説明

アップライト型ピアノのソフトペダル装置

【課題】 ソフトペダルを踏み込んだときの鍵のタッチ重さをソフトペダルの非踏込み時と同じタッチ重さに選択的に維持でき、それにより演奏者が違和感なく演奏することができるアップライト型ピアノのソフトペダル装置を提供する。
【解決手段】 ハンマーで弦を打撃することにより発生させるピアノ音にソフトペダル効果を付与するアップライト型ピアノのソフトペダル装置であって、ソフトペダルの踏込みに伴い、ハンマーに隣接する通常位置から、通常位置よりも弦側に位置し、離鍵状態においてハンマー組立て品を支持するハンマー支持位置に回動し、離鍵状態におけるハンマーと弦との間の距離を狭めることによって、ソフトペダル効果を付与するハンマーレール1と、ハンマーレール1を、通常位置に選択的に保持するレール保持手段60と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押鍵に伴って発生する演奏音にソフトペダル効果を付与するアップライト型ピアノのソフトペダル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のソフトペダル装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このソフトペダル装置は、ソフトペダルおよびこれに連結されたハンマーレールなどを備えている。このハンマーレールは、左右方向に延び、離鍵状態では、並設された多数のハンマーに隣接している。また、ハンマーレールは、ソフトペダルの踏込みに伴って弦側に回動し、離鍵状態のハンマー組立て品を支持する。それにより、ハンマーと弦の間の距離が狭められることによって、ハンマーによる打弦力およびそれにより発生するピアノ音の音量が弱められ、演奏音にソフトペダル効果が付与される。また、ソフトペダルが踏み込まれた状態では、ハンマー組立て品が弦側に回動しているので、通常、ハンマー組立て品とジャックとの間に間隙が生じている。このため、ソフトペダルが踏み込まれた状態では、押鍵の開始当初にはハンマー組立て品の荷重が鍵に作用しないため、鍵のタッチ重さが、ソフトペダルの非踏込み時よりも非常に小さくなる。その結果、ソフトペダルの踏込みの前後においてタッチ重さが大きく変化してしまい、演奏者はこのような演奏中のタッチ重さの変化を好まないため、ソフトペダルは使用されないことが多い。
【0003】
また、従来のアップライト型の消音ピアノとして、例えば特許文献2に開示されたものが知られている。この消音ピアノは、押鍵に伴い、ジャックでハンマー組立て品を突き上げ、ハンマーで打弦することによってピアノ音を発生させる通常演奏モードと、ハンマーによる打弦を阻止し、ピアノ音に代えて電子音を発生させる消音演奏モードとに切り替えて演奏される。また、ハンマーと弦の間には、左右方向に延びるストップレールが、ハンマーの回動領域内とその外側との間に進退自在に設けられている。消音演奏モードでは、ストップレールはハンマーの回動領域内に位置し、それにより、ハンマーが打弦前にストップレールに当接し、停止することによってピアノ音の発生が阻止される。また、通常、消音ピアノには、鍵ごとに押鍵速度を検出するセンサが設けられており、消音演奏モードでは、電子音の音量は、検出された押鍵速度に応じて制御される。
【0004】
前述したようなソフトペダル装置を上述した消音ピアノに用い、消音演奏モードにおいて電子音にソフトペダル効果を付与する場合、例えばソフトペダルの踏込みを検出するセンサを設け、ソフトペダルの踏込みを検出したときに、電子音の音量を低減させることが考えられる。しかし、前述したように、ソフトペダルを踏み込んだ状態では、離鍵状態においてハンマー組立て品とジャックとの間に間隙が生じているためにタッチ重さが小さくなるので、同じ強さで押鍵した場合の押鍵速度が、ソフトペダルの非踏込み時よりも速くなり、それに応じて電子音の音量もより大きくなるように制御される。その結果、ソフトペダルの踏込みに伴って付与される、ソフトペダル効果による電子音の音量の低減分が、押鍵速度に応じた電子音の音量の増大分によって相殺されるため、演奏者が意図するソフトペダル効果が良好に得られなくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ソフトペダルを踏み込んだときの鍵のタッチ重さをソフトペダルの非踏込み時と同じタッチ重さに選択的に維持でき、それにより演奏者が違和感なく演奏することができるアップライト型ピアノのソフトペダル装置を提供することを目的としている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−263152号公報
【特許文献2】特開2003−15631号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、ハンマーを有するハンマー組立て品を押鍵に伴いジャックで突き上げることにより回動させ、ハンマーで弦を打撃することにより発生させるピアノ音にソフトペダル効果を付与するアップライト型ピアノのソフトペダル装置であって、演奏者によって踏み込まれるソフトペダルと、ハンマーに隣接する通常位置と、通常位置よりも弦側に位置し、離鍵状態においてハンマー組立て品を支持するハンマー支持位置とに回動可能に設けられ、ソフトペダルの踏込みに伴い、通常位置からハンマー支持位置に回動し、離鍵状態におけるハンマーと弦との間の距離を狭めることによって、ソフトペダル効果を付与するハンマーレールと、ハンマーレールを、通常位置に選択的に保持するレール保持手段と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
このアップライト型ピアノのソフトペダル装置によれば、演奏者がソフトペダルを踏み込むと、ハンマーレールがハンマー支持位置に回動することによって、離鍵状態におけるハンマーと弦との間の間隔が狭められる。この状態では、押鍵に伴ってソフトペダルの非踏込み時よりも小さな音量のピアノ音が発生することにより、演奏音にソフトペダル効果が付与される。また、ハンマーレールは、レール保持手段によって通常位置に選択的に保持される。その状態では、ソフトペダルを踏み込んでもハンマーレールが通常位置に保持されるため、ソフトペダルの踏込みの有無にかかわらず、離鍵状態におけるハンマーとハンマーレールの間の位置関係は一定に保たれ、その結果、鍵のタッチ重さも一定に保たれる。それにより、ソフトペダルを踏み込んでも、その前後でタッチ重さが変化しないので、演奏者は違和感なく演奏することができる。また、ソフトペダル効果を得ることを優先する場合には、レール保持手段によるハンマーレールの保持を解除することによって、演奏者は、通常のピアノと同様、ソフトペダル効果を得ることができる。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、請求項1に記載のアップライト型ピアノのソフトペダル装置において、アップライト型ピアノは、ハンマーで弦を打撃することによってピアノ音を発生させる通常演奏モードと、ハンマーによる弦の打撃を阻止するとともに、押鍵速度に応じた音量の電子音を発生させる消音演奏モードとの一方に演奏モードを切り替えるように構成され、ソフトペダルの踏込みを検出するペダル踏込み検出手段と、消音演奏モードにおいて、ソフトペダルの踏込みが検出されたときに、電子音の音量を低減させる音量低減手段と、をさらに備え、レール保持手段は、演奏モードが消音演奏モードに設定されているときに、ハンマーレールを通常位置に保持することを特徴とする。
【0010】
このアップライト型ピアノのソフトペダル装置によれば、演奏モードが消音演奏モードのときには、ハンマーによる打弦が阻止されることによって、ピアノ音の発生が阻止されるとともに、押鍵速度に応じた音量の電子音が発生する。また、消音演奏モードにおいては、ハンマーレールがレール保持手段によって通常位置に保持される。このように、消音演奏モード時には、ハンマーレールを自動的に通常位置に保持することにより、ソフトペダルの踏込みの有無にかかわらずタッチ感を一定に保つことによって、演奏者は違和感なく演奏することができる。
【0011】
また、消音演奏モードでは、ペダル踏込み検出手段によってソフトペダルの踏込みが検出されると、それに応じて音量低減手段により電子音の音量が低減される。一方、消音演奏モードでは、ハンマーレールが通常位置に保持されるので、同じ強さで押鍵した場合の押鍵速度が、ソフトペダルの踏込み時と非踏込み時との間で同じになる。その結果、従来と異なり、音量低減手段による音量の低減分が、押鍵速度の増大に伴う音量の増大分で相殺されることが防止される。したがって、ソフトペダルの踏込みに伴って電子音の音量を適切に低減でき、演奏者の意図するソフトペダル効果を良好に得ることができる。以上のように、消音演奏モードにおいては、ソフトペダルの踏込みによるタッチ感への影響を排除しながら、ソフトペダル効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態によるソフトペダル装置を用いたアップライト型の消音ピアノの鍵盤21、ハンマー31およびアクション41などを、離鍵状態において示している。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのピアノの手前側を「前」、奥側を「後」として説明する。
【0013】
図1に示すように、鍵盤21は、ピアノの左右方向に並んだ多数の鍵22(1つのみ図示)によって構成されている。各鍵22は、前後方向(図1の左右方向)に延び、その中央において、筬23に立設されたバランスピン23aを中心として筬23に回動自在に支持されている。筬23は、棚板11に載せられ、これに取り付けられている。
【0014】
ハンマー31は鍵22ごとに設けられており(1つのみ図示)、各ハンマー31は、断面円形の細長い棒状のハンマーシャンク32と、ハンマーシャンク32の上端部に設けられたハンマーヘッド33を有している。ハンマーシャンク32は、アクション41の後述するバット44に立設されており、上下方向に延びている。また、ハンマーヘッド33は、離鍵状態では、後方に張られた弦Sに対向している。
【0015】
アクション41は、鍵盤21の後端部の上方に配置され、鍵22ごとに設けられたウィッペン42、ジャック43およびバット44を有しており(いずれも1つのみ図示)、左右方向に長く延びるセンターレール13に取り付けられている。ウィッペン42およびバット44は、上記のセンターレール13に取り付けられたウィッペンフレンジ45およびバットフレンジ46に、それぞれ回動自在に支持されている。ジャック43は、ウィッペン42に回動自在に取り付けられており、離鍵状態において、バット44の下面に貼り付けられたバットスキン44aに下方から係合している。また、バット44およびこれと一体のハンマー31によってハンマー組立て品10が構成されており、このハンマー組立て品10は、ジャック43によって支持されている。
【0016】
ソフトペダル装置は、ハンマーレール1、ソフトペダル7およびレール保持機構60などを備えている。ハンマーレール1はブラケット12に支持されており、ブラケット12は、棚板11の後端部の左端部(低音側の端部)、中央および右端部(高音側の端部)にそれぞれ設けられている(1つのみ図示)。各ブラケット12は上下方向に延びており、その上端部が、アクションボルトによりフレーム(いずれも図示せず)に固定されるとともに、下端部が、棚板11に載置されたアクションベース(図示せず)に固定されている。また、図3に示すように、ブラケット12は、その中央から前方に延びるレール支持部12aを有しており、このレール支持部12aの上面の前端部には、例えばフェルトで構成された緩衝材12bが貼り付けられている。また、ブラケット12の中央には、左右方向に貫通する孔12cが形成されている。また、ブラケット12の下部には、前述したセンターレール13が固定されている。
【0017】
ハンマーレール1は、扇状の中空の断面を有し、すべてのハンマー31にわたって左右方向に延びるハンマーレール本体2と、ハンマーレール本体2の下面の左端部、中央および右端部にそれぞれ取り付けられたフォーク5を有している(1つのみ図示)。ハンマーレール本体2は、例えばアルミニウム軽合金の押出し成形品によって形成されており、その背面の上部には、長さ方向の全体にわたって、例えばフェルトで構成された緩衝材2aが貼り付けられている。また、図4に示すように、ハンマーレール本体2の左端部には、前方に突出する板状のレール突上げ部2bが設けられており、このレール突上げ部2bには、ソフトペダル7に連結されたレール突上げ棒8(図2参照)が、上下方向にオーバラップした状態で、若干の間隙を存して下方から対向している。
【0018】
以上の構成のハンマーレール1は、フォーク5の挿入部5cが対応するブラケット12の孔12cに挿入されることによって、ブラケット12に回動可能に支持されている。また、ハンマーレール1は、ソフトペダル7が踏み込まれていない状態では、ブラケット12の緩衝材12bの上面に当接した通常位置(図3の二点鎖線位置)において静止しており、前述したハンマー31のハンマーシャンク32の前側に隣接している。
【0019】
また、ソフトペダル7が踏み込まれると、それに伴い、ハンマーレール1は、前述したレール突上げ棒8でレール突上げ部2bを介して突き上げられることによって、弦S側に所定角度、回動したハンマー支持位置(図3の実線位置)に位置している。これに伴い、ハンマー組立て品10もまた、弦S側に所定角度、回動した位置に位置し、離鍵状態におけるハンマー31と弦Sとの間の距離が狭められる。これにより、ハンマー31による弦Sの打弦力およびそれにより発生するピアノ音が弱められることによって、ソフトペダル効果が付与される。また、ハンマー組立て品10が所定角度、回動したことにより、前述したバット44のバットスキン44aとジャック43の上端部との間に間隙が生じる。
【0020】
また、ソフトペダル7には、その踏込みを検出するソフトペダルスイッチ72(ペダル踏込み検出手段)が設けられており、このソフトペダルスイッチ72は、制御装置4に接続されている(図5参照)。またマフラーペダル54には、その踏込みを検出するマフラーペダルスイッチ73が設けられており、このマフラーペダルスイッチ73もまた、制御装置4に接続されている(図5参照)。また、ダンパーペダル(図示せず)には、その踏込みを検出するダンパーペダルスイッチ74が設けられており、このダンパーペダルスイッチ74もまた、制御装置4に接続されている(図5参照)。
【0021】
また、各鍵22の下方には、光センサ式の鍵スイッチ71が取り付けられている。各鍵スイッチ71は、制御装置4に接続されており(図5に1つのみ図示)、対応する鍵22の押鍵速度および電子音を切るべきタイミングを検出する。制御装置4(音量低減手段)は、棚板11の下面に設けられており、例えばマイクロコンピュータなどで構成されている。また、制御装置4は、マフラーペダル54の踏込みが検出されているときには、演奏モードを消音演奏モードに切り替えられているときに、鍵スイッチ71で検出された鍵22の押鍵速度に応じた音量の電子音を発生させる。この電子音は、例えば制御装置4に接続されたヘッドホン9から放音される(図5参照)。
【0022】
図4に示すように、レール保持機構60(レール保持手段)は、低音側のブラケット12の付近に設けられており、駆動ロッド61、突上げ棒駆動部材62、および両者61,62を連結する連結アーム63を有している。駆動ロッド61は、ブラケット12の後方においてアクション41の左右方向の全体にわたって延びており、例えばブラケット12に固定された支持金具(図示せず)に回動自在に支持されている。
【0023】
また、駆動ロッド61のブラケット12に対応する部位には、4つの支持部材61aが固定されており、各支持部材61aは上方に延びている。支持部材61aには、ストップレール52が載せられた状態で固定されている(図2参照)。このストップレール52は、すべてのハンマー31にわたって左右方向に延びており、通常位置(図1の実線位置)と、ハンマーシャンク5の回動範囲に進入した消音位置(図1の二点鎖線位置)との間で進退自在に設けられている。以上のようなストップレール52およびマフラーペダル54などで止音機構51が構成されている。
【0024】
連結アーム63は、前後方向に延びるロッド連結部63aと、その前端部から下方に延びる駆動部材連結部63bとによってL字形に形成されている。ロッド連結部63aの後端部には、ロッド取付け部63cが設けられており、連結アーム63は、このロッド取付け部63cに駆動ロッド61の左端部が係合した状態で、駆動ロッド61にねじ止めされている。また、駆動部材連結部63bの下端部には、長円状の孔63dが形成されている。また、ロッド連結部63aの前後方向の中央には立上がり部63eが設けられており、この立上がり部63eにはスリット62fが形成されている。立上がり部62e内には、スリット62fを介してコントロールワイヤ53が挿入されており、コントロールワイヤ53は、その一端部に設けた頭部53aによって、連結アーム63に対して抜止め状態になっている。また、ブラケット12には、固定部材(図示せず)を介してワイヤサポート65が固定されており、コントロールワイヤ53は、ワイヤサポート65に支持され、連結アーム63とマフラーペダル54を連結している(図2参照)。
【0025】
突上げ棒駆動部材62は、ハンマーレール1の下方に設けられており、左右一対の壁部を有している。各壁部は、前後方向に延びるアーム連結部62aと、その前端部から下方に延びる取付け部62bとによってL字形に形成され、取付け部62bの下端部には、水平に延びるガイド部62cが設けられている。突上げ棒駆動部材62は、取付け部62bとアーム連結部62aの間の角部のすぐ下側において、支持軸64に回動自在に支持されている。この支持軸64は、取付け部材(図示せず)によってブラケット12に固定されている。アーム連結部62aの後端部には、左右方向に延びる連結軸62eが設けられており、この連結軸62eは、連結アーム63の孔63dに挿入されている。ガイド部62cの中央には孔62dが形成されており、この孔62dにレール突上げ棒8が通されている。
【0026】
以上の構成の消音ピアノによれば、通常演奏モードにおいて鍵22が押鍵されると、ウィッペン42が、鍵22で突き上げられることによって、ウィッペン42とともにジャック43が上方に移動し、バット44を突き上げる。これにより、ハンマー31は、バット44とともに弦Sに向かって回動し、その後、ハンマーヘッド33が弦Sを打弦することによって、ピアノ音が発生する。また、通常演奏モードにおいてソフトペダル7が踏み込まれているときには、ハンマーレール1がハンマー支持位置に位置し、ソフトペダル7の非踏込み時よりもピアノ音の音量が低減されることによって、ソフトペダル効果が付与される。
【0027】
また、図6および図7に示すように、マフラーペダル54が踏込み操作されると、ハンマーレール1は、レール保持機構60によって通常位置に保持される。具体的には、マフラーペダル54の踏込みに伴い、連結アーム63が、コントロールワイヤ53を介して駆動され、連結アーム63と一体の駆動ロッド61を中心として図6に示す位置から時計方向に図7に示す位置まで回動する。それに伴い、連結アーム63に連結された突上げ棒駆動部材62が駆動され、支持軸64を中心として反時計方向に回動することによって、ガイド部62cが前方に移動する。それにより、ガイド部62cの孔62dに通されたレール突上げ棒8は、ガイド部62cと一緒にハンマーレール1のレール突上げ部2bよりも前方に移動する。その結果、ソフトペダル7を踏み込んでも、ハンマーレール1がレール突上げ棒8で突き上げられることがなくなるので、ハンマーレール1は通常位置に保持される。
【0028】
また、マフラーペダル54が踏込み操作されると、レール突上げ棒8の前方への移動と同時に、駆動ロッド61と一体のストップレール52が消音位置に移動することによって、演奏モードが消音演奏モードに切り替えられる。この消音演奏モードでは、押鍵に伴って回動するハンマー31が、打弦する直前にストップレール52に当接することによって、ピアノ音の発生が阻止される。また、鍵スイッチ71で検出された押鍵速度に応じた音量の電子音が、制御装置4の制御により、ヘッドホン9から放音される。
【0029】
また、消音演奏モードにおいてソフトペダル7の踏込みが検出されているときには、制御装置4の制御により、電子音の音量が、踏込みが検出されていないときよりも低減されることによって、ソフトペダル効果が付与される。また、消音演奏モードにおいてダンパーペダルの踏込みが検出されているときには、同じく制御装置4の制御により、電子音にダンパーペダル効果が付与される。
【0030】
以上のように、本実施形態によれば、ハンマーレール1は、マフラーペダル54の踏込みに伴い、レール保持機構60によって通常位置に保持される。その状態では、ソフトペダル7の踏込みの有無にかかわらず、離鍵状態におけるハンマー31とハンマーレール1の間の位置関係は一定に保たれ、それにより、鍵22のタッチ重さも一定に保たれる。その結果、ソフトペダル7を踏み込んでも、その前後でタッチ重さが変化しないので、演奏者は違和感なく演奏することができる。
【0031】
また、消音演奏モードでは、ソフトペダル7の踏込みが検出されると、制御装置4の制御により電子音の音量が低減される。一方、ハンマーレール1が通常位置に保持されているので、同じ強さで押鍵した場合の押鍵速度がソフトペダル7の踏込み時と非踏込み時との間で同じになる。その結果、従来と異なり、制御装置4による音量の低減分が、押鍵速度の増大に伴う音量の増大分で相殺されることが防止される。したがって、ソフトペダル7の踏込みに伴って電子音の音量を適切に低減でき、演奏者の意図するソフトペダル効果を良好に得ることができる。以上のように、本実施形態では、消音演奏モードにおいて、ソフトペダル7の踏込みによるタッチ感への影響を排除しながら、ソフトペダル効果を得ることができる。
【0032】
図8は、第2実施形態によるソフトペダル装置を示している。このソフトペダル装置は、前述した第1実施形態と同様、アップライト型の消音ピアノに用いられている。本実施形態は、前述した第1実施形態と比較して、ペダル保持機構の構成のみが異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心として説明する。
【0033】
同図に示すように、本実施形態のソフトペダル装置のペダル保持機構80は、ハンマーレール本体2に取り付けられた被突上げ部材81、スライダ82、および両者81,82の間に設けられたばね83を有している。被突上げ部材81は、ハンマーレール本体2に固定されており、その下面に取り付けられた基部81aと、基部81aの下方に間隔を隔てて対向する被突上げ部81bを有している。また、基部81aには、左右方向に延びる溝81cが形成されている。レール突上げ棒8には、その上面から上方に突出する突部8aが設けられており、この突部8aが基部81aの溝81cに通されるとともに、離鍵状態においては、レール突上げ棒8の上面が被突上げ部81bに当接している。
【0034】
また、スライダ82は、基部81aの上面に左右方向にスライド自在に設けられている。また、スライダ82には孔(図示せず)が形成されており、この孔にレール突上げ棒8の突部8aが通されている。また、基部81aの右端部には、ばね取付け部81dが一体に設けられており、ばね83は、このばね取付け部81dとスライダ82の間に設けられ、スライダ82をばね取付け部81d側に付勢している。また、スライダ82は、連結機構(図示せず)を介してマフラーペダル54に連結されており、マフラーペダル54の踏込みに連動して左方に駆動される。他の構成は、前述した第1実施形態のソフトペダル装置と同様である。
【0035】
以上の構成によれば、通常演奏モードにおいては、スライダ82は、ばね83の付勢力により、図8に示す通常位置に位置しており、レール突上げ棒8の上面が被突上げ部81bに上下方向にオーバラップしている。したがって、ソフトペダル7の踏込みに伴い、ハンマーレール1は、被突上げ部材81の被突上げ部81bを介してレール突上げ棒8で突き上げられることによって、ハンマー支持位置に移動し、それによりソフトペダル効果が付与される。一方、消音演奏モードにおいては、スライダ82が、ばね83の付勢力に抗して図9に示す非突上げ位置にスライドする。これに伴い、レール突上げ棒8も、溝81cに沿ってスライダ82と一緒に左方に移動し、その上面が被突上げ部81bから外れる。その結果、ソフトペダル7が踏み込まれても、被突上げ部材81はハンマー突上げ棒8によって突き上げられることがなく、ハンマーレール1は通常位置に保持される。以上のように、本実施形態においても、消音演奏モードにおいて、ハンマーレール1が通常位置に保持されるので、前述した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】
図8は、第3実施形態によるソフトペダル装置を示している。このソフトペダル装置は、前述した第1実施形態と同様、アップライト型の消音ピアノに用いられている。本実施形態は、前述した第1実施形態と比較して、ペダル保持機構の構成のみが異なっている。以下、第1実施形態との相違点を中心として説明する。
【0037】
同図に示すように、本実施形態のソフトペダル装置のペダル保持機構80は、ハンマーレール本体2に取り付けられた被突上げ部材81、スライダ82、および両者81,82の間に設けられたばね83を有している。被突上げ部材81は、ハンマーレール本体2に固定されており、その下面に取り付けられた基部81aと、基部81aの下方に間隔を隔てて対向する被突上げ部81bを有している。また、基部81aには、左右方向に延びる溝81cが形成されている。レール突上げ棒8には、その上面から上方に突出する突部8aが設けられており、この突部8aが基部81aの溝81cに通されるとともに、離鍵状態においては、レール突上げ棒8の上面が被突上げ部81bに当接している。
【0038】
また、スライダ82は、基部81aの上面に左右方向にスライド自在に設けられている。また、スライダ82には孔(図示せず)が形成されており、この孔にレール突上げ棒8の突部8aが通されている。また、基部81aの右端部には、ばね取付け部81dが一体に設けられており、ばね83は、このばね取付け部81dとスライダ82の間に設けられ、スライダ82をばね取付け部81d側に付勢している。また、スライダ82は、連結機構(図示せず)を介してマフラーペダル54に連結されており、マフラーペダル54の踏込みに連動して左方に駆動される。他の構成は、前述した第1実施形態のソフトペダル装置と同様である。
【0039】
以上の構成によれば、通常演奏モードにおいては、スライダ82は、ばね83の付勢力により、図8に示す通常位置に位置しており、レール突上げ棒8の上面が被突上げ部81bに上下方向にオーバラップしている。したがって、ソフトペダル7の踏込みに伴い、ハンマーレール1は、被突上げ部材81の被突上げ部81bを介してレール突上げ棒8で突き上げられることによって、ハンマー支持位置に移動し、それによりソフトペダル効果が付与される。一方、消音演奏モードにおいては、スライダ82が、ばね83の付勢力に抗して図9に示す非突上げ位置にスライドする。これに伴い、レール突上げ棒8も、溝81cに沿ってスライダ82と一緒に左方に移動し、その上面が被突上げ部81bから外れる。その結果、ソフトペダル7が踏み込まれても、被突上げ部材81はハンマー突上げ棒8によって突き上げられることがなく、ハンマーレール1は通常位置に保持される。以上のように、本実施形態においても、消音演奏モードにおいて、ハンマーレール1が通常位置に保持されるので、前述した第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0040】
図10は、第3実施形態によるソフトペダル装置を示している。このソフトペダル装置は、前述した第1および第2実施形態と同様、アップライト型の消音ピアノに用いられている。本実施形態は、前述した第1および第2実施形態と比較して、ペダル保持機構の構成のみが異なっている。以下、第1および第2実施形態との相違点を中心として説明する。
【0041】
同図に示すように、本実施形態のレール保持機構90は、ハンマーレール本体2の下面に設けられたレール突上げ部92を有しており、このレール突上げ部92は、ハンマーレール本体2の下面にねじ止めされた基部92aと、レール突上げ棒8を取り付けた被突上げ部92bを有している。基部92aの前部には下方に延びる連結部92cが、被突上げ部92bの後端部には上方に延びる連結部92dが、それぞれ設けられており、両者92c,92dは、ピン92eによって互いに回動自在に連結されている。また、レール突上げ棒8の上端部には拡径部8bが設けられており、レール突上げ棒8の拡径部8bよりも上側の部分が、被突上げ部92bに形成された孔92fに通され、拡径部8bに突上げ部92bが載せられている。
【0042】
また、被突上げ部92bの前端部の上方には、ストッパ93が設けられている。このストッパ93は、前後方向に移動自在に設けられ、マフラーペダル54に連結機構(図示せず)を介して連結されており、マフラーペダル54の踏込みに連動して前方に駆動されるようになっている。他の構成は前述した第1および第2実施形態のソフトペダル装置と同様である。
【0043】
以上の構成によれば、通常演奏モードにおいては、ストッパ93は、被突上げ部92bと上下方向にオーバラップする通常位置(図10の実線位置)に位置しており、それにより、ソフトペダル7の踏込みに伴い、レール突上げ棒8によって被突上げ部92bが突き上げられたときに、その前端部がストッパ93に当接する。それにより、図11に示すように、被突上げ部92bがその前端部を中心として回動することによって、ハンマーレール1がハンマー支持位置に移動する。一方、消音演奏モードにおいては、ストッパ93が図10の二点鎖線位置に移動し、被突上げ部92bから前方に外れる。その結果、図11に示すように、ソフトペダル7が踏み込まれても、被突上げ部92bはストッパ93に当接せず、ピン92eを中心として空回りするので、ハンマーレール1は通常位置に保持される。以上のように、本実施形態においても、消音演奏モードにおいて、ハンマーレール1が通常位置に保持されるので、前述した第1および第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0044】
なお、本発明は、上述した第1〜第3実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、各実施形態のレール保持機構は、マフラーペダル54の踏込みに連動してハンマーレール1を通常位置に保持するものであるが、演奏モードを切り替えるための切替えレバーなどによる消音演奏モードへの切替え操作に連動して、ハンマーレール1を通常位置に保持するようにしてもよい。
【0045】
また、各実施形態は、本発明を消音ピアノに適用した例であるが、本発明を通常のアコースティックなアップライトピアノに適用してもよい。その場合、例えば、マフラーペダルの踏込みや切替えレバーの操作に連動してレール保持機構を作動させることにより、ハンマーレールを通常位置に保持するようにしてもよい。これにより、ソフトペダルを踏み込んでもソフトペダル効果を得ることはできないものの、良好なタッチ感を得ることができる。一方、ソフトペダル効果を優先させる場合には、マフラーペダルなどを操作することによりハンマーレールの保持を解除することによって、通常のピアノと同様にソフトペダル効果を得ることができる。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態によるソフトペダル装置を用いたアップライト型の消音ピアノを、離鍵状態において示す側面図である。
【図2】ハンマーレールおよびストッパと、これらに連結されたソフトペダルおよびマフラーペダルなどを示す図である。
【図3】図1のハンマー組立て品およびハンマーレールを、ハンマーレールが所定角度、回動した状態において示す側面図である。
【図4】ソフトペダル装置のレール保持機構を示す斜視図である。
【図5】ソフトペダル装置の構成を示すブロック図である。
【図6】ハンマーレールおよびレール保持機構を通常演奏モードにおいて示す側面図である。
【図7】ハンマーレールおよびレール保持機構を消音演奏モードにおいて示す側面図である。
【図8】本発明の第2実施形態によるソフトペダル装置のレール保持機構を、通常演奏モードにおいて示す斜視図である。
【図9】図10のレール保持機構を消音演奏モードにおいて示す斜視図である。
【図10】本発明の第3実施形態によるソフトペダル装置のレール保持機構を示す側面図である。
【図11】図10のレール保持機構を示す側面図であり、通常演奏モードにおいてソフトペダルが踏み込まれた状態を示している。
【図12】図10のレール保持機構を示す側面図であり、消音演奏モードにおいてソフトペダルが踏み込まれた状態を示している。
【符号の説明】
【0047】
1 ハンマーレール
4 制御装置(音量低減手段)
7 ソフトペダル
10 ハンマー組立て品
22 鍵
31 ハンマー
43 ジャック
60 レール保持機構(レール保持手段)
72 ソフトペダルスイッチ(ペダル踏込み検出手段)
80 レール保持機構(レール保持手段)
90 レール保持機構(レール保持手段)
S 弦



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハンマーを有するハンマー組立て品を押鍵に伴いジャックで突き上げることにより回動させ、前記ハンマーで弦を打撃することにより発生させるピアノ音にソフトペダル効果を付与するアップライト型ピアノのソフトペダル装置であって、
演奏者によって踏み込まれるソフトペダルと、
前記ハンマーに隣接する通常位置と、当該通常位置よりも前記弦側に位置し、離鍵状態において前記ハンマー組立て品を支持するハンマー支持位置とに回動可能に設けられ、前記ソフトペダルの踏込みに伴い、前記通常位置から前記ハンマー支持位置に回動し、離鍵状態における前記ハンマーと前記弦との間の距離を狭めることによって、ソフトペダル効果を付与するハンマーレールと、
前記ハンマーレールを、前記通常位置に選択的に保持するレール保持手段と、
を備えていることを特徴とするアップライト型ピアノのソフトペダル装置。
【請求項2】
前記アップライト型ピアノは、前記ハンマーで前記弦を打撃することによってピアノ音を発生させる通常演奏モードと、前記ハンマーによる前記弦の打撃を阻止するとともに、押鍵速度に応じた音量の電子音を発生させる消音演奏モードとの一方に演奏モードを切り替えるように構成され、
前記ソフトペダルの踏込みを検出するペダル踏込み検出手段と、
前記消音演奏モードにおいて、前記ソフトペダルの踏込みが検出されたときに、前記電子音の音量を低減させる音量低減手段と、をさらに備え、
前記レール保持手段は、演奏モードが前記消音演奏モードに設定されているときに、前記ハンマーレールを前記通常位置に保持することを特徴とする請求項1に記載のアップライト型ピアノのソフトペダル装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−293098(P2007−293098A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122023(P2006−122023)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】