説明

アズルミン酸混合液及びその製造方法

【課題】アズルミン酸が良好に溶解したアズルミン酸混合液の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のアズルミン酸混合液の製造方法は、アズルミン酸に塩基性又は酸性水溶液を添加する工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アズルミン酸混合液及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青酸を重合させるとアズルミン酸と呼ばれる青酸重合物が得られる。そのアズルミン酸は、従来、青酸からアミノ酸が生成する化学進化の研究論文等の一部に登場するが、近年はほとんど報告されていない。アズルミン酸は溶媒に不溶であるため(例えば、非特許文献1参照)、その構造について未だに明確にされておらず、その用途についても、ほとんど検討されていない。
【0003】
本発明者らは、先に、アズルミン酸を炭化させることによって多くの窒素を含有した窒素含有炭素材料が得られることを見出し(特許文献1参照)、得られた窒素含有炭素材料がリチウムイオン二次電池の電極などとして優れた機能を有することを見出している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/043311号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/123380号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Angew.Chem.72巻、p379−384(1960年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に、重合物を溶媒に溶解させることができれば、その構造解析を行いやすくなり応用検討なども容易になる。具体的には、重合物の溶解液から製膜したり、あるいは、他の有機化合物や高分子と混合して反応させたりすることが可能になり、その用途が大きく広がる。
【0007】
アズルミン酸は青酸というニトリル基を有するモノマーの重合物であるにもかかわらず、アズルミン酸を良好に溶解する溶媒が知られていない。そのため、構造解析が十分にされていない。アズルミン酸が溶媒に不溶又は難溶であることは、実用的な観点から、その用途の広がりを阻害している要因となっている。
【0008】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、アズルミン酸が溶解したアズルミン酸溶液及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アズルミン酸に塩基性又は酸性水溶液を添加、あるいは塩基性又は酸性水溶液にアズルミン酸を添加することによって、驚くべきことに、アズルミン酸を良好に溶解した溶液が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のとおりである。
(1)アズルミン酸に塩基性水溶液若しくは酸性水溶液を添加、又は塩基性水溶液若しくは酸性水溶液にアズルミン酸を添加する工程を有するアズルミン酸混合液の製造方法。
(2)前記塩基性水溶液に含まれる塩基のモル数が、アズルミン酸の青酸単位のモル数に対して、モル比で1以上である(1)に記載のアズルミン酸の製造方法。
(3)アズルミン酸と、水と、前記アズルミン酸の青酸単位のモル数に対して、モル比1以上の塩基とを含有するアズルミン酸混合液。
(4)アズルミン酸と、水と、酸とを含有するアズルミン酸混合液。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アズルミン酸が良好に溶解したアズルミン酸混合液及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。すなわち、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
本実施形態のアズルミン酸混合液の製造方法は、アズルミン酸と塩基性又は酸性水溶液とを共存させる工程を有するものであり、その工程に先立って、アズルミン酸を製造する工程を有していてもよい。
【0014】
アズルミン酸とは、主として青酸(シアン化水素)を重合して得られる重合物の総称である。青酸は、公知の方法で製造されたものを用いることができ、その製造方法は特に限定されない。例えば、青酸は、プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、プロパン又はイソブタン等をアンモニア及び酸素含有ガスと触媒存在下で反応させる気相接触反応によってアクリロニトリルやメタクリロニトリルを製造する方法において副生する。この方法によれば、青酸を非常に安価に得ることが可能である。なお、この種の気相接触反応は従来公知の反応であるため、その反応条件も公知のものであればよい。また、青酸を増産するために、例えば、アンモ酸化反応によって青酸を生成するような原料(例えば、メタノール等)を、反応器に供給してもよい。
【0015】
青酸は、天然ガスの主成分であるメタンをアンモニア及び酸素含有ガスと触媒存在下で反応させるアンドリュッソー法によっても生成される。この方法も、青酸を非常に安価に得ることが可能である。
【0016】
もちろん、青酸は、青化ソーダ等を用いる実験室的な製造方法によっても生成され、このようにして得られたものも用いることができる。ただし、青酸を多量且つ安価に製造できる観点から、上記の工業的に製造されたものを用いることが好ましい。
【0017】
アズルミン酸を製造する工程では、上述のようにして得られる青酸を含む原料を重合して、黒色から黒褐色の重合物であるアズルミン酸を得る。ここで、高純度のアズルミン酸を得る観点から、上記原料において、青酸以外の重合性物質の含有量が、原料の全体量に対して40質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。言い換えると、上記原料中の青酸の含有量は、原料の全体量に対して60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。
【0018】
アズルミン酸は、青酸及び場合によっては少量のそれ以外の重合性物質を種々の方法で重合させることにより製造することができる。その重合方法としては、例えば、液化青酸又は青酸水溶液を加熱する方法、それらを長時間放置する方法、それらに塩基を添加する方法、それらに光を照射する方法、それらに高エネルギーの放射をする方法、それらの存在下で種々の放電を行う方法、シアン化カリウム水溶液を電気分解する方法が挙げられる。
【0019】
液化青酸又は青酸水溶液に塩基を添加してその塩基の存在下に青酸を重合させる方法において、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化カリウム、有機塩基、アンモニア、アンモニア水を例示することができる。有機塩基としては、例えば、一級アミン(R1NH2)、二級アミン(R12NH)、三級アミン(R123N)、四級アンモニウム塩(R1234+)が挙げられる。ここで、R1、R2、R3及びR4は、互いに同一又は異なってもよい炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、シクロヘキシル基、又はこれらが結合して得られる基を示し、これらはさらに置換基を有していてもよい。これら有機塩基の中でも、脂肪族又は環式脂肪族の第三級アミンが好ましい。そのような第三級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジシクロヘキシルメチルアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、N−メチルピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(DBU)が挙げられる。上記例示した塩基は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0020】
プロピレン等のアンモ酸化工程で副生する青酸の精製工程で、装置の付着物を回収することによってアズルミン酸を得ることもできる。
【0021】
アズルミン酸の組成は、CHN分析計を用いて測定することができる。アズルミン酸中の炭素原子のモル数に対する窒素原子のモル数の比((窒素原子のモル数)/(炭素原子のモル数))は、0.2〜1.0であることが好ましく、より好ましくは0.3〜0.9、さらに好ましくは0.4〜0.9である。
【0022】
本実施形態で用いるアズルミン酸は、波数1000〜2000cm-1のレーザーラマン分光分析によるスペクトル図において、ラマンシフトが1300〜1400cm-1、1500〜1600cm-1のいずれの位置にもピークを示すことが好ましく、1360〜1380cm-1、1530〜1550cm-1のいずれの位置にもピークを示すことが特に好ましい。
【0023】
本実施形態で用いるアズルミン酸は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図の10〜50°の範囲において、回折角(2θ)が26.8±1°の位置に強いピークを示すものである。このピークは、好ましくは26.8±0.5°の位置に、より好ましくは26.8±0.2°の位置に示される。また、前述のピークに加えて、本実施形態で用いるアズルミン酸は、CuKα線をX線源として得られるX線回折図の10〜50°の範囲において、回折角(2θ)が12.3±1°の位置に、好ましくは12.3±0.5°の位置にピークを示してもよい。
【0024】
本実施形態で用いるアズルミン酸は、N1sのXPSスペクトル図において、399.0±0.7eVに、好ましくは399.0±0.4eVに、特に好ましくは399.0±0.2eVに主ピークを有することが好ましい。
【0025】
なお、アズルミン酸は、その製造方法、組成、製造ロットが異なるもの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
アズルミン酸が入った容器に塩基性水溶液又は酸性水溶液を添加しても良いし、逆に塩基性水溶液又は酸性水溶液が入った容器にアズルミン酸を添加しても良い。なお一方を他方に添加することによってアズルミン酸と、塩基性水溶液又は酸性水溶液とが共存した状態なればよく、両者は必ずしも完全に混ざり合っていることを要しない。
【0027】
本明細書中、塩基性水溶液とは、pHが9以上である水溶液を意味する。塩基性水溶液として、第一級アミンの水溶液、4級アンモニウム塩の水溶液、アルカリ金属の水溶液、アルカリ土類金属の水溶液、を例示することができる。第一級アミンの水溶液としては、アンモニア水溶液、メチルアミン水溶液、エチルアミン水溶液、プロピルアミン水溶液、イソプロピルアミン水溶液、ブチルアミン水溶液、アミルアミン水溶液、ヘキシルアミン水溶液の等のモノアミン水溶液、エチレンジアミン水溶液、トリメチレンジアミン水溶液、テトラメチレンジアミン水溶液等のジアミン水溶液、メラミン水溶液等のトリアミン水溶液を例示できる。
【0028】
アルカリ金属の水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を、アルカリ土類金属の水溶液としては水酸化カルシウム水溶液、水酸化バリウム水溶液等を、4級アンモニウム塩の水溶液としてはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド水溶液等を例示することができる。
【0029】
これらの中で、好ましい塩基性水溶液はアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液である。
【0030】
混合液中で、十分な量のアズルミン酸が溶けた又は混合された状態にする観点で、塩基性水溶液に含まれる塩基の量は、アズルミン酸の青酸単位に対してモル比で1以上であることが好ましい。ここでアズルミン酸の青酸単位のモル数とは、アズルミン酸の重量(g)を青酸の分子量である27で割った得られた値である。
【0031】
第一級アミンの水溶液、4級アンモニウム塩の水溶液の場合は、好ましいモル比は5以上であり、より好ましくは10以上である。特に好ましくは30以上である。
【0032】
アルカリ金属の水溶液、アルカリ土類金属の水溶液の場合は好ましいモル比は2以上であり、より好ましくは4以上であり、特に好ましくは10以上である。
【0033】
アズルミン酸と共存させる塩基性水溶液の量に上限はないが、塩基性水溶液にアズルミン酸が分散するのに要するエネルギーが多過ぎないようにする観点で、モル比10万以下が好ましく、より好ましくは1万以下であり、特に好ましくは1千以下である。
【0034】
塩基性水溶液の濃度は特に限定されないが、一般的には0.1〜50%が好ましく、より好ましくは0.5〜30%である。
なお塩基性水溶液に含まれる塩基は1種でもよいし2種以上でもよい。
【0035】
本明細書中、酸性水溶液とは、pHが5以下である水溶液とする。酸性水溶液として、硫酸水溶液、硝酸水溶液、塩酸水溶液、燐酸水溶液等を例示することができる。これらの中で、好ましくは硫酸水溶液である。
【0036】
酸性水溶液に含まれる酸のモル数が、アズルミン酸の青酸単位のモル数に対してモル比で1以上であることが好ましい。より好ましくは5以上であり、特に好ましくは10以上である。酸性水溶液の好ましいモル数の上限は、塩基性水溶液と同じである。
【0037】
酸性水溶液の濃度はpHが5以下となるように調整すればよいが、10〜99%が好ましく、より好ましくは90〜98%である。
【0038】
一般に、有機物の重合物の溶解を試みる場合、通常、有機溶媒と混合する。本発明者も、アズルミン酸を有機溶媒に溶解させることを試みた。ところが、アズルミン酸は、有機溶媒にほとんど溶けないが、驚くべきことに塩基性水溶液又は酸性水溶液に良好に溶解することを見出した。
【0039】
アズルミン酸を混合液の状態(又は溶液状態)にすると、粉末状態に比べて実用的な観点から有利となる。例えば、アズルミン酸を容易に製膜化することができたり、アズルミン酸を他の有機化合物や高分子と混合して反応を促進させることが可能になったりする。また、基礎的な観点から、アズルミン酸を混合液の状態(又は溶液状態)にすると、構造解析を進めやすくなり、その構造解析が進めば、アズルミン酸の実用的な用途の研究においても広がりをみせることが可能になる。
【0040】
アズルミン酸混合液のより具体的な製造方法について以下、説明する。
混合液を製造する前の段階で、アズルミン酸は粉末又は塊状であってもよいし、溶媒中に分散した状態であってもよい。
【0041】
粉末又は塊状のアズルミン酸は予めボールミル等で粉砕してから混合することが好ましい。
【0042】
アズルミン酸に塩基性又は酸性水溶液を添加、あるいは塩基性又は酸性水溶液にアズルミン酸を添加したのちに、振とうしたり攪拌したり超音波をかけたりすることが好ましい。このときに加熱をしてもよい。
【0043】
それらを混合する際の温度は特に限定されないが、20〜130℃が好ましい。より好ましくは30〜100℃であり、特に好ましくは50〜80℃である。
圧力は特に限定されないが、2MPa以下が好ましく、1MPa以下がより好ましく、特に好ましくは0.2MPa以下である。 また、混合時間としては、例えば1分間〜100時間を例示でき、好ましくは10分から20時間であり、より好ましくは30分から2時間である。
【0044】
本明細書中、「アズルミン酸混合液」は、アズルミン酸が完全に溶解したアズルミン酸溶液を包含する。よって、アズルミン酸と塩基性水溶液又は酸性水溶液を含有する限り、アズルミン酸が完全に溶解したものでもよいし、部分的に溶解したものでもよい。アズルミン酸が溶解した状態にするかどうか等、アズルミン酸混合液の態様は、その用途に応じて使い分ければよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。したがって、当業者は以下に示す実施例に様々な変更を加えて本発明を実施することができ、かかる変更は本願の特許請求の範囲に包含される。
【0046】
<製造例>
(アズルミン酸の製造)
水350gに青酸150gを溶解させた水溶液を容器中で調製し、この水溶液を攪拌しながら、25%アンモニア水溶液120gを10分かけて添加し、得られた混合液を35℃に加熱した。すると、青酸の重合が始まり黒褐色の重合物が析出し始め、温度は徐々に上昇し45℃となった。重合が始まって2時間後から30質量%青酸水溶液を200g/hの速度で添加し始め、4時間かけて800g添加した。青酸水溶液の添加中は容器を冷却して反応温度が50℃を保つようにコントロールした。この温度で100時間攪拌した。得られた黒色沈殿物をろ過によって分離した。このときの沈殿物の収率は用いた青酸の全量に対して96%であった。分離後の沈殿物を水洗した後、乾燥器にて120℃で4時間乾燥させてアズルミン酸を得た。
【0047】
<アズルミン酸の分析>
(CHN分析)
ジェイサイエンスラボ社製の元素分析装置(商品名「MICRO CORDER JM10」)を用い、2500μgのアズルミン酸試料を試料台に充填してCHN分析を行った。試料炉の温度を950℃、燃焼炉(酸化銅触媒)の温度を850℃、還元炉(銀粒+酸化銅のゾーン、還元銅のゾーンと酸化銅のゾーンとからなる)の温度を550℃に設定した。また、酸素流量を15mL/分、He流量を150mL/分に設定した。検出器としてTCDを用いた。アンチピリン(Antipyrine)を用いてマニュアルに記載の方法でキャリブレーションを行った。
【0048】
その結果、上記製造例にて得られたアズルミン酸の組成は、炭素元素40.0重量%、窒素元素29.8重量%、水素元素4.1重量%であった。ここで、上述の乾燥条件では吸着水が残存するため、差分は主に吸着水中の酸素元素と水素元素とに由来するものと考えられる。
【0049】
(レーザーラマンスペクトルの測定)
アズルミン酸のラマンスペクトルを、アズルミン酸試料をメノウ乳鉢で粉砕し、粉末用セルに充填して下記の条件で測定した。
【0050】
装置:Reninshaw社製商品名「System―3000」、光源:Arレーザー(波長540nm、2mW)、ビームサイズ:5μm、操作範囲:1000〜2000cm-1、積算時間:5分。
【0051】
その結果、上記製造例にて得られたアズルミン酸は、1000〜2000cm-1の間で、1543cm-1、1375cm-1に強いピークを有していた。
【0052】
(X線回折の測定)
アズルミン酸のX線回折パターンは、アズルミン酸試料をメノウ乳鉢で粉砕後、粉末用セルに充填して下記の条件で測定した。
【0053】
装置:リガク社製商品名「Rint2500」、X線源:Cu管球(Cu-Kα線)、管電圧:40kV、管電流:200mA、分光結晶:あり、散乱スリット:1°、発散スリット:1°、受光スリット:0.15mm、スキャン速度:2°/分、サンプリング幅:0.02°、スキャン法:2θ/θ法。
【0054】
また、X線回折角(2θ)の補正には、シリコン粉末について得られたX線回折角データを用いた。
【0055】
その結果、上記製造例にて得られたアズルミン酸は、5〜50°の間で、27.0°に最も強いピーク、12.3°付近にもブロードなピークを有していた。
【0056】
<クロロホルム処理>
アズルミン酸10gを、クロロホルム300gを用いたソックスレーの抽出法により5時間洗浄した。なお、この洗浄は、アズルミン酸中に含まれる低分子量体やリニアな構造体など比較的溶媒に可溶な成分を抽出除去するためのものである。残存したアズルミン酸は明らかに難溶性であるが、これに塩基性若しくは酸性水溶液、又は塩基性若しくは酸性水溶液に重合して得られたアズルミン酸を添加することによって、この操作によるアズルミン酸の溶解性を評価することができる。
【0057】
なお、この洗浄後のクロロホルムは透明無色であり、ほとんどのアズルミン酸が残渣として回収された。
【0058】
[実施例1]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.3gに対し、25%アンモニア水溶液を100g添加し、50℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。アズルミン酸混合液は黒色に着色していた。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて水溶液を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して100%に相当する量であった。
【0059】
[実施例2]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.3gに対し、10%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液100g添加し、70℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。アズルミン酸混合液は黒色に着色した。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて水溶液を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して100%に相当する量であった。
【0060】
[実施例3]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.3gに対し、1%水酸化ナトリウム水溶液100g添加し、70℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。アズルミン酸混合液は黒色に着色した。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて水溶液を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して100%に相当する量であった。
【0061】
[実施例4]
アンモニア水溶液とアズルミン酸を混合する温度を70℃にした以外は、実施例1を反復した。回収された固体分の量は、実施例1と同様に、仕込み量に対して100%であった。
【0062】
[実施例5]
テトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液とアズルミン酸を混合する温度を40℃にした以外は、実施例2を反復した。回収された固体分の量は、実施例2と同様に、仕込み量に対して100%であった。
【0063】
[実施例6]
水酸化ナトリウム水溶液とアズルミン酸を混合する時間を30分にした以外は、回収された固体分の量は、実施例3を反復した。実施例3と同様に、仕込み量に対して100%であった。
【0064】
[実施例7]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.3gに対し、98%硫酸水溶液100g添加し、70℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。アズルミン酸混合液は黒色に着色した。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて水溶液を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して60%に相当する量であった。
【0065】
[比較例1]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.1gに対し、アセトニトリルを100g添加し、70℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。溶媒は無色透明のままであった。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて溶媒(アセトニトリル)を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して0.01%以下に相当する量であった。
【0066】
[比較例2]
上記クロロホルム処理を経て得られたアズルミン酸0.1gに対し、アセトンを100g添加し、70℃で1時間加熱しながら攪拌してアズルミン酸混合液を得た。溶媒は無色透明のままであった。次に、遠心分離でアズルミン酸混合液の固液分離を行った。得られた上澄み液から、エバポレータを用いて溶媒(アセトン)を蒸発除去し、析出した固体分を回収した。この固体分は、仕込んだアズルミン酸に対して0.01%以下に相当する量であった。
【0067】
比較例からもわかるように、アズルミン酸は、有機溶媒には不溶であるが、本発明の方法によれば、その溶解性が著しく向上する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本実施態様の混合液の製造方法によれば、アズルミン酸が溶解したアズルミン酸混合液が得られる。アズルミン酸を溶液状態にすることによって、粉末状態と比較して、実用的な観点から製膜化を可能としたり、他の有機化合物や高分子と混合して反応を促進させたりすることが可能になる。また、基礎的な観点から、アズルミン酸の構造解析が進みやすくなり、構造解析が進めば、アズルミン酸の実用的な用途についても、さらに研究に広がりをみせることが可能になる。本実施態様のアズルミン酸混合液及びその製造方法は、電子材料分野、及びこれを備える電子・電気材料、電子・電気デバイス、並びにそれらを備える各種機器、設備、システム等において、広く且つ有用に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アズルミン酸に塩基性水溶液若しくは酸性水溶液を添加する工程、又は塩基性水溶液若しくは酸性水溶液にアズルミン酸を添加する工程を有するアズルミン酸混合液の製造方法。
【請求項2】
前記塩基性水溶液に含まれる塩基のモル数が、アズルミン酸の青酸単位のモル数に対して、モル比で1以上である請求項1に記載のアズルミン酸の製造方法。
【請求項3】
アズルミン酸と、水と、前記アズルミン酸の青酸単位のモル数に対してモル比1以上の塩基とを含有するアズルミン酸混合液。
【請求項4】
アズルミン酸と、水と、酸とを含有するアズルミン酸混合液。

【公開番号】特開2011−256348(P2011−256348A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134282(P2010−134282)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】