アスペルギルス由来のセルロース分解助長因子とその利用
【課題】セルロースの分解プロセスに有利なセルロース分解助長因子を提供する。
【解決手段】下記のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質をセルロース分解助長因子として用いる。(a)特定アミノ酸配列、(b)該アミノ酸配列で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列(c)別の特定アミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列。
【解決手段】下記のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質をセルロース分解助長因子として用いる。(a)特定アミノ酸配列、(b)該アミノ酸配列で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列(c)別の特定アミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスペルギルス由来のセルロース分解助長因子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを、エネルギー源やその他の原料として有効利用するためには、バイオマスを動物や微生物が容易に利用可能な炭素源に糖化することが必要である。
【0003】
木質系又は草本系のバイオマスの主成分である結晶性セルロースを効率的に分解する各種試みがなされている。しかしながら、結晶性セルロースは、その構造の剛直性等のため各種セルラーゼがアクセスしにくく、大量のセルラーゼを使うかあるいは酸等により化学的な分解処理を施すかすることによって初めて酵素的に糖化しているのが現状である。エネルギーコストのかかる化学的分解処理より、より少ないセルラーゼでセルロースを効率的に分解することが望まれている。
【0004】
ここに、結晶性セルロースの剛直な構造を緩める機能を有するセルロース緩和因子として、植物由来のタンパク質であるエクスパンシンが知られている。エクスパンシンは、植物細胞壁に局在するタンパク質であってセルロースを含むマトリックスの壁緩和及び成長促進に関連していると考えられている。現在、植物以外の微生物や線虫などの動物においてもエクスパンシン様のタンパク質が見出されている。例えば、糸状菌の一種であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のスウォレニンが知られている。
【0005】
【特許文献1】国際公開パンフレットWO99/02693号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際、セルロース緩和因子をセルロースの糖化プロセスに用いる場合には、セルロース緩和因子を効率的に生産してその十分量を供給することが重要である。例えば、そのタンパク質を生産するのに適した形質転換体が作製されなければ、糖化プロセスへの現実的な利用は困難である。
【0007】
さらに、セルロース緩和因子は、セルロース構造の緩和機能のみならずセルロースの分解にも寄与可能できるよう、セルラーゼ活性を有することがより好ましい。
【0008】
しかしながら、既に見出されているセルロース緩和因子は、いずれも遺伝子工学的な大量生産には必ずしも適しているとはいえなかったし、アスペルギルス(Aspergillus)属等の麹菌での生産適合性も全く検討されていなかった。すなわち、セルラーゼ構造緩和活性とセルラーゼ活性と遺伝子工学的手法による生産適合性を兼ね備えるセルロース緩和因子も知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、セルロースの分解プロセスに有利なセルロース分解助長因子を提供することを一つの目的とする。より具体的には、セルロース構造緩和活性を有するとともに、アスペルギルス属菌やトリコデルマ属菌に代表される糸状菌などを宿主とする形質転換体によるタンパク質生産に好適なセルロース分解助長因子を提供することを一つの目的とする。さらに、良好なセルラーゼ活性を兼ね備えるセルロース分解助長因子を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、これらのセルロース分解助長因子の利用を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、セルロース構造緩和活性を有するタンパク質の探索を目的として、各種菌の生産するタンパク質を検索したところ、ある種のアスペルギルス属菌の生産するタンパク質がセルロース分解助長活性を有することを見出し、かつそのタンパク質が遺伝子工学的手法による生産性にも優れるほか、単独でも優れたセルラーゼ活性を有しているという知見を得た。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が提供される。また、本発明によれば、以下のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質も提供される。これらのタンパク質はアスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来であってもよい。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列
【0012】
本発明によれば、上記いずれかのタンパク質をコードするDNAを含む、セルロース分解助長因子生産用のDNA構築物が提供される。このDNA構築物は、発現ベクターであってもよい。また、糸状菌用であることが好ましく、糸状菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケーテ(Phanerochaete)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属及びニューロスポラ(Neurospora)属ら選択されることができる。アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)での形質転換用であってもよい。
【0013】
本発明によれば、上記いずれかのDNA構築物によって形質転換された形質転換体が提供される。この形質転換体においては、宿主細胞が糸状菌であることが好ましく、糸状菌は、アスペルギルス属、ファネロケーテ属、トリコデルマ属、リゾプス属、リゾムコール属及びニューロスポラ属から選択されることができる。また、宿主細胞がAspergillus属菌であることが好ましく、より好ましくは、Aspergillus oryzaeである。
【0014】
本発明によれば、セルロース分解助長因子の生産方法であって、上記いずれかに記載の形質転換体を準備する工程と、前記形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備える、生産方法が提供される。この生産方法においては、前記形質転換体は、Aspergillus属菌であることが好ましく、Aspergillus oryzaeであることがより好ましい。
【0015】
本発明によれば、セルロース含有材料の処理方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させる処理工程、を備える、処理方法が提供される。この処理方法においては、前記処理工程は、セルロース含有材料の存在下、上記いずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程としてもよい。
【0016】
本発明によれば、セルロースの分解産物の生産方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物と、セルラーゼとを接触させる分解工程、を備える、生産方法が提供される。この生産方法においては、前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることができる。また、前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、上記いずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることもできる。
【0017】
本発明によれば、セルロース処理用組成物であって、上記いずれかに記載のタンパク質又は請求項に記載の形質転換体と、を含有する、組成物が提供される。この組成物は、セルロースを含有していてもよい。
【0018】
本発明によれば、セルロース分解用組成物であって、上記いずれかに記載のタンパク質又は請求項に記載の形質転換体と、セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、を含有する、組成物が提供される。この組成物はセルロースの分解産物を含有していてもよい。
【0019】
本発明によれば、セルロースから有用物質を生産する方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、前記糖化工程で得られるセルロース分解産物の存在下、当該セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、を備える、生産方法が提供される。前記培養工程は、前記微生物として酵母を利用する工程であってもよい。前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母であってもよい。前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程であってもよいし、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項9に記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、セルロース分解助長活性を有するタンパク質(以下、セルロース分解助長因子という。)及びその利用に関し、特に、セルロース分解助長因子、当該セルロース分解助長因子をコードするDNAを含むDNA構築物、当該DNA構築物によって形質転換された形質転換体、セルロース分解助長因子を利用したセルロースの処理方法、セルロース分解助長因子を利用したセルロース分解産物の生産方法及び有用物質の生産方法並びに各種組成物に関する。
【0021】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失又は付加を有するアミノ酸配列を有し、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質又は当該アミノ酸配列と80%以上の相同性を有しセルロース分解助長活性を有するタンパク質である。本発明のタンパク質はセルロース分解助長活性を有している。セルロース分解助長活性は、第一に、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(Swollenin)や植物由来の各種エクスパンシンと同様に、セルロースの構造緩和活性に基づいている。セルロースの構造緩和活性を有することで、セルロースに対するセルラーゼのアクセスを容易にしてセルロースの分解を助長できる。さらに、本発明のタンパク質のセルロース分解助長活性は、そのセルラーゼ活性に基づくことができる。本発明のタンパク質がセルラーゼ活性を有することにより、セルロースを緩和してセルラーゼのアクセスを容易化するのに加えて自身のセルラーゼ活性によりセルロースの分解を相乗的に助長できる。
【0022】
本発明のタンパク質は、その分解助長活性に基づき、セルロースの化学的前処理を回避又は抑制できるとともに、セルラーゼによる糖化時のセルラーゼの使用量を低減でき、セルロースのセルラーゼによる糖化をより効率的に実施することができるようになる。
【0023】
本発明のタンパク質は、また、遺伝子工学的手法による生産性に優れている。すなわち、Aspergillus属菌などに代表される糸状菌を宿主とする形質転換体により効率的に生産させることができる。このため、本発明のタンパク質は、効率的に、すなわち、低コストで十分量を容易に提供できるものとなっている。また、本発明のタンパク質は、従来セルラーゼが用いられている各種の用途(洗浄、繊維の改質、飼料改質等)に用いることができる。
【0024】
本発明の他の実施形態は、いずれも本発明のタンパク質の上記した作用の少なくとも一つを利用して、それぞれの実施形態に応じた好ましい作用効果を得ることができる。
【0025】
以下、本発明の各種実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(タンパク質)
本発明のタンパク質は、セルロース分解助長活性を有している。セルロース分解助長活性は、セルロースの構造緩和活性とセルラーゼ活性とを含む。セルロース構造緩和活性は、セルロースの糖化(部分的な分解又はグルコースへの分解)に大きく依存することなく、セルロースの構造を緩和し、結果としてセルロースを膨潤又は軟化を生じさせる活性を意味している。好ましくはセルロース構造緩和活性は、セルラーゼ活性に実質的に依存しないでセルロースの構造緩和できる活性である。また、セルロース構造緩和活性は、結晶性セルロースの構造を緩和するものであることが好ましい。
【0027】
セルロース構造緩和活性は、例えば、セルロース(アビセルなどの結晶セルロースやリン酸膨潤セルロースなど、例えば、100mg程度用いる。)を0.1M酢酸バッファ(例えば、2ml)に添加し、これらにタンパク質(例えば、80μg程度用いる。)を添加し、37℃でインキュベートし、一定期間経過後に均一に混合した反応液を採取して、光学顕微鏡で観察することにより評価できる。光学顕微鏡下において、観察されるセルロースの崩壊程度からセルロース構造緩和活性を本セルロース分解助長因子のセルロース構造緩和活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693号)よりも高いことが好ましい。
【0028】
本発明のセルロース分解助長因子は、セルロース構造緩和活性とともにセルラーゼ活性を備えることができる。セルラーゼ活性は、セルロースを部分的に分解又はグルコースにまで分解する活性である。セルラーゼとしては、β1,4−エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、グルカン1,4−βグルコシダーゼ(EC3.2.1.74)、セルロース1,4−βセロビオシダーゼ(EC3.2.1.91)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)が挙げられるが、本セルロース分解助長因子の有するセルラーゼ活性は、β1,4−エンドグルカナーゼ活性を備えていることが好ましい。エンドグルカナーゼは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合(β-1,4結合)により高度に重合した高分子セルロースを、エンド型の作用様式で(すなわち分子鎖内部で)を加水分解し、セロオリゴ糖、セロビオース、及びグルコースを生産するエンド型のセルラーゼである。エンドグルカナーゼは、カルボキシメチルセルラーゼ、エンド1,4-βグルカナーゼ、エンドセルラーゼなどとも呼称されている。
【0029】
セルラーゼ活性は、公知の方法で評価することができる。例えば、セルロースの分解によって生じる還元糖の量を測定することにより評価することができる。還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)、フェノール−硫酸法(吸光度法)、レーン−エイノン(滴定法)などの多数の定量法が挙げられる。また、糖による銅イオンの還元を利用するSomogyi-Nelson法を用いることができる(福井作蔵 著「生物化学実験法1 還元糖の定量法 第2版」学会出版センター 1990年)。また、ABEE化(ABEE:4−アミノ安息香酸エチルエステル)(Yasunoら、Biosci. Biotech. Biochem. 61, 1994-1946)した上、HPLC等により定量してもよい。
【0030】
特に、本セルロース分解助長因子のセルラーゼ活性は、ブルーテトラゾリウムを用いたTZ法によって評価することが好ましい。また、評価は、本セルロース分解助長因子単独及び本セルロース分解助長因子と各種セルラーゼ(エンドグルカナーゼ等)と併用時の双方又はいずれかにおいて評価することが好ましい。本セルロース分解助長因子のセルラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニンよりも高いことが好ましい。
【0031】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなることができる。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、本発明者らが、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)から取得されたものである。アスペルギルス・フミガータスは、通常、麹菌として発酵に用いられるアスペルギルス属菌としては知られていない。アスペルギルス・フミガータスは、日和見感染や防菌防薇の対象となる場合があることが知られている。
【0032】
本発明のタンパク質は配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。配列番号2で表されるアミノ酸配列に付加されることがあるアミノ酸配列としては、例えば、細胞外分泌のためのシグナルペプチド、セルロース結合ドメイン等が挙げられる。
【0033】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有するものであってもよい。アミノ酸変異の個数は特に限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、アミノ酸変異は、置換、欠失及び付加のいずれであってもよく、2種類以上の変異態様を同時に含んでいてもよい。これらの変異の態様としては、セルロース分解助長活性の向上のための、セルロース結合ドメインやセルラーゼ活性等の向上のための改変や、形質転換体における生産性向上のための細胞外分泌のためのシグナルペプチドの付加又は改変が挙げられる。
【0034】
アミノ酸変異は、各種の手法にて導入することができる。例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列(配列番号2)や相同性配列をコードするDNA等の配列情報を改変する方法を用いることができる。DNAに変異を導入して遺伝子情報を改変して本発明のタンパク質を得るには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャフリングやカセットPCR等の分子進化工学的手法は、例えば、Kurtzman,A.L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A.,Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001、及び、Okuta, A., Ohnishi, A. and Harayama, S., PCR isolation of catechol 2,3-dioxygenase gene fragments from environmental samples and their assembly into functional genes. Gene, 212, 221-228, 1998を参照することができる。なかでも、エラープローンPCR等によりランダム変異を導入する分子進化的手法を利用する無細胞タンパク質合成系を採用することが好ましい。エラープローンPCRに適用する無細胞タンパク質合成系としては、公知のあるいは本出願人が出願した特開2006−61080号公報及び特開2003−116590号公報に記載のタンパク質合成系を用いることができる。本出願人によるこれらの無細胞タンパク質合成系を用いることで活性型の酵素を容易に得ることができる。このため、これらのタンパク質合成系が適用されたエラープローンPCRは、本セルロース分解助長因子や後述するコード化DNAを取得する手法として好ましく用いることができる。
【0035】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列を有することもできる。好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の相同性を有する配列であってもよい。特定のアミノ酸配列に対する相同性は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において利用可能なblastp, psi-blast, phi-blastを用いたprotein blastやblastxなどのプログラムを利用して取得することができる。また、本セルロース分解助長因子は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693)のアミノ酸配列との相同性が70%未満であることが好ましい。より好ましくは68%以下であり、さらに好ましくは66%以下である。
【0036】
このような相同性のアミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列)又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAをプローブとして用いるとき、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるものであってもよい。本明細書で言う「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味する。ストリンジェントな条件とは、特異的ハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者において公知であるが、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 3nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,2001(以下、モレキュラークローニング第3版と略す)又は、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)を参照して設定することができる。例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC
0.15M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.0)、5×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/ml変性サケ精子DNA、50mM リン酸バッファー(pH7.5))を用いて、42℃〜50℃程度でインキュベーションし、その後、0.1×SSC、0.1%SDSを用いて65℃〜70℃で洗浄する条件を挙げることができる。なおストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0037】
本セルロース分解助長因子は、配列番号1の塩基配列又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするが、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693)をコードする塩基配列又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAとはストリンジェントな条件でハイブリダイズしないDNAであることが好ましい。
【0038】
本発明のタンパク質は、上述のようにタンパク質の無細胞合成系による遺伝子工学的手法によって取得することができるほか、本発明のタンパク質をコードするDNAで適当な宿主細胞を形質転換し、当該形質転換体において本発明のタンパク質を生産させる遺伝子工学的手法により取得することができる。形質転換体を用いた遺伝子工学的なタンパク質の生産方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0039】
本セルロース分解助長因子は、天然に存在する微生物等から単離されたものであってもよいし、化学的又は形質転換体や無細胞合成系等により遺伝子工学的に合成されたものであってもよい。本セルロース分解助長因子は、各種微生物に由来することができるが、なかでもアスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来とすることができる。Aspergillus fumigatusは上述のように日和見感染症である肺アスペルギルス症の主たる原因菌とされるが、Aspergillus oryzae等のように有用なタンパク質を生産する菌として認識も利用もされておらず、またその生態からもそのような利用が期待されているわけでもなかった。
【0040】
Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子とは、Aspergillus fumigatusに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)がセルロース分解助長因子又は当該微生物のセルロース分解助長因子をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたタンパク質をいう。したがって、Aspergillus fumigatusから取得したセルロース分解助長因子をコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質も、Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子に該当する。
【0041】
本セルロース分解助長因子が由来するAspergillus fumigatusとしては、例えば、NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構)から入手できるNBRC4057,4399、4400、5840、6344、7079、7080、7838、7839、8866、8867、8868、9733、30870、31952、100583株等が挙げられる。また、ATCC(American Type Culture Collection)から入手できるATCC1022、1028、10827、10894、13073、14109、14110、16424、16619、16907、16913、200803、200804株等が挙げられる。
【0042】
(DNA構築物)
本発明のDNA構築物は、本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAを含んでいる。本DNA構築物は、セルロース分解促進因子生産用として有用である。従来、形質転換して生産するのに適したセルロース分解助長因子は見つかっていなかった。特に、本DNA構築物は、取得源であるAspergillus fumigatusを包含する糸状菌でのセルロース分解助長因子として有用である。糸状菌としては、、Aspergillus属、Phanerochaete属、Trichoderma属、Rhizopus属、Rhizomucor属及びNeurospora属から選択される菌であることが好ましい。これらは、いずれも分泌タンパク質の生産能力が高い菌であり、Aspergillus属、Rhizopus属及びRhizomucor属は、いわゆる麹菌として各種酵素の分泌生産能力が高く、Phanerochaete属及びTrichoderma属は、セルロースを分解する各種酵素等のタンパク質を分泌生産能力が高い菌である。本発明のDNA構築物は、取得源とは異種の菌であるAspergillus oryzaeで高効率で生産されたことから、他の分泌タンパク質生産性の菌においても高生産されると考えられる。本DNA構築物によれば、Aspergillus oryzaeをはじめとして工業的な利用に適した効率的に本セルロース分解助長因子を製造することができる。
【0043】
本DNA構築物が含む本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAとしては、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAが挙げられる。また、当該DNAとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を含みアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAが挙げられる。
【0044】
コード化DNAは、配列番号1の塩基配列において、Aspergillus oryzaeにおけるコドン用法に基づいてアミノ酸保存的に改変されたものであってもよい。すなわち、コード化DNAは、当該改変した塩基配列からなっていてもよいし、当該改変塩基配列を有していてもよい。また、コード化DNAは、本セルロース分解助長因子の宿主細胞における分泌性を改善するためのペプチド鎖をコードするための塩基配列を含んでいてもよい。本セルロース分解助長因子は、Aspergillus fumigatusにおいて分泌タンパク質として産生されるものであるが、形質転換体の宿主細胞において分泌性が促進されるようなシグナルペプチドを備えていることが好ましい。
【0045】
このようなコード化DNAとしては、既述の公知のDNAハイブリダイゼーションやPCRを利用したクローニング法(モレキュラークローニング第3版等)により得られるDNAが挙げられる。また、このようなコード化DNAとしては、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ処理、部位特異的変異挿入(モレキュラークローニング第3版等)や各種のランダム突然変異導入法(モレキュラークローニング第3版等)による変異を導入したDNAが挙げられる。
【0046】
本DNA構築物は、主として宿主細胞の形質転換を意図したものであり、形質転換の手法や宿主細胞におけるコード化DNAの保持形態(染色体に導入する形態や染色体外に保持する形態等)に応じて、上記コード化DNA以外の構成要素が適宜決定される。本DNA構築物は、典型的には、発現ベクターの形態を採ることができる。発現ベクターの形態は特に限定されないで、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター等の形態を採ることができる。発現ベクターは、通常、プロモーター、エンハンサー、選択マーカー等を備えることができる。このようなDNA構築物を得るための遺伝子組換えの手法は、モレキュラークローニング第3版等を参照して行うことができる。
【0047】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体である。本発明の形質転換体は、本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAを外来因子として有し、本セルロース分解助長因子を外来タンパク質として生産可能である。本形質転換体は、好ましくは、本セルロース分解助長因子を分泌タンパク質として生産可能である。本形質転換体の好ましい宿主細胞は、本発明のタンパク質の取得源である、Aspergillus fumigatusを包含する糸状菌とすることが好ましく、なかでも、タンパク質の分泌生産能力の高いAspergillus属、Phanerochaete属、Trichoderma属、Rhizopus属、Rhizomucor属及びNeurospora属から選択される菌を宿主とすることが好ましい。また、工業的な培養・発酵技術が確立されているAspergillus属菌であることが好ましく、より好ましくはAspergillus oryzaeである。
【0048】
本形質転換体を得るための形質転換にあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。また、ベクターとしては、宿主や形質転換形態に応じて公知又は商業的に入手可能なベクターから適宜選択して用いることができる。
【0049】
(本セルロース分解助長因子の生産方法)
本発明のセルロース分解助長因子の生産方法は、本形質転換体を準備する工程と、本形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備えることができる。本セルロース分解助長因子は、上記したように、各種の化学合成及び遺伝子工学的手法を単独であるいは組み合わせることで生産することができるが、好ましくは、本形質転換体を培養する。こうすることで大量の本セルロース分解助長因子を効率的に得ることができる。
【0050】
本法における形質転換体準備工程については、既に説明したとおりである。なお、本形質転換体は、上記のように作製したものであってもよいが、特に限定されない。本形質転換体は、Aspergillus属菌などの糸状菌を宿主とすることが好ましく、より好ましくはAspergillus oryzaeを宿主とする。本セルロース分解助長因子は、Aspergillus oryzaeにおいて効率的に生産することができるからである。
【0051】
本法における培養工程は、本形質転換体を本セルロース分解助長因子を発現可能な状態で培養する工程である。本形質転換体においては、本セルロース分解助長因子をコード化するDNAが構成的プロモーターの制御下にあるか又は誘導的プロモーターの制御下にあるか、本セルロース分解助長因子が宿主において分泌性であるかどうか、選択マーカーの種類等を考慮し、本セルロース分解助長因子を生産できる培養条件を適宜設定する。当業者であれば、培地(炭素源、窒素源、無機塩及びビタミン等の組成、pH)、培養温度、通気条件、培養時間等を適宜設定し、好ましい培養条件を決定することができる。例えば、Aspergillus oryzaeを宿主とする本形質転換体の培養条件としては、例えば、以下の培地組成、培養温度及び通気条件が挙げられる。一例として、プレート培養においては主にポテトデキストロース培地(日水)、液体培養においては主にDPY培地を利用する。DPY培地の組成は、デキストリン(Difco)2.0g、イーストエキストラクト(Difco)0.5g、KH2PO40.5g、MgSO4・7H2O 0.05gを水に溶かして100mlとしたものを、オートクレーブして作製する。500ml容バッフル付三角フラスコに100mlのDPY液体培地を分注し、白金耳または滅菌済みの竹串で、菌体をかきとって植菌する。菌体が均一になるようによく懸濁してから18〜24時間、30℃、120〜150rpmで振とう培養する。
【0052】
本法における回収工程は、培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する。本セルロース分解助長因子が培養工程で分泌生産される場合には、菌体を含まない培養上清を培養産物として回収し、本セルロース分解助長因子が菌体内タンパク質として生産される場合には菌体を培養産物として回収することができる。菌体を培養産物として回収する場合には、超音波や加圧等による菌体破砕処理を行う。こうした培養産物を、例えば、ろ過や遠心分離等によって固液分離した後、限外ろ過、塩析、透析、クロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより本セルロース分解助長因子を回収できる。なお、分離精製の程度は特に限定されない。培養上清やその粗分離精製物自体を本セルロース分解助長因子として利用することもできる。
【0053】
(セルロース含有材料の処理方法)
本発明のセルロース含有材料の処理方法は、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させる処理工程、を備えることができる。本セルロース分解助長因子は、セルロース含有材料と接触されることでセルロース、特にその結晶領域を膨潤又は軟化することができ、セルラーゼがアクセスしやすい状態を形成できる。さらに、本セルロース分解助長因子がセルラーゼ活性を有するときには、セルラーゼとしてセルロースに作用して、セルロースを少なくとも部分的に分解して、セルロースの膨潤又は軟化を促進できる。
【0054】
本明細書において、セルロースとは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体をいう。セルロースにおけるグルコースの重合度は特に限定しないが、好ましくは200以上である。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースを含んでいてもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβグルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよいが、好ましくは結晶性セルロースを含む。さらに、セルロース は、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。
【0055】
セルロース は、天然では植物細胞壁の主たる構成成分として存在し、多糖としては地球上で最も多く生産されている。植物細胞壁において、セルロースは、結晶性セルロース領域と非晶質セルロース領域とを形成している。結晶性セルロース領域は、分子間水素結合等により強固な結晶構造を形成している。
【0056】
本明細書において、セルロース含有材料とは、上記したセルロースを含むものであればよい。セルロース含有材料は、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラなどの各種ワラ、籾殻、バガス、木材チップなどの農産廃棄物、古紙、建築廃材などの各種廃棄物などを含むバイオマス(木質系及び草本系)が挙げられる。また、セルロース含有材料は、リグニンとセルロースとの複合体であるリグノセルロースであってもよいが、酵素処理や化学的処理等により少なくとも一部のリグニンと分離された状態であってもよいし、実質的にリグニンが除去されたものであってもよい。
【0057】
本処理方法における処理工程は、セルロース含有材料のセルロースに本セルロース分解助長因子が容易に作用できる条件下で行うことが好ましい。例えば、適度な水分の存在下でセルロース含有材料と本セルロース分解助長因子とを接触させるようにする。より好ましくは、セルロース含有材料に十分量の水分が浸透するようにセルロース含有材料を水に浸漬するなどの水分条件下に本セルロース分解助長因子を作用させる。pH条件としては、特に限定しないが、3.0以上8.0以下程度とすることが好ましい。本発明者らによれば、この範囲のpHであると、本セルロース分解助長因子が十分に機能することがわかっている。また、温度は、25℃以上70℃以下であることが好ましい。
【0058】
処理工程で用いる本セルロース分解助長因子の精製の程度は特に限定しない。また、本形質転換体の培養工程で得られる培養産物であって、本セルロース分解助長因子を含有する粗精製物であってもよい。
【0059】
本処理方法における処理工程は、セルロース含有材料の存在下、本形質転換体を本セルロース分解助長因子を分泌生産可能な条件で培養する工程とすることもできる。こうすることで、本セルロース分解助長因子の分離精製等を回避して効率的にセルロース含有材料のセルロースの構造を緩和することができる。本処理工程における、本形質転換体の培養条件は、本セルロース分解助長因子の生産方法における本形質転換体の培養条件に準じて設定することができる。
【0060】
なお、処理工程においては、本セルロース分解助長因子以外であっても、セルロース緩和に有効な他の物質や処理も適宜使用することができる。例えば、他の物質としては、他のセルロース構造緩和活性を有するタンパク質、例えば、植物由来のエクスパンシンなどを利用してもよい。また、必要に応じて、超音波などを照射してもよいし、熱などを付与してもよい。
【0061】
本処理方法は、セルロースの構造を緩和することができることから、セルロースを分解して利用する場合の前処理工程として実施することができるほか、洗浄の前処理工程及び洗浄工程の一部としても実施することができる。また、布地の改質の前処理工程又は改質工程の一部としても実施することができる。
【0062】
(セルロースの分解産物の生産方法)
本発明のセルロースの分解産物の生産方法は、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程を備えることができる。セルロース含有材料のセルロースは本セルロース分解助長因子と接触されることでセルラーゼが作用しやすい状態が形成されており、このような状態のセルロースとセルラーゼとを接触させることで、効率的にセルラーゼによってセルロースが分解される。
【0063】
本生産方法において用いるセルラーゼとは、セルロースをグルコースにまで加水分解するのに作用する各種の酵素の総称である。セルラーゼとしては、狭義には、β1,4−エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、グルカン1,4−βグルコシダーゼ(EC3.2.1.74)、セルロース1,4−βセロビオシダーゼ(EC3.2.1.91)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)が挙げられる。また、セルラーゼは、天然由来であっても人工的に改変されたものであってもよい。天然由来のものとしては、Trichoderma属やAspergillus属等に由来するセルラーゼなどを好ましく用いることができる。本発明においては、上記した狭義のセルラーゼを1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。異種のセルラーゼでなく、同種であっても2種類以上組み合わせてもよい。また、由来の異なるセルラーゼを組み合わせて用いることもできる。
【0064】
セルロースの分解産物とは、セルロースの低分子化物であればよい。したがって、部分分解物であるセロオリゴ等やセロビオース等からグルコースまでの態様が含まれる。
【0065】
本生産方法における分解工程において、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物をセルラーゼとの接触形態は特に限定されない。例えば、予め、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させ、この接触の産物の全部又は少なくとも接触後のセルロース含有材料又はセルロースを含む画分を、別に準備したセルラーゼと接触させてもよい。また、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とセルラーゼとを同時的に接触させることで、本セルロース分解助長因子によるセルロースの構造緩和とセルラーゼによる分解とを同時的に実現するようにしてもよい。
【0066】
なお、セルロースをセルラーゼで分解する条件は特に限定しない。一般的にセルラーゼを用いる酵素反応では、用いるセルラーゼの至適pHや至適温度等を考慮し設定されるが、反応温度は30℃以上70℃以下であり、1時間以上24時間以下程度とすることができる。また、pHは、2以上6以下程度とすることができる。
【0067】
さらに、分解工程は、本セルロース分解助長因子及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることができる。こうすることで、実質的にセルラーゼの供給コストや使用量を低減することができる。セルラーゼを発現可能な微生物としては、Trichoderma reeseiなどのTrichoderma属菌、Aspergillus nigarなどの他のAspergillus属菌及びClostridium thermocellum、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum といったセルロース分解性クロストリディウム(Clostridium)属、Acetivibrio cellulolyticus、 Bacteroices cellulosolvens、Rumonococcus flavefaciensが挙げられる。分解工程は、こうした微生物がセルラーゼを分泌生産可能な培養条件で行うことができる。このような微生物の培養条件は、当業者であれば、必要に応じて適宜設定することができる。なお、予め、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物を取得し、この接触の産物の全部又は少なくとも接触後のセルロース含有材料又はセルロースを含む画分の存在下、別に準備したセルラーゼ産生微生物をセルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養してもよい。
【0068】
また、分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、本形質転換体を、本セルロース分解助長因子を分泌生産可能な条件下で培養する工程としてもよい。こうすることで、本セルロース分解助長因子を用いることによるセルロース分解助長活性を得ることができるとともに、本セルロース分解助長因子の生産工程を実質的に省略することができる。
【0069】
分解工程においては、培養初期において本セルロース分解助長因子と本形質転換体とを双方を用いてもよい。例えば、分解工程において本形質転換体を用いる場合、本セルロース分解助長因子が分泌生産されることにより分解工程の培養系(培養液)中に、本セルロース分解助長因子が含有されることになるが、セルロース含有材料中のセルロースの構造を早期に緩和し、効率的に分解するには、培養当初において本セルロース分解助長因子を含めるようにすることが好ましい。本生産方法の分解工程は、セルロースの糖化工程であるということもできる。したがって、本発明の生産方法は、セルロースの糖化方法ということもできる。また、本発明の生産方法は、セルロースを部分的に分解する洗浄の前処理工程及び洗浄工程の一部としても実施することができる。また、セルロースを部分的に分解する布地の改質の前処理工程又は改質工程の一部としても実施することができる。
【0070】
(セルロース処理用組成物及び分解用組成物)
本発明のセルロース処理用組成物は、本セルロース分解助長因子又は本形質転換体を含有することができる。この処理用組成物によれば、セルロース含有材料のセルロースの構造を効果的に緩和することができる。また、本発明のセルロース分解用組成物は、セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、本セルロース分解助長因子又は本形質転換体と、を含有することができる。本分解用組成物によれば、効率的にセルロースを分解・糖化することができる。これらの組成物において、セルラーゼ及びセルラーゼを分泌生産可能な微生物については、本発明のセルロースの分解産物の生産方法において既に説明した態様を適用することができる。
【0071】
本処理用組成物は、セルロースを含有することができる。セルロースを含有する本処理組成物を用いることで、含有する要素に応じた条件下でセルロースの構造を緩和する処理を実施することができる。また、本分解用組成物は、セルロースの分解産物を含有することができる。セルロースの分解産物を含有する本分解用組成物は、一層セルロースの分解を促進させるようなセルラーゼによる分解に供することができるほか、そのままあるいはそのセルロース分解産物を含む画分を、セルロース分解産物を利用する有用物質生産に適用することができる。
【0072】
本処理用組成物及び本分解用組成物は、セルロースを部分的に分解する洗浄の前処理用又は洗浄用としても利用できる。また、本処理用組成物及び本分解用組成物は、セルロースを部分的に分解する布地の改質の前処理用又は改質用としても利用できる。
【0073】
(セルロースから有用物質を生産する方法)
本発明のセルロースから有用物質を生産する方法は、本セルロース分解助長因子とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、前記分解工程で得られるセルロース分解産物の存在下、セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、を備えることができる。本発明の有用物質生産方法によれば、本セルロース分解助長因子を用いて効率的に分解したセルロース分解産物を利用するため、効率的にセルロースを利用して有用物質を生産することができる。
【0074】
本有用物質の生産方法における分解工程は、本発明の分解産物の生産方法における分解工程と同様の各種態様で実施することができる。本有用物質の生産方法における培養工程は、セルロース分解産物を利用できる微生物を培養して、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccahromyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属酵母等を利用してエタノールを生産する工程であってもよいし、酵母等の真菌や乳酸菌を利用してピルビン酸、乳酸、カプロン酸等の有機酸を生産する工程であってもよいし、大腸菌を利用してタンパク質等を生産する工程であってもよい。また、Aspergillus oryzae、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii,) アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等のAspergillus属菌を利用して各種化合物や食品を生産する工程であってもよい。
【0075】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
(Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子の取得)
麹菌をはじめとする糸状菌のデータベース(Fungal Genetics Stock Center(http://www。fgsc.net/)を利用して、公知情報である各種エクスパンシン、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(GenBankアクセッション番号:AJ245918)との相同性検索を行った。各種相同性検索のうちから、Aspergillus fumigatusにおいてある遺伝子を見出した(以後、当該遺伝子をafswol遺伝子というものとする。)。本塩基配列の両末端の配列に、下記に記載するオリゴヌクレオチドプライマー(aB1F-AfSWO及びaB2R-AfSWO)を設計し、Aspergillus fumigatus TIMM0063のゲノムDNAを鋳型にPCR増幅を行った。PCRの反応条件は、98℃30秒の処理後、98℃10秒、60℃5秒、72℃80秒の3段階の反応を1サイクルとし、これを30サイクル繰返し、4℃とした。またPCR反応には、PrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ製)を使用した。
【0077】
aB1F-AfSWO(配列番号3):
5’- GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCGACGGAATGACTCTTCTATTTGG -3’
aB2R-AfSWO(配列番号4):
5’- GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTCTAGGTGAACTGCACTCCCAG -3’
【0078】
得られたPCR増幅断片を、定法に従ってベクターへサブクローニングし、塩基配列の解読を行った。塩基配列の解読には、アプライドバイオシステム社製3130 Genetic Analyzer を使用し、操作の詳細は、付属の取扱説明書に従った。取得した遺伝子をafswo1遺伝子と命名し、その遺伝子配列(配列番号1)にもとづき推定されるアミノ酸配列(配列番号2)をTrichoderma reesei由来のスウォレニンのアミノ酸配列を図1に示した。アミノ酸レベルでの相同性解析の結果、Aspergillus fumigatus由来のafswo1遺伝子のタンパク質は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(Swo1)と65.33%の相同性を有することが確認された。
【実施例2】
【0079】
(発現ベクターの構築)
本実施例では、実施例1で取得したafswol遺伝子を麹菌であるAspergillus oryzaeで高発現させるためのベクターを構築した。本遺伝子の上流に、麹菌で高発現される特徴を有するAspergillus oryzae由来のtef1プロモーター遺伝子、下流にamyBターミネーター遺伝子を連結し、染色体導入型ベクターpgTAFSNを構築した。本ベクターは、麹菌のniaD遺伝子部位を認識し、麹菌ゲノム中に1コピー導入される特徴を有している。また、比較例として、既存のTrichoderma reesei由来遺伝子のswolを発現する染色体導入型ベクターpgTTRSNを同様にして構築した。両ベクターのマップを図2に示す。なお、ベクター構築に関する遺伝子連結法、形質転換法は、常法に従い行った。
【実施例3】
【0080】
本実施例では、実施例2で構築したベクターを、それぞれAspergillus oryzae NS-tApE株(プロテアーゼ遺伝子2重破壊株(ΔpepE、ΔtppA)である。pepE遺伝子は菌体内酸性プロテアーゼ、tppA遺伝子はトリペプチジルペプチダーゼをそれぞれコードする。)に導入した。導入手法は、プロトプラストPEG法による一般的に知られる実験方法に従った。選抜された形質転換麹菌は、ゲノムDNAを調製後、PCRにより目的とする遺伝子の導入の有無を確認した。つぎに、これら遺伝子組換え麹菌を、完全培地(DPY培地)にて4日間、30℃、120rpmで振とう培養を行った。培養液16μlを採取し、SDS-PAGEによるタンパク質電気泳動を行った。その泳動結果を図3に示す。両組換え麹菌における両スウォレニンの分泌生産量を比較すると、Aspergillus fumigatus由来のほうがTrichoderma reeseiよりも多量に生産されており、バンドの濃さから推測して400 mg/L程度であった。一方でTrichoderma reesei由来スウォレニンの分泌生産能は50 mg/L程度と、Aspergillus fumigatus由来スウォレニンの1/4量程度であり、さらにSDS-PAGEにおけるバンドがスメアになる現象も確認された。これらの結果から、今回新しく取得したAspergillus fumigatus由来スウォレニン(Afswo1)は、麹菌での分泌生産に適したタンパク質であることが確認された。
【実施例4】
【0081】
本実施例では、遺伝子組換え麹菌の培養上清から実施例1で取得したAspergillus fumigatus由来のタンパク質を精製した。スウォレニンが結晶性セルロースに結合する性質を利用して、粉末状のアビセル10mlを充填したカラムを作製し、本カラムに培養上清50mlを適用した。次に、洗浄バッファ(1M (NH4)2SO4、0.1M Tris(pH7.0)にて洗浄し、続いて滅菌水で1回目の溶出を行い、Tris-NaOH(pH12.5)バッファで2回目の溶出を行った。結果を図4に示す。また、タンパク質を含むフラクションについて、タンパク質の分子量をSDS−PAGE電気泳動法にて解析した結果を図5に示す。
【0082】
図4に示すように、本精製方法によってAspergillus fumigatus及びTrichoderma reeseiに由来する分泌タンパク質につき、それぞれ2つのピーク(フラクション15+16、フラクション25+26)が検出された。また、図5に示すように、これらのピークの分子量をSDS−PAGE電気泳動法にて解析した結果、1回目のピークが目的とするタンパク質であることがわかった。これらの結果から、本方法にて目的のタンパク質のみが精製されていることがわかった。
【実施例5】
【0083】
本実施例では、実施例4のフラクション16において得られた精製タンパク質を用いてセルロースの分解におけるセルラーゼとの相乗効果について評価した。評価は、0.1%カルボキシメチルセルロース(CMC)を含む寒天プレートに、各精製タンパク質水溶液(1.0μg/μl)を5μl及び10μlそれぞれ滴下するとともに、エンドグルカナーゼとしてCelA上清2μlとを重ねて滴下した。別に、CelA上清2μlを滴下した。なお、各スポットにおける滴下液量は、蒸留水で15μlに調整した。本プレートを40℃にて16時間インキュベートして、コンゴーレッド染色液(1M Tris-HCl pH9.0、0.1%コンゴーレッド)をプレートに注ぎ、1時間染色した。その後、1M NaClで数回洗浄した。カルボキシメチルセルロースが分解されるとハローが形成されるため、そのハローの大きさによって、セルロース分解性を評価した。結果を図6に示す。なお本実施例で用いたCelA上清溶液は、白色腐朽菌由来のエンドグルカナーゼ遺伝子を酵母(Saccharomyces cerevisiae)中に導入し、得られた組換え株を富栄養培地(YPD培地)にて、30℃、24時間培養することで得られた上清溶液2μlを使用した。
【0084】
図6に示すように、Aspergillus fumigatusから取得したタンパク質は、セルラーゼと混合することでハローの大きさが向上し、セルラーゼとの相乗効果によって、セルロース分解活性していることが確認できた。
【実施例6】
【0085】
本実施例では、Aspergillus fumigatus由来の精製タンパク質を用いてセルロースからの還元糖生成量を評価した。測定方法は、ブルーテトラゾリムを用いたTZアッセイ法(C. K. Jue and P. N. Lipke. J. Biochemical and Biophysical Methods, Vol. 11 p109-115(1985))に従った。2%カルボキシメチルセルロースを基質に、以下の試料液1〜3をそれぞれ添加し混合して、30℃で30分間反応させた後、還元糖生成量を測定した。結果を図7に示す。
試料液1:セルラーゼ単独(エンドグルカナーゼ、CelA上清2μl)
試料液2:スウォレニン単独(エンドグルカナーゼ、CelA上清2μl)
【0086】
図7に示すように、Aspergillus fumigatus由来のタンパク質は、単独でもセルラーゼ(エンドグルカナーゼ)活性を有し、その活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニンよりも高いことがわかった。
【実施例7】
【0087】
本実施例では、実施例4で取得したAspergillus fumigatus由来の精製タンパク質を用いて、結晶性セルロースにおける緩和効果を評価した。セルロース試料としてアビセル(Avicel PH-101、平均粒径50μm以下、Fluka)およびリン酸セルロース(Cellulose phosphate、平均粒径50μm〜100μm、 SIGMA)各100mgを、2mlの0.1M Acetate buffer中に添加した。これに実施例4にて精製した2種類のタンパク質(A. fumigatus由来、T. reesei由来)80μgをそれぞれ添加し、37℃にてインキュベートした。この際、コントロールとして、精製タンパク質を添加していない試料も作製した。反応開始から4日後の各試料を採取し、光学顕微鏡(KEYENCE、BZ-9000)にて観察した。その結果を図8および図9に示す。
【0088】
図8に示すように、倍率100倍および200倍での観察の結果、未添加試料では、セルロースの繊維が密であるのに対し、スウォレニンタンパク質を添加した試料において、全体的にセルロース繊維が細かくなっている現象が観察された。試みた2種類の精製タンパク質に共通して緩和効果が認められたが、特にA. fumigatus由来スウォレニンのほうが高いことがわかった。また、図9に示すように、本現象は、結晶性セルロースであるアビセルだけでなくリン酸セルロースにも共通して認められた。
【実施例8】
【0089】
実施例7にて作製した試料(セルロース繊維に精製スウォレニンを添加し、4日間反応させた試料)中に、セルラーゼを追加で添加し、グルコース生成量を測定することで、スウォレニン添加の効果を検証した。具体的には、実施例7にて作製した試料を懸濁させた試料より500μl(基質セルロース量として約25 mgを含有)を採取し、本溶液に2種類の市販セルラーゼ(Cellobiase from Aspergillus niger、およびCellulase from Trichoderma reesei ATCC26921、いずれもSIGMA)を加え、40℃、24時間反応させた。反応溶液を遠心分離後、その上清溶液中に含まれるグルコース生成量を測定した。グルコースの測定にはバイオセンサーBF5(王子計測機器)を使用し、操作の詳細は付属の取扱説明書に従った。
【0090】
実施例7にてセルロースとしてアビセルを基質とした場合の結果を図10に示し、リン酸セルロースを基質とした場合の結果を図11に示す。スウォレニンを添加せずにセルラーゼ反応を行った試料に比べ、アビセルおよびリン酸セルロースのいずれの基質の場合でも、スウォレニンを加えることで、最大で2倍以上のグルコース生成量が確認された。また、Aspergillus fumigatus由来のタンパク質を添加したほうが、Trichoderma reeseiに比べ高いグルコース生成効果があることも確認された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】Aspergillus fumigatus由来のタンパク質とTrichoderma reesei由来のスウォレニンとのアミノ酸配列を比較する図である。
【図2】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質をAspergillus oryzaeで発現させるための発現ベクターを示す図である。(b)は、Trichoderma reesei由来のタンパク質をAspergillus oryzaeで発現させるための発現ベクターを示す図である。
【図3】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の電気泳動結果を示す図である。(b)は、Trichoderma reesei由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の電気泳動結果を示す図である。
【図4】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の分画結果を表すグラフである。(b)は、Aspergillus oryzaeが分泌生産したTrichoderma reesei由来のスウォレニンの分画結果を表すグラフである。
【図5】Aspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の特定フラクション及びAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の特定フラクションとの電気泳動結果を示す図である。
【図6】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたCMC分解性評価結果(ハローアッセイ)を示す図である。
【図7】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いた還元糖生成量の評価結果を示すグラフである。
【図8】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたセルロース(アビセルPH−101)緩和活性の評価結果を示す図である。
【図9】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたセルロース(リン酸セルロース)緩和活性の評価結果を示す図である。
【図10】セルロース(アビセル)にAspergillus fumigatus由来タンパク質及びスウォレニンを作用後にセルラーゼを作用させたときのセルロース分解結果(グルコース量)を示す図である。
【図11】セルロース(リン酸セルロース)にAspergillus fumigatus由来タンパク質及びスウォレニンを作用後にセルラーゼを作用させたときのセルロース分解結果(グルコース量)を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
配列番号3〜4:合成プライマー
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスペルギルス由来のセルロース分解助長因子及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを、エネルギー源やその他の原料として有効利用するためには、バイオマスを動物や微生物が容易に利用可能な炭素源に糖化することが必要である。
【0003】
木質系又は草本系のバイオマスの主成分である結晶性セルロースを効率的に分解する各種試みがなされている。しかしながら、結晶性セルロースは、その構造の剛直性等のため各種セルラーゼがアクセスしにくく、大量のセルラーゼを使うかあるいは酸等により化学的な分解処理を施すかすることによって初めて酵素的に糖化しているのが現状である。エネルギーコストのかかる化学的分解処理より、より少ないセルラーゼでセルロースを効率的に分解することが望まれている。
【0004】
ここに、結晶性セルロースの剛直な構造を緩める機能を有するセルロース緩和因子として、植物由来のタンパク質であるエクスパンシンが知られている。エクスパンシンは、植物細胞壁に局在するタンパク質であってセルロースを含むマトリックスの壁緩和及び成長促進に関連していると考えられている。現在、植物以外の微生物や線虫などの動物においてもエクスパンシン様のタンパク質が見出されている。例えば、糸状菌の一種であるトリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)由来のスウォレニンが知られている。
【0005】
【特許文献1】国際公開パンフレットWO99/02693号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実際、セルロース緩和因子をセルロースの糖化プロセスに用いる場合には、セルロース緩和因子を効率的に生産してその十分量を供給することが重要である。例えば、そのタンパク質を生産するのに適した形質転換体が作製されなければ、糖化プロセスへの現実的な利用は困難である。
【0007】
さらに、セルロース緩和因子は、セルロース構造の緩和機能のみならずセルロースの分解にも寄与可能できるよう、セルラーゼ活性を有することがより好ましい。
【0008】
しかしながら、既に見出されているセルロース緩和因子は、いずれも遺伝子工学的な大量生産には必ずしも適しているとはいえなかったし、アスペルギルス(Aspergillus)属等の麹菌での生産適合性も全く検討されていなかった。すなわち、セルラーゼ構造緩和活性とセルラーゼ活性と遺伝子工学的手法による生産適合性を兼ね備えるセルロース緩和因子も知られていなかった。
【0009】
そこで、本発明は、セルロースの分解プロセスに有利なセルロース分解助長因子を提供することを一つの目的とする。より具体的には、セルロース構造緩和活性を有するとともに、アスペルギルス属菌やトリコデルマ属菌に代表される糸状菌などを宿主とする形質転換体によるタンパク質生産に好適なセルロース分解助長因子を提供することを一つの目的とする。さらに、良好なセルラーゼ活性を兼ね備えるセルロース分解助長因子を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、これらのセルロース分解助長因子の利用を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、セルロース構造緩和活性を有するタンパク質の探索を目的として、各種菌の生産するタンパク質を検索したところ、ある種のアスペルギルス属菌の生産するタンパク質がセルロース分解助長活性を有することを見出し、かつそのタンパク質が遺伝子工学的手法による生産性にも優れるほか、単独でも優れたセルラーゼ活性を有しているという知見を得た。本発明者らは、これらの知見に基づき本発明を完成した。すなわち、本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質が提供される。また、本発明によれば、以下のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質も提供される。これらのタンパク質はアスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来であってもよい。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列
【0012】
本発明によれば、上記いずれかのタンパク質をコードするDNAを含む、セルロース分解助長因子生産用のDNA構築物が提供される。このDNA構築物は、発現ベクターであってもよい。また、糸状菌用であることが好ましく、糸状菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケーテ(Phanerochaete)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属及びニューロスポラ(Neurospora)属ら選択されることができる。アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)での形質転換用であってもよい。
【0013】
本発明によれば、上記いずれかのDNA構築物によって形質転換された形質転換体が提供される。この形質転換体においては、宿主細胞が糸状菌であることが好ましく、糸状菌は、アスペルギルス属、ファネロケーテ属、トリコデルマ属、リゾプス属、リゾムコール属及びニューロスポラ属から選択されることができる。また、宿主細胞がAspergillus属菌であることが好ましく、より好ましくは、Aspergillus oryzaeである。
【0014】
本発明によれば、セルロース分解助長因子の生産方法であって、上記いずれかに記載の形質転換体を準備する工程と、前記形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備える、生産方法が提供される。この生産方法においては、前記形質転換体は、Aspergillus属菌であることが好ましく、Aspergillus oryzaeであることがより好ましい。
【0015】
本発明によれば、セルロース含有材料の処理方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させる処理工程、を備える、処理方法が提供される。この処理方法においては、前記処理工程は、セルロース含有材料の存在下、上記いずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程としてもよい。
【0016】
本発明によれば、セルロースの分解産物の生産方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物と、セルラーゼとを接触させる分解工程、を備える、生産方法が提供される。この生産方法においては、前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることができる。また、前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、上記いずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることもできる。
【0017】
本発明によれば、セルロース処理用組成物であって、上記いずれかに記載のタンパク質又は請求項に記載の形質転換体と、を含有する、組成物が提供される。この組成物は、セルロースを含有していてもよい。
【0018】
本発明によれば、セルロース分解用組成物であって、上記いずれかに記載のタンパク質又は請求項に記載の形質転換体と、セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、を含有する、組成物が提供される。この組成物はセルロースの分解産物を含有していてもよい。
【0019】
本発明によれば、セルロースから有用物質を生産する方法であって、上記いずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、前記糖化工程で得られるセルロース分解産物の存在下、当該セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、を備える、生産方法が提供される。前記培養工程は、前記微生物として酵母を利用する工程であってもよい。前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母であってもよい。前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程であってもよいし、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項9に記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、セルロース分解助長活性を有するタンパク質(以下、セルロース分解助長因子という。)及びその利用に関し、特に、セルロース分解助長因子、当該セルロース分解助長因子をコードするDNAを含むDNA構築物、当該DNA構築物によって形質転換された形質転換体、セルロース分解助長因子を利用したセルロースの処理方法、セルロース分解助長因子を利用したセルロース分解産物の生産方法及び有用物質の生産方法並びに各種組成物に関する。
【0021】
本発明のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、当該アミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失又は付加を有するアミノ酸配列を有し、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質又は当該アミノ酸配列と80%以上の相同性を有しセルロース分解助長活性を有するタンパク質である。本発明のタンパク質はセルロース分解助長活性を有している。セルロース分解助長活性は、第一に、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(Swollenin)や植物由来の各種エクスパンシンと同様に、セルロースの構造緩和活性に基づいている。セルロースの構造緩和活性を有することで、セルロースに対するセルラーゼのアクセスを容易にしてセルロースの分解を助長できる。さらに、本発明のタンパク質のセルロース分解助長活性は、そのセルラーゼ活性に基づくことができる。本発明のタンパク質がセルラーゼ活性を有することにより、セルロースを緩和してセルラーゼのアクセスを容易化するのに加えて自身のセルラーゼ活性によりセルロースの分解を相乗的に助長できる。
【0022】
本発明のタンパク質は、その分解助長活性に基づき、セルロースの化学的前処理を回避又は抑制できるとともに、セルラーゼによる糖化時のセルラーゼの使用量を低減でき、セルロースのセルラーゼによる糖化をより効率的に実施することができるようになる。
【0023】
本発明のタンパク質は、また、遺伝子工学的手法による生産性に優れている。すなわち、Aspergillus属菌などに代表される糸状菌を宿主とする形質転換体により効率的に生産させることができる。このため、本発明のタンパク質は、効率的に、すなわち、低コストで十分量を容易に提供できるものとなっている。また、本発明のタンパク質は、従来セルラーゼが用いられている各種の用途(洗浄、繊維の改質、飼料改質等)に用いることができる。
【0024】
本発明の他の実施形態は、いずれも本発明のタンパク質の上記した作用の少なくとも一つを利用して、それぞれの実施形態に応じた好ましい作用効果を得ることができる。
【0025】
以下、本発明の各種実施形態について詳細に説明する。
【0026】
(タンパク質)
本発明のタンパク質は、セルロース分解助長活性を有している。セルロース分解助長活性は、セルロースの構造緩和活性とセルラーゼ活性とを含む。セルロース構造緩和活性は、セルロースの糖化(部分的な分解又はグルコースへの分解)に大きく依存することなく、セルロースの構造を緩和し、結果としてセルロースを膨潤又は軟化を生じさせる活性を意味している。好ましくはセルロース構造緩和活性は、セルラーゼ活性に実質的に依存しないでセルロースの構造緩和できる活性である。また、セルロース構造緩和活性は、結晶性セルロースの構造を緩和するものであることが好ましい。
【0027】
セルロース構造緩和活性は、例えば、セルロース(アビセルなどの結晶セルロースやリン酸膨潤セルロースなど、例えば、100mg程度用いる。)を0.1M酢酸バッファ(例えば、2ml)に添加し、これらにタンパク質(例えば、80μg程度用いる。)を添加し、37℃でインキュベートし、一定期間経過後に均一に混合した反応液を採取して、光学顕微鏡で観察することにより評価できる。光学顕微鏡下において、観察されるセルロースの崩壊程度からセルロース構造緩和活性を本セルロース分解助長因子のセルロース構造緩和活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693号)よりも高いことが好ましい。
【0028】
本発明のセルロース分解助長因子は、セルロース構造緩和活性とともにセルラーゼ活性を備えることができる。セルラーゼ活性は、セルロースを部分的に分解又はグルコースにまで分解する活性である。セルラーゼとしては、β1,4−エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、グルカン1,4−βグルコシダーゼ(EC3.2.1.74)、セルロース1,4−βセロビオシダーゼ(EC3.2.1.91)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)が挙げられるが、本セルロース分解助長因子の有するセルラーゼ活性は、β1,4−エンドグルカナーゼ活性を備えていることが好ましい。エンドグルカナーゼは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合(β-1,4結合)により高度に重合した高分子セルロースを、エンド型の作用様式で(すなわち分子鎖内部で)を加水分解し、セロオリゴ糖、セロビオース、及びグルコースを生産するエンド型のセルラーゼである。エンドグルカナーゼは、カルボキシメチルセルラーゼ、エンド1,4-βグルカナーゼ、エンドセルラーゼなどとも呼称されている。
【0029】
セルラーゼ活性は、公知の方法で評価することができる。例えば、セルロースの分解によって生じる還元糖の量を測定することにより評価することができる。還元糖量の定量法としてはSomogyi法、Tauber-Kleiner法、Hanes法(滴定法)、Park-Johnson法、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)法、TZ法(Journal of Biochemical Methods, 11(1985)109-115)、フェノール−硫酸法(吸光度法)、レーン−エイノン(滴定法)などの多数の定量法が挙げられる。また、糖による銅イオンの還元を利用するSomogyi-Nelson法を用いることができる(福井作蔵 著「生物化学実験法1 還元糖の定量法 第2版」学会出版センター 1990年)。また、ABEE化(ABEE:4−アミノ安息香酸エチルエステル)(Yasunoら、Biosci. Biotech. Biochem. 61, 1994-1946)した上、HPLC等により定量してもよい。
【0030】
特に、本セルロース分解助長因子のセルラーゼ活性は、ブルーテトラゾリウムを用いたTZ法によって評価することが好ましい。また、評価は、本セルロース分解助長因子単独及び本セルロース分解助長因子と各種セルラーゼ(エンドグルカナーゼ等)と併用時の双方又はいずれかにおいて評価することが好ましい。本セルロース分解助長因子のセルラーゼ活性、エンドグルカナーゼ活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニンよりも高いことが好ましい。
【0031】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなることができる。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質は、本発明者らが、アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)から取得されたものである。アスペルギルス・フミガータスは、通常、麹菌として発酵に用いられるアスペルギルス属菌としては知られていない。アスペルギルス・フミガータスは、日和見感染や防菌防薇の対象となる場合があることが知られている。
【0032】
本発明のタンパク質は配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。配列番号2で表されるアミノ酸配列に付加されることがあるアミノ酸配列としては、例えば、細胞外分泌のためのシグナルペプチド、セルロース結合ドメイン等が挙げられる。
【0033】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有するものであってもよい。アミノ酸変異の個数は特に限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、アミノ酸変異は、置換、欠失及び付加のいずれであってもよく、2種類以上の変異態様を同時に含んでいてもよい。これらの変異の態様としては、セルロース分解助長活性の向上のための、セルロース結合ドメインやセルラーゼ活性等の向上のための改変や、形質転換体における生産性向上のための細胞外分泌のためのシグナルペプチドの付加又は改変が挙げられる。
【0034】
アミノ酸変異は、各種の手法にて導入することができる。例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードするDNAの塩基配列(配列番号2)や相同性配列をコードするDNA等の配列情報を改変する方法を用いることができる。DNAに変異を導入して遺伝子情報を改変して本発明のタンパク質を得るには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan−K(TAKARA社製)やMutan−G(TAKARA社製))などを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、遺伝子の変異導入やキメラ遺伝子を構築することもできる。エラー導入PCR及びDNAシャッフリング手法は、当技術分野で公知の手法であり、例えばエラー導入PCRについてはChen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622を、またDNAシャフリングやカセットPCR等の分子進化工学的手法は、例えば、Kurtzman,A.L.,Govindarajan, S., Vahle, K., Jones, J. T., Heinrichs, V., Patten P. A.,Advances in directed protein evolution by recursive genetic recombination: applications to therapeutic proteins. Curr. Opinion Biotechnol.,12, 361-370, 2001、及び、Okuta, A., Ohnishi, A. and Harayama, S., PCR isolation of catechol 2,3-dioxygenase gene fragments from environmental samples and their assembly into functional genes. Gene, 212, 221-228, 1998を参照することができる。なかでも、エラープローンPCR等によりランダム変異を導入する分子進化的手法を利用する無細胞タンパク質合成系を採用することが好ましい。エラープローンPCRに適用する無細胞タンパク質合成系としては、公知のあるいは本出願人が出願した特開2006−61080号公報及び特開2003−116590号公報に記載のタンパク質合成系を用いることができる。本出願人によるこれらの無細胞タンパク質合成系を用いることで活性型の酵素を容易に得ることができる。このため、これらのタンパク質合成系が適用されたエラープローンPCRは、本セルロース分解助長因子や後述するコード化DNAを取得する手法として好ましく用いることができる。
【0035】
本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列と少なくとも70%以上の相同性を有する配列を有することもできる。好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上の相同性を有する配列であってもよい。特定のアミノ酸配列に対する相同性は、NCBIのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において利用可能なblastp, psi-blast, phi-blastを用いたprotein blastやblastxなどのプログラムを利用して取得することができる。また、本セルロース分解助長因子は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693)のアミノ酸配列との相同性が70%未満であることが好ましい。より好ましくは68%以下であり、さらに好ましくは66%以下である。
【0036】
このような相同性のアミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号1で表される塩基配列)又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAをプローブとして用いるとき、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるものであってもよい。本明細書で言う「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味する。ストリンジェントな条件とは、特異的ハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者において公知であるが、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 3nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,2001(以下、モレキュラークローニング第3版と略す)又は、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987-1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)を参照して設定することができる。例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC
0.15M NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.0)、5×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/ml変性サケ精子DNA、50mM リン酸バッファー(pH7.5))を用いて、42℃〜50℃程度でインキュベーションし、その後、0.1×SSC、0.1%SDSを用いて65℃〜70℃で洗浄する条件を挙げることができる。なおストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げられ、例えば70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAが挙げられる。
【0037】
本セルロース分解助長因子は、配列番号1の塩基配列又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするが、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(国際公開パンフレットWO99/02693)をコードする塩基配列又はその一部若しくはこれらに相補的な塩基配列からなるDNAとはストリンジェントな条件でハイブリダイズしないDNAであることが好ましい。
【0038】
本発明のタンパク質は、上述のようにタンパク質の無細胞合成系による遺伝子工学的手法によって取得することができるほか、本発明のタンパク質をコードするDNAで適当な宿主細胞を形質転換し、当該形質転換体において本発明のタンパク質を生産させる遺伝子工学的手法により取得することができる。形質転換体を用いた遺伝子工学的なタンパク質の生産方法は、モレキュラークローニング第3版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0039】
本セルロース分解助長因子は、天然に存在する微生物等から単離されたものであってもよいし、化学的又は形質転換体や無細胞合成系等により遺伝子工学的に合成されたものであってもよい。本セルロース分解助長因子は、各種微生物に由来することができるが、なかでもアスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来とすることができる。Aspergillus fumigatusは上述のように日和見感染症である肺アスペルギルス症の主たる原因菌とされるが、Aspergillus oryzae等のように有用なタンパク質を生産する菌として認識も利用もされておらず、またその生態からもそのような利用が期待されているわけでもなかった。
【0040】
Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子とは、Aspergillus fumigatusに分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい)がセルロース分解助長因子又は当該微生物のセルロース分解助長因子をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたタンパク質をいう。したがって、Aspergillus fumigatusから取得したセルロース分解助長因子をコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質も、Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子に該当する。
【0041】
本セルロース分解助長因子が由来するAspergillus fumigatusとしては、例えば、NBRC(独立行政法人製品評価技術基盤機構)から入手できるNBRC4057,4399、4400、5840、6344、7079、7080、7838、7839、8866、8867、8868、9733、30870、31952、100583株等が挙げられる。また、ATCC(American Type Culture Collection)から入手できるATCC1022、1028、10827、10894、13073、14109、14110、16424、16619、16907、16913、200803、200804株等が挙げられる。
【0042】
(DNA構築物)
本発明のDNA構築物は、本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAを含んでいる。本DNA構築物は、セルロース分解促進因子生産用として有用である。従来、形質転換して生産するのに適したセルロース分解助長因子は見つかっていなかった。特に、本DNA構築物は、取得源であるAspergillus fumigatusを包含する糸状菌でのセルロース分解助長因子として有用である。糸状菌としては、、Aspergillus属、Phanerochaete属、Trichoderma属、Rhizopus属、Rhizomucor属及びNeurospora属から選択される菌であることが好ましい。これらは、いずれも分泌タンパク質の生産能力が高い菌であり、Aspergillus属、Rhizopus属及びRhizomucor属は、いわゆる麹菌として各種酵素の分泌生産能力が高く、Phanerochaete属及びTrichoderma属は、セルロースを分解する各種酵素等のタンパク質を分泌生産能力が高い菌である。本発明のDNA構築物は、取得源とは異種の菌であるAspergillus oryzaeで高効率で生産されたことから、他の分泌タンパク質生産性の菌においても高生産されると考えられる。本DNA構築物によれば、Aspergillus oryzaeをはじめとして工業的な利用に適した効率的に本セルロース分解助長因子を製造することができる。
【0043】
本DNA構築物が含む本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAとしては、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAが挙げられる。また、当該DNAとしては、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を含みアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNAが挙げられる。
【0044】
コード化DNAは、配列番号1の塩基配列において、Aspergillus oryzaeにおけるコドン用法に基づいてアミノ酸保存的に改変されたものであってもよい。すなわち、コード化DNAは、当該改変した塩基配列からなっていてもよいし、当該改変塩基配列を有していてもよい。また、コード化DNAは、本セルロース分解助長因子の宿主細胞における分泌性を改善するためのペプチド鎖をコードするための塩基配列を含んでいてもよい。本セルロース分解助長因子は、Aspergillus fumigatusにおいて分泌タンパク質として産生されるものであるが、形質転換体の宿主細胞において分泌性が促進されるようなシグナルペプチドを備えていることが好ましい。
【0045】
このようなコード化DNAとしては、既述の公知のDNAハイブリダイゼーションやPCRを利用したクローニング法(モレキュラークローニング第3版等)により得られるDNAが挙げられる。また、このようなコード化DNAとしては、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ処理、部位特異的変異挿入(モレキュラークローニング第3版等)や各種のランダム突然変異導入法(モレキュラークローニング第3版等)による変異を導入したDNAが挙げられる。
【0046】
本DNA構築物は、主として宿主細胞の形質転換を意図したものであり、形質転換の手法や宿主細胞におけるコード化DNAの保持形態(染色体に導入する形態や染色体外に保持する形態等)に応じて、上記コード化DNA以外の構成要素が適宜決定される。本DNA構築物は、典型的には、発現ベクターの形態を採ることができる。発現ベクターの形態は特に限定されないで、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター等の形態を採ることができる。発現ベクターは、通常、プロモーター、エンハンサー、選択マーカー等を備えることができる。このようなDNA構築物を得るための遺伝子組換えの手法は、モレキュラークローニング第3版等を参照して行うことができる。
【0047】
(形質転換体)
本発明の形質転換体は、本DNA構築物によって形質転換された形質転換体である。本発明の形質転換体は、本セルロース分解助長因子をコードするコード化DNAを外来因子として有し、本セルロース分解助長因子を外来タンパク質として生産可能である。本形質転換体は、好ましくは、本セルロース分解助長因子を分泌タンパク質として生産可能である。本形質転換体の好ましい宿主細胞は、本発明のタンパク質の取得源である、Aspergillus fumigatusを包含する糸状菌とすることが好ましく、なかでも、タンパク質の分泌生産能力の高いAspergillus属、Phanerochaete属、Trichoderma属、Rhizopus属、Rhizomucor属及びNeurospora属から選択される菌を宿主とすることが好ましい。また、工業的な培養・発酵技術が確立されているAspergillus属菌であることが好ましく、より好ましくはAspergillus oryzaeである。
【0048】
本形質転換体を得るための形質転換にあたり、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。また、ベクターとしては、宿主や形質転換形態に応じて公知又は商業的に入手可能なベクターから適宜選択して用いることができる。
【0049】
(本セルロース分解助長因子の生産方法)
本発明のセルロース分解助長因子の生産方法は、本形質転換体を準備する工程と、本形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備えることができる。本セルロース分解助長因子は、上記したように、各種の化学合成及び遺伝子工学的手法を単独であるいは組み合わせることで生産することができるが、好ましくは、本形質転換体を培養する。こうすることで大量の本セルロース分解助長因子を効率的に得ることができる。
【0050】
本法における形質転換体準備工程については、既に説明したとおりである。なお、本形質転換体は、上記のように作製したものであってもよいが、特に限定されない。本形質転換体は、Aspergillus属菌などの糸状菌を宿主とすることが好ましく、より好ましくはAspergillus oryzaeを宿主とする。本セルロース分解助長因子は、Aspergillus oryzaeにおいて効率的に生産することができるからである。
【0051】
本法における培養工程は、本形質転換体を本セルロース分解助長因子を発現可能な状態で培養する工程である。本形質転換体においては、本セルロース分解助長因子をコード化するDNAが構成的プロモーターの制御下にあるか又は誘導的プロモーターの制御下にあるか、本セルロース分解助長因子が宿主において分泌性であるかどうか、選択マーカーの種類等を考慮し、本セルロース分解助長因子を生産できる培養条件を適宜設定する。当業者であれば、培地(炭素源、窒素源、無機塩及びビタミン等の組成、pH)、培養温度、通気条件、培養時間等を適宜設定し、好ましい培養条件を決定することができる。例えば、Aspergillus oryzaeを宿主とする本形質転換体の培養条件としては、例えば、以下の培地組成、培養温度及び通気条件が挙げられる。一例として、プレート培養においては主にポテトデキストロース培地(日水)、液体培養においては主にDPY培地を利用する。DPY培地の組成は、デキストリン(Difco)2.0g、イーストエキストラクト(Difco)0.5g、KH2PO40.5g、MgSO4・7H2O 0.05gを水に溶かして100mlとしたものを、オートクレーブして作製する。500ml容バッフル付三角フラスコに100mlのDPY液体培地を分注し、白金耳または滅菌済みの竹串で、菌体をかきとって植菌する。菌体が均一になるようによく懸濁してから18〜24時間、30℃、120〜150rpmで振とう培養する。
【0052】
本法における回収工程は、培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する。本セルロース分解助長因子が培養工程で分泌生産される場合には、菌体を含まない培養上清を培養産物として回収し、本セルロース分解助長因子が菌体内タンパク質として生産される場合には菌体を培養産物として回収することができる。菌体を培養産物として回収する場合には、超音波や加圧等による菌体破砕処理を行う。こうした培養産物を、例えば、ろ過や遠心分離等によって固液分離した後、限外ろ過、塩析、透析、クロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより本セルロース分解助長因子を回収できる。なお、分離精製の程度は特に限定されない。培養上清やその粗分離精製物自体を本セルロース分解助長因子として利用することもできる。
【0053】
(セルロース含有材料の処理方法)
本発明のセルロース含有材料の処理方法は、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させる処理工程、を備えることができる。本セルロース分解助長因子は、セルロース含有材料と接触されることでセルロース、特にその結晶領域を膨潤又は軟化することができ、セルラーゼがアクセスしやすい状態を形成できる。さらに、本セルロース分解助長因子がセルラーゼ活性を有するときには、セルラーゼとしてセルロースに作用して、セルロースを少なくとも部分的に分解して、セルロースの膨潤又は軟化を促進できる。
【0054】
本明細書において、セルロースとは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体をいう。セルロースにおけるグルコースの重合度は特に限定しないが、好ましくは200以上である。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースを含んでいてもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβグルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよいが、好ましくは結晶性セルロースを含む。さらに、セルロース は、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。
【0055】
セルロース は、天然では植物細胞壁の主たる構成成分として存在し、多糖としては地球上で最も多く生産されている。植物細胞壁において、セルロースは、結晶性セルロース領域と非晶質セルロース領域とを形成している。結晶性セルロース領域は、分子間水素結合等により強固な結晶構造を形成している。
【0056】
本明細書において、セルロース含有材料とは、上記したセルロースを含むものであればよい。セルロース含有材料は、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラなどの各種ワラ、籾殻、バガス、木材チップなどの農産廃棄物、古紙、建築廃材などの各種廃棄物などを含むバイオマス(木質系及び草本系)が挙げられる。また、セルロース含有材料は、リグニンとセルロースとの複合体であるリグノセルロースであってもよいが、酵素処理や化学的処理等により少なくとも一部のリグニンと分離された状態であってもよいし、実質的にリグニンが除去されたものであってもよい。
【0057】
本処理方法における処理工程は、セルロース含有材料のセルロースに本セルロース分解助長因子が容易に作用できる条件下で行うことが好ましい。例えば、適度な水分の存在下でセルロース含有材料と本セルロース分解助長因子とを接触させるようにする。より好ましくは、セルロース含有材料に十分量の水分が浸透するようにセルロース含有材料を水に浸漬するなどの水分条件下に本セルロース分解助長因子を作用させる。pH条件としては、特に限定しないが、3.0以上8.0以下程度とすることが好ましい。本発明者らによれば、この範囲のpHであると、本セルロース分解助長因子が十分に機能することがわかっている。また、温度は、25℃以上70℃以下であることが好ましい。
【0058】
処理工程で用いる本セルロース分解助長因子の精製の程度は特に限定しない。また、本形質転換体の培養工程で得られる培養産物であって、本セルロース分解助長因子を含有する粗精製物であってもよい。
【0059】
本処理方法における処理工程は、セルロース含有材料の存在下、本形質転換体を本セルロース分解助長因子を分泌生産可能な条件で培養する工程とすることもできる。こうすることで、本セルロース分解助長因子の分離精製等を回避して効率的にセルロース含有材料のセルロースの構造を緩和することができる。本処理工程における、本形質転換体の培養条件は、本セルロース分解助長因子の生産方法における本形質転換体の培養条件に準じて設定することができる。
【0060】
なお、処理工程においては、本セルロース分解助長因子以外であっても、セルロース緩和に有効な他の物質や処理も適宜使用することができる。例えば、他の物質としては、他のセルロース構造緩和活性を有するタンパク質、例えば、植物由来のエクスパンシンなどを利用してもよい。また、必要に応じて、超音波などを照射してもよいし、熱などを付与してもよい。
【0061】
本処理方法は、セルロースの構造を緩和することができることから、セルロースを分解して利用する場合の前処理工程として実施することができるほか、洗浄の前処理工程及び洗浄工程の一部としても実施することができる。また、布地の改質の前処理工程又は改質工程の一部としても実施することができる。
【0062】
(セルロースの分解産物の生産方法)
本発明のセルロースの分解産物の生産方法は、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程を備えることができる。セルロース含有材料のセルロースは本セルロース分解助長因子と接触されることでセルラーゼが作用しやすい状態が形成されており、このような状態のセルロースとセルラーゼとを接触させることで、効率的にセルラーゼによってセルロースが分解される。
【0063】
本生産方法において用いるセルラーゼとは、セルロースをグルコースにまで加水分解するのに作用する各種の酵素の総称である。セルラーゼとしては、狭義には、β1,4−エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、グルカン1,4−βグルコシダーゼ(EC3.2.1.74)、セルロース1,4−βセロビオシダーゼ(EC3.2.1.91)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)が挙げられる。また、セルラーゼは、天然由来であっても人工的に改変されたものであってもよい。天然由来のものとしては、Trichoderma属やAspergillus属等に由来するセルラーゼなどを好ましく用いることができる。本発明においては、上記した狭義のセルラーゼを1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。異種のセルラーゼでなく、同種であっても2種類以上組み合わせてもよい。また、由来の異なるセルラーゼを組み合わせて用いることもできる。
【0064】
セルロースの分解産物とは、セルロースの低分子化物であればよい。したがって、部分分解物であるセロオリゴ等やセロビオース等からグルコースまでの態様が含まれる。
【0065】
本生産方法における分解工程において、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物をセルラーゼとの接触形態は特に限定されない。例えば、予め、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させ、この接触の産物の全部又は少なくとも接触後のセルロース含有材料又はセルロースを含む画分を、別に準備したセルラーゼと接触させてもよい。また、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とセルラーゼとを同時的に接触させることで、本セルロース分解助長因子によるセルロースの構造緩和とセルラーゼによる分解とを同時的に実現するようにしてもよい。
【0066】
なお、セルロースをセルラーゼで分解する条件は特に限定しない。一般的にセルラーゼを用いる酵素反応では、用いるセルラーゼの至適pHや至適温度等を考慮し設定されるが、反応温度は30℃以上70℃以下であり、1時間以上24時間以下程度とすることができる。また、pHは、2以上6以下程度とすることができる。
【0067】
さらに、分解工程は、本セルロース分解助長因子及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることができる。こうすることで、実質的にセルラーゼの供給コストや使用量を低減することができる。セルラーゼを発現可能な微生物としては、Trichoderma reeseiなどのTrichoderma属菌、Aspergillus nigarなどの他のAspergillus属菌及びClostridium thermocellum、Clostridium josui、Clostridium cellulolyticum といったセルロース分解性クロストリディウム(Clostridium)属、Acetivibrio cellulolyticus、 Bacteroices cellulosolvens、Rumonococcus flavefaciensが挙げられる。分解工程は、こうした微生物がセルラーゼを分泌生産可能な培養条件で行うことができる。このような微生物の培養条件は、当業者であれば、必要に応じて適宜設定することができる。なお、予め、本セルロース分解助長因子とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物を取得し、この接触の産物の全部又は少なくとも接触後のセルロース含有材料又はセルロースを含む画分の存在下、別に準備したセルラーゼ産生微生物をセルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養してもよい。
【0068】
また、分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、本形質転換体を、本セルロース分解助長因子を分泌生産可能な条件下で培養する工程としてもよい。こうすることで、本セルロース分解助長因子を用いることによるセルロース分解助長活性を得ることができるとともに、本セルロース分解助長因子の生産工程を実質的に省略することができる。
【0069】
分解工程においては、培養初期において本セルロース分解助長因子と本形質転換体とを双方を用いてもよい。例えば、分解工程において本形質転換体を用いる場合、本セルロース分解助長因子が分泌生産されることにより分解工程の培養系(培養液)中に、本セルロース分解助長因子が含有されることになるが、セルロース含有材料中のセルロースの構造を早期に緩和し、効率的に分解するには、培養当初において本セルロース分解助長因子を含めるようにすることが好ましい。本生産方法の分解工程は、セルロースの糖化工程であるということもできる。したがって、本発明の生産方法は、セルロースの糖化方法ということもできる。また、本発明の生産方法は、セルロースを部分的に分解する洗浄の前処理工程及び洗浄工程の一部としても実施することができる。また、セルロースを部分的に分解する布地の改質の前処理工程又は改質工程の一部としても実施することができる。
【0070】
(セルロース処理用組成物及び分解用組成物)
本発明のセルロース処理用組成物は、本セルロース分解助長因子又は本形質転換体を含有することができる。この処理用組成物によれば、セルロース含有材料のセルロースの構造を効果的に緩和することができる。また、本発明のセルロース分解用組成物は、セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、本セルロース分解助長因子又は本形質転換体と、を含有することができる。本分解用組成物によれば、効率的にセルロースを分解・糖化することができる。これらの組成物において、セルラーゼ及びセルラーゼを分泌生産可能な微生物については、本発明のセルロースの分解産物の生産方法において既に説明した態様を適用することができる。
【0071】
本処理用組成物は、セルロースを含有することができる。セルロースを含有する本処理組成物を用いることで、含有する要素に応じた条件下でセルロースの構造を緩和する処理を実施することができる。また、本分解用組成物は、セルロースの分解産物を含有することができる。セルロースの分解産物を含有する本分解用組成物は、一層セルロースの分解を促進させるようなセルラーゼによる分解に供することができるほか、そのままあるいはそのセルロース分解産物を含む画分を、セルロース分解産物を利用する有用物質生産に適用することができる。
【0072】
本処理用組成物及び本分解用組成物は、セルロースを部分的に分解する洗浄の前処理用又は洗浄用としても利用できる。また、本処理用組成物及び本分解用組成物は、セルロースを部分的に分解する布地の改質の前処理用又は改質用としても利用できる。
【0073】
(セルロースから有用物質を生産する方法)
本発明のセルロースから有用物質を生産する方法は、本セルロース分解助長因子とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、前記分解工程で得られるセルロース分解産物の存在下、セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、を備えることができる。本発明の有用物質生産方法によれば、本セルロース分解助長因子を用いて効率的に分解したセルロース分解産物を利用するため、効率的にセルロースを利用して有用物質を生産することができる。
【0074】
本有用物質の生産方法における分解工程は、本発明の分解産物の生産方法における分解工程と同様の各種態様で実施することができる。本有用物質の生産方法における培養工程は、セルロース分解産物を利用できる微生物を培養して、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccahromyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属酵母等を利用してエタノールを生産する工程であってもよいし、酵母等の真菌や乳酸菌を利用してピルビン酸、乳酸、カプロン酸等の有機酸を生産する工程であってもよいし、大腸菌を利用してタンパク質等を生産する工程であってもよい。また、Aspergillus oryzae、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii,) アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等のAspergillus属菌を利用して各種化合物や食品を生産する工程であってもよい。
【0075】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0076】
(Aspergillus fumigatus由来のセルロース分解助長因子の取得)
麹菌をはじめとする糸状菌のデータベース(Fungal Genetics Stock Center(http://www。fgsc.net/)を利用して、公知情報である各種エクスパンシン、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(GenBankアクセッション番号:AJ245918)との相同性検索を行った。各種相同性検索のうちから、Aspergillus fumigatusにおいてある遺伝子を見出した(以後、当該遺伝子をafswol遺伝子というものとする。)。本塩基配列の両末端の配列に、下記に記載するオリゴヌクレオチドプライマー(aB1F-AfSWO及びaB2R-AfSWO)を設計し、Aspergillus fumigatus TIMM0063のゲノムDNAを鋳型にPCR増幅を行った。PCRの反応条件は、98℃30秒の処理後、98℃10秒、60℃5秒、72℃80秒の3段階の反応を1サイクルとし、これを30サイクル繰返し、4℃とした。またPCR反応には、PrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ製)を使用した。
【0077】
aB1F-AfSWO(配列番号3):
5’- GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCGACGGAATGACTCTTCTATTTGG -3’
aB2R-AfSWO(配列番号4):
5’- GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTCTAGGTGAACTGCACTCCCAG -3’
【0078】
得られたPCR増幅断片を、定法に従ってベクターへサブクローニングし、塩基配列の解読を行った。塩基配列の解読には、アプライドバイオシステム社製3130 Genetic Analyzer を使用し、操作の詳細は、付属の取扱説明書に従った。取得した遺伝子をafswo1遺伝子と命名し、その遺伝子配列(配列番号1)にもとづき推定されるアミノ酸配列(配列番号2)をTrichoderma reesei由来のスウォレニンのアミノ酸配列を図1に示した。アミノ酸レベルでの相同性解析の結果、Aspergillus fumigatus由来のafswo1遺伝子のタンパク質は、Trichoderma reesei由来のスウォレニン(Swo1)と65.33%の相同性を有することが確認された。
【実施例2】
【0079】
(発現ベクターの構築)
本実施例では、実施例1で取得したafswol遺伝子を麹菌であるAspergillus oryzaeで高発現させるためのベクターを構築した。本遺伝子の上流に、麹菌で高発現される特徴を有するAspergillus oryzae由来のtef1プロモーター遺伝子、下流にamyBターミネーター遺伝子を連結し、染色体導入型ベクターpgTAFSNを構築した。本ベクターは、麹菌のniaD遺伝子部位を認識し、麹菌ゲノム中に1コピー導入される特徴を有している。また、比較例として、既存のTrichoderma reesei由来遺伝子のswolを発現する染色体導入型ベクターpgTTRSNを同様にして構築した。両ベクターのマップを図2に示す。なお、ベクター構築に関する遺伝子連結法、形質転換法は、常法に従い行った。
【実施例3】
【0080】
本実施例では、実施例2で構築したベクターを、それぞれAspergillus oryzae NS-tApE株(プロテアーゼ遺伝子2重破壊株(ΔpepE、ΔtppA)である。pepE遺伝子は菌体内酸性プロテアーゼ、tppA遺伝子はトリペプチジルペプチダーゼをそれぞれコードする。)に導入した。導入手法は、プロトプラストPEG法による一般的に知られる実験方法に従った。選抜された形質転換麹菌は、ゲノムDNAを調製後、PCRにより目的とする遺伝子の導入の有無を確認した。つぎに、これら遺伝子組換え麹菌を、完全培地(DPY培地)にて4日間、30℃、120rpmで振とう培養を行った。培養液16μlを採取し、SDS-PAGEによるタンパク質電気泳動を行った。その泳動結果を図3に示す。両組換え麹菌における両スウォレニンの分泌生産量を比較すると、Aspergillus fumigatus由来のほうがTrichoderma reeseiよりも多量に生産されており、バンドの濃さから推測して400 mg/L程度であった。一方でTrichoderma reesei由来スウォレニンの分泌生産能は50 mg/L程度と、Aspergillus fumigatus由来スウォレニンの1/4量程度であり、さらにSDS-PAGEにおけるバンドがスメアになる現象も確認された。これらの結果から、今回新しく取得したAspergillus fumigatus由来スウォレニン(Afswo1)は、麹菌での分泌生産に適したタンパク質であることが確認された。
【実施例4】
【0081】
本実施例では、遺伝子組換え麹菌の培養上清から実施例1で取得したAspergillus fumigatus由来のタンパク質を精製した。スウォレニンが結晶性セルロースに結合する性質を利用して、粉末状のアビセル10mlを充填したカラムを作製し、本カラムに培養上清50mlを適用した。次に、洗浄バッファ(1M (NH4)2SO4、0.1M Tris(pH7.0)にて洗浄し、続いて滅菌水で1回目の溶出を行い、Tris-NaOH(pH12.5)バッファで2回目の溶出を行った。結果を図4に示す。また、タンパク質を含むフラクションについて、タンパク質の分子量をSDS−PAGE電気泳動法にて解析した結果を図5に示す。
【0082】
図4に示すように、本精製方法によってAspergillus fumigatus及びTrichoderma reeseiに由来する分泌タンパク質につき、それぞれ2つのピーク(フラクション15+16、フラクション25+26)が検出された。また、図5に示すように、これらのピークの分子量をSDS−PAGE電気泳動法にて解析した結果、1回目のピークが目的とするタンパク質であることがわかった。これらの結果から、本方法にて目的のタンパク質のみが精製されていることがわかった。
【実施例5】
【0083】
本実施例では、実施例4のフラクション16において得られた精製タンパク質を用いてセルロースの分解におけるセルラーゼとの相乗効果について評価した。評価は、0.1%カルボキシメチルセルロース(CMC)を含む寒天プレートに、各精製タンパク質水溶液(1.0μg/μl)を5μl及び10μlそれぞれ滴下するとともに、エンドグルカナーゼとしてCelA上清2μlとを重ねて滴下した。別に、CelA上清2μlを滴下した。なお、各スポットにおける滴下液量は、蒸留水で15μlに調整した。本プレートを40℃にて16時間インキュベートして、コンゴーレッド染色液(1M Tris-HCl pH9.0、0.1%コンゴーレッド)をプレートに注ぎ、1時間染色した。その後、1M NaClで数回洗浄した。カルボキシメチルセルロースが分解されるとハローが形成されるため、そのハローの大きさによって、セルロース分解性を評価した。結果を図6に示す。なお本実施例で用いたCelA上清溶液は、白色腐朽菌由来のエンドグルカナーゼ遺伝子を酵母(Saccharomyces cerevisiae)中に導入し、得られた組換え株を富栄養培地(YPD培地)にて、30℃、24時間培養することで得られた上清溶液2μlを使用した。
【0084】
図6に示すように、Aspergillus fumigatusから取得したタンパク質は、セルラーゼと混合することでハローの大きさが向上し、セルラーゼとの相乗効果によって、セルロース分解活性していることが確認できた。
【実施例6】
【0085】
本実施例では、Aspergillus fumigatus由来の精製タンパク質を用いてセルロースからの還元糖生成量を評価した。測定方法は、ブルーテトラゾリムを用いたTZアッセイ法(C. K. Jue and P. N. Lipke. J. Biochemical and Biophysical Methods, Vol. 11 p109-115(1985))に従った。2%カルボキシメチルセルロースを基質に、以下の試料液1〜3をそれぞれ添加し混合して、30℃で30分間反応させた後、還元糖生成量を測定した。結果を図7に示す。
試料液1:セルラーゼ単独(エンドグルカナーゼ、CelA上清2μl)
試料液2:スウォレニン単独(エンドグルカナーゼ、CelA上清2μl)
【0086】
図7に示すように、Aspergillus fumigatus由来のタンパク質は、単独でもセルラーゼ(エンドグルカナーゼ)活性を有し、その活性は、Trichoderma reesei由来のスウォレニンよりも高いことがわかった。
【実施例7】
【0087】
本実施例では、実施例4で取得したAspergillus fumigatus由来の精製タンパク質を用いて、結晶性セルロースにおける緩和効果を評価した。セルロース試料としてアビセル(Avicel PH-101、平均粒径50μm以下、Fluka)およびリン酸セルロース(Cellulose phosphate、平均粒径50μm〜100μm、 SIGMA)各100mgを、2mlの0.1M Acetate buffer中に添加した。これに実施例4にて精製した2種類のタンパク質(A. fumigatus由来、T. reesei由来)80μgをそれぞれ添加し、37℃にてインキュベートした。この際、コントロールとして、精製タンパク質を添加していない試料も作製した。反応開始から4日後の各試料を採取し、光学顕微鏡(KEYENCE、BZ-9000)にて観察した。その結果を図8および図9に示す。
【0088】
図8に示すように、倍率100倍および200倍での観察の結果、未添加試料では、セルロースの繊維が密であるのに対し、スウォレニンタンパク質を添加した試料において、全体的にセルロース繊維が細かくなっている現象が観察された。試みた2種類の精製タンパク質に共通して緩和効果が認められたが、特にA. fumigatus由来スウォレニンのほうが高いことがわかった。また、図9に示すように、本現象は、結晶性セルロースであるアビセルだけでなくリン酸セルロースにも共通して認められた。
【実施例8】
【0089】
実施例7にて作製した試料(セルロース繊維に精製スウォレニンを添加し、4日間反応させた試料)中に、セルラーゼを追加で添加し、グルコース生成量を測定することで、スウォレニン添加の効果を検証した。具体的には、実施例7にて作製した試料を懸濁させた試料より500μl(基質セルロース量として約25 mgを含有)を採取し、本溶液に2種類の市販セルラーゼ(Cellobiase from Aspergillus niger、およびCellulase from Trichoderma reesei ATCC26921、いずれもSIGMA)を加え、40℃、24時間反応させた。反応溶液を遠心分離後、その上清溶液中に含まれるグルコース生成量を測定した。グルコースの測定にはバイオセンサーBF5(王子計測機器)を使用し、操作の詳細は付属の取扱説明書に従った。
【0090】
実施例7にてセルロースとしてアビセルを基質とした場合の結果を図10に示し、リン酸セルロースを基質とした場合の結果を図11に示す。スウォレニンを添加せずにセルラーゼ反応を行った試料に比べ、アビセルおよびリン酸セルロースのいずれの基質の場合でも、スウォレニンを加えることで、最大で2倍以上のグルコース生成量が確認された。また、Aspergillus fumigatus由来のタンパク質を添加したほうが、Trichoderma reeseiに比べ高いグルコース生成効果があることも確認された。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】Aspergillus fumigatus由来のタンパク質とTrichoderma reesei由来のスウォレニンとのアミノ酸配列を比較する図である。
【図2】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質をAspergillus oryzaeで発現させるための発現ベクターを示す図である。(b)は、Trichoderma reesei由来のタンパク質をAspergillus oryzaeで発現させるための発現ベクターを示す図である。
【図3】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の電気泳動結果を示す図である。(b)は、Trichoderma reesei由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の電気泳動結果を示す図である。
【図4】(a)は、Aspergillus fumigatus由来タンパク質の発現ベクターで形質転換したAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の分画結果を表すグラフである。(b)は、Aspergillus oryzaeが分泌生産したTrichoderma reesei由来のスウォレニンの分画結果を表すグラフである。
【図5】Aspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の特定フラクション及びAspergillus oryzaeが分泌生産したタンパク質の特定フラクションとの電気泳動結果を示す図である。
【図6】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたCMC分解性評価結果(ハローアッセイ)を示す図である。
【図7】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いた還元糖生成量の評価結果を示すグラフである。
【図8】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたセルロース(アビセルPH−101)緩和活性の評価結果を示す図である。
【図9】Aspergillus fumigatus由来精製タンパク質及びTrichoderma reesei由来精製タンパク質(スウォレニン)を用いたセルロース(リン酸セルロース)緩和活性の評価結果を示す図である。
【図10】セルロース(アビセル)にAspergillus fumigatus由来タンパク質及びスウォレニンを作用後にセルラーゼを作用させたときのセルロース分解結果(グルコース量)を示す図である。
【図11】セルロース(リン酸セルロース)にAspergillus fumigatus由来タンパク質及びスウォレニンを作用後にセルラーゼを作用させたときのセルロース分解結果(グルコース量)を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0092】
配列番号3〜4:合成プライマー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項2】
以下のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する配列
【請求項3】
アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来である、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のタンパク質をコードするDNAを含む、セルロース分解助長因子生産用のDNA構築物。
【請求項5】
発現ベクターである、請求項4に記載のDNA構築物。
【請求項6】
糸状菌での形質転換用である、請求項4又は5に記載のDNA構築物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNA構築物によって形質転換された形質転換体。
【請求項8】
宿主細胞が糸状菌である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
前記糸状菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケーテ(Phanerochaete)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属及びニューロスポラ(Neurospora)属から選択される菌である、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
前記糸状菌はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を含む、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項11】
セルロース分解助長因子の生産方法であって、
請求項7に記載の形質転換体を準備する工程と、
前記形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備える、生産方法。
【請求項12】
前記形質転換体は、Aspergillus属菌である、請求項11に記載の生産方法。
【請求項13】
前記Aspergillus属菌は、Aspergillus oryzaeである、請求項12に記載の生産方法。
【請求項14】
セルロース含有材料の処理方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させる処理工程、
を備える、処理方法。
【請求項15】
前記処理工程は、セルロース含有材料の存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項14に記載の緩和方法。
【請求項16】
セルロースの分解産物の生産方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物と、セルラーゼと接触させる分解工程、
を備える、生産方法。
【請求項17】
前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項16に記載の糖化方法。
【請求項18】
前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項16に記載の糖化方法。
【請求項19】
セルロース処理用組成物であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質又は請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体、
を含有する、組成物。
【請求項20】
セルロースを含有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
セルロース分解用組成物であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質又は請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体と、
セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、
を含有する、組成物。
【請求項22】
セルロースの分解産物を含有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
セルロースから有用物質を生産する方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、
前記分解工程で得られるセルロース分解産物の存在下、当該セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、
を備える、生産方法
【請求項24】
前記培養工程は、前記微生物として酵母を利用する工程である、請求項23に記載の生産方法。
【請求項25】
前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、請求項24に記載の生産方法。
【請求項26】
前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項23〜25のいずれかに記載の生産方法。
【請求項27】
前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項23〜25のいずれかに記載の生産方法。
【請求項1】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
【請求項2】
以下のアミノ酸配列のいずれかを含み、セルラーゼによるセルロースの分解を助長するセルロース分解助長活性を有するタンパク質。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有する配列
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有する配列
【請求項3】
アスペルギルス・フミガータス(Aspergillus fumigatus)由来である、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のタンパク質をコードするDNAを含む、セルロース分解助長因子生産用のDNA構築物。
【請求項5】
発現ベクターである、請求項4に記載のDNA構築物。
【請求項6】
糸状菌での形質転換用である、請求項4又は5に記載のDNA構築物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載のDNA構築物によって形質転換された形質転換体。
【請求項8】
宿主細胞が糸状菌である、請求項7に記載の形質転換体。
【請求項9】
前記糸状菌は、アスペルギルス(Aspergillus)属、ファネロケーテ(Phanerochaete)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属及びニューロスポラ(Neurospora)属から選択される菌である、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項10】
前記糸状菌はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を含む、請求項8に記載の形質転換体。
【請求項11】
セルロース分解助長因子の生産方法であって、
請求項7に記載の形質転換体を準備する工程と、
前記形質転換体を、本セルロース分解助長因子を発現可能な条件下で培養する培養工程と、
前記培養工程で得られた培養産物から本セルロース分解助長因子を回収する回収工程と、を備える、生産方法。
【請求項12】
前記形質転換体は、Aspergillus属菌である、請求項11に記載の生産方法。
【請求項13】
前記Aspergillus属菌は、Aspergillus oryzaeである、請求項12に記載の生産方法。
【請求項14】
セルロース含有材料の処理方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させる処理工程、
を備える、処理方法。
【請求項15】
前記処理工程は、セルロース含有材料の存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項14に記載の緩和方法。
【請求項16】
セルロースの分解産物の生産方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロース含有材料とを接触させて得られる産物と、セルラーゼと接触させる分解工程、
を備える、生産方法。
【請求項17】
前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項16に記載の糖化方法。
【請求項18】
前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項16に記載の糖化方法。
【請求項19】
セルロース処理用組成物であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質又は請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体、
を含有する、組成物。
【請求項20】
セルロースを含有する、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
セルロース分解用組成物であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質又は請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体と、
セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、
を含有する、組成物。
【請求項22】
セルロースの分解産物を含有する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
セルロースから有用物質を生産する方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のタンパク質とセルロースとを接触させて得られる産物とセルラーゼとを接触させる分解工程と、
前記分解工程で得られるセルロース分解産物の存在下、当該セルロース分解産物を利用する微生物を培養する培養工程と、
を備える、生産方法
【請求項24】
前記培養工程は、前記微生物として酵母を利用する工程である、請求項23に記載の生産方法。
【請求項25】
前記酵母は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属酵母である、請求項24に記載の生産方法。
【請求項26】
前記分解工程は、前記タンパク質及びセルロース含有材料の存在下、セルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項23〜25のいずれかに記載の生産方法。
【請求項27】
前記分解工程は、セルロース含有材料及びセルラーゼの存在下、請求項7〜10のいずれかに記載の形質転換体を前記タンパク質を分泌生産可能な条件下で培養する工程である、請求項23〜25のいずれかに記載の生産方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−207368(P2009−207368A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50924(P2008−50924)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]