説明

アスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法

【課題】アスペクト比の大きなセラミックス薄板を、割れや反りの発生すること無く焼成するための焼成方法を提供する。
【解決手段】アスペクト比の大きな(500以上)セラミックス薄板を焼成するにあたって、焼成によるセラミックス薄板の収縮が開始する温度までは、200〜1200℃/hrの昇温速度で加熱し、それ以降はセラミックス薄板の最外周縁の収縮速度が一定となるような昇温パターンにしたがって加熱することにより、焼成による割れや反りの発生を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法に関するものであって、焼成による割れや反りの発生を招くことなく、結晶粒度の微細化によりセラミックス薄板の高強度化を図るものであり、例えば、固体電解質型燃料電池に用いられる固体電解質等を焼成により作製する際に好適な焼成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体電解質型燃料電池は、水素ガス、天然ガス、メタノール、石炭ガスなどを燃料とすることができるので、発電における石油代替エネルギー化を促進することができ、さらに廃熱を利用することができるので省資源および環境問題の観点からも注目されている。この固体電解質型燃料電池の構造は、固体電解質の片面に酸素極および集電体を積層し、固体電解質のもう一方の片面に燃料極および集電体を積層し、前記酸素極の集電体の外側に空気導入口を有するセパレータを積層し、燃料極の集電体の外側に燃料導入口を有するセパレータを積層した構造を有している。酸素極の集電体は酸化剤ガスである空気を流す流路として機能する役割があるところから、ガス通路が形成されたランタンクロマイトなどの導電性セラミックス、白金のメッシュ、あるいは銀の多孔質体などが使用されている。
そして、前記固体電解質型燃料電池の発電容量の向上のために、酸素極、燃料極、固体電解質等の大型化が望まれるとともに、より一層、高強度、高品質のものが求められてきている。
【0003】
セラミックスは、通常、各種酸化物等からなる原料粉末を、所定の割合で配合・混合してセラミックスグリーンシートを成形し、このセラミックスグリーンシートを、1200℃以上の温度で焼成することにより製造されている。
そして、セラミックスの強度が、その結晶粒径に大きく依存することは既によく知られているから、セラミックスの高強度化を図る上では、焼成時の結晶粒の成長を抑え、結晶粒径を微細なものに維持することが望まれる。
その例の一つとして、特許文献1に開示されるように、MgOを含有するAl系セラミックス材料の焼成に際し、焼成条件を調整することによって、結晶粒の成長が抑制され、かつ、均一組織の焼結体が得られ、その結果として、すぐれた特性を備えたセラミックスが得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3900542号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
石油代替エネルギー、廃熱利用、省資源および環境問題等の種々の観点から固体電解質型燃料電池の高容量化・高効率化が望まれているところ、固体電解質型燃料電池の自立膜型発電セル1枚当りの発電出力は、電解質厚みが薄いほど、また、大面積化するほど高くなるが、その一方で、薄くなるほど破損の危険も高まることから、固体電解質材料として使用されるセラミックスには、大面積化・薄型化を可能にするとともに、より一層の高強度化が求められている。
特許文献1には、セラミックス材料の高強度を維持するために、特定の昇温パターンで焼成し、結晶粒の成長を抑制することが示されているが、電解質型燃料電池の電解質材料として用いられるアスペクト比が500以上(即ち、1辺長さ/厚みの比の値が500以上、或いは、直径/厚みの比の値が500以上)となるような大面積薄型のセラミックスに上記焼成方法を適用したとしても、得られたセラミックス製品には、割れや反り等の欠陥が発生することが多く、これを固体電解質用セラックスとして使用することは不可能であった。
そこで、割れや反り等の欠陥を発生することなく、アスペクト比500以上の大面積薄型セラミックスの高強度化を図り得る焼成方法が強く望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、例えば、固体電解質型燃料電池の固体電解質等として用いられるアスペクト比が500以上にもなるような大面積かつ薄型のセラミックスの焼成において、割れや反り等の欠陥を発生させることなくセラミックスの高強度化を図ることができる焼成方法について鋭意研究した結果、次のような知見を得た。
【0007】
大面積かつ薄型のセラミックスを焼成した場合に生じる割れや反りの原因は、焼成時に、セラミックスの不均一収縮が局部的に生じるためであると考え、本発明者らは、局部的な不均一収縮を生じさせない焼成条件について種々の実験を重ね検討したところ、脱バインダー処理済のセラミックスの焼成に際し、セラミックス薄板の収縮が開始する温度まではセラミックス薄板を高気孔率を保ったまま昇温するために200℃/hr〜1200℃/hrで昇温し、収縮が開始したらセラミックス薄板の最外周縁の収縮速度を一定速度とするような昇温パターンにしたがって加熱昇温すれば、大面積かつ薄型のセラミックスであっても、焼成時の割れや反りを発生させることなく、しかも、焼成によって結晶粒が微細化し、強度が向上したセラミックスを得られることを見出したのである。
なお、本発明の昇温パターンにおいて、室温から脱バインダー処理温度(約500〜600℃)までの昇温パターンを脱バインダー処理時の昇温パターンとすることで、本発明を、脱バインダー処理をしていないセラミックス薄板(グリーン体)の焼成にも適用できる。
【0008】
そして、上記「セラミックス薄板の最外周縁の収縮速度を一定速度とするような昇温パターン」は、以下のように決定することができる。
例えば、LSGMC[(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oからなる酸化物を主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含むセラミックス]を例に挙げて説明すると、LSGMCは、固体電解質型燃料電池の固体電解質として用いられることが知られているが、
(イ)まず、このLSGMC成形体(以下、LSGMCシートという)について、これを室温から1,500℃まで昇温し、熱機械分析装置(TMA)により、各温度における線膨張係数を測定する。
(ロ)次に、焼結によって、LSGMCシートの収縮が起きている温度範囲における線膨張係数を、夫々の温度におけるLSGMCシートの収縮速度と看做す。
(ハ)LSGMCシートの収縮が起きている温度範囲を通して、LSGMCシートの収縮速度が一定となるように、各温度での収縮速度から焼成温度プロファイルを決定する。
そして、上記(ハ)で求めた焼成温度プロファイルにしたがってLSGMCシートを加熱昇温すれば、アスペクト比が500以上にもなるような大面積かつ薄型のセラミックスであっても、割れや反りのないLSGMCからなる固体電解質を得ることができるのである。
【0009】
さらに、上記(ハ)で求めた焼成温度プロファイル(以下、簡単のために、「RCS焼成温度プロファイル」という)にしたがった加熱昇温を行って得たLSGMCからなる固体電解質は、結晶粒の成長が少なく、微細結晶粒を維持していることから、すぐれた強度を有するセラミックスを得ることができるのである。
【0010】
この発明は、かかる知見に基づいてなされたものであって、
脱バインダー処理済のアスペクト比の大きなセラミックス薄板を焼成する方法において、焼成によってセラミックス薄板の収縮が開始する温度までは、200〜1200℃/hrの昇温速度で加熱し、それ以降の焼成が完了するまでの温度範囲は、セラミックス薄板の最外周縁の収縮速度を一定速度とするような昇温パターンにしたがって加熱することを特徴とするアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法、
を特徴とするものである。
なお、本発明の昇温パターンにおいて、室温から脱バインダー処理温度(約500〜600℃)までの昇温パターンを脱バインダー処理時の昇温パターンとすることで、本発明を、脱バインダー処理をしていないセラミックス薄板(グリーン体)の焼成にも適用できる。
さらに、この発明は、
アスペクト比の大きなセラミックス薄板が、固体電解質型燃料電池の電解質、燃料極、空気極の何れかであること、
セラミックス薄板のアスペクト比が500以上であること、
燃料極が、ジルコニア系セラミックスあるいはセリア系セラミックスとニッケルのサーメットであること、
空気極が、ランタンストロンチウム酸化物系セラミックスあるいはランタンコバルト酸化物系セラミックスであること、
電解質が、ジルコニア系セラミックスあるいはランタンガレート系セラミックスであること、
電解質が、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oを主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含むペロブスカイト結晶構造を有する酸化物であること、
を特徴とするものである。
【0011】
本発明について、以下に詳細に説明する。
【0012】
図1(a)、(b)に、一例として、固体電解質型燃料電池の固体電解質として用いられるセラミックス(LSGMC)の焼成パターン(焼成時間−焼成温度)を示す。
図1(a)中、破線で示しているのは従来の焼成パターン、実線で示しているのが、本発明の焼成パターンであり、また、図1(b)は、焼成時間2〜7時間、焼成温度1000〜1500℃における本発明の焼成パターンを拡大した図である。
従来の焼成パターン(図1(a)破線参照)と本発明の焼成パターン(図1(a)実線、図1(b)実線参照)の違いを説明する。
従来の焼成パターン(図1(a)破線参照)においては、LSGMCシートに対して、
(イ)室温から焼成温度(約1400℃)までを、ほぼ100℃/hrの昇温速度で加熱する、
(ロ)焼成温度(約1400℃)で3〜4時間保持して焼結を完了させる、
(ハ)その後、室温までほぼ100℃/hrで冷却する、
上記(イ)〜(ハ)という工程(所要時間は約31〜32時間)で、焼成を行っていた。
これに対して、本発明の焼成パターン(図1(a)実線、図1(b)実線参照)では、LSGMCシートに対して、
(a)室温からLSGMCシートの焼成による収縮が開始する温度(約1170℃)までを、ほぼ200〜1200℃/hr(好ましくは、400〜600℃/hr)の昇温速度で急速加熱する、
(b)LSGMCシートの焼成による収縮が開始する温度(約1170℃)から、焼結が完了する温度(約1500℃)までを、RCS焼成温度プロファイルにしたがった昇温パターンで加熱する、
(c)その後、室温までほぼ100℃/hrで冷却する、
上記(a)〜(b)という工程(所要時間は約21〜22時間)で焼成が行なわれる。
つまり、本件発明の焼成パターンは、従来の焼成パターンと比較して、室温からの昇温速度が大であることに加えて、LSGMCシートの収縮開始温度から焼結完了温度までを、RCS焼成温度プロファイルにしたがった昇温パターンで加熱する点で大きく相違する。
【0013】
ここで、前記RCS焼成温度プロファイルについては、既に概略を説明したが、再度具体的に説明する。
RCS焼成温度プロファイルは、焼成の対象となるセラミックスの種類によってそれぞれ異なっているので、本発明による焼成を行うに先立って、焼成するセラミックスの種類に応じて、RCS焼成温度プロファイルを以下の手順で、予め作成・決定しておくことが必要となる。
一例として、LSGMCについて説明するが、他のセラミックスについても、同様な手順で、RCS焼成温度プロファイルを作成・決定しておけば良い。
【0014】
(1)まず、所定の成分組成となるように原料粉末を配合して(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oからなる酸化物を主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含むLSGMC粉末を作製し、これに有機バインダーを混合したスラリーから、LSGMCのグリーンシートを作製する。
(2)作製したLSGMCシートを、室温から1500℃まで昇温し、熱機械分析装置(TMA)により、昇温過程の各温度における線膨張係数を測定する。
表1には、熱機械分析装置(TMA)により測定した各温度における線膨張係数のうちの、1150〜1450℃の温度における線膨張係数の値を示す。
(3)次に、夫々の温度で測定した線膨張係数の変化から、焼結の進行によるLSGMCシートの収縮が起きている温度範囲を特定し、同時に、収縮が起きている該温度範囲における線膨張係数の値を、LSGMCシートの収縮速度に換算することによって、収縮が起きている夫々の温度におけるLSGMCシートの収縮速度を求める。
測定した線膨張係数の変化から、焼結による収縮が起きている温度範囲は、1150〜1450℃であることが判明したので、この温度範囲(1150〜1450℃)におけるLSGMCシートの収縮速度を求めた。
表1には、1150〜1450℃の温度範囲におけるLSGMCシートの収縮速度の値を示す。
(4)LSGMCシートの焼結による収縮が起きている温度範囲(1150〜1450℃)を通して、LSGMCシートの収縮速度が一定となるように、各温度における収縮速度から焼成温度プロファイルを作成・決定する。
上記(1)〜(4)の手順によって作成・決定した焼成温度プロファイルが、RCS焼成温度プロファイルである。
【0015】
そして、上記で求めたRCS焼成温度プロファイルにしたがってLSGMCシートを加熱昇温すれば、アスペクト比が500以上にもなるような大面積かつ薄型のセラミックスを焼成によって得ようとする場合であっても、LSGMCシートの最外周縁の収縮速度が一定の速度となることから、焼成時にLSGMCシートの各部分に不均一な残留応力、変形ひずみ等が発生することはなく、その結果として、アスペクト比の値に影響されることなく、割れや反りのないLSGMCからなる固体電解質を得ることができるのである。
【0016】
また、RCS焼成温度プロファイルにしたがう本発明の焼成パターンによれば、図1(a)からも明らかなように、焼成所要時間が従来の焼成パターンの2/3程度となるため、長時間要していた従来の焼成工程の効率化を図ることができる。
【0017】
さらに、RCS焼成温度プロファイルにしたがう本発明の焼成パターンによって作製したLSGMCからなる固体電解質の特性(結晶粒径、強度)の評価を行ったところ、従来の焼成パターンによって作製したものよりも、いずれもすぐれた特性を備えていることが確認された。
【発明の効果】
【0018】
本発明の焼成方法によれば、予めRCS焼成温度プロファイルを作成しておき、焼結の進行によるグリーンシートの収縮が開始した時点から、上記RCS焼成温度プロファイルにしたがった昇温パターンで焼成することによって、グリーンシートの各部分に収縮に伴う不均一な残留応力、変形ひずみ等の発生を抑えることができ、その結果として、アスペクト比の大きな薄板であったとしても、割れや反りのない各種の焼成セラミックス薄板を得ることができる。
また、本発明の焼成方法によって得られた焼成セラミックス薄板は、高強度を有するものであるから、薄くて同時に高強度を有することが要求される固体電解質型燃料電池に用いられる固体電解質の作製に好適である。
さらに、本発明の焼成方法によれば、焼成に要する時間が短縮されることから、焼成工程の効率化を図ることができる
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】固体電解質型燃料電池の固体電解質として用いられるセラミックス(LSGMC)の焼成パターン(焼成時間−焼成温度)を示し、図1(a)で、破線で示しているのは従来の焼成パターン、実線で示しているのが、本発明の焼成パターンであり、また、図1(b)は、焼成時間2〜7時間、焼成温度1000〜1500℃における本発明の焼成パターンを拡大した図である。実線は本発明の焼成パターンを、また、破線は従来の焼成パターンを示す。
【図2】本発明の焼成方法により作製したLSGMCからなる電解質の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍,5000倍)を示す。
【図3】従来の焼成方法により作製したLSGMCからなる電解質の走査型電子顕微鏡写真(倍率:1000倍,5000倍)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、この発明によるセラミックス薄板の焼成方法について、実施例により具体的に説明する。
なお、ここでは、固体電解質型燃料電池に用いられる固体電解質の作製を例として説明するが、この発明は、固体電解質に限られず、各種のセラミックス薄板の焼成に適用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0021】
LSGMCシートの作製:
(1)原料粉末として、いずれも平均粒径:0.6μmのLa粉末、SrCO粉末、Ga粉末、MgO粉末およびCoO粉末を用意した。
(2)まず、La粉末とGa粉末を、Ga粉末:36.52質量%を含有し、残部:La粉末の配合組成となるように配合し混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を大気雰囲気中、温度:1000℃、6時間保持の条件で予備焼結してから粉砕することによりLaGa複合酸化物粉末であるLaGaO粉末を作製した。
(3)上記LaGaO粉末に、LaGaO:83.93質量%,SrCO:12.07質量%,MgO:2.47質量%,CoO:1.53質量%の配合組成となるように、SrCO粉末、MgO粉末およびCoO粉末を配合・混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を大気雰囲気中、1200℃で6時間予備焼結することにより予備焼結体を作製し、この予備焼結体を粉砕することにより表2に示される組成を有しペロブスカイト結晶構造を有する酸化物((La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)O)を主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含む複合原料粉末を作製した。
(4)上記で得た複合原料粉末をバインダーに混合してスラリーを作製し、このスラリー用い、ドクターブレード法でLSGMCシートを成膜し、シートから厚さ:0.25mm、直径:220mmのLSGMCシート(アスペクト比:880)を切り出した。
【0022】
RCS焼成温度プロファイルの作成・決定:
(1)上記LSGMCシートから別途切り出した短冊状の小片を積層したものを、室温から1450℃まで昇温し、熱機械分析装置(TMA)により、昇温過程の各温度における線膨張係数を測定した。
表1には、熱機械分析装置(TMA)により測定した各温度における線膨張係数うちの、1150〜1450℃の温度における線膨張係数の値を示す。
(2)上記(2)で測定した線膨張係数について、各温度における線膨張係数の値の変化から、1150〜1450℃の温度範囲において、焼結の進行によるLSGMCシートの収縮が起きていることを確認した。
(3)焼結の進行により収縮が起きている1150〜1450℃の温度範囲における線膨張係数の値を換算することにより、表1に示すように、該温度範囲におけるLSGMCシートの収縮速度を求めた。
(4)1170〜1450℃の全温度範囲において、各温度におけるLSGMCシートの最外周縁の収縮速度が一定(24mm/hr)となるようにからRCS焼成温度プロファイルを作成した。
作成したRCS焼成温度プロファイルを図1に示す(図1の実線が、本実施例によるRCS焼成温度プロファイル(本発明の焼成パターン)である)。
【0023】
【表1】

【0024】
LSGMCシートの焼成:
(1)上記LSGMCシートを、大気中、昇温速度420℃/hrで、室温から1170℃まで、2時間47分かけて加熱昇温した。
(2)LSGMCシートの温度が1170℃になった時点で、図1の実線で示されるRCS焼成温度プロファイル(本発明焼成パターン)にしたがう焼成温度−焼成時間となるように焼成温度を調整しながら、3時間20分かけて、1475℃にまで加熱昇温した。
(3)その後、室温にまで、14時間45分かけて冷却した。
上記(1)〜(3)の工程からなる本発明の焼成方法により、厚さ0.20mm、直径170mmでアスペクト比が850のLSGMCからなる本発明セラミックス薄板を作製した。
【0025】
比較のため、以下に示すような従来の焼成方法により、比較例セラミックス薄板を作製した。
まず、本実施例と同様にして、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oからなる酸化物を主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含むLSGMCシートを作製した。
次に、上記LSGMCシートを、図1中、破線で示される従来の焼成パターンにしたがって、昇温加熱・焼成した。
即ち、室温から1400℃までを、100℃/hrの昇温速度で、14時間かけて昇温加熱し、1400℃(一定温度)で3時間保持して焼結を完了させたあと、14時間かけて室温まで冷却するという従来の焼成方法により、厚さ0.20mm、直径170mmでアスペクト比が850のLSGMCからなる比較例セラミックス薄板を作製した。
【0026】
セラミックス薄板の特性:
本発明の焼成方法により作製した本発明セラミックス薄板と、従来の焼成方法により作製した比較例セラミックス薄板について、目視による外観検査(割れ、反りの有無)を行うとともに、走査型電子顕微鏡(倍率:1000倍、5000倍)及び光学顕微鏡による表面組織観察を行った。
図2(本発明セラミックス薄板)、図3(比較例セラミックス薄板)として、観察した表面組織の顕微鏡写真を示す。
また、表2には、外観検査の結果及び光学顕微鏡による表面組織観察により測定(Fullmanの方法で計測)した平均結晶粒径の値を示す。
【0027】
さらに、本発明セラミックス薄板と比較例セラミックス薄板について、密度測定及び曲げ強度試験を行った。
その結果を、表2に示す。
なお、密度測定は、アルキメデス法により行い、また、曲げ強度試験は、三点曲げ自動試験機により行った。
【0028】
【表2】

【0029】
表2に示される結果から、本発明の焼成方法により得られた本発明セラミックス薄板は、アスペクト比が大きい薄板であるにも拘らず、焼成による割れ、反りの発生は観察されず、一方、比較例セラミックス薄板においては、焼成によって割れ、反りが発生しているため、製品(例えば、電解質)として満足できるものでない。
また、本発明セラミックス薄板と比較例セラミックス薄板とは、密度に大きな差はないものの、本発明セラミックス薄板は、比較例セラミックス薄板に比して平均結晶粒径が小さく、結晶粒が微細であることから、曲げ強度試験の結果として示されるように、優れた強度を備えていることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法によれば、従来の焼成方法に比して、焼成時間の短縮化を図れるばかりか、割れ、反り等の欠陥のない、しかも、優れた強度を備えるセラミックス薄板を得ることができるので、固体電解質型燃料電池に用いられる固体電解質等を焼成により作製する際に好適である。
また、本発明は、アスペクト比の大小にかかわらず、種々のセラミックス薄板の焼成方法としても適用できるものであるから、産業上の利用性は非常に大きいものである。
【図1(a)】

【図1(b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱バインダー処理済のアスペクト比の大きなセラミックス薄板を焼成する方法において、焼成によってセラミックス薄板の収縮が開始する温度までは、200〜1200℃/hrの昇温速度で加熱し、それ以降の焼成が完了するまでの温度範囲は、セラミックス薄板の最外周縁の収縮速度を一定速度とするような昇温パターンにしたがって加熱することを特徴とするアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項2】
アスペクト比の大きなセラミックス薄板が、固体電解質型燃料電池の電解質、燃料極、空気極の何れかである請求項1に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項3】
セラミックス薄板のアスペクト比が500以上である請求項1または2に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項4】
燃料極が、ジルコニア系セラミックスあるいはジルコニア系セラミックスとニッケルのサーメットである請求項2または3に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項5】
空気極が、ランタンストロンチウム酸化物系セラミックスあるいはランタンコバルト酸化物系セラミックスである請求項2または3に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項6】
電解質が、ジルコニア系セラミックスあるいはランタンガレート系セラミックスである請求項2または3に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。
【請求項7】
電解質が、(La0.8Sr0.2)(Ga0.8Mg0.15Co0.05)Oを主相とし、(La0.8Sr0.2(Ga0.8Mg0.15Co0.05からなる酸化物を第二相として含むペロブスカイト結晶構造を有する酸化物である請求項2または3に記載のアスペクト比の大きなセラミックス薄板の焼成方法。

【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229004(P2010−229004A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81179(P2009−81179)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】