説明

アディポネクチン分泌促進剤、並びに該アディポネクチン分泌促進剤を含有する抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤、機能性食品及び飼料添加剤

【課題】アディポネクチンの分泌を誘導できるアディポネクチン分泌促進剤、並びに該アディポネクチン分泌促進剤を含有する抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤、機能性食品及び飼料添加剤を提供する。
【解決手段】シメジから抽出された抽出物を含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アディポネクチン分泌促進剤、並びに該アディポネクチン分泌促進剤を含有する抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤、機能性食品及び飼料添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活をはじめとする生活環境の変化や高齢化に伴い、虚血性心疾患、脳血管障害、慢性閉塞性動脈硬化症等の動脈硬化性疾患が急増している。動脈硬化性疾患は、遺伝的背景に糖尿病、高脂血症、高血圧症、喫煙、感染等の動脈硬化危険因子が集積することにより惹起されるといわれている。
【0003】
そして従来より、かかる動脈硬化を抑制・改善する抗動脈硬化剤の開発が進められている。例えば、米ヌカに含まれるトリテルペンアルコールや各種植物ステロールのフェルラ酸エステルの総称であるγ-オリザノールは、血中脂質を低下させることにより、抗動脈硬化作用を呈することが知られている(特許文献1)。尚、γ-オリザノール及びγ-オリザノールに含まれるシクロアルテノールフェルラ酸エステルには、抗酸化作用(特許文献2)、脳機能改善作用(特許文献3)、及び自律神経調整作用(特許文献4)があることが知られている。また、抗動脈硬化作用を有する植物由来成分として、グルタチオンS−トランスフェラーゼを誘導することにより抗動脈硬化を呈するセコイリドイド配糖体(特許文献5)、抗肥満作用を呈することにより抗動脈硬化作用を奏することが予測されるユーカリ属植物の抽出物(特許文献6)等が知られている。
【0004】
更に近年、脂肪細胞、特に内臓脂肪と動脈硬化性疾患との関連が明らかになってきている。脂肪組織は重量で身体の10%以上を占める巨大な組織であり、中性脂肪としてエネルギーを貯蔵するのみならず、アディポサイトカイン(脂肪組織由来生理活性物質)を分泌することにより、生体ホメオスタシスの維持に積極的に参与している。
【0005】
そして、アディポサイトカインの中には、脂肪細胞内に脂肪を蓄積すると共に、その分泌が亢進又は低下することにより、脂肪蓄積に伴う合併症発症に関与する可能性があるものも見出され、脂肪代謝、内分泌異常ひいては動脈硬化の発症に関与していることが明らかになっている。例えば、アディポサイトカインの1種であるアディポネクチンは、血管平滑筋細胞の増殖抑制作用、血管内皮細胞と単球の接着阻害作用、マクロファージの貪食能の低下作用などにより動脈硬化を抑制することが知られている(非特許文献1〜3)。また、冠動脈疾患患者において、血中アディポネクチン濃度が低下していることが明らかになっており、これらの知見によれば、肥満者や内臓脂肪蓄積者でアディポネクチンの分泌が低下することが、動脈硬化性疾患の発症基盤となっている可能性が示唆されている。このようなアディポネクチンの利用に関しては、例えば、アディポネクチンを含有する肝繊維化抑制剤(特許文献7)が知られている。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−248611号公報
【特許文献2】特開平8−3015号公報
【特許文献3】特開昭62−277326号公報
【特許文献4】特開昭61-106512号公報
【特許文献5】特開2002−153238号公報
【特許文献6】特開2001−270833号公報
【特許文献7】特開2002−363094号公報
【非特許文献1】「Circulation.」 102;1296−1301(2000)
【非特許文献2】「Circulation.」 103;1057−1063(2001)
【非特許文献3】「Blood.」 96;1723−1732(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、アディポネクチンについては、上記のように、アディポネクチンを含有する肝繊維化抑制剤(特許文献7)が知られているが、これは抗動脈硬化作用等の循環器系疾患に関するものではなく、また、抗動脈硬化作用等の循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病への言及はない。そして、これまでにアディポネクチンを誘導することにより抗動脈硬化作用等を呈する物質に関する知見は得られていないのが実情である。また、抗動脈硬化作用等の循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病においては、薬物療法も重要であるが、同時に運動療法及び食生活の改善などの生活習慣の改善が不可欠である。そこで、最近は医食同源の考えの下、健康によい食品を摂取することにより、かかる疾患の予防・改善を図ることが行われており、このような観点から、アディポネクチン分泌に影響を与えると共に、食品等として摂取可能な成分の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、アディポネクチンの分泌を誘導することができるアディポネクチン分泌促進剤、並びに該アディポネクチン分泌促進剤を含有する抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤、機能性食品及び飼料添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、動脈硬化症の解決策として、脂肪細胞からより多くのアディポネクチンの分泌を促進することができる物質が抗動脈硬化剤になり得ると考えた。その結果、特定の植物から抽出された成分がアディポネクチンの分泌を誘導することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、以下に示す通りである。
(1)(A)米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの少なくとも1種から抽出された抽出物並びに/又は(B)米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの少なくとも1種若しくはこれらの抽出物の微生物変換体を含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
(2)ステロール又はその誘導体、レゾルシノール誘導体、及びトリテルペン又はその誘導体のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
(3)上記トリテルペン又はその誘導体は、ルパン型トリテルペン又はその誘導体、ククルビタン型トリテルペン又はその誘導体、及びシクロアルタン型トリテルペン又はその誘導体のうちの少なくとも1種である上記(2)記載のアディポネクチン分泌促進剤。
(4)上記シクロアルタン型トリテルペン又はその誘導体は、シクロアルテノール及び/若しくは(24S)−24,25−ジヒドロキシシクロアルタノール、又はその誘導体である上記(3)記載のアディポネクチン分泌促進剤。
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする抗動脈硬化剤。
(6)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする抗肥満剤。
(7)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする抗糖尿病剤。
(8)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする食品添加剤。
(9)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする機能性食品。
(10)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする飼料添加剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤は、脂肪細胞からより多くのアディポネクチンの分泌を促進することができる。よって、アディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる各種疾患、例えば、動脈硬化等の各種循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病、あるいは肥満の予防、改善を図ることができる。
本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤及び抗糖尿病剤によれば、脂肪細胞からのアディポネクチンの分泌を促進することにより、これらの疾患の予防、改善を図ることができる。
本発明の食品添加剤及び本発明の機能性食品によれば、食品の摂取を通じて日常的に本発明のアディポネクチン分泌促進剤を摂取できることから、日常の食生活を通じてアディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる動脈硬化等の各種循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病、あるいは肥満の予防、改善を図ることができる。更に、本発明の飼料添加剤によれば、動物においても動脈硬化等の各種循環器系疾患や肥満の予防、改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下に詳細に説明する。
本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、(A)米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃(Alpinia Zerumbet cv.Variegata、別名:アルピニア)のうちの1種又は2種以上である植物原料から抽出された抽出物並びに/又は(B)米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの1種又は2種以上若しくはこれらの抽出物の微生物変換体を含有する。
【0013】
上記植物原料のうち、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃については、その使用部位に限定はなく、根、茎、葉、花、果実、樹皮等の種々の部位を使用することができる。例えば、月桃の場合は根を用いることが好ましく、シラカバであれば外樹皮を用いるのが好ましい。更に、上記各植物原料はそのまま使用してもよく、あるいは、必要に応じて適度に乾燥させてから用いてもよい。また、抽出の際は、抽出効率を向上させるために、上記植物原料の全体若しくは一部又はその乾燥物を適度に切断若しくは粉砕することが好ましい。
【0014】
上記抽出の方法、条件については特に限定はなく、必要に応じて種々の抽出方法、抽出条件とすることができる。例えば、溶媒抽出の場合、抽出溶媒としては、水、並びに1価アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール等)、多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール等)、酢酸エチル等の酢酸エステル、アセトン等の親水性有機溶媒が挙げられる。尚、本明細書中の「水」には、特段の記載がない限り、加熱した水(通常30〜100℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50〜90℃、特に好ましくは温度40〜70℃の温水又は70℃を超えて100℃以下の熱水)も含む。また、抽出溶媒としては、上記親水性有機溶媒と水との混合溶媒でもよい。かかる混合溶媒として例えば、水/1価アルコール(エタノール及びメタノール等)、又は水/多価アルコール(グリセリン、1,3−ブチレングリコール及びプロピレングリコール等)の混合溶媒等が挙げられる。もっとも、本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、生体に対して用いる素材であることから、生体に刺激を及ぼさないような溶媒を用いることが好ましい。かかる溶媒としては、水、エタノール、及び水/エタノールの混合溶媒が挙げられる。また、原料として月桃、特に月桃の根を用いる場合、抽出溶媒としては、酢酸エステルを用いるのが好ましい。更に、上記抽出溶媒の量についても特に限定はないが、通常は、植物原料の1〜1000倍量(重量比)、好ましくは1〜100倍量(重量比、更に好ましくは5〜50倍量(重量比)、より好ましくは5〜20倍量(重量比)である。
【0015】
抽出方法及び抽出条件については、アディポネクチン分泌を促進する成分を十分に抽出でき、抽出物の品質を維持できる範囲で種々の条件とすることができる。例えば、抽出は、非振盪下で行ってもよく、振盪下で行ってもよい。また、抽出温度としては、常温抽出の場合、通常、0℃以上、好ましくは10℃〜30℃、更に好ましくは20〜30℃とすることができる。また、加熱抽出の場合は30℃を超え150℃以下、好ましくは60〜130℃、更に好ましくは80〜100℃とすることができる。更に、抽出時間は通常10分以上、好ましくは、非振盪下又は常温抽出の場合、1時間〜10日間、振盪下又は加熱抽出の場合、30分〜24時間、更に好ましくは、振盪下又は常温抽出の場合、5時間〜7日間、振盪下又は加熱抽出の場合、1〜12時間、より好ましくは、振盪下又は常温抽出の場合、10時間〜3日間、振盪下又は加熱抽出の場合、3〜10時間である。尚、抽出は、同一原料について1回のみ行ってもよいが、2回以上繰り返して行ってもよい。
【0016】
また、抽出方法としては、例えば、常温又は加熱抽出等が挙げられる。より具体的には、常温ホモジナイズ抽出、還流抽出、超臨界流体抽出等により抽出することができる。更に、一度抽出を行って得られた抽出物について、必要に応じて、再度水、エタノール、酢酸エチル、又は水/エタノール等の溶媒で抽出を行ってもよい。この場合の再度の抽出もまた、前の抽出と同様に行ってもよく、あるいは、異なる抽出方法、抽出条件で行ってもよい。また、上記抽出により得られた抽出物について、必要に応じてろ過を行って莢雑物を除いたり、濃縮することにより、有効成分濃度を高めることができる。この濃縮の方法については特に限定はなく、加温によって濃縮する他、低温又は加温下、減圧により濃縮することができる。尚、この濃縮は、抽出物が乾固するまで行ってもよい。また、濃縮する場合、抽出物自体ではなく、抽出物をろ過して得られたろ液を濃縮してもよい。
【0017】
また、本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、(B)米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの1種又は2種以上又はこれらの抽出物の微生物変換体を含有するものでもよい。ここで「微生物変換体」とは、米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、及び月桃のうちの1種又は2種以上又はこれらの抽出物を原料に、これに微生物を作用させて生化学的な反応を行わせることにより得られる物をいう。例えば、米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの1種又は2種以上又はこれらの抽出物に微生物を加えて特定条件で発酵培養を行うことにより得られる発酵物、又はこのような発酵物から抽出することにより得られた発酵抽出物等が挙げられる。尚、「米糠、羅漢果、シメジ、キク、ライ麦、シラカバ及び月桃のうちの1種又は2種以上若しくはこれらの抽出物」の詳細は、上述の通りである。
【0018】
本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤は、ステロール又はその誘導体、レゾルシノール誘導体、及びトリテルペン又はその誘導体のうちの1種又は2種以上を含有する。
【0019】
上記ステロールは、ステロイドアルコール、ステロイド(シクロペンタノペルヒドロフェナントレン骨格、並びに生合成的にこれから由来した化合物群の総称)の側鎖にヒドロキシル基を有する化合物の総称である。通常は3位にヒドロキシル基を有する。また、上記ステロールの誘導体としては、フェルラ酸エステル等のエステル等が挙げられる。上記ステロールは、例えば、米糠、麦角、ライ麦(特に胚芽)、小麦(特に胚芽)、トウモロコシ(特に胚芽)、アマニ油、及びナタネ油等を抽出することにより得ることができる。上記ステロールとしてより具体的には、例えば、エルゴステロール(Ergosterol)及びスチグマスタノール(Stigmastanol)、並びにこれらのフェルラ酸エステル等のエステル等が挙げられる。上記エルゴステロールは、例えば、シメジを抽出することにより得ることができ、スチグマスタノール及びそのエステル(フェルラ酸エステル等)は、例えば、米糠を抽出することにより得ることができる。尚、上記エルゴステロールは、麦角、酵母及びキノコ等を含む菌類全ての主ステロールとして存在していることから、これらの菌類から抽出等により得ることもできる。
【0020】
上記レゾルシノール誘導体は、レゾルシノール(3−ヒドロキシフェノール)の誘導体である。上記レゾルシノール誘導体は、例えば、ライ麦、小麦及びイネ等のイネ科植物、ボタン(ボタン皮)、イチョウ、カシュウ等を抽出等することにより得ることができる。上記レゾルシノール誘導体は、その他にウルシ科植物やヤマモガシ科植物にも含まれているので、これらの植物から抽出等することにより得ることもできる。上記レゾルシノール誘導体としてより具体的には、例えば、5−n−ノナデシルレゾルシノール等が挙げられる。上記5−n−ノナデシルレゾルシノールは、例えば、ライ麦を抽出することにより得ることができる。尚、上記レゾルシノール誘導体のフェノール性水酸基はメチルエーテル等のようにエーテル化されていてもよい。
【0021】
上記トリテルペンは、スクアランより生合成される脂肪族多環状化合物であり、通常は3位にヒドロキシル基等の酸素含有官能基を有するが、ホパン系トリテルペンの一部のように、3位にヒドロキシル基等の酸素含有官能基を有しないものも上記トリテルペンに含まれる。また、上記トリテルペンの誘導体としては、例えば、上記トリテルペンのフェルラ酸エステル等のエステルの他、上記トリテルペンの配糖体等が挙げられる。上記トリテルペン又はその誘導体として具体的には、例えば、ルパン型トリテルペン又はその誘導体、ククルビタン型トリテルペン又はその誘導体、及びシクロアルタン型トリテルペン又はその誘導体のうちの1種又は2種以上が挙げられる。この中で、シクロアルタン型トリテルペン又はその誘導体は、脂肪蓄積量が比較的少ない場合でも、アディポネクチンをより多く分泌するので好ましい。
【0022】
上記ルパン型トリテルペン又はその誘導体としてより具体的には、例えば、ルペオール(lupeol)、ベツリン(betulin)及び該ベツリン誘導体である4−Hydroxy−3,4−seco−lup−20(29)−ene−3,28−dioic
acid等が挙げられる。また、上記ククルビタン型トリテルペン又はその誘導体としてより具体的には、例えば、羅漢果の甘味配糖体であるモグロシドV(mogroside V)やククルビタシンE(cucurbitacin E)等が挙げられる。更に、上記シクロアルタン型トリテルペン又はその誘導体としてより具体的には、例えば、シクロアルテノール及びそのエステル(フェルラ酸エステル等)並びに24,25−ジヒドロキシシクロアルタノール(特には(24S)−24,25−ジヒドロキシシクロアルタノール)及びそのエステル等が挙げられる。また、その他に、ショウマに含まれるシミゲノール(cimigenol)、シミゴール(cimigol)、acetyl shengmanol xyloside及びcimicifugoside、オウギに含まれるastragaloside I、II、III及びIV、並びにトラガントに含まれるtragoside I及びII等が挙げられる。
【0023】
上記ルパン型トリテルペン又はその誘導体は、例えば、ノボリフジ、シラカバ(特に樹皮)等から抽出することにより得ることができる。また、上記ククルビタン型トリテルペンは、ウリ科植物の特徴的に分布する成分であり、例えば、羅漢果、並びにブリオニア及びカラスウリ等のウリ科植物等から抽出することにより得ることができる。更に、上記シクロアルタン型トリテルペンは、例えば、米糠、ショウマ、オウギ、及びトラガントの他、イグサ(Juncus effusus)等のイグサ科植物及びキク科植物(例えば、食用菊花弁等)等から抽出することにより得ることができる。特に、シクロアルテノール及びそのエステル(フェルラ酸エステル等)及び(24S)−24,25−ジヒドロキシシクロアルタノールは、米糠、イグサ又は食用菊花弁から抽出することにより得ることができるので好ましい。
【0024】
上記ステロール又はその誘導体、レゾルシノール誘導体、及びトリテルペン又はその誘導体を得る方法については特に限定はない。通常は天然物を原料に抽出することにより得られるが、それ以外にも完全に人工合成によって得てもよく、あるいは、天然物を抽出して得られた成分を出発化合物として、人工的に化学合成を行う半合成によって得てもよい。例えば、上記トリテルペン又はその誘導体に含まれるシクロアルテノール、シクロアルテノールのフェルラ酸エステル、及び(24S)−24,25−ジヒドロキシシクロアルタノールは、図2に示すように、米糠等から抽出することにより得られるγ-オリザノールを原料として合成することができる。また、シクロアルテノールのフェルラ酸エステルは、4−プロピオニルフェルラートとシクロアルテノールを塩化2−クロロ−1,3−ジメチルイミダゾロニウム存在下で反応させることによって得ることもできる。また、シクロアルテノールは植物油に広く存在するので、それらの不けん化脂質からも得ることができる。更には、天然物を抽出して得られた成分を出発化合物として、これに微生物を作用させることにより生化学的に反応を行って得てもよい。勿論、人工的な化学合成反応と微生物による生化学的反応とをハイブリッドすることにより得てもよい。例えば、上記ベツリン誘導体である4−Hydroxy−3,4−seco−lup−20(29)−ene−3,28−dioic acidは、シラカバ外樹皮等から抽出等することにより得られたベツリンを原料に、これに微生物(例えば、Chaetomium longirostre IFO9873等)を作用させて生化学的に反応させることにより得ることができる。
【0025】
上記トリテルペン又はその誘導体に含まれるシクロアルテノール、シクロアルテノールのフェルラ酸エステル、及び(24S)−24,25−ジヒドロキシシクロアルタノールの調製方法の詳細を以下に示す(図2参照)。
市販品(和光純薬株式会社製)のγ一オリザノール(100g、約40%のシクロアルテノールのフェルラ酸エステル及び約40%の24−メチレンシクロアルタノールのフェルラ酸エステルを含む)を4倍容量の酢酸エチル−エタノール(3:1、v/v)で2回再結晶させた。得られた結晶部を6〜10倍量の酢酸エチルで4回再結晶を繰り返し、16gのシクロアルテノールのフェルラ酸エステルを得た。この結晶部を更にアセトン−石油エーテルから再結晶させることにより、純粋なシクロアルテノールのフェルラ酸エステルを板状結晶として得た。
【0026】
シクロアルテノールのフェルラ酸エステル(1.60g)に、メタノール−水(9:1、v/v)に溶解させた10Mの水酸化カリウム溶液50mlを加え、4時間加熱還流することにより加水分解を行った。反応物を減圧濃縮し、残燈を50mlのクロロホルムに溶解し、水、続いて飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄を行った。有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、減圧乾固することにより、1.06gのシクロアルテノールを得た。
【0027】
シクロアルテノールを無水酢酸−ピリジンによりアセチル化を行い、シクロアルテノールアセタートを得た。このアセタート(200mg)を塩化メチレン(100ml)に溶解し、炭酸水素ナトリウム(80mg)及びm−クロロ過安息香酸(160mg)を加え、室温で一晩攪拌を行った。反応溶液は1Mの水酸化ナトリウム水溶液、続いて水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧留去後、残渣は順相カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分別を行い、(24S)−24−エポキシシクロアルタノールアセタート(34mg)とそれの(24R)体(62mg)を得た。そして、得られた(24S)−24−エポキシシクロアルタノールアセタートを1,2−ジメトキシエタン(4ml)に溶解し、これに過塩素酸(3滴)を水(25ml)に加えて調整した過塩素酸水溶液を1ml加え、室温で一晩攪拌を行った。反応溶液に2Mの炭酸ナトリウム水溶液を加えた後、ジエチルエーテルで抽出を行い、溶媒留去後、(24S)−24、25−ジヒドロキシシクロアルタノールアセタート(22mg)を得た。そして、得られた(24S)−24、25−ジヒドロキシシクロアルタノールアセタートに2M水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加え、室温で一晩攪拌することにより加水分解し、(24S)−24、25−ジヒドロキシシクロアルタノールを得た。
【0028】
また、上記ステロール又はその誘導体、レゾルシノール誘導体、及びトリテルペン又はその誘導体を天然物から抽出することにより得る場合、通常は、植物を原料として得る。この場合の植物の種類については特に限定はない。通常は、上述の植物を抽出することにより得ることができるが、好ましくは、米糠、羅漢果、シメジ、キク、及びライ麦のうちの1種又は2種以上をすることにより得ることができる。
【0029】
脂肪細胞のライフサイクルは、(1)脂肪前駆細胞、(2)成熟脂肪細胞、(3)肥大脂肪細胞の大きく3つに分類できる。そして、(1)脂肪前駆細胞から(2)成熟脂肪細胞への分化、(2)成熟脂肪細胞から(3)肥大脂肪細胞への肥大、及び(3)肥大脂肪細胞から(2)成熟脂肪細胞への分裂による小型化には、いくつかの転写因子が関与している。最も重要な転写因子として、PPARγ(ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ)が挙げられる。このPPARγの発現が、肥大してアディポネクチンの分泌が低下した脂肪細胞の分裂による正常化に関与すると考えられる。また、(1)前駆脂肪細胞は、(2)成熟脂肪細胞へ分化すると細胞内に脂肪滴を蓄積することが可能になり、正常な(2)成熟脂肪細胞はアディポネクチンを分泌すると考えられる。即ち、脂肪細胞の脂肪蓄積とアディポネクチン分泌には、PPARγの活性化が予測できる。
【0030】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、脂肪細胞の脂肪蓄積量から予測されるよりも多量のアディポネクチンの分泌を促進することができる。このことから、本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、PPARγの活性化を促進することにより、アディポネクチンの分泌を促進するものと考えられる。勿論、これは推測であり、本願発明を限定する趣旨はない。そして、アディポネクチンは、単球の血管内皮細胞への接着の抑制、マクロファージの脂質蓄積、泡沫化の抑制、平滑筋細胞の増殖、遊走の抑制等の作用を示すことから、本発明のアディポネクチン分泌促進剤によりアディポネクチン分泌量を増加させることにより、従来の植物抽出物等とは異なる作用機序により、抗動脈硬化作用を奏すると考えられる。よって、本発明のアディポネクチン分泌促進剤は、抗動脈硬化剤として好適に利用することができる。また、アディポネクチンは、脂肪細胞のインスリン感受性を高め、しかも、脂肪燃焼を促進する作用を有することから、アディポネクチンの分泌量を増加させることにより、抗糖尿病作用及び抗肥満作用をも奏すると考えられる。よって、本発明のアディポネクチンを分泌促進剤は、抗肥満剤及び抗糖尿病剤としても好適に利用することができる。
【0031】
本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤及び抗糖尿病剤は、本発明のアディポネクチン分泌促進剤又は本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤を含有する。本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤及び抗糖尿病剤の投与形態については特に限定はない。通常は経口投与により投与されるが、その他にも、注射等の非経口投与又は外部投与等が挙げられる。
【0032】
本発明の食品添加剤、機能性食品及び飼料添加剤は、本発明のアディポネクチン分泌促進剤又は本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤を含有する。尚、本発明の「食品」は、飲料も含む概念である。勿論、本発明の「食品」は、飲料以外の食品に限定してもよい。本発明の機能性食品としては、固形食品、クリーム状及びジャム状の半流動食品、ゲル状食品、飲料等の他、これらに添加する食品添加物、食品素材等が挙げられる。
【0033】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤、並びに本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤及び飼料添加剤の形態について特に限定はない。本発明のアディポネクチン分泌促進剤等の形態としては、例えば、液状(必要に応じて脱色等の後処理をした液も含む。)でもよいし、液状物を濃縮した濃縮液でもよい。また、その他にも、噴霧式乾燥や凍結乾燥等の公知の方法により溶媒を除去した固形物や粉末化した粉末物でもよい。その他、液状、粉末品、造粒等により得られる造粒品、打錠成形等により得られる錠剤、及びマイクロカプセル等が挙げられる。
【0034】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤、並びに本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤、抗糖尿病剤、食品添加剤及び飼料添加剤は、アディポネクチン分泌促進を阻害しない限り、その他の物質を含んでいてもよい。例えば、従来より薬剤等に添加されている公知の物質を添加することができる。具体的には、例えば、界面活性剤、油剤、アルコール、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、色素、香料等の1種又は2種以上を必要に応じて適宜配合してもよい。例えば、本発明のアディポネクチン分泌促進剤等が粉末品、造粒品の場合、製造における計量を容易にするために、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、トウモロコシ澱粉及びジャガイモ澱粉等の増量剤等を添加することができる。また、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びポリエチレングリコール等の滑沢剤、デンプン、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びポリビニルピロリジン等の結合剤、デンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、及びグリコール酸デンプンナトリウム等の崩壊剤、発泡剤、色素、甘味料、例えばレシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸塩等の湿潤剤、及び一般に非毒性で医薬的処方に用いられる薬学的に非活性な物質を含んでもよい。その他の薬効成分を含んでいてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
(1)植物由来成分の調製
植物原料として、米糠、羅漢果、ブナシメジ、キク、ライ麦、シラカバ(外皮)及び月桃(根)を使用した。該植物原料から適宜の抽出及び精製を繰り返すことにより、これらの植物に含まれる成分として、90種類の植物由来成分を単離した。一例として、羅漢果からのモグロシドVの単離及びブナシメジからのエルゴステロールの単離のスキームを図3及び図4に示す。尚、4−Hydroxy−3,4−seco−lup−20(29)−ene−3,28−dioic acidは、シラカバ外樹皮等から抽出等することにより得られたベツリンを原料に、これに微生物(例えば、Chaetomium longirostre IFO9873等)を作用させることにより得た。
【0036】
(2)前駆脂肪細胞分化誘導物質のスクリーニング及びアディポネクチンの定量
脂肪前駆細胞から脂肪細胞の分化誘導活性3T3−L1細胞(大日本製薬株式会社より分譲)を用いて調べた。上記3T3−L1細胞は、ウシ胎児血清を10%濃度で含むダルベッコ改変イーグル培地(増殖培地)を用い、37℃、5%CO存在下で培養することにより、シャーレ内で継代培養を行った。継代培養後、上記3T3−L1細胞をトリプシン処理することにより、上記3T3−L1細胞をシャーレから剥がした。次いで、1200rpm、5分間遠心分離を行った後、96ウェルマルチプレートに細胞数が2×10cellになるように分注し、コンフルエントになるまで培養した。その後、培地を除去し、新たに培地に対して上記方法により得られた90種類の植物抽出成分、デキサメタゾン及びイソブチルメチルキサンチンをそれぞれ終濃度50μg/ml、1μg/ml、及び300μg/mlになるように加えた培地をウェルに添加した。陽性対照として、脂肪前駆細胞の分化誘導物質として既知であるインドメタシンを69μg/ml(200μM)の濃度になるように添加した培地をウェルに添加した。そして、2日間培養した後、再度培地を除去し、新たにインスリンを終濃度で1μg/mlになるように加えた培地をウェルに添加した。2日後、培地を除去し、細胞をPBS(−)により洗浄後、ホルマリンを用いて固定し、細胞内に蓄積された脂肪滴をオイルレッド0を用いて染色した。そして、540nmでの吸光度を測定することにより、脂肪細胞への分化誘導能を評価した。
【0037】
上記で培養した3T3−L1細胞の培養上清中に分泌されたアディポネクチンの量を、酵素免疫測定(ELISA)法で定量した。この定量は、大塚製薬社製の「マウス/ラットアディポネクチンELISAキット」を使用し、キット付属の使用説明書に記載されている測定方法に従って行った。
【0038】
そして、上記で測定した540nmにおける吸光度をX軸に、アディポネクチンの分泌量をY軸に示したグラフを図1に示す。ただし、図1のX軸及びY軸に表記の数値は、それぞれ陽性対照区における吸光度及び濃度を1.0とした場合の相対値である。
【0039】
上記方法により得られた植物抽出成分90種類について、脂肪蓄積量とアディポネクチン分泌量との関係を探索した結果、多くの植物抽出成分は、図1の白丸で示すように、脂肪蓄積量(オイルレッド0染色)とアディポネクチン分泌量に正の相関が認められた。しかし、図1の黒四角で示すように、脂肪蓄積量が陽性対照区と同等もしくはそれ以下であるにもかかわらず、アディポネクチン分泌量が陽性対照区よりも比較的多い植物抽出成分9種(No.7、8、14、18、25、32、35、42及び88)が存在することが認められた。これらの植物抽出成分のうち、No.7、8、14、18、25、32、35及び42の8種について、その構造を調べた。その結果を以下の表1及び化1〜化3にまとめた。これら8種類の植物抽出成分の構造は、陽性対照として用いたインドメタシン及び既知のPPARγアゴニストであるチアゾリジン誘導体(TZD)と類似点は認められなかった。尚、No.88については、月桃(根)の酢酸エチル抽出成分であることは判明しているが、その具体的構造は不明であった。
【0040】
【表1】

【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
また、No.7、8、14、18、25、32、35及び42の植物抽出成分の培養液への添加濃度を調べたところ、添加濃度は38.8〜132.8μMであり、これは、陽性対照であるインドメタシンの濃度(200μM)よりも低い濃度であった。これらのことから、特に上記8種類の植物由来成分は、従来よりアディポネクチン分泌を促進ことが知られているインドメタシンよりも優れたアディポネクチン分泌促進能を有することが分かる。
【0045】
(3)遺伝子発現試験
上記方法により、アディポネクチン分泌促進作用が認められた植物由来成分の一つであるエルゴステロールについて、以下に記載の方法により、遺伝子発現試験を実施した。
【0046】
3T3−L1細胞は、上記スクリーニングの時と同じ条件で、シャーレ内で継代培養を行なった。培養後の3T3−L1細胞をトリプシン処理することによりシャーレより剥がし、1000rpm、5分間遠心分離後、新しい増殖用液体培地に3T3−L1細胞を再度懸濁した。
デキサメタゾン及びイソブチルメチルキサンチンをそれぞれ終濃度として2.5μM及び1.35mM含む増殖用液体培地(分化用培地)に、試験化合物としてエルゴステロール(和光純薬製)を50、100及び150μMになるように添加し、各々を試験培地として調製した。35mmφシャーレに上記3T3−L1細胞を播種し、コンフルエントになるまで37℃、5%CO条件下で培養した後、培地を除去し、上記各試験培地において2日間培養した後、再度培地を除去し、新たにインスリンを終濃度として1μg/ml含む増殖用液体培地(脂肪細胞用培地)を加えた。3日後に培地を新しい脂肪細胞用培地に全量交換し、さらに3日間培養した。
【0047】
培養液を除去し、RNA抽出試薬である「ISOGEN」(ニッポンジーン製)を加えた後、使用説明書の記載に従って、上記3T3−L1細胞からRNAを回収し、乾燥させた。この乾燥させたRNAに対し、「Deoxyribonuclease(RT grade) for Heat Stop」(ニッポンジーン製)を用いて、使用説明書の記載に従って、DNase処理を行なった。そして、「Ready−To−Go You−Prime First−Strand Beads」(アマシャムバイオサイエンス製)及び「Oligo(dT)15 Primer」(プロメガ製)を用い、抽出した(全)RNAに対するcDNAを合成した。
【0048】
本試験では、3T3−L1細胞中で発現するPPARγ、アディポネクチン、レプチン、及びaP2の該4種類のタンパク質をコードする遺伝子を目的遺伝子として、それらの領域をPCR法により増幅した。該PCR法におけるサンプル調製及び温度等の条件は、「TaKaRa Taq」(タカラバイオ製)に添付されている使用方法に従った。いずれの細胞にも定常的に発現するG3PDHをコントロールとして用いた。また、上記目的遺伝子各々に対するプライマーは、以下の配列番号1〜10に示す通りである。
そして、上記PCR産物を、1.5%アガロースゲルを用いて100V、20分間の条件で電気泳動を行ない、増幅された遺伝子の同定及び半定量を行なった。その結果を図5に示す。
【0049】
図5より、3T3−L1細胞において定常的に発現するG3PDH及び脂肪細胞へ分化すると発現するaP2は、対照群及びエルゴステロール添加群の両群で発現していることが分かる。一方、エルゴステロール添加群では、添加濃度に依存してPPARγ及びアディポネクチンの発現が促進され、レプチンの発現が抑制されていることが分かる。この結果から、エルゴステロールによって、PPARγの発現とアディポネクチンの発現が亢進されることが分かる(図5参照)。
【0050】
(4)生体中のエルゴステロール量、アディポネクチン量及び中性脂肪量の測定
以下の方法により、アディポネクチン分泌促進能が確認されたエルゴステロールをラットに投与し、エルゴステロール量、アディポネクチン量及び中性脂肪量を測定した。
【0051】
9週齢のオスのSDラットを通常飼料、水は自由摂取条件下で1週間予備飼育をし、10mMエルゴステロールを溶解したダイズ油(和光純薬製)を単回経口投与した。対照群として、ダイズ油のみを単回経口投与した。投与量はラットの体重100gあたり1mLになるようにした。
投与後の各時間において、尻尾採血又は屠殺採血を行なった。尻尾採血の場合、尻尾末端血管からヘパリン加工済みヘマトクリット採血管(以下、「ヘマト管」と記す)を用いて約150μL採血し、ヘマト管のまま4℃で1300rpm、10分間遠心分離し、血清を採取した。採血後は生理食塩水150μLを腹腔注射した。屠殺採血の場合、ネンブタール300μLを腹腔注射後、開腹し、腹部動脈より採血を行なった。血液は、ヘパリン300μLと混合し、4℃で1300rpm、10分間遠心分離し、血清を採取した。
【0052】
(A)血中エルゴステロール濃度の測定
血清中のエルゴステロール濃度を計算する検量線を作成するために、標品エルゴステロールを用いて、濃度の異なるエルゴステロール溶液を用意した。即ち、標品エルゴステロール1.0mgをメタノール1.0mLに溶解した後に、段階的に希釈した5種類の溶液を調製し、この吸光度を分光光度計で282nmの波長で測定した。得られた吸光度に基づき、エルゴステロールの吸光係数ε=11900M−1cm−1(λMax;282nm)から計算して、エルゴステロール濃度を求め、更に10倍希釈を行い、3種類の溶液(標準溶液)を調製した。
【0053】
一方、上記血清30μLにメタノール120μLを加え5倍希釈溶液にした。タンパク類を沈殿させるために、卓上遠心器で3分間遠心をして上清を回収し、次いでフィルターサイズ0.45μmのウルトラフリー−MC(ミリポア製)を用いて、12000rpm、5分、20℃の条件で遠心ろ過を行った。ろ過された溶液を測定用のサンプルとした。
【0054】
血中エルゴステロール濃度の測定は、HPLCにより行った。
カラムはSymmetry C8ステンレスカートリッジカラム(3.9×150mm、粒子径5μm、ウォーターズ製)を使用し、カラムの汚染を防ぐために、Sentry Symmetry C8ガードカラム(3.9×20mm、粒子径5μm、ウォーターズ製)を本カラムの前に接続した。また、システムに送液する移動相として、メタノール:アセトニトリル:水=25:25:1の混合溶液を調整した。全ての溶媒、溶液は0.20μmのフィルターでろ過をした後に使用した。
上記標準溶液及びサンプルをそれぞれ25μLずつシステムに注入した。溶液は流速1.0mL・min−1で送液し、エルゴステロールは280nmの波長で検出した。
【0055】
上記方法により得られた標準溶液の測定結果に基づいて、解析ソフトを使用して検量線を作製した。
一方、上記サンプルのうち、エルゴステロールを投与していないコントロール群で、エルゴステロールのピークが検出される時間の場所に、採血時間によってあまりピーク面積が変化しない未知ピークが検出された。このピーク面積を測定し、コントロール群で平均した値を、上記サンプルのうち、エルゴステロール投与群のそれぞれの時間で得られたピーク面積から引き、得られた値を純粋なエルゴステロールのピーク面積とした。得られたピーク面積を用い、検量線に基づいてエルゴステロールの濃度を求めた。この結果を図6に示す。尚、上記サンプルは前処理段階で5倍希釈していたので、得られた濃度を5倍して、血清中のエルゴステロール濃度とした。
【0056】
(B)血清中アディポネクチン量及び血清中中性脂肪量の測定
エルゴステロール投与群及び対照群の投与後12、24及び48時間の血清中アディポネクチン量(μg/mL)を、酵素免疫測定(ELISA)法で定量した。この定量は大塚製薬社製の「マウス/ラットアディポネクチンELISAキット」を使用し、キット付属の使用説明書に記載されている測定方法に従って行なった。また、エルゴステロール投与群及び対照群の投与後12、24、36及び48時間の血清中中性脂肪量(mg/dL)を社団法人半田市医師会健康管理センターに依頼して測定した。これらの結果を図7に示す。
【0057】
(3)結果
図6より、血中エルゴステロール濃度を投与後4時間毎に測定した結果、最高血中濃度到達時間は投与後4〜12時間であり、最高血中濃度は約1.8μMであった。この結果より、投与したエルゴステロールは血中に移行することが確認された。
【0058】
図7(A)より、対照群と比較して、エルゴステロール投与群では、血清中アディポネクチン量の上昇が認められた。この結果から、エルゴステロールは経口投与しても、アディポネクチンを分泌促進できることが分かる。
また、図7(B)より、血清中の中性脂肪量(トリグリセリド量)は、通常、油を食事で摂取した場合には上昇するが、エルゴステロールを摂取した場合には、油脂摂取後の血清中中性脂肪量の上昇を抑制することができることが分かる。血中の中性脂肪量の抑制メカニズムは未だ不明であるが、エルゴステロールによりアディポネクチンが誘導され、抗肥満及び抗動脈硬化作用を呈すること示唆された。
【0059】
尚、本発明においては、前記具体的実施例に示すものに限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤は、脂肪細胞からより多くのアディポネクチンの分泌を促進することができる。そのため、アディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる各種疾患、例えば、動脈硬化等の各種循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病、あるいは肥満の予防、改善に利用することができる。また、本発明の抗動脈硬化剤、抗肥満剤及び抗糖尿病剤もまた、アディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる各種疾患、例えば、動脈硬化等の各種循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病、あるいは肥満の予防、改善に利用することができる。更に、本発明の食品添加剤及び本発明の機能性食品は、日常の食生活を通じてアディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる動脈硬化等の各種循環器系疾患や糖尿病等の生活習慣病、あるいは肥満の予防、改善を図ることができることから、広く飲食品分野において利用することができる。また、本発明の飼料添加剤によれば、動物においても動脈硬化等の各種循環器系疾患や肥満の予防、改善を図ることができることから、広く畜産分野において利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施例の3T3−L1細胞における脂肪蓄積量とアディポネクチン分泌量との関係を示したグラフである。
【図2】γ−オリザノールからシクロアルタン型トリテルペン誘導体を合成する経路を示す説明図である。
【図3】羅漢果からのモグロシドVの単離のスキームを示す説明図である。
【図4】ブナシメジからのエルゴステロールの単離のスキームを示す説明図である。
【図5】本実施例の遺伝子発現試験の(A)mRNAの発現量及び(B)電気泳動ゲル写真を複写した図である。
【図6】本実施例のエルゴステロール投与後の時間に対する血清中のエルゴステロール濃度をプロットしたグラフである。
【図7】本実施例のエルゴステロール投与後の(A)血清中アディポネクチン量及び(B)血清中中性脂肪量をプロットしたグラフである。
【配列表フリ−テキスト】
【0062】
PPARγをコードする遺伝子のPCRで使用したフォアードプライマー。
【0063】
PPARγをコードする遺伝子のPCRで使用したリバースプライマー。
【0064】
アディポネクチンをコードする遺伝子のPCRで使用したフォアードプライマー。
【0065】
アディポネクチンをコードする遺伝子のPCRで使用したリバースプライマー。
【0066】
レプチンをコードする遺伝子のPCRで使用したフォアードプライマー。
【0067】
レプチンをコードする遺伝子のPCRで使用したリバースプライマー。
【0068】
aP2をコードする遺伝子のPCRで使用したフォアードプライマー。
【0069】
aP2をコードする遺伝子のPCRで使用したリバースプライマー。
【0070】
G3PDHをコードする遺伝子のPCRで使用したフォアードプライマー。
【0071】
G3PDHをコードする遺伝子のPCRで使用したリバースプライマー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シメジから抽出された抽出物を含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項2】
エルゴステロールを有効成分として含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−236236(P2011−236236A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162491(P2011−162491)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2004−143282(P2004−143282)の分割
【原出願日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【出願人】(505298043)株式会社テラ・ブレインズ (2)
【Fターム(参考)】