説明

アダプティブアンテナシステム、送信制御方法、及び端末

【課題】基地局と移動体端末間通信の基地局にアダプティブアンテナシステムにおいて、移動体端末から基地局への方向確認用の信号の送信に際して、移動体端末の消費電力を節減する。
【解決手段】送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムの送信制御方法であって、前記基地局及び端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、前記端末から前記基地局への送信データが存在しないときには、第1の変調方式により前記信号を前記基地局へ送信する第1のステップと、前記端末から前記基地局への送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により前記送信データを含む前記信号を前記基地局へ送信する第2のステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基地局の複数のアンテナ素子の各アンテナ素子から端末装置への送信電波の振幅及び位相を可変して合成することによって、送信電波に指向性を与えるアダプティブアンテナシステムにおける端末装置の消費電力の節減に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、周波数資源の有効利用を図るべく、周波数分割多重接続(Frequency-Division-Multiple-Access:FDMA)、時間分割多重接続(Time-Division-Multiple-Access:TDMA)、符号分割多重接続(Code-Division-Multipie-Accsse:CDMA)を含む多重接続技術が実施されている。
近年の周波数利用効率の更なる向上が望ましく、その解決策のひとつとして、空間分割多重接続(Space-Division-Multiple-Access:SDMA)がある。
SDMAを実行する基地局装置は、例えば、同一周波数におけるひとつのタイムスロットを空間的に複数に分割して、分割した空間のそれぞれに対応した無線チャネルに端末装置を割り当てる。その結果、当該基地局装置は無線チャネルを割り当てた端末装置との間で信号を伝送する。
これを実現するために、基地局装置のアダプティブアレイアンテナを構成する複数のアンテナからの送信電波を伝搬環境に応じたウエイトベクトルでそれぞれ重み付けして合成して所望の端末装置に送信するものが知られている。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開2000−101454号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基地局と移動体端末間通信の基地局に上記アダプティブアレイアンテナを採用したシステムでは、基地局で、端末の方向を確認するために、所定周期毎に端末から信号を送信し、基地局では受信した信号によって移動体端末の方向を確認していた。
そして、基地局と移動体端末間での通信における変調方式は、基地局から移動体端末に対する送信と、移動体端末から基地局に対する通信で同じ変調方式を採用していた。
しかし、信号に移動体端末から基地局に対する送信データ(移動体端末の方向確認用のデータは除く)が存在する場合には良いが、移動体端末から基地局への送信データが存在しない場合にも移動体端末から基地局に対して同じ変調方式(高次の変調方式)で変調された信号を送信しているので、移動体端末における送信電力(電力消費)が大きいという問題があった。
高次の変調方式の場合は、必要とされるCIR(Carrier-to-Interference-Ratio)(干渉電力対雑音電力比)が低次の変調方式を使用する場合に比較して高いため、同一のエリアをカバーするには高い送信パワーが必要となる。送信パワーを高くすることにより消費電力も多くなる。
特に、移動体端末の電源は電池である場合が多いのに、移動体端末における送信電力の大きさは当該移動体端末の使用時間が短くなるという問題を生じていた。
【0004】
本発明の課題(目的)は、基地局と移動体端末間通信の基地局にアダプティブアレイアンテナを採用したシステムにおいて、移動体端末から基地局への送信に際して、当該移動体端末から基地局への送信データが存在するか否かを判断して、送信データが存在しない場合には、送信電力が少なくてすむ変調方式に変更することによって移動体端末の消費電力を節減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決することのできる本発明は、送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムの送信制御方法であって、前記基地局及び端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、前記端末から前記基地局への送信データが存在しないときには、第1の変調方式により前記信号を前記基地局へ送信する第1のステップと、前記端末から前記基地局への送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により前記送信データを含む前記信号を前記基地局へ送信する第2のステップとを含むことを特徴とする。(請求項1)
【0006】
送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムであって、前記基地局及び端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、前記端末には、前記端末から前記基地局への送信データの存在の有無を判断する送信データ判断部と、前記送信データ判断部の判断で送信データが存在しないときは、前記信号を第1の変調方式で変調して前記基地局へ送信する第1の送信部と、前記送信データ判断部の判断が送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により送信データを含む信号を前記基地局へ送信する第2の送信部とを備えることを特徴とする。(請求項3)
【0007】
送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムに使用する端末であって、前記端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、前記端末から前記基地局への送信データの存在の有無を判断する送信データ判断部と、前記送信データ判断部の判断で送信データが存在しないときは、前記信号を第1の変調方式で変調して前記基地局へ送信する第1の送信部と、前記送信データ判断部の判断が送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により送信データを含む信号を前記基地局へ送信する第2の送信部とを備えることを特徴とする。(請求項5)
【0008】
なお、請求項2,4,6では、「送信データ判断部の判断が送信データが存在しないときは、信号を第1の変調方式で変調し、且つ、前記所定周期毎の送信スロットの一部の時間で前記基地局へ送信すること」を必須の要件としているが、「送信データ判断部の判断が送信データが無しの場合に、前記信号を第2の変調方式で変調して、前記所定周期毎の送信スロットの一部の時間で前記基地局へ送信すること 」でも消費電力の軽減を果たすことが可能である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、送信データ判断部の判断が送信データが無しの場合には、第1の変調方式(例えば、QPSK)で変調し、送信データ判断部の判断が送信データが有りの場合には、前記第1の変調方式よりも高次の第2の変調方式(例えば、16QAM)で変調して前記基地局へ送信するので、端末における消費電力を節減が可能になり、端末の電池の使用時間を長くすることが可能になる。
また、送信データ判断部の判断が送信データが無しの場合には、第1の変調方式(例えば、QPSK)で変調し、送信データ判断部の判断が送信データが有りの場合には、前記第1の変調方式よりも高次の第2の変調方式(例えば、16QAM)で変調すると共に、端末から基地局に送信するスロットの一部で、短いデータ長で基地局へ送信するので、端末における消費電力を更に節減することが可能に端末の電池の使用時間を更に長くすることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1を用いて、本発明の通信システムにおけるハードウエア構成を説明する。
図1において、1は基地局であり、当該基地局には制御部1−1、送受信部1−2が含まれる。
前記送受信部1−2は、アダプティブアンテナを備えており、送信電波に指向性を持たせて所定の周期毎のスロットで後述の端末(移動体端末)に送信する。
また、前記送受信部1−2は複数の変調方式(第1の変調方式,第2の変調方式)で変調された信号を送受信する。
制御部1−1は、送受信部1−2を含む端末全体の制御を実行する。
特に、前記送受信部1−2のアダプティブアンテナを構成する複数のアンテナ要素からの送信信号に伝搬環境に応じたウエイトベクトルでそれぞれ重み付けして合成して指向性を付与する制御を実行する。
また、制御部1−1は、端末から受信した信号に基づいて、当該端末の方向を取得する。
【0011】
図1において、2は端末(移動体端末)であり、当該端末には制御部2−1、送信部2−4、受信部2−2及び送信データ有無判断部2−3が含まれる。
図1では、基地局1に対して、1個の端末2が存在しているが、端末の数は1個に限られるものではなく、複数個存在しても良い。
受信部2−2は前記基地局から送信された信号を受信する。
また、送信データ有無判断部2−3は、当該端末から基地局に送信する送信データ(基地局に対する方向確認用データを除く)が存在するか否かを判断する。
送信部2−4は、前記送信データ有無判断部の判断結果に応じて、最適な変調方式で変調して基地局に送信する。
制御部2−1は、受信部2−1、送信データ有無判断部2−3及び送信部2−4を含む端末全体の制御を実行する。
【0012】
次に、本発明の第1の実施例のフローチャートである図2を用いて、基地局1と端末2との間の信号の送受信についての第1の実施例の説明をする。
・基地局1から端末2の存在する方向に基地局の送信部1−2のアダプティブアンテナを構成する複数のアンテナ要素からの送信電波に伝搬環境に応じたウエイトベクトルでそれぞれ重み付けして合成して指向性を持たせて信号を送信する。(ステップS1)
なお、この時の端末の方向は、前回の端末から基地局に対する送信信号によって確認された方向を利用する。
また、この基地局から端末への送信は、第2の変調方式(16QAM)で変調している。
【0013】
・端末2で基地局1からの信号を受信する。(ステップS2)
・端末2は、基地局1に送信する送信データが有るか否かの判断をする。(ステップS3)
・ステップS3での判断がYes(送信データが有る)の場合には、端末2で信号を第2の変調方式(16QAM)で変調して基地局1に送信する。(ステップS4)
・ステップS3での判断がNo(送信データが無い)の場合には、端末2で信号を第1の変調方式(QPSK)で変調して基地局1に送信する。(ステップS5)
【0014】
次に、本発明の第2の実施例のフローチャートである図3を用いて、基地局1と端末2との間の信号の送受信についての第2の実施例の説明をする。
・基地局1から端末2の存在する方向に基地局の送信部1−2のアダプティブアンテナを構成する複数のアンテナ要素からの送信電波に伝搬環境に応じたウエイトベクトルでそれぞれ重み付けして合成して指向性を持たせて送信する。(ステップS11)
なお、この時の端末の方向は、前回の端末から基地局に対する送信信号によって確認された方向を利用する。
また、この基地局から端末への送信は、第2の変調方式(16QAM)で変調している。
【0015】
・端末2で基地局1からの信号を受信する。(ステップS12)
・端末2は、基地局1に送信する送信データが有るか否かの判断をする。(ステップS13)
・ステップS13での判断がYes(送信データが有る)の場合には、端末2で送信データ及び信号を第2の変調方式(16QAM)で変調して基地局1に送信する。(ステップS14)
・ステップS13での判断がNo(送信データが無い)の場合には、端末2で信号を第1の変調方式(QPSK)で変調して、スロットの一部で信号長を短くして基地局1に送信する。(ステップS15)
【0016】
次に、図2及び図3における、基地局1と端末局2との間の信号の送受信について、タイミングチャート図4及び図5を用いて説明する。
図4は、第1の実施例である図2に対応するタイミングチャートである。
図4は、端末2における受信(基地局→端末局)及び送信(端末局→基地局)におおけるスロット毎の変調方式を示している。
図4(a)は、端末局から基地局への送信データが存在する場合であって、基地局から端末局に対する送信スロットは全て、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調して送信され、端末局から基地局への送信スロットの全てで多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調されている。
【0017】
図4(b)は、端末局から基地局への送信データが存在しない(無送信データ)期間がある場合であって、基地局から端末局に対する送信スロットは全て、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調して送信される。
端末局から基地局への送信スロットの内の送信データ有る期間は、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調されるが、送信データ無い期間では、第2の変調方式よりも低次の第1の変調方式(QPSK)で変調される。
【0018】
上述の如く、端末から基地局への送信データが存在しない場合には、変調クラスを低変調クラス(QPSK)を選択するため、所要CINRの改善ができ、同一エリアをカバーするための送信パワーを低減することができ、端末における消費電力を低減することができる。
【0019】
図5は、第2の実施例である図3に対応するタイミングチャートである。
図5は、端末2における受信(基地局→端末局)及び送信(端末局→基地局)におおけるスロット毎の変調方式を示している。
図5(a)は、端末局から基地局への送信データが存在する場合であって、基地局から端末局に対する送信スロットは全て、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調して送信され、端末局から基地局への送信スロットの全てで多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調されている。
【0020】
図5(b)は、端末局から基地局への送信データが存在しない(無送信データ)期間がある場合であって、基地局から端末局に対する送信スロットは全て、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調して送信される。
端末局から基地局への送信スロットの内の送信データ有る期間は、多くの送信データの送信に適した第2の変調方式(16QAM)で変調されるが、送信データ無い期間では、第2の変調方式よりも低次の第1の変調方式(QPSK)で変調され、且つスロットの一部で信号長を短くして基地局1に送信する。
【0021】
上述の如く、端末から基地局への送信データが存在しない場合には、変調クラスを低変調クラス(QPSK)を選択するため、所要CINRの改善ができ、同一エリアをカバーするための送信パワーを低減できると共に、送信時間を送信スロットの一部である短い時間にするので、端末における消費電力をより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の通信システムにおけるハードウエア構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施例のフローチャートである。
【図3】本発明の第2の実施例のフローチャートである。
【図4】第1の実施例である図2に対応するタイミングチャートである。
【図5】第2の実施例である図3に対応するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0023】
1:基地局
1−1:制御部
1−2:送受信部
2:端末
2−1:制御部
2−2:受信部
2−3:送信データ有無判断部
2−4送信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムの送信制御方法であって、
前記基地局及び端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、
前記端末から前記基地局への送信データが存在しないときには、第1の変調方式により前記信号を前記基地局へ送信する第1のステップと、
前記端末から前記基地局への送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により前記送信データを含む前記信号を前記基地局へ送信する第2のステップと、
を含むことを特徴とするアダプティブアンテナシステムの送信制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアダプティブアンテナシステムの送信制御方法において、
前記第1のステップがさらに、所定周期毎の送信スロットの一部の時間で前記基地局へ前記信号を送信することを特徴とするアダプティブアンテナシステムの送信制御方法。
【請求項3】
送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムであって、
前記基地局及び端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、
前記端末には、前記端末から前記基地局への送信データの存在の有無を判断する送信データ判断部と、
前記送信データ判断部の判断で送信データが存在しないときは、前記信号を第1の変調方式で変調して前記基地局へ送信する第1の送信部と、
前記送信データ判断部の判断が送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により送信データを含む信号を前記基地局へ送信する第2の送信部と、
を備えることを特徴とするアダプティブアンテナシステム。
【請求項4】
請求項3に記載のアダプティブアンテナシステムにおいて、
前記第1の送信部がさらに、所定周期毎の送信スロットの一部の時間で前記基地局へ前記信号を送信することを特徴とするアダプティブアンテナシステム。
【請求項5】
送信データの有無に関わらず、基地局が端末の方向を測定するために、前記端末が前記基地局へ信号を送信するアダプティブアンテナシステムに使用する端末であって、
前記端末は、少なくとも2以上の変調方式に対応可能に構成し、
前記端末から前記基地局への送信データの存在の有無を判断する送信データ判断部と、
前記送信データ判断部の判断で送信データが存在しないときは、前記信号を第1の変調方式で変調して前記基地局へ送信する第1の送信部と、
前記送信データ判断部の判断が送信データが存在するときは、前記第1の変調方式より高次の第2の変調方式により送信データを含む信号を前記基地局へ送信する第2の送信部と、
を備えることを特徴とする端末。
【請求項6】
請求項5に記載のアダプティブアンテナシステムに使用する端末おいて、
前記第1の送信部がさらに、所定周期毎の送信スロットの一部の時間で前記基地局へ前記信号を送信することを特徴とする端末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−206830(P2009−206830A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46920(P2008−46920)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】