説明

アスベスト飛散防止方法

【課題】アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料の耐火性能を損なわず、また、アスベスト含有層の重量をあまり増大させることなくアスベストの飛散を防止することができ、かつ、アスベスト含有層を撤去する際、撤去後においても飛散がなく安全性を確保できるアスベスト飛散防止方法を提供することを目的としている。
【解決手段】アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料に、ストレートシリコーン樹脂と、シランカップリング剤と、アルコールと、非イオン系界面活性剤と、希釈溶媒とを含むコーティング剤を前記アスベスト含有層表面に塗布することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を表面に備える建物の壁や天井面などの造営面、あるいは、スレート板等の建築材料からアスベストの飛散を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントなどの無機バインダにアスベストを混ぜて吹き付けるようにした吹付けアスベストは、建築物の壁面や天井面に吹き付けて無機バインダを硬化させるだけで簡易に耐火性能の高い耐火被覆層を形成することができることから、過去において盛んに用いられていたが、アスベスト(石綿)は、悪性中皮腫等の健康被害の原因となることから、昭和50年10月から吹付けアスベストの吹付け作業が原則禁止された。また、住宅屋根用化粧スレート、外装サイディング等の無機建材へのアスベストの使用も平成16年10月から原則禁止されている。
【0003】
しかしながら、吹付けアスベストを耐火被覆層として使用したり、アスベスト入りの住宅屋根用化粧スレート、外装サイディング等を使用したりした建築物は、多数残っており、これらの建築物の解体時や補修工事等において、アスベストの大気中への飛散が大きな問題となっている。また、解体や補修工事を行なわない場合であっても、無機バインダの
劣化により、吹付けアスベストの耐火被覆層中からのアスベストの飛散を防止する方法として、耐火被覆層表面に塗料等の処理剤を塗布する方法がすでに提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、既存の処理剤では、 耐火被覆層の表面部分からの飛散を一次的に防止できても、耐火被覆層の表面部分のみに処理剤が塗布されているだけであるので、建築物の老朽化がすすみ、建築物の解体などの際にはやはりアスベストが飛散するという問題がある。
また、耐火被覆層の表面から内部に向かって注入管を挿入し、注入装置で上記処理剤を注入すれば、耐火被覆層全体に処理剤を行き渡らせることはできるが、作業性が悪いとともに、硬化物の重量が大きいため、耐火被覆層が、硬化物の重量で天井面から剥がれ落ちるという問題がある。また、処理剤として有機系塗料を用いた場合においては、耐火性能に問題が出る虞があった。
【0005】
【特許文献1】特開平6−49391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みて、アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料の耐火性能を損なわず、また、アスベスト含有層の重量をあまり増大させることなくアスベストの飛散を防止することができ、かつ、アスベスト含有層を撤去する際、撤去後においても飛散がなく安全性を確保できるアスベスト飛散防止方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明にかかるアスベスト飛散防止方法は、アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料に、ストレートシリコーン樹脂と、シランカップリング剤と、アルコールと、非イオン系界面活性剤と、希釈溶媒とを含むコーティング剤を前記アスベスト含有層表面に塗布することを特徴としている。
【0008】
本発明において、造営面とは、天井面、建物内壁面、建物外壁面、建物床面などを意味する。
建築材料とは、アスベスト含有層を備えているものであれば、特に限定されないが、たとえば、スレート板、サイディングボード等が挙げられる。
【0009】
本発明で使用されるコーティング剤に含まれるストレートシリコーン樹脂は、R2Si(OH)2(式中Rはメチル基またはフェニル基)であらわされるモノマー、および、RSi(OH)3(式中Rはメチル基またはフェニル基)であらわされるモノマーを反応させて得られる主鎖がSi-O-Siである分岐度の高い3次元オリゴマーで未反応の水酸基を残しているものである。
【0010】
本発明のコーティング剤に用いられるシランカップリング剤としては、
XnSi(OCH3)4-n(Xはアミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メチル基、エチル基のいずれか)であらわされるものが好適に用いられる。
【0011】
また、上記ストレートシリコーン樹脂は、予め希釈溶媒とは別の沸点110℃以下の低沸点有機溶媒に溶解させておいてもよい。
低沸点有機溶媒としては、沸点110℃以下であれば、特に限定されないが、たとえば、トルエン、キシレン、リグロインやこれらの混合物等が挙げられる。
【0012】
また、上記のように、ストレートシリコーン樹脂を低沸点有機溶媒に溶解させる態様においては、ストレートシリコーン樹脂溶液は、低沸点有機溶媒がトルエンであって、ストレートシリコーン樹脂濃度が50重量%であるときの、動粘度が0.1〜100センチストークスであることが好ましい。また、得られるコーティング剤の動粘度を、0.1〜10センチストークスとすることが好ましく、0.8〜9.5センチストークスとすることがより好ましい。
【0013】
さらに、上記ストレートシリコーン樹脂としては、特に限定されないが、ストレートシリコーン樹脂に予め低沸点有機溶媒およびシランカップリング剤が配合された市販のストレートシリコーン樹脂組成物、たとえば、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製ストレートシリコーンワニス品名SR2406(有機溶媒トルエン、ストレートシリコーン樹脂濃度50重量%)、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製ストレートシリコーンワニス品名SR2410(有機溶媒トルエン、リグロイン、ストレートシリコーン樹脂濃度23重量%)、信越化学工業株式会社製ストレートシリコーンワニス品名KR255(有機溶媒トルエン、キシレン、ストレートシリコーン樹脂濃度50重量%)等を使用することができる。
【0014】
上記XnSi(OCH3)4-n(Xはアミノ基、エポキシ基、メタクリロキシ基、メチル基、エチル基のいずれか)であらわされるシランカップリング剤としては、特に限定されないが、たとえば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン,3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のエポキシシランなどが挙げられる。
【0015】
非イオン界面活性剤としては、特に限定されないが、たとえば、セカンダリーアルコールエーテル(EO)6・(PO)付加物、セカンダリーアルコールエーテル(EO)7・(PO)付加物、セカンダリーアルコールエーテル (EO)8・(PO)付加物等のアルキルエーテル型非イオン界面活性剤で親水基であるエトキシ基(EO)・プロポキシ基(PO)を分子中に3〜15個、好ましくは4〜12個を含み、その配列が偶数配列、奇数配列、又その混交で、配列中に必ずPO基を1つ挟むものととともに、炭素数でC10〜C18の親油基を側鎖に持つものが好ましく、これらを複数混合して用いることがより好ましい。
【0016】
アルコールとしては、特に限定されないが、25℃で液体であるものが好ましく、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、3−メトキシ−メチルブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テオリメチレングリコール、ブチルカルビトール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられ、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のC4以下のものが好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。
【0017】
希釈溶媒としては、環境面を考慮すれば、水が好ましいが、たとえば、電気配線等の水が不適な場所に用いる場合は、n−ヘキサン、n−ヘプタン、リグロイン等の有機溶剤が挙げられる。
コーティング剤中の各成分の配合割合は、ストレートシリコーン樹脂の種類によって適宜決定されるが、因みに、ストレートシリコーン樹脂として、上記東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製ストレートシリコーンワニス品名SR2410を用いるとともに、アルコールとしてイソプロパノールを用いた場合、SR2410と、イソプロパノールとを容量比で1:1で混合するとともに、この混合物に10容量%程度の非イオン系活性剤を添加したものに、これらの総計の1倍〜5倍量の希釈溶媒を加えることが好ましい。
【0018】
また、上記コーティング剤には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じ、性能向上用塗膜強固剤、希釈溶剤、安定化溶剤、凍結防止剤、防腐剤、研磨剤、紫外線吸収剤、色素、二酸化チタン等の光触媒などを配合することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかるアスベスト飛散防止方法は、以上のように、アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料に、ストレートシリコーン樹脂と、シランカップリング剤と、アルコールと、非イオン系界面活性剤と、希釈溶媒とを含むコーティング剤を前記アスベスト含有層表面に塗布するので、アスベスト含有層の内部まで容易にコーティング剤が浸透し、ストレートシリコーン樹脂がアスベスト含有層内のアスベストをくるむように硬化する。したがって、短時間の作業で容易にアスベスト含有層を有する造営面や建築材料表面からアスベストの飛散しない状態にすることができる。
【0020】
また、ストレートシリコーン樹脂硬化物は、600℃以上の耐火性能があり、本来のアスベスト含有層の耐火・耐熱性能を損なうことがないとともに、軽量であるため、重量増により、アスベスト含有層が天井や壁から剥離したりすることがない。しかも、建物の解体時においても、アスベストの飛散・浮遊もない。
【0021】
さらに、アスベストがストレートシリコーン樹脂硬化物によって包まれているので、解体した際に発生する廃材を粉砕しても肺内に達するような微細粉になることがないので、プラスチック材料の充填剤や、コンクリート製品の充填剤としても再利用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の実施の形態の1例を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるわけではない。
【0023】
(実施例1)
ストレートシリコーン樹脂が低沸点溶媒に溶解されるとともにシランカップリング剤を含むストレートシリコーン樹脂組成物としての東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製ストレートシリコーンワニス品名SR2410と、イソプロピルアルコールとを容量比1:1で混合した混合液に、以下に示す組成の非イオン界面活性剤(エコ・24社製 品名マイクロ24)を10容量%配合したのち、さらに、混合液と非イオン界面活性剤の合計の5倍量の精製水を加え攪拌してコーティング剤を調製した。
〔非イオン界面活性剤の組成〕
・ポリオキシアルコールエーテル(EO)7・(PO)付加物(C12以下)・・・12.0容量%
・ポリアルキルグリコール (EO)6・(PO)付加物(C12以下) ・・・ 2.0容量%
・グリコール系溶剤 ・・・40.0容量%
・水 ・・・46.0容量%
【0024】
上記のようにして得られたコーティング剤を厚さ3cmの吹付けアスベスト層が表面に形成された鉄骨コンクリート製建築物の壁面に150〜200g/m2の割合となるようにスプレーした。そして、手で吹付けアスベスト層表面を触ったところ、3時間で乾燥した状態(硬化状態)となった。
【0025】
その後、吹付けアスベスト層を基材コンクリートから剥がしたところ、吹付けアスベスト層の基材コンクリートとの界面までコーティング剤が浸透し、シリコーン樹脂が硬化しているとともに、吹付けアスベスト層を剥がす際にアスベストの飛散や浮遊は認められなかった。
また、剥離した吹付けアスベスト層の断面を電子顕微鏡で調べたところ、アスベストがシリコーン樹脂硬化物でコートされた状態でつながっているのが見られた。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られたコーティング剤を厚さ3.5cmの吹付けアスベスト層が表面に形成された鉄骨コンクリート製建築物の壁面に150〜200g/m2の割合となるようにスプレーした。そして、手で吹付けアスベスト層表面を触ったところ、3時間で乾燥した状態(硬化状態)となった。
その後、吹付けアスベスト層を基材コンクリートから剥がしたところ、吹付けアスベスト層の基材コンクリートとの界面までコーティング剤が浸透し、シリコーン樹脂が硬化しているとともに、吹付けアスベスト層を剥がす際にアスベストの飛散や浮遊は認められなかった。
【0027】
(実施例3)
水に代えて、希釈溶媒として5倍量のn−ヘプタンを用いた以外は、実施例1と同様にしてコーティング剤を得た。
上記のようにして得られたコーティング剤を厚さ3cmの吹付けアスベスト層が表面に形成された鉄骨コンクリート製建築物の壁面に200〜350g/m2の割合となるようにスプレーした。そして、手で吹付けアスベスト層表面を触ったところ、1.5時間で乾燥した状態(硬化状態)となった。
【0028】
その後、吹付けアスベスト層を基材コンクリートから剥がしたところ、吹付けアスベスト層の基材コンクリートとの界面までコーティング剤が浸透し、シリコーン樹脂が硬化しているとともに、吹付けアスベスト層を剥がす際にアスベストの飛散や浮遊は認められなかった。
また、剥離した吹付けアスベスト層の断面を電子顕微鏡で調べたところ、アスベストがシリコーン樹脂硬化物でコートされた状態でつながっているのが見られた。
【0029】
(実施例4)
実施例3と同様にして得られたコーティング剤を厚さ3.5cmの吹付けアスベスト層が表面に形成された鉄骨コンクリート製建築物の壁面に200〜350g/m2の割合となるようにスプレーした。そして、手で吹付けアスベスト層表面を触ったところ、2時間で乾燥した状態(硬化状態)となった。
その後、吹付けアスベスト層を基材コンクリートから剥がしたところ、吹付けアスベスト層の基材コンクリートとの界面までコーティング剤が浸透し、シリコーン樹脂が硬化しているとともに、吹付けアスベスト層を剥がす際にアスベストの飛散や浮遊は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスベストと無機バインダとを含むアスベスト含有層を少なくとも表面に備える造営面または建築材料に、ストレートシリコーン樹脂と、シランカップリング剤と、アルコールと、非イオン系界面活性剤と、希釈溶媒とを含むコーティング剤を前記アスベスト含有層表面に塗布することを特徴するアスベスト飛散防止方法。
【請求項2】
希釈溶媒が、水である請求項1に記載のアスベスト飛散防止方法。
【請求項3】
希釈溶媒が、n−ヘキサン、n−ヘプタン、リグロインからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1に記載のアスベスト飛散防止方法。
【請求項4】
非イオン系界面活性剤が、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物を含む請求項1〜請求項3のいずれかに記載のアスベスト飛散防止方法。
【請求項5】
脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物が、1分子中にプロポキシ基と、エトキシ基とを合計で3〜15個含む請求項4に記載のアスベスト飛散防止方法。

【公開番号】特開2007−197961(P2007−197961A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16428(P2006−16428)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(504342262)株式会社エコ・24 (4)
【Fターム(参考)】