砕して土壌改良剤にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来から建物の保温等のために広く用いられてきたが、人体への危険性により現在では使用が禁止され、その処理が大きな問題となっているアスベストを無害化するアスベスト無害化処理方法及び該処理方法による土壌改良剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは非常に微細な針状結晶からなる天然の鉱物繊維の一種であり、耐久性、耐熱性、耐薬品性等に優れ、さらに安価であることから「奇跡の鉱物」として建設資材、電気製品、自動車、家庭用品等に幅広く利用されてきた。しかし、アスベストが空気中に飛散して人の肺に侵入すると、微細な針状結晶が肺に突き刺さり、長い潜伏期間を経て数十年後に肺がん、悪性中皮種、肺繊維症などが引き起こされる。したがって、現在では人体に大きな健康被害をもたらす物質として使用が禁止されており、その存在及び処理が大きな社会問題となっている。そこで、アスベストに水を含浸させ、その後石灰の粉状体を吹き付けることにより、アスベストが飛散するのを防止するアスベスト飛散防止工法がある(特許文献1)。また、アスベストの処理方法としては、溶解炉で1500〜2000度の高温でアスベストを加熱して融解させ、その後融解処理したアスベストを固化し、廃棄物として埋設処理するアスベスト溶解処理方法がある(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3787350号公報
【特許文献2】特開2007−319838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述のアスベスト飛散防止工法はアスベストが空気中へ飛散するのを防ぐだけであり、大量のアスベストは残存したままであるからアスベストの危険性が解消したとは言い難い。また、上述のアスベスト溶解処理方法はアスベストを高温で加熱し融解させるものであるから、大掛かりで高温に耐えることができる溶解炉が必要であり、溶解炉設置等のイニシャルコストがかかるし、加熱処理するための燃料コストが嵩むという問題がある。さらに融解したアスベストは固化して埋設処理するから大量のアスベスト廃棄物を埋設するための埋設処理場としての土地を確保しなければならないという問題、その埋設処理場の管理等のコストが嵩むという問題もある。
【0004】
本発明は上述した従来技術の欠点に鑑みなされたもので、大型の装置を用いることなく、また容易に入手することができる材料を使用することにより確実にアスベストを無害化し、さらに処理後のアスベストを土壌改良剤として再利用することができるアスベスト無害化処理方法及び該処理方法による土壌改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために構成した本発明の手段は、アスベスト又はアスベスト含有物を酸処理剤と混合して酸処理する第1処理工程と、該第1処理工程で酸処理したアスベスト又はアスベスト含有物を水及び生石灰と混練することにより反応させてケイ酸カルシウム等含有固化物に生成する第2処理工程とからなる。
【0006】
また、前記酸処理剤は、もみ酢液、木酢液、竹酢液等の植物系酢液であるとよい。
【0007】
そして、前記第1処理工程及び第2処理工程は運搬可能なコンクリートミキサーを用いて行うとよい。
【0008】
さらに、前記ケイ酸カルシウム等含有固化物は、粒状に破砕して土壌改良剤にするとよい。
【0009】
また、請求項5に係る本発明を構成する手段は、アスベスト又はアスベスト含有物を酸処理剤と混合して酸処理し、さらに該酸処理したアスベスト又はアスベスト含有物を水及び生石灰と混練することにより生成することにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、上述の構成とすることにより以下の諸効果を奏する。
(1)第1処理としてアスベストを酸処理して針状結晶を劣化させ、第2処理として生石灰との化学反応及び水と生石灰の混合で発生する熱による高温処理によってケイ酸カルシウム等に変化させるのと同時に固化処理し、アスベストを確実に無害化することができる。
(2)水と生石灰の反応により発生する熱を利用してアスベストを熱処理するようにしたから、大量の燃料を用いる燃焼処理を行う必要がなく、処理コストの削減を図ることができるし、さらに二酸化炭素の発生がないから環境に悪影響を与えることがない。
(3)容易に入手可能で安価な生石灰、もみ酢液、木酢液、竹酢液等の植物系酢液を用いて処理することにより、高価で取扱いに専門性が要求される処理剤を一切用いる必要がないから、低コストでアスベスト処理を行うことができるし、また作業の安全性を高めることができる。
(4)運搬可能なコンクリートミキサーを用いることにより、ミキサーを現場に搬入し現場で直接アスベスト処理を行うことができるようにしたから、処理前のアスベストを処理場へ運搬する必要がなく迅速な処理が可能になり、また、処理のコスト削減を図ることができるし、さらに運搬時にアスベストが飛散する危険性を回避することができる。
(5)アスベストを生石灰と混練することによって主にケイ酸カルシウム等で構成される固化物に変化させるから、無害化処理後のアスベストを廃棄することなく、土壌改良剤として有効利用することができる。
(6)固化物は廃棄せずに土壌改良剤として有効利用することができるから、廃棄するための土地、施設を確保する必要がなく経済的である。
(7)酸処理剤としては化学薬品ではなく、植物由来の液体であるもみ酢液、木酢液、竹酢液等から選ばれたものを用いるから、アスベストを人体に害のない安全な土壌改良剤にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図1のフローチャートに基き説明する。まず、建物等から取り除いたアスベストと酸処理剤をミキサーに入れる(ステップ1)。本実施の形態ではミキサーとして、一般的なコンクリートミキサー車を使用する。ただし、コンクリートミキサー車に限られるものではなく種々のコンクリートミキサーを用いることができ、ミキサーの大きさは処理するアスベストの量に合わせて適宜選択するとよい。搬入可能なコンクリートミキサーを使用することによって、アスベストが存在する現場に直接ミキサーを搬入し、その場でアスベスト処理を行うことができるから、アスベストを処理場まで運んで処理する必要がなく低コストで迅速な処理が可能になる。また、処理前のアスベストを長距離運搬することによる飛散の危険性がない。ただし、酸処理剤により金属部分が著しく腐食するおそれがあるから、腐食防止のためにミキサーの金属部分を樹脂でコーティングする樹脂加工を施しておくのが望ましい。
【0012】
酸処理剤としては、もみ酢液、木酢液、竹酢液等の植物系酢液のいずれかを用いる。これらはアスベストを酸処理することができるpH3.0前後の強酸性の液体であり、いずれもが植物由来の液体である。酸処理剤は、体積比でアスベストの約3倍の量用いるとよい。これは実験により求めた量であり、約3倍量用いることによりアスベストの針状結晶をより確実に軟化及び劣化させることができる。
【0013】
そして、ミキサーでアスベストと酸処理剤を混合する(ステップ2)。アスベストを確実に酸処理するには混合時間を約2時間にするのが望ましい。混合してアスベストを酸処理することにより、アスベストの針状結晶を溶解して軟化及び劣化させることができる。また、アスベストはセメント等と混合された状態で吹付け材の廃棄物として建物から取り除かれる場合が多く、酸処理することによりアスベストに付着しているセメント等を溶解除去する効果もある。次に、酸処理したアスベストをミキサーから取り出し、酸処理剤と分離する(ステップ3)。なお、ミキサーから取り出す際は、網を用いて掬うようにアスベストを取り出す等してアスベストと酸処理剤を確実に分離するようにするとよい。このようにしてアスベストと分離した酸処理剤は別のアスベスト処理に複数回用いることができるので、酸処理剤が無駄になることがない。ただし、酸処理剤は繰り返し使用するとアスベストと混合したときに起こる発泡が次第に少なくなっていく。これは、酢酸がアスベストに付着している石灰で次第に中和されていくからである。したがって、発泡の量が使用当初の約半分程度になった段階で新しい酸処理剤と交換するとよい。使用済み酸処理剤を廃棄する際は酸処理剤の上澄みのみを廃棄し、沈殿物はアスベストに加えて廃棄しないようにする。
【0014】
次に、酸処理したアスベストを第1処理で使用したミキサーとは別のミキサーに入れる(ステップ4)。ミキサーはステップ1と同様に運搬可能な一般的なコンクリートミキサー車を使用する。なお、後述するステップ5でアスベストと混合するのは生石灰であり腐食が起こるおそれはないから、ミキサーを樹脂加工する必要はない。そして、アスベストに生石灰を加える(ステップ5)。生石灰はアスベストに対して体積比で約3倍の量を加えるとよい。
【0015】
生石灰を加えた後、水を少量ずつ加えながらアスベスト、生石灰をミキサーで混練する(ステップ6)。水はアスベストに対して体積比で約1/4〜1/2倍の量を少量ずつに分けて加えていくとよい。水には水道水や河川水を用いることができるから、低コストでアスベスト処理を行うことができる。なお、生石灰に水を加えると激しく発熱するため、あらかじめ、ミキサーの開口部にゴム製のキャップを被せておき、該キャップに2個の穴を開け、一つはホースを挿入する加水用とし、もう一つは蒸気抜き用とすれば作業の安全性を確保することができる。
【0016】
アスベストと生石灰を混練すると次第に固化していきながら、空気中の酸素を吸収して化学反応が起こる。また、生石灰に水を少量ずつ加えていくと生石灰が消石灰に変化しながら同時に約100度以上の強い発熱が起こり、その熱によりアスベストが高温処理される。ステップ2の酸処理によってクリソタイルの針状結晶は劣化及び軟化しているから、この化学反応及び高温処理によって、アスベストの主成分であるクリソタイル[MgSi10(OH)]と生石灰[CaO]と酸素[O]が、人体に無害なケイ酸カルシウム[CaSiO]、ケイ酸マグネシウム[MgSiO]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)]、消石灰[Ca(OH)]に変化する。このようにして確実にアスベストを無害化することができる。そして、アスベスト、生石灰及び水の混練物が完全に団子状の固化物になったら加水と混練を終了する。本発明はこのようにして、アスベストが微細な針状結晶からなり表面積が極めて大きいため反応性に富むことに着目し、酸処理、高温処理、生石灰との反応処理を行うことによって微細な針状結晶を細胞に突き刺さらないように先端を丸めて劣化させ、さらに人体に害のない物質に変化させることによりアスベストを無害化するものである。
【0017】
混練作業の終了後、ミキサーから固化物を取り出して冷却する(ステップ7)。そして、冷却した固化物を細かく粒状に破砕する(ステップ8)。生石灰及び水との混練で生成された固化物は毒性がなく、人体に悪影響のないケイ酸カルシウム塩、ケイ酸マグネシウム塩、水酸化マグネシウム及び消石灰から主に構成されているから、粒状に破砕し、散布することによって酸性の土壌を弱酸性に改良する土壌改良剤として有効に再利用することができる。また、土壌を酸性にする活性アルミニウムを多く含んでいる火山灰土壌等に散布すれば、以下に表す化学反応によって活性アルミニウムの矯正を行う土壌改良剤としても有効に利用することができる。
Al+OH→Al(OH)
アスベストの酸処理に用いる酸処理剤は人体に害のない植物由来の液体であるもみ酢液、木酢液、竹酢液等であるから、土壌改良剤は人体に害のないものとして安心して使用することができる。なお、固化物は完全に冷えると硬くなり破砕するのが困難になるから、破砕はある程度熱が下がった後、完全に冷える前に行うのが望ましい。
【0018】
混練によって生成された固化物を偏光顕微鏡で検査した結果、本発明に係る無害化処理を行うことによって、処理後のアスベストの針状結晶の残存率を約2%以下にすることができることを確認した。そして、約2%以下の僅かに残存する針状結晶も生石灰と混練されているので飛散することがないし、生石灰と固着しており化学反応によるケイ酸カルシウム等への変化は絶えず継続しているから最終的にアスベストの針状結晶は完全に消失し、アスベストを完全に無害化することができる。
【0019】
表1は、本発明に係る無害化処理方法で生成した固化物の含有物量の分析結果を示すものである。分析はアルカリ融解法を用い、固化物を熱塩酸で処理後、アルカリ溶解でケイ酸等について分析を行った。なお、分析項目が酸型で示されているのは化学分析の慣習であり、含有成分が酸型であることを意味するものではない。表に示すように処理後の固化物は主に二酸化ケイ素及び酸化カルシウムで構成されており、人体に有害なアスベストが確実に無害化されていることがわかる。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】アスベスト無害化処理方法の処理工程を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベスト又はアスベスト含有物を酸処理剤と混合して酸処理する第1処理工程と、該第1処理工程で酸処理したアスベスト又はアスベスト含有物を水及び生石灰と混練することにより反応させてケイ酸カルシウム等含有固化物に生成する第2処理工程とからなるアスベスト無害化処理方法。
【請求項2】
前記酸処理剤は、もみ酢液、木酢液、竹酢液等の植物系酢液であることを特徴とする請求項1記載のアスベスト無害化処理方法。
【請求項3】
前記第1処理工程及び第2処理工程は運搬可能なコンクリートミキサーを用いて行うことを特徴とする請求項1又は2に記載のアスベスト無害化処理方法。
【請求項4】
前記ケイ酸カルシウム等含有固化物は、粒状に破砕して土壌改良剤にすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のアスベスト無害化処理方法。
【請求項5】
アスベスト又はアスベスト含有物を酸処理剤と混合して酸処理し、さらに該酸処理したアスベスト又はアスベスト含有物を水及び生石灰と混練することにより生成してなるアスベストを無害化した土壌改良剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−214078(P2009−214078A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63073(P2008−63073)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【特許番号】特許第4222622号(P4222622)
【特許公報発行日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(508076004)株式会社北海道北環境 (1)
【Fターム(参考)】