説明

アゾ化合物及び該アゾ化合物を含有する偏光膜

【課題】耐光性により優れた偏光膜及び偏光膜用の染料化合物を提供する。
【解決手段】式(I)で表されるアゾ化合物。


式中、Aはフェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基はカルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基はカルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R及びRの少なくともいずれか一方は炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。Xは−N=N−又は−NHCO−を表し、Zはカルボキシル基又はスルホ基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アゾ化合物及び該アゾ化合物を含有する偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコールなどの偏光膜基材に二色性染料などを含有させた、偏光性能を有する膜である偏光膜が、フロントプロジェクター又はリアプロジェクターなどの液晶表示装置などに用いられている。液晶表示装置を長時間使用しても、偏光膜の吸光度が低下しない、いわゆる耐光性が求められており、特許文献1には、式(A)で表されるアゾ化合物又はその塩を二色性染料として用いる染料系偏光膜が開示されている。

【0003】
【特許文献1】特開2001−240762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、耐光性により優れた偏光膜及び偏光膜用の染料化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、式(I)で表されるアゾ化合物である。

(式(I)中、Aは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R及びRの少なくともいずれか一方は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。Xは、−N=N−又は−NHCO−を表し、Zは、カルボキシル基又はスルホ基を表す。)
【0006】
また本発明は、式(I)で表されるアゾ化合物に含まれるカルボキシル基及びスルホ基は、カチオンとともにアニオンとして存在するか、あるいは、有機アミンとともに、スルホ基又はカルボキシル基として存在する上記アゾ化合物である。
【0007】
また本発明は、Aが、モノスルホフェニル基又はジスルホナフチル基である上記アゾ化合物である。
【0008】
また本発明は、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はメトキシ基である上記アゾ化合物である。
【0009】
また本発明は、R及びRの少なくともいずれか一方が、メチル基又はメトキシ基である上記アゾ化合物である。
【0010】
また本発明は、偏光膜基材に、上記アゾ化合物を含有させてなる偏光膜である。
【0011】
また本発明は、偏光膜基材に、上記アゾ化合物及び極大吸収波長が500〜570nmである染料を含有させてなる偏光膜である。
【0012】
また本発明は、極大吸収波長が500〜570nmである染料が、式(V)で表される化合物である上記偏光膜である。

(式(V)中、Dは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。該フェニル基又は該ナフチル基には、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が1〜2個結合していてもよい。R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコシキ基を表す。Eは、−NH−、−N=N−又は−NHCO−を表す。Fは、フェニル基を表し、該フェニル基には、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基及びスルホ基からなる群から選ばれる基が1〜2個結合していてもよい。nは0又は1の整数を表す。)
【0013】
また本発明は、R、R10、R11及びR12が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はメトキシ基である上記偏光膜である。
【0014】
また本発明は、Fが、ヒドロキシ基又はアミノ基を有するフェニル基である上記偏光膜である。
【0015】
また本発明は、Dが、モノスルホフェニル基又はジスルホナフチル基である上記偏光膜である。
【0016】
また本発明は、偏光膜基材が、ポリビニルアルコールを含んでなる上記偏光膜である。
【0017】
また本発明は、上記偏光膜を有する液晶表示装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の染料化合物は、より耐光性に優れた偏光膜を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、式(I)で表されるアゾ化合物(以下、「アゾ化合物(I)」という場合がある。)
【0020】

【0021】
式(I)中、Aは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。
【0022】
Aのフェニル基としては、例えば、2−スルホフェニル、3−スルホフェニル又は4−スルホフェニルなどのモノスルホフェニル;2−カルボキシフェニル、3−カルボキシフェニル、4−カルボキシフェニルなどのモノカルボキシフェニル;2,4−ジスルホフェニル、2,5−ジスルホフェニルなどのジスルホフェニル;3,5−ジカルボキシフェニル、2−カルボキシ−4−スルホフェニル、2−カルボキシ−5−スルホフェニルなどが挙げられ、特にモノスルホフェニルは入手が容易であることから好ましい。
【0023】
Aのナフチル基としては、例えば、5−スルホ−2−ナフチル、6−スルホ−2−ナフチル、7−スルホ−2−ナフチル、8−スルホ−2−ナフチル、4−スルホ−1−ナフチル、5−スルホ−1−ナフチル、6−スルホ−1−ナフチル、7−スルホ−1−ナフチルなどのモノスルホナフチル;6,8−ジスルホ−2−ナフチル、4,8−ジスルホ−2−ナフチル、5,7−ジスルホ−2−ナフチル、3,6−ジスルホ−2−ナフチル、3,6−ジスルホ−1−ナフチル、4,6−ジスルホ−1−ナフチルなどのジスルホナフチル;3,6,8−トリスルホ−2−ナフチル、4,6,8−トリスルホ−2−ナフチルなどが挙げられ、特にジスルホナフチルは入手容易であることから好ましく、ジスルホ−2−ナフチルがより好ましい。
【0024】
、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。該アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖又は分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基などが挙げられ、アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基などが挙げられる。
、R、R、R、R及びRとしては、偏光性能の観点から、水素原子、メチル基又はメトキシ基が特に好ましい。
【0025】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R及びRの少なくともいずれか一方は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基などが挙げられ、アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基などが挙げられる。
及びRの少なくともいずれか一方が、メチル基又はメトキシ基であると、耐光性能がより向上することから、好ましい。
及びRは、偏光性能の観点から、メチル基又はメトキシ基が特に好ましい。置換位置は、置換基Zに対して、偏光性能の観点から、オルト位が好ましい。
【0026】
Xは、−N=N−又は−NHCO−を表し、Zは、カルボキシル基又はスルホ基を表す。
【0027】
アゾ化合物(I)又はその塩は、例えば、以下に述べる方法によって製造することができる。
先ず、式(II)で表される芳香族アミン化合物を、水性溶媒中、クロロ炭酸フェニルと反応させて、式(III)で表されるカルバメート化合物を得る。
【0028】

(式(II)及び式(III)中、R、R及びZは前記と同じ意味を表す。)
【0029】
次いで、式(III)で表されるカルバメート化合物と、式(IV)で表されるアゾ中間化合物とを、水性溶媒中、20〜60℃で反応させることにより、アゾ化合物(I)を得ることができる。

(式(IV)中、A、X、R、R、R、R、R及びRは、前記と同じ意味を表す。)
【0030】
上記水性溶媒とは、水と任意の割合で混合し得る有機化合物、又は該有機化合物と水との混合溶媒である。水と任意の割合で混合し得る有機化合物としては、通常、メタノール、エタノール、プロパノールなどの炭素数1〜3のアルコールが用いられる。
【0031】
アゾ化合物(I)の例示としては、式(I−1)〜式(I−13)で表される化合物などが挙げられる。
【0032】

【0033】

【0034】
アゾ化合物(I)に含まれるカルボキシル基及びスルホ基は、カチオンとともにアニオンとして存在するか、あるいは、有機アミンとともに、スルホ基又はカルボキシル基として存在する。
たとえばアゾ化合物(I)に含まれるカルボキシル基及びスルホ基は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのようなアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンなどのカチオンとともにアニオンとして存在するか、又は、エタノールアミンやアルキルアミンのような有機アミンなどとともに、カルボキシル基又はスルホ基として存在する。アゾ化合物(I)を偏光膜基材に含有させる場合は、ナトリウムイオンとともにアニオンの形で用いることが好ましい。
【0035】
本発明の偏光膜は、アゾ化合物(I)を偏光膜基材に含有させてなるものである。
偏光膜には、アゾ化合物(I)に加えて、他の有機染料を含有させることにより、色相を補正し、偏光性能をより向上させることができる。この場合に用いられる有機染料としては、二色性の高いものであればいかなる染料でもよいが、特に耐光性に優れる染料を選択することにより、たとえば液晶プロジェクター用途に適した偏光膜とすることができる。
特に極大吸収波長が500〜570nmの範囲である染料を用いると、色相を補正し、偏光性能をより向上させることができる。
【0036】
極大吸収波長が500〜570nmの範囲である染料としては、式(V)で表される化合物(以下、「化合物(V)」という場合がある)が挙げられる。
【0037】

【0038】
式(V)中、Dは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。該フェニル基又は該ナフチル基には、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が1〜2個結合していてもよい。
【0039】
Dのフェニル基としては、例えば、2−スルホフェニル基、3−スルホフェニル基、4−スルホフェニル基などのモノスルホフェニル基;2−カルボキシフェニル基、3−カルボキシフェニル基、4−カルボキシフェニル基などのモノカルボキシフェニル基;2,4−ジスルホフェニル基、2,5−ジスルホフェニル基などのジスルホフェニル基;3,5−ジカルボキシフェニル基;2−カルボキシ−4−スルホフェニル基、2−カルボキシ−5−スルホフェニル基などのカルボキシスルホフェニル基;2−メチル−4−スルホフェニル基、3−メチル−4−スルホフェニル基、2−メチル−4−スルホフェニル基、2,5−ジメチル−4−スルホフェニル基などのアルキルスルホフェニル基;3−メチル−4−カルボキシフェニル基、2,5−ジメチル−4−カルボキシフェニル基などのアルキルカルボキシフェニル基;2−メトキシ−4−スルホフェニル基、3−メトキシ−4−スルホフェニル基、2,5−ジメトキシ−4−スルホフェニル基などのアルコキシスルホフェニル基;2−メトキシ−4−カルボキシフェニル基、3−メトキシ−4−カルボキシフェニル基、2,5−ジメトキシ−4−カルボキシフェニル基などのアルコキシカルボキシフェニル基などが挙げられる。
フェニル基としては、特にモノスルホフェニル基が入手が容易であることから好ましい。
【0040】
Dのナフチル基としては、例えば、5−スルホ−2−ナフチル基、6−スルホ−2−ナフチル基、7−スルホ−2−ナフチル基、8−スルホ−2−ナフチル基、4−スルホ−1−ナフチル基、5−スルホ−1−ナフチル基、6−スルホ−1−ナフチル基、7−スルホ−1−ナフチル基などのモノスルホナフチル基;6,8−ジスルホ−2−ナフチル基、4,8−ジスルホ−2−ナフチル基、5,7−ジスルホ−2−ナフチル基、3,6−ジスルホ−2−ナフチル基、3,6−ジスルホ−1−ナフチル基、4,6−ジスルホ−1−ナフチル基などのジスルホナフチル基;3,6,8−トリスルホ−2−ナフチル基、4,6,8−トリスルホ−2−ナフチル基などのトリスルホナフチル基などが挙げられる。
ナフチル基としては、ジスルホナフチル基が入手容易であることから好ましく、特にジスルホ−2−ナフチル基が好ましい。
【0041】
、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコシキ基を表す。該アルキル基及びアルコキシ基は、直鎖又は分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基及びプロピル基などが挙げられ、アルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基及びプロポキシ基などが挙げられる。
、R10、R11及びR12としては、偏光性能の観点から、水素原子、メチル基又はメトキシ基が特に好ましい。
【0042】
Eは、−NH−、−N=N−又は−NHCO−を表す。
Fは、フェニル基を表し、該フェニル基には、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基及びスルホ基からなる群から選ばれる基が1〜2個結合していてもよい。該アルキル基及びアルコキシ基としては、R、R10、R11及びR12として例示された基が挙げられる。Fとしては、フェニル基、4−アミノフェニル基及びヒドロキシフェニル基が、製造が容易であることから好ましい。
nは0又は1の整数を表し、特にnが0の場合が、製造が容易であることから好ましい。
【0043】
化合物(V)をナトリウム塩で表すと、式(V−1)〜式(V−7)で表される化合物などが例示される。

【0044】
化合物(V)に含まれるカルボキシル基及びスルホ基は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンなどのようなアルカリ金属イオン、アンモニウムイオンなどのカチオンとともにアニオンとして存在するか、又は、エタノールアミンやアルキルアミンのような有機アミンなどとともに、カルボキシル基又はスルホ基として存在する。化合物(V)を偏光膜基材に含有させる場合は、ナトリウムイオンとともにアニオンの形で用いることが好ましい。
【0045】
化合物(V)は、アゾ化合物(I)に準じた方法で製造することができる。
具体的には式(VI)で表されるアゾ化合物を酸性の水性溶媒中、0〜40℃で亜硝酸ナトリウムと反応させたのち、式(VII)で表される化合物を0〜40℃、pH6〜11の水性溶媒中で反応させることにより、化合物(V)を得ることができる。
【0046】

(式中、n、D、R、R10、R11、R12、E及びFは、前記と同じ意味を表す。)
【0047】
本発明の偏光膜は、アゾ化合物(I)、好ましくは、化合物(V)で表される化合物のよいな、極大吸収波長が500〜570nmの範囲である染料、必要に応じて、さらに他の有機染料を含んでなる二色性染料を、高分子フィルム状の偏光膜基材に公知の方法で含有させることによって、製造することができる。
本発明の偏光膜に用いられる偏光膜基材としては、例えば、ポリビニルアルコール系の樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン/酢酸ビニル(EVA)樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂などからなるものが挙げられる。ここでいうポリビニルアルコール系の樹脂には、ポリ酢酸ビニルの部分又は完全ケン化物であるポリビニルアルコール自体のほか、ケン化EVA樹脂のような、酢酸ビニルと他の共重合可能な単量体、例えば、エチレンやプロピレンのようなオレフィン類、クロトン酸やアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸類、不飽和スルホン酸類、ビニルエーテル類などとの共重合体のケン化物、さらにはポリビニルアルコールをアルデヒドで変性したポリビニルホルマールやポリビニルアセタールなどが挙げられる。
偏光膜基材としては、ポリビニルアルコール系のフィルム、特にポリビニルアルコールフィルムが、染料の吸着性及び配向性の点から、好適に用いられる。
【0048】
偏光膜基材に染料を含有させる方法としては、通常、高分子フィルムを染色する方法が採用される。染色は、例えば次のようにして行うことができる。まず、染料を水に溶解して染浴を調製する。染浴中の染料濃度は特に制限されないが、通常は0.0001〜10重量%の範囲から選択される。また、必要により染色助剤を用いてもよく、例えば、芒硝を染浴中で1〜10重量%用いるのが好適である。このようにして調製した染浴に高分子フィルムを浸漬し、染色を行う。染色温度は、好ましくは40〜80℃である。染料の配向は、高分子フィルムを延伸することによって行われる。延伸する方法としては、例えば湿式法や乾式法など、公知のいずれの方法を採用してもよい。高分子フィルムの延伸は、染色の前に行っても、染色の後に行ってもよい。
【0049】
染料を含有させ、配向させた高分子フィルムは、必要に応じて、公知の方法によりホウ酸処理などの後処理が施される。このような後処理は、偏光膜の光線透過率、偏光性能及び耐久性を向上させる目的で行われる。ホウ酸処理の条件は、用いる高分子フィルムの種類や用いる染料の種類によって異なるが、一般的には、ホウ酸水溶液のホウ酸濃度を1〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の範囲とし、処理は、通常、30〜80℃、好ましくは50〜80℃の温度範囲で行われる。さらには必要に応じて、カチオン系高分子化合物を含む水溶液でフィックス処理を併せて行ってもよい。
【0050】
このようにして得られた偏光膜は、その片面又は両面に、光学的透明性及び機械的強度に優れる保護膜を貼合して、偏光板とすることができる。保護膜を形成する材料は、従来から使用されているものでよく、例えば、セルロースアセテート系フィルムやアクリル系フィルムのほか、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン共重合体のようなフッ素樹脂系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリアミド系フィルムなどが用いられる。
【0051】
本発明のアゾ化合物(I)又はその塩を含む偏光膜は、偏光性能および耐光性に優れている。
本発明の偏光膜はその優れた特性から、カーナビゲーション、液晶プロジェクター、プロジェクション用テレビなどの大光量の液晶表示装置(LCD)、プロジェクションテレビなどのフラットパネル表示装置(FPD)などに好適に使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、重量%及び重量部である。
【0053】
(実施例1)
下式(1−1)で表される芳香族アミン9.4部を水100部に溶解した後、20〜25℃の温度で、15%炭酸ナトリウム水溶液によりpH7〜8に調整しながら、クロロ炭酸フェニル8部を滴下した。滴下終了後、同温度及び同pHで攪拌後、析出した結晶を濾過して、式(1−2)で表される中間体を得た。
【0054】

【0055】
上記で得た中間体(1−2)の全量と、式(2)で表されるアゾ中間化合物7部とを、水100部及びN−メチルピロリドン100部の混合液に加え、40〜45℃の温度で、15%炭酸ナトリウム水溶液によりpH8〜9に調整しながら攪拌した。不溶解物を濾過により除いた後、濾液にエタノール300部を加えて結晶を析出させた。この析出した結晶を濾過した後、得られたケーキを水220部とN−メチルピロリドン80部の混合液に再度、溶解した。この液に塩化ナトリウム30部を加え、析出した結晶を濾過することにより、式(I−1)で表されるアゾ化合物の塩を得、この塩は、水性媒体中でλmax=406nmを示した。
【0056】

【0057】

【0058】
(偏光膜の製造例)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレビニロン#7500、(株)クラレ製)を縦一軸に5倍延伸して、偏光膜基材とした。このポリビニルアルコールフィルムを緊張状態に保ったまま、実施例1で得られた式(I−1)で表されるアゾ化合物の塩を0.025%、染色助剤である芒硝を2.0%の濃度とした70℃の水溶液に浸漬した。次に78℃の7.5%ホウ酸水溶液に浸漬したのち取り出して、水で洗浄し、乾燥することにより、偏光膜を得た。得られた偏光膜のλmax(膜の延伸方向の透過率が最小となる波長)は440nmであった。
得られた偏光膜に、100℃の条件下、58時間、照度520mW/cm(赤色光)の高圧水銀ランプで光照射したとき、吸光度の変化率ΔA(%)の値は、85(%)であり、高温下、長時間暴露に対する耐光性も優れていた。ΔA(%)は、0時間時の吸光度の値をA(0)、58時間後の吸光度の値をA(58)としたときに、式(3)で定義され、ΔAの値は大きいほど、耐光性に優れることを示す。
ΔA(%)=(A(58)/A(0))×100 (3)
【0059】
(比較例1)
式(I−1)で表されるアゾ化合物を含む偏光膜用染料の代わりに、特許文献1の第7頁、式(1b)で表される化合物である、式(A)で表されるアゾ化合物を用いて、実施例1と同様にして偏光膜を得た。得られた偏光膜のλmaxは440nmであった。実施例1と同様に、ΔAの値を求めたところ、ΔA(%)の値は、72(%)にとどまり、本発明の偏光膜より、耐光性が劣っていた。
【0060】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の染料化合物は、より耐光性に優れた偏光膜を与えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるアゾ化合物。

(式(I)中、Aは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表し、R及びRの少なくともいずれか一方は、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコキシ基を表す。Xは、−N=N−又は−NHCO−を表し、Zは、カルボキシル基又はスルホ基を表す。)
【請求項2】
式(I)で表されるアゾ化合物に含まれるカルボキシル基及びスルホ基は、カチオンとともにアニオンとして存在するか、あるいは、有機アミンとともに、スルホ基又はカルボキシル基として存在する請求項1記載のアゾ化合物。
【請求項3】
Aが、モノスルホフェニル基又はジスルホナフチル基である請求項1又は2記載のアゾ化合物。
【請求項4】
、R、R、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はメトキシ基である請求項1〜3のいずれか記載のアゾ化合物。
【請求項5】
及びRの少なくともいずれか一方が、メチル基又はメトキシ基である請求項1〜4のいずれか記載のアゾ化合物。
【請求項6】
偏光膜基材に、請求項1〜5のいずれか記載のアゾ化合物を含有させてなる偏光膜。
【請求項7】
偏光膜基材に、請求項1〜5のいずれか記載のアゾ化合物及び極大吸収波長が500〜570nmである染料を含有させてなる偏光膜。
【請求項8】
極大吸収波長が500〜570nmである染料が、式(V)で表される化合物である請求項7記載の偏光膜。

(式(V)中、Dは、フェニル基又はナフチル基を表し、該フェニル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜2個有し、該ナフチル基は、カルボキシル基及びスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の酸性基を1〜3個有する。該フェニル基又は該ナフチル基には、炭素数1〜4のアルキル基及び炭素数1〜4のアルコキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が1〜2個結合していてもよい。R、R10、R11及びR12は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアルコシキ基を表す。Eは、−NH−、−N=N−又は−NHCO−を表す。Fは、フェニル基を表し、該フェニル基には、ヒドロキシ基、アミノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基及びスルホ基からなる群から選ばれる基が1〜2個結合していてもよい。nは0又は1の整数を表す。)
【請求項9】
、R10、R11及びR12が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基又はメトキシ基である請求項8記載の偏光膜。
【請求項10】
Fが、ヒドロキシ基又はアミノ基を有するフェニル基である請求項8又は9記載の偏光膜。
【請求項11】
Dが、モノスルホフェニル基又はジスルホナフチル基である請求項8〜10のいずれか記載の偏光膜。
【請求項12】
偏光膜基材が、ポリビニルアルコールを含んでなる請求項6〜11のいずれか記載の偏光膜。
【請求項13】
請求項6〜12のいずれか記載の偏光膜を有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−155364(P2009−155364A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331563(P2007−331563)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】