説明

アチサン骨格を有するジテルペン化合物、その製造方法及びこれを含む医薬組成物

【課題】新たなサイトカイン産生制御剤の提供。
【解決手段】式(1)で表されるジテルペン化合物を含む医薬組成物又はサイトカイン産生制御剤。式(1)


(式中、R1は、C1−C6アシル基、又は、C1−C6炭化水素基を表し、R2は、C1−C6アルコキシカルボニル基、C1−C6アシル基、又は、C1−C6炭化水素基を表す。また、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立してC1−C6の炭化水素基を表わす。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アチサン骨格を有するジテルペン化合物を含む医薬組成物及びサイトカイン産生制御剤に関する。
また、本発明は、アチサン骨格を有するジテルペン化合物の製造方法に関する。
さらに、本発明は、アチサン骨格を有する新規なジテルペン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインとは、細胞から分泌され、細胞間の情報伝達に働く低分子量のタンパク質の総称である。
サイトカインの生理機能としては、免疫応答の制御作用、抗腫作用、抗ウィルス作用、細胞増殖・分化の調節作用等が挙げられ、その産生バランスが崩れると、様々な疾患の発症や進展をもたらすことが知られている。例えば、サイトカインが過剰産生すると、リウマチ、骨粗鬆症、動脈硬化症、糖尿病合併症等の慢性疾患が発症することが分かっている。
【0003】
また、サイトカインは免疫療法剤、増血剤として使用され、サイトカインを投与することによって、各種疾患の治療効果が得られることも知られている。しかし、大量のサイトカインを生体組織から単離したり高純度で生産することは難しく、外部からのサイトカインの投与はあまり実用的ではない。
【0004】
そのため、生体内におけるサイトカインの産生を抑制したり、促進させたりすることのできるサイトカイン産生制御剤が必要とされている。
【0005】
ところで、サイトカイン等のヒトの自然免疫系に作用する有効成分を感度よくスクリーニングする方法として、ショウジョウバエを用いたスクリーニング方法が知られている(特許文献1)。そして、この方法を利用して、サイトカインの1種であるケモカインの産生を阻害する化合物が見い出されている(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2004−121155号公報
【特許文献2】特開2005−187451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ケモカイン以外にも多数のサイトカインが存在し、用途によっては、サイトカインの産生阻害だけではなく、産生促進が必要となる場合がある。したがって、特許文献2に記載の化合物だけでは、生体内におけるサイトカインの産生を十分に制御することはできない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、種々のサイトカインの産生を抑制したり、促進させたりすることのできる新たなサイトカイン産生制御剤を提供することにある。
また、本発明の目的は、サイトカインの産生異常や免疫低下に起因する各種疾患等の予防薬又は治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために様々な物質をスクリーニングした結果、アチサン骨格を有する式(1)で表わされるジテルペン化合物がサイトカイン産生に影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成させた。
また、本発明者らは、アチサン骨格を有する式(1)で表わされるジテルペン化合物を、バンレイシ科、バンレイシ属の植物であるチェリモヤ(Annona Cherimola Mill.)からの抽出物からの単離により製造できることを見い出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種サイトカインの産生を抑制したり促進させることができるので、サイトカインの産生異常により発生する種々の疾患を予防又は治療したり、生体に免疫を賦活することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明について具体的に説明する。
本発明の医薬組成物、サイトカイン産生制御剤は、式(1)で表されるジテルペン化合物を含む。
【0012】
式(1)
【化7】

【0013】
式(1)で表されるジテルペン化合物は、サイトカインの産生に対して制御(抑制又は促進)作用を示す。
ここで、本発明のサイトカイン産生制御剤が産生を制御できるサイトカインに限定はないが、特に、NF−κBやNF−AT等の転写因子により発現誘導されるサイトカインに対して強い制御作用を示す。このようなサイトカイン類としては、例えば、IL−1〜IL−23、IFN−α、IFN−β、IFN−γ、TNF−α、TNF−β、MCP−1、MCAF、RANTES、MIP−1、SCF、GM−CSF、G−CSF、M−CSF、TGF−β、PDGF、EGF、LIF、GRO−α等が挙げられるが、これに限定されない。
【0014】
式(1)において、Ra、Rb、Rcは、それぞれ、1〜3位、6、7位、11〜15位の炭素に結合した水素のいずれかと置換してもよい置換基であり、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基を表す。
また、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数、lは0〜5の整数であり、好ましくは、n=m=l=0である。
【0015】
式(1)において、R1は、水素、置換基を有していてもよいC1−C6のアシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基を表す。
式(1)で表されるジテルペン化合物は、R1を適宜選択することにより、そのサイトカイン産生制御作用の程度を調整することができる。
例えば、R1が、水素又はアセチル基である場合、式(1)で表されるジテルペン化合物のサイトカイン産生制御作用が大きくなる。特に、式(1)で表されるジテルペン化合物のうち、R1がアセチル基であるもの、例えば、以下の式(3)で表されるジテルペン化合物は、サイトカイン産生制御作用が極めて大きい。なお、式(3)で表されるジテルペン化合物は新規化合物である。
【0016】
式(3)
【化8】

【0017】
式(1)において、R2は、置換基を有していてもよいC1−C6のアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1−C6のアシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基であり、好ましくは、メトキシカルボニル基、アルデヒド基、ヒドロキシメチル基である。
式(1)で表されるジテルペン化合物においては、R2を適宜選択することにより、そのサイトカイン産生制御作用が産生抑制であるか産生促進であるかを決定することができる。
例えば、R2がメトキシカルボニル基である場合、式(1)で表されるジテルペン化合物は低濃度領域でサイトカイン産生促進効果を示す。
一方、R2がアルデヒド基やヒドロキシメチル基である場合、式(1)で表されるジテルペン化合物はサイトカイン産生抑制作用を示す。
【0018】
また、R1が水素で、R2がアルデヒド基であるジテルペン化合物5(後述する)は、高濃度領域においてはサイトカイン産生制御活性を失うか、又は、サイトカイン産生制御活性が転換する。
このように、式(1)で表されるジテルペン化合物は、R1とR2を適宜組み合わせることにより、様々なサイトカイン産生制御作用を示すことができる。
【0019】
また、式(1)で表されるジテルペン化合物は、特に、式(2)の立体構造式で表される立体構造を有することが好ましい。
【0020】
式(2)
【化9】

(式中、R1、R2、Ra、Rb、Rc、n、m、lは、式(1)における定義と同じである。)
【0021】
なお、本発明において、「C1−C6炭化水素基」とは、炭素数が1ないし6個の直鎖状又は分枝状の、飽和又は不飽和の炭化水素基をいい、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1−エチルブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ブテニル基等のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、1−ブチニル基、2−ブチニル基、3−ブチニル基、1−エチニル−2−プロピニル基、1−メチル−2−プロピニル基等のアルキニル基等が挙げられる。
好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基である。
【0022】
本発明において、「C1−C6アシル基」とは、水素又は炭素数が1ないし5個の直鎖状または分枝状の炭化水素基の末端にカルボニル基が結合した基をいい、例えば、アルデヒド基(ホルミル基)、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、iso−ブチリル基、バレリル基、iso−バレリル基、ピバロイル基等が挙げられる。
好ましくは、アルデヒド基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、iso−ブチリル基、バレリル基、iso−バレリル基、ピバロイル基である。
【0023】
本発明において、「C1−C6アルコキシカルボニル基」とは、C1−C5アルコキシ基の末端にカルボニル基が結合した基をいう。
ここで、C1−C5アルコキシ基とは、炭素数が1ないし5個の直鎖状または分枝状の炭化水素基の末端に酸素原子が結合した基をいい、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1−メチルブトキシ基、2−メチルブトキシ基、1,1−ジメチルプロポキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、iso−ヘキシルオキシ基、1−メチルペンチルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、1−エチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1,2,2−トリメチルプロポキシ基、1−エチル−1−メチルプロポキシ基、1−エチル−2−メチルプロポキシ基等が挙げられる。
好ましい「C1−C6アルコキシカルボニル基」は、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、iso−プロポキシカルボニル基である。
【0024】
本発明において、「置換基を有していてもよい」「基」とは、その基の一部の水素が他の置換基で置換されていてもよいものをいう。
このような置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、オキソ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0025】
以下に、式(1)で表されるジテルペン化合物の特に好ましい具体例を示す。
【0026】
ジテルペン化合物1
【化10】

【0027】
ジテルペン化合物2
【化11】

【0028】
ジテルペン化合物3
【化12】

【0029】
ジテルペン化合物4
【化13】

【0030】
ジテルペン化合物5
【化14】

【0031】
ジテルペン化合物6
【化15】

【0032】
次に、式(1)で表されるジテルペン化合物を含む医薬組成物、サイトカイン産生制御剤について説明する。
【0033】
式(1)で表されるジテルペン化合物は、サイトカインの産生に対して抑制又は促進作用を示すので、ヒト又はヒト以外の動物のサイトカインの産生異常に起因する疾患の治療又は予防のための医薬組成物の有効成分として使用することができる。
このようなサイトカインの産生異常に起因する疾患としては、例えば、ウイルス感染症、心筋梗塞、リウマチ、骨粗鬆症、動脈硬化症、糖尿病合併症、敗血症、多発性骨髄腫、心房粘液腫、子宮頚癌、臓器移植後拒絶反応、肝硬変、後天性免疫不全症候群(AIDS)、多発性硬化症(MS)等が挙げられる。
【0034】
式(1)で表されるジテルペン化合物がサイトカインの産生を促進するものである場合には、これを投与した生体に免疫を賦活することができるので、免疫低下に起因する疾患の予防のための医薬組成物の有効成分として使用することができる。このような免疫低下に起因する疾患としては、例えば、インフルエンザやスペイン風邪等が挙げられる。また、臓器移植の際に用いられる獲得免疫抑制剤(例えば、タクロリムス、サイクロスポリン等)により抵抗力が低下した状態にある患者に対し、式(1)で表されるジテルペン化合物を投与することにより、感染症を抑制することもできる。
【0035】
また、式(1)で表されるジテルペン化合物は、サイトカインの産生に対して抑制又は促進作用を示すので、サイトカイン産生制御剤(サイトカイン産生抑制剤又はサイトカイン産生促進剤)として使用することができる。
【0036】
式(1)で表されるジテルペン化合物を含むサイトカイン産生制御剤は、例えば、免疫賦活剤として、健康食品等の食品(飲料を含む)や飼料等に添加することができる。
また、式(1)で表されるジテルペン化合物を含むサイトカイン産生制御剤は、抗昆虫剤として、農薬等に添加することができる。本発明のサイトカイン産生制御剤を予め農作物に散布しておくと、農作物に集まった昆虫の免疫機能を低下させることができるので、農作物の病気が発生した場合、免疫機能の低下した昆虫は病気に感染し、健康な農作物に病原菌等を伝播させることなく死滅し、被害の発生を最小限に抑えることができる。また、農作物に被害を与える病原昆虫については、免疫機能が低下しているため通常よりも少量の殺虫剤によって安易に駆除できる。
【0037】
式(1)で表されるジテルペン化合物を医薬組成物やサイトカイン産生制御剤として用いる場合、式(1)で表されるジテルペン化合物をそのまま、又は、慣用の担体・添加剤等と共に、ヒト又はヒト以外の動物に投与することができる。
【0038】
その投与量は、ジテルペン化合物の種類、投与目的、投与対象(患者の症状、年齢、体重、性別等)等に応じて適宜決定することができ、例えば、成人1日当たり1mg〜2g、好ましくは50mg〜1000mgの範囲とするのが好ましい。この場合、1日1回又は数回に分けて投与することができる。
式(1)で表されるジテルペン化合物が、添加濃度に依存してサイトカインの産生制御作用が変化するもの、例えば、ジテルペン化合物5、である場合には、投与量を適宜調整することにより、サイトカイン産生制御作用を調整することができる。
【0039】
また、その投与方法に限定はなく、経口又は非経口的に投与することができる。
さらに、投与剤型は、投与方法、投与目的、投与対象(患者の症状、年齢、体重等)等に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、トローチ剤、軟膏剤、クリーム剤、乳剤、懸濁剤、坐剤、注射剤等が挙げられる。
【0040】
これらの製剤は、いずれも慣用の製剤技術(例えば、日本薬局方に規定する方法等)によって製造することができる。
これらの製剤は、薬学的に許容されている添加物を含むことができる。このような薬剤学上許容されている添加物としては、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解促進剤、懸濁剤、乳化剤等が挙げられる。
【0041】
次に、式(1)で表されるジテルペン化合物の製造方法について説明する。
本発明においては、バンレイシ科、バンレイシ属の植物であるチェリモヤ(Annona Cherimola Mill.)から抽出物を抽出する工程と、該抽出物から式(1)で表されるジテルペン化合物を単離する工程と、を含む方法により式(1)で表されるジテルペン化合物を製造することができる。
【0042】
本発明において原料として用いるチェリモヤは、生のものでもよいし、乾燥物であってもよいが、小片化した乾燥物であることが好ましい。
また、チェリモヤの抽出部位としては、ジテルペン化合物を有意量含有している部位であれば限定はなく、例えば、果実、茎、葉、根、花又は種子等の任意の部位が挙げられるが、果実が好ましく、特に、果皮、種子を取り除いた果肉が好ましい。
【0043】
チェリモヤから抽出物を抽出する方法に限定はなく、例えば、液相抽出、気相抽出等が挙げられる。
液相抽出の場合、抽出溶媒としては、チェリモヤに含まれる式(1)で表されるジテルペン化合物を抽出できるものであれば限定はない。しかし、式(1)で表されるジテルペン化合物は難水溶性であるものが多いため、抽出溶媒としては、有機溶媒が好ましく、特にエタノール、メタノール等の低級アルコールが好ましい。
【0044】
抽出温度、抽出時間は、チェリモヤの抽出部位や粉砕・切断の程度、抽出方法、抽出溶媒の種類等に応じて適宜決定できるが、目安としては、抽出温度は4〜60℃程度であり、抽出時間は30分〜10日間程度である。
【0045】
得られた抽出物からジテルペン化合物を単離する方法に限定はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、高速液体クロマトグラフィーやシリカゲルカラムクロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーによって分離することができる。
カラムクロマトグラフィーに用いる展開溶媒としては、n−ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、アセトン、エーテル、クロロホルム等を慣用の展開溶媒を用いることができる。
【0046】
カラムクロマトグラフィーを用いて化合物を単離するには、カラムクロマトグラフィーによって分離した複数の画分(フラクション)の中から、目的の化合物を含む画分を選択する必要がある。本発明においては、各画分のサイトカイン産生抑制又は産生促進作用を測定し、最も強いサイトカイン産生抑制又は促進作用を示す画分を選択することにより、式(1)で表されるジテルペン化合物を含有する画分を選択することができる。
もっとも、クロマトグラフィーで分離するたびに、各画分のサイトカイン産生抑制又は促進作用を測定することは煩雑である。そこで、本発明においては、式(1)で表されるジテルペン化合物を含有する画分を選択するための指標として、サイトカイン産生抑制又は産生促進作用に代えて、特許文献1に記載されるようなショウジョウバエを用いた自然免疫活性評価系により評価される自然免疫活性を利用することが好ましい。
【0047】
本発明においては、チェリモヤの抽出物から式(1)で表されるジテルペン化合物を単離する工程の後に、さらに、単離したジテルペン化合物の一部の官能基、特に、4位、17位に結合する置換基(R1、R2)、を公知の方法により他の置換基に変換する工程を設け、チェリモヤから抽出したジテルペン化合物から所望のサイトカイン産生制御作用を有するジテルペン化合物に変換してもよい。
ここで、公知の方法としては、例えば、還元処理、脱アセチル化処理等が挙げられるが、これに限定されない。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
なお、実施例において用いた装置、試薬、表記方法は以下のとおりである。
比旋光度は日本分光P−1030型旋光計を用いて測定した。マススペクトルは日本電子JEOL JMS−DX 303型質量分析計及びJMS−700型質量分析計を使用した。NMRスペクトルの測定は日本電子JEOL ECA−600型核磁気共鳴装置及びJEOL AL−400型核磁気共鳴装置を使用し、内部標準物質としてTMSを用いた。化学シフト値はppmで表し、結合様式は、一重線:s、二重線:d、三重線:t、四重線:q、二分裂した二重線:dd、多重線:m、幅広いシグナル:br.で表した。カラムクロマトグラフィーはSilica gel 60(70−230mesh ASTM、Merck)、Cosmosil 140C18−OPN(nacalai)を用いた。GPC HPLCはLC−908W(Japan Analytical Industry Co.,Ltd.)を用い、そのカラムとしてJAIGEL−GS310(φ20mmx600mm)(Japan Analytical Industry Co.,Ltd.)、JAIGEL−1H(φ21.5mmx500mm)(Japan Analytical Industry Co.,Ltd.)を用いた。TLCはTLC aluminium sheets Silica gel 60F254(0.25mm、Merck)、TLC aluminium sheets RP−18 F254S(0.25mm、Merck)を用い、検出はUV(254,365nm)照射下における蛍光及びアニスアルデヒド硫酸溶液噴霧後の加熱発色により行った。試薬は、市販のものを精製せずにそのまま用いた。
【0049】
[参考例1] 自然免疫活性の評価
以下の実施例において、カラムクロマトグラフィーにより分離した複数の画分の中から、式(1)で表されるジテルペン化合物を含む画分を選択する際に利用した各試料(画分)の自然免疫活性を評価するために、各試料について自然免疫系の抗菌ペプチドであるディプテリシン遺伝子のレポータータンパク質であるβ−ガラクトシダーゼの発現量を測定した。具体的な手順を以下に示す。
(i)培地の調製
ショウジョウバエの脂肪体を培養するための培地として、Schneider‘s Drosophila培地(GIBCO)(ショウジョウバエの細胞培養用培地)に、20%の牛胎児血清(Valley Biomedical Inc.)と、1%の抗生物質(Antibiotics−Antimycotic : GIBCO)を添加したものを用意した。
自然免疫の活性化に用いるリポ多糖(LPS)を1mg/mLの濃度となるように精製水に溶解し、培地中に最終濃度が1%(10μg/mL)となるように添加した。また、試料をジメチルスルホキシド(DMSO)溶液とし、培地中に最終濃度が0.5%(0.5μg/mL)となるように添加した。
【0050】
(ii)解剖と培養
ショウジョウバエの雌のみを選択し、頭部を切断して抗菌ペプチドの産生器官である脂肪体を露出させた。このようにして得た脂肪体を、1ウェルあたり100μLの培地の入った96ウェルプレートの各ウェルに1匹ずつ入れ、25℃で12時間培養した。なお、培養は1試料につき、6匹分行った。
(iii)β−ガラクトシダーゼ定量に用いる分析試料の調製
12時間培養した後、脂肪体を200μLのreaction buffer(60mM NaHPO、40mM NaHPO、10mM KCl、1mM MgCl、pH 7.8)の入った500μLのエッペンドルフチューブに入れ、超音波破砕機(ULTRASONIC PROCESSOR XL : MISONIX)を用いてホモジナイズしてβ−ガラクトシダーゼを抽出した。次いで、抽出物を遠心分離(9170×g、10min.、4℃ MX−300:TOMY)し、上清160μLを採取し、分析試料とした。
(iv)β−ガラクトシダーゼの定量
(iii)で得た分析試料中のβ−ガラクトシダーゼを、酵素反応により定量した。
検量線作成用標準溶液として、β−ガラクトシダーゼを0.1%BSA(ウシ血清アルブミン)+reaction bufferで希釈して、β−ガラクトシダーゼの濃度間隔が100ng/mL、10ng/mL、1ng/mL、100pg/mL、10pg/mLとなるように調製した溶液を用意した。標準溶液及び分析試料を測定用チューブに20μLずつ分注し、それらに酵素の基質であるGalacton plus(TROPIX)をreaction bufferで80倍に希釈したものを80μL添加して、正確に1時間、室温で撹拌した。その後、標準溶液及び分析試料にenhancerであるEmerald II(TROPIX)を0.25M NaOHで8倍に希釈したものを100μL加え、直ちにルミノメーター(Microplate Luminometer LB 96V:Belthold)で標準溶液及び分析試料の化学発光を測定した。標準溶液を用いて作成した検量線を利用して、分析試料中のβ−ガラクトシダーゼの量を定量した。
【0051】
(v)Bradford法によるタンパク質の定量
ショウジョウバエの脂肪体の大きさの個体差を補正するため、それぞれの分析試料のタンパク質量を定量し、単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ量を算出した。
検量線作成用標準溶液として、1mg/mLのBSAを精製水で希釈して、BSA濃度が0.5、0.4、0.25、0.125、0.05(mg/mL)となるように調製した溶液を用意した。標準溶液及び分析試料を10μLずつ96ウェルプレートに分注し、それらに5倍希釈したdye reagent(BIO RAD)200μLを加えて室温で約10分間放置した後、MICRO PLATEREADER MODEL 680(BIO−RAD)を使用して、標準溶液及び分析試料の595nmの吸光度を測定した。標準溶液を用いて作成した検量線を利用して、分析試料中のタンパク質量を定量し、分析試料の単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ量を算出した。
(vi)評価
1試料につき6匹分の培養を行い、それらの分析試料のうち、単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ産生量が最大のものと最小のものを除いた4つの分析試料の単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ産生量の平均値を算出し、これを用いて自然免疫活性を評価した。
培地にDMSOとLPSのみを添加した対照試料の単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ産生量の平均値を100%、培地にDMSOのみを添加したブランク試料の単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ産生量の平均値を0%として、各試料の単位タンパク質あたりのβ−ガラクトシダーゼ産生量を対照試料に対する相対値(%)で表し、これを各試料の自然免疫活性を評価する値とした。
【0052】
[参考例2] 細胞毒性の評価(細胞生存率の測定)
以下の実施例において、試料の細胞毒性は以下のようにして評価した。
(i)培地の調製
Schneider‘s Drosophila培地(GIBCO)に、牛胎児血清(Valley Biomedical Inc.)を20%(v/v)、Antibiotics−Antimycotic(GIBCO)を1%(v/v)となるように加えて培地を調製した。
この培地中に、DMSOに溶解させた試料を最終濃度0.5%(v/v)になるように添加した。また、対照試料として、培地中にDMSOのみを添加したものを用意した。
(ii)細胞の培養
96ウェルプレートの各ウェルに、試料を添加した培地を100μLずつ分注し、その中にS2細胞を2×10cells/ウェルになるように蒔いた。また、ブランク試料として、細胞を蒔かないものを用意した。その後、25℃で24時間培養を行った。
なお、細胞の培養は、一試料につき6ウェルずつ行った。
(iii)生細胞数の測定
24時間培養後、MTT試薬(生細胞数測定試薬SF:nacalai tesque)を各ウェルに10μLずつ分注した。分注直後に、MICRO PLATEREADER MODEL 680(BIO−RAD)を使用して450nmの吸光度を測定した(0hの吸光度とする)。その後、25℃で4時間培養を行い、再び450nmの吸光度を測定した(4hの吸光度とする)。
(iv)評価
各ウェルの4hの吸光度から0hの吸光度を差し引き、培地にDMSOのみを添加した対照試料の吸光度変化を100%、培地のみで細胞を蒔いていないブランク試料の吸光度変化を0%として、各ウェルの吸光度変化を対照試料に対する相対値(%)で表した。6ウェルの生細胞生存率の平均値を算出し、これを試料の生細胞生存率とした。
【0053】
[実施例1] 式(1)で表されるジテルペン化合物1の製造及び同定
(ジテルペン化合物1の製造)
(i)抽出工程
チェリモヤ果肉の凍結乾燥物386.61gを2Lのメタノール(MeOH)を加え、70rpmで攪拌しながら室温で1日抽出した。抽出したMeOHを濾過し、これを減圧濃縮して、MeOH抽出物169.51gを得た。
このMeOH抽出物に1300mLの水を加え、1300mLの酢酸エチル(EtOAc)を用いて3回抽出し、EtOAc層を減圧留去して、EtOAc可溶画分21.5gを得た。
【0054】
(ii)単離工程
(i)で得た酢酸エチル可溶画分から、図1に示す手順で白色固体物質AC−1を単離した。
まず、EtOAc可溶画分(21.5g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、ヘキサン(hexane)、hexane−EtOAc、EtOAc、EtOAc−MeOH、MeOHで順次溶出させ、画分E−1(6709.1mg、hexane−EtOAc(1:0−9:1))、E−2(6073.9mg、hexane−EtOAc(1:1))、E−3(4188.0mg、hexane−EtOAc(1:1))、E−4(1456.0mg、EtOAc)、E−5(1084.7mg、EtOAc)、E−6(1450.3mg、EtOAc−MeOH(4:1))、E−7(525.8mg、EtOAc−MeOH(4:1−0:1))、E−8(722.4mg、MeOH)を得た。それぞれの画分の自然免疫活性を、参考例1に記載した手順で試料濃度3.3μg/mLで測定した結果、画分E−4が最も強く自然免疫を抑制した。
次に、画分E−4をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、hexane、hexane−EtOAc、EtOAc、MeOHで順次溶出させ、画分E4−1(152.2mg、hexane−EtOAc(1:0−9:1))、E4−2(114.3mg、hexane−EtOAc(9:1−4:1))、E4−3(93.2mg、hexane−EtOAc(4:1))、E4−4(282.9mg、hexane−EtOAc(4:1−2:1))、E4−5(590.5mg、hexane−EtOAc(2:1−1:1))、E4−6(107.6mg、hexane−EtOAc(1:1))、E4−7(94.7mg、EtOAc)、E4−8(91.5mg、MeOH)を得た。それぞれの画分の自然免疫活性を、試料濃度0.5μg/mLで測定した結果、画分E4−5が最も強く自然免疫を抑制した。
【0055】
続いて、画分E4−5をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、hexane−EtOAc、EtOAc、MeOHで順次溶出させ、画分E45−1(22.8mg、hexane−EtOAc(4:1))、E45−2(96.7mg、hexane−EtOAc(4:1))、E45−3(106.1mg、hexane−EtOAc(4:1))、E45−4(150.2mg、hexane−EtOAc(4:1))、E45−5(67.9mg、hexaneEtOAc(4:1−2:1))、E45−6(109.6mg、hexane−EtOAc(2:1−1:1))、E45−7(48.7mg、EtOAc、MeOH)を得た。それぞれの画分の自然免疫活性を試料濃度0.5μg/mLで測定した結果、画分E45−2及び3が最も強く自然免疫を抑制した。
さらに、この画分45−2とE45−3を混合してシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、hexane−クロロホルム(CHCl)、CHCl、CHCl−MeOH、MeOHで順次溶出させ、画分E452−1(1.0mg、hexane−CHCl(1:2−0:1))、E452−2(82.8mg、CHCl)、E452−3(23.2mg、CHCl)、E452−4(27.4mg、CHCl)、E452−5(56.1mg、CHCl−MeOH(1:0−49:1))、E452−6(9.7mg、CHCl−MeOH(49:1))、E452−7(2.8mg、MeOH)を得た。それぞれの画分の自然免疫活性を試料濃度0.5μg/mLとして測定した結果、画分E452−3及び4が最も強く自然免疫を抑制した。
なお、画分E452−3及び4、特に、画分E452−3は、試料濃度5.0μg/mLにおいて細胞生存率に影響を与えなかった。以下に、画分E452−1〜7の自然免疫活性と細胞生存率を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
画分E452−3及び4について、それぞれ、薄層クロマトグラフィーを用いて分析を行った結果、これらの中に2種の物質が共通に含まれていることが判明した。そこで画分E452−3をHPLC(Column:JAIGEL−GS310、Elutant:CHCN、Flowrate:5mL/min)で分離し、画分E4523−1(0.3mg)、E4523−2(18.8mg)、E4523−3(0.5mg)、E4523−4(1.1mg)を得た。次いで、画分E4523−2をHPLC(Column:JAIGEL−1H、Elutant:CHCl、Flowrate:3.5mL/min)で分離し、画分E45232−1(0.1mg)、E45232−2(0.7mg)、E45232−3(4.0mg)、E45232−4(9.8mg)、E45232−5(2.1mg)、E45232−6(0.1 mg)、E45232−7(0.2mg)を得た。さらに画分E45232−3、4及び5を混合してシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、hexane−EtOAc(1:0−4:1)、EtOAc、MeOHで順次溶出させ、hexane−EtOAc(20:3)の溶出画分より白色固体であるAC−1(4.3mg)を単離した。
【0058】
(ジテルペン化合物1の同定)
AC−1についてHREIMSを測定したところ、m/z392.2550に分子イオンピークが観測された。これにより、AC−1の分子式はC2336であると推測した。
次いで、H−NMR、13C−NMR、及びHMQCスペクトルより、AC−1中には、2個のエステルカルボニル炭素、1個の酸素原子が結合した4級炭素、1個のオキシメチレン炭素、1個のメトキシル炭素、3個の4級炭素、9個のメチレン炭素、3個のメチン炭素及び3個のメチル炭素が存在することが判明した。
続いて、H−H COSYより、AC−1は、以下に示す部分構造を有することが判明した。
【化16】

【0059】
そこでまず、A環部をHMBCスペクトルにより解析した。
HMBCスペクトルでは、H−18からC−3、−4、−5及び−19への相関が観測され、これにより、C−3〜5、18、19の間に結合が存在することが明らかとなった。また、メトキシ基のプロトンからC−19への相関が観測され、これにより、C−19がメトキシカルボニルを形成していることが判明した。さらに、H−20からC−1、−5、−9及び−10への相関が観測され、これにより、C−1、5、9、10、20の間に結合が存在することが明らかとなった。さらにまた、H−1からC−2、3への相関が観測され、これにより、C−1〜3の間に結合が存在することが判明し、AC−1は、以下に示す部分構造を有することが判明した。
【化17】

【0060】
次に、C環部をHMBCスペクトルにより解析した。
HMBCスペクトルでは、H−17からC−12、−15、−16及びアセチル基のカルボニル炭素への相関が観測され、これにより、C−12、15、16、17の間に結合が存在することと、C−17にアセチル基が結合していることが判明した。また、H−13からC−8、−14への相関、及び、H−15からC−8への相関が観測され、これにより、C−13−C−14−C−8−C−15間に結合が存在することが明らかとなり、AC−1は、以下に示す部分構造を有することが判明した。
【化18】

【0061】
最後に、A、C環部を連結したHMBCスペクトルにおいて、H−11からC−8、−9への相関及びH−15からC−9への相関が観測され、これにより、C−11−C−9−C−8、の間に結合が存在することが明らかとなった.また、H−6、15からC−7への相関、及び、H−7からC−8への相関が観測され、これにより、C−6−C−7−C−8の間に結合が存在することが判明した。以上より、AC−1は、以下に示す平面構造であることが判明した。
【化19】

【0062】
AC−1の17位においてアセトキシ基の代わりに水酸基が結合している化合物(methyl 17−hydroxy−16β−hydroxy−ent−atisan−19−oate)は既知である。そこで、該既知化合物とAC−1を比較するため、AC−1にメタノール中で炭酸カリウム(KCO)を作用させて脱アセチル化することにより、AC−1の17位のアセトキシ基を水酸基に変換し、AC−1´を得た。このようにして誘導したAC−1´のH−NMR、13C−NMR及び比旋光度([α]D24−63.9(c0.390、CHCl))を測定したところ、既知化合物のデータ([α]D19−81.3(c0.8、CHCl))と一致した。これにより、AC−1が、ジテルペン化合物1(methyl 17−acetoxy−16β−acetoxy−ent−atisan−19−oate)であることが確認できた。
【0063】
以下に、AC−1のH−NMR、13C−NMRスペクトルデータを示す。
【表2】

【0064】
[実施例2] 式(1)で表されるジテルペン化合物2の製造及び同定
(ジテルペン化合物2の製造)
実施例1と同様にして、画分E45−2及び3に次いで強い自然免疫活性を示す画分E45−4(150.2mg)を得た。画分E45−4は、試料濃度5.0μg/mLにおいて細胞生存率に全く影響を与えなかった。以下に画分E45−1〜7の自然免疫活性と細胞生存率を示す。
【0065】
【表3】

【0066】
次いで、画分E45−4をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、hexane−CHCl(1:4)、CHCl、CHCl−MeOH(9:1)、MeOHで順次溶出させ、hexane−CHCl(1:4)の溶出画分より白色固体のAC−2(17.1mg)を単離した。
【0067】
(ジテルペン化合物2の同定)
AC−2について、HREIMSを測定したところ、m/z362.2440に分子イオンピークが観測されたため、AC−2の分子式はC2234であると推測した。
次いで、AC−2のH−NMRスペクトルを測定したところ、AC−1のH−NMRスペクトル測定においてみられたメトキシ基のシグナル(δ3.62)が消失し、代わりにアルデヒド由来のシグナル(δ9.74)が出現した。また、AC−2の13C−NMRスペクトルを測定したところ、AC−1の13C−NMRスペクトル測定においてみられたメトキシカルボニルのカルボニル炭素のシグナル(δ178.0)とメトキシル炭素のシグナル(δ51.1)が消失し、代わりにアルデヒド炭素のシグナル(δ205.7)が出現した。
以上より、AC−2は、AC−1のメトキシカルボニル基がアルデヒド基に変化した以下に示す平面構造であることが判明した。
【化20】

【0068】
ここで、AC−2の17位においてアセトキシ基の代わりに水酸基が結合している化合物(17−hydroxy−16β−hydroxy−ent−atisan−19−al)が既知である。そこで、この既知化合物とAC−2を比較するため、AC−2をメタノール中で炭酸ジカリウム(KCO)を作用させて脱アセチル化することにより、その17位のアセトキシ基を水酸基に変換し、AC−2´を得た。このようにして誘導したAC−2´のH−NMR、13C−NMR及び比旋光度([α]D25−44.3(c0.309、CHCl))を測定したところ、既知化合物のデータ([α]D25−46.7(c0.15、CHCl))と一致した。これにより、AC−2が、ジテルペン化合物2(17−acetoxy−16β−hydroxy−ent−atisan−19−al)であることが確認できた。
【0069】
以下に、AC−2のH−NMR、13C−NMRスペクトルデータを示す。
【表4】

【0070】
[実施例3] 式(1)で表されるジテルペン化合物3の製造及び同定
ジテルペン化合物2をMeOH中で水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用いて還元することにより、その4位に結合しているアルデヒド基をヒドロキシメチル基に変換し、AC−3を得た。実際に行った手順を以下に示す。
(ジテルペン化合物3の製造)
実施例1と同様にして、画分E45−2 10.9mgを得、MeOH2.0mLに溶かし、NaBH1.7mgを加え、室温で20分間攪拌した。反応液を飽和NHCl水溶液で酸性化した後、EtOAcで3回抽出し、溶媒を留去した。残渣をシリカゲル0.5gを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、CHCl、CHCl−MeOH(49:1)、MeOHで順次溶出させ、CHCl−MeOH(1:0−49:1)の溶出画分よりAC−3 4.2mgを得た。
【0071】
(ジテルペン化合物3の同定)
比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSの解析の結果、AC−3はジテルペン化合物3(17−acetoxy−ent−atisane−16β,19−diol)であることが確認できた。
【0072】
以下にAC−3の比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSのデータを示す。
Colorless amorphous solid.[α]D27−50.9(c0.305,pyridine). H−NMR(600MHz,pyridine−d) δ5.75−5.87(1H,br.s),5.53−5.67(1H,br.s),4.65(1H,d,J=11.2Hz),4.48(1H,d,J=11.2Hz),3.99(1H,d,J=10.6Hz),3.63(1H,d,J=10.6Hz),2.40(1H,s),2.17(1H,d,J=13.1Hz),2.00(3H,s),1.97(1H,d,J=3.5Hz),1.94(1H,d,J=11.8Hz),1.82(1H,d,J=14.0Hz),1.72(1H,d,J=14.0Hz),1.37−1.70(11H,m),1.19(3H,s),0.92−1.02(3H,m),1.00(3H,s),0.76(1H,td,J=13.1,4.2Hz). 13C−NMR(150MHz,pyridine−d) δ171.2,79.2,69.3,64.1,57.2,56.9,54.0,46.5,45.0,42.9,40.6,39.6,39.3,37.6,36.2,28.1,26.7,21.1,20.9,18.7,18.6,18.5. LREIMSm/z364(0.03,M),346(3),315(32),291(43),273(82),255(100). HREIMSm/z364.2614[M](364.2622 calculated for C2236).
【0073】
[実施例4] 式(1)で表されるジテルペン化合物4〜6の製造
ジテルペン化合物1〜3をMeOH中で炭酸カリウム(KCO)を作用させて脱アセチル化することにより、その17位のアセトキシ基を水酸基に変換し、ジテルペン化合物4〜6を得た。実際に行った手順を以下に示す。
(ジテルペン化合物4の製造)
実施例1において製造したジテルペン化合物1 6.2mgをMeOH2.0mLに溶かし、KCO2.6mgを加え、室温で2時間攪拌した。MeOHを留去し、残渣にEtOAcと水を加えて1回分配し、EtOAc層の溶媒を留去した。残渣をシリカゲル0.5gを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、CHCl、CHCl−MeOH(99:1)、MeOHで順次溶出させ、CHCl−MeOH(99:1)の溶出画分よりAC−4 4.2mgを得た。
(ジテルペン化合物5の製造)
実施例1と同様にして、画分E45−2 8.7mgを得、これをMeOH2.0mLに溶かし、KCO2.5mgを加え、室温で2時間攪拌した。MeOHを留去し、残渣にEtOAcと水を加えて1回分配し、EtOAc層の溶媒を留去した。残渣をODS0.5gを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、HO−CHCN(2:1−1:2)、MeOHで順次溶出させ、H2O−CHCN(2:1)の溶出画分を得た。さらにこの画分を、シリカゲル0.5gを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、CHCl、CHCl−MeOH(99:1−9:1)、MeOHで順次溶出させ、CHCl−MeOH(99:1)の溶出画分よりAC−5 1.2mgを得た。
(ジテルペン化合物6の製造)
実施例1と同様にして、画分E45−2 9.8mgを得、これをMeOH2.0mLに溶かし、NaBH1.8mgを加え、室温で20分攪拌した。溶媒を留去した後、再びMeOH2.0mLに溶かし、KCO3.1mgを加え、室温で1時間攪拌した。MeOHを留去し、残渣にEtOAcと水を加えて1回分配し、EtOAc層の溶媒を留去した。残渣をシリカゲル0.5gを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、hexane、hexane−EtOAc(4:1−1:1)、EtOAc、MeOHで順次溶出させ、hexane−EtOAc(1:1)、EtOAc、MeOHの溶出画分よりAC−6 2.5mgを得た。
【0074】
(ジテルペン化合物4〜6の同定)
比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSの解析の結果、AC−4〜6は、それぞれ、ジテルペン化合物4〜6であることが確認できた。AC−4〜6の比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSのデータを図2〜4に示す。
【0075】
[実施例5] ジテルペン化合物1〜6のサイトカイン産生制御作用の確認 1
(試験方法)
ジテルペン化合物1〜6のIL−8の産生抑制効果を確認するために、以下の試験を行った。
96ウェルプレートで培養したHUVECに、ジテルペン化合物1〜6を、それぞれ、1.5μM、15μM及び150μMとなるように添加した18個の試料を用意し、3時間インキュベーションした。続いて、ヒトTNF−α(1ng/ml)を添加し、16時間インキュベーションした後、培養液中のIL−8の濃度をELISAキット(R&D systems)で測定した。
また、比較のため、ヒトTNF−α、ジテルペン化合物いずれも添加しない試料と、ヒトTNF−αのみ添加し、ジテルペン化合物を添加しない試料を用意した。
(結果)
各試料におけるIL−8産生量を図5に示す。図5において、縦軸は培養液中のIL−8濃度、横軸は各ジテルペン化合物の添加濃度である。
図5より、ジテルペン化合物1、4は、低添加添加濃度領域でIL−8の産生を促進し、ジテルペン化合物2、3、5及び6はIL−8の産生を抑制することが確認できた。
また、ジテルペン化合物5は、高添加濃度領域において、IL−8産生制御作用が抑制から促進に転換した。
【0076】
[実施例6] ジテルペン化合物1〜6のサイトカイン産生制御作用の確認 2
(試験方法)
ジテルペン化合物1〜6のMCP−1産生抑制効果を確認するために、以下の試験を行った。
96ウェルプレートで培養したHUVECにジテルペン化合物1〜6を、それぞれ、1.5μM、15μM及び150μMとなるように添加した18個の試料を用意し、3時間インキュベーションした。続いて、ヒトTNF−α(1ng/ml)を添加し、16時間インキュベーションした後、培養液中のMCP−1の濃度をELISAキット(R&D systems)で測定した。 また、比較のため、ヒトTNF−α、ジテルペン化合物いずれも添加しない試料と、ヒトTNF−αのみ添加し、ジテルペン化合物を添加しない試料を用意した。
(結果)
各試料におけるMCP−1産生量を図6に示す。図6において、縦軸は培養液中のMCP−1の濃度、横軸は各ジテルペンの添加濃度である。
図6より、ジテルペン化合物1、4は低添加濃度領域でMCP−1の産生を促進し、ジテルペン化合物2、3、5及び6は、MCP−1の産生を抑制することが確認できた。
また、ジテルペン化合物5は、高添加濃度領域において、MCP−1産生抑制作用を失った。
さらに、実施例5、6の結果の比較から、ジテルペン化合物1〜6は、IL−8及びMCP−1の産生に対して、ほぼ同様の傾向の産生制御作用を示すことが確認できた。
【0077】
[参考例3]
参考のため、ジテルペン化合物1〜6の、種々の濃度における自然免疫活性、細胞毒性を測定した。なお、自然免疫活性、細胞毒性は、参考例1、参考例2に記載した方法と同様にして測定した。
また、ジテルペン化合物1、2については、さらに、転写・翻訳活性(熱刺激により誘導されるβ−ガラクトシダーゼの産生量)を測定した。なお、転写・翻訳活性は、「(i)培地の調製」においてLPSを培地に添加しなかった点、「(vi)評価」において対照試料として培地にDMSOのみ添加したものを用い、ブランク試料として培地にT−2toxinを100μMとなるように添加したものを用いた点、及び、「(ii)解剖と培養」を以下のように変更した点以外は参考例1と同様にして測定した。
(ii)解剖と培養
ショウジョウバエの幼虫が入ったチューブを30℃のインキュベーターに22分間入れて、幼虫に熱刺激を与えた。幼虫に熱刺激が加わらないように4℃以下の低温条件下で、幼虫の頭部を切断して抗菌ペプチドの産生器官である脂肪体を露出させた。このようにして得た脂肪体を、1ウェルあたり100μLの培地の入った96ウェルプレートの各ウェルに1匹ずつ入れ、25℃で18時間培養した。なお、培養は1試料につき、6匹分行った。
結果を図7に示す。図7において、□、○、△は、それぞれ、自然免疫活性、細胞生存率、転写・翻訳活性を表し、縦軸は各ジテルペン化合物の自然免疫活性、細胞生存率、又は転写・翻訳活性(対照試料に対する相対値(%))であり、横軸は各ジテルペン化合物の添加濃度である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の式(1)で表されるジテルペン化合物は、サイトカインの産生異常に起因する各種疾患の治療薬や予防薬、又は、免疫低下に起因する疾患の予防薬の有効成分として用いることができる。
また、本発明の式(1)で表されるジテルペン化合物は、免疫賦活剤として、食品や動物用飼料に添加することができる。
さらに、本発明の式(1)で表されるジテルペン化合物は、抗昆虫剤として、農薬に添加することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】チェリモヤの抽出物からのジテルペン化合物の単離手順を示す図である。
【図2】AC−4の比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSのデータである。
【図3】AC−5の比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSのデータである。
【図4】AC−6の比旋光度、H−NMR、13C−NMR、LREIMS、HREIMSのデータである。
【図5】ジテルペン化合物1〜6のIL−8産生制御作用を示すグラフである。
【図6】ジテルペン化合物1〜6のMCP−1産生制御作用を示すグラフである。
【図7】ジテルペン化合物1〜6の自然免疫活性、細胞毒性、転写・翻訳活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジテルペン化合物を含む医薬組成物。
式(1)
【化1】

(式中、R1は、水素、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表し、R2は、置換基を有していてもよいC1−C6アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表す。また、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基を表し、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数、lは0〜5の整数である。)
【請求項2】
式(1)において、R1が、水素又はアセチル基であり、R2が、メトキシカルボニル基、アルデヒド基又はヒドロキシメチル基のいずれかである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
式(1)で表されるジテルペン化合物が、式(2)で表される化合物である請求項1又は2に記載の医薬組成物。
式(2)
【化2】

(式中、R1、R2、Ra、Rb、Rc、n、m、lは、式(1)における定義と同じである。)
【請求項4】
式(1)で表されるジテルペン化合物を含むサイトカイン産生制御剤。
式(1)
【化3】

(式中、R1は、水素、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表し、R2は、置換基を有していてもよいC1−C6アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表す。また、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基を表し、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数、lは0〜5の整数である。)
【請求項5】
式(1)において、R1が、水素又はアセチル基であり、R2が、メトキシカルボニル基、アルデヒド基又はヒドロキシメチル基のいずれかである請求項4に記載のサイトカイン産生制御剤。
【請求項6】
式(1)で表されるジテルペン化合物が、式(2)で表される化合物である請求項4又は5に記載のサイトカイン産生制御剤。
式(2)
【化4】

(式中、R1、R2、Ra、Rb、Rc、n、m、lは、式(1)における定義と同じである。)
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載のサイトカイン産生制御剤を含む食品。
【請求項8】
式(1)で表されるジテルペン化合物の製造方法であって、
チェリモヤ(Annona Cherimola Mill.)から抽出物を抽出する工程と、
該抽出物から式(1)で表されるジテルペン化合物を単離する工程と、
を含む方法。
式(1)
【化5】

(式中、R1は、水素、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表し、R2は、置換基を有していてもよいC1−C6アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表す。また、Ra、Rb、Rcは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいC1−C6の炭化水素基を表し、nは0〜3の整数、mは0〜2の整数、lは0〜5の整数である。)
【請求項9】
前記抽出物から単離した式(1)で表されるジテルペン化合物の一部の置換基を変換する工程をさらに含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
式(3)で表されるジテルペン化合物。
式(3)
【化6】

(式中、R2は、置換基を有していてもよいC1−C6アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいC1−C6アシル基、又は、置換基を有していてもよいC1−C6炭化水素基を表す。)
【請求項11】
式(3)におけるR2が、メトキシカルボニル基、アルデヒド基又はヒドロキシメチル基のいずれかである請求項10に記載のジテルペン化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−214205(P2008−214205A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−50619(P2007−50619)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(391026058)ザ・コカ−コーラ・カンパニー (238)
【氏名又は名称原語表記】THE COCA−COLA COMPANY
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】