説明

アニオン交換膜型燃料電池用の電解質膜および接着剤

【課題】 充分な電池性能を有するアニオン交換膜型燃料電池の提供。
【解決手段】 アニオン交換膜型の燃料電池に用いられる電解質膜であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有することを特徴とする。また、アニオン交換膜型の燃料電池の電極触媒層を形成するための接着剤であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性イオン交換樹脂膜(以下、アニオン交換膜と言う) を用いたアニオン交換膜型燃料電池における電解質膜、およびその燃料電池の構成部材である電極触媒層を形成するために用いられる接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、発電用や低公害の自動車用電源等の用途が期待されている固体高分子型燃料電池は、80℃程度の低温で作動させることができ、大きな出力密度を有する。固体高分子型燃料電池は、通常、プロトン伝導性のある高分子膜を電解質とする。電解質となる高分子膜(電解質膜)の両側にそれぞれ燃料極、酸素極となる一対の電極が設けられ電解質膜−電極接合体(MEA)が構成される。このMEAをセパレータで挟持した単セルが発電単位となる。
【0003】
電解質膜には、イオン伝導性が高く化学的にも安定であるという理由から、一般には、全フッ素系スルホン酸膜等のカチオン交換膜が使用される。また、プロトン伝導経路の確保のために、電極中にも電解質膜と同種の電解質を含有させる。このため、電池セル内は強酸性となり、酸素極では酸素還元反応[O+4H+4e→2HO]が進行し難い。また、強酸性下で使用できる高価な白金を用いなければならないのが現状である。
【0004】
一方、電解質にアニオン交換膜を用いるアルカリ型(アニオン交換膜型)燃料電池では、電池セル内が強塩基性となるので、酸素極での酸素還元反応[O+2HO+4e→4OH]が進行し易く、ニッケル、銀等の比較的安価な金属を使用できるという利点がある(特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2000−331693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アニオン交換膜は、カチオン交換膜と比較して、イオン伝導性が低く、化学的安定性も充分とはいえない。このため、アニオン交換膜を電解質膜として用いた場合、充分な電池性能を得ることが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
しかるに、本発明者等は、このような状況に鑑み鋭意検討を重ねた結果、アニオン交換膜型燃料電池において、電解質膜として、または電極触媒層を形成するための接着剤として、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有するものを用いることによって、充分な電池性能が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明の電解質膜は、アニオン交換膜型の燃料電池に用いられる電解質膜であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有するものである。また、本発明の接着剤は、アニオン交換膜型の燃料電池の電極触媒層を形成するための接着剤であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、充分な電池性能を有するアニオン交換膜型燃料電池が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の電解質膜について説明する。
本発明の電解質膜は水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有するものである。
【0010】
〔水酸基含有樹脂〕
本発明で用いられる水酸基含有樹脂は、カチオン性基と水酸基を共に含有するカチオン性基含有水酸基含有樹脂、カチオン性基を含有せず、水酸基を含有するカチオン性基非含有水酸基含有樹脂のいずれでも良い。電解質膜が水酸基含有樹脂を含むことにより、膜強度が向上する。水酸基含有樹脂は、天然品、半合成品、合成品のいずれであっても良い。水酸基含有樹脂の具体例は、特に限定されるものではないが、例えば、デンプン、カラギーナン、プルラン、デンプン部分加水分解物、ヒドロキシエチルスターチ、(部分)α化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶性デンプン、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン、木材セルロース、アラビアガム、カンテン、トラガントガム、ゼラチン、デキストラン、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングリコール、キサンタンガム、デキストリン、シクロデキストリン、カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、ゼラチン分解物の両重合体、デキストラン硫酸ナトリウム、アクリル酸シルクフィプロイン共重合樹脂、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、カゼイン、コラーゲン、オリゴ糖、卵白、大豆タンパク質、小麦タンパク質、絹、タマリンドシードガム、タラガム、カツシアガム、サイリウムシードガム、大豆多糖類、カラヤガム、モロヘアー、ペクチン、オクラ抽出物、カードラン、スクレログルカン、ジュランガム、シクロデキストリン類、ヤマイモ粉末、コンニャクマンナン、トロロアオイ抽出物、マルトオリゴ糖類、ゲンチオオリゴ糖、パノースオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、分岐デキストリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、グルコシルスクロース、ラクトスクロース、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ヘミセルロース、ラフイノース、ペクチンオリゴ糖、グアーガムオリゴ糖、ガラクトマンナンオリゴ糖、ポリデキストロース、乳清オリゴペプチド、低アレルゲンオリゴペプチド、低フェニルアラニンオリゴペプチド、カゼインホスホペプチド、ラクトフェリン、大豆オリゴペプチド、エンドー豆タンパク質、グルタミンペプチド、コーンオリゴペプチド、かつおぶしオリゴペプチド、ポリフェノール、カテキン、リンゴポリフェノール、ウェランガム、ショ糖、糖蜜、リグニン、ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。特にはポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。
【0011】
水酸基含有樹脂に加えて、水酸基を含有しない以下の親水性樹脂を併せて使用することも可能である。例えば、ポリテトラヒドロフラン(オリゴマーをも含む)、ポリアルキレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアルキレンオキシド、ポリオキサゾリン、水溶性ポリアミド、水溶性ポリエステル、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を用いることができる。
【0012】
水酸基含有樹脂の重量平均分子量は、特には限定されないが、通常約500 〜500000、好ましくは1000〜400000、特に好ましくは1000〜300000である。かかる重量平均分子量が低すぎると膜の強靱性が不足する傾向があり、高すぎると製膜し難くなったり、脱泡が困難になったりする傾向がある。
【0013】
〔カチオン性基〕
カチオン性基の種類としては、例えば、四級アンモニウム塩や一級、二級または三級アミノ基や、直鎖状または環状のアミド基が、無機もしくは有機の酸と塩を形成しているもの、各種のイミダゾリウム塩やピリジニウム塩が含まれる。但し、これらに限定されるものではない。カチオン性基は、水酸基含有樹脂中に含有させても良いし、水酸基含有樹脂中には含有させずに、他のカチオン性基含有化合物により電解質膜中に含有させても良い。
【0014】
電解質膜中におけるカチオン性基の含有量としては、例えば、カチオン性基を構成する窒素原子として、電解質膜を形成する樹脂組成物(固形分)中に対して0.1〜20重量%であることが好ましく、特には1〜10重量%であることが好ましい。かかる含有量が少なすぎるとイオン伝導性が低下する傾向があり、多すぎると電解質膜としての強度等の諸物性が低下する傾向がある。
【0015】
カチオン性基含有化合物には、カチオン性基と水酸基を共に含有するカチオン性基含有水酸基含有樹脂と、カチオン性基を含有し、水酸基を含有しないカチオン性基含有水酸基非含有樹脂とが含まれる。
【0016】
〔カチオン性基含有水酸基含有樹脂〕
カチオン性基と水酸基を共に含有するカチオン性基含有水酸基含有樹脂には、水溶性のものと非水溶性のものが含まれる。カチオン性基含有水酸基含有樹脂のうち水溶性のもの、すなわちカチオン性基と水酸基を共に含有する水溶性樹脂としては、例えば、日本合成化学工業社製のカチオン化ポリビニアルコール(ゴーセファイマー(登録商標)Kシリーズ)およびそのアセタール化物、分子量1万以下の所謂水溶性キトサン、カチオン化澱粉、カチオン化−2−ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化セルロースなどが挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性基と水酸基の両方を有する単糖であるグルコサミンなども、使用可能である。
【0017】
なお、本明細書において「水溶性」とは、90℃の湯200gに、膜厚100μm 、大きさ50mm×50mmの樹脂膜を1時間攪拌しながら浸せきした際、該樹脂膜の100%が溶解するものをいい、また、同様の条件で該樹脂膜の一部が溶解せずに残留するものを「難水溶性」という。
【0018】
カチオン性基含有水酸基含有樹脂のうち非水溶性のもの、すなわちカチオン性基と水酸基を共に含有する非水溶性樹脂としては、ケン化度10モル%未満のカチオン性基変性ポリビニルアルコールや、分子量が1万より大きな高分子量キトサンなどが挙げられる。
【0019】
カチオン性基含有水酸基含有樹脂の重量平均分子量は、特には限定されないが、通常約500 〜500000、好ましくは1000〜400000、特に好ましくは1000〜300000である。かかる重量平均分子量が低すぎると、カチオン性基含有水酸基含有樹脂単独での膜強度が足りない傾向があり、重量平均分子量が高すぎると、水溶性が低下する傾向がある。
【0020】
〔カチオン性基含有水酸基非含有樹脂〕
カチオン性基含有化合物のうちカチオン性基含有水酸基非含有樹脂には、水溶性のものと非水溶性のものが含まれる。また、中性〜アルカリ性条件下ではカチオン電荷を帯びないが、酸性条件下でカチオン性となるものも含まれる。かかるカチオン性基含有水酸基非含有水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリ(ビニルピロリドン−アクリルアミド)共重合体、ポリ(ビニルピロリドン−(N−ビニルホルムアミド))共重合体、日東紡社製の水溶性ポリマーのPAA(登録商標)シリーズ、PASシリーズ、両性シリーズが挙げられる。PAA(登録商標)シリーズは、アリルアミン塩酸塩重合体、アリルアミンアミド硫酸塩重合体、アリルアミン重合体、アリルアミン塩酸塩/ジアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン酢酸塩/ジアリルアミン酢酸塩共重合体、アリルアミン塩酸塩/ジメチルアリルアミン塩酸塩共重合体、アリルアミン/ジメチルアリルアミン共重合体、部分メトキシカルボニル化ポリアリルアミン(酢酸塩)重合体が挙げられ、PASシリーズは、ジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ジアリルアミン塩酸塩/二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩/二酸化硫黄共重合体、ジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト/二酸化硫黄共重合体、ジアリルアミン酢酸塩/二酸化硫黄共重合体、メチルジアリルアミン塩酸塩/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/二酸化硫黄共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/アクリルアミド共重合体、部分3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル化ジアリルアミン塩酸塩/ジアリルジメチルアンモニウムクロリド共重合体が挙げられ、両性シリーズは、ジアリルアミン塩酸塩/マレイン酸共重合体、ジアリルアミンアミド硫酸塩/マレイン酸共重合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド/マレイン酸/二酸化硫黄共重合体が挙げられ、さらにこれらのノンクロル製品や低クロル製品も挙げられる。特には、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体が好適に用いられる。これらカチオン性基含有水酸基非含有水溶性樹脂の一種又は二種以上を用いることができる。
【0021】
かかるカチオン性基含有水酸基非含有非水溶性樹脂としては、例えば、四級アンモニウム塩や一級、二級または三級アミノ基や、直鎖状または環状のアミド基が、無機もしくは有機の酸と塩を形成しているもの、各種のイミダゾリウム塩やピリジニウム塩などが導入された非水溶性樹脂などが挙げられ、中性〜アルカリ性条件下ではカチオン電荷を帯びないが、酸性条件下でカチオン性となるものも含まれる。例えば、ポリオレフィン、ポリ(フッ素化エチレン/プロピレン)共重合体、ポリスルホン、エチレンオキシド/ポリエピクロルヒドリン共重合体などの高分子に、放射線グラフト(共)重合やクロロメチル化、スルホクロロメチル化などの操作によりクロロ基の導入を行った後にアミノ化したものなどが挙げられる。具体的には、特開2005-50607号公報等に記載の四級アンモニウム塩導入型ポリスチレン系(共)重合体、特開平1-311132号公報等に記載のフッ素系(共)重合体のアミノ化物、WO2006/003182等に記載のスチレン/ジビニルベンゼンを放射線グラフト共重合したフッ素樹脂系フィルムのアミノ化物などが含まれる。但しこれらに限定されない。
【0022】
〔カチオン性基非含有ポリビニルアルコール系樹脂〕
本発明の電解質膜は、カチオン性基を含有しないカチオン性基非含有ポリビニルアルコール系樹脂をさらに含んでいても良い。カチオン性基非含有ポリビニルアルコール系樹脂を含ませることにより、膜強度の高さやフィルム物性の調節が容易となる。ここで「ポリビニルアルコール系樹脂」(以下「PVOH系樹脂」ともいう)は、ポリビニルアルコール(以下「PVOH」ともいう)および変性ポリビニルアルコール(以下「変性PVOH」ともいう)を包含する概念である。
【0023】
PVOH系樹脂のケン化度は、通常10モル%以上、好ましくは60モル%以上、特に好ましくは85モル%以上である。ケン化度が10モル%未満で、かつ重合度が小さい場合は、組成物の凝集力が低下して、電解質膜の強度が不足する傾向がある。
【0024】
PVOH系樹脂の重合度(JIS K6726に準拠)は、特には限定されないが、通常50〜7000、好ましくは500 〜5000、特に好ましくは1000〜4500である。PVOHの重合度が低すぎると、併用するカチオン性基含有化合物の種類や分子量によっては、得られる膜が脆くなったり、バインダーとしての強度が不足したりする傾向がある。またPVOHの重合度が高すぎると、併用するカチオン性基含有化合物との混合が困難となったり、脱泡がし難くなったりして、生産性が低下する傾向がある。
【0025】
〔カチオン性基非含有変性PVOH〕
カチオン性基非含有変性PVOHは、カチオン性基を有しない変性PVOHであり、カチオン性基以外の基により変性された全てのPVOHが含まれる。かかる変性PVOHとしては、例えば、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、エチレン変性ポリビニルアルコール、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ε−カプロラクタム変性ポリビニルアルコール、ε−カプロラクタム変性EVOH、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、アミン変性ポリビニルアルコール、アクリルアミド変性ポリビニルアルコール、末端SH変性ポリビニルアルコール、アクロレイン変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、ポリアルキレンオキシド変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール/ポリアルキレンオキシドグラフト共重合体、ポリビニルアルコール/ポリ(メタ)アクリル酸(および/またはその塩)ブロック共重合体、長鎖アルキルビニルエーテル変性ポリビニルアルコール、ビニルバサテート変性ポリビニルアルコール、側鎖1,2−ジオール変性ポリビニルアルコール、末端アルキル基変性ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール−ポリアクリル酸共重合体、スチルバゾリウム−ピリジニウム基変性ポリビニルアルコール、シナモイル基変性ポリビニルアルコールなどを挙げることができる。これらは単独で用いても、二種類以上を併用しても良い。またこれらのポリビニルアルコールのアセタール化物も用いることが可能である。
【0026】
本発明の電解質膜がカチオン性基含有化合物とカチオン性基非含有PVOH系樹脂とを含有する場合における混合比率は、カチオン性基含有化合物/カチオン性基非含有PVOH系樹脂(重量比)で通常1/100〜100/1、好ましくは1/10〜10/1、特に好ましくは1/3〜1/1である。カチオン性基非含有PVOH系樹脂が相対的に少なすぎると、カチオン性基含有化合物の重合度が小さい場合に、膜が脆くなる傾向がある。カチオン性基含有化合物が少なすぎると、イオン伝導性が低くなる傾向がある。
【0027】
本発明の電解質膜は、組成物の粘度調整、接着強度や膜強度のアップ、寸法安定性向上などを目的として、顔料を含有していても良い。顔料としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、クレー、タルク、酸化チタン、サチン白等が挙げられる。これらは単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いても良い。これらの顔料の粒子径は特に制限されず、一次粒子径として通常数nmから数百μm程度のものを適宜使用することができる。また、消泡剤、レベリング剤、レオロジー調整剤、離型剤、酸化防止剤、還元剤などの各種添加剤を必要に応じて適宜使用することができる。電極近傍では、燃料の酸化反応が生じるので、酸化雰囲気下に晒されて劣化するおそれのある電解質膜や後述の接着剤の酸化を防止する目的で、酸化防止剤やヒドラジン系化合物(アジポイルジヒドラジドのような低分子ヒドラジド系化合物や、アミノポリアクリルアミドのようなポリヒドラジド系化合物)などの還元剤を予め含有させることは特に好ましい。
【0028】
〔電解質膜の製造〕
本発明の電解質膜は、上述のカチオン性基含有化合物(カチオン性基含有水酸基含有水溶性/非水溶性樹脂、カチオン性基含有水酸基非含有水溶性/非水溶性樹脂)の溶液や、それらとPVOH系樹脂等の水酸基含有樹脂との混合溶液を用いて製造することができる。例えば、それらの溶液をナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、フローコーターなどを用いて、硝子やポリエチレンテレフタレートフィルム、テフロン(登録商標)フィルム等の平滑なフィルム上に、あるいは鏡面磨きしたドラムなどの平滑な面上に塗布し、乾燥して形成することができる。乾燥温度は、特に制限は無いが、通常、室温〜200℃、好ましくは40〜150℃、特に好ましくは50〜150℃である。また乾燥時間は、膜厚や組成、乾燥温度等によって適切に設定すれば良いが、通常、5秒〜10時間、更には10秒〜5時間、特には30秒〜1時間である。電解質膜の膜厚は、通常、10〜300μm、好ましくは15〜200μm、特に好ましくは20〜100μmである。膜厚が薄すぎると、膜強度が不足する傾向があり、膜厚が厚すぎると、乾燥に時間がかかりすぎる傾向がある。
【0029】
本発明においては、必要に応じて架橋剤を用いても良い。架橋剤としては、例えば、多価金属化合物、ホウ素化合物、アミン化合物、ヒドラジン化合物、シラン化合物、メチロール基含有化合物、アルデヒド基含有化合物、エポキシ化合物、チオール化合物、イソシアネート化合物等を用いることができる。これらは単独で用いても二種類以上を組み合わせて用いても良い。架橋剤の使用量は、通常、水酸基含有樹脂に対する固形分比率で0.1〜50重量%、好ましくは1〜30重量%である。架橋剤の添加・使用方法は、特に制限されず、例えばカチオン性基非含有PVOH系樹脂とカチオン性基含有水溶性樹脂の混合物を使用する場合には、予めカチオン性基非含有PVOH系樹脂とカチオン性基含有水溶性樹脂の混合物に架橋剤を均一に混合させた後、該混合液を製膜して電解質膜としてもよいし、または、カチオン性基非含有PVOH系樹脂とカチオン性基含有水溶性樹脂の混合物を製膜した後、架橋剤を含む溶液に該膜を浸せきし、適宜熱処理するなどして膜全体を架橋させたり、或いはカチオン性基非含有PVOH系樹脂とカチオン性基含有水溶性樹脂の混合物を製膜したものにスプレーもしくはコーティング等により架橋剤を浸透させた後、適宜熱処理するなどして架橋させる等の方法が採られ得る。
【0030】
また、本発明に用いるPVOH系樹脂に、スチルバゾリウム−ピリジニウム基やシンナモイル基のような感光性基が導入されている場合は、本発明の組成物を塗布乾燥後、或いは塗布後乾燥前に、適宜、紫外線照射や加熱重合などの方法により、架橋を進行させて硬化膜を得ることも可能である。
【0031】
また、架橋に際しては、上記の如き架橋剤による架橋の他に、膜の組成物中に重合性不飽和基含有化合物(例えば、(メタ)アクリレート系モノマー、ウレタン(メタ)アクリレート系オリゴマー等)を含有させて、あるいは膜を形成する樹脂自身に重合性不飽和基を導入して、紫外線などの活性エネルギー線照射により架橋させることもできる。これら上記の架橋方法は、必要に応じて併用することもできる。
【0032】
また本発明においては、膜強度が不足する場合や形状・寸法安定性を向上させたい場合、および膨潤性を抑制したい場合など、目的と必要に応じて、上述の水溶性樹脂やカチオン性基含有化合物の溶液を多孔質基材に含浸・複合化させて、電解質膜としてもよい。
【0033】
多孔質基材としては、不織布、紙、多孔質プラスチックフィルム状基材(ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ゴアテックス(登録商標)、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリイミドアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド等)、多孔質セラミックスフィルム状基材などの、連続孔を有する多孔質基材が挙げられる。これらの基材と複合化することで、膜としての寸法安定性や強度が一段と向上する。
【0034】
本発明の電解質膜の両面に、燃料極、酸素極となる一対の電極を設けることによって、電解質膜−電極接合体(MEA:Membrane-Electrolyte-Assembly )が構成される。電解質膜と電極との接合法については特に制限がなく、化学メッキによる方法、ガス拡散性電極を熱プレスによって接合する方法、カーボンペーパーやカーボンクロス、金属メッシュなどの基材に後述の触媒等を担持させたものを電解質膜の両側からホットプレス等の手法により接合する方法が挙げられる。また、触媒や電子伝導体をバインダー樹脂中に分散したインクを電解質膜に塗布する方法(電極触媒層形成法)も好ましく用いられる。
【0035】
本発明の電解質膜を構成する組成物は、このバインダー樹脂(接着剤)として利用することができる。以下、本発明の接着剤について説明する。
【0036】
〔電極触媒層〕
電極触媒層は、触媒、電子伝導体(導電材)、イオン伝導体(バインダー樹脂)などを含有し、イオン伝導体として、一般には、種々の有機材料や無機材料が用いられる。
【0037】
本発明においては、イオン伝導体として、本発明の電解質膜と同じ組成物、すなわち少なくとも水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有する組成物、特にカチオン性基含有水酸基含有水溶性/非水溶性樹脂が好適に用いられる。
【0038】
言い換えれば、本発明の接着剤は、アニオン交換膜型の燃料電池の電極(アノードおよびカソード)触媒層を形成するために用いられる接着剤であり、本発明の電解質膜と同じ組成物、すなわち少なくとも水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有する組成物、好ましくはカチオン性基含有水酸基含有水溶性/非水溶性樹脂を含有する。
【0039】
本発明の接着剤を使用して、電解質膜の両側に電極触媒層を形成することによって、電解質膜−電極接合体(MEA)を得ることができ、以下その方法について詳しく説明する。なお、電解質膜は本発明によるものに限定されない。
【0040】
電極触媒層に含まれる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、金および鉄、コバルト、ニッケルなどの触媒が好ましく用いられる。また、これらの触媒の合金や混合物など、二種以上の元素を含むものも用いることができる。上記触媒は、表面積を大きくしたり、塗液調整を容易にするために、カーボンブラックなどの電子伝導体表面に担持されても良い。このような触媒としては、ジョンソンマッセイ(JohnsonMatthey)社製”HiSPEC(登録商標)”シリーズ、石福金属興業社製IFPCシリーズ、および田中貴金属工業社製TECシリーズの各種、鉄−コバルト−ニッケル系合金触媒などが例示され、単独でも、これらを組み合わせて使用しても良い。
【0041】
電極触媒層に含まれる電子伝導体(導電材)としては、カーボンブラック、黒鉛質や炭素質の炭素材、あるいは金属や半金属が挙げられる。ここで、炭素材としては、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラックおよびアセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂およびフラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素なども使用することができる。これらの炭素材の形態としては、粒子状のほか、繊維状のものも用いることができ、特に限定されるものではない。また、これら炭素材を後処理加工した炭素材も用いることが可能である。電極触媒層として、触媒と電子伝導体とが一体化した触媒担持カーボンを用いることも好ましい実施態様である。
【0042】
本発明の接着剤は、他のイオン伝導体を含有していても良い。本発明の接着剤は、溶液または分散液の状態で電極触媒層中に設けられる。本発明の接着剤を溶解あるいは分散化する溶媒は、特に限定されるものではないが、接着剤の溶解性の点から、水または極性溶媒、およびそれらの混合物が好ましく用いられる。電極触媒層を製造する方法としては、触媒および電子伝導体を含有する塗液と本発明の接着剤を予め混合し、均一に分散させた状態で塗布する方法、触媒および電子伝導体を含有する塗液を塗布した後に、本発明の接着剤を塗布する方法などが挙げられる。塗布の方法としては、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、カーテンコートおよびフローコートなどが挙げられる。
【0043】
電極触媒層中における本発明の接着剤の含有量は、電極触媒層の設定膜厚などの製造条件に応じて、適宜設定される。アノード触媒層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜150μm、更に好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜30μmである。一方、カソード触媒層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは1〜500μm、更に好ましくは5〜100μm、特に好ましくは10〜40μmである。アノード触媒層およびカソード触媒層のいずれも、厚すぎると、燃料等の供給や生成物の排出を妨げる傾向があり、薄すぎると、触媒を均一に存在させることが困難となる傾向がある。
【0044】
また、本発明の電解質膜を用いる場合には、市販の不織布状炭素繊維(カーボンクロス)上に、触媒となる金属成分を担持させたものを、本発明の電解質膜の両側から挟み、熱と圧力を与えるホットプレス法によって、電解質膜−電極接合体(MEA)を作成することも可能である。その際の温度は通常50〜200℃、好ましくは80〜180℃、特に好ましくは80〜160℃である。またホットプレスの圧力は通常1〜10MPa/cm、好ましくは2〜8MPa/cm、特に好ましくは3〜7MPa/cmである。
【0045】
また、電解質膜(本発明の電解質膜のみならず、それ以外の電解質膜を含む)との接着性をより強固にするために、上述の触媒担持不織布状炭素繊維の内部に本発明の接着剤を予め含ませておいた後に、または上述の触媒担持不織布状炭素繊維の表面に本発明の接着剤の溶液をコーティングした後に、ホットプレスに供することも可能である。
【0046】
〔燃料電池〕
本発明の電解質膜や接着剤を用いて製造されたアニオン交換膜型燃料電池は、メタノール、エタノール、メタン、ブタン、エチレングリコール、水素、アンモニアなどを燃料とすることができる。燃料がアノード触媒層に到達すると、電気化学的反応過程によりプロトンと電子が生ずる。生成したプロトンは順次、電解質膜中を移動してカソードに達する。生成した電子は、多孔体、セパレータ、外部負荷を経由してカソードに送られる。カソード触媒層において、電子と、酸化剤としての空気中の酸素と、電解質膜中を移動してきたプロトンが電気化学的反応過程により結合して水が生成される。
【0047】
なお、本発明の電解質膜や接着剤は、アニオン交換膜型燃料電池のみならず、カチオン交換樹脂膜とアニオン交換樹脂膜とを使用したバイポーラ型の燃料電池にも適用することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
PVOH(重合度3100,鹸化度99mol %)の5%水溶液390部、カチオン性基含有水溶性樹脂〔日東紡社製PAS−H−10L(ジアリルジメチルアンモニウムクロリドのホモポリマー:重量平均分子量200,000 );固形分濃度26.7%〕37部、およびイオン交換水158部を混合し、全体が均一になるよう十分に攪拌混合した。脱泡後、該混合物を型枠内で23℃、3日間、静置乾燥することにより、膜厚50μmのフィルムを得た。このフィルムの両側を、ニッケルメッシュ上に担持された鉄−コバルト−ニッケル系触媒で挟み込み、130℃、4MPa/cmでホットプレスすることにより、電解質膜−電極接合体(MEA)を作成した。該MEAを、東陽テクニカ社製の燃料電池システム(PEMTest8900)に装着し、電極の片側(陰極側)にエタノール(濃度10%)/炭酸カリウム(濃度3%)混合水溶液を2ml/minの流量で流し、電極の反対側(陽極側)に空気を500ml/minで流し、セル温度70℃にて以下の測定を実施した。
【0050】
1)I−V特性(Current Density :Cell Voltage);電流を0Aから増大させ、その時の電圧を測定した。
2)出力特性(Current Density :Power Density );I−V特性より算出した。
【0051】
本実施例で得られた膜は、電流密度100mA/cmにおいて出力密度45mW/cmを記録した。また、セル温度を30℃、50℃、80℃に変更したときの出力密度(mW/cm)はそれぞれ1、29、39であった。その結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例2〕
フィルムの膜厚を100μmに変更する以外は実施例1と同様にしてMEAを作成し、出力密度を算出した。その結果を表1に示す。
【0053】
〔実施例3〕
フィルムの膜厚を200μmに変更する以外は実施例1と同様にしてMEAを作成し、出力密度を算出した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように、セル温度50℃以上において、いずれの膜厚でも充分な電池性能を得ることができた。
【0056】
〔比較例1〕
カチオン性基含有水溶性樹脂を用いないこと以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成した。このフィルムはカチオン性基を持たないので、イオン伝導性がなく、MEAを作成することができなかった。
【0057】
〔比較例2〕
PVOHおよびカチオン性基含有水溶性樹脂の代わりに、カチオン性基含有樹脂(水酸基非含有非水溶性樹脂)として、ポリ(4−ビニルピリジンのN−メチル化物)のみを用いた以外は実施例1と同様にしてフィルムを作成した場合、得られるフィルムは、膜強度が充分ではなく、MEAが作成困難となる可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン交換膜型の燃料電池に用いられる電解質膜であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有することを特徴とする電解質膜。
【請求項2】
前記水酸基含有樹脂がカチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂である請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記水酸基含有樹脂がカチオン性基を有しないポリビニルアルコール系樹脂であり、カチオン性基含有樹脂を含む請求項1に記載の電解質膜。
【請求項4】
アニオン交換膜型の燃料電池の電極触媒層を形成するための接着剤であって、水酸基含有樹脂を含み、かつカチオン性基を有することを特徴とする接着剤。
【請求項5】
前記水酸基含有樹脂がカチオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂である請求項4に記載の接着剤。
【請求項6】
前記水酸基含有樹脂がカチオン性基を有しないポリビニルアルコール系樹脂であり、カチオン性基含有樹脂を含む請求項4に記載の接着剤。

【公開番号】特開2008−204647(P2008−204647A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36493(P2007−36493)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】